媚薬入りのレモンサワーをもうすでに半分くらい飲み進めた葵を観察する綾乃。
「(今のところは変化なし…か)」
「(そういえば、説明書きに“効果が出るまで30分ぐらいかかるって書いてたっけ)」
「(でも…あんなにいっぱい入れたんだから、ちょっとぐらい効いてきてもおかしくないのになぁー…)」
じーっと見つめるその視線に気づいた葵が、レモンサワー片手にテレビを見ていた目をこちらに向ける。
「……ん、なに?」
「(ギクゥッ!!)」
「あっ…ううん、何でもないのっ!(笑)」
──さらに30分後。
綾乃は普通のレモンサワー、葵は媚薬を盛られたレモンサワーを飲み干して2杯目に突入しながら他愛もない会話だけが進んでいった頃…
「……なぁ、なんかおツマミ欲しくならない?」
葵が唐突に、そんなことを言いだした。
「えっ?まぁ、あればもらうけど…珍しいね、葵がこの時間に何か食べようとするなんて…」
「そう?たまにはいいと思ってさ」
「軽い物なら入るだろ?」
「何かテキトーな物、用意するから待ってて」
そう言って立ち上がり、キッチンへと向かう葵を綾乃はつまらなさそうな顔で見送る。
「(なーんだ、あれからだいぶ時間経ってるのにまるで変化無しじゃん!)」
「(ちょっと面白そうだと思ったのに……大手メーカーの媚薬が聞いて呆れるわねっ)」
完全に期待を裏切られたその時…
「つっ…!あー、やっちゃった…」
「……どうしたの?」
ガチャン、と包丁をまな板に置く大きな音がして、綾乃はそーっと後ろから覗き込んだ。
まな板の上には切りかけのアボカド。
どうやら途中で左手の人差し指を切ってしまったようだ。
「…ちょっと、大丈夫?」
「お酒飲んで包丁なんか持つから…っ」
「大丈夫だって!こんなの浅い傷だからっ」
その手を取って傷口を見てみると、指先に薄く縦に入った傷口からプクッと血が出ていた。
「あ…もうっ、血が出てるじゃんっ!」
反射的にその指先を口に含んだ。
そして少しだけ血の味がするその指先を、口の中で軽く吸った時…
「も…もうっやめろって…!」
何かに追い詰められるようなその声の主を見上げると、肩で呼吸をしていた葵がパッと顔を背けた。
「葵?…どしたの?」
「ごめん、ちょっと酔った…かも」
「もう大丈夫だから、座って待ってろよ」
明らかに挙動不審で息が荒いその様子を見て、綾乃はようやくピンと来た。
───そう、思いっきり発情している。
でも、そのせいで葵は…。
「ご、ごめん葵っ!私が媚薬なんか飲ませたせいでこんなケガさせちゃって…!」
「ほんの悪ふざけのつもりだったの!ほんとにごめんっ!」
小さな罪悪感は、一瞬にして綾乃のその口を割らせてしまうのだった。
そして、ことの真相を耳にした葵は…
当然、ジロリと綾乃を睨みつける。
「あ……っ(笑)」
「や、やっぱ……怒った…?」
ちょっとたじろぐ綾乃だったが、意外にも葵が怒るどころか笑ってみせたから拍子抜けした。
「やっぱしなぁ…なんかさっきから変だと思ってた(笑)」
「お前、どうせ俺がいない間にレモンサワーの中にコッソリ盛ったりでもしたんだろ?」
あっさりと犯行を見抜かれてしまった。
そして、平然と切りかけのアボカドを手に取る葵。
「ま、まぁ…そうなんだけど、葵…もうなんともないの?(笑)」
「この俺のカラダを媚薬なんかで操れるとでも思ったのー?」
「なら残念っ!こう見えて俺って一度決めたことはなかなか曲げない性格だから、その分メンタルだってヤワじゃないんだよなぁ」
ストン、ストン…と等間隔でスライスされていくアボカド。
「一度決めたことって…なんなの?」
「だ、だから…自分の欲望のままに行動しないことにしたんだよっ…」
「…ほら、“何事もほどほどに”っていうだろ?」
「時には我慢だって必要なんだよ…っ」
言葉とは裏腹に、その艶っぽい声は無理をしているのが明らかだった。
「…媚薬なんか飲んだのに、ほんとに我慢できるの?」
「できるって!」
こうなってくるとどんどん、化けきれていない化けの皮を剥いでやりたくなってしまう。
「もし今、私が“エッチしたい”ってオネダリしても?」
「う……うんっ」
「……ほんとかなぁぁ〜?(笑)」
「…だああっ!もうっ!指切り落としちゃったらどうしてくれんだよっ!!」
「(強情な奴めっ……ふんっ、今に我慢の限界越えさせてやるんだからっ)」
そして包丁を持つ手をそっと掴んで止めると、綾乃は横を向いた葵の唇にキスをした。
