…その懸念は、"10人の母親達"全員が対象ではない。
勇太の母親である奈津子と、綾子の母親…、児童会長である学の母親の3人は、そんなことを試すまでもなく、そもそも日頃のお尻ペンペンが"痛すぎる"。
…"わざと"受けたお尻ペンペンや"モミジ"によって、その威力を十分過ぎるほどに味わっている拓也は、その3人を"別格"だと位置付けていた。
(…あとは…、2年生の"卓哉君のお母さん"は、そんな理由では絶対叩いたりなんてしないと思うし…、"桃ちゃん"って人も、たぶん本当は、ものすごく優しい人だと思うから…。)
…拓也は、"桃ちゃん"には、かなりきつくお尻ペンペンされたのだが…、それは拓也が再び奈津子から叱られないための気遣いであることに、最初から気付いていた。
(…もしあの時、きつく叩いてくれなかったら…、きっと僕、勇太君のお母さんからまた何度も痛いお尻ペンペンされてたよね…?"桃ちゃん"って女の人…、勇太君の親戚だってこと以外、あんまり知らないけど…、今度ちゃんとお礼を言わなきゃ…。)
奈津子に内緒で庇ってくれたということは…、今日、この場所でお礼を言ってしまうと、"桃ちゃん"は逆に困るのかもしれない。
勇太君の親戚だったら、またすぐに会えるよね…と、今は黙っておくことにした。
(…となると、あとは…。)
名前以外は学年さえ知らない、謙太の母親と…、最後の1人、"10人目の母親"として拓也のお尻を叩いた、"佐々木さん"という女性…。
…この2人は、まず心配ないだろう。
少なくとも、同級生の母親ではなさそうなので…、もし"犯人探し"になっても、拓也が追求される可能性は低い。
(…じゃあ、やっぱり危険なのは、僕と同じクラスの…。)
…晶、麻希、遥香。
…"集会"から帰った母親がいきなり、「今からお尻ペンペンしますよ」などと言い始めたら…、この3人はどんな反応を示すだろうか?
…もともと大人しい性格をしている遥香は、そもそも叱られないかもしれないが…、晶と麻希の母親は昔、"あの"綾子の母親に、自分の娘のお尻ペンペンを頼んでいた…というエピソードまで持っている。
…最近は、あまりお尻ペンペンをしなくなったという話が本当だとしても…、今日の"集会"をきっかけに、また躾の方針が変わるかもしれない。
(…ぼ、僕のせいでそんな事になったって、もしバレたら…、何を言われるかわかったもんじゃないよ…!?)
…いつも大人しい遥香はともかく…、問題は、晶と麻希の2人だ。
…拓也とお尻ペンペンに関する情報を共有している、勇太や綾子とは違い…、晶、麻希、遥香の3人が家で母親にお尻ペンペンされているという情報は、拓也が一方的に知っているだけである。
…もちろん、晶と麻希のお尻ペンペンに関しては、昔一緒に叩かれたことのある綾子も知っているのだろうが…、"集会"の日をきっかけに、急にお尻ペンペンの頻度が高まるようなことがあれば…、さすがにおかしいと、誰か1人ぐらいは勘付くだろう。
(…晶ちゃんも麻希ちゃんも、絶対に"犯人探し"するタイプだよなぁ…、うぅ…っ。)
…晶と麻希は、学校で"良い子ちゃん"の綾子とは少し違い…、例えば、綾子のような"絶交のお尻ペンペン"を朝からこの2人が受けたとしたら…、普通に堂々と尻を擦りながら、教室に入って来てしまうような2人なのである。
「…サイアク〜…、まじ最悪…。」とか大声で言いながら。
…これはあくまでイメージだが、そんなにかけ離れてはいないだろう。
(…も、もし…、僕のせいだってわかったら…。)
晶も麻希も、決して拓也を許さないはずだ。
…下手をすれば、"拓也君もお尻ペンペンされないと不公平だよ"などと言い出し…、拓也の母親である美由紀や、晶の母親、麻希の母親…、最悪の場合、綾子の母親にまで、"拓也のお尻をペンペンして欲しい"というお願いをしに向かってしまうかもしれない…。
…そのくらいの行動力はある2人なのだ。
(…ひぃ〜っ!?…そ、それは駄目だ…っ!?…今日の"集会"を見る限り…、どのお母さんも、僕のお尻を叩くに決まってるよォォ〜っ!!?)
…"集会"で、拓也とこんな形で出会っていなければ…、どの母親も、「なにバカな事言ってるの」と一蹴しただろう。
…しかし、今この場にいる母親達は…、そんな2人の"お願い"を、果たしてキッパリ断るだろうか?
(…あ、綾子ちゃんは、僕が"集会"に行ったって事も知ってるわけだし…、昔、あの2人と一緒にお尻ペンペンされるほど仲良く遊んでたなら…、僕のことも、喋っちゃうんじゃ…!?)
拓也は元々…、綾子とは特別仲が良かったわけではなく、"同じクラスに居る真面目な子"という程度の認識だった。