「…ん?…どうしたの?"拓也君"…。」
「…い、いや…。」
「…あははっ、もうお尻が痛くって起き上がれないんじゃない?」
「ちょっと〜、私だってそこまで馬鹿力じゃないわよ〜?」
笑いに包まれる母親達に対し…、拓也の中ではまだ疑心暗鬼に陥っていた。
(…これは…、また僕…、試されているんじゃ…!?)
以前、勇太の母親である奈津子からお尻ペンペンの罰を受けた際…、終わった直後に「すこし強くペンペンし過ぎた?」と聞かれたことがある。
…その時、拓也はよく考えずに否定したのだが…、もしも言い返していたら、お仕置きは"やり直し"になっていたと後から聞かされた。
奈津子は時折…、"反省しているかどうか"を試すために、敢えてもう完全に許したかのような態度をとることがある。
…拓也はそんな経験上、まだ気を緩めてはいなかった。
「…さて、拓也君?」
「…は…、はいぃっ!?」
そうして緊張する中…、綾子の母親から声をかけられ、思わず声が裏返ってしまう拓也。
「…あっはっは…、そんなに怯えないの。…家の綾子のために、一生懸命頑張ってくれたんだものね?おばさんとっても嬉しかったわ?」
「…いえ、そんな…。」
元はと言えば、拓也の自業自得である。
しかし綾子の母親はそれも理解した上で、"自分から叱られに来るなんて、なかなか出来ることじゃないわよ"と拓也を褒めちぎった。
「…綾子の"絶交"の件も、これでチャラにしてあげる。」
「…えっ!?…ほっ、本当ですか…!!?」
「…えぇ。おばさんに二言はないわよ?」
(…や…、やったぁぁぁ〜っ!!?)
拓也にとって一番の心配事だった、綾子の母親による"毎朝のお尻ペンペン"の件も、どうやらこれで許してくれそうだ。
お仕置きは拓也の予想に反して遥かに少なく済み、綾子の"お願い"まで万事解決…。
拓也にとって、これ以上は望めないほど良い流れだった。
…しかし、拓也がズボンを上げようとすると…。
「…待った、"拓也君"。」
「…えっ…?」
勇太の母親である奈津子から、待ったの声がかかった。
「…それは少し…、気が早いんじゃないかな?」
拓也が再び青ざめる。
…やはり、まだまだ続くのか…?
身構える拓也に奈津子は、落ち着いた口調でこう言った。
「…"拓也君"。…おばさんと、綾子ちゃんのお母さんが、さっき何回ずつペンペンしたかわかる?」
「…え!?…えっ、と…?」
答えに詰まる拓也。
…あまりに痛すぎて、正直なところ、正確な数なんて覚えていない。
数十発程度…、というところまでは何となくわかるが…、それで果たして奈津子は納得してくれるのだろうか?
「…うふふっ、良いのよ?わからないならわからないで。…正解はね、30回。…おばさんも綾子ちゃんのお母さんも、30回ずつ"拓也君"のお尻をペンペンしたの。」
「…はっ、はい…。」
…たったの、30回…?
痛みのせいで、もっと沢山叩かれていたような気もしたが…、奈津子が数えていたというなら、間違いないのだろう。
…しかし、一体それが何だというのか…?
「…じゃあ…、どうして"30回"ペンペンしたと思う?」
「…えっ…?」
回数に、何か意味がある…?
拓也には、奈津子の質問の意図が全く理解出来ない。
「…ちょっと〜、拓也君が困ってるじゃないの。」
「あんまり、私の拓也君をいじめちゃ駄目ですよぉ〜。」
「…こらこら、みんなの拓也君でしょ~?」
拓也はすっかり母親達の"お気に入り"となっているが…、奈津子はそんな母親達の中央に位置取り、拓也と向き合っている。
「…"拓也君"、おばさんこの間…、ウソついたら何回お尻ペンペンするって言った?」
「…えっ…、…さ…、300回…?」
「…そうよね?ウソをついたらお尻ペンペン300回の刑。…それを勇太に本当にしてるところも、"拓也君"は見てるわよね?」
「…は、はい…っ。」
「…でもおばさん、今日は30回しか叩かなかったの。…どうしてだと思う…?」
「…ど、どうして、って…?」
…そんなの、こっちが聞きたい。
あまりに不自然に減刑されすぎて、逆に不気味だ…。
…都合の良い方に捉えるなら…、綾子のためにわざわざ自分からこの場所へ叱られに来たことに感動して、罰を軽くしてくれた、とか…?
「…うふふ…、半分は当たってるけど…、半分はハズレ。」
「…えっ…!?…ど、どういう…!?」
「…軽くしてあげたのは本当よ?…でも"拓也君"、まだ大事なところがわかってないみたいね〜?」
奈津子の言っていることが、拓也には全く理解出来ない。
「…じゃあ、聞き方を変えるわね?…"拓也君"、おばさん達っていま、お部屋に全部で何人居る?」
「…え…っ?」