いつもより熱く柔らかいその唇は、抵抗することもなく綾乃の唇に吸われては潤っていく。
「ん…っ!」
「綾乃っ…もういい加減にっ──」
「私と二人でいるのに我慢しちゃう葵なんて、葵じゃないのっ」
「…エッチばっかで不安になっちゃう女の子はいるかもしれないけど!私はそうじゃない」
「……わ、私だって、葵とシたいから…っ」
面と向かって言い慣れないそんな言葉を口にして、自分で照れ臭くて目を泳がせる綾乃を葵は黙ったまま見つめる。
「………っ」
そして、少しの揺らぎを含めた葵の仕草を見逃さなかった綾乃は…
「…意地っ張り」
そうつぶやいてから、股間部にできた硬い膨らみをやんわりと掴んだ。
「ここはもう我慢の限界みたいだよ、葵」
「服の上からでもわかっちゃうくらい、硬くなってる…」
「…な、なんで今日はそんな積極的なんだよ」
「まさか、お前まであの媚薬飲んだとか言うんじゃ…」
「ううん、飲んでないよ……でも…」
キッチンにもたれかかるその足元に膝をつき、ズボンのゴムに指を引っ掛けた。
「葵がいつもと違って私に触ろうとしないから…ちょっともどかしいのかも、私」
下着ごとズボンをずらした途端、中ではち切れそうになっていたものがプルンッと立ち上がった。
そしてその先端は、彼の発情度合いをアピールするように透明な液体で濡れていた。
「それにね、私にとっての媚薬は……葵だから」
言い終わると同時にその先端から一気に口の中に含んだ。
「ん……はぁっ…!」
少し口を動かしただけで口内でそれはピクン、ピクンと応え、それに合わせるように喉の奥から漏れ出す声を葵は我慢できずに手で口を覆うのだった。
「そ、そんなに…きもひい?」
思わずききたくなって、その顔を下から見上げる。
「だ、だからイヤだったんだよ…!」
「感度上がりすぎて…自分がヤバくなっちゃいそうで…っ」
いつもなら
「でも抵抗はしないんだねっ?(笑)」
「うっ…」
ツーッと、根元から裏筋を先端にかけて舌を這わせる。
「あ…っ!」
「……マジでダメだって綾乃…!」
ツルツルした表面を這う舌が往復するたびに、ピクピクと動くそれはまた先端から甘い液体を溢れさせる。
先端の鬼頭まで舐め上げたところで、いきなりかぶりついたそれを、舌を絡めながら激しくしゃぶってあげる。
ジュプジュプジュプッ!……
「や、やめろってバカッ…!」
「……あっ──!そんなにしたら…!」
突然後頭部に手を添えられたかと思うと、口の中で意思を持つ生き物のようなものが、熱い飛沫を撒き散らしながら痙攣を起こした。
「あ……あっ!ヤバ…!!」
あまりにも早く達してしまったその顔は火照っていて、目は潤んで今にも倒れてしまいそう。
媚薬の恐ろしいほどの効果を改めて知ると同時に、どうしようもない罪悪感が綾乃を襲った。
「つ、辛かった…?ごめん…(笑)」
とりあえず、まだ勃起し続けているムスコを隠すように下着とズボンを上げてあげ、綾乃は気まずそうに笑う。
ところが…
「お前さ…媚薬の効果って何にも知らないだろ?」
いまだに肩で息をし続ける葵に突然そんなことをきかれて、綾乃は答えに困った。
「え……媚薬っていえば性的興奮を起こさせたり、感度が上がる薬でしょ?」
「それはそうなんだけど…」
「人によっては持続力が劇的に増したり、何回もイキ狂えるんだって♡」
「え…そう、なの…?(笑)」
「俺、媚薬って初めて使った(盛られた)んだけど…」
「元々の体質が体質だから…なんとなくどうなるのかわかるんだよなぁー…」
──形勢逆転の時は、やって来た。
「…ベッド行こっか♡」
可愛らしく誘われたと思ったら、パシッとその腕を掴まれてそのまま…
「ちょ…ちょっと待って、葵っ?!」
寝室へと向かう途中、リビングのテーブルに置かれていたままの媚薬の小袋を手に取った葵は、寝室に入るなり綾乃をベッドの上へと押し倒す。
そして馬乗りになった彼が着ていたTシャツを乱暴に脱ぎ始めるのを見た瞬間の、どうしようもない高揚感。
───やる気満々だ。
そんなことを実感しているうちに、葵はおもむろに取り出した媚薬の容器の蓋を開け…
口の中に数滴垂らすどころか全部一気に含んで…
「……んんっ?!」
いきなりキスしたと見せかけて綾乃の口に、口移しで注ぎ込んだ。
そしてそれは抗う暇もなく、喉を通過して胃の中へと落ち込んでいく。
「……う、うそっ?!全部飲んじゃった!!」
「何すんのよぉ葵っ!!」
涙目で訴える綾乃を見下ろして、葵はニッと笑った。
「──これでおあいこ。」
二人の夜は、まだまだ続く───。