「…すみませ〜ん、少し、良いですか?」
そこで手を挙げたのは、綾子の母親だった。
目の合った拓也にも躊躇することなく、次の言葉を続ける。
「…今日の"集会"はもう終わりだと思うんですけど…、そこの拓也君について…、皆さんちょっとだけ、残って貰っても良いですか〜?」
(…えっ!?…の…、残るって…、一体どういうこと…!?)
すぐに解散しそうな雰囲気だったのに、終わる直前…、そう言って周囲に呼び掛けた綾子の母親。
「…"集会"の前にも…、少しだけ話をしていたと思うんですけど…、昨日、そこに居る拓也君が…、私の家に来て、少し困った悪戯をしちゃったんです。」
「…それって、どんな…?」
「…"わざと"、お尻ペンペンされるために来てたみたいなんです、この子ったら。」
「…あらあら〜。」
「それって、綾子ちゃんのお母さんに、叱られてみたかったってこと?」
「うふふ、可愛いじゃない〜。私も叱ってあげようか〜?」
大勢の母親達の前で、綾子の母親から昨日のことを暴露され、赤面する拓也。
「…もちろん昨日、それがわかってからは、お尻が真っ赤になるまで沢山ペンペンしてあげました。」
「…あらら〜…、可哀想〜…。」
「…綾子ちゃんのお母さんのお仕置きって、凄いらしいものね…。家の娘も言ってたわよ?…二度と悪戯なんてしないって…。」
「…ひぇぇ、そうなんですか〜…?」
「…あら…、家の子にも前にお願いしたことあるけど…、効果テキメンだったわよ?私がお尻ペンペンする時より、100倍痛いって。」
「…あっはっは、100倍は言い過ぎでしょ〜!?」
母親達が、お尻ペンペンの話で盛り上がっている。
…そんな中、一人だけ"される側"として話を聞かされている拓也は…、居心地の悪さに縮こまっていた。
(…う、うぅ…。…な…、何でこんなことに…!?)
「…さて、拓也君?」
「…はっ、はいっ…!?」
「…聞いたわよ?勇太君のお母さんから…。…少し前に、勇太君のお母さんにも全く同じ悪戯をして、叱られたんですって?」
「…あっ…!?」
それは拓也が以前…、勇太の母親である奈津子に対し、"悪いことをして正直に言ったら、どの程度お尻ペンペンされるか"を検証した日のことだろう。
結局…、奈津子にはあっさり看破されてしまい、"今度ウソをついたらお尻ペンペン300回の刑よ"と、勇太と共に約束させられてしまった。
「…昨日はおばさん、てっきり初犯だと思っていたから、あの程度で許してあげたけど…。2回目だったのなら話は別よ?どうなの?拓也君…。」
「…え、えぇっ…と…。」
「…勇太君のお母さんにお尻ペンペンされて、泣いてごめんなさいしたのに…、すぐ私の所に来て、全く同じ悪戯をしちゃったの?…もしそうなら、今日はお尻がパンパンに腫れて、2度とそんなことしたくなくなるまで、きつ〜くお仕置きしてあげるわよ?」
「…ひ…、ひぃぃっ!?」
「…どうなの?拓也君…。正直に言ってご覧なさい。」
まずいまずいまずい…。
綾子ちゃんのお母さんは、どうやら本気で怒っているようだ…。
綾子に対してのお尻ペンペンをやめて貰うよう、"お願い"しに来たはずの拓也だったが…、もはやそれどころではない。
このままでは…、大勢の母親達の見ている前で、死ぬほど痛いお尻ペンペンをされてしまう…。
…ほんの一瞬、ウソをついて誤魔化す案が頭をよぎった拓也だが…、綾子の母親のすぐ後ろには、勇太の母親である奈津子が控えている。
…さらに今日、拓也は奈津子から家に来るよう呼び出されていたのだ。
それが、どうして公民館に居るのかは全くわからないが…、約束を破り、わざと綾子の母親にお尻ペンペンされたことはもう確実にバレている。
(…だとしたら…、きっと勇太君のお母さんが一番怒ってるよね…?…うぅっ…、この後さらにお尻300叩きなんて、絶対に嫌だよ…。)
拓也がチラッと奈津子の方に目をやると、不自然なほどに引きつった笑顔が確認できた。
…間違いない、めちゃくちゃ怒っている…。
「…ご、ごめんなさい…、全部、正直に言います…。」
拓也はウソをつくことを諦め、この場に居る母親全員の前で、自身が勇太の母親である奈津子に"わざと"お尻ペンペンされに行ったこと…、そしてその数日後、綾子の母親にも同じようにお尻ペンペンされるために家まで行ったことを正直に打ち明けた。
「…まぁ〜、…でも、どうしてそんな悪戯を…?」
「…そ、それは…。」
「…だって、お尻ペンペンが好きなわけじゃないでしょ?とっても痛いもんね〜?」
「…はっ、はい…。」
周囲の母親達から好奇の目を向けられつつ、質問ぜめに遭う拓也。
どうして、わざとお尻ペンペンなんてされたの…?
