※この作品はR-18です。

男娼少年イヴ -亜人っ娘だらけの異世界で穢され嫐られ毎日-   作:ノーティー・ナイト・ザ・リーアム・クラブ

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とっととエッチなシーンが読みたい場合は、「Prologue」をスキップして「Early Bird Sequence」から読んでください
世界観や主人公の経緯が知りたい方は、このまま読み進めてください


Prologue
強制連行


イヴニンス(Eveninth)ジャックドー(Jackdaw)」は、齢十三の少年である。

 名門貴族「ジャックドー家」の長男として生を受けた彼は、次期当主となるべく日夜勉学に励んでいた。

 

 なに不自由なく、そして両親や多くの人々の愛を注がれた彼は、自信に溢れた気高い少年へと育った。

 

 

 今日は彼の誕生日でもある。

 この国では、十三歳からは大人と同等に扱われる。

 よって今日と言う日は、イヴニンスにとってもジャックドー家にとっても大切な日なのだ。

 

 

 少年が大人へ移り変わる、一生に一度の日。

 今日の誕生パーティーは盛大に催される手筈となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 確か自分はパーティーの準備中だった。

 

 気が付くとそこは、数多の時計が壁に飾られた部屋。

 振り子と秒針が一斉に鳴り続け、そればかりが聴覚を奪う。

 

 時計は全て、別々の時を示している。

 さらによく見ればどの時計も意匠や装飾が違っており、一つも同じ物はなかった。

 

 

「……な、ななな……はぁ!?」

 

 突然飛ばされた。

 混乱し、思わず腰を抜かすイヴニンス。

 

 

 部屋の中央には二つの机があった。

 

 

 一方は白い、大理石の机。それ自体は古典方式の装飾が施されており、美術品のような趣きがある。

 しかし机上は本やら羊皮紙やら筆やらが乱雑に散らかっており、せっかくの綺麗な机を台無しにしている。

 貼り付けられているネームプレートには、「アウル(梟)」と書かれていた。

 

 

 もう一方は黒い、黒曜石の机。装飾や細工は大理石の方と殆ど同じだ。

 違っているのは机上で、全ての本や文房具が一ミリの傾きもなく、整然と配置させられている。

 こちらのネームプレートには、「バード(鳥)」と書かれていた。

 

 

 

 一つの時計が背後で鳴る。

 音に驚いて振り向いた先、二人の人物が立っていた。

 

 

「契約開始から二百年目まであと三秒…………はい、二百年目。『アーリー』さん、ちょっと呼び込むまで早かったんじゃないですかね?」

 

 一人は黒いスーツに黒いベスト、黒縁の眼鏡に黒髪と、全身黒尽くめの男。眠たそうな目で懐中時計を眺めながら、陰鬱そうにボヤいている。

 髪はボサボサに乱れ、髭も頬や顎、口元や喉に至るまで生えていた。痩せぎすで長身の、枯れ木のような容姿をしている。

 綺麗な召し物の割に、小汚い印象を与える青年だ。

 色白だが、どこか黄色がかった肌をしているのも特徴的。

 

 

「変なところで細かいぞー『ナイトマン』。たった十秒じゃーん? ニ百年もあったら誤差でしょ誤差誤差」

 

 もう一方は白いブラウスに白いスカート、白羽根の付いたハットに白髪と、全身白尽くめの女。細か過ぎる隣の彼に対し、口を尖らせて呆れている。

 腰まで伸びた髪は絹のように美しく、また容姿も端麗であり、パッと見れば女神が舞い降りたと錯覚してしまうだろう。

 しかし言動が軽くて俗っぽく、それらを台無しにしていた。掴み所のなさを窺えさせる少女だ。

 

 

 青年の方はナイトマン、少女の方はアーリーと言う名前らしい。

 

 

「まぁもう、この際いいですけど……そんで、どーします? 憐れなあの少年への説明はどっちがします? あたしですけ? それともアンタ?」

 

「んー。この間はどっちがしたっけ?」

 

