「ねえ、お兄さん……『バーチャル降霊術』って知ってる?」
薄暗いルーム内。照らすのは手元の燭台に刺さった数本の蠟燭の灯のみ。
俺の眼前に座る「ましろ」。VTuber・ましろに酷似した少年──とりあえずは成人しているらしいのだが──は薄い笑みを浮かべつつそう言った。
「降霊って……このネットワークの中に幽霊が居るってのか?」
「いるよ、いる」
半信半疑の俺の反応に「分かってないなあ。これだから素人は」とでも言いたげな態度でましろは頷いた。
これが同年代や年上の男性だったなら腹が立つだけだが、黒をベースにした衣服に鮮やかな赤いマフラーといった出で立ちの、少女と見紛う少年がそんな風に鼻を高くするのは逆に伸び盛りの可愛さというのを感じさせる。
「たまにニュースであるでしょ? VRダイブ中に何らかの事故で肉体が死んでしまったって話。確かにあれは現実では『死』な訳だけど、ではその時にバーチャル空間に残されたその人は、データ化されたその人の精神はどうなるのか?」
「そりゃ、まあ……脳死して脳波が出なくなったら消えるんじゃないか?」
「当然、ほとんどはそうなるね。でも……
蝋燭の灯のゆらぎと共に小柄なましろの大きな影がゆらりと揺れる。雰囲気づくりだろうか、声を落としてましろは言葉を続ける。
「そうだなあ……例えばお兄さんがゲームを、まあ、何でもいいけどプレイしていたとして、そのプレイ中にいきなり死んだとする」
「……酷い例えだなオイ」
「ははっ、まあそう言わずに想像してみて。お兄さんが死んでコントローラーが床に落ちても、電源が入ったままのゲーム機は動いたままだしモニターの中の主人公……お兄さんの『分身』は死んでないよね? オートモードありのゲームなら動いたままかもしれない。そういう状態になった、肉体を失った『分身』が生前の精神を残したままネットワーク上を彷徨っている……なんて言われてる」
「まあ……あるかもな」
おどろおどろしい話の内容とは裏腹に、ましろは何とも楽しそうに語る。オカルト好きなのだろうか。
何とも胡散臭い話であったが、俺自身も過去に似たような経験をしたような記憶がうっすらと有る。俺は曖昧に頷きましろに聞いた。
「で、そのバーチャル降霊術がどうしたんだ?」
その問いかけに、ましろはニヤリと笑った。
「やってみない? ここで」
俺とましろが何故こんなオカルト話に花を咲かせているかと言うと、今日の彼との研修が
「ごめん、お兄さん。場を作ってもらって悪いんだけど……今日の研修、『僕はダメだった』って事にしてくれないかな?」
薄暗い和風の寝室を思わせるルーム。そこで俺と対面したましろは出会い頭にそう言って手を合わせてきた。
「ダメだった?」
「いや、ここの支配人のジョーさんには色々とお世話になってるからさあ、一応は頼まれはしたんだけど……僕、
いわゆる「ノンケ」という奴か。しかしそれならば、わざわざ研修に来なくても最初から断れば良いはずだが──
俺がそう尋ねると、ましろは「えへへ」と擬音が出そうな照れ笑いで答えた。
「だってほら、最初からNOを叩きつけるのと、とりあえず研修を受けた形にして『ちょっと厳しいです』ってなるのとじゃ印象が違うじゃない。お兄さんなら僕よりそういう『人間関係の機微』ってのが分かるんじゃない? だからさ、お願い!」
なるほど、体面として話を受けるだけ受けたふりをしたという事か。
「……分かったよ。じゃあ今日の研修は無しにするか」
とはいえ、俺は俺で彼を強引に研修させる訳にもいかない。以前の緑仙の場合は俺を誘う目的で研修を流そうとしたが、ましろの場合は本人にその気が無いのだ。ここで無理矢理に犯しなどすればバーチャル上でも準強姦罪が適用されてしまう。俺は軽く息をつき、ましろに言った。
