男娼少年イヴ -亜人っ娘だらけの異世界で穢され嫐られ毎日- 作:ノーティー・ナイト・ザ・リーアム・クラブ
ララとの情事の後、イヴニンスは少しばかりの休暇を貰った。
曰く「これから事業もとい精気集めを本格化する」との事で、多忙の日々となる前に休ませてやろうと言う訳だ。
「…………んー……」
応接室にある一つの本棚から、本を抜き取っては立ち読みしていたイヴニンス。
だが本棚にある本は殆ど読み尽くした為に、退屈したような表情で本を戻していた。
「……新しいのが欲しいな……」
「イヴくんヤッホー♪ 今日も可愛いお尻っ♡」
「うわぁっ!?」
サッと忍び寄りイヴニンスの尻を揉む、突然現れたアーリー。
勢い良くその手を払い除け、振り返る。ニタニタ笑いの彼女の後ろには、ナイトマンも立っていた。
「おはようサマーです。季節的には秋ですけど」
「……出掛けてたんじゃなかったのか」
「今帰ったとこだよ〜イヴくん。あ! もしかして寂しかった!?」
「触るなっ!」
そう言ってまた尻へと伸びたアーリーの手を、イヴニンスは反射的に叩く。
わざとらしく痛がる彼女を呆れた顔で見ながら、ナイトマンが話しかける。
「何を読まれて?」
「いや……もうこの本棚にあるのは全冊読んだから……適当に」
「……全冊? ここに用意した三十五冊全部? まだ半月も経ってないのに?」
「うん」
ナイトマンは釈然としない様子で顔をくしゃっと歪める。
「……あなたとんでもない速読家ですね」
「言われてみればこの間も半日で十冊ぐらい平らげてたもんねー? この食いしん坊! エッチ♡」
「触っ──んあっ!?」
また尻へ伸びた手を叩こうとしたが、今度は尻ではなくお腹が狙われていて、まんまとそこをねっとり撫でられた。
してやったり顔で距離を取ったアーリーを、イヴニンスはむすっとした顔で睨んでいた。
「……んで。新しい本が欲しいんだけど」
イヴニンスの頼み事に対し、ナイトマンは一度唸ってから首肯する。
「そんならついでに本棚も買いましょうかね」
「どーせならイヴくんのお部屋に置いちゃおうさ? 一々ここまで持ち出しに来るの面倒臭いでしょましょ?」
「そうですな。サイズもこんな、食器棚みたいなのじゃなくて……百冊は入る物にしましょか」
「あー……もしかしたらビュッ♡ ビュッ♡ って色んなお汁飛び散るかもしんないから、扉付きが良いよね?」
「いやそんなベッドの近くに置く訳じゃあるまいし……まぁ、可能性はなきにしもあらずですな。扉付きが無難ですかね」
「早速家具屋さん見に行く? 確か隣町に評判のトコあんじゃん」
「探すの面倒ですし、特注で作って貰いましょ。良い工房を知ってんです」
「でもぉ……お高いのでしょぅ?」
「金ならある。あたしは
二人揃って思った以上に前向きな上、本棚の購入まで話が進んだ。イヴニンスは逆に唖然としてしまう。
ふとナイトマンがちらりと、今し方イヴニンスが手に持っていた本を見やる。
「そりゃ詩集ですかい?」
「え?……あ……うん。詩が好きだし……」
「実はあたしも詩は好きなんです。ロバート・ブレア*1のとか大好きでしたよ」
「誰だよ……」
「太陽を慕う者あれば、影を求める者もあり……あたしの好きな一節ですなぁ」
名前すら初耳の詩人に、イヴニンスは首を傾げるしかない。
だがそれから彼は思い立ったように、「じゃあ」と言ってもう一つお願いをした。
「……本を、買いに行きたいんだけど」
「今イキたいって言った?」
勝手に発情して淫気を出そうとしたアーリーを、ナイトマンは叩いた。
木綿のシャツの上に、紺色のカーディガン*2を羽織り、スリムな黒パンツをサスペンダーで吊るして履く。
首には口元まで隠すほど大きめな深緑色のマフラー、頭には灰色のキャスケット、手にも皮の手袋。
出来るだけ肌を見せないようコーディネートされたイヴニンスが、街頭を歩いていた。
「……うわぁ……」
