※この作品はR-18です。

怪物ではなく女神として   作:若杉優太(テト/teto)

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一応、今回で終わりにします。
好評であれば、続ける予定です。


好きで、好きで、好きだから……

 フィニスカルデアでの人理修復が終わり、退去する際……私は何を思っただろう?

 

「ゴルゴ―ン……今までありがとう……!」

「……ッ!!マスター……」

 

 マイルームで退去する前に彼が見せたのは、悲しみの顔ではなく笑顔だ。

 本当は泣きたいぐらいだろうが、彼は気丈に笑顔のままであり続けた。

 

「マスター……最後に一言いいか……?」

 

 もう、彼と会うのも最後になるかもしれない……そう考えると、最後ぐらいは自分の伝えたいことぐらいは伝えておいた方がいいだろう。

 走馬灯のように、今までの記憶が蘇っていく。

 初めて会った時のこと、そして彼が死にかけて涙を流した夜のこと……良い事も悪い事もあったが、彼のおかげでカルデアでは穏やか日々を過ごす事ができた。

 そんなカルデアとも、今日でお別れだ。

 

「(嫌だ……嫌だ……ッ!マスターと離れるのは嫌だ……!)」

 

 冷静を保っていたはずの心が、荒んでいくのが分かる。

 カルデアからの退去が決まった際は、そこまで取り乱したりはしなかったのに、不思議と目尻に熱いものがこみ上げてきてしまう。

 そんな様子を気遣い、立香はゴルゴ―ンに一言、声を掛ける。

 

「ゴルゴ―ン……泣いていいからね……泣いていいんだよ……」

 

 その優しい青い瞳をゴルゴ―ンに向け、立香は涙をこらえる彼女の姿を見守る。

 だが、その優しさを感じられるのも今日で終わりだと悟ると、ゴルゴ―ンは目に溜まっていたものを堪え切れなかった。

 

「マスター……!私は、お前と一緒に居たい……ッ!」

「ゴルゴ―ン……」

 

 頬を伝う涙を拭うこともせず、いつの間にか私は彼に感情を吐き出していた。

 怪物としてではなく女神として、一人の女として扱ってくれたマスターが、居なくなってしまう……それが怖かった。

 そして遂にはパニックに陥ろうとした……その時だ。

 

「大丈夫……大丈夫だよ、ゴルゴ―ン……」

「あ……」

 

 気付けば、ゴルゴ―ンの身体を立香が優しく抱きしめていた。

 いつも感じていたいと思っていた温もり、その温もりは予想していた通り、優しくて心が満たされるような温もりだ。

 

「僕とゴルゴ―ンがどれだけ離れたって、僕はゴルゴ―ンのことを絶対に心に留め続ける……だからさ、ゴルゴ―ンも僕のことをずっと、覚えててね……!」

「……ッ!!」

 

 その力強い一言で、私は心の底から救われた気がした。

 ただでさえ止めれなかった涙が、さらに頬を伝っていく。

 そして、何とか最後に言葉を一つ絞り出す。

 

「ありが、とう……ッ!マスター……ッ!!」

 

 限界だった……その一言を最後に、私は彼の胸で結び泣くことしかできなかった。

 怪物と言われた自分が情けなく感じてしまえる程に、私はひたすら泣いた……泣いて、泣いて、時間さえも忘れて泣く。

 それでも彼は、嫌な顔一つせずにそんな私を見守ってくれた。

 

「(できることなら……もう一度、貴方と一緒に過ごしたい……)」

 

 最後は叶うはずもない願いを願いながら、私はカルデアから退去した。

 それが、彼と過ごした最後の記憶だったと思う。

 

 

 

##

 

 

 

 時は今に戻り、ノウムカルデア廊下――

 ゴルゴ―ンは昔のことを振り返りながら、自室へと足を進めていた。

 

「(マスター……お前は変わってしまった……)」

 

 自分が居ない間にフィニスカルデアの崩壊、そしてダヴィンチの消滅……色々な苦難が立香を襲い、ただでさえボロボロであった立香の心は壊れ、遂には心を閉ざす様になった。

 レイシフト後も、ふと目を移すと立香の顔が泣きそうな程に落ち込んでいる。

 落ち込むだけならフィニスカルデアの時でも度々見かけたが、落ち込んだ際の絶望したような目は、どこか狂気的なものを感じざる得なかった。

 英霊達への接し方も、明らかに素っ気ないものに変わっている。

 

「(私は、十分救われた。だから、今度はお前を助けてやりたい……)」

 