「それで、どうする? もう事務所に戻るか?」
「それだと何もやってないってのがジョーさんに丸わかりじゃない。ちょっと時間を潰そうよ。僕、色々と面白い話を持ってるからさ」
「面白い話?」
「うん。怪談とかのオカルト話、興味ない?」
肩を揺らしつつ俺を見上げて言ってくるましろ。何だか彼の方が話をしたいように見える。俺は腰を落とし、敷かれていた座布団に座った。
「まあ……そう言うなら聞かせて貰うか」
「へへっ、本当に怖い話だから気をつけてね。それじゃあ……ほっ」
俺の前に座ったましろは手を翳して幾つか燭台を現出させて部屋の照明を消した。バーチャルとは思えないリアルな蝋燭の灯が揺れ、俺とましろの顔を下から照らす。
「こういうのは雰囲気が必要だからね。それじゃ、まずはね、これは5年くらい前に僕の近所であった事なんだけど……」
そんな感じで始まったましろの怪談だが、確かにその語りは堂に入ったものだった。ただ全体をボソボソと喋るだけでなく強弱や緩急を巧みに使い、聞き手がそのシチュエーションを想像できるように引き込んでゆく。怪談というのは相手が一歩引いた立場のままでは怖さは半減してしまう。俺も多少は怪談師の語りなどを聞いた事があったが、それと遜色ない怖さだった。
「……だ、そうだよ。どう、今の話?」
「ちょっと……冷えたな」
「ふふっ、いい反応をしてくれるねお兄さん」
俺の感想にましろは嬉しそうに笑い、次の話を始める。
それらの怪談を数話ほど語り、そこで彼は薄い笑いを浮かべて言った。
「ねえ、お兄さん……『バーチャル降霊術』って知ってる?」
──そして、現在に至る。
「……こんなので良いのか?」
ましろが用意した「降霊術の儀式の道具」を見て、俺は腕を組み小首を傾げた。
「難しい魔法陣とかマジックアイテムが必要って訳じゃないよ。要は霊が来やすい環境を作るワケ。ほいほい……っと」
粗末なちゃぶ台の上に「供え物」を置きつつましろが言う。
日本酒の一升瓶、皿に小さく盛られた米、五十音と数字や記号が書かれた紙、そして──小さな熊のぬいぐるみ。
勿論これらは全てVR空間のツールであり、本来ならもっと豪華な供え物を用意する事もできる。しかしましろは意図的に安っぽい物を現出させ、それを揃えてゆく。
「あんまり豪華なのだと逆に来なくなるんだ。派手派手なネオンを飾って『どうぞお越し下さい!』って大声でアピールしてる場所って、逆に足を向けづらいじゃない? むしろ静かな構えで『お気軽にお入りください』って札が掛けられてるだけの方が来てくれたりする」
そんな事を言っている内に準備は整ったようだ。ちゃぶ台の前に敷き直した座布団にましろが座ったので、俺もその横で正座する。
「それで、ここからは?」
「こっくりさんとかに近いかな。手を合わせて、静かに『お越しください』と唱えるの」
「なんとかさん、みたいに名前は呼ばないのか」
「現実ならそっちのが来やすいんだけどね、
VR空間にはVR空間なりのやり方があるという事か。
正直なところまだ「ネットワーク上の幽霊」については半信半疑だったが、仮に何も起きなかったとしても話のタネにはなるだろう。そんな事を考えながら、俺はましろの様子を伺いつつ手を合わせた。
「大声は出さないでね、幽霊がびっくりしちゃうから……お越しください……お越しください……お越しください……」
「えー……お越しください……お越しください……お越しください……」
──予想はしていたが、何も起こらない。
「お越しください……なあ、ましろ。これは何時まで続ければいいんだ?」