質問内容はほとんどそこに集中していたが…、拓也はあまりうまく答えられないのだった。
(…どっ、どうしよう…!?…このままだと僕…、絶対にお尻ペンペンされる…!!)
綾子の母親は、"わざと"の悪戯が2度目であったことを知り、相当怒っている様子だ…。
母親達の質問ぜめが一段落したら、先ほどの言葉通り…、拓也の尻がパンパンに腫れあがるまで尻叩きが行われるだろう。
…さらにその後、勇太の母親からも"ウソをついた罰"が待っているとしたら…。
(…ひぃぃ〜っ!!?…嫌だ嫌だ、絶対に嫌だぁぁ〜っ!!?)
綾子の母親の"本気のお尻ペンペン"で尻がパンパンに腫れた後、奈津子から生尻300叩き…。
もしそんなことになったら…、当然、痛いだけでは済まない…。
「…"拓也君"、どうするの?…このまま、おばさん達がお尻ペンペンしても良いの?」
(…うっ…、ううう〜っ…!!?)
良くない、…そう言えたらどんなに楽だろうか。
しかし下手な言い訳は逆効果にしかならないことぐらい、拓也は身に沁みてわかっている。
「…ぼ…、僕…、悪いことをしちゃったのは本当だから、お尻ペンペンされなくちゃいけないと思う…。」
「…本当に?綾子ちゃんのお母さんも、とっても怒っているみたいだから…、"拓也君"のお尻、きっと大変なことになるわよ?」
「…うぅ…っ。」
相変わらず、拓也のことを"拓也君"と呼び続ける奈津子。
奈津子の言い回しからも…、やはり綾子の母親と2人揃って拓也に罰を与えるつもりのようだ。
そう察して、すっかり怯えてしまう拓也だが…。
「…良いのね?本当に…。」
「…うぅっ…、…はい…。」
「…はい。わかりました。」
奈津子はそれだけ言うと、拓也の横に正座し、ぱんぱんと太腿の埃を払う。
…てっきりそのまま、"お尻ペンペン"が始まるものだと思っていたら…。
「…"拓也君"…、ぎりぎり合格〜っ!…ということで、…良いですか〜?皆さ〜ん。」
「…はぁ〜い、異議な〜し。」
「…あんなに脅されても、最後まで正直に答えてたものね〜。立派立派。」
(…え?…え?…え…っ?)
拓也は何が起こっているかわからない。
合格?…どういうことだ…?
困惑する拓也に、奈津子は正座したまま優しく微笑む。
「…おばさん達ね、"拓也君"への罰をどうするか…、正直、悩んでいたの。"わざと"お尻ペンペンされるのはとっても悪いことだけれど…、今日"拓也君"は、綾子ちゃんのためにここへ来たのよね?」