…しかし、拓也にとって本当に困った状況に陥るのは、この後からだった。
…バチィィィッ!!
(…ひぃっ!?…って、あれ……?)
…ピシャァァッ!…バシィッ!!…パァァンッ!!
(…い…、痛いけど、…思ったほど痛くない…?)
…バシィィッ!!…パァンッ…!
晶の母親は、あまりに痛々しく腫れた拓也の尻肌を叩くことに抵抗があったのか、前の3人と比べると明らかに手加減をしていた。
「…あれっ?…ちょっと弱くないですか…?」
「…そう?…まぁ…、あの3人の後だからね〜。」
「…あぁ、それはあるかも…。」
周りの母親達も、晶の母親のお尻ペンペンが少し弱いことには気付いていたが…、拓也の尻がすでに真っ赤に腫れていることもあり、あまり騒がずそれを見守っていた。
…しかし、再びここで声を発したのが勇太の母親、奈津子である。
「…晶ちゃんのお母さん。…あの…、少し、手加減をしていませんか…?」
「…えっ、えぇ…。だって拓也君、こんなにお尻が腫れているし…。」
「…それで"拓也君"が本当に反省出来るなら、私も良いと思うんですけど…。」
そう言うと奈津子は拓也の方に向き直り、優しい声でこう質問する。
「…ねぇ"拓也君"?…今の晶ちゃんのお母さんのお尻ペンペン…、本当に痛かった?」
「…えっ…!?」
「…正直に答えてね?…本当に…、痛かった?」
奈津子はまるで聖母のような微笑みを浮かべながら、拓也にそう尋ねてくる。
…拓也も、本当はその怖さがわかっていた。
…ここで適当なウソをついたら、きっと奈津子のお尻ペンペン300叩きが始まってしまう…。
「…さ、最初の1回目は痛かったけど…、2回目からは、そんなに…。」
「…えっ…、そうなの…?…手加減してるって言っても、それなりに強くは叩いてるつもりだったけど…。」
「…ねっ、晶ちゃんのお母さん。…"拓也君"は少し手加減をすると、全然痛くなくなっちゃうみたいですから…。」
…実際には、"全然痛くない"などという話ではなく、あくまで"最初の3人に比べれば少しだけ弱い"というニュアンスだったのだが…。
「…じゃあ"拓也君"、あと29回ね?」
「…えっ…!!?」
「…最初の1回は痛かったんでしょう?…だから、残りはあと29回。晶ちゃんのお母さんも、頑張って叩いてくれるとは思うけれど…、もしまた痛くなかったら、正直に言ってね?」
なんと奈津子は、拓也が"そんなに痛くなかった"と答えた数回をお仕置きの数には一切含めず、まだたったの1回目としてお尻ペンペンを続行して貰うよう、その場を仕切り始めた。
(…こっ…、これ…、とんでもないことになってるんじゃ…?)
"痛くなかったら、お仕置きの数には入らない"。
…そんなものは、すべて拓也の自己申告であり、普通ならば全部痛かったことにすれば良いのだが…、拓也には、奈津子との"あの約束"がある。
"もし今度ウソをついたら、お尻ペンペン300回の刑"。
…少しでも痛くないものを"痛い"と言ってしまうと、その刑を本当に執行されてしまう可能性がある。
「…じゃあ…、晶ちゃんのお母さん。…"拓也君"のお尻ペンペン、このまま続けて貰えますか?…さっきも言った通りに…、今度は少し強めに。」
「…あっ…、はっ…、はい…。…拓也君ごめんね?おばさんが変に加減したから、一杯叩かれることになっちゃったね?」
「…い、いえ…。」
「…今度こそちゃんと叩くけれど…、もし痛くなかったら、正直に言って頂戴ね?」
そう言うと晶の母親は、可哀想なぐらい腫れている拓也の尻を哀れに思いながらも、力強い平手打ちを叩きつけた。
…バッチィィィィ〜ンッ!!!
「…うあああっ!!?」
「…うん、そうそう。良いですよ〜?その感じで、どんどんお願いします〜。」
…ピシャァァァンッ!!!…パァァァァンッ!!!…バシィィィィッ!!!
「…ひっ!!?…ひぃっ!?…ひぃぃぃぃ〜っ!!?」
「…うん、今度はちゃんと痛がってるわね?さっきまでと反応が全然違うわ。」
「…あはは。だから言ったんですよ。"拓也君"ったら、痛がる演技が本当に上手なんですから…。」
「…もし勇太君のお母さんがいなかったら、みんなあっさり騙されてたでしょうね…。」
「…絶対そうですよね〜。勇太君のお母さんが居てくれて、本当に良かったです〜。」
この場の空気は、"拓也がまた痛いフリをして、この場を乗り切ろうとするのを勇太の母親に看破されてしまった"という…、実際の状況とはまるで違うものになっていた。
しかも、周囲で見ている母親達は…、もともとは拓也が悪戯で、自分からわざとお尻ペンペンされに行った…という事柄だけを断片的に聞かされているため、演技が上手く、ウソをつく癖がある…という話も簡単に信じてしまう。