「僕に
涼太の言葉に、由良はようやく内包された意味を察した。
「い、いや――」
涼太は続ける。
「何だっけ?おちんぽでおまんこ鍛えてください――だっけ?」
「精液をまんこの中で出されたら負け、出したら勝ち・・・意味わからないよね?」
「まぁ、あいつらのための『穴』だから関係ないか」
「やめて・・・」
由良は震える声でつぶやく
「子供出来てたら、あいつらの誰が『親』になるんだろうね?お姉ちゃん?」
「やめて――」
「お姉ちゃんはあいつらと結婚するんでしょ?あ、穴だからあいつらのチンコと結婚するのか――」
「やめて!!」
由良がひときわ大きな声を出す。
「涼ちゃんの声で・・・涼ちゃんの顔で・・・これ以上―――」
「あたしに酷いこと言わないで!!」
由良はボロボロと涙をこぼし始めた。すると
「お姉ちゃん」
さっきまでとは違う
「・・・涼ちゃん?」
「――――僕も・・・同じ事を・・・思ってたよ・・・」
そこにいたのは大粒の涙をこぼしている「あの頃のままの涼太」がいた。
「僕はお姉ちゃんが好きだ・・・優しくて、頼りになって、いつも一緒にいてくれて、この世でお姉ちゃん以上に綺麗な人を見たことないし将来は絶対に結婚しようと思ってた」
由良は俯きながら静かに聞いている。
「あいつらにいじめられても、僕にはお姉ちゃんがいたから頑張れた!お姉ちゃんがいたからあいつらがきてもちゃんと言い返した。いつも最後はお姉ちゃんに助けてもらってたけど」
そこには懐かしい空気が慣れていた。
「お姉ちゃんとゲームする日は楽しみだった。お母さんにお姉ちゃんの家に行ってくるって朝から部屋に上がって、二人で格闘ゲームとかレースのゲームとかスポーツのゲームとかいろいろやったよね」
「うん・・・」
「でもお姉ちゃん部屋だと薄着だから、ちょっとドキドキしてた」
「あ・・・はは・・・そうだったんだ・・・」
由良も心なしか笑顔が出てきた。
「一緒に公園行ったり、運動したり、買い物行ってお菓子買ってもらったり・・・」
「うん・・・うん・・・」
「僕が疲れたっていうとすぐにそばに寄り添ってくれたよね?『大丈夫?』って声掛けて」
「・・・そうだったね」
「僕が疲れて寝ちゃったときもおんぶしてもらった」
「あはは・・・あったね・・・もうこんなに大きくなったんだって思ったなー」
「お姉ちゃん覚えてる?体育祭のこと」
そう言うと涼太は机の上で倒れている写真立てからその写真を取り出す。
「これ―――」
「そうお姉ちゃんが優勝した後に撮った写真」
「・・・懐かしいな」
「あの時、お姉ちゃんがしてくれたこと・・・覚えてる?」
「――?あたし何かした?」
「チューしてくれたんだよ?僕に」
「え!?うそぉ」
「本当だよ?お姉ちゃんが優勝の余韻で上機嫌になってて」
「お!涼ちゃん!応援ありがとーう!すっごい声聞こえてたよ」
「そう!良かった!」
「お姉ちゃんからお礼しちゃおっかなー」
「ええ?」
「んー?そうだチューしてあげる!」
「いいっていいって、ほら!チュー」
「僕もお姉ちゃんもチューが良く分かってなかったからタコみたいな口でしちゃったけど―――あれが僕の初めてのチューだった」
「・・・そういえば、やってたね」
由良は少し照れ笑いを浮かべる。
「僕はお姉ちゃんが大好き・・・優しくて・・・頼りになって・・・綺麗で・・・カッコよくて・・・」
「涼ちゃん・・・」
「ずっと楽しかった・・・幸せだった・・・こんな日が続くと・・・思ってた」
「・・・」
「いつからか・・・お姉ちゃんは丸夫たちと遊ぶようになってた・・・僕との約束も・・・破った」
「・・・」
「そして――物置で見てたら――お姉ちゃんと――丸夫達が――うっ!?」
その瞬間強烈な吐き気が涼太を襲う。すぐに袋を取り出して被さるようにして胃の中のものを出す。
「(お姉ちゃんに・・・こんな姿・・・見られたくない)」
その思いが故に袋が視界を奪い――禁忌を回避できなかった。
「大丈夫!?涼ちゃん!?」
由良は咄嗟に涼太の背中に手を添えた。
―――それは必然的行動だった。今まで病弱な涼太が咳き込むことは少なからずあり、その度に背中をさすっていた。