「焦っちゃダメだよ。電話みたいなもんで、今は受話器を鳴らしてる段階だから……お越しください……」
詠唱を中断して小声で尋ねる俺に、やはり小声でましろが答える。
つまり、相手が此方の電話に出るか、あるいはこっちが根負けして電話を切るかまで続くという事か。これはなかなかに面倒になりそうだ。
「お越しください……お越しください……」
澄んだ声でましろは唱え続ける。研修のキャンセルの件といいノリの軽い所が散見されるが、祈るように静かに手を合わせて呟く様子は真剣そのものだ。だとすれば俺もいい加減な態度でやる訳にはいくまい。再び合掌し、ましろの声に合わせて唱える。
「お越しください……お越しください……」
更に数分、俺達の声だけがルームには流れる。しかしやはり何も──
「……?」
ぴしり、と何かが軋むような音がした。
「お越しくだ……来たね」
唱えるのを止め、ましろは顔を上げた。その視線は卓上のお供え物へと注がれている。
「お、おい、本当に来たのか?」
「しっ……多分、来てると思う」
動揺を見せる俺にましろは冷静な声で答える。
軋むような音はもう二回鳴り、続けてちゃぶ台がカタリと揺れた。
「うおっ……!?」
「っ!」
供えられていた一升瓶の口にヒビが入り、砕け散る。中に詰まっていたVR日本酒は、明らかに内容量を減らしていた。
現実でいう所のポルターガイスト現象という奴だろうか。何とも不気味な状況を眼前に、俺はましろに聞いた。
「なるほど、本当に居たって訳か……信じるよましろ。で、これからどうすればいいんだ?」
「………」
ましろは答えない。幽霊は今度は米に向かったのか、盛られていた米が霧散するように減ってゆく。
「ましろ?」
「……ごめん、お兄さん。ちょっと
そう呟くましろの表情は硬く、狭い額には汗が滲んでいる。今までの態度とは異なる、本気の焦り。
「ヤバいって、どういう事だ?」
「このお客さん、かなり
つまり、ましろ自身も予想していなかった強力な幽霊を呼び込んでしまったという事か。案内人だったましろの突然の不安な言葉に俺は言った。
「おいおい、今更そりゃねえだろ……どうすりゃいいんだ!?」
「落ち着いて、お兄さん。下手に抵抗すると何が起きるか分からない。ここは相手の要望を満たして、穏便に帰って頂くのが最良……だと思う」
場慣れしているからか、焦りを見せつつもましろは俺程には動揺していなかった。俺を手で制しつつ、卓上の変化を更に見つめる。
どうやら「お客さん」は飲み食いには満足したようだった。酒と米の減少は治まり、室内には湿り気を帯びた静けさが漂う。
「おおっ……!?」
ひょっとしたら帰ったのか、そう俺が尋ねようとした時に次の変化は起こった。卓上のクマのぬいぐるみの手がピクリと動いたかと思えば身を起こしたのだ。
「……ここからはお帰りいただけるよう、僕が交渉する。怒らせないように、お兄さんも気をつけて」
息を飲む気配。ましろはすぅ、と呼吸を整えるとぬいぐるみの前に膝をついた。
「お越しいただきありがとうございます。まずは貴方様のお名前を、お教えください」
「………」
クマは無言で──まあ、当然だが──五十音表の上に乗ると、そこに書かれた仮名を足で示し始めた。何とも信じ難いが、この幽霊は少なくとも人間と交渉できる程度の意識と知能を持っているらしい。
「ありがとうございます。女性の方なのですね。お年は……聞くのは、失礼ですよね。え? 教えていい? では……」
口調こそ静かに落ち着いているが、ましろの表情には緊張が浮かんでいる。彼自身にとっても未知の事態なのだから当然だろう。
「……それではお客様。僕に何か、して差し上げられる事はございませんか?」
