…意外過ぎる名前だった。
拓也と直接の面識はないが…、6年生の児童会長と言えば、それこそ他の子供達の模範となっている完璧な6年生のイメージである。
…しかし、"9人目の母親"の今の口ぶりだと、もしかして…?
「…えぇ。もちろん学にもお尻ペンペンしているわよ?6年生になった今でも…。」
「…え…、あ、あんなに、真面目そうな人なのに…?」
"9人目の母親"はそれを聞いて、可笑しそうにくすくすと笑った。
「…うふふ…、そうね、拓也君みたいな悪戯は、もうほとんどしないけれど…、6年生だし、会長さんになったからには…、常にみんなのお手本でいないといけないでしょう?」
そこまで聞くだけで拓也は…、背筋がゾワリとした。
「…だから…、少しでもお勉強を怠けたり、たとえ1秒でも遅刻をしたりしたら…、お尻が大変な事になるからね…って、学には言ってあるの。」
(…こっ…、このお母さんも…、本気で怒ったら、めっちゃくちゃ怖い人だぁ~っ!!)
拓也は"違和感"の正体を確信し、ゴクッと唾を飲む。
6年生の子供にお尻ペンペンしている事を公言してしまうような人が…、見た目通りに優しい人のわけがない。
何かの間違いで、"本気のお尻ペンペン"などされた日には…、奈津子や、綾子の母親の時のように、絶対にまた泣かされてしまう…。
「…うふふっ、そんなに怖がらなくても良いのよ?…拓也君へのお尻ペンペン30回、おばさんの分はもう済んだんだから…。」
「…は、はい…っ。」
「…ふふ…っ、でももし、おばさんの叩く順番がもう少しだけ早かったら…、大変な事になっていたとは思うけどね?」
「…え…っ!?」
"10人の母親達"による連続お尻ペンペンは…、最初から順番が決まっていた訳ではない。
その場の雰囲気に任せて、割と適当に決めていたような感じだ。
…途中から、拓也の尻の腫れ具合を考慮して、"ままごと"を絡めた、"恥ずかしさ重視のお尻ペンペン"が代替の罰となったわけだが…。
…もしも、児童会長である学を厳しく躾けてきたというこの母親が、万全な状態の拓也にお仕置きしていたら…。
(…あ…、あっぶなぁぁぁぁ~っ!!?)
これでようやく合点がいった。
お尻ペンペンの所作が"上手すぎる"のは…、繰り返し、昔からずっとそれを行ってきた証拠なのだ。
「…拓也君?」
拓也は、運良く"痛くないお尻ペンペン"で済んだだけ…。
もし前半で、気まぐれに学の母親が手を挙げていたら…、今の尻の腫れ具合に加えて、もっと色濃い手形が残っていたかもしれない。
「…拓也君、人のお話はちゃんと聞きなさい。」
「…え…、あっ、…はいっ!」
「…はい、じゃないでしょう?…まだ一応、叱られている最中なのよ?…まったく、もう…。」
しまった、これじゃ叱られる口実になってしまう…。
怯える拓也に、学の母親は優しく頭を撫でる。
「…もし今のが学だったら、絶対にお尻ペンペンする所だけど…、拓也君は、おばさんの注意は1回で聞けるわよね?」
「…はっ、はい…!」
「…ふふっ、約束よ?…じゃないと、本当にお尻ペンペンするから…。」
(…ギ…ッ、ギリギリ助かった…!?)
…しかし、ここは"10人の母親"が拓也の素行に目を向けている場所でもある。
"叱られているのに、人の話を聞いていない"というのは、家庭によっては注意だけで済まないのであった。
「え~…、何もナシで許しちゃうんですかぁ?今の…。」
呟いた母親に悪気があった訳ではない。
…しかし、"よく考えたらそうね…"と、議論の対象になってしまうことは避けられなかった。
「…悪い事をしたお仕置きをしているんだから、今のは、きっちりお尻ペンペンするべきじゃない?」
「…え~でも、拓也君のお尻があんなに腫れちゃってるから、今日はもう許してあげるって話じゃ…?」
「…それとこれとは話が別よぉ~。悪いことをしたら、その都度ちゃんとお尻ペンペンしてあげないと…。」
(…ま、まずい…、この流れは…、絶対にまずいぞ…っ!?)
拓也のイージーミスで、起きなくて良い論争が生まれてしまう。
そして出た結論の"落としどころ"は、拓也にとって"痛みなし"では済まないのだった。
「…そうですね、じゃあ…、"モミジ"はどうですか?」
「…"モミジ"?」
「…えぇ。家の学にはよくやるんですけど…、沢山お尻ペンペンするほどでもない、例えばご飯の時に少し姿勢が悪かったとか、そういう時に…、拓也君、ちょっとごめんなさいね?」
「…えっ、う、嘘…っ!?」
「…とっても痛いけど、たった2回だけだから…、拓也君、これからお母さん達の話はちゃんと聞きましょうね?」
「…ちょっ、待っ…!?」
…バッチィィィィィィィ~ンッ!!!!!
「…ぎゃああああああああ~っ!!?」
腫れ上がった尻に、問答無用の一発…。
…何だ?どの辺りを叩かれた?…お尻の右側だ…。
あまりに痛すぎて、理解が追いつかない…。
周りで見ている母親達も、その威力に驚愕している。
「…うわ…、拓也君のお尻、もう真っ赤なのに…、その上からでもわかるぐらい、見事な手形がついてるわ…。」
「…ほんと、"モミジ"みたい…。」
そして他人事の母親達とは違い、拓也だけは、学の母親の言葉を聞き逃していなかった。
"とっても痛いけど、たった2回"…。
…と、いう事は…!?
「…ほら拓也君、今度は左のお尻よ?」
「…ま、待っで…、痛ずぎ…!?」
「…元々そういうものだから、待ちません。」
…ピッシャァァァァァァンッ!!!!!
「…痛っだぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!?」
「…拓也君、これからはちゃんとお話聞けますか?」
「…ひぐっ、ぎっ…、ぎぎまずぅ~っ!!?」
「…よろしい。じゃあ、これで終わりね?」
学の母親は、"ちょっと懲らしめてあげただけ"だと言わんばかりに、ニコニコと拓也の頭を撫でた。
…拓也の尻には、もともと腫れた尻肌の上に重なるように…、左と右に1つずつくっきりと、学の母親の手形が残っている。
「…さっすが6年生の子のお母さん、威力が違うわね…。」
「…ほんと。…しかも学君って、児童会長だもんね…?お家ではもっと厳しいのかな…?」
そんな会話が聞こえたのか、学の母親は少し照れた様子で答えた。
「…うふふ、そうですね…、6年生ですから、やる時は徹底的に懲らしめるように心がけています。…もし拓也君が、本当に家の子だったら…、今回のように"わざと叱られる悪戯"なんて、怖すぎて出来ていなかったかもしれませんね?」
「…ヒィッ!!?」
「…あらやだ、"例えば"の話よ?拓也君…。うふふふ…っ。」
…駄目だ、このおばさんは本当に、恐ろしすぎる…。
たったの2回、学の母親から本気でお尻を叩かれた拓也は…、すでに恐怖で震え上がっていた。
「じゃあ、今度拓也君が似たような悪戯をしたら…、学君のお母さんに相談しても良いですかね?」
「…えっ!?」
「…あらっ、うふふ…、家なら大歓迎ですよ?…学も昔は本当に悪戯っ子でしたから…。」