奈津子と綾子の母親も含めて…、大人の女性ばかりが10人。
それは拓也も、部屋に入ってきた時からすでに数えていた。
「…そうね、10人。…じゃあ、例えば────、」
奈津子は少し溜めをつくったあと、拓也の目を見ながら、その"例題"を口にする。
「その10人で、"拓也君"のお尻をピッタリ30回ずつ叩いたら…、合計の数は、一体いくつになるでしょうか~?」
拓也はその瞬間…、全てを悟った。
勇太の母親である奈津子は、たった30回のお尻ペンペンで許してくれるつもりは全くなく…、いまこの場にいる母親達全員に、自分のお尻を叩かせるつもりなのだと。
「…ちょっ…、そんな…!?…えぇっ…!!?」
「…おばさんと綾子ちゃんのお母さんはもう終わったから…、残り8人よ。…240発ね?…ちょっと辛いだろうけど…、頑張って?」
「…待っ…、え…、えぇ〜っ…!!?」
拓也はまだ、今の状況が完全には信じられない。
…一度は許されたと思い、安堵しかけた後に知らされた処遇に…、拓也は絶望を通り越して放心しかけていた。
「…あらら、固まっちゃった…。」
「…やっぱり、少し可哀想ですね…。」
「…そうね、でも…、"ウソをついたらお尻ペンペン300回の刑"。…これは"拓也君"ともきちんとお約束していたことで…、本人もそれがわかった上で悪戯をしちゃったから…。」
「…どれだけ甘くても、300は叩かないと駄目ってことですね…?」
「…えぇ。…じゃないと、"拓也君"の将来のためにならないわ。」
「…そうですよね…。…私だって"お尻ペンペン"なんて、自分の子供にしかしたこと無いですけど…。拓也君のためなら、心をこめて叩きますね。」
母親達はどうやら、拓也の尻を30回ずつペンペンすることは事前に承諾していたらしく…、奈津子の口からその説明を聞いても、あまり驚きもしていなかった。
(…ぜっ…、全員から…っ!!?…そんな…っ、僕が知らないおばさんも居るのに…っ!!?)
拓也にとって悲惨だったのは…、その関係性だ。
10人の母親達は全員、拓也と同じ小学校に通う誰かの"お母さん"であり、そんな彼女達に"お尻ペンペン"されることは、この場限りの痛みと恥だけでは到底済みそうにない。
…完全に赤の他人であれば、耐え切ればそれで終わりなのだが…、拓也の側に面識がなくても、向こうは一方的に拓也を知っている可能性がある。
実際に何人かは、拓也も顔を見た覚えがあるような気がしていたが…、それが誰の母親なのかは、全く記憶と結び付かない。
(…あの人と、あの人は…、参観日に後ろに居たような気がするんだけど…、ってことは…、同じクラスの誰かか…?…いやでも…、見たのは去年だった気も…、うう〜ん…。)
少なくとも、同じ学年の誰かの母親が、何人かは混じっている。
…拓也にわかる情報は、たったそれだけだった。
勇太の母親である奈津子と…、綾子の母親を除けば、残りは8人。
拓也は通っている同じ小学校の"誰かのお母さん"だという情報以外、何も知らされないまま…、その8人全員から、30回ずつお尻ペンペンされるとだけ告げられているのだ。
すっかり、恐怖と緊張で涙目になっている。
「…あ〜、拓也君、もう泣いちゃってるわね…。」
「…そりゃあ…、勇太君のお母さんと、綾子ちゃんのお母さんにあれだけきつくお尻ペンペンされた後で…、まだこ〜んなに沢山のお母さん達からお尻ペンペンされるって言われたら…、泣きたくもなるわよね…。」
「…ですよね…、私だって、やっぱり気は進まないんですけど…。」
母親の1人が、奈津子の方をチラリと見た。
それに反応するように、あらためて奈津子はこの場に居る母親達全員に"お願い"をするのだった。
「…皆さん、先ほどお願いしていた通り…、順番に、"拓也君"にお尻ペンペンをしてあげて下さい。」
「…は〜い。…でも、本当にいいんですか…?」
「…えぇ。"拓也君"のお母さんからも、こういう時には絶対に容赦しないで下さいねって言われていますので…。」
「…それなら、まぁ…。」
拓也の母親である美由紀が、まさか今のような状況を想定してそんなことを言うとは思えないが…、奈津子は、拓也のお尻ペンペンについて、"お母さんの同意を貰っている"ことをこの場の母親達に強調していた。
「…拓也君のお母さんがそう言ってるんじゃ、仕方無いわね…。」
「…拓也君、残念でした〜。…おばさん達、み〜んな拓也君のお尻をペンペンする覚悟が決まったみたいよ〜?」
「…勇太くんのお母さんや、綾子ちゃんのお母さんには敵わないだろうけど…、おばさんのお尻ペンペンだって、それなりに痛いわよ〜?」
「…家もやり慣れてるから、まぁ結構痛いと思うけど…、…拓也君、泣いても許さないからね?」
「…ひ…、ひぃぃっ…!?」