※この作品はR-18です。

壊していいから、離さないで   作:東雲。

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ショッキングピンクの極彩色。


エピローグ:思い出は

 シャワーを浴びる中でさっきしでかした行いの全容に気付き、膝を屈して蹲ったりしながらも、なんとか立ち直って汚れを洗い落とすことができた。

 

 いつの間にか洗濯されていた昨日の服をもう一度身に纏い、リビングに向かう。こ(・)と(・)の最中は完全に意識から抜け落ちていたけれど、この家には楽郎くんのご家族がいるのに、かなり憚らず嬌声を上げてしまった。

 もし、聞かれたりしていたのなら。

 

(死…っ!)

 

「おはよう」

「おっ、おはよう…ございます!」

 

 リビングに入ると、私達以外は既に全員揃っていた。

 

「おう、おはよう! もう少しで出来上がるぞ!」

「はい、おはよう。玲ちゃん、よく眠れたかしら?」

「ん」

 

 仙次さんは明るい雰囲気で調理していて。

 永華さんは穏やかに、ケージの中の虫――カブトムシ…でいいのかな――に餌を与えている。

 瑠美ちゃんは少し不機嫌そうにファッション誌を眺めている。永華さんの方を露骨に見ないようにしていた。

 

 昨日と比べて、特段変わった様子はなさそうだった。どうやら、私の心配は杞憂だったらしい。

 

「はっ、はい! それはもう、ぐっすり! でした!」

 

 早起きして楽郎くんに朝這いかけましたなどと言えるわけもなく、嘘をついてごまかす。

 

「楽郎、配膳お願いね」

「えー…まあいいけど。玲さんは――」

「わ、わたしもやります!」

 

 

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「「「「「いただきます」」」」」

 

 暖かい食卓を、五人で囲む。もしかしたら、いつかの未来にはこれが当たり前になるのかもしれない。そんな期待を胸に抱きながら、どこか遠い視点で陽務家の食事風景を眺める―――

 

 

 ―――とはいかなかった。

 

 

「玲ちゃんは海と川、どっちで釣りたいかな?」

「玲ちゃん、この子モーレンカンプオオカブトって種だけど、見てこの三本角、かっこよくないかしら!?」

「おとーさんもおかーさんもやめてったら! 特におかーさん! 食事中に虫出さないでよ!! ――それより斎賀さん! この服、買ってみませんか!? 斎賀さんに絶対似合うと思うんです!」

 

 助けて楽郎くん! 私の視線を感じ取り、楽郎くんは口の中のものをごくんと飲み込んで、そっと両手に持っていた茶碗と箸を置く。

 

「玲さん、時には…はっきり断る事も優しさだと俺は思う。…『私の趣味はとっくにVRMMOに決まってるので全部お断りです』ってなぁーっ!」

 

 これが同年代の男子高校生同士であったならば、まず間違いなく取っ組み合いに発展するであろう勢いの論戦が、目の前で繰り広げられる。

 

「あ、はは……」

 

 もう笑うしか無い。

 傍観者になどさせてはくれない。エネルギッシュ極まる一家のパワーに私は圧倒され、苦笑いを浮かべる。

 けれど、やっぱり思う。

 

 この家は、本当に、素敵なご家族である、と。

 

 

 

 最終的に、楽郎くんの発言をマイルドにしてお茶を濁しました。

 

 

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 皆さんに挨拶してから、私は楽郎くんの家を発つ。『そこまで見送ってくる』と、楽郎くんもついてきていた。

 

「あの、楽郎くん……」

「ん?」

 

 私の家までの道のりを並んで歩く。ちらほらと人が出歩いたり車が走る町並みを、並んで歩く。

 

「今朝のこと、なんですけど…」

「ん゛ぬっ」

 

 楽郎くんが変な声を上げ、私も言ってて恥ずかしくなってきた。思い返す度に、羞恥に倒れそうになってしまう。

 

「………」

「………」

 

 アスファルトで舗装された、雨上がりの道路を歩く音が、しばし続いた。

 

「あっ、あの!」

「う、おう」

 

「その、あまり…深く考えなくて、欲しくて……」

「……お、う?」

 

「そ、そのぅ、一つの思い出と言いますか…尾を引かせるべきではないと思いますし…お、お互い、忘れるつもりでですね…!」

「それは…難しくない?」

「はうっ」

 

 言い出した分際ではあるが、図星だった。私だって忘れられる気がしない。

 

「まあ、尾を引かせるべきでないってのは、わかるよ。色々と危ないし…。玲さん、マジで気をつけてね」

「は、はい」

 

