「…あ…、拓也君、ごめんね…?急に呼び出しちゃって…。」
「…い、いえ…、全然…。」
学校の"西門前"で、コッソリ拓也を呼んでいた人物。
…それは、拓也と同じ名前の読み方の…、2年生の"卓哉"の母親だった。
「…本当にごめんね…?…出来れば、何日か日をあけて、拓也君のお尻が治るのを待ってあげたかったんだけど…。」
「…う、うん…、もう大丈夫…。」
本当はまだ尻の痛む拓也だが…、そうも言っていられない。
…2年生の"卓哉"の目の前で、"拓也お兄ちゃん"のお尻をペンペンする"…。
…それに従うことを条件に、昨日の"集会"でのお尻ペンペンを終わらせてもらった拓也だが…、もしここで自分が駄々をこねれば、一体どうなるか…、すぐに想像出来てしまう。
(…ゆ、勇太くんのお母さんや、綾子ちゃんのお母さん…、それに、児童会長の学君のお母さん達まで居る場所で"約束"をしちゃったわけだから…、行かないわけにはいかないよね…。)
…もしも"行かない"という選択肢を選べば…、"2度目の集会"が開かれる口実になってしまうかもしれない…。
…さすがにあんな体験は、もう絶対にしたくなかった。
「…でもおばさん…、どうしてこんな隠れた場所で?」
「…うん、あのね…、今日、おばさんの家で…、拓也君のお尻をペンペンするでしょう?」
「…う、うん…。」
「…その時、事前に何も話し合っていなかったら…、どうしたら良いのか、拓也君が困るんじゃないかと思って…。」
「…そ、それでわざわざ、学校に来てくれたの…?」
「…そ、それに…、もし拓也君に予定があったら、来週まで延ばす事もできるし…。」
…何て、優しい人なんだろう…。
…酷い悪戯をした罰の延長として、これから家でお尻ペンペンする子供を相手に…、ここまで気を遣ってくれる人が他に居るだろうか…?
…叱られる立場のはずの拓也も…、俄然、"卓哉の母親"に協力してあげたくなってきた。
「…ううん、やっぱり僕も今日で良いと思う。…まだ少しお尻は痛むけど…、昨日の"集会"に比べたら、へっちゃらだと思うし…。」
「…だ、だけどね拓也君…。」
「…それに、"卓哉君"を反省させるには、今日の方が都合が良いんでしょ?…だからおばさん、今日ここに来たんじゃない?」
「…驚いた。…拓也君って、おばさんのこと何でもお見通しなのね…。」
「…へへ…っ。」
…じつは昨日、"集会"が終わったあと…、その時点では、"2年生の卓哉"の家で拓也のお尻をペンペンするという…、はっきりとした日程まではまだ決まっていなかった。
卓哉の母親から、「そのうち連絡するね」とだけ言われた拓也は…、まさか翌日になって一転、"卓哉の母親"が学校まで訪ねて来ようとは夢にも思っておらず…、"西門で女の人が呼んでいる"と聞いた時にも、無意識に候補から外してしまっていた。
「…でも…、どうして今日になったの?…おばさんって何となく、そういうのは時間をかけて決めそうだけど…?」
「…あはは…っ、そこもお見通しかぁ〜。…あのね…、じつは昨日、家の"卓哉"がまた悪い事をしちゃってね…?」
「…うっ、うん…。」
…拓也は、自分が言われている訳ではないのだが…、同じ"タクヤ"について怒っているらしい卓哉の母親の言い方に、気持ちがざわざわする。
「"…そんな事するなら、お尻ペンペンよ〜っ!?"って、その場では言ったんだけど…、まるで効果がなくって…。…やっぱり、早いうちに拓也君に協力して貰わなきゃ駄目かな〜って思っちゃった…。」
「…なっ、なるほど…。」
勇太の母親である奈津子や、綾子の母親が同じ状況になれば…、問答無用で痛すぎるお尻ペンペンを与えるのだろうが…、まだ2年生である卓哉の母親は、あまり強くは叩けないというジレンマがあるようだ。
…昨日の"集会"で拓也が受けたお尻ペンペンは、かなり痛かった覚えがあるが…、さすがに2年生で低学年の"卓哉"には、そこまでは出来ないということだろう。
「…それじゃあ僕は、大げさに痛がった方が良いのかな…?」
「…えっ?」
「…すっごく痛そうにしてた方が、卓哉君も怖がるんじゃないかな〜…と思って。」
「…うふふ…っ、そこまで考えてくれてるの?ありがとう拓也君。…でも別に良いわよ、普段通りにしてくれた方が、自然な感じに見えると思うし…。」
「…で、でも…。」
「…それに…、おばさんのお尻ペンペンも結構痛いわよ〜?…拓也君、昨日の"集会"でやってあげたでしょう、痛くなかった?」
「…うっ…、た…、確かに…。」
…勇太の母親である奈津子や、綾子の母親のお尻ペンペンの威力に隠れているが…、2年生の卓哉の母親のお尻ペンペンも、拓也に対してはかなり強めだった。
…学年が我が子より上になるぶん、適切な威力を模索した結果なのだろう。