この世界に来て初めてかつ、やっと出来た外出。
緊張した面持ちでメインストリートを歩いてみた。
蜥蜴車が往来するレンガで舗装された道路、幾何学的な設計で立ち並ぶ建物、派手な広告看板に、道路脇に等間隔で刺された街灯……全てがイヴニンスの世界にはない物ばかりだ。
思わず好奇心から辺りをきょろきょろ見渡しては、何度となく歩道を行き交う獣娘たちとぶつかりかけた。
「あ、大丈夫だった? ぶつかっちゃってごめんね?」
「あ……こちらこ──」
「お詫びに食事とかどう? 奢るけど? と言うかお目目パッチリで可愛いね?」
「…………すいません。急いでいまして」
そして何度となく彼女たちから言い寄られた。
ただ意外な事に、イヴニンスが一言断るだけで彼女たちはすぐに引き下がる。
「『今の彼女』に飽きたらここに来てね?」
「…………」
住所を書いた紙を握らされたが。
イヴニンスはふと、街に出る前に二人から言われた注意事項を思い出す。
「出来るだけ肌を隠さないとね〜。イヴくんの艶々ピカピカのヤワワでキレイキレイな白肌見られたら、速攻襲われるよ?」
「帽子に手袋、あと厚着の服で完全防備しましょう。あたしとしては襲われて精気集めてくれても良いんですがね」
「あと獣人は嗅覚エグいからね〜。イヴくんの匂いで子宮きゅんきゅん発情モードになる人絶対いるよ」
「そんならこの香水を使いましょう。我々にはウッディな香りしか感じられないんですがね? 微かに雌の獣人の、それも上級種の匂いが混ざっておりましてな」
「なるほど! 獣人の鼻じゃその匂いまで嗅げちゃって、『あ。この子、随分ヤバい奴にツバ付けられてんな』って勘違っちゃう訳か!」
「寝取り寝取られ、不義不倫。これがバレたとなると、最低でも建物一つ吹き飛ぶくらいの大騒動になりますからなぁ」
「あ! あと口調も素っ気なく丁寧な感じにしてね! 可愛いお声で話したら『誘ってる』って思われるから!」
「素っ気ないのはイヴニンス氏のデフォルトですし、大丈夫じゃないです?」
またこれ以外にも「女装して女の子のフリをする」、この世界ではポピュラーだと言うやり方を提示されたが、イヴニンスが即却下した。
思い出すだけで疲れて来る。この世界にいる限り、気楽に外を出歩けないのかと思いやられる。
(……肌を隠して、香水で匂い付け、口調も素っ気なく丁寧……一つでも怠ったら間違いなく襲って来るとか、この国の人間の理性どうなってんだ……)
この世界の基準でもイヴニンスは、かなり高い水準の美少年だ。
故に顔身体を丸々晒して街中を歩く行為は、ナイトマン曰く「鳩に豆放るようなモン」との事。
とは言え身の振り方さえ気を付けてしまえば、ほぼ不自由なく散策を楽しめる。
イヴニンスにとって、このアーニマの街は魅力に溢れていた。
猫や犬の代わりに、蛇やイグアナのような生物が野良で闊歩する街路隅。
道路の横をするすると、二輪の細いタイヤが付いた乗り物で走る者たち。
店の壁一面が広々とした窓ガラスとなっていて、その奥いっぱいに並べられた色とりどりの服。
そして空を鳥と共に悠々飛ぶ、鯨のような形をした巨大な気球。
全てがイヴニンスの世界にない物で、彼の好奇心と探究心を刺激した。
また鎧や武器にしか使われないと思っていた鉄が、カップや缶となって大量に作られていた事も衝撃的だ。同じように貴重品であるハズの砂糖や塩が手頃な価格で売られており、この国の生産性と経済力の高さを理解させられた。
イヴニンスは目移りしながらも、貰った地図を見ながら目的の本屋を目指す。
大通りの角を曲がった先にある、商店通りの一角。そこまで行くと、やや霞んだベージュ煉瓦の建物が見えて来る。
店名は「マクタバ・ディアブ」。
入り口の扉には石を削って作った、大きな眼のような飾りが掛けられていた。
「……なんか不気味だな」
そう思いながらも中へ入って行く。
