※この作品はR-18です。

怪物ではなく女神として   作:若杉優太(テト/teto)

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 ゴルゴ―ンとぐだ男のカップリングです。
 ゴルゴ―ン好きな人集まれ……!


お前だけは私を……

 とある日のノウムカルデア、今日もここは平穏な日常が流れている……とは言えないが、概ね平穏を保っていた。

 

「今日はマシュとアーラシュでレイシフトか……うん、よろしくね!」

 

「おう!」

「はい!」

 

 カルデアの中央管制室に来ていたマスター・藤丸立香は人理を取り戻す為に日夜レイシフトを行い、特異点の解決に全力を尽くしていた。

 三人はトリスメギストスIIに近づくと、一瞬の内に三人はその場から居なくなってしまう。

 誰も居なくなったはずの中央管制室だが、一人だけその様子を覗き見ていた者が居た。

 

「……また、行ってしまったか……」

 

 物陰から悲しげにそう呟くのはメドゥーサ――ではなく、その成れの果てであるゴルゴーンだ。

 怪物として人々から恐れられた異形の存在である彼女だが、今の彼女の背中はどこか寂しそうに見える。

 

「(私を見てくれたのはお前だけなのに……お前は遠くへ行ってしまうのだな……)」

 

 立香が去った後のトリスメギストスIIを意味も無く見つめながら、ゴルゴーンは立香と過ごした記憶を静かに思い出す。

 ――そう、あれは……フィニスカルデアの記憶だったはず。

 

…………

……

…

 

 

「貴様が契約者(マスター)か……?」

「うん!よろしくね、ゴルゴーン……!」

 

 目の前のマスターらしき青年にゴルゴーンが問うと、青年――立香は笑顔でそれに答えた。

 だがゴルゴーンは早速、目の前の契約者(人間)に不快感を示していた。

 

「(少しは骨がある奴かと思って召喚に応じてみれば、こんな軟弱な人間が私を呼び出すとはな……)」

 

 召喚してまだ幾分かの時すら経っていないというのに、早くもゴルゴーンは召喚に応じたのが間違いだったと考え始めていた。

 

「(魔力も凡人並……見た目もまるで子供のよう……つくづく私を失望させてくれるな……)」

 

 とは言え、特異点の記憶を多少は有していたゴルゴーンは自身を打ち倒した人間に興味を抱いている。

 これまで数々の特異点を切り抜けた力をこの目で見たいと多少なりだが思っていた。

 

「カルデアの構造とか設備は複雑だから、僕がゴルゴーンの部屋まで案内するよ」

「ああ、お願いしよう……ふふ……」

 

 親切にゴルゴーンのに部屋を案内しようとする立香だが、その背中を見ていたゴルゴーンの顔は本来の姿を見せたと言っても過言でないぐらいに凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「(もし私が興味を失ったら、真っ先に喰らってやろう……こいつが大切と思う人間の前でな……)」

 

 目の前の立香を喰らう光景を想像しながら、ゴルゴーンは軽く舌なめずりをして目の前の立香の後へ付いて行くのだった……

 

 

 

 

 

 

「頼む――行ってくれ!マシュ!」

「はい!マシュ・キリエライト、突貫します!」

 

 ゴルゴーンがカルデアに来て初めてのレイシフトは森林地帯へのレイシフトだった。

 もちろん最初から手を出すなんてことはしない。

 立香とマシュという小娘がどれだけの実力を持っているのかを見定める為に傍観を決め込む。

 

「(さぁ、この状況をどう切り抜ける……?)」

 

 ゴルゴーンが薄ら笑いを浮かべた先に見ていたのは、複数のゲイザーに囲まれるマシュだった。

 人の目の玉が実体化したかのようなその化物は目から打ち出す光線により攻撃を仕掛ける厄介な敵だ。

 ましてや複数体のゲイザーなどマシュ以外にもう一人はサーヴァントが居ないと対処は不可能と言ってもいい。

 

「はぁ――ッ!」

 

 果敢に盾で攻撃を仕掛けてはいるが、ゲイザーは少し怯むだけで決定的なダメージは明らかに与えられていない様子だ。

 ゲイザー達も攻撃に反応し次々と光線を目から打ち出す。

 全方向から同時に迫る光線、これでチェックメイトだ。

 