「とにかく、当面あーゆーのはナシね! ナシ! 俺達にはまだ早い!」

「は、はい! そうですね! ……えっと、当面というのは…?」

「…あっ」

 

 楽郎くんから失言の気配を感じ取る。ここは、聞かないわけにはいかなかった。

 

「いつか…また、したいんですか…?」

 

 いけない。まるで期待しているかのような言い方をしてしまった。

 胸がどきどきする。顔が赤くなって、つい緩く握った手で口元を隠してしまう。

 

「っ……、岩巻さんの教えは身についているようで…!」

「?」

 

「…ごほん。まぁ、そのー、何だ? そういう事も気軽に…は言い方悪いな。えっと…結果がどうなろうとも、十全に対応できるようになったら、とか…?」

「それは、」

 

 大分、先の話だ。今後何がどうなるかは、誰にもわからない。

 けれど、そのくらいのハードルを乗り越えられなければ、軽々にするべきではない行い…ということでもある。

 

 私達は、随分と酷い先取りをしてしまった。

 で、あれば。

 

「それなら、やっぱり今朝のことは思い出にするべきですよね」

「まあ、それはそう――」

 

「今朝は、色々と制約のある中での行いでした」

 

 ここは天下の往来。言葉は時と場所と状況に応じてきちんと選ぶ必要がある。

 

「だったら、そういう制約を、全て取り払って」

 

 それでも、いつかの未来に向けた約束がしたい。

 

「何一つ気兼ねなく、行えるようになったのなら」

 

 私の心も、身体も、もう既に、貴方に捧げているのだと。

 時来たらば、もう戻れないくらいに私の全てを征服して欲しい、と。

 

「きっと、思い出すら越えるくらいに――」

 

 楽郎くんを手招きして、そっと耳打ち。

 

 

「――も(・)っ(・)と(・)、気(・)持(・)ち(・)良(・)く(・)な(・)れ(・)ま(・)す(・)よ(・)ね(・)?」

 

 

「っ…!!」

 

 楽郎くんの顔がぼっと火を吹く。視線をさまよわせて、天を仰いで、やがてため息一つ。

 

「玲さん、随分吹っ切れたね…」

「そ、そうですか?」

「自覚がないのが末恐ろしいよホント…」

 

 肩を一度がっくりと落としてから、楽郎くんは自分の頬を両手で挟むように叩く。

 

「っつ…ま、まあとにかく、その時に向けて学生の本分を全うしましょう! …以上解散! また明日!」

 

 楽郎くんが大げさに腕を振り上げて来た道を引き返す。いつの間にか、私の家が見える距離まで来てしまっていた。

 

「は、はい! また、明日!」

 

 私の気分は、今の抜けるような青空の如く晴れやかだった。

 

 

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「うーん…玲さん、マジでヤバイ級にエッr……こ、これ俺のせい、なのか…?」

 

 今後に一抹の不安を抱えつつ、玄関扉を開ける。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

「うおっ、バイト行ったんじゃないのかよ」

「もうすぐ行くよ。その前にお兄ちゃんに言いたいことがあって」

「言いたい…こと…?」

 

「私、寝不足気味なんだよね…。朝(・)っ(・)ぱ(・)ら(・)か(・)ら(・)、隣(・)の(・)部(・)屋(・)が(・)、随(・)分(・)と(・)騒(・)が(・)し(・)く(・)っ(・)て(・)さ(・)あ(・)…!」

 

 表情がみしりと固まって、全身から嫌な汗がどっと吹き出した。

 

「ッッッスゥー……。――何をお望みで?」

 

「するなとは言わないであげるから時と場所と状況選んで」

「…猛省します」




これにて完結です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
良いお年を。

子供部屋ってだいたいまとめて二階に…みたいなイメージ。


おまけ(その時の妹)

壁の向こうから漏れ聞こえてくる声『はあぁっ♡ 来てっ、だしてくださいぃッ! あっ♡ んぅっ♡♡ ふぁあああーーーーっっ♡♡♡』

ベッドの中で耳をふさいで現実逃避を試みる妹(永遠様の魅力がその抜群のプロポーションに起因する事は当然のことながら、そのプロポーションを輝かせる上で、永遠様の『私が一番』と言わんばかりの強力に強固な自信の影響は非常に大きい。その自信とタフネスは写真の一枚一枚に現れていて―――)

『さっさと1階に降りれば聞かずに済むんじゃない?』という閃きを得るまであと10分。
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