いよいよ本題だ。話を切り出したましろに対してクマはまた五十音表の上に足を運ばせようとして──ふと、その足を止めた。
「え……? 」
「………」
クマは急に向きを変え、ましろに顔を寄せた。まるで彼を値踏みするかのようにボタン製の黒い瞳が見つめる。
「お、おきゃ……うわっ!?」
次の瞬間、ぬいぐるみの足が卓を蹴った。ふわりと宙を舞ったクマは呆然とするましろの顔に組み付いたかと思えば、そのまま密着する。
「お、おい!?」
流石にこれは見守ってはいられない。俺は咄嗟にましろに寄るとぬいぐるみを掴み、それを引き剥がした。抵抗があるかと思っていたそれはあっさりと外れ、普通のぬいぐるみに戻ったように無抵抗に畳に転がる。
「んく、あ、ああぁっ!」
「ましろ、大丈夫かおい!?」
「ちがっ、僕、違うっ……くうっ!」
とりあえずましろに外傷は無かった。だが苦悶の呻きとともにうわ言めいた声を漏らしている。意識を戻そうと、俺はVRダイブ時の非常マニュアルを思い出しつつましろの名を呼んだ。
「ましろ、ましろ! 聞こえるか、おい!?」
「あぐ、あ、あぁ……聞こ、えてる……あんまり、大丈夫じゃ、ないけど……」
俺の声にましろは弱々しいながらも反応を示し、目を開けた。体温が急激に上がっているのか、彼を抱きかかえる手がやけに熱い。潤んだ瞳でましろは俺に言った。
「ごめ、お兄さん……ちょっとズボン、脱がせて……熱いっ……!」
「あ、ああ、分かった!」
まだ状況は把握できていなかったが、まずは彼の容態を落ち着かせるのが最優先だ。もともと研修用に敷かれていた布団にましろを寝かせる。
「脱がす手間が惜しい。このまま消すぞ……って、うおっ!?」
「んっ、ふぅ……」
下半身を開放されたましろが吐息を漏らす。しかしそんな様子とは裏腹に、彼の下半身は大変なことになっていた。
少年と大人の中間点を思わせる、皮を半ば被ったましろの肉棒。それは血管を浮かべるほどに完全に勃起していた。汗ばんだ細い腰は快感を求めるようにびくびくと震え、ピンク色の亀頭からは先走りが滲んでいる。
生命の危機に瀕しての生殖本能か?俺は怒張に目を向けつつましろに尋ねた。
「おい、ましろ。一体何がどうなってんだ!? 幽霊は帰ったのか!?」
「ち、違う……まだ、居る……僕の中に、今っ……!」
「……!?」
俺は床に転がるクマを見た。先程まで意志を持って動いていたそれは完全に只のぬいぐるみに戻っている。顔に張り付いた瞬間にましろに「取り憑いた」という事か。しかしそれとこの体の反応にどんな関係が──
まだ疑問が残ったままの俺にましろは言った。
「色々と、しくじった、みたい……この子、『淫霊』だ」
「淫霊?」
「生前の思い残しで、セックスについて、つよい執着を残した、霊っ……僕を、女の子だと勘違いして、体を奪いに、きたっ……!」
「そりゃ、また……」
彼の言葉に声を失う。確かにましろは明るい下でも黒髪ショートの美少女で通用するくらいに中性的な美少年だ。薄暗い中で幽霊が誤解するのも分からなくはない。
俺が驚く間にもましろは内側から衝撃を受けたように腰を跳ねさせた。
「うあぁっ……この子、僕が男の子だと分かって、パニック、起こしてる……このまま、だとっ……あぁっ!」
ましろの体に、まるでTVのノイズのような模様が浮かび始める。空間と彼の体の境界が曖昧になり、体の感触が不確かになってゆく。
「ましろ! チィッ……!」
落ち着け、落ち着け俺。懸命に自分に言い聞かせつつ、自分の知識の中で可能な対処法を探す。
強制ログアウトは本当に最後の手段だ。ひとつのアバターに二つの意識が混在した状態で無理矢理に引き剥がせば、「ましろでない方」が肉体を乗っ取りかねない。
