新鮮な川の幸を使った食事に舌鼓を打ち、お風呂も使わせていただき、私は今、瑠美ちゃんの部屋の床に敷かれた布団に座っている。
ベッドには瑠美ちゃんが腰を下ろし、私が瑠美ちゃんを見上げる形だ。
「実は斎賀さんに、見てもらいたいものがありまして…」
「は、はい」
そう切り出した瑠美ちゃんが、一冊の雑誌を私に手渡してくる。
よくあるファッション系の雑誌で、この月のものではないが、私も読んだ事はある。
天音さんが表紙を飾っていること以外は、特に気になるような部分はなさそうだけど。
「…これが、どうかしましたか?」
「ここ、見てください。この雑誌の編集の名前とかが書いてあるんですけど」
瑠美ちゃんは雑誌の奥付を指差す。見てみると確かに編集人と発行人の名前が―――
「………あっ」
「今…『あっ』て言いましたね?」
「あ、いえ、その…」
「ご存知なんですよね? ここに書かれている…『斎賀百』さんについて…!」
瑠美ちゃんの目が異様な輝きを宿して私を見抜く。再度思い返す。本気の趣味人に嘘は通じない、と。
「は、ぃ……私の……姉、です……」
「やっぱり! 斎賀って名前聞いたときから、何か引っかかるなぁって思ってたんですよ!」
私がそれを認めた途端、瑠美ちゃんは勢いよく立ち上がり、雑誌を高い高いしてくるくる回る。
ど、どうしよう…楽郎くんから「ペンシルゴンとサイガ-100の関係はあまり知られないように」と言われていたのに…!
「あーすっきりした! おやすみなさーい」
「えっ?」
スイッチが切り替わったかのように、雑誌をしまってベッドに飛び込む瑠美ちゃん。てっきり、根掘り葉掘り聞かれるものだと。
そう思って瑠美ちゃんの方をぼんやり見ていたら、やがて顔をこっちに向けた。
「聞きませんよ。私はあくまでファンなので。トワ様のプライベートに踏み込む気はありません。きっと、トワ様にも知られたくないプライベートの一つや二つ、あるでしょうから」
「………」
瑠美ちゃんのファンとしての姿勢に感心する一方、鋭いところを突いている、とも思った。
私自身、あの人の思考や言動には時折ついていけなくなる。悪辣な手段を好んで用い、しかもそれが大きな実利も兼ね備えている辺りは恐ろしいほどに厭らしい。純粋無垢なティーンエイジャーにはあまりにも刺激が強すぎる。瑠美ちゃんが節度を弁えられる人で本当に良かった。
「もう寝ません? 夜ふかしは美容の大敵ですからね」
「そ、それもそう。ですね」
ぱちん、と軽い音と共に、暗闇が空間を支配する。一寸先も見えない環境でやることもない。私はもぞもぞと布団を引き上げ、横になって目を閉じた。
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眠りにつく前と比べて、幾らかましになった暗闇の中で目を開く。いつもより早く目が覚めたと体感的に理解する。
今日…もう昨日だった。楽郎くんの家に来たかった理由は、楽郎くんの料理だけではない。楽郎くんも同じ気持ちと信じているけれど、勉強会を終えた『
けれど、
しかし、いざ楽郎くんの家にお邪魔すれば、早々に楽郎くんの家族とご対面。
なんやかやとしている間にもう夜は更け、ご褒美は得られずじまい。
このまま帰れるのか? 本来求めていたものが得られないままの、中途半端な結果で満足できるのか?
答えは―――『否』。断じて否である。
細心の注意を払いつつ身体を起こす。
横を見て瑠美ちゃんのあどけない寝顔を確認し、何も言わずに布団から抜け出す。
殆ど手探りで自分の手荷物が入ったバッグを手に取り―――私はそっと、ドアノブに手をかけた。