「クロか・・・」
涼太は指先に着いた。白濁の液体を見つめる。そしておもむろに鼻に近づけて臭いを嗅ぐ。
「はぁ・・・」
それは自分も良く知ってる――精液と同じ匂いであった。つい大きいため息がこぼれる。
「・・・?」
由良はその光景を服を直しながら不思議そうに見る。涼太は机の上のウエットティッシュで指を綺麗にふき取りながら先ほどの光景を思い出す。
涼太が指を入れた時、明らかにそこには先客がいた。
「(それでほぼ確定しちまったからな・・・)」
涼太はかなり早く確定を知ってしまったためつい怒りを抑えきれず、由良の秘所を必要以上に掻き回してしまった。
「(ありえねぇな、コイツ)」
涼太は目の前の存在に嫌悪感しか抱かなかった。
「ね、ねぇ・・・涼ちゃん・・・今の――」
由良は頬を上気させる。体の奥で何かのスイッチが入ってしまった。
「――うっ!?」
涼太は目の前の何かを期待した表情をしながら発情している存在を認識した瞬間、一気に不快感と嫌悪感が振り切った。
「――!」
すぐさま備え付けてあるラックから色付きの固いビニール袋を取り出し、嘔吐する。
「だ、大丈夫!?涼ちゃん!?」
由良は駆け寄り背中をさすろうと手を伸ばす。
「――!触るな!?」
涼太はその手を振り払うように叩く。
「はぁ・・・はぁ・・・僕に・・・触らないで」
一瞬、新旧人格が統合される。
「ご・・・ごめん」
由良は明らかに拒絶されたことにショックを隠し切れなかった。
「ん」
涼太は口元をティッシュで拭うと共に、水を取りに行こうと思った。
「ちょっと待ってて」
涼太の言葉に返事はない。すぐさま1階の冷蔵庫を開けペットボトルの水を取り出し、戻る。道中母親の姿はなかった。
そして水を飲みながら部屋に入る。
「・・・・・・」
お互いが迎えあう形となり、へたり込んでる由良に合わせて涼太も腰を下ろす。
「で?」
涼太が口を開く。
「何しに来たの?」
「!?」
その言葉は今までの涼太とは全く違うものだった。
「お前見ると吐き気するから帰ってほしいんだよね」
「――!?――!?」
涼太の顔、涼太の声、何も変わらないはずなのに明らかに言葉がその記憶と合致しない。
「(涼太が変だ・・・今日、丸夫を襲ってたこともそうだし――)」
由良は深呼吸するとしっかりと涼太の目を見据える。
「どうして丸夫達を襲ったの?」
「自己防衛」
「え?」
答えは簡素な物だった。
「僕はもう一人だ――守ってくれる人がいないなら自分で自分を守るしかない。そのために先手を打っただけ」
「(守る人――)」
そう、それは由良自身のことを指していた。
「なんで?今までだって守ってたし
「無理でしょ?」
涼太は由良の言葉を遮る。
「想像してみて、仮に『丸夫が宿題を見せろと言ってきた』とする――」
「自分でやれよ」
「何だと!いいからみせろ!」
丸夫は涼太を突き飛ばし、カバンの中からノートを持ち出す。
「じゃあ、これ借りたからな!」
その時に由良が現れる
「お前ら!何やってるんだー!」
「いつもなら丸夫はビビッてげんこつをされたあと素直にノートを返すだろう。しかし――」
「おっと!やめろよ。俺が宿題できないのはいっつもザコ由良のよわよわまんこを鍛えたやってるからだぞ?」
ふとしも乗っかる。
「そうだそうだ!ザコ由良、ザコまんこのせいで全然時間ないわ――」
「返してもいいけど、そうしたら修行できる時間、なくなっちゃうかもなー」
「さて――、どうする?」
由良の頭の中で恐ろしいほど明確にその映像が再生される。
「・・・・・・えっと――」
涼太は聞くまでもないと、いった風に由良の言葉を遮る。
「どうせ、『私も悪かったから宿題みせてあげて』とか『ごめんね、涼ちゃん。今回だけは見せてあげて』とでも言うんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・」
由良は黙らざるを得なかった。見え透いた上辺だけの言葉を並べようと一瞬考えたがおそらく自分が発する言葉は涼太のものだっただろうと分かってしまう。
「・・・分かっただろ?だからお前の助けは期待できない」
由良は途端に居心地の悪さを感じた。
「・・・っとそうだ!由良の母さんからセックスのことについて何か聞いたか?」
涼太は唐突に切り出す。突然の名前呼び捨てに少しドキッとするが今の涼太は前とは別人だと結論付けて、ひとまず深く考えずに認識を改めた。
「えっと、大人の男と女がするってくらい?」
「は・・・?」
その瞬間、涼太の思考が停止する。そして一つの結論にたどり着いた。
「(娘の性教育放棄しやがったぁあああああああああああああああ!?)」
涼太は思いっきり頭を掻きむしる。
「(いや、確かにあの衝撃の話からすぐに性教育は無理だろうし、たぶん後日やろうとか考えたんだろうけど――)」
涼太はそこで由良を見る。