「アンタですね。じゃあ、今回はあたしですか?」

 

「よしっ。じゃあ、それで。面倒臭いし、順番通りにしよ〜」

 

「いやそんな……こんな大事な話を軽く扱ったら駄目ですぜ」

 

「うーわ、真面目く〜ん。それでもあなた『悪魔』なの?」

 

「それを言うならオタクこそ『天使』なんですか?」

 

 口々に話し合いながら、呆然と見つめるイヴニンスを通り過ぎて机の方へ向かう。

 机の前まで来たところでクルリと踵を返し、イヴニングと目を合わせる。

 そこでやっとイヴニンスは声を出せた。

 

 

「……だ、だ、誰だお前たちは……! ここは……どこなんだ……!?」

 

「ほら混乱してんじゃないですか。やっぱ今度から一旦、本人の前に出向いてから説明して、この部屋に通すべきですよ」

 

「いやいや。どーせそうしたってさぁ、混乱させちゃうんだし? 後でも先でも変わらなくない?」

 

「物事には順序ってのがあるんです。人間って存在の精神は我々よりも脆弱なんですから、やはり順序立てて進めるべきでは?」

 

「あーもう、面倒臭いなぁ……だからそんな変わらないって! 大抵『契約』の話したらみんな、私たちにキレるか泣くかするんだからさぁ!」

 

 イヴニンスを無視し、ワーワー喚き始める二人。

 その様に呆れたおかげで冷静さを取り戻したのか、イヴニンスはゆっくりと立ち上がって二人に言い放つ。

 

 

「む……無視するな! 僕を誰だと思ってんだ無礼者!」

 

「もう既にキレられてますな」

 

「無礼者ってワードチョイスがゲボかわなんだけど?」

 

「僕はかの、ジャックドー家の子息にして次期当主だ! 国王陛下様とも繋がりもある! 分かったならもっと僕を敬った上で、しっかりと説明をするんだ! ここはどこで、お前たちは何者なんだ!?」

 

 誰よりもこじんまりとした小さな男の子が、ビシッと指差し命令してくる。

 その姿が滑稽だったのか、ナイトマンは困ったように片眉を上げ、アーリーは愛玩動物を見るような熱い瞳で眺めていた。

 

 

「なんだ……その、反応は!」

 

「いやまぁ、そのジャックドー家が問題なんですがね……」

 

「やーん! プライド高い系生意気傲慢オスガキおぼっちゃまとか最高じゃない!? 今回は当たり引いたかなぁー?」

 

「お、オスガキ……!? 僕の事言ってるのか!?」

 

 アーリーを宥めさせたナイトマンは、もっと近付くようにイヴニンスに向かって手招きをした。

 

 

「まぁまぁ、とりあえず話し合いましょうや。説明責任は果たしますんで、どうぞこちらに」

 

 ナイトマンが指を差すと、その先でパッと豪奢な椅子が現れた。

 異能の力を目の当たりにし、イヴニンスは再び腰を抜かしかける。

 

 

「お前たち何者なんだ……!? まさか魔術師か!? おい、僕をどうするつもりだ!」

 

「いいから先に進めましょうや、お坊ちゃん」

 

 その間、二人はそれぞれ自分たちの机に座った。

 白い机にはナイトマン。黒い机にはアーリーだ。ふと内心でイヴニンスは「逆じゃないのか」と思ってしまう。

 

 

「ほらほらオスガキくん! 立ち話もなんだし座って座って!」

 

「その、お、お、オスガキと言うのをやめろ無礼者!」

 

「また無礼者って言った! いやーーーん! かわいい!」

 

「かわいいとも言うな、二度と……!」

 

 こうなったら立ち向かってやろうと言う気概で、イヴニンスは用意された椅子に座る。

 背丈よりも少し大きいのか、彼の足は宙ぶらりんとなっている。

 

 

 ナイトマンは机中を探って、一枚の羊皮紙を取り出した。

 眼鏡をかけ直し、そこに書かれている内容を読みながら話を始める。

 

