もう一度誰かを愛する事は、善か悪か。
親子で同じ人を愛するのは、善か悪か。
「おはようございます、旦那様。」
「あ…。おはようございます、リーリャさん。」
「ルディ、どうかしたんですか?何だかよそよそしいですよ。」
「えと、その…」
ロキシーがジトッとした目で見つめてくる。
あの日シルフィに言われた言葉が、リーリャさんを見ると頭の中をグルグルと回る。
「ヒントは、リーリャさんが知ってるよ。」
聞いてみたい気持ちは山々なのだが、どうしても聞いてはいけない気がして中々話せない。
もどかしい。
似た感覚としては、照れや恋心に近い。
…まさか。
いやいや。
…無いよな?
☆★☆
「いいですね、順調にルディがリーリャさんの事を意識し始めています。」
「今度の休みにお出かけするっていうのはどうかな?」
「駄目よ。あの日は結局予定入っちゃったじゃない。」
「あ、そっか。…むむむぅ」
「皆さん、お優しいですね…」
ここの所、毎晩のように会議が行われる。
その甲斐あってか、お兄ちゃんはお母さんへの気持ちを考え始めている。
…でも、一番困るのは私だ。
そもそも、親子で同じ人を愛するのは倫理的にどうなのか?
ただでさえ私達の家族の形は複雑で、皆の努力によって出来ている。
別に、お母さんをのけ者にしたい訳じゃない。
…どうやって表現すればいいのだろうか、この感情は。
「アイシャ。」
「…お母さん。」
難しい顔をする私を見たのか、お母さんが話しかけてきた。
いつものメイド服では無く、無地に水色のパジャマに身を包んでいる。
「すみません、少し席を外していただけますか?」
お母さんが言うと、シルフィ姉たちは静かに頷き、部屋を後にした。
「…さて。アイシャ、言いたい事があるなら、言ってください。」
☆★☆
「おにいちゃーん」
「ん、アイシャか。」
薄いパジャマに身を包んだアイシャが、薄く笑いながらこちらに来る。
ここ数日のアイシャは、何だか思いつめたような様子だった。
どうしたのか聞いてみても「大丈夫だよ」の一点張りだし、心配していたのだが。
何というか、吹っ切れた顔だ。
「お兄ちゃん、単刀直入に聞くね。」
「あぁ。…何?」
「お兄ちゃんは、お母さんの事をどう思ってるの?」
「…」
やはりそうだったか。
多分、というか確信しているのだが、リーリャさんは俺の事が好きだ。
荒波のような人生にも屈しない、凛とした振る舞いの彼女。
一人の母親として、俺は彼女が好き、大好きだ。
今の生活に、彼女を欠かす事など考えられない。
だが、女性として見るのはどうだろうか。
「いい人だとは、思うよ。」
「それだけ?」
「え…」
「お兄ちゃんは、お母さんの事が好きなの?」
「…なぁ」
「どうなの!?」
「ちょっと待ってくれよ!」
アイシャからの問いかけに、抑えきれない感情が爆発する。
「俺だって、リーリャさんはいい人だと思うさ!でも、実の親だぞ!?アイシャは…おっ、お前は、そんな、事が、出来るのかよ!」
「…っ」
アイシャは、まだ誰かの女じゃなかったからまだ納得が出来た。
でも、リーリャさんは駄目だ。
彼女は、パウロの妾だった。
パウロに、愛されていた。
パウロが、愛していた。
それを裏切るなんて…出来ない。
「…そっか。難しい話してごめんね。」
「ううん、俺の方こそ、怒っちゃって…」
「…」
「…」
寝室が険悪な雰囲気になる。
マズい、何とかしなければ。
と、言う訳で胸を一揉み。
「ひゃ!」
「あ、いきなりでごめん。ちょっと、悪い空気だったから…」
「いや、いいんだけど…。」
☆★☆
気を取り直して、お互いに服を脱ぐ。
しかし、アイシャのふとした仕草がリーリャさんと重なって、どうにも落ち着かない。
「もう入れていいよね?…んっ」