「―――――――――――――――――――――――――――」
そう、それはごく当たり前の行動だった、あの日までは―――
「―――触るな!!!!!」
涼太は急いで振り払って距離を取った。
「触るなって・・・言っただろ!!」
その怒声と共に涼太は目を閉じる。
「(・・・流石にダメか)」
涼太は旧人格の様子を覗いて静かにそう結論付けた。
「・・・な、なにが・・・」
「一番・・・やってはダメだった・・・あの時は・・・」
由良の言葉は聞こえていない。涼太は悲しい表情を浮かべて体育座りをしている。
「由良」
「な、なに・・・?」
「アイツの気持ち――伝わったか?」
その言葉に改めて先程の空気を思い出す。
「うん――すっごく・・・伝わった」
「そうか・・・ならよかった」
「あの――」
「ん?」
珍しく由良から話しかけてきた。
「涼ちゃんとは・・・もう話せないの?」
その言葉に涼太は顔を伏せると
「話せないことはない・・・だが――覚悟はあるか?」
「・・・え?覚悟・・・?」
そこで一瞬の間が生まれる。
「いや――、それならやめた方がいい」
そして、涼太はカーテンを開ける。隣に見えるのは由良の自宅だ。
「引っ越し――しなくてもいいぞ?」
「?」
「もうすべては終わった・・・」
そして一息入れると
「今日はもう帰って」
由良はその言葉におとなしく従った。
外へ出ると由良と涼太がまた迎えあう形になる。
「由良――」
「・・・なに?」
「今回の件、基本的に由良は悪くないよ」
「どういうこと?」
「由良はパートナーを自由に選ぶ権利がある。それがたまたま涼太の因縁のある相手であってそれに対して涼太は傷ついた――ただ、それだけの話だ」
「・・・そんな言い方―――」
「それが事実だ。仮に由良に同い年の彼氏が出来ていたとしてもやはり涼太は寂しい思いをしただろう・・・」
「じゃあ、あたしは―――」
「自由にしていい、もう大事な知識は得たわけだから、自分なりにちゃんと考えて行動してくれればもう何も言わないよ。まぁ――パートナーの年齢だけは気を付けな」
「・・・」
「じゃあな――」
そう言って涼太は踵を返す。由良も涼太に背を向けて自宅へ戻ろうとすると―――
「あ、お姉ちゃんだ!」
また、あの懐かしい声が聞こえた。
「・・・涼ちゃん」
「今日いっぱいゲームして楽しかったね!」
そこには満面の笑みを浮かべた涼太がいる。
「――?涼ちゃん?」
「はーい!今行くよー!」
何の音もないなか涼太が返事をする。
「ごめん!お姉ちゃん!お母さんに呼ばれちゃった!晩御飯だって!」
「(あぁ・・・)」
「明日学校だよね!朝迎えに行くからちゃんと準備しててね!」
「(そういうことなんだ・・・)」
「お姉ちゃん!また明日ー!」
無邪気にぶんぶんと手を振って涼太が家の中へ入っていく。由良は呆然としながらその光景を見送った。すると――
「――!」
また扉が開かれ、涼太がじっと由良を見た。その瞳暗く、まるで語りかけるようだった。
「(涼 太 を 殺 し た の は お 前 だ)」
「あ・・・あぁ・・・あたしが・・・涼ちゃんを――」
なぜ気が付かなかった。あんなにも慕ってくれている子がいたことを
なぜ気が付かなかった。自分自身もまた、その存在に救われていたことを
なぜ気が付かなかった。涼太をが本当に欲しかったものを――
「ごめんね・・・涼ちゃん・・・」
由良は引っ越す決意をした。それは弱くとても身勝手な理由――
「(あたしには・・・覚悟がなかった・・・)」
由良は自宅へと歩き始めた。その日、由良の部屋から鼻のすする音、嗚咽、そして涙を拭く音が止むことはなかった。
次の話が区切りとなります。
涼太に何が起こったのかを書こうと思ったのですが
説明的過ぎるかなっと思って省きました。
ただ、持病で咳き込むことが多かった涼太にとって
由良が背中をさする、という行為がどういう意味を持っていたのか
それが、今回どの場面で行われたか
これが重要です。
ありがとうございました。
次もよろしくお願いします!