拓也は、お尻ペンペンそのものよりも、自分が今置かれている状況に絶望していた。
勇太の母親である奈津子や、綾子の母親だけではなく…、下級生の"卓哉"の母親にまでお尻ペンペンされ、それを大勢の母親達に見られてしまった。
…仮に、10人の母親達全員から30発ずつのお尻ペンペンが無事に終わり、何とか耐えきったとしても…、叩いた10人全員がそのことを誰にも話さず、内緒にしておいてくれる保証などどこにもない。
…ここにいた母親達が色々な人に喋ってしまい、拓也の知らない相手にまで"お尻ペンペンの子"として伝わってしまう可能性だって十分にあり得る。
それぞれ学年や住んでいる地域がバラバラというのも…、拓也にとっては都合の悪いことばかりだった。
(…も、もし…、他の学年の子達にまで知られたら…。)
学校内での噂なんて、あっという間に広がってしまう。
他の教室から"お尻ペンペンの子"の噂を聞きつけて見に来てしまうかもしれないし…、騒ぎになれば当然、学校の先生にだってばれるだろう。
…もしそうなれば…、今日ここで10人の母親達にお尻ペンペンされてしまった詳しい経緯を、拓也の口から学校の先生に説明しなくてはならない…。
(…うわぁぁぁっ…!!?…駄目だ…、絶対にそれだけは駄目だぁ〜っ!!?)
拓也の通う学校にも、"お尻ペンペンの罰"が無いわけではない。
宿題を忘れたり、授業態度が良くなかったりすると…、ズボンやスカートの上から1〜2発程度、バシバシッと叩く先生は意外と多かった。
家で母親からお尻ペンペンされている勇太や綾子からすれば、本当に子供騙しのような軽い罰ではあるのだが…、学校で尻を叩かれる、という恥ずかしさもあり、子供達の間ではそれなりに恐れられていた。
…つまり、お尻ペンペン自体は"あり"だという考え方が、学校全体に浸透しているのだ。
そんな環境で、"わざとお尻ペンペンされる悪戯をした"などと知られたら…。
「…拓也君っ!?」
「…は…、はいぃっ!?」
「なにぼ〜っとしてるの?ごめんなさいは?」
「…あっ!!?…ご…、ごめんなさ────、」
…バチィィィィィッ!!!!
「…ぎゃああああっ!!?」
「…皆さんすいません、どうやら本当に全然効いていなかったみたいで…。」
「…あ、あの強さで…?」
「とっても参考になるわね…。子供の嘘って見抜くのが本当に大変だから…。」
「ぼ〜っとしてる余裕があるくらいだし、もっと痛くしても大丈夫じゃないですか?卓哉君のお母さん。」
「…で、でも…。」
「…"拓也君"のためです、みんなで叱ってあげないと。…ねっ?」
「…わ、わかりました。」
…バッチィィィィィッ!!!!
「…ひぎぃぃぃぃっ!!?」
…ピシャァァァァァ〜ンッ!!!!
「…ああああっ!!?」
…パァァァァァァンッ!!!!
「…ひぃぃっ!!?…ひぃぃぃぃぃ〜っ!!?」
低学年の息子をもつ"卓哉の母親"は容赦無く、膝に寝かせた拓也の尻を滅多打ちにしている。
もちろん自分の息子の"卓哉"にもまだここまで厳しくお仕置きをした事はなく…、我が子よりも先に"お世話になっている上級生"にそれを執行する彼女の心境は複雑だった。
(…拓也君、ごめんね…?全部終わったら、一杯ナデナデしてあげるからね…?)
甘い言葉を掛けてやりたくなる気持ちを必死に抑えながら、"卓哉の母親"は次々に平手打ちをお見舞いする。
…バチィィィィィッ!!!!
「…ううううう〜っ!!?」
「…うわっ…、すっごく赤い手形…。」
「…本当ね。勇太君のお母さんや、綾子ちゃんのお母さんのお尻ペンペンも凄かったけど…、"卓哉君"のお母さんも負けていないわね…。」
「…これに比べたら、いつも私がやってるお尻ペンペンなんて、遊びみたいなものだわ…。」
「…本当にそうよね、…あ〜あ…、もしかして家の子も、今までずっと痛いフリしてたのかしら…?」
「…家も同じかも。…よ〜く考えたら、体も大きくなってるのに、昔と痛みが全然変わらないなんてあり得ないわよね…?」
「…本当に勉強になるわ、今日の"集会"…。」
…ピッシャァァァァァ〜ンッ!!!!
「…ああああ〜っ!!?…ぐずっ…、ひっぐ…!」
拓也はついに痛みのあまり再び泣き始めたが、周りの母親は動じない。
「…ああして泣いたら、今まではつい手加減しちゃってたけど…、もうそれじゃ駄目ってことよね?」
「…家もそうでした。…お尻ペンペンが痛いのも知ってるから、つい甘くしちゃうんですよね…。」
「…そうそう。自分が子供の時にされてると、尚更ね…。…でも…、私達のお母さんだって、心を鬼にして叩いてくれてたんだと思うわ。」
「…親になるまではわからなかったですよね、そんな気持ちも…。」
「…ほんとそう。…お尻を叩く鬼ババだと思ってた。」