 

「えー……ジャックドー家はどのような家でしたかね?」

 

「知らないのか……ジャックドー家は交易業で名を上げた一族だ。二百年の歴史を誇り、代々国を発展させた偉人たちを輩出してきた。今や、王国にとってなくてはならない名門貴族として君臨している。覚えておけ」

 

「その事業を最初に興した人物は、パトリック・ジャックドー氏でしたな」

 

「なんだ知っているじゃないか。それからジャックドー家は戦争や国の暗黒時代に於いても、先代たちは知恵と幸運によって活路を切り開き、危機を乗り越えて来た。付いた二つ名が、『沈まぬ太陽の一族』なんだ!」

 

「まぁもう沈むんですけどね」

 

「…………なに?」

 

 唖然とするイヴニンスの前で淡々と、ナイトマンは説明を続ける。

 

 

 

 

「二百年前。没落貴族だったパトリック・ジャックドー氏は、過去の栄光を取り戻したいが為に我々と契約したんですよ。富と名誉と繁栄を、二百年限定で与えるって内容ですな」

 

「…………は?」

 

「その間、彼には知恵と幸運を授けて、子孫も含めて必ず成功を収めるよう運命を操作させていただきました。だからまぁ、ジャックドー家が沈まぬ太陽じゃなくて、我々が沈まないようセッティングしてやったって事です」

 

「……な、なにを言ってるんだ? 馬鹿馬鹿しい、信じないぞ!」」

 

「はいこれ、契約書の写し」

 

 ナイトマンが投げた羊皮紙は、ヒラヒラと舞ってイヴニンスの膝の上に乗る。

 そこには彼が言った内容が全て網羅されており、さらに著名欄にはパトリック・ジャックドーのサインも書かれていた。

 

 

「……家系図にあったパトリック様のサインと同じ……」

 

「それでね。その契約が、今し方切れたんですよ。分かります? ジャックドー家は、もう終わりなんです」

 

「ふざけ……ッ!?」

 

 反射的に立ち上がろうとするイヴニンス。しかし、身体が動かなかった。

 見てみれば椅子の背もたれから幾多の帯が現れており、それが彼の身体を拘束していた。

 

 

「なんだコレ!?」

 

「それであとは、二百年分のツケを払って貰う必要があるんですよ。契約者のパトリック氏の魂は既にこちらで回収済みですので……それを差し引いた分を、現在の当主様にお支払いしていただくと言う流れとなります」

 

「は、はぁ!? 現在の当主ぅ!? 僕はまだ……!?」

 

 アーリーが頬杖を突きながら、意地悪に歯を見せて笑う。

 

 

「あー、その様子だと聞かされてないんだー? 君のパパさんね、今日の誕生日で君を新たな当主にしようって決めてたようでさ。で、君へのサプライズでもう名義が変えられててね。今現在、正式に当主なんだよ君」

 

「お父様のジェイコブ氏は不治の病だそうで。自身の死期を悟った彼は、あなたが大人となったタイミングで当主にしようと取り計らっていたようでしてね。まぁ、このような結果となって少し、お父様もあなたも不憫とは思いますけど……」

 

「あと誕生日がもう一日早遅かったら、ここに来てたのは君のパパだったんだけどね〜?」

 

「あくまで我々が与える知恵と幸運は、ジャックドー家の災難を回避する為のもの。後継ぎがいる以上、病気だとか怪我だとか個人的な面はカバーしてないんですよ……んまぁ、この役割からギリギリ回避できたってのも幸運の一つなんですかね?」

 

「ジャックドー家の記念すべき二百年目が誕生日だなんて、不運だったねー!……いや。寧ろ幸運? ピッタリ賞? ジャンボ当たりクジ?」

 

 あまりの衝撃の事実に、すっかりイヴニンスの顔は青褪めていた。

 押し黙り、抵抗をやめ、はくはくと口を開閉するのみ。

 それでも容赦なくナイトマンは続ける。

 

 

 

 

