涼太はいつものように暑中見舞いを葉山家の引っ越し先へと送る手続きをしていた。
「涼ちゃん!毎年ご苦労だねぇ・・・」
郵便局員のおじさんが肩肘を着きながら眺めている。
「あの人達にはお世話になりましたからねー」
一通りの手続きが終わり、小包を手渡す。
「お願いします」
「おう!任せな!」
局員は威勢よく返事すると小包を奥へと持っていく。
「これでよし・・・」
涼太は小さな郵便局を出た。
「アニキ!!」
「ん?」
大声で走ってくるのは地元の高校の制服の上着を小脇に抱えた大柄な男――山本 丸夫だった。
「おう、どうした?」
「急にいなくなるんでびっくりしたッスよ!」
「悪い悪い」
涼太は手を挙げて軽く笑う。
「今日はどこ行きますか?」
「いつも通り、ゲーセン行って飯かなー」
涼太は空を見上げながら反応する。
「アニキぃ!」
遠くから声が近寄ってくる。山本丸夫の金魚のフンこと田中ふとしがきちんと制服を着たまま走ってくる。今は涼太の金魚のフンとなっているが
「お、ふとしか」
「どこ行くんスか?」
ふとしの質問に丸夫が答える。
「ゲーセンと飯だ、お前も来るよな?」
「もちろんすっよ」
「おし、行くか」
3人は歩き出す。涼太を先頭にして。
「(涼太・・・デカくなったなぁ)」
丸夫は先頭を歩く涼太の背中を見る。昔は小柄で細身だったが当時から6年経った今は身長も伸びて180cmに届こうかというほどに成長した。しかし肉月はあまり良くなく細身である。
「(外見は弱そうなんだけどなぁ・・・)」
丸夫は身長こそ微妙に涼太より低いが骨格も良く肩幅も広い、まるでラガーマンのような体型だ。しかし丸夫は一度としても涼太に喧嘩で勝ったことがない。その理由は――
「(コイツ、本当に敵に対して容赦ねぇから怖いんだよな・・・)」
丸夫は子分だと舐められてたことに腹が立ち涼太に喧嘩を拭掛けたところ、涼太は喧嘩が始まった一撃目で近くにあった鉄パイプ即座に拾い上げ、躊躇なく顔面を叩いてきた。結果的に丸夫はその一撃で鼻を折られ、勝負は終わった。
涼太は成績優秀で授業中の態度も勤勉な学生そのものなのに異常なほど停学が多い。その理由のほぼ全てが喧嘩の際の過剰攻撃だ。
「(逆にそれで助けてもらったこともあったな・・・)」
丸夫は涼太の背中を見ながら回想する。
中学時代、田舎出の人間が多い隣街の中学と比較的街中で育った人間が多い中学との対立構造があった。丸夫は当時から体も大きかったため、自然と喧嘩の際は助っ人として参加することも多く、相手中学でも名前は知られていた。
ある日、丸夫がふとしと歩いていたところ、相手中学の8人組集団に襲われ、人通りの少ない路地に引きずり込まれ、理不尽な暴力の雨を受けた。抵抗もむなしく無残に殴られ続け、精神的にも体力的にも限界を感じた瞬間、その男は現れた。
「何か楽しそうじゃん?俺も混ぜてくれよ」
その男は体も細く背も小さい、助っ人としてはあまりにも貧弱だ。
「りょ・・・涼太・・・なんで?」
丸夫の言葉に、この集団を率いていたリーダー格の男が反応する。
「へぇ・・・知り合いなんだ――じゃあ、容赦はいらねぇな!お前ら、やっちまえ」
その言葉に涼太の正面にいた3人が一気に詰め寄る。その瞬間――
バリィン!!