「(あまりにもあっけない幕切れだったな……やはり私は召喚に応じるべきでは――ん?)」

 

 不意に立香を見ると、右手を突き出し何かするつもりらしい。

 当然ながらゴルゴーンも、その正体は知っている――令呪だ。

 

「令呪によって命ずる、マシュ・キリエライトに力を!」

 

 立香の右手の刻印が赤く光った瞬間――囲われていたはずのマシュの姿が、消えた。

 

「(何!?一体、どこへ行った……?まさか……上か……!?)」

 

 消えたマシュの行方にすぐ勘付き空を見上げると、高くゲイザーに達よりも高く飛び上がったマシュの姿が目に入った。

 ゲイザー達は自分達が打った光線が相殺しあったせいで出た爆発による煙で周囲を把握しきれていない様子だ。

 光線を上に飛び上がる事で逃れたマシュはゲイザー達から離れた所へと着地した。

 そして、再びゲイザー達の所へ向かい――

 

「てぇえええい――ッ!!」

 

 横殴りに盾を振り回し、一気にゲイザー達を吹き飛ばす。

 当然ながら不意打ちを食らったゲイザー達はその一撃に耐えることができず、樹木に激しくぶつかると消滅していった。

 

「さっきのは危なかったね、僕も無茶させ過ぎた……ごめん」

「そんなことないですよ!先輩!とっさの令呪を使用する判断はお見事でした……!」

 

 戦闘終了と同時にマシュと立香は互いに駆け寄り、労いの言葉を掛け合う。

 

「(なるほど……確かに私を打ち倒す程の人間だ、判断もかなり素早いな……)」

 

 仲良く会話を交わす二人を眺めながら、ゴルゴーンは若干だが立香に対する評価を改めた。

 当初は喰らってやろうとも考えたが、案外この人間は喰らうに惜しいと考えるようになってきている。

 

「(まぁ、もう少しだけ観察しよう……興が乗れば私自ら戦ってやっても構わんがな……)」

 

 結論を出すには早いと考え、とりあえずは興味を持ったという評価に留めた。

 

「いやー、いざとなったらゴルゴーンの手も借りるつもりだったけど、そうならなくて良かった……」

 

 マシュとの会話を終え、立香は顔に疲労感を見せながらゴルゴーンに話しかける。

 

「ふふ……安心しろマスターよ、万が一の場合は”条件付き”で私が助けてやっていた」

「条件付き?」

 

 首を傾げながら顔を見つめる立香にゴルゴーンは意地悪な笑みを浮かべ、答える。

 

「私に仕える”奴隷”となると宣言していたら助けてやっていただろうな……ふふ」

「ど、奴隷かぁ……」

 

 冗談として言ったつもりの言葉なのだが、立香は真に受けたらしく、若干顔を青ざめさせた。

 ――やっぱり、この人間は面白い……

 

「冗談だ、それより早くカルデアに戻るぞ……マスター……」

 

 未だに怯える立香をゴルゴーンはどこか愛おしい目で見ていた。

 もちろん、まだ信頼という面ではなく、玩具(おもちゃ)として……だが。

 

 

 

 

 

 

 初のレイシフトから数ヶ月が経った。

 あれからゴルゴーンは積極的にレイシフトへと同行をするようになった。

 同行を始めた最初の頃はマスターである立香を見定める為だけという目的で同行していたが、徐々にマスターに頼られるということに喜びを覚えている。

 

「よし……っ!ゴルゴーン!後はよろしく頼むね……!」

「任せておけ、マスター……一瞬で、終わらせてやろう……」

 

 ゴツゴツとした岩場に立つマシュ、立香、ゴルゴーン。

 そんな三人の前に立ち塞がるのは巨大な蛇の怪物――ヒュドラだ。

 

『ゴァアアアアアア――ッ!!』

 

 九つの頭を持つ、その化物は周囲の岩場を振動させるほどの声量で三人の敵対者を威嚇する。

 先程まで前線でヒュドラと対峙していたマシュや立香でさえも、その威嚇に思わず息を呑む。

 だが、ゴルゴーンだけは全く動じておらず、むしろヒュドラに笑みさえ返せる程に余裕だ。

 

「私と同じ蛇の怪物と聞いていたが……なんだ、私を怯ませることさえできないのか?」

 