「……それで、現当主様のイヴニンス・ジャックドー氏に、残りの負債をお支払いしていただかねばならないんです。その分をまぁ……我々の元で働き、『とあるエネルギー』として回収して貰います」

 

 

 

 説明はしたものの、少し気の毒そうに眉を潜めるナイトマン。

 対してアーリーは心底楽しそうに微笑みながら、組んだ足をゆらゆらさせていた。

 

 

「ねぇねぇ? とあるエネルギーってなんだと思う? うふふふふ! 何だと思う?」

 

「アーリーさん落ち着いてくださいよ……まぁ、そんな感じです。いかがでした? 納得していただけましたか?」

 

「でで、で、で、出来るかよっ!?」

 

 イヴニンスはプツンとタガが外れたようだ。

 拘束された身体をガタガタ暴れさせ、怒号をあげて抗議する。

 

 

「僕には関係ないじゃないか!? そんな契約の事も知らなかったし……」

 

「おかしいな。パトリック氏にはきちんと契約書を代々渡って共有しろと言っておいたのに……え、契約書に注意事項として記載してますよね?」

 

「だ、第一、肖像画でしか見た事ないご先祖様の負債だとか……どうすれば良いんだよ!?」

 

「それはさっき言ったじゃないですか。あなたが我々の元で働き、負債分とあるエネルギーを回収する事で返済できるんです」

 

「それは……僕に、鉱夫になれとでも……?」

 

「いや鉱夫じゃなくて『娼夫』です」

 

「……? な、なに? しょーふ……?」

 

 説明しようとするナイトマンを、嗜虐的な笑みを浮かべたアーリーが遮る。

 

 

「まぁまぁ。あとは行ってみてのお楽しみって感じ?」

 

「アーリーさん、これはきちんと言っておかないと……」

 

「いーじゃんいーじゃん。あとはサプラ〜イズって、事でさ?」

 

「本音は?」

 

「娼婦も知らないとか最高じゃん。あぁ、純真無垢かつあの高慢チキな顔がドロドロのアヘアヘになるのが楽しみ過ぎる……」

 

「…………そうやって過去何度も債権者壊して来たから、あたしがペアになってんじゃないですか」

 

「おい! しょーふってなんだ!?」

 

 再び無視され、怒号を飛ばすイヴニンス。アーリーが手をかざすと、途端にイヴニンスの拘束は解かれた。

 身体が自由になったと判断した彼は、すぐに椅子から飛び降りて逃げ出す。

 

 

 しかし何かに強く腕を引かれて、走れなくなる。

 振り返ると、さっきまで机の向こうにいたアーリーが、彼の腕を片手で捻り上げていた。

 

 

「……っ!?」

 

「はいはいはーい。逃げちゃダメー……と言うか、逃げ場なんてなかったけどさ?」

 

 振っても引いても、腕は剥がれない。

 見た目は華奢な少女だが、明らかに見た目とは分不相応な力でイヴニンスを捕らえている。

 

 

「どうしたの? 身体ぷるぷる震わせちゃって? もしかしてそれが全力の抵抗ってやつ? んー、やっぱニンゲンはヨワヨワですな〜?」

 

「はは、離せよ……!!」

 

 突き飛ばそうと差し向けたもう一つの腕も、彼女に捻り上げられてしまう。

 

 

「暴力はんたーい。女の子に手を出したら駄目なんだよ〜? パパやママから教わってなかった?」

 

「ひ……!!」

 

 アーリーに掴まれた腕が押し返され、ヌッと彼女の顔が視界いっぱいになるまで近付かれる。

 ハットのツバがイヴニンスの頭に乗り、影が自身の顔を覆う。

 

 気付けば鼻先と鼻先がくっつかんばかりまで接近。甘い匂いして、少しクラクラしてしまう。

 アーリーの虹彩はトパーズのように金色に輝いており、瞳孔は蛇のように縦に割れていた。イヴニンスは、そんな異形の眼に少しだけ見惚れてしまった自分を恨んでいた。

 

