1
窓から差し込む朝の光で目を覚ました俺は、予定も無い今日一日をどう過ごそうかと、布団の上でぼんやりと天井を眺め考えていた。
あっ、そうだ!
思い浮かべたのは、昨年うまい汁を味わったところに出かけ、あの家はどうなっているだろうか?
そして、あのアンティーク雑貨店を兼ねたカフェはどうなっているだろうか?
と、いう思いだった。
妙なところで気ぜわしい性格の俺は、思いつくと居ても立ってもおられず、朝飯も食わずにアパート代わりにしている簡易宿泊所を出て、小倉駅から博多までの新幹線に乗った。
博多駅から在来線に乗り換え南福岡に着くと、路線バスのバス停に向かい発車時刻を確め余裕があり近くの喫茶店に入りモーニングをオーダーし口にした。
路線バスに乗り込み小倉のバス停で降り住宅街を歩いた。
(あ、あった)
目的であったアンティークの店は容易に見つけられた。
扉を開け、1階のフロアに陳列されているアンティークには目を止めることはない。
スルーし2階へ階段を上がれば、スカートにブラウス姿のママが相変わらず一人でカウンターの中にいた。
「いらっしゃい」
と、板張りの床を踏む足音で気づき顔を上げた。
「久しぶりですね」
「あ~」
と、俺なりの挨拶を返し窓際のボックスに腰を下ろした。
この席からは美味しい出来事にあった家が眼下に覗ける。
「ちょっと待ってくださいね」
言い、ママが携帯で話をしているときに俺は気づくべきだったのだが、そのときは思いがそこには至っていなかった。
「今日はゆっくり出来るのでしょう?」
頼んでいたコーヒーをテーブルの上に置いた。
「お客さん、そこから見える家の人ですね。昨年、事件に遭われてから急に家族の仲が異常なくらい良くなったんですよ」
いつもは、客の相手などしないママが今日に限って饒舌だった。
引き止めるための会話とは気づかず、調子よく話に乗っていたときに店内に、背広を着た数人の男たちが入ってきたのだった。
周りをその背広姿の数人に、逃げ場が無いように囲まれた。
しまった!
と、俺は後悔したがそのときはすでに遅かった。
「・・・・・・だな?」
名を呼ばれたときは素直に肯くしかない。
「任意同行をお願いします」
促されるようにして店内を歩いているときにママの顔を見た。
幾分かの侘びの表情をしているような姿に見えた。
(後悔するくらいなら、警察に連絡をするなよ!)
と、言いたかった。
アンティーク雑貨店を兼ねたカフェを出ると、一台の車が停まっていた。
運転手の男がチラッと、俺を確めるように顔を向けた。
路駐していた車は覆面パトカーだったのだ。
(あ~あ、やっぱり来なければよかったなぁ)
両脇を刑事に挟まれたパトカーの中。
座る後部席のシートで、これから先の行く末を考えながら、今朝のことも同時に思い出していたのだった。
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2
「着いたぞ。降りれっ」
後部ドアが開けられ警察署の裏門から署内に連れられた。
任意だからと言い、雑談を交えた調べが続いた。
「任意だったら帰ってもいいですか?」
「もうしばらく付き合ってください」
「・・・・・・。・・・・・・」
「・・・・・・。・・・・・・」
無用な雑談が続く。
「入ります」
眼鏡をかけた一人の男が入ってきた。
「後藤さんですね」
姓名を尋ねられてもいないのに、目の前に出された白い紙とステンレスの手錠。
「住居侵入・窃盗の疑いで逮捕します」
予期していたことなので慌てることはない。
通常逮捕され簡単な調べの後、留置場に連れて行かれ、身体検査を終えると、いよいよ単独留置房に入れられた。
薄暗い無機質な天井を眺め、ありもしない結果を夢見る。
(あ~。このまま釈放されないかなぁ)
一日目が過ぎ二日目の朝、眼が覚めまた思う。
(48時間拘留で釈放されないかなぁ)
犯罪者は常に己にとって得なことしか考えないものである。
法律にのっとり、48時間以内に検察所に身柄送検と簡単な留置裁判を受け、そのまま留置手続きが取られ、再び警察官の取り調べが行われる。
調書
「○○○調べだから出なさい」
留置官が姓名の替わりに番号で呼ばれる。
被疑者は房外に出て簡単な身体検査が行われ、留置場外で待っている取調べ刑事に身柄が引き渡される。
被疑者に署内の配置が分からないように連れ回される。
刑事課の取調室に入れられ、用意されている椅子に手錠を結びつけ逃げられないようにする。
手錠の紐は被疑者の腰に括られているので逃走はできない。
「私は○○だ。これから後藤さんの担当になったので宜しく」
刑事から簡単な挨拶があり調べに入るが、刑事の誰もが調書を取れるわけではない。
司法警察官に限り許される職務で、一般におまわりさんと言われている人に権限は無く、取調べという行為は許されない。
二畳半ぐらいの狭い部屋に刑事と向かい合って椅子に座り、まず氏名、住所、生年月日、そして職業を尋ねられる。
窃盗をするぐらいだから定職などあろうはずもないのだが、時々サラリーマンをしながら副業として、まぁ~どちらが副業かわからない御仁がたまにはいる。
今は取り調べ時にコーヒー、軽食、タバコはない。
昔は、調べをスムーズに運ぶために一種の機嫌取りなのか?
刑事が自費で、甘いものが好きな奴にはスィーツなどを買って、内緒で食べさせてくれたもんだ。
「後藤さん、まずどうして入ったんだね」
動機を訊ねられ、ここは正直に言うしかない。
金がなくブラブラしていると、あのアンティークのカフェを見つけ、窓が見える席に偶然座ったら眼下に絶好の家があったからだった。
「絶好とは、侵入するには好都合な家を見つけたと言うことか?」
「はい、そうです」
実際 ブロック塀に囲まれ丁寧に敷地内には高い樹木が植えられ人目につくことはなかった。
「で、入ってどうしたのだな?」
敷地に侵入し家の裏手に回ると窓が開けらられた部屋があり、開け放たれた窓はレースのカーテンが風にたなびいていた。
カーテンを斜めに開け中を覗くと学生らしい部屋だった。
(あぁ子供部屋なのだな)
窓の枠に手をかければ簡単に侵入することができた。
つづく