頭が低すぎる。
「この腹掻っ捌いてお詫びを……っ!」
「しなくていいから」
「せめて指を詰めます……っ!」
「武士からヤのつく自営業に鞍替えしないで?」
「そんな…! ではどのような罰を受ければ良いのですか!?」
「罰しなくて良いって言ってんの!」
「そうは行きません! 私が我欲を律しきれなかったことが此度の失態に繋がってしまったのです! 同じ過ちを繰り返さない為にも…何一つお咎めなしでは、私の気が済みません!!」
困った。まるで意見を変えてくれない。俺は別に…というか全く気にしてないのに、玲さんが自らを罰しようと躍起になってる。
まあ、育った環境が違うからには、物の見方に相違が生まれるのは必然。良家のお嬢様の受けた教育とかまるで想像できないが。にしてもここまで頑固だったとは…。知らなかった一面を知ることが出来たとポジティブに捉えようか。
さて、この様子では本当に何かしらの罰がなければ、事態は収束出来ないと見た。ここに関しては折れるしか無い。しかし。
どんな罰を、与えれば良いのだろう。
玲さんに与えようと思える罰が出てこない。
真っ先に思いつくのは『罰ゲーム』。カッツォやペンシルゴンと何かするときは基本的にこれが付いて回るので馴染みが深い。
例えば俺が『二度とやらない』棚に突っ込んだクソゲーを強制的にプレイさせるのは、明確に罰ゲームとして成立するだろう。だが如何せん時期が悪い。俺も玲さんもこれから受験対策を本格化させていく頃合いだというのに、ゲームをプレイさせ剰え敗北体験を刻み込むなど論外だ。
それでも穏当な部類ではあるので、最終手段としておこう。
罰は、今この場で下せて時間のかからない――具体的には二時間半以内――ものであるべきだ。でないと間に合わん。それと傷の残るようなヤツも当然ダメ。何が悲しくてDVまがいの真似をせにゃならんのか。
玲さんを観察してみる。
寝間着代わりに身に纏っているのは俺のシャツ。成長の可能性を考慮して大きめのサイズを選び、結局殆ど身長変わらなくてブカいだけなので、ほぼ着ずに死蔵していた一着だ。体格的に玲さんと一番近いのが俺だったので俺の服から選ばざるを得なかった。
近いと言っても俺と玲さんには一回りくらい体格に差があるので、俺にとって多少ブカいシャツは玲さんの場合かなりブカブカ。お陰で腿の辺りまで隠れてくれているのだが、Vネックの形状も合わさり胸元が結構見えてしま見てない。
胸の谷間に流れ落ちていく玉雫に視線が吸い寄せられ、思わず生唾飲んだりなんてしてない。
落ち着け俺。一つ手がかりがあったぞ。玲さんはかなり汗をかいている。水分が枯渇に近づいている訳だ。つまりここで俺が美味そうに水分を摂取して見せるのはなんか昔の拷問っぽくならないだろうか。
そう、あれだけ顔や首元に玉粒の汗を浮かべ、眉をハの字に曲げて意気消沈してこそいるものの、伏せられた潤んだ瞳に、頬は紅く染まってなんか………すごい………
だああーッ! ダメだ気が散る! なんなの玲さん反省してるフリして誘ってんの!? あまり認めたくないけど、こちとら一度欲望に火が付いたら一回
「あっ」
声が漏れた。慌てて口元を手で押さえる。
思いついた。思いついてしまった。
時間はかからない。痛い思いもしない。むしろ…いや言うまい。
ある意味では罰かと言うと微妙なラインだが、必要なのはお互いの納得。俺は
「楽郎、くん?」
顔を上げて首を傾げ、こちらを覗き込んでくる玲さんに、鷹揚な態度で話しかける。
「わかった。そこまで言うなら罰を与えるよ。…その前に、玲さんは我が家の『
「えと、はい。日曜日の朝と晩は、家族で食事をする…でしたよね? あ、今日は…!」
気づいたか玲さん。今日がその日曜日、『約束』の日だ。
「そう。大体…二時間半ってところか。それまでに俺達はリビングに向かわないといけない」
玲さんを家族にカウントするのは気が早いと思うが、そうでなくても彼女と食卓を囲むくらい普通だろ多分。
「諸々の『後片付け』に三十分かかると想定して…今から二時間フルに使って、玲さんが俺に奉仕するってのは…どう?」
「それ、は…!」
玲さんの性格では、面と向かって『私にさせてください』なんて、恥ずかしくてとても言い出せなかったのだろう。だから寝込みを襲い、だから口で
原因は奉仕欲の欲求不満。普段からして、これでもかと俺に尽くしてくれる玲さんのことだ。夜の行為にも同じレベルの奉仕をしたがっていただろうことにも、今なら想像がつく。
想像がついたので、罰ゲームにかこつけて玲さんの欲求不満を解消させようという話。うーん、性欲に濁った思考力で思いついた割にはいい作戦な気がする。判断力も性欲に濁っているわけだが。
玲さんを見れば、俯いてわなわな? と震えている。口にも出せなかったような行いを自ら進んでやるのだ。そう簡単に首肯出来ないのも無理はない。だが他ならぬ玲さんが望んだ事だ……嫌とは言わせないぜ?