ましろは「この子がパニックを起こしてる」と言っていた。セックスしたさで憑依した相手が男で混乱してるという訳だ。ならば、俺にできる事は──
「……仕方ねえ。ましろ、ちょっと身体を起こすぞ」
「えっ……?」
俺は彼の見た目以上に軽い身体を抱き起こした。熱に浮かされたような潤んだ瞳がこちらを見上げている。
「んっ……」
「ンンッ!?」
顔を近づけ、ましろの薄い唇に自身の唇を押し当てる。完全に予想外の行動だったのかましろは驚きと緊張で身を捩ったが、彼の肩を強く抱き寄せて抵抗を封じる。
「ちゅ、ちゅうぅ、スズっ……」
「んはっ、なっ、お兄、さんっ、んむぅ……!?」
戸惑うましろの細い舌を吸い上げ、自身の舌で愛撫する。流れ込んでくる彼の吐息は驚く程に甘く、熱い。
同時に俺はましろのシャツを消し、彼の胸に触れる。成人しているとは思えない薄い胸板を優しく撫で、肌色とほぼ変わらない乳首を柔らかく摘む。
「あうっ! あ、はあっ……!」
「じゅる、んっ、ふうっ……」
時折息継ぎをしつつ、更にましろの唇を貪る。
たっぷり数分間はキスをしたのではないだろうか。ようやく俺がましろを解放すると、腕の中で彼は戸惑いと怯えが入り交じった顔で俺を見た。
「な、何を……僕、そっちの気は無いって……」
「……少しはマシになったか?」
「えっ……?」
俺の言葉に、ましろは何かに気付いたように自身に触れた。驚きつつ俺に言う。
「少し……楽になった。意識もさっきより、はっきりしてる」
「……良かった」
安堵の吐息とともに俺は言った。勘頼りな当てずっぽうの行動だったが、どうやら読みが当たってくれたようだ。
「どういうこと? お兄さんの今のと、何か関係してるの?」
一方のましろは俺の行動との関連性が分からないようだった。尋ねてくる彼に、あくまで真剣な顔で答える。
「ましろ、さっき言ってたよな。あんたの中に取り憑いた『彼女』は男の体に入ってパニックを起こしてるって」
「う、うん……」
「って事はよ、彼女が『やっぱりこの子は女だ』と思ってくれた上でセックスすれば、満足して出ていってくれるんじゃないか?」
「それって……?」
「ああ、嫌な思いをさせるかもしれないが……これから俺は、あんたを女として扱ったセックスをする」
──全く、我ながら無茶な理屈にも程がある。こんな口説き文句を平時に言えば鼻で嗤われるだろう。
だが、ましろには俺の言葉が本気だと伝わったようだ。僅かの迷いの後、彼は頷いた。
「……分かった。多分、お兄さんの仮説が正しいと思う。僕が誘って迷惑かけたようなモンだしね……いいよ。僕をこのまま、女として扱って、最後まで……して」
「(うっ……!)」
か細い、少女のような声での懇願にぴくりと俺の股間が反応を示す。存外この子には誘い受けの素質があるのではなかろうか。そんな場違いな考えが頭をよぎる。
とはいえ彼が了承してくれたのなら早いに越したことはない。俺はましろを布団に寝かせると、その上に覆い被さった。
「まあ、その、なんだ。犬に噛まれたとでも思って、少しの間だけ我慢してくれよ?」
「うん……あ、あの、お兄さん。ひとつだけ……いいかな?」
俺を見上げつつましろが言う。俺は聞き返した。
「ああ、なんだ?」
「僕、最初に言った通り、本当に初めてだから……できるだけ、痛くしないで」
「……努力する」
──理性の軋む音がした。
すっかり男にも欲情するようになった己の股間に呆れつつ、俺は自分の服を消した。屹立する肉棒にましろが目を丸くする。
「うわ、そんなに大きいんだ……本当に挿いるの?」