 そんな軽蔑するかのような視線をヒュドラは感じ取ったのか、咆哮を上げながらゴルゴーンを呑み込まんとして突進を仕掛ける。

 しかし、尚もゴルゴーンは軽蔑の目を向け続ける。

 

「全く……怪物なら怪物なりの振る舞いを見せよ……」

 

『ゴァアアア――ッ!!ゴァアアアアアアアア――ッ!!」

 

 怒りのままゴルゴーンを含めた三人を喰らうべく、ヒュドラの九つの頭は一斉にその凶暴な牙を向かわせた。

 

「このような奴に使うのも忍びないが、仕方あるまい……」

 

 ゴルゴーンが一言呟いたかと思うと、突然――その目をヒュドラに向けてカッと見開いた。

 すると、すぐにヒュドラの様子がおかしくなる。

 

『ガ……ッ!?ゴァ……ッ!』

 

 突如として動きを止めたヒュドラは自身の身体が動かない事に錯乱しているのか、戸惑いの声を上げながらその場でもがく。

 だが、すぐにヒュドラは自身の身体に何が起こっているのか理解した。

 

「ふふ、どうだ?体が石になっていく感覚は?今までで体験したことがないだろう……?」

 

『ゴァァ……ッ!?ァアアアア……!』

 

 楽しそうに笑うゴルゴーンを背景にヒュドラの身体は下半身から徐々に石化を始めていた。

 石化の魔眼――ゴルゴーンを怪物たらしめたその魔眼は、ヒュドラ如きでは逃れる術は……無い。

 

『ァアア……ァアアア……』

 

 一瞬でヒュドラを蝕んだ石化の呪いは、あっという間にヒュドラの上半身までもを石化させてしまった。

 もはや見動きも取れないヒュドラは、ただ目の前の”怪物”に怯えるだけだ。

 

「安心しろ、一瞬で殺してやろう……一瞬で――な?」

 

 ゴルゴーンがそんな嗜虐的な笑みを浮かべると、自身の髪に潜む魔の蛇達が一斉に口を開ける。

 紫がかった黒い魔力を蛇達のそれぞれが丸いボールのような形に形成していく。

 そして――

 

「終わりだ……」

 

 ゴルゴーンが指を鳴らすと蛇達が同時にボールのような形に凝縮された魔力から槍のような光線が打ち出される。

 

『ァアアァアア――ッ!!』

 

 最後の足掻きとばかりに、ヒュドラは精一杯九つの頭を振り回す。

 だが、そんな足掻きを無に帰すかのように暴れるヒュドラの頭を正確無比に光線は穿つ。

 穿たれた頭は次々に弾け飛び、気付けば、そこには石となったヒュドラの胴と尻尾しか残されていなかった。

 最後の断末魔でさえも封じられたヒュドラの最後の姿は、蛇に呑まれる蛙の姿と言っても違和感は無かったように思える。

 

「ふぅ……終わったか……」

 

 石化したまま佇むヒュドラの胴と尻尾を眺めながら、ゴルゴーンはポツリと呟く。

 

「すごい……!まさかヒュドラを一方的にやってしまうなんて……」

「本当ですね……ゴルゴーンさん、流石です!」

 

 離れた場所でゴルゴーンの様子を眺めていた立香とマシュは、その光景に驚きを隠せないようだった。

 マシュ一人ですら精々足止めぐらいしかできなかったのに対して、ゴルゴーンは余裕を見せつつ倒したのだ、その驚きも無理はないだろう。

 

「ゴルゴーン!お疲れ様……!怪我はないよね?」

「ああ、心配するな……あの程度の敵では私に傷すらつけられん……」

 

 興奮した様子で駆け寄る立香にゴルゴーンは無意識に笑みを向ける。

 同時に自身の中に渦巻く感情に違和感を感じていた。

 

「(この人間の顔を見るたびに、私は笑みを作ってしまう……何故だ?)」

 

 当初は喰らってやろうとも考えていたマスターのことが、どうしても気になってしまう。

 

「それじゃ、カルデアに戻ろうか!」

「はい!帰って、美味しい物でも食べましょう!」

 

 自身のマスターということ以外は何の変哲もない人間、それだけなはずなのに気付けば目で追ってしまっている自分が居た。

 

