奈津子はあえて、お仕置きの程度や回数には触れなかったが…、そうやって後から発覚した場合、美由紀による"お尻ペンペン200連発"だけでなく、奈津子からも"ウソをついた時のお尻ペンペン300発"が待っている可能性が非常に高い。
…ただ、今の状況で拓也にそれを確認するだけの度胸はなかった。
「…さてと、戸締まりして帰りましょうか。…拓っくんは、1人でちゃんと帰れる?」
「…えっ?う、うん…。」
「…そう。寄り道しないで、気を付けて帰ってね?」
…さっきまで、拓也が大勢の母親の手によってお尻を叩かれていた、畳敷きの大部屋。
急にがらんと人がいなくなったことで…、ひりひり痛むお尻の感覚だけが残ってしまった。
(…うぅ〜っ…、ここで僕…、あんなに大勢のお母さん達から、お尻ペンペンされちゃったんだ…。)
…しかも、その半数は拓也のクラスメイトの母親であり…、明日、教室で会った時にも、何くわぬ顔で挨拶をしなければならない…。
(…勇太君と綾子ちゃん…、それに、隣の席の遥香ちゃんは多分、大丈夫だろうけど…、問題は、晶ちゃんと麻希ちゃんの2人かな…。)
…大人しい性格の遥香と、お尻ペンペンについて拓也と協力関係にある勇太と綾子はまず安心だろう。
…それよりも、晶と麻希の2人…。
…晶の母親は、拓也のお尻を叩く際に、最初は気を遣って手加減をしてくれていた。
…本来は、とても心優しい母親なのだろうが…、同時に、"家の晶もよく大袈裟に痛がる"とも発言している。
…そこから察するに、自分の子供にだけはとても厳しい、"偏った教育ママ"なのかもしれない…。
(…でも、だとしたら…、晶ちゃんは今日、帰ってすぐにお尻ペンペンされてるかも…?)
母親達の会話の中に、"今まで、私のお尻ペンペンは痛くなかったかもしれない"という主旨の発言もちらほら出ていた。
…それを"確認"するために、お尻ペンペンが始まっていてもおかしくはない…。
(…ま、まずいなぁ…。…じゃあ、麻希ちゃんの方は…?)
…一度熱くなると自分でも止められない、麻希の母親。
拓也はつい先程、その恐ろしさをお尻で味わったばかりだが…、長年のバレーボール経験者である彼女の強烈な平手打ちを、まだお尻がはっきりと覚えている。
(…うぅっ…、あ…、あんな威力でお尻を叩くお母さんが、家でだけ優しいわけがないよ…!?)
…麻希の母親は、拓也のお尻を叩いている最中に…、"ウチの麻希だったら、もう一度ゼロ回からやり直し"とも発言している。
…あれは恐らく、作り話などではなく…、日頃から麻希のお尻を叩く際に、あまり反省が見られなければ"最初からやり直し"になるルールを設けていたのだろう。
…あの場でとっさに思いついたと言うよりも、感情が昂ぶって日頃やっていることを喋っていたように思えた。
(…ま…、麻希ちゃんのお母さんも…、"集会"から帰ったら、麻希ちゃんと"お尻ペンペンの話"になってるのかな…?)
…麻希の母親は、普段はニコニコしていて穏やかだが…、"指導者"としての熱が入ると、急に豹変してしまう印象だった。
…帰宅して、理由もなく即お尻ペンペン…とはさすがにならないだろうが、話し合いをする過程で、今までのお尻ペンペンが"甘かった"などと判断されてしまえば…。
(…そ、その場ですぐお尻ペンペンだよね…、あのお母さんなら…。)
…麻希の母親に関しては、周りに止める人間が居ないと、どれほど叱られるかわからない部分もある。
…ある意味で、お尻ペンペンする母親達が10人も居てくれたおかげで、拓也はあの程度で済んだのだ。
(…うぅ…、もしそうなったら、本当に謝らないと…。…でも、僕が謝ったら…、"集会"のことも全部話さなきゃいけないし…、…ど、どうしよう…っ!?)
公民館を離れ、尻を擦りながら帰宅する拓也。
…頭の中は、明日の学校のことで一杯だった。
綾子の"朝のお尻ペンペン"は、本当に無くなったのか。
…"集会"のウラで、拓也の母親からお尻ペンペンされていたという、勇太のことも気がかりだ。
…そして、"集会"から帰った母親達の動向…。
…明日、学校で会ってみなければどうなったかも一切わからないのだが、拓也は自分の尻の痛みよりも、色んな知り合いの事ばかり考えてしまう。
(…そう言えば、何かもう1つ忘れてるような…?…あ〜もう、今日は色々ありすぎて、わけがわからないよ…。)
すっかり疲れきった拓也は、考えるのをやめた。
…なるようになる、…学校で会った時に対応すればいいや…。
諦めにも似たこの結論によって、拓也は学校でまたしても騒動に巻き込まれるのだった。