「まあ元々が挿入するようには作られてねえから、多少の準備と慣れはいる。ちょっとうつ伏せになってくれ」
俺の頼みにましろは諾々と従い、ごろりと姿勢を変えて俺に尻を向ける。
つるりとした白く、可愛らしい尻だった。手を伸ばして掴んでみれば脂肪の冷たさと、その奥で疼く確かな熱を感じる。
「広げるぞ、よっ……」
「ちょ、お兄さん、恥ずかしいって……うぐっ!」
「……『彼女』の方はお望みのようだな」
抗議の声をあげようとしたましろが何かに急に殴られたように呻いた。やはり混在している幽霊の意識に反する意思を示そうとすると苦しくなるようだ。
これは急がないとヤバそうだ。俺は右手でましろの尻を広げたまま左手にローションを出現させた。人肌やや熱め程度に温まっているそれを、傾け、ましろの窄まりへと垂らす。
「んひっ! あ、熱いっ……!」
細身の身体がぴくんと震える。肉棒が無ければ本当に少女かと見紛う艶やかな尻がローションに濡れ、蝋燭の灯りに弱く照り光る。
「まずは、これで……」
「あ、あぁ、んっくぅっ!」
綺麗な窄まりだった。ピンク色の皺回りにはシミひとつ無く、身体の熱を排出しようとしているのかヒクヒクと動いている。そこにローションを十分に垂らし、人差し指をゆっくりと挿入させてゆく。
「あ、ふうっ……も、もう、挿いったの?」
「いや、まだ指だ。いくらバーチャルでもいきなり突っ込んだら身体へのフィードバックで痔になったりする。ゆっくり深い呼吸をして、出来るだけ力を抜いてくれ」
「そっ、そんなの無理だってっ……んあぁっ!」
ぬぷり、とましろの尻穴の奥まで指を進めてゆく。同時にローションを足し、彼の腸の奥まで柔らかくなるように解してゆく。
「いっ、弄られて、るっ! 僕の、お尻、奥までっ!」
うつ伏せのままビクビクと反応を示すましろ。俺はふと
「……おー、ビンビンだな」
「え? あっ!? みっ見ないでっ! お兄さん、見ないでって!」
俺の視線がどこに向けられているのかに気付き、ましろは悲鳴めいた声をあげた。
俺に対して尻を突き上げる格好になったましろの股間。彼の肉棒はそこで垂れておらず、腹に当たらん勢いで勃起していた。指で直腸の中から擦ると、それに合わせて気持ち良さそうに竿が跳ねる。
薄暗い中でもはっきりと分かる程に赤面するましろに、俺はあくまで穏やかに語り掛ける。
「落ち着け、ましろ。
「だからって、見られてっ……うあっ!」
指一本なら何とか動かせるようになってきた。俺はましろの尻への指を二本に増やし、緩やかにピストンを開始する。
「まっ待って! お兄さん、待ってっ!」
「『最後までして』って覚悟したんだろ? それにましろ、あんたのチンポ、俺が指を動かす度に凄い跳ねてるぜ? 気持ちいいんじゃないのか?」
「あっああっ!」
少し強めに内壁を擦るとましろは大きく悶えた。しかしその声には嬌声めいた快感の響きがある。これならば多少強引にでもやれそうか。
俺は尻穴から指を抜き、自身の固く勃起した肉棒に手を添えるとましろの尻に竿を押し当てた。
「……!」
「分かるか? これが俺のチンポだ。これを女のあんたのまんこに……それじゃあややこしいか。なあ、ましろ。『彼女』はアナルセックスでもOKなのか?」
「……何も言って来ない。苦しくならないから、たぶん大丈夫だと思う」
「ならケツマンコって事で良さそうだな……いくぜ」
残ったローションを全て肉棒とましろの窄まりにかけ、俺は彼の細い腰を掴んだ。不安と興奮でひくつく尻穴に亀頭を宛がい、ゆっくりと押し広げてゆく。
「んぎっ! かっ、はぅ、ああぁっ!」
「ぐ、ううっ! 締まるっ……!」