都会の喧騒満ちる表通りとは打って変わり、そこは儚いライトの光だけが照る穏やかな空間。
窓は全てカーテンで締め切られ、一切の陽光を絶っている。恐らくは本の日焼けを防ぐ為だろう。
店内には幾多の本棚が所狭しと並び、その全てにびっしりと本が詰まっていた。またふわりと香る、古ぼけて芳しい本の匂いが心地良い。
その本棚と本棚の間にある通路の先、カウンターの向こうの椅子で読書をしていた店主が、こちらを向く。
「……何も買わんなら帰っとくれよ」
「……!」
店主は獣人ではなかった。
耳のある箇所には赤黒い扇子のような物が、そして首筋には赤いヒラヒラとしたものが生えていた。それがそれぞれ、「
後頭部から背中にかけて
店主であるこの褐色肌で鼻の高い老婆は、「魚人」であった。
ひたいから前へ伸びた細い管の先に丸いボールのような物が付いており、時折それは弱々しく光を放つ。
掛けた丸い眼鏡の奥にある彼女の目からは、明らかに無愛想な気質が滲み出ている。
「……本を、買いに来たのですが……」
「あたしを馬鹿にしとるのかぇ? ここに入って来たからにゃ、本を買いに来たって分かるもんだろが。デパートじゃあるまいし、ウチは本しかないよ。本を買いたきゃ、どうぞ勝手に」
憎まれ口を叩かれたイヴニンスは少し驚いたものの、それよりも持ち前の負けん気が出てしまった。
すっかり丁寧な口調はなくなり、いつも通り棘の付いた喋り方で話す。
「……初めて来たからどこにどんな本があるか教えてくれって意味だ。察せないのか?」
「口の達者な坊主だねぇあんた。それだけ達者なら最初からそう言えば良かったのさ。伝えたい事はハッキリ言う、社交の常識だろうて」
「お言葉だがお婆さん。明らかに年季入っている癖に、同じような客と会った事ない訳こそないだろ? それほど人が来ないのか? それに僕は客だ、それが客に対する態度か?」
「客ってぇのは何も言わず、本を買って帰る者の事を言うんだよ。あたしはあんたの召使いでも何でもねぇ。誰かと話したいなら社交場に行きな、青臭坊主」
「なんだって耄碌婆さん?」
「その耳は飾りなんか? それともあたしより耳が遠いのかえ?」
お互いに減らず口の為、二人の口喧嘩は延々と続きそうだ。
かなりカチンと来たイヴニンスは、口元まで覆っていたマフラーを下ろし、この激闘を制してやろうと躍起になる。
途端、イヴニンスの後ろにある店の扉が開き、誰か入って来た。
パッと外の陽光が店に挿し、また遮られる。
誰が来たのだろうとイヴニンスは振り返る。そして「あっ!」と思わず声を出してしまった。
「お婆さーん! この前頼んでた…………え?」
ぴょこんと立った二本の兎角、見覚えのある顔と聞き覚えのある声、そしてシックなエプロンドレス姿。
まんまと顔を晒してしまったイヴニンスの前には、フレデリカ邸でパーラーメイドを務めている男の娘、カーリオが立っていた。
マズいと思ってすぐにマフラーを上げるものの、もう遅い。
顔を背けようとするイヴニンスにサッと近付き、カーリオは細めた目で帽子の下を覗き込んだ。
「……イヴさん、ですよね?」
「…………ひ、人違い……」
「そんな訳ないですよね?……ほら、わたくしですよ♡ この間、あなたと一緒に愉しんだ……」
熱っぽい瞳でそう囁かれ、思わずフレデリカ邸での情事がフラッシュバックする。
そしてあの時の、紅潮し嗜虐心に満ちたカーリオの表情も。
「…………」
「あ♪ お顔真っ赤になりましたね! やっぱりイヴさんじゃないですか♡」
「くぅう……!」
悔しげに俯くイヴニンスを見て、カーリオは満足そうな笑みを見せた。
それから彼の頭から足までを確認する。
「へぇ! 完全防備じゃないですか!……んー。でもイヴさんなら女の子の格好でも良いと思いますよ? じゃないと夏場とか着る物無くなりますし……」
「よ、余計なお世話だ……あ、あと! ジャックドーだってば!……てか、なんで!?」