そうだ。これはあくまで玲さんが罰を望んだからこそであることを強調してやろう。いたずら心が騒ぐなあ。
「どうする?玲さん……。望んだのは玲さんだ。玲さんが 「私が……」 わお」
食い気味に合わせてきたな。ちょっとビックリ。
「私が、楽郎くんに奉仕する……それは、
「ああ、もちろん
生憎、事ここに至って全年齢向けのご奉仕など求めてはいない。オムライスにケチャップで名前書いて「萌え萌えキュン♡」とか言わせたいわけではない。まぁそれはそれで罰ゲームにはなるか。
「そうですか……楽郎くんが、私に、そういう事、させたいんですね……?」
「ん、玲さん?」
うつむいたまま小声で呟くものだから、はっきりとは聞こえなかった。
玲さんはそっと立ち上がり、手荷物の入ったバッグから何かを取り出し―――
えっ。
えーっ…。
えぇ???
状況が、一瞬で理解の埒外に飛んでしまった。
玲さんが、取り出した
俺は、受け取った
材質は革…っぽい見た目だけど革にしては随分滑らかなので、多分別のやつ。赤く塗装されている。
等間隔に穴が空いて、金属製の留め具がついている。
くっついた長い紐の反対側には持ち手となる輪っかがある。
こんなものがこの場にある事がまず信じられない。だってこれ誰がどう見たって。
人間用サイズの―――
「ッスゥ―………」
あー………ね。
そういう事って………そういう事だったのね。
俺と玲さんの『
否定するのは容易い。が、恐るべき勘違いをしでかした玲さんが、それを指摘された際にどうなってしまうのか予想が付かない。少なくとも、今度こそ完全に収拾がつかなくなる事だけは断言できよう。
で、あるならば。俺の取り得る選択肢は一つしかない。
「
ハナっからそのつもりでしたと言わんばかりな横柄な態度で玲さんに言い放つ。
乗るしか無い。玲さんの名誉と精神衛生の為ならば、俺は恋人と首輪SMプレイをお望みの変態野郎にだってなってやる。共通認識の確立がいかに大事か、身に沁みるなぁ畜生!
「さて、まずは着ている衣服を全て脱いでもらおうかな? その服を汚してしまうと替えが無いし、リードが付いていては脱ぎ難くなる。何より…獣は普通、服なんて着ない。違う?」
「っ…! は、はい……その通り、ですっ……♡」
あの、玲さん。ちょっと嬉しそうにしないで欲しい。こっちはどこからともなく降って湧いたアブノーマルプレイにテンションがおかしなことになっているんだ。理性が完全に吹っ飛んで
目の前で恋人が、衣服を一枚ずつ手放していく。非日常極まる光景を食い入るように見つめているうち、彼女以外の全てが希薄になっていく。マジで夢でも見ているかのようだ。
心臓がハイテンポのビートを刻み、胸がはち切れそうな痛みを訴えてくる。身体がいやに震えているのは、緊張だけではないのだろう。ある意味では武者震いかもしれない。同年代の恋人に首輪を付けるとか下手な
程なくして、局部を守る最後の布すら取り払った玲さんの完全なる裸身が俺だけに晒される。逸る心身を唇を噛んで堪え、
「よく出来たね。じゃあ…もっと近づいて、顎を上向けて、首がよく見えるようにするんだ」
「はぁっ♡ お、お願い、します…」
生まれたままの姿の玲さんの上半身が、俺の視界を独占する。荒い呼吸と落ち着かない態度に同期してふるふると揺れる胸を見れば、海綿体への血液充填率が100%に達してしまった。
震える手で首輪を玲さんの裏から回し、ベルトを緩めの位置に調節して…あっという間に装着が完了する。
「もう、いいよ。少し、離れて見たいな」
「は、ぃ……」
言われるがまま、玲さんが数歩下がる。リードの留め金が揺れてちゃり、と小さな音を立てた。
乱れた髪が顔に少し張り付き、期待の籠もる潤んだ眼差しを時折こちらに向け、欲情の雫が垂れ伝う内腿をもじもじとこすり合わせる。
一糸まとわぬその姿が既に、耽美な魅力に満ち満ちている玲さん。そこへ首輪が背徳的エロスを与えている。白い肌に赤いアクセントが色合い的にマッチして見えるのは、奇特で奇怪な奇跡と言う他無い。
俺の中で、緩やかにスイッチが入ろうとしている。