十分に濡れそぼりながらもましろの処女孔はそれでも狭かった。ミチミチと痛々しい程に広がった結合部に更に肉棒を埋め込んだゆく。
「えっ!? やっ、嘘っ!? ぼ、僕っ、イっ……あああぁぁっ!」
その瞬間、ましろは全身を大きく震わせた。生臭い匂いが股間から立ち昇り、前に手を回してみれば亀頭から生暖かい汁が溢れている。どうやら挿入だけでイってしまったようだ。
俺は彼の小さな背中に伸し掛かるように身体を被せ、耳元で囁いた。
「ケツマンコに挿れられただけでイクなんて……いやらしいな、ましろは」
「わ、分かんないっ! 僕っ、こんな、初めて、でっ!」
「ああ、本当に初めてだったんだな。凄くきつくて、気持ちいいよ。ましろのケツマンコっ……!」
「ふぁ、あ、いいっ!」
あまり負担はかけさせたくない、俺は腰の動きを細かく、しかし速く擦るようにしてましろの直腸の浅いところを重点的に責める感じにした。何もなければ痛みしか覚えないような締め付けだったが、大量のローションのお陰でその加減は丁度良いものになっている。
「ぐ、く、うおっ!」
「んっひぃっ! こ、怖いっ! 怖いよ、おにい、さんっ! 僕の、尻っ、僕のじゃない、みたいにっ!」
「尻じゃ、ねえっ! ケツマンコ、だっ! お前の尻は、男のチンポを受け止めて、射精させるためのっ、ケツマンコだっ!」、
未知の快感への恐怖と悦び、混乱と動揺。それらが入り混じったましろの声。それを上から服従させるように強い語調で俺は言いつつ腰を突き込む。
「うあぁっ!」
「それに、怖く、ねえっ! 俺がいる、俺が、そばに、居るからっ! 安心して、ケツマンコで、イケっ!」
「お兄さん、がっ、あうっ! そば、にっ!?」
「ああ、いる! ずっと居る! だから、大丈夫、だっ!」
「ああぁっ! わっ、分かった! 僕、イクっ、お兄さんの、チンポでっ、ケツマンコで、イクぅぅっ!」
叫びつつ二度目の絶頂に達するましろ。俺の方も射精を速める動きもあって限界が近づいてきた。
「くうっ! お、俺も、イクぞ、ましろっ! 全部、お前のケツマンコに、出すぞっ!」
「ふひぃっ! だ、出してっ! 僕の、ケツマンコ、にっ! お兄さんの、全部ぅっ!」
「うおぉっ、ましろっ、ましろぉっ!」
どくん、と腰の奥から奔流が溢れる。亀頭から噴き出した精液がましろの腸壁を汚してゆくのが分かる。
「あひっ、ひっ、ああぁぁっ!」
俺と同時に射精し、断末魔めいた声をあげるましろ。何とか彼に体重をかけるのは避けつつ、俺は自身の精液を彼に注ぎきる。
「……お?」
ぴしり、とまた音が鳴った。同時に部屋の瘴気というか──湿っぽい気配が消えた気がする。
俺はましろと繋がったまま視線をちゃぶ台に移した。いつの間にだろうか、床に転がっていたクマは元の位置でちょこんと座っている。どうやら「彼女」は満足して、片づけまでしていってくれたようだ。
「って事は……」
再びましろに視線を戻す。尻穴から精液を溢れさせ、恍惚の吐息を漏らす少年に。
「………」
ふと「ある事」を試してみたくなり、俺は彼の耳元に口を寄せた。
「お疲れ様、ましろ。悪い、途中で詰ったりしたが、ありゃ演出だからな」
「え? あ……うん……」
気怠そうな声。しかしその端々にはどこか残念そうな響きがある。俺は更に尋ねた。
「どうだ?
「……っ!?」
俺の言葉にましろは一瞬ぴくりと硬直し──やがて、口を開いた。
「うん……残ってるみたい。『まだ、したい』って言ってる」
「……そうか、なら、
「ふぁ、あ、あぁんっ!」
小さな嘘に俺は微笑み、挿入したままの肉棒の固さを回復させてゆく。
どうやら支配人には良い報告が出来そうだ。そんな事を思いつつ、俺は大きく腰を引き、再びましろの窄まりを犯し始めた。