 ふと進めていた足を止め、ゴルゴ―ンは心の中で強く念じた。

 廊下ですれ違う度に、立香は目の下に濃いくまが浮かべ、ボロボロの身体を引きずりながらレイシフトを行っている。

 そんな姿をこれ以上、黙って見ているわけにはいかない。

 

「(それに、お前に伝え忘れたこともあるからな……)」

 

 フィニスカルデアで伝え忘れた、一言。

 あの時は泣いて言えなかったが、今度こそ伝える……

 

「さて、マスターが帰ってくるまでは暇だな……」

 

 決意を新たに、ゴルゴ―ンはカルデアの廊下を再び歩き始めるのだった。

 

 

 

##

 

 

 

「二人共お疲れ様……!」

 

「お疲れ様でした!」

「おう!お疲れさん」

 

 レイシフト後の中央管制室で、立香とマシュ、アーラシュの三人はぐっと肩の息を抜いていた。

 

「今回はちょっと危なかったね……でも、マシュのおかげで何とかなったよ……」

「いえ、先輩の判断が無かったら全滅も有り得ましたから、先輩のおかげです!」

 

 立香とマシュ、二人共が互いに功績を称え合う微笑ましい光景に、アーラシュもふっと表情を緩める。

 

「やっぱり、おまえら二人は仲が良くていいな……また、俺が必要になったら呼んでくれ!」

 

 そう言って、アーラシュは上機嫌な様子で中央管制室を後にしていった。

 アーラシュが去っていく後ろ姿を二人共が、じっと眺める。

 そして……完全に、アーラシュの姿が見えなくなった――その時だ。

 

「あぅ……ッ!」

 

 立香の身体が、がくりと糸が切れた人形の様に地面に倒れる。

 だが、傍にいたマシュは驚きよりも、その表情を悲しみに染めていた。

 

「先輩……!もう休んでください……ッ!先輩の身体は、ボロボロなんですよ……ッ!?」

 

 先程の和やかだった雰囲気を破壊する、マシュの悲痛な叫び……二人共が浮かべていた笑顔を、苦悩に満ちた顔に一瞬で変えていた。

 そんなマシュの訴えを聞いても、立香は地にひれ伏した身体を動かそうとする。

 

「駄目だ……もっと、頑張らないと……」

 

 何とか両腕を使って、鉛のように重い身体を起こす。

 しかし、起こした身体は酔っ払いのようにふらふらとしていて、立香の目の焦点も定まっていない。

 

「マシュ……次は、どこにレイシフトするのかな……?」

 

 壊れた笑いを見せながら、立香はトリスメギストスIIがある方へと足を進める。

 マシュも必死に止めようと、立香の腕を掴むが、それでもなお立香の足は止まらない。

 

「……ッ!先輩……!やめて、やめてください……ッ!!」

 

 いつも傍に居たマシュは、立香がどのくらい働き詰めでいるかなど分かっている。

 とうに限界など超えて身体を動かしていることもだ……でも、止められなかった。

 「みんなの前では辛い所を見せたくないんだ」そんな立香の言葉を聞いてしまっては、止めれるわけもなかったのだ。

 だが、それも今日で終わりにしなければならない。

 

「(このままじゃ、先輩が死んでしまう……ッ!私が止めないと!)」

 

 覚悟を決め、マシュが立香の身体を拘束しようとした……

 その時だ。

 

「やれやれ……すっかり、ボロボロだな。マスター……」

 

 マシュと立香、二人しか居なかった空間にため息交じりの声が響く。

 英霊達の自室がある方向から、聞こえる足音……その方向からやって来ていたのは――

 

「ゴルゴ―ン……さん……」

「人類最後のマスターがこの有様か……みっともないな……」

 

 呆然と自分を見つめるマシュを無視し、ゴルゴ―ンは容赦の無い言葉を立香に浴びせる。

 倒れ伏していた立香も、困惑の表情を隠せずにいた。

 

「ゴルゴ―ン……?どうして、ここに……」

 

 立香は自分の身体がボロボロであることを知られない為に、自分から声掛けた英霊以外は中央管制室には立ち入るなと、強く言い含めていた。

 ダヴィンチやマシュからも、英霊には十分に通達をした……なのに……ッ!