「(意味も分からず敵でしかないあいつらとヤリまくってる人を相手に、それがどういうことなのか、どういう意味を持つのかっていうのを好きだった人を相手にしないといけないのか・・・)」
そこで涼太は頭を抱える。人格が分かれているとはいえ基本的に旧人格の方は由良が好きだと言う感情自体は残ってるし無視してるとはいえ共有もされている。結果――、自分の感情も含めて全ての事実と現実、感情と向き合わなくてはならない。そこに一切の逃げ場はない。
「(どんな拷問だよ・・・)」
胃にコンクリートブロックでも乗ったんじゃないかというほどかつてない重さを感じた。
「(・・・・・・やるしかない)」
自分の生み出された意味を新人格の涼太は良く知っている。
「(俺がやらなきゃ・・・誰がこいつを救ってやれるんだ・・・)」
絶望の淵で立てなくなった、涼太の周りには誰もいない。
「(―――やってやる!!)」
改めて覚悟を決めると涼太は由良を改めて見据えた。
「そもそもセックスって何だと思う?」
涼太は由良に問う。
「えっと・・・気持ちよくなる――ゲーム?」
「(こいつこれまでの、セックスで何の違和感も覚えなかったのか?)」
涼太は頭が重くなるのを感じた。
「セックスっていうのは――子供を作ることだ」
「え・・・」
涼太は思考すると精神が異常なほど摩耗すると考え、淡々と知識を説明することにした。
「ほら、お腹の奥のところに、白いやつ――精液が入ることで子供の元になるものが出来る」
その言葉に由良は思い当たる節があるのか丁度子宮の当たりに手を添える。
「えっと・・・じゃあ子供を作る以外はやっちゃいけないことなの?」
「いや――」
そう、ここで発狂ポイントが訪れる。この説明をすると言うことはセックスには子供づくり以外の目的ですることもあると言わなければならない。そしてそれは同時に――
「(―――丸夫達とのセックスも年齢以外は問題ないとはっきり認めてしまうことになる)」
「一応、由良が気持ち良いと感じたように、愛情表現の方法としてすることもある。その時はコンドームと言って薄いゴムをチンコにかぶせてお腹の奥に精液が入らないようにする」
そこで涼太は由良を一瞥する。腕を組んで難しい顔をしている。不安だった考えには至ってないようだと結論付けた。
「それで確認したいんだけど――」
ここで発狂ポイントがまた訪れる。事実確認だ。
「なに?」
「由良ってさぁ丸夫たちのこと好き?」
冷静な口調とは裏腹に心臓の鼓動はとてつもなく速い。
「えー、流石に好きではないかな――」
「じゃあ次、丸夫達との子供が欲しい?」
「それは嫌」
「結婚は?」
「嫌かな」
「なるほど」
とりあえず薬物中毒者よろしく快感に溺れて抜け出せなくなってるだけで「最後の一線」は守られていたことに涼太は安堵する。その瞬間――
「あれ?っていうことはセックスって子供が出来ないようにすれば問題ない?」
「――――――――――――――――」
その言葉を聞いた途端、涼太の理性は吹き飛んだ。
「お前ってさ・・・」
唐突に涼太の声色が変わった。その変化に由良は恐怖を覚える。
「涼ちゃん?どうしたの?怖いよ?」
由良が珍しく覚えた表情をしている。勝ち気で男勝りな由良が恐怖を感じることなどめったに見ない。
「本当に”穴”だな」
「穴・・・?」
「そう、男を気持ちよくするだけの、ただの”穴”」
「え・・・」
「丸夫達もお前のことはただの気持ちよくなる道具にしか見てない、人以下」
「な、なんてこと――」
「違うか?」
「―――――!」
由良の頭の中でその表現に合致する場面が数えきれないほど再生される。
「セックスってさぁ、子供を作る行為だよ?貴方との遺伝子を後世に残すためにする行為。分かってる?」
「で、でも――」
「快感のための行為としてみても、一般的には恋人同士ですることなんだよ!例外はあれど一般的な認識はそう」
呼吸を整え、続ける。
「愛し合った二人が子供を作るための行為を行う。これがセックスの認識、ゴムを付ける――妊娠しないように避妊することだって相手のためを思ってすることなんだよ!」
目元から涙が出てくる。
「妊娠して辛いのは女の人――相手の男が妊娠した子供をいらないと思ったら――その子供は殺される。それが子供を堕ろすってこと」
由良の中で認識のズレが修正され知識の吸収が行われていく。
「
由良の顔が青くなっていく。
「分かった?セックスってどういうことか?」
「わ・・・分かった―――」
由良は誰が見ても分かるように顔を下げ、沈んでいる。
「(足りねぇ・・・)」
その姿を見た涼太は――
「(こいつはまだ認識が甘い――)」
あるいは防衛本能が認識を妨げているのか――
涼太は歪んだ笑みを浮かべてそっと声をかけた――まるで本物の涼太のように
「お姉ちゃん―――」
「・・・?涼ちゃん・・・」
「僕に
次がラストブロックです。
結果あんまり明るくはならなかったかな?
ありがとうございました。
次もよろしくお願いします!