 

 そのままイヴニンスの両腕を捻り上げ、彼が仰反るほどにまで押す。

 ジッと舐め回すように彼の顔形を観察していた。

 

 

「んー……んふふ。綺麗なお顔ねぇ。木目細やかで色白で、シミ一つもないお肌に……目付きがちょっと厳しいけど、女の子みたいでマジ美少年って感じ? お目目も碧眼で透き通っているし……」

 

「は、離せ……!!」

 

「あ。泣きぼくろまである……うわー、わー、エッチ……おぉ〜? 金髪もサラサラで枝毛もない。こりゃ元の世界でもモテてたんじゃないのー?」

 

「うわ、なにすんだやめろ……!」

 

「お〜ほほほほ〜……あーーー! スベスベサラサラ〜〜♡ 極上ぉ〜♡」

 

 イヴニンスに頬擦りをし始める。

 腕が塞がっている分、そうやって肌や髪の質感を堪能しているのだ。

 そうしている間に、アーリーの表情に恍惚の赤が差し、鼻息も荒くなる。

 

 

「ふーっ♡ ふーっ♡……へへへ。お姉さん滾って来ちゃった……ちょっとつまみ食いしても……」

 

「バカタレが」

 

「いてっ!」

 

 見ていられなくなったナイトマンが、アーリーの後頭部をチョップする。

 驚いたアーリーは手を離し、ジロリとナイトマンを睨む。

 

 

「……日頃の疲れを癒したっていーじゃん」

 

「話が進まないんですよ。アンタ『つまみ食い』とか言って、相手を不老不死にしてから百年ぐらい貪り食ってた前科があるでしょ?」

 

「たった百年じゃん」

 

「金の粒のように、小さくても貴重な百年なんです」

 

 解放されたイヴニンスはその場にペタリと座り込んだ。

 どう言う訳か足腰が立たなくなっている。

 頭もふわふわしており、下腹部からはじわじわ突き上がって来るような熱さを感じていた。

 

 

「あ……な……なにこれ……?」

 

「……まぁ、アンタの『淫気』で逃げなくなりましたし、これで良しとしましょう」

 

「チェー。もうちょい私のムラムラが溜まってたら、ここで甘々ドロドロ脳イキノーハンドフィニッシュキメさせられたのに」

 

「文面が地獄ですぜアーリーさん」

 

 ナイトマンが上空に手をかざすと、天井に据え付けられていた時計の一つが、一人でに外れて降りて来た。

 それは彼らへ近付くごとに大きくなり、アーリーとナイトマンの背後に降り立った時には柱のような規模となっていた。

 

 振り子のある部分が光ったかと思えば、その箇所が両開きの扉となる。

 ガチャリと扉が解放され、その奥は眩い光に満ちていた。

 

 

 ナイトマンは時計の針を見上げる。

 文字盤に書かれていた文字と、時間を確認しているようだ。

 

 

「えー。我々が返済終了まで滞在する世界は、この『スードウリリー』。現時刻は朝の7時44分……スードウリリーか。色々この子の性癖とか拗れそうですな」

 

「私にとったら楽園なんだけどなー」

 

「ともあれ行きますか……改めてお二方、よろしくお願いします」

 

「さぁ! エロエロでドロドロの旅が始まるよー!」

 

 扉の奥、光の中へ、二人は踏み出して行って消えた。

 残されたイヴニンスは半ば放心状態で一部始終を見ていたが、やっと我に返って再び逃げようと這い始める。

 

 

「に、逃げなきゃ……て、えっ!?」

 

 その時扉の奥から、まるで質量を持った光のような無数の手が飛び出して来る。

 一斉に手はイヴニンスへ掴みかかり、無理やり扉の方へ引っ張ったのだ。

 

 

「い、いやだ……何だよコレ!? いやだ、離せっ!! 離せぇっ!?」

 

 ただ光の手は無機質に、淡々と、イヴニンスを扉の向こうへ連れ去ろうとする。

 

 