3人のうち、真ん中の男の頭で何かがはじける。涼太は即座に下から上に割れた何かで顎を叩き上げる。涼太の手にあるのは割れたビール瓶だった。
「ああああああああああああああ」
その音と衝撃、光景に左右2人の足が反射的に止まる。
「―――ふっ!!」
涼太は割れたビール瓶を投げ捨てると伸縮性の警棒を取り出し、躊躇なく右側の男の目を叩いた。
「あああああああああ!!目がぁあああああああああああ!」
右側の男は痛みに転げる。左側の男はそれらの光景を見て恐怖を感じ、一歩後ろを後ずさった。
「逃げんなよ」
涼太は警棒を相手の鼻っ柱に打ち付ける。
「ぐぁ!?――ああああああああああああああ」
左側の男も確実に折れたであろう鼻を押さえて地面に倒れ伏す。
「・・・・・・」
相手の集団は声を上げられない。――本物の暴力に対して本能が恐怖を感じてしまったのだ。
「よっと・・・」
涼太は先ほど投げたビール瓶を拾うと歪んだ笑顔でリーダー格の顔を見る。
「ねぇ?何してるの?」
「くっ・・・」
こういった集団内のカーストは強さによって決まる。よって下の人間が誰も勝てないと悟り動かなくなれば必然的にリーダーが出ざるを得ない。
「あんな奴やっちゃってくださいよ!!」
カースト下位の男が声を上げると、他の奴もそろって声を上げて応援し始める。
「(まぁ、あんなヤベェもん見せられたら丸投げするわな・・・)」
丸夫はリーダーをはやし立ててるやつらの気持ちがよく分かった。
「な、舐めんじゃねぇええええええ」
リーダーの男が走り出す。恐怖を押し殺すのに必死なのか、まっすぐ走っていきそのまま右腕を振りかぶる。それはあまりにも分かりやすく単調だった。
「―――」
涼太は相手の右ストレートをギリギリでかわしながら男の横を通り過ぎるかの勢いで鼻へ警棒での強烈なカウンターを決める。
「な!?―――ぐわああああああああああああああ」
男が倒れると、涼太はゆっくりと近づき割れたビール瓶を振り上げる。
「(ヤバい―――)」
丸夫は、そこからの行動に嘘偽りがないことを良く知っている。そのため、痛む体を無理やりたたき起こし、縋りつくように涼太を止める。
「もう十分だ!!」
涼太は不思議そうに丸夫を見る。
「もう・・・十分だから・・・コイツを・・・許してやってくれ」
丸夫の目から涙が出てきた。
「(な、なんで俺は、集団リンチしてきたやつらのリーダー庇って泣いてんだ!?)」
丸夫は自身の感情が意味わからなかった。しかし、その感情的な言葉が届いたのか涼太は手を下ろす。
「本当にいいのか?」
涼太は再度聞いてくる。
「大丈夫・・・だ。」
「分かった」
そう短く返事し、涼太は踵を返す。
「・・・・・・・・・・・・・・」
丸夫を含めた全員はその後姿が消えるのを無言で見つめていた。
「(それ以降、俺達が他校の奴らに襲われることはなかった・・・というかその時期は―――)」
丸夫は再び回想する。
「お前ら、勉強してないだろ?」
「「「「え!?」」」」
涼太は他校に襲われて怪我を負い、短期間の自宅療養をすることになった丸夫と比較的まだ軽傷だったふとしさらに丸夫弟2人を集めて大々的に問いかける。勿論、4人とも勉強などやっていない。
丸夫とふとしは他校との喧嘩に明け暮れ、勉強など考えていない。弟二人も元来勉強嫌いなのもあって全くやっておらず、気が付けば知識皆無の馬鹿4人が出来上がっていた。
「子分が頭悪いと親分の質も低く見られるから嫌なんだわ」
涼太はそう言って勉強を教え始める。
「(そもそも、この関係性を知ってるやつがいないんだよなぁ・・・)」
4人は一斉にそう思ったが、あえて言う必要もないと判断して勉強を始める。その教え方は各々の知識レベルに合わせたもので、もしも出来なくても貶すことなくやり方や覚え方など様々な試行錯誤の元、勉強をする。4人の中ではまだ比較的勉強が出来ていたふとしは丸夫の弟達に勉強を教えることもあったがあまりの出来なさに反射的に悪口を言って、それを聞きつけた涼太に警棒でボコボコにされている光景も気が付けば日常の一つとなっていた。
結果的に、学力レベルは最底辺から並レベルにはなり、高校も頭は良くないがまだまともな部類の学校に進学することが出来た。
「(母ちゃんも涼太にすげぇ感謝してたな・・・)」
シングルマザーで子供3人を育てている丸夫の母は家事と仕事に手一杯で週一日しかない休日は静養しており半ば放任主義だという状態であったことずっと悩んでいた、気が付けば不良となっており学校からの呼び出しも頻繁にあり成績もゴミ箱に捨ててある成績表を拾い上げて見て、あまりの酷い惨状に親としての自信も失っていた。しかし、丸夫が他校の生徒に襲われ自宅で休むことになった日以降、小学生時代からの友人であった涼太が勉強を教え始め、気が付けば夕飯なども作って食べさせるようになっていた。
「あ、丸夫君のお母さん!おかえりなさい」
