「…こ、これで…、黙っててくれる…?」
「…えっ?」
遥香はきょとんとした表情を見せたあと、小悪魔のように微笑んだ。
「…拓也君、私まだ…、今のが"お願い"とは言ってないよ?…ふふ、一度呼んでもらいたかっただけだも~ん。」
「…えっ!?…そ、そんな…っ!!?」
「…あのね、"お願い"って言うのは…、」
遥香がそこまで言いかけたところで…、教室の外から、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。
…気付けば、時計は8時を過ぎている。
もう誰が登校して来てもおかしくない時間だ。
「…時間切れかぁ。…拓也君、"お願い"はまた今度ね?」
「…は、遥香ちゃん、でも…っ!?」
「…ふふっ、安心して?…"お姉ちゃん"は、誰にも言わないわ。」
「…っ…!?」
…直後、教室にクラスメイトが次々と入って来る。
遥香はまるで、拓也と喋ってなどいなかったように…、いつも通りに、大人しい女子の顔をしてノートを眺めていた。
(…は…、遥香ちゃんって…、ただの真面目で大人しい子じゃなかったの…!?)
拓也は激しく動揺していたが、他のクラスメイトが登校して来た以上、ここで遥香と"お願い"の話を続けるわけにもいかない。
(…き、気になるけど…、今は、それどころじゃないか…。)
遥香に関するトラブルは、今の拓也にとってはただの伏兵…。
…まずは晶と麻希の対処が優先だと、待ち構えていた矢先…、右手でスカートの尻を擦りながら、1人の女子が教室に入って来た。
「…あ〜もう、サイアクなんだけど〜!!」
…拓也のクラスの中でも長身で、スタイル抜群の彼女。
母子揃ってバレーボールに没頭している、スポーツ大好き少女の麻希だった。
(…ま…、麻希ちゃんだ…。…どう見ても、お尻を擦ってる…、ってことは…!?)
尻を庇うような麻希の仕草を見て、たまたま近くに居た綾子が声をかける。
「…ど、どうしたの…?麻希ちゃん…。」
「…あ〜っ、綾子ちゃ〜ん…。…き、聞いてよぉ〜っ…。」
「…あ、うん…。」
拓也は、盗み聞きのような形で情報を仕入れることに抵抗はあったが…、教室で聞こえてくる分には問題無いだろうと、多少迷いながらも聞き耳を立てる。
「…昨日さ、家のお母さん…、公民館に行ってたんだよね。」
「…うっ、うん…、知ってる…。家もそうだし…。」
「…綾子ちゃんは…、昨日の夜、大丈夫だった…?」
「…えっ…?」
な、何が…?
そばで聞いている拓也には、今の状況が手に取るようにわかってしまう。
…麻希は昨日…、"集会"から帰った母親の手で、嫌というほどお尻ペンペンされたに違いない。
…そして麻希といえば昔…、綾子や晶などと一緒に悪さをして、その全員が綾子の母親からお尻ペンペンされたと聞いた。
…"あの"綾子の母親による…、"本気のお尻ペンペン"である。
「…わ、私は別に…、昨日は、何も無かったけど…?」
「…えっ?ホ、ホントに…?」
「うん…。」
麻希からすれば、自分がこれほど叱られているのに、"あの"綾子の母親からお咎めが無いのはおかしい…という気持ちがあったのかもしれない。
…しかし綾子もまた、"集会後"こそ叱られずに済んでいるが…、その"集会"に拓也が向かうまでの経緯や、"集会前"に散々叱られた"絶交のお尻ペンペン"の件が頭にあるため、「何も無かった」と言いながらも恥ずかしそうに顔を赤らめている。
(…う…、た、拓也君…、昨日は上手くやってくれたみたいだけど…、麻希ちゃんがこんなに叱られちゃうなんて、公民館で何があったんだろ…?)
綾子は、今朝の"絶交のお尻ペンペン"から解放されたことで、きっと拓也が上手く話をつけてくれたのだと思っていたが…、まだ今日は拓也とは話せていないので、"集会"の中身までは知らない。
「…えぇっ…?…じゃあ…、家だけだったのかなぁ?…どうして家のお母さん…、最初からあんなに怒ってたんだろう…?」
「…わ、私にはわからないけど…、"集会"ってほかに、誰が行ってたのかな…?」
「…いや…、私もよくは知らないけど…、あっ、晶ちゃん家とかは?同じ地区だし…。」
「…あっ、そうね…、って…。」
綾子と麻希が会話を続けていると、横からひょっこり、可愛らしい背丈の女子が顔を出した。
「…私のこと…、呼んだ?」
「…あっ、晶ちゃん…。…あのね、ちょうど聞こうと思ってたの。…昨日の夜ってさ…、」
…みなまで言うな…、とばかりに、晶の言葉が会話を遮る。
「…まだ、お尻腫れてると思うけど…、見る?」
「…こっ、こらっ、晶ちゃんっ!こんな所でスカート上げちゃダメッ!?」