「(何なんだ……?私は恋でもしてしまったというのか……ッ?)」

 

 自身に渦巻き続ける形容し難いこの感情に、ゴルゴーンは中々答えを見つけられない。

 だが、一つだけ分かることがある。

 それは、立香への評価が信頼に値するというものに変わったということだ。

 

「(まぁいい……もう少しだけ観察してみることにしよう……)」

 

 そう結論付け、ゴルゴーンは自身の感情に整理をつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして……さらに数ヶ月が経過した、ある日のこと――

 

「先輩……ッ!先輩……ッ!!」

「これはひどい……かなり危険な状態です……!すぐに運び込まないと……ッ!」

 

 中央管制室にマシュの泣き叫ぶ声が響き渡り、同時にナイチンゲールの切羽詰まった声が響く。

 その二人の足元で倒れこんでいたのは立香だった。

 見れば、刺し傷らしきものが数か所あり、頭からも血が流れている様子だ。

 

「とりあえず、応急処置をします……!」

 

 ナイチンゲールが刺し傷がある腕や脇腹の辺りを包帯で止血する。

 だが、止血をしたと言っても、立香は完全に意識を失っており、直ちに適切な治療をしなければ命を落としてしまうことは明らかだった。

 

「ミス・マシュ……!マスターを運びます!手伝ってください!」

「はい……ッ!」

 

 マシュとナイチンゲールは立香の頭と足をそれぞれ持つと、大急ぎで医務室へと走る。

 運ばれる立香を英霊達が見るたび、深刻な表情を浮かべ、その様子を注視していた。

 

「先輩……ッ!死なないでください……ッ!」

「急いで運ばないと……!」

 

 だが、そんな様子をゴルゴーンは冷めた目で眺めていた。

 

「(ふ……所詮、儚く脆い人間か……)」

 

 今までレイシフトを共にしていた時に感じていた安心感というのは、どうやら勘違いだったのだろう。

 結局は、まともに魔術も使えないような人間には自身のマスターになるなど無理だったのだ。

 ゴルゴーンは他の英霊が顔を深刻な面持ちで見守る中、早々に見切りを付け、自身の部屋へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

『ゴルゴーン、ありがとう!』

 

 それは、誰の声だっただろうか?

 

『いやー……今回はゴルゴーンが居なかったら、大変だったよ……!』

 

 私に感謝を述べる青年、それは誰だっただろう?

 でも、不思議と声を聞くと安心する。

 この声をまだ、聞いていたい……

 

――ああ、私の憎悪が薄まっていく……

 

 それは、生前に姉達と居た時に覚えた感触と同じだ。

 共に居るだけで、心が毛布に包まれたように温かい。 

 

――もっと……もっと……私を求めて……

 

 心地良さに身を任せ、聞こえてくる声に耳を傾ける。

 だが、その声はノイズの様に途切れ途切れになっていく。

 

『――ルゴーン、――がとう……!』

『今回――かったら――だったよ……!』

 

――何故だ……何故、その声を途切れさせる?

 

 声の主に問い掛けても、返答は返ってこない。

 むしろ、その声はどんどんと小さくなっていく一方だ。

 

――やめろ……やめろ……!私はまだ、声が聞きたい……!

 

 必死に声を張り上げて見るが、聞こえてくる声は、やはり小さくなっていくばかり。

 焦燥に駆られながら、何度も叫ぶが、声は遠くへ逃げていき……そして――

 

『――ン、…………』

 

 遂にその声は、全く持って聞こえなくなってしまった。

 そして次の瞬間――全身を支配する悪寒や寒気、そしてめまい……病にでも罹ったかと錯覚する程の倦怠感が全身を襲った。

 ようやく私が真っ暗闇の中に立っていると自覚をした時には遅く、あまりの苦痛にその場で倒れ伏してしまう。

 

――あ、ああ……ッ!やめてくれ……私は、また……怪物になどなりたく……うっ!ぐッ!?

 

 心臓が一瞬だけ鼓動を高くしたかと思うと、自身の身体が内部から急激に熱くなっていくのが分かる。

 それと同時に心へと侵入する、どろりとした黒い物。

 それらが全て私の理性を奪い、魔獣へと変えていく。

 

――あ、アアアア――ッ!!イやだ……ワたしは……アネたちを喰らった姿に、……なド……なりタク……ない……!

