ご注意下さい…
アレンの思案とエリンギの応援
今日の自分の仕事も片付き、花騎士(フラワーナイト)のみんなが仕事の報告に来るまでの間、暇を潰す為か、愛しい想いを抑えられなくなったのかは分からないが、僕は想い人の事を考える。
今この騎士団の副団長を務めてくれている花騎士 、ゴデチア。
彼女を初めて見たときは「こんなにかわいい娘が戦えるのだろうか」という印象だった。
こんなに気弱そうな…庇護欲を掻き立てる少女ですら世界花の加護を受ければ花騎士として戦わねばならない。
そんなこの世界の残酷さを憂いながらも、彼女を数ヶ月見てきたが、彼女はその愛らしい見た目通りの、とても心配になる花騎士だった。
手には自分の背よりも高い槍を携えているが、とてもじゃないが扱えているとは思えないくらい程に戦闘での槍捌きは不器用そうで…
「いや、槍は本来叩いて使うものだし器用だね」
世界花の加護のない僕も剣術修行を今まで以上に頑張らなければならないと思った程だ。
しかし怪我をした動物を治療する為とはいえそれだけの為に討伐任務を待つというのは…
「そうだね、助けられる命を助けないのは騎士の矜持に反するよね」
命に人も獣もない、彼女の優しさには心が穏やかになる、この世界の残酷さを忘れるくらいに。
でも肌の露出で恥ずかしがる所は…少し過剰な気がする。
この前、朝の剣術修行を終えて執務室で着替えていたら彼女が偶然に入ってきた時は赤面しながら倒れてしまった時には脱いだYシャツを着直して彼女を医務室に運ぶことになった…
「いや自室じゃなくて執務室で着替える僕が悪いなぁこれは! 彼女がそう言う性格なのは知ってたろうに!」
「…さっきから一人で何を言ってるんですか?」
ゴデチアさんが来るまでの副団長で、読書仲間である花騎士、エリンギさんが話しかけてきた事で、僕は正気を取り戻した。
「ああ、エリンギさん。ありがとう、そんなに酷い独り言だったかな…」
「ああ、いえ、わたしもよく独り言は呟くのですが、少し声が大きくて…どうかしましたか?」
いつかの討伐任務でゴデチアさんと友人になってから少々自信が持てるようになったらしい。
騎士団結成当初よりも頼もしくなった彼女に、今の悩みを打ち明けるのもありだろう。
そもそもその友人のことなのだから、聞いてはくれるはずだ。
「実はゴデチアさんの事で少しね…聞いてくれるかい?」
すると彼女は急に驚いた顔をしながら
「えっ…ゴデチアさんに何かあったんですか…!? まさか病気になったとか…!?」
一気に彼女の顔が青ざめて目の光が失われていく…
どうやら早とちりをしてしまってるようだ…
「いやごめん!そういう深刻な事じゃないから大丈夫だよ!どちらかと言うと僕がゴデチアさんの事で悩んでるって感じだから」
すると彼女の顔は血の気が戻っていった。
「すいません…ご心配をお掛けして…所で一体どんな悩みなんですか?」
「例えばさ、僕とゴデチアさんが恋人同士になったら…どうする?」
…例え話とはいえ少し進んだ質問だったような気がするが…大丈夫だろうか。
「それはもう…お祝いしましょう!」
何か予想外な答えが返ってきたぞ…
そんなに嬉しそうな顔をするなんて思わなかった。
「わたしを認めてくれたお二人が恋人になるかもしれないなんて…
自分のことのように嬉しいです…是非頑張ってくださいね…!」
僕の手を両手で握り、瞳を輝かせるエリンギさん。応援してくれるのはありがたいけど、ここまで自分のことを買ってくれてたのは知らなかった…
僕は他の皆には慕われているのだろうか、それこそゴデチアさんにはどう思われているのだろう…
そんな事を考えていると、執務室の扉が開いていて、話の中心にいた少女の姿があった。
「ゴデチアさん、お疲れ様。…えっと、どうしたんだい? そんな顔をして」
彼女の顔がどんどん暗くなっていき…
「お、お楽しみの所を邪魔しちゃって…ごめんなさい!!」
彼女は涙目になりながら謝り、大急ぎで部屋を出て行った…
「これってまさか…」
エリンギさんはさっきのように顔が青ざめていってしまっていた
まさかゴデチアさんは…
「エリンギさんはここに居て、僕は誤解を解いてくる」
僕は顔面蒼白のエリンギさんを仮眠用のベットに寝かせ、ゴデチアさんを追いかける事にした。
ゴデチアの恋心
医務室の備品の整理が終わり、今日の仕事はおしまい。もう夕方になっていたのか医務室の外の夕日は綺麗で、心を奪われてしまっていました。
「ふぁ…凄く綺麗な夕日…ってそうだ、団長さんに仕事が終わった事を報告しなきゃ。…執務室で団長さんと夕日が見れるかなぁ、ふふっ、早く行かなきゃ」
団長さんと見る夕日に想いを馳せながら、医務室を出て廊下を歩きながら、そういえば何故団長さんがわたしを副団長に選んだのかを考えていました。
(団長さんはなんでわたしを副団長に選んだんだろう…お仕事を頑張ってたから…? それにしては早すぎるような…前に副団長をしていたエリンギさんは人前に出るのが嫌だと言ってたからその代わり? でもわたしも人前に出るのは得意じゃないし…本当になんでだろ?)
