「…えっ…!?…で、出掛けた…!?」
「…うん。…そう言えばお母さん、今日は"集会"があるって言ってたかも…。」
放課後、綾子の母親と会うつもりで家までついて来た拓也は…、留守だと聞かされ、ほんの少し安堵する。
綾子が"絶交"と言ったことに対する、朝のお尻ペンペンをやめてもらうよう、"お願い"をしに来た拓也だったが…、綾子の母親がすんなり聞いてくれるかどうかは、正直言ってわからない。
…もしかしたら、拓也まで一緒に"お尻ペンペン"されてしまう可能性もある。
(…うぅ…、綾子ちゃんのお母さんって…、どう反応するかがイマイチわかりづらいんだよなぁ…。)
"他の子の罰の肩代わりをするっていうことが、どういうことかわかってる?"
…昨日、拓也が綾子の母親に猛烈な尻叩きを受けている最中…、泣いている拓也を庇おうとした綾子に対し、母親はそんな言葉をかけていた。
…あの時は結局、拓也が"わざと"だと白状したため、庇うような形ではなくなってしまったが…、基本的に綾子の母親は、誰かを庇って罰を受けるというのを良く思っていないのだろう。
…それでも庇いたければ、何倍もの罰を受けること。
悪さをした本人が、隣で見ているだけで目を背けたくなるような厳しい措置だ。
「…今回の場合、拓也君が私を庇うって感じじゃないから、大丈夫だとは思うけど…。」
「…う、うん…。…だって、元はと言えば僕が原因だし…。」
「…だよね。…でも、家のお母さんが、そう思ってくれてるとは限らないから…。」
長い間、片付けをしなかった綾子が悪い。
"絶交"の件を除いても…、そんな言葉で一蹴されてしまうことだって十分あり得る。
だからこそ綾子は、拓也に母親と直接会って、何とか上手く話をまとめて貰いたかったようだが…。
「…う〜ん…、まぁ、仕方ないか。…拓也君…、折角来てもらったのにごめんね?また明日、お願い出来る?」
「えっ…!?…で、でも…、それだと…、綾子ちゃん、明日の朝も、おばさんからお尻叩かれちゃうんじゃ…!?」
「…ん〜、まぁ仕方ないわよ。…多分、今朝と同じくらいはぶたれるけど…、今日も3時間目ぐらいには治ってたし…。」
あっさり現状を受け入れる綾子に対し、拓也は焦っていた。
3時間目の授業で治った…ということは、少なくとも数時間は尻の痛みにずっと耐えていたはずである。
…そして今日、もし拓也が綾子の母親に会えなければ…、綾子は明日の朝も続けて、母親から同じような強烈なお尻ペンペンを食らってしまう…。
「…ぜ、絶対に駄目だよ、そんなの…っ!?」
「…でも、仕方ないじゃない?…明日だけだったら私、我慢するよ?」
「…あ、綾子ちゃん…。」
拓也を気遣ってくれているのか、綾子は自分がもう1度、"絶交"のお尻ペンペンを受けると言う。
…しかし拓也は、朝、尻を腫らして登校した直後に綾子がぶつけてきた言葉が、きっと本心なのだろうと理解していた。
「…ううん、綾子ちゃん…。僕、今日、おばさんに会って、ちゃんと話をするから…。」
「あ、会う…、って言ったって、保護者会か何かだから、夜まで帰らないわよ?」
「…あっ、そ、そっか…。」
「…居る場所は近くだけど…、さすがにね…。」
「…えっ?」
詳しく聞いてみると、"集会"というのは、どうやら地域の母親の代表数名が公民館を借りて話をしているだけらしい。
それならば…、拓也が行って中へ入れて貰える可能性もゼロではない。
「…で、でも…、お母さん達が大勢居るところに入って、拓也君は平気なの…?」
「…平気だよ。…それに、他のお母さん達が一杯集まってるなら…、綾子ちゃんのお母さんだって、怒るに怒れないんじゃない?」
「…そ、そんなにうまく…、いくかなぁ…?」
綾子は拓也のことを心配している様子だったが…、自分の母親と今日中に会えれば、明日のお仕置きが帳消しになるかもしれない…という期待もあり、強くは否定出来なかった。
「…わかった。…でも拓也君…、無理はしないでね…?」
「…大丈夫。…ちょっとぐらいは怒られるかもしれないけど…、ここで話すよりは聞いてくれそうな気がするし。」
あまり根拠のない自信を頼りに、拓也は公民館へ向かうことにした。
「…綾子ちゃん、本当にごめんね…?変なことに巻き込んじゃって…。」
「…ううん。…私もつい、"絶交"なんて言っちゃったから…。…あの…、本当に絶交したいわけじゃないからね…?」
「…うん…、わかってる…。」
拓也にとって、その言葉が何よりの救いだった。
「私も、ついて行こっか…?」
「…いや、やめた方が良いよ。…おばさんにお尻ペンペンの話を振られるのって、嫌でしょ…?」
「…う、うん…。」
「…他のお母さん達も大勢居るんなら、なおさら僕だけの方が良いと思う…。」
…そ、そうだよね…。
拓也に説得され、一緒について行くことは思いとどまった綾子。
やはり、お尻ペンペンの話である以上…、母親に人前でその話をされることには耐えられないようだ。
「…それじゃあ拓也君…、任せても良い…?」
「…うん。もちろん。」
「…ごめんね…、ありがとう。」
ようやく話が一段落し、拓也がいざ出発しようとした、その時。
「…あっ、そうだ…!?」
「…えっ、何…?」
綾子の口から、信じられない情報がもたらされる。
「今日の"集会"…、確か、勇太君のお母さんも来るって言ってたよ?…拓也君、確か仲良かったよね…?」
(…えっ…?)
勇太の母親…、奈津子。
普段はとても温厚だが…、息子の勇太や拓也が悪さをするたび、強烈なお尻ペンペンで2人をお仕置きしている…。
…そして今日、拓也を"自宅"に呼び出しているはずの奈津子が、"集会"に来ている…!?
「…ま…、まっさかぁ…!?…何かの間違いじゃない…?」
「…ううん?…家のお母さん、確かにそう言ってたよ?…勇太君のお母さんが来るから、今日は退屈しない…って。」
「…退屈、しない…?」
…もしかして、あの2人は元々仲が良かったのか…?
拓也は、綾子の母親が、勇太を見かけたことがある程度だと勝手に思い込んでいたが…、たとえその通りでも、母親同士だけが仲の良いケースだって十分にあり得る。
(…じゃ、じゃあ…、僕のお母さんじゃなくて、勇太君のお母さんに直接、電話したって可能性が…?)
綾子の母親は公園で、拓也と勇太がそれぞれ自分の尻を擦っている光景を見ている。
もし綾子の母親が、奈津子に直接お仕置きの話題を振ったのだとしたら…。
「…拓也君?」
「…うぅ…っ!?」
…考えれば考えるほど、深みにはまっていく拓也。
しかし、綾子にも"絶対行く"と啖呵を切った以上…、今さら後戻りは出来なかった。
ただ…、綾子の母親だけでなく、公民館に勇太の母親も来ている、という情報は、出来れば知りたくなかった。
(…で、でも…、集会に出ることが最初から決まっていたのなら、何でわざわざ僕に、"家に来い"だなんて…?)
「…拓也君…、やっぱり、私も行こっか…?」
「…えっ!?…あ、いや…、大丈夫だよ…。」
「…でも…。」
「心配ないって。綾子ちゃんは家に居てよ?…ね?」
「…う、うん…。」
拓也は怯えながらもそう強がった。