(…ほ、本当に来ちゃったぁ…。)
学校からの帰り道。
いつもと違う脇道へ入っていった拓也がどこを目指しているかと言えば…、もちろん、"2年生の卓哉の家"である。
…"集会"が終わった後で、きっちりと道順だけは聞かされている拓也は…、"卓哉君の家がわかりませんでした"という逃げ道も塞がれ、もう観念するほか無い。
…"協力する"とは言ったものの…、やはり、自分を慕ってくれる小さな下級生の見ている前で、その母親からお尻ペンペンされるというのは…、演技だとわかっていても、耐え難いものがある…。
(…うぅ…っ、絶対に下着まで全部下ろされるし…、少し考えただけで恥ずかしすぎるよ…。)
…拓也は昨日の"集会"の際、卓哉の母親のお尻ペンペンを一度味わっている。
…今回に限ってズボンの上から叩いてくれるなど、そんな甘い考えは捨てたほうが賢明だろう…。
(…よ、よりにもよって"タクヤ君"だもんなぁ…。…当時たまたま"名前の読みが一緒だね"、って仲良くなったけれど…、その時はまさか、こんな事になるとは思ってなかったし…。)
…拓也と卓哉が初めて出会ったのは…、去年。
新一年生を歓迎するための学校行事で、偶然、"卓哉"と話す機会があった上級生の拓也は…、名前が同じだという話をきっかけに仲良くなり、休み時間に何度も遊んであげていた。
…拓也も、"お兄ちゃん、お兄ちゃん"と慕われることに悪い気はせず…、つい上級生として良いところを見せようとしていた覚えがある。
…しかし今日の拓也は、そんな"卓哉"の目の前で、丸出しのお尻をペンペンされてしまう…。
(…うぅっ…、先に卓哉君をお仕置きするって言ってたから…、2人ともお尻を出すのは一緒なんだろうけど…、僕と卓哉君じゃ、意味が違い過ぎるよ…。)
…悪さをした2年生の卓哉が、自分の母親にお尻ペンペンされる。
…それはまだわかる。
…しかし、その卓哉の母親から、上級生である自分が、卓哉の見ている前でお尻ペンペンされるというのは…、何度考えても恥ずかしすぎる罰だ。
(…も、もう行くしか無いのはわかってるけど…、おばさんも卓哉君も、もう家に居るかな…?)
…それらしき建物が見えてきて、拓也はふと立ち止まる。
…本当は、まだ決心がついていないのかもしれない。
震える指で玄関のチャイムを押すと…、中から「は〜い」と卓哉の母親らしき声が聞こえた。
「いらっしゃい、拓也君…。…まだ家の卓哉には詳しい説明をしていないから、揃ったあと話すわね?」
「…はっ、はい…。」
「…家の卓哉には今、"お部屋で待っていなさい"とだけ言ってあるの…。…昨日の件があるから、お尻ペンペンされるだろうな〜とは薄々思っているはずだけど…、今からおばさん、"怖〜いお母さん"になるから…、拓也君もそのつもりでお願いするわね。」
「…わ、わかりました…。」
「…あとね…、拓也君、本当にありがとう…。」
…こんなこと頼めるの、拓也君しか居ないのよ。
本当に、ホッとしたような笑顔で吐露する、"卓哉の母親"。
…よほど深刻な悩みだったのだろう。
子育ての苦労など、もちろん拓也にはわからないが…、手のかかる子供を持つと、親はみんなそうなのだろうか。
(…ぼ、僕なんかでもおばさんの力になれるなら…、こんな形でも、何だか嬉しい…。)
どうやら迷いも晴れた様子の拓也。
…ここまで来たら、全面的に協力するしかない。
そう決意した拓也に、卓哉の母親から"最後の確認"が入る。
「…拓也君。…しつこいようだけど、これが最後ね。…家の卓哉のお仕置きに、本当に協力してくれる?」
拓也の答えはもう決まっていた。
「…おばさん。…逆に僕からもお願いするけど…、僕が"嫌だ"とか"痛い"とか言っても…、叩く手を止めないでね?…演技をしてるって卓哉君にバレたら、僕がここに来た意味が無くなっちゃうから…。」
「…た、拓也君…。」
拓也のこの助言は、もちろん卓哉の母親の心情を慮っての言葉でもあるのだが…、それと同時に、もし拓也がここで手加減を願い出て、それが奈津子の耳にでも入ってしまったら…、などと考えると、どうしても手加減して欲しいとは言えなかった。
「…わかったわ。おばさん、家の卓哉にお仕置きした後に…、拓也君にも、う〜んとお仕置きするからね?覚悟は良いかな?」
「…お、お手柔らかに…。」
「…うふふっ…、それじゃあ…、行きましょうか。」
"卓哉の母親"の顔つきが変わる。
…悪さの過ぎる息子を叱る決意をした…、母親の顔だ。
…拓也は、今までに何人も見てきたその表情に、色んな母親像を重ねながら…、卓哉の母親の後をついて、卓哉の待つ部屋に入るのだった。