 

「(もう、駄目だ……僕は……)」

 

 遂にマシュ以外の英霊に、今の自分を見られてしまった。それだけで、死にたくなる。

 だが、ゴルゴ―ンはそんな心身ともにボロボロな立香に妖艶な笑みを見せた。

 

「どうしても何も無いだろう……腑抜けたお前を、私が調教してやるためだ」

「え――」

 

 次の瞬間、ゴルゴ―ンは倒れていた立香の身体を持ち上げ、自身の肩へと担ぎ上げていた。

 

「ま、待って……ッ!僕は、もっと頑張らなくちゃいけないんだ……ッ!」

 

 有無を言わさずに担ぎ上げられた立香は、ゴルゴ―ンの肩で先程と同じことを繰り返し叫ぶ。

 だが、それに意も介さずにゴルゴ―ンはマイルームの方へと足を進める。

 

「……ッ!ゴルゴ―ンさん……!先輩をどうするつもりですか……ッ!」

「マシュ……」

 

 不穏な発言をしていたゴルゴ―ンを行かせまいと、マシュは気を取り戻し、ゴルゴ―ンの前に両手を広げ立ちはだかる。

 その目には明らかな敵意が籠っていた。

 

「どいてくれ……私は、これから忙しい……」

「いいえ、このまま先輩を連れて行かせるわけにはいきません……ッ!」

 

 疲れた様子でマシュに言葉を返すゴルゴ―ンだが、その態度を見てマシュはさらに敵意を強めていく。

 

「(先輩は……私が守ります……ッ!!)」

 

 そう決意を固め、なおもゴルゴ―ンの前に立ち塞がろうとしたマシュだが、ふとゴルゴ―ンの瞳を覗いた瞬間に顔を驚きの表情へと変えた。

 言葉では不穏な言動をしていたゴルゴ―ンだが、その瞳は言葉に反して、とても悲しい目をしている。

 

「(ゴルゴ―ンさん……もしかして、貴方も先輩のことを……)」

 

 もう一度その瞳を見つめ返すと、今度はその瞳は意志を感じさせる強い目へと変化した。

 

「マシュ……私に任せてくれ……」

 

 目を伏せ、申し訳なそうに呟くゴルゴ―ンの姿……マシュはしばらくその姿を見つめると、不意に広げていた両手を下げる。

 そして、ゴルゴ―ンに向かって一礼していた。

 

「先輩を、お願いします……!」

「……ッ!ああ、任せろ!」

 

 力強くマシュに向かって頷くと、ゴルゴ―ンはやや急ぎ足でマイルームの方へと急ぐ。

 

「離して……ッ!離してくれ……!」

「……」

 

 肩で暴れる立香を無言で連れて行くゴルゴ―ン。時折、彼女が立香を見ると、その顔は不甲斐なさや悲しみで染まっていく。

 その様子を後ろから見送るマシュも同様に、何もできない自分に悔しさを覚えていた。

 だが、その目からは”信じる”という心が伝わってくる。

 

「(どうか……先輩をよろしくお願いします……!)」

 

 今はただ、立香が復活してくれることを願うばかりだ。

 不安に駆られつつも、マシュはゴルゴ―ンの背中を最後まで見送るのだった。

 

 

 

##

 

 

 

「よし、着いたぞ……マスター」

 

 マイルームの扉を開け、ゴルゴ―ンは肩の上から立香を下ろすと、そのままベッドの上へと立香を投げ出した。

 

「……っ!どういうつもりなんだ、ゴルゴ―ン……!」

「はぁ……どういうつもりも何もないだろう、マスター……」

 

 投げ出されたベッドから即座に起き上がり、立香は身体の限界など忘れたようにゴルゴ―ンへと吠え掛かっていた。

 しかし、そんな様子の立香と対照的にゴルゴ―ンは相変わらず疲れたような様子を崩さない。

 

「大体、『中央管制室には入るな』そう言っておいたはず……!それなのに、なんで……ッ!?」

 

 焦燥や疑問、怒り……それらの全てを混じらせ、立香はゴルゴ―ンへと詰め寄る。

 その姿はまるで子供のようで、普段の落ち着いた彼からは想像できない程、乱れに乱れていた。

 だが、ゴルゴ―ンは立香をじっと見つめるだけで、言葉を発しない。

 

「どうして……!?どうして……ッ!?僕は、誰にも迷惑を掛けたくなかったのに……ッ!」

 

 気付けば立香は涙を流し、その内にあった心情を吐露する。

 もちろん、自分自身でも限界ということは分かっていた……それでも、先に散って行った仲間や消滅させた異聞帯の人達のことを思うと、休もうなんて思えなかった。

 そうして無理をしていく内に身体は、当然の如く悲鳴を上げたが、それでもマシュ以外には相談せずに黙ってレイシフトを続けたのが、この結果だ。

 