アイシャは服を脱ぐなり、俺に跨って腰を沈めた。
それもまた、リーリャさんと重なって。
「…お兄ちゃん。」
「へ?」
「今、お母さんの事考えたでしょ。」
「あ、いや…」
何とか宥める言葉を思いつくが、思いつかない。
悶々とした思考を巡らせていると、ふと思いついたようにアイシャが離れる。
そのままベットに寝そべり、俺を抱き寄せた。
「今は、私を見てほしい。」
…これが自分の妹とは、我ながら恐ろしい。
俺はたまらずアイシャの腕をベットに固定し、急ぐように挿入する。
「あ…」
「あ、ごめん」
少し勢いが強かったのか、か細く声をあげるアイシャ。
その声に正気を取り戻し、ゆっくりと、彼女が満足するように_
「いいよ、もっと。お兄ちゃんの好きなように。」
「…っ!!」
理性を砕く甘い囁きに、抵抗すら許されず屈する。
自分の肉欲が収まるように、ひたすら腰を振る。
不安が消え去るように、ただ腰を打ち付ける。
溶け合うように、混ざり合うように…
絶頂は、いつもよりやや早いタイミングで訪れた。
触れ合う肌から生み出される、嗜好の快楽。
いつまでたっても色褪せる事の無い幸福感。
どれも、今も昔も手放せない大事な物だ。
「お兄ちゃん…」
「ん?」
「早く子供、欲しいね。」
突然の一言に、思わずピクッと動く分身。
アイシャ本人はニパッと笑っているのが、また何とも。
☆★☆
「アイシャが嫌なら、私は諦めます。」
「…!」
「何を驚いているんですか?当たり前の事でしょう。」
「それは!」
「では、アイシャは認められない女と自分の旦那が結ばれ、子供を作っても文句を言わないのですか?」
黙ってしまった。
確かに、はっきり言って良くは思ってない。
実の母親と同じ男性を共有する。しかも、兄を。
抵抗が無い訳がない。
でも、お母さんがお兄ちゃんを好きだと知った時、同時に喜びも感じた。
あぁ、私が好きなモノは、やはり母も好きなのだと。
認められた気がした。
言ってしまっては悪いが、お母さんは結婚適齢期などとっくに過ぎている。
ましてや、子供など絶望的だろう。
お父さんの事もあるだろうし、きっとかなりの覚悟の上での決断だった筈だ。
それを、私なんかのわがままで踏みにじっていいのだろうか。
最近現れた謎の男。
ヒトガミとの戦い。
まだ何も終わってない。
なのに、お兄ちゃんは私達との時間も作ってくれている。
これ以上、抱えられるものなのだろうか。
疑問は尽きない。
でも、言いたい事は…
「お母さんは、お兄ちゃんの事を愛してる?」
リーリャは、一瞬キョトンとした顔をする。
しかし、すぐにこちらを見て言う。
「大好きです。」
「…そっか。」
もうこれ以上、言葉はいらないんじゃないかと思った。
我ながら、何の捻りもない問いかけだ。
「うん、やっぱり私、賛成。」
「え…!?」
「だって…」
今の気持ちを表現するように、とびきりの笑顔で。
自分の、お互いの好きに、素直に。
「お兄ちゃんの事が好きな気持ち、私も分かるもん!」
☆★☆
叫ぶ。
俺は誰だ、と。
己の鼓動に問う。
今生きている俺は、本当に俺なのかと。
滴る血は答える。
分からないと。
今を生きる只人への嫉妬が。
抑えきれない魂の憤怒が。
俗世に還り、またもう一度と願う色欲が。
そこにたどり着こうともしない怠惰が。
ならいっそ、全て取り込んでしまえと叫ぶ暴食が。
全てを、全てを欲しがる傲慢が。
その全てを、叶える術を持ってしまった男の強欲が。
「戻ろう…魂の行き着く、楽園へ。」
男は進む。
血と暴力に染まり、悲鳴飛び交う修羅の道を。
その先に、理想郷など存在しないと知りながら。
己が大罪を贖うため。
男は、進む。
大罪とか使いだしちゃって、恥ずかしー!