「今日は非番なんです。新人の教育もひと段落しましたし、こうやってフレデリカ様からお暇を──」
「ここは社交場でも子供の遊び場でもないよ」
店主が鬱陶しそうな声色でぼやく。
会話を切り上げてぺこりと頭を下げ謝るカーリオの隣、イヴニンスは店を出ようと歩き出す。
それを彼は腕を掴んで阻止する。
「イヴさんも本を買いに来たんですよね? ならわたくしたち、一緒にどうです?」
「い、いや、もういい! 今日は帰る……!」
「えー? 良いじゃないですか……アレ? イヴさんから微かに……今日も誰かに抱かれて来たんですか♡?」
悪い蟲を払う為の香水も、事情を知る人物には効果はない。
「こ、これは違う! 香水を振って……」
「へぇ? そんな香水があるんですか? 良いなぁ……それならわたくしもナンパされずに済むのに……」
「も、もう良いだろ……! 帰らせろ!」
カーリオの手を振り払い、扉へ早歩き。
とっとと出て行こうとした瞬間、また扉が向こうから開かれた。
「お、お、おじゃましま……アイタッ!?」
「っ!?!?!?」
扉の上枠に頭をぶつけるほどの巨体。
逃げたかったイヴニンスの前を、その人物が大きな身体で完全に塞いでしまった。
「う、うぅ……絶対にぶつけちゃう……や、や、やっぱり都会って私に合ってないよね……色々な意味で……」
(ぱ、ぱ、ぱ、パニアぁ!?)
現れたのはイヴニンスを初めて買った人物、パニア・ベルダラだ。
彼女が痛がっている隙にマフラーで口元を覆い、パッと踵を返す。
それをすかさずカーリオが近寄り、腕を強固に組まされた。
「もう逃げられませんね♡」
「………………」
「さっ! 今日は二人でデートしましょっ♪」
何か言ってやりたいが、背後にはパニアもいる為にもう大きな声は出せないし、振り向けない。
諦めたようにイヴニンスは俯き、店の奥へと上機嫌なカーリオに連れられてしまった。
カーリオに腕を絡まされながら、店主のいるカウンター前まで歩く。
抱き付かれている感触としては、やはり女性と比べて筋肉質だなとイヴニンスはふと思ってしまう。
カウンター前に付くと、カーリオは改めて彼女に話しかけた。
「えっと、『ヤサミーナ』お婆さん。この前頼んでた本はどこですか?」
「あっちだよ。九番と八番本棚のちょうど区切り、九番本棚の下から三段目の所。分からなかったらまた聞きな」
「ありがとうございます」
店主ことヤサミーナは、カーリオに対してしっかりと案内する。
「普通に接客出来るじゃん」と抗議したげに睨むイヴニンスの視線を無視し、開いていた本をずっと読んでいた。
カーリオに腕を引かれて、言われた本棚まで歩く。
途中でカーリオは困ったような笑みを浮かべて訳を話した。
「
今し方、パニアがヤサミーナに本の場所を聞こうとしていた。
「え、え、えっと……か、か、怪奇小説の場所とか……?」
「知らん」
「ひぇえ……」
その様を見せてからカーリオは「ね?」と微笑んだ。
他人がやられているのを見るならば少し面白かったようで、イヴニンスは失笑する。
「……客足が遠退きそうだな」
「ところが遠退かないんです。なんてったって、品揃えは間違いなくこの国で一番。だから上流層や労働者関係なく、街の本好きには人気のお店なんですよ」
「確かに凄い本の量だ……」
「それにわたくしに対してみたいに、馴染みになったら凄く親切ですからね」
目的の本棚まで辿り着く。
ヤサミーナが言っていた九番本棚は、詩集を纏めたコーナーだった。
「詩集……」
「えっと……あ♪ あったあった……」
カーリオは嬉しそうに、探していたと言う本を手に取った。
タイトルは『亡骸の
「キロネ先生は蟲人の詩人で、とてもロマンチックな詩を書くお人なんです。わたくしもすっかり虜になってしまいました……」
「……その割には物騒なタイトルだな」