「僕は、どうすれば良かったんだ……ッ!?教えてくれ……!ゴルゴ―ン……ッ!!」

 

 立香は言葉を乱暴に吐き出しながら思う。今の自分の行動は最悪だ……フィニスカルデアの時から自分を慕ってくれていたゴルゴ―ンに向かって、八つ当たりをし泣き喚いている。

 男として、マスターとして恥ずかしい真似をしている自分が情けなくて仕方ない。

 

「(何が正解だったんだ……?誰に頼れば良かったんだ……?)」

 

 拳を握り締め、立香は自問自答を繰り返し続ける。

 すると、先程まで無言を貫いていたゴルゴ―ンが言葉を発した。

 

「さっきから聞いていれば、”迷惑を掛けたくない”などと可笑しなことを言う……迷惑を掛けたくないのならば、マシュにも身体の状態を明かさなかったら良かったのではないか……?」

「う……ぐ……」

 

 疲れた様子から一変し、ゴルゴ―ンの目は真剣な物へ変化する。

 怒りや悲しみが込められた瞳に射貫かれ、立香は重い口を開けた。

 

「……マシュなら他の英霊達にも、僕の身体のことを言わないかなって思ったんだ……だから――」

「……ふざけるな……」

 

 それは、誰の声だったのだろう?

 マイルームには自分とゴルゴ―ンしか居ないはずだ。だが、一瞬その声を誰が出したのか分からなかった。

 そして、不意に顔を上げた瞬間――立香はようやく声を出した主を知った。

 

「ふざけるな……ッ!自身の状態を隠した挙句、マシュ一人だけにそれを隠すという重荷を負わせる……お前はいつからそんな奴へと成り下がった……ッ!?」

 

 怒りの感情を露わにしながら、ゴルゴ―ンは歯を食いしばるようにして言葉を紡いでいく。

 

「フィニスカルデアの時は、私にもマシュにも他の英霊にも、お前は律義に相談をしていた。だが、ノウムカルデアになってからお前はマシュにしか相談をしなくなってしまった……それが、どういうことを生むか分かるか?」

「……ッ!」

「お前の身体が最悪に近いのにも関わらず、それを黙っておくという罪悪感。いくら怪我をしようと迷惑を掛けまいとするお前の意思で、怪我を直すこともできない不甲斐なさ。それを誰にも相談することもできない苦しさ……マシュがどんな気持ちで居たかが分かるか……ッ!?」

 

 諭すような口調から一変し、再びゴルゴ―ンは怒りを込めた口調へと戻す。

 突き付けられる事実に、立香は自身のことを責め立てたくなる気持ちで一杯だった。

 これから、どんな罵倒を受けようと構わない……立香はそんな思いでゴルゴ―ンの言葉を待った――

 

「どうしてだ……!?どうして……ッ!私に……!わた、し……に……」

 

「相談してくれなかったんだ……?マスター……」

 

 一筋の涙を頬から流すと同時に、ゴルゴ―ンは立香の目を見つめ、言葉を締めくくる。

 自身のプライドなど捨て、ただ一心に立香のことを想った末に出てくる言葉だった。

 そこに怒りは無く、悲しみだけがゴルゴ―ンから伝わってきた。

 

「ゴルゴ―ンはどうしてそこまで、僕のことを心配してくれるんだ……?僕は、君を裏切った……それなのになんで――」

「お前が好きだからだ……ッ!」

「え……?」

 

 言葉を被せるように返ってきた答えに、立香は目を見開かせる。

 

「好きだから、お前が傷付く姿なんて見たくない……ッ!!お前が死ぬなんて嫌だ……ッ!だから、ずっと……傍に居てくれ……マスター……ッ!」

「ゴル、ゴ―ン……」

 

 立香の手を握り込み、ゴルゴ―ンは遂に泣き崩れてしまった。

 普段の彼女からは想像できない程に嗚咽と涙を漏らし泣き続ける。

 ゴルゴ―ン自身、ここまで泣き崩れるということは今まで散々立香がボロボロになりながらレイシフトを行う姿を陰ながら見ていたのだろう。

 いつか自分に相談してきてくれると思い待ち続けた……だが、耐え切れなかった。

 自分が想っている人が傷付く姿を、これ以上黙って見てはいられなかったのだ。

 

「ひ、ぐ……ッ!ます、たー……ッ!わた、しは……!」

「ごめん、ごめん……ッ!」

 