ある日、丸夫の母が仕事を終え、自宅に帰ると涼太が出迎えた。丸夫と弟二人は夕飯であろうハンバーグと白米を口の中へ勢くいれ、みそ汁を流し込む。その光景はいつからか見なくなった一家団欒の夕食だった。
「―――!!」
丸夫の母は立ち尽くす。
「丸夫君のお母さん、いつも遅くまでお疲れ様です。家事に仕事と大変でしょうから今日くらいはゆっくりしてください」
それは息子にさえ言われたことなかった日々の苦労へのねぎらい。シャワーを浴びた後にはマッサージまであった。
「(こんないい子だったなんて・・・)」
丸夫が小学生時代、弟達共々尋常じゃない怪我をして帰ってきて、その原因が涼太という子だと聞いてから、ずっと危ない子供だと思っていた母にとってこの出来事は衝撃的だった。
それ以降、丸夫達の変化は如実だった。成績表の数字は見違えるほど良くなり、喧嘩などもなくなって学校に呼ばれることもなくなった。丸夫達は家事に積極的に参加するようになった。ある日そのことを母は丸夫に問いかけると
「涼太が――」
その名前が出てきた。
「喧嘩とかダセェからやめろ」
「お前ら親に対して態度デケェけど一人で生きてると思ってんの?親の金で生活して親の飯食わせてもらって、家事も全部任せて?馬鹿なの?」
そう言われた丸夫達は意外にも怒りの感情が湧かなかった。それもそのはず涼太が丸夫達の母に対して家事を代わりにやったり夕飯を作ったときに涙を流して喜んでいたのを目の前で見ていたからだ。
さらには涼太が積極的に教えることで徐々に家事なども手伝うようになり、喧嘩の助っ人などもすべて断るようになった。
「(俺が喧嘩の助っ人を断るようになってから周囲で喧嘩がなくなった・・・)」
元々は丸夫との喧嘩に負けた相手が復讐でやってきて他の人間に危害を加えて、それを復習しに行って返り討ちに遭い、丸夫に助っ人を頼むというループだった。しかしあの一件で潰したのが最も対立していた中学のトップ層の一人で、丸夫が助っ人を断り始めると同時期に被害に遭ったリーダーが積極的に丸夫達の中学への攻撃を止めるようになった。そもそもが生徒の気質自体全体的に落ち着いていて名前が知られてる不良も丸夫くらいであったため、丸夫が出てこなくなれば放置しても問題ないうえそのリーダー格が倒された時を見ていた手下から「丸夫のバックには殺人も厭わない狂気的な奴がいる」という噂が流れ、最終的には「丸夫達の中学に手を出すとバックにいるヤクザがお礼参り(殺)に来る」というものになり、評価としてはデメリットの割にメリットがあまりにも薄いということで徐々に手を出す人間が消えていった。
「(涼太のおかげで全てが変わった・・・)」
おそらく喧嘩に明け暮れた頃にはこんな未来が来るとは思ってもいなかっただろう。丸夫は背中を警戒することもなく歩いている現状を噛みしめながら思った。
「――!――お!丸夫!!」
ふとしが丸夫の肩を揺らす。
「ん?」
「涼太が今日奢ってくれるって、何食べたい?」
「ああ――。・・・なんでもいい、お前の食べたいもんで良いぞ」
ふとしは「分かった!」と言って涼太の元へ走っていく。
「(金あるなぁ・・・)」
丸夫はその光景を見ながら思う。涼太は丸夫達の成績が良くなり勉強を教えなくても大丈夫になってからというもの株の勉強を始め、高校生になってからというもの気が付くと何千万単位の貯金額になり、身なりなどに変化はないが明らかに涼太の取れる手段に金が入るようになっていった。
「(あとは――)」
丸夫は高校生になって訪れた最も大きい変化であり、そして丸夫もふとしも楽しみにしてるある一つの行事があった。
―――ブー、ブー
その時、涼太の携帯電話が鳴る。
「―――おう、どうした?」
涼太は空を見上げながら立ち止まる。
「うん――今日?んーいいぞ・・・あぁ俺以外にも2人いるけど数合わせられるか?」
「(お!)」
涼太の言葉に丸夫は反応する。
「――いる?オーケー。じゃあいつものホテルに20時な」
涼太は電話を切る。そして振り返って丸夫とふとしを見る。
「お前等、今日『神輿担ぐ』けど来るか?」
「「――!!」」
その言葉に丸夫とふとしの股間が熱くなる。
「「お願いします!!アニキ!!」」
そう言って頭を下げる二人に涼太は満足そうに微笑んだ。
まずは、今回のタイトルついてですが
最もしっくりくるタイトルが前話のものだったので、前回のタイトルを変更しました。すいません・・・
あとは今回、一話で分岐まで行こうと思ったのですが涼太沼を作り始めたら止まらなくなりました。
次の話で分岐します。
あとアフターを書いてて思ったのですが
腰据えて徐々に書くより、ノリと勢いで構想を形にした方が合ってることに気付いたので近いうちに一話形式で更新していきます。
結末が複数種類あるので
話ごとにタイトル【愛ルート①】等、表記します。
そのルートの終わりには【愛ルート①END】と表記しますので
よろしくお願いします!
今回も読んで頂きありがとうございました!
次もよろしくお願いします。