「人の生き死に、幸福と不幸を題材にしていましてね。そんな普遍的なテーマに食い込んだ力強さも評判なんですよ」
「と言うか……詩が、好きなの?」
「ええ、大好きです! あ。もしかしてイヴさんも?」
「だからジャックドーだってば……」
適当にイヴニンスは本棚から詩集を一冊手に取る。
「……昔から慣れ親しんでるし、詩の先生にも色々と教わった」
「へぇ……思ったより本格的に嗜まれているんですね……いいなぁ」
「書き方も……」
「わたくしも書いてみたいって思っていたんですよ……えへへ。イヴさん、教えてくれませんか?」
「…………やだ」
「……素直じゃないんですから。フレデリカ様も言っていましたよ?」
「ほ、本心だよ」
拗ねたように眉を寄せながら、イヴニンスは手に取った本を開いて試し読みする。
隣でカーリオが聞いた。
「どんな詩がお好きなんです?」
「……特に僕はこう言った、情景を美しく書いた詩が好きだね」
詩を読みながらイヴニンスは語る。
「瞳を閉じたらそこに、浮かんで来るような……繊細で鮮烈で、いつまでも心に残るような……昔から知らない景色を知るのが好きでさ。詩はそれを僕の心に届けてくれる」
「…………」
「……暫し現実を忘れ、作者が橋渡ししてくれた自由な世界を旅出来る。それが何よりも安らかで、気持ちが良い……」
そう言って穏やかな、そして輝いた瞳で本を眺めるイヴニンス。
知的で儚い彼の横顔を見て、カーリオはつい頬を赤らめ、どきりと胸を鳴らしてしまった。
「……っ」
「……? どうした?」
「……ホントにとんでもない人ですね、あなたは……」
「は?」
「いえ、何でもありません」
少し赤くなってしまった顔を手でパタパタ仰いでから、カーリオはまた寄りかかるようにしてイヴニンスの腕に抱き付く。
「……何冊か、買って行きます?」
「う、うん……そのつもりだけど……」
「幾つかオススメがあるんです。教えてあげましょうか?」
「…………まぁ、うん……助かる……」
「……ふふっ♪」
寄り添い、くっ付き、耳をぴこぴこ動かして愛らしく笑うカーリオ。
その所作、声、姿は本当に少女にしか見えない。
暖かい彼の体温に多少なりドギマギとするイヴニンスだが、「こいつは男だ」と自身に言い聞かせ、浮ついた気を起こさないよう努めた。
そんな二人の元に現れた、二メートルの巨女、パニア。
如何せん身体が大きいので、狭い通路で人とすれ違えない。
「あ、あ、あ、あの……!」
「はい?」
「!?」
急いでそっぽ向くイヴニンスの隣、パニアとカーリオが会話をする。
「ごごご、ごめんなさい……えと……と、通りたいなぁって……」
「あー……この狭さじゃちょっと厳しいですね……ならわたくしたち、通路を回り込んでまたここに戻りますので!」
「ひぇ……て、て、天使ちゃん……! ご、ご、ごめんね? ホントに……」
(……相変わらずメソメソしてんな、こいつ……)
心の中でそう呟きながら、イヴニンスは呆れたような目を彼女へ向けた。
だが同時に、安堵の念もあった。
(……作家は諦めて街から出るみたいな事言ってたのに……頑張るつもりなんだな……)
本棚を見渡す彼女の目は真剣そのものだった。自分の能力を高める為に、他の人物の作品を探しに来たのだろうか。
案外、根性あるのかもと見直しつつ、カーリオと共に一旦通路の先を歩こうとする。
「イヒヒ……あ、あの……もしかして、男の娘くん?」
「アレ? バレちゃいました?」
「っ!?」
瞬時に振り向くと、鼻の下を伸ばしてカーリオに話しかけるパニアの姿が。
「へ、へぇ? す、す、す、凄いね……メイドさんみたいで……」
「そうですか? わたくしのお気に入りなんです」
「あ、あ、あの、とても、ヒラヒラしてて、か、可愛いね……」
「っ!?!?」
イヴニンスの視線から怒りが滲むものの、カーリオに夢中なパニアは気付かなかった。
「お、お、お人形さんみたいで……い、イヒヒ……耳も