その時にふと、団長さんから貰った恋愛小説の内容を思い出しました。
(とある騎士団の団長さんと副団長の花騎士さんのお話で、戦いの中で二人は恋に落ちてお付き合いを始めるお話だったはず。激しい戦いの末に見事コダイバナを取り戻し、二人は結ばれてめでたしめでたし、というラストだったはず)
わたしはそのお話を気に入り、休みの日には読み耽ることもありました。ちょっといやらしいシーンもあって、えっちな気分になりながら読んだ箇所もあったことを覚えています。
(やっぱり団長さんが男の人だとそういう関係になっちゃう花騎士の人は多いのかな? 私も団長さんと…アレンさんとそういう関係に…恋人同士になれたらいいなぁ…)
団長さんのご両親も騎士団長と副団長の花騎士だったらしく、恋人同士になることはそう珍しいことではないのかもしれません。
(もしかして団長さんは…私とそういう関係になりたくて副団長にしたとか…
そ、そんな訳ない!! 多分…いや絶対!! …うう、考えてるだけで恥ずかしくなってきました…)
恥ずかしい思いを振り切ろうとして、執務室へと小走りで進みました。
するとすぐに執務室に着いて、わたしが扉を開けると…
悲しくて、辛くて
そこでは団長さんとエリンギさんが仲良く手を取り合って、楽しそうに談笑していました…
その瞬間にわたしはいてもいられなくなって、涙がこぼれてきて、謝りながら自分の部屋へと走って逃げてしまって、部屋に着くと扉を閉めて、今朝も抱いていたぬいぐるみを抱きしめながら、布団を被って蹲ってしまいました。
「うううっ…うっ、うわぁぁぁん…! あぁぁぁん…! わたしっ、わたしっ、何を浮かれて…うわぁぁぁん…!」
さっきは頭の中で否定していたけど、どこか期待していたのかもしれません。副団長に選ばれたのは、団長さんがわたしのことを好きなんじゃないかって。
ただの役職にそんな意味なんてなくって、前例があるからとはいえ上手くいくのは小説の中だけで、わたしが副団長に選ばれたのは、団長さんが向いていると思っただけのことでしかないのに。
それなのにわたしは副団長に選ばれて、今抱いているぬいぐるみや恋愛小説を貰ったからって浮かれて勘違いして、知らないうちに二人の仲に割って入ろうとしていた…
二人への申し訳なさと、初恋が破れた悲しさと辛さで心の中がぐちゃぐちゃになって、涙が止まらなくなりました。涙が滲む視界で見た夕日は、時間もそんなに経っていないのにさっき見た綺麗な夕日と違って、赤黒くとても恐ろしくて、まるでわたしの恋を終わらせようとしているようでした。
その時にわたしは、昨日の執務室でしてしまった行為をふと思い出してしまって…
「恋人がいる人を好きになって、その人を想って気持ちよくなって、お部屋を汚してしまって…凄く悪いことをしてしまった…
こんなわたしなんて…団長さんやエリンギさんに嫌われて当然ですよね…
ああ、きょうの仕事の報告もしてない…せめてそれだけはしなきゃ、嫌われてても、仕事はしなきゃ…」
その優しさに包まれて
虚ろな想いで布団から出てきた時に、扉をノックする音が聞こえてきます。「ゴデチアさん、ちょっといいかな?」
団長さんの優しそうな声がしました。
いきなり泣きながら逃げて驚かせただろうに、普段通りの優しい声で話しかけてきます。
「…開いています、入ってきていいですよ」そう言うと団長さんは部屋に入って来て、しゃがんでわたしに目線を合わせてくれました。
わたしは彼に何を尋ねられるのかと思うと、つらくてたまらない。
せめて先に今日の仕事の報告をさせてもらいたくて、わがままを言いました。
「ごめんなさい、わたしから話をさせてもらってもいいですか…」団長さんは無言で頷きました。
「医務室の備品の整理は終わりました。足りないものはありません」
「そっか、報告ありがとう。じゃあ僕の話をするね。ゴデチアさん、僕の、その…恋人になってくれないかな…?」
…えっ?
団長さんは何を言ってるのでしょう? エリンギさんと付き合ってたんじゃなかったんですか?
えっ、もしかして…もしかしてわたし…凄い勘違いをして…悲しむ必要なんてないのに勝手に大泣きしながら逃げ出して…? 恋人? わたしが団長さんの? …えっ、えっ…ええっ!!?
「えっと…あの…その…色々迷惑をかけてしまってごめんなさい…恥ずかしい…
恥ずかしくてしんじゃいそうです…! 今は顔を見ないでください…!!」わたしは持っていたぬいぐるみで顔を覆い、団長さんを見ないようにしました。今団長さんを見ちゃったら、申し訳なさと恥ずかしさと嬉しさで体が沸騰して死んじゃいそう…!