 

 蝕まれていく心に残された理性は必死に呼びかける。

 だが、誰も居ないこの空間では、もはやそれも無駄に思えた。

 

「(誰か……助けて……)」

 

 そう呟いた途端に目からは涙が零れ落ちた。

 この姿になってから初めての涙、その音は何も無い真っ暗闇な、この空間に響き渡る。

 もう望みも無い……ただ、その場に倒れ伏すことしかできなかった。

 

 だが、そんな絶望に打ちひしがれていた私の前に突如――一人の男が現れた。

 

「ゴルゴ―ン……大丈夫かい?」

 

 私を気遣うように声を掛けるその男は、顔がぼんやりとしていて、はっきりと顔が分からない。

 男はゆっくりと、倒れている私に近付いてくる。

 

「(間違いない……お前が声の主か……)」

 

 ついさっきまで私を穏やかにしてくれていた声を忘れるはずもない。

 その男は間違いなく私が求めていた人だ。

 

――来てくれたん、だな……

 

 私の言葉を肯定するようにゆっくりと頷くと、彼は私の手をぎゅっと握りしめてくれた。

 それだけで、私は救われたような気がする。

 ずっと、このままでいてほしい……そう願い、その手を握り返そうと力を込める――

 

……

…?

 

 おかしい……急に彼の手の温もりが消えた。

 いや、それどころか感触さえ消えてしまったように思える。

 不思議に思い、彼の手に目線を移した瞬間――私は再び絶望へと叩き落された。

 

――あ、ああ……ッ!手が、砂に……なっている……!?

 

 見れば、彼の身体は手だけではなく、足も顔も砂のようになり、徐々に崩れ落ちていく。

 しかし、彼は動じる様子もなく、私に言葉を掛ける。

 

「ゴルゴーン、僕が居なくなった後をよろしくね……」

 

――いやだ……私はお前が居ないと駄目なんだ……!

 

 砂になりゆく彼に懇願をするように私は言葉を吐き出す。

 惨めな姿だと自覚していても、彼を失った瞬間に私は怪物へと姿を変えてしまう。

 それが恐ろしくて仕方ないのだ。

 

――怖い、怖い……ッ!助けて……ッ!“マスター”!

 

 それは無意識に出た言葉だった。

 

「(あ――そうだ……何故、私は忘れていたんだ……?私に平然と声を掛けてきたのはお前しか居なかったのに)」

 

 いつも私と対等に接してくれたマスター、そんな彼の存在は私の中で大きな物へとなっていた。

 そんな大きな存在を忘れるとは、つくづく愚かだ。

 

――すまない……マスター……

 

 もはや一握りの砂と化したマスターを見ると、私の心は締め付けられるように痛い。

 私を救ってくれた彼が、永遠に居なくなるなど耐えがたい苦痛だ。

 だから――

 

――次は私がお前を救ってやる番だ……待っていろ……

 

 マスターという精神的支柱を失ったせいか、私は再び心を魔獣へと変えられていく。

 自身が化物へと変えられていくことへの恐怖はあった。

 だが、不思議と心は闘志に満ち溢れている。

 

――う、アア……マス、たー……カナラズ、オマえを……

 

 急速的なスピードで私を蝕む魔獣の心を押しのけ、何とか砂になってしまったマスターに手を伸ばす。

 そして、次の一言が私の最後だった――

 

――救ってやる……必ず……

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ッ!はぁ……ッ!」

 

 自身の部屋で飛び起きたゴルゴ―ンは息を荒くさせながら、辺りを見渡す。

 自分を害する敵が居ないかを、咄嗟に目視で確認すると、頭を手で押さえながら顔を俯かせる。

 

「恐ろしい……また、私は魔獣になるのか……ッ!?姉達を喰らった姿に……ッ!」

 

 額に大粒の汗を浮かべ、呼吸を荒げながら夢の内容を、ぼんやりながら思い出す。

 魔獣へと変わる自分に、砂になったマスター……どれも夢にしては少々リアル過ぎるように思える。

 そして、先程から感じている胸が締め付けられる感覚、何か大事な事を忘れていると警告されているようで気持ちが悪い。

 