「誰か助けて!? 誰か…………」

 

 その言葉を最後に、イヴニンスもまた光の中へと引き摺り込まれて行った。

 バタンと扉は閉まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 目を覚ますと、そこにはレンズ越しのナイトマンの瞳があった。

 プラチナのような銀色の虹彩と、こちらは山羊のような横長の瞳孔をしている。

 

 

「……っ!?」

 

 上半身を起こしたタイミングで、ナイトマンはサッと身を引き距離を取る。彼の背後にはアーリーがいた。

 

 

「ここは……!?」

 

 イヴニンスが座っていたのはベッドの上。

 そしてここは先ほどまでの、時計に囲まれた空間ではない。

 ローズピンクの壁と暗い木の床、花柄のカーテンがかかった窓と、どこか宿の一室のようだ。

 

 ナイトマンがカーテンを開き、陽光を室内に入れた。

 その間にアーリーが、イヴニンスに話しかける。

 

 

「私たちがスードウリリーと呼称するこの世界は、四つの国家で成り立っているの。それぞれの国家ごとに一つの種族が集まり、そのどれもが違った特性を持っている。魚やら、蟲やら、龍やら……」

 

「は、はえ……え?」

 

「そーれーで! 四つとも共通するのは、基本的に『女性優位』なところ。これ、君の世界では考えられない価値観でしょましょ?」

 

「……は?」

 

 窓を開けたナイトマンは深呼吸して、咽せた。

 

 

「ゴホゴホッ!……あー、クソ。相変わらず空気が悪いね。ガンガン石炭燃やして、煙をばら撒くからこうなんだ……」

 

「ここは君のいた世界よりも進んだ技術を持っていてね。風に関係なく進む船とか、空飛ぶ船とか。大量生産された絹は安く、鉄がゴミとなって消費される……そんな世界なの」

 

「特にこの国は……うぅ……空気が汚い。魔法とか持たない分、技術で頑張っているんだが……美しくないよなぁ」

 

「そぉ? 私は好きだけどなー? 無骨なデザインの機械とか、シンプルな服とか!」

 

「あぁ……今からでも『龍の国』にしませんか? あそこは最高なんですよね」

 

 口元をハンカチで押さえてからナイトマンは窓際を離れる。

 そのまま呆然とするイヴニンスを起こして、立たせた。

 

 

「淫気の影響はもう抜けてますよな?」

 

「……今度はどうするつもりだよ」

 

「外を見てみなさいな」

 

 促され、二人を睨み付けながら窓辺に立つ。

 それから言われた通り、外を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 そこは屋根まで煉瓦造りの家々が立ち並び通り。

 広い石畳の大通りは延々と奥まで続き、巨大なトカゲのような生物に引かせた馬車(蜥蜴車?)が、車道を埋め尽くしていた。

 遠くには天高くそびえる塔が何本も立ち、そこから煙が空へと吐き出されている。

 

 蜥蜴車を操る御者や歩道を行く人々を見て、イヴニンスは目を疑った。

 その誰もが女性ばかりであり、なんと犬や猫のような耳や尻尾が生えているのだ。

 

 

 見た事もない構造の建物、見た事もない生物、人間とは似て非なる亜人たち。

 イヴニンスは驚き果て、サファイアのような碧眼を大きく開き、食い入るようにその光景を注視していた。

 

 

「ここは獣の国の首都『アーニマ』。産業革命真っ只中の獣人たちが暮らす国なの」

 

 背後から、肩をポンと叩かれる。

 彼に振り向く隙を与えず、アーリーが顔を寄せた。

 

 

 

 

「君はね? これから『娼夫』になって、亜人たちの『精気』を回収するのよ」

 

「……は、は? 精気……!?」

 

「そう。亜人と身と心を重ねて、ドロドロに絶頂して、そのエネルギーを集めるの」

 

「え? え……?」

 

 耳に口を寄せて、アーリーは囁く。

 

 

 

 

 

「エッチしてガチ恋させてイキまくれって意味♡」

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