「…そっか、じゃあ落ち着いたら執務室に来て欲しいな、待ってるからさ」
そう言って団長さんは部屋から出て行って扉を閉めていきました。
わたしは深呼吸をして落ち着きながら、まずは今回迷惑をかけたもう一人…エリンギさんを探しに行こうと立ち上がると、また扉をノックする音が聞こえてきました。
「わたしです、エリンギです。ゴデチアさん、大丈夫ですか?」エリンギさんの声がしました。
「エリンギさん、入って来てください。わたしも話がしたかったです」
そう言ってわたしが扉を開けると、エリンギさんが涙目でわたしに謝ってきました。
「今回は感極まって団長さんの手を握ったせいで勘違いさせてすいませんでした…!
わたしのせいでゴデチアさんを泣かせてしまって…本当に申し訳ないです…!」
本当にわたしのことを心配してくれたことが伝わる誠実な言葉と態度に押されながらも、わたしは自分が悪いと思ったので、返すようにエリンギさんに謝罪しました。
「それだったらわたしが勘違いしなければよかっただけのことです! エリンギさんが悪い訳じゃありません、本当にごめんなさい!」
「そんな…今回はわたしが…」「違います、わたしが…」
そんなやり取りが数分程続き、わたし達はいつの間にか笑い合っていました。
「ふふふっ、じゃあ今回はわたしもエリンギさんも悪かったと言うことで、エリンギさんを許します。
だからエリンギさんもわたしを許してくれますか?」
「はい、わたしもゴデチアさんを許します。それでは、また明日もよろしくお願いしますね」
そう言ってエリンギさんは外へ出て扉を閉めていきました。
「団長さんを待たせちゃってる…執務室に行かなきゃ…」
想いを伝えて
その後すぐに団長さんの告白の返事をしに執務室を尋ねました。
扉は既に開いていて、わたしは部屋に入って扉を閉めて、団長さんに向き直ってわたしの想いを彼に話し始めました。
「告白は凄く嬉しかったです、わたしのことを好きだったなんて思ってなかったから驚きました。
でもいいんですか? わたしは病弱で季節が変わるとすぐに病気になっちゃうし、肌の露出には敏感ですぐに恥ずかくなるし、今日みたいに勘違いして困らせるかもしれないし、体型だってそんなに…
本当にわたしでいいんですか? わたしの事を…恋人にしたいんですか?」
すると団長さんは微笑んで
「うん、そうだよ。僕は君のことが好きだから告白したんだ。…流石に急ぎすぎたかもしれないけどね。
病弱なのは承知の上だし肌の露出を抑えるし、勘違いさせないように極力頑張るから心配しないで。
…本当はこんな形じゃなくて、もっとムードを作って告白したかったんだけどね…」と照れ臭そうに言いました。わたしは、沈んでいく日に照らされる団長さんを見つめながら、言葉を紡いでいきます。
「わたしも団長さんのことが大好きです…愛おしくてたまらない…あなたと一緒にいるだけで心がぽかぽかして、なんでも頑張れちゃいます…
どうかわたしのことを、大切にしてください、恩返しは一生かけて尽くしちゃいますから…!」
わたしたちがお互いに見つめ合うと、団長さんがこう言いました。
「ありがとう。僕は君のことを大切にし続けて、添い遂げることを誓おう。だからどうか、いつも側にいて欲しいな」
お互いの想いを伝えて、笑い合って、いつの間にか抱き合っていました。
そしてわたしは、団長さんに恋人になったらしたかったことをおねだりしました。
「二人っきりの時は、アレンさんって名前で呼んでいいですか?」
「いいよ、ゴデチアさん。じゃあ僕も、早速だけど恋人らしいことがしたい…
キスしても…いいかな?」
アレンさんからキスのお誘いを受けて、わたしは顔を赤らめながらも嬉しくなって
「はい…! はじめてですけどよろしくお願いします…!」と告げます。
身長にどうしても差があるせいでわたしが背伸びをするか、アレンさんが屈まなければキスができないので
必死に背伸びをしながらアレンさんの顔を見つめて、唇を重ねようとしたその時に、突然執務室の扉が開きました。
「団長さーん! 晩御飯の準備ができたみたいですよー! …!? えっと…団長さんとゴデチアさんが大人の階段を登ってますー! きゃー!」
この騎士団の花騎士の一人、カカオさんが晩御飯が出来たのを伝えに来てくれました。
それはいいのですけど、どうしてこんなタイミングで…?
ううっ…恥ずかしくてここからアレンさんと一緒にどこかへ行きたい…
「…ははは、ゴデチアさん、食堂で一緒にご飯を食べに行こうか」
「うううっ…はい、わかりましたぁ…」
わたしたちの秘めていた想いは実を結び、新しい関係が始まろうとしています。
これからの毎日には、何が待っているのでしょうか?
ゴデチアちゃんと団長さんの話はここからが本格始動です。
これからもよろしくお願いしますね…!