「仕方ない、一旦食堂にでも向かうとするか……」

 

 少しばかり休むつもりでベッドに寝転んだつもりだったが、いつの間にか寝ていたらしい。

 おまけに休むどころか悪夢を見てしまったのだから、何とも滑稽な話だ。

 それでも水を飲めば少しは落ち着くだろうと考え、ベッドから立ち上がると、ゴルゴ―ンは食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「くっ……何だこの胸の痛さは……」

 

 あの後食堂に向かい、とりあえず水を一杯飲んでみたが、一向に気分は晴れない。

 それどころか、むしろ胸の苦しさが強くなったようにも感じられる。

 その様子に気を遣ってか、エミヤやタマモキャットが色々と料理を数品作ってくれた。

 しかし、食欲が減少している今食べる気が起きず、何かと理由を付けてその場を去った。

 

「(しかし、マスターが居ないとつまらないものだな……)」

 

 食堂から出た後、しばらくカルデアの廊下を意味も無く歩き回っているが、誰一人として英霊と会わない。

 いつもなら、数多くの英霊がカルデアの廊下を行き来しているはずなのだが、今日は静まり返っていた。

 

「ふっ……そうだったな、マスターが死にかけの状態では呑気に歩くことすらもできんだろうな……」

 

 食堂や自室へ戻る時に見ていたマスターに付き纏っていた騒がしい英霊を見ずに済む……ゴルゴーンは自分の中でそう完結させた。

 しかし、そう割り切ろうとしても、心のどこかで割り切れない部分があるのだろうか?ゴルゴーンの心の中はいつまでも経っても、曇りか雨の状態だ。

 

「(まぁいい……マスターの苦しんでいる所でも見れば、気は晴れる……)」

 

 あれ程興味を失っていたはずの立香にゴルゴーンは不思議と興味が湧いていた。

 もちろん興味というだけで、心配をしている訳ではない。

 しかし、ゴルゴーンの顔は立香と初めて会った時に見せていた何者でも殺し・喰らう、恐ろしい“怪物”としての顔などしていなかった。

 むしろその表情からは不安や迷いと言った、複雑な表情――つまり”女神”いや……“人”としての顔をしていた。

 

「確か、医務室は……あっちだったな……」

 

 気付けば胸の苦しさも無くなり、先程までの虚無に支配されていた心からは解放されている。

 しかしゴルゴーンはそれに気付くことも無く、フラフラとした足取りで医務室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……これで一旦処置は完了ですね」

「ありがとうございます……ッ!ナイチンゲールさん……ッ!!」

 

 腕で汗を拭うナイチンゲールにマシュは深々と頭を下げた。

 医務室へと運ばれた立香を真っ先に治療したのは彼女だ。

 複数個所の刺し傷、そして頭部への打撲とその他数か所の骨折、それに大量出血……普通の医者ならば、匙でも投げてしまいそうな重症具合でも、ナイチンゲールは目を血眼にして治療に当たった。

 その結果として、立香は何とか一命は取り留められた。

 しかし、ナイチンゲールの表情は暗いままだ。

 

「ミス・マシュ……もしかしたら彼は死ぬかもしれません……」

「え……?」

 

 医務室のベッドで大量のチューブに繋がれている立香を見ながら、重々しい口調でナイチンゲールは口を開く。

 これで助かると安心していたマシュの顔が、見る見るうちに呆然とした顔になっていく。

 

「嘘、ですよね……先輩が死ぬなんて……」

「……すみません、私の力不足です……」

 

 目の前で座り込んでしまったマシュをナイチンゲールは表情を僅かに歪めながら見つめる。

 一見すると、いつもと表情を変化させてないように思える顔だったが、その目からは自身の不甲斐なさへの自責の念が嫌という程に伝わってきた。

 

「まだ、望みが無い訳ではありません……大量出血している今、彼が死神に打ち勝てば、望みはあります……」

 

「……それはどのくらいの確率ですか……?」

「……ッ!?それは……」

 

 ぼそりと呟いたマシュの言葉にナイチンゲールは言葉を返すことができず、ただ俯くしかない。

 そんなナイチンゲールの姿を見て察しが付いたのか、マシュはその場に立ち上がる。

 