何度かの経験を経て少しずつ分かってきたが、コイツが入ったら最後、俺の頭から遠慮と容赦が消え失せる。普段なら良心が咎めるような行いも、いともたやすく行うだろう。
忌々しくもこの時の記憶・経験は、俺に昏い法悦を齎してくれる。玲さんには申し訳ないと思うものの、狂気に身を委ねるのが癖になってしまっているのだ。
「は、ははっ……玲さんは、どんな姿でも綺麗で……今は更にエロい、な………」
「あ、ありがとう……はぁ、はぁ…ござい、ます………」
乾いた笑いごと、素直な感想が口から漏れる。
前に瑠美が言ってたなあ。『本当の美人は何着ても似合うしそれが流行になるの!』とか何とか。アイツの場合はペンシルゴンへの評価だったが、俺にとっては玲さんがそれだ。全裸に首輪すらこうも似合ってしまうとは。流行にはならんが。
『首輪』と『玲さん』が組み合わさるなんて、夢に見たことも無ければ、現実に想像だにしなかった。合わせようという発想すら生まれてこなかったものが、今ここにいる。『首輪をつけた玲さん』が、いる。頭がおかしくなりそうだ。
この人は一体、どこまで俺を狂わせれば気が済むのだろう。
俺の手には、リードがある。玲さんの首に繋がる、リードが。
その事実を認識した途端、スイッチが明確に切り替わった。
リードを強く握りしめ、無言で手元に引っぱる。前触れ無く首を引かれ、たたらを踏んだ玲さんは、しかし持ち前の運動神経で床に手をついて倒れ伏すのをこらえる。その代わり、俺の目の前で四つん這いになってしまっているが。
「ぇほ、らく、ろう、く―――っ!」
目を白黒させながら顔を上げたところで、完全に勃起し、先走りを垂れ流す異物を鼻先に突きつける。『こいつで滅茶苦茶にしてやる』と宣告するように。
「……こうされたかったんだろう?」
「ひっ♡♡ そ、そんな、ことぉ……♡」
ドスを聞かせた声と口調で囁いてみれば、怯えた声で否定する玲さんの、背筋から尻までが波のようにぶるりと震えた。俺は知っている。この反応は悦んでいるのだと。自分の方が立場が下だと理解するほどに、玲さんの身体は、より危険な熱を帯びてしまう。『筋金入り』とまでは言わないでおくとしても、マゾヒストを名乗る資格は十分だろう。
そして、対するように俺の胸の内からは、ドス黒い歓びがこんこんと湧いてきやがる。ああくそ、こんなつもりじゃなかったのに。玲さんのせいなんだからな? 玲さんがなんでも許してしまうから、俺がつけ上がってしまうんだぞ。
「さ…ベッドに行こうか、玲さん」
「は……は、ぃ……♡」
「『はい』? おかしいなぁ…。玲さん、犬には…犬の返事があるよねぇ?」
「っ…♡♡」
ほうら、また悦んでる。でもね、玲さんのそういうところも本当に可愛いと思うし、大好きなんだよ。踏み込んじゃいけない場所まで踏み込ませてくれる、それどころか自ら踏み躙らせにくる、破滅的に積極的な、その献身が狂おしいほどに大好きだ。
まあでも、このプレイは当面の間…向こう数年くらいは封印するべきだ。常態化したらマジで色々破滅する。
だから。
その分。
「『わん』でしょ? 玲さん。ホラ言ってみ?」
「っ、わ、『わん』っ♡」
「
「はうっ♡♡ わ、わふぅ…♡」
―――これから二時間、目一杯楽しもうか。なあ玲さん?
ここまで前半部です。
後半の投稿は今しばらくお待ちください。
2021/12/18 追記
やんごとなき事情によりこの後の話は胸での奉仕ではなくなりました。期待された方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳ありません。
続き自体はちゃんと書きます。
詳しくは活動報告を御覧ください。
この小説のタグを付ける際にどっちにするか迷って結局直接書くことにしたのですが、少し民意が気になったのでアンケートします。
今話のような合意ありの首輪プレイってソフト・ハードどっちのSMだと思いますか?
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ソフトSM
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ハードSM