 謝ることしかできなかった。彼女のこんな姿を見てしまっては、ただひたすらに握る手の力を強めることが精一杯だ。

 そんな姿に感化され、気付かぬ内に目の端々に熱い何かがこみ上げ、そして頬を流れていた。

 

「大好きだ……ゴルゴ―ン……!これからも、今も……」

 

 思えばフィニスカルデアに居た頃、レイシフト先で致命傷を負い医務室に運ばれた自分をゴルゴ―ンは心配して泣いてくれた。

 それにフィニスカルデアから退去する時も、ゴルゴ―ンは別れを惜しんで泣いてくれていた。

 

「(僕は、大切な人さえも見失っていたのか……)」

 

 失った物にのみ重点が乗っかり、今在る大切な物が見えていなかった。

 こんなにも自分を大切だと思ってくれる人達が居る。それは、マシュやゴルゴ―ンに限らず他の英霊やカルデアの職員の皆もだ。

 

「ありがとう、ゴルゴ―ン……僕は君のおかげで救われたよ……」

「馬鹿を、言うな……ッ!私の方が……お前に救われている……!」

 

 涙ながらに二人は思いを伝え合い、互いに瞳を見つめ合った。

 すると緊張が緩んだのか、二人の顔に笑顔が浮かんだ。

 

「「ふふ……」」

 

 張り詰めていた雰囲気を吹き飛ばす様に、二人は笑みを漏らす。

 そして――

 

「大好きだ……マスター……」

「ああ……僕も好きだ、ゴルゴ―ン……」

 

 目の端々に涙を残しながらも、二人は互いに改めて想いを伝えた。

 先程まで暗い雰囲気が場を支配していたと思えない程に、立香とゴルゴ―ンは晴れやかな笑みを浮かべ、そんな暗い雰囲気など吹き飛ばした。

 

「(ありがとう……ゴルゴ―ン……)」

 

 彼女の身体から出る温もりを存分に感じながら、立香はそっと目を瞑る。

 人理修復までは時間が掛かるが、それまでは何とか生きて行こう……立香は失った人の面影を思い出し、心に強く誓うのであった。

 

 

 

##

 

 

 

 安堵。それが、マシュ・キリエライトが最初に思ったことだった。

 立香の死すら有り得たかもしれない今回の一件で、ゴルゴ―ンは言葉通りに立香を精神的に救って見せたのだ。

 再び立香に会った時は、思わず涙を流して喜んでしまった。

 

「(私は、ゴルゴ―ンさんに感謝してもしきれません……)」

 

 カルデアの廊下を歩きつつ、マシュは穏やかな笑みを浮かべた。

 つい数日前までは後ろ向きな気持ちにしかなれなかったはずなのに、今は晴れやかな気分でいられる。

 もちろん立香が立ち直ってくれたことも要因としてはあるが、何よりゴルゴ―ンから言われた言葉が今でもマシュの心の中に響いていた。

 

『マシュ、よく頑張ったな……私がもっと早くマスターを説得していれば、お前がここまで苦しむ必要は無かったんだ……すまない……』

 

 立香が立ち直ってくれただけでも、喜びのあまり涙を止めれなかったのに、ゴルゴ―ンから抱き締められながら優しい言葉を掛けられては号泣せざる得なかった。

 自分の苦しみを誰も分かってくれるわけがない、と半ば自暴自棄になっていたマシュにとって、ゴルゴ―ンの言葉に心から救われたのだ。

 

「(ゴルゴ―ンさんは怪物なんかじゃありません……私にとっての”女神”です……)」

 

 自身のことを怪物と自嘲するゴルゴ―ンだが、カルデアでの彼女は心優しい母親のような存在だ。

 人を無差別に食らうような怪物ではないということは、十分に行動で彼女は示した。

 

「(お二人が戻った時は、またお礼を言わないといけないですね……)」

 

 現在、立香とゴルゴ―ンはシミュレーションルームを使って二人だけの時間を過ごしている。

 本音としてはゴルゴ―ンに少し妬いてしまうところもあったが、立香の幸せそうな顔を目に入れた瞬間に、そんな気持ちも吹き飛んだ。

 

「今日だけは、私もゆっくり休ませてもらいますね……?先輩……」

 

 歩んでいた足を止め、真っすぐに視線を前に向けると、マシュは問いかけるように呟く。

 その顔はどこまでも穏やかで、晴れやかな表情をしていた。




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 この作品はpixivでも投稿してますので、良ければそちらも見て頂ければ幸いです。
 URL https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16929970
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