「ミス・マシュ……何処へ?」

「少しばかりリラックスしてきます……ここに居ても、出来ることはありませんし……」

 

 そう告げるマシュの目は虚ろで、精神的に追い詰められた状況だというのは、すぐに理解できた。

 しかし、幽鬼のような表情となったマシュを止めることもできず、そのままマシュは医務室を後にした。

 

 そして、残されたナイチンゲールはチューブに繋がれた立香を見やる。

 

「マスター……すいません、私はどうしてもミス・マシュが気掛かりなのです……」

 

 ナイチンゲールは立香に繋がれたチューブや医療器具を再確認する。

 そして、問題が無い事を確認し――

 

「ミス・マシュのケアは私が行います……!」

 

 そう一言だけ寝たきりの立香にそう告げると駆け足で医務室を後にした。

 その目からは、堪え切れない涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 医務室の前まで到着したゴルゴーンは、とりあえず医務室の中をざっと見渡す。

 

「(どうやら他の英霊共は居ないらしいな……)」

 

 それだけを確認すると、医務室の中へと足を踏み入れる。

 医務室へ入り早速見えたのは、死んだようにベッドで眠る立香だ。

 ただ寝ているだけかと高を括っていたが、ベットに近づき立香を見つめた次の瞬間――ゴルゴ―ンは思わず言葉を失った。

 

「(……ッ!?これは……)」

 

 全身に包帯を巻き、医療器具を取り付けられている立香。

 その姿は自身が想像するよりも遥かに酷い状態だった。

 本当は嘲笑ってやろうと心に決めていたはずだ……なのに――

 

「あ――ます、た……ぁ」

 

 それは自分の声だったのだろうか?それすら疑いたくなる程のか細い声がいつの間にか漏れていた。

 自分に残る人間性が脳に訴えてくるのが分かる。

 ”悲しい”という感情を――

 

「ご、るごーん……ッ!」

「……ッ!?」

 

 意識は無いはずだ……なのに立香は必死にゴルゴ―ンの名を呼ぶ。

 

「助けて……助け、て……」

「マスター……ッ!心配するな、今私が助けてやる!」

 

 手を伸ばし救いを求める立香にゴルゴーンは思わずその手を両手で掴む。

 初めて掴んだマスターの手は凄く温かく感じた。

 ただでさえ死神に儚い命を取られようとしているのに、その手からは想いとか気持ちが伝わってくる……そんな気がした。

 

「(マスター……死ぬな、死んでくれるな……お前だけは私を理解してくれたのだ……)」

 

 当初は興味程度の認識しか持っていたなかった立香だったが、日を重ねるごとに立香が自分を他の英霊達と同様に信頼し、背中を預けてくれていることに気付いたのだ。

 自身に怯えもせず、化物としてではなく一人の女として女神として扱ってくれていた。

 立香自身は無意識にやっていたことだろう。でもそれが自分にとっては涙を流したくなる程に嬉しいことだった。

 

「ありが、とう……ゴル……ゴーン……」

 

 手をしばらく握っていると、先程までうなされていた様子の立香の顔がどこか穏やかな顔に戻った。

 そんな立香を見て、ゴルゴーンの顔も穏やかな物に変わる。

 

「(私は自分に嘘をついていたんだな……)」

 

 先程の自身の行動を振り返ると、自分が今までマスターに抱いていた嫌悪感というのは、ただ自分の羞恥心を隠すための偽りであったと実感した。

 だからこそ、今は素直になろう……ゴルゴーンはそう思い、立香の為に祈る。

 

「私はお前が好きだ……だから、また元気な姿を私に見せてくれ……」

 

 いつもは憎悪に満ちた目をしているゴルゴーンだが、この時ばかりは、まるで子を見守る母のように穏やかな目で、立香を見つめるのだった。

 それは怪物としての姿ではなく、かつての女神――メドゥーサとして……




 という訳で、ハーメルンには初投稿のテト/tetoと申します。
 普段はpixivでの投稿を主にしていますが、今回ハーメルンにも投稿してみようということで、お試しに投稿しました。
 ゴルゴーンとぐだのカップリングが中々書いている方が少ないので、上手く出来ているか不安な面はありますが、どうかよろしくお願いします。
 
 pixivのURL載せときます。
 https://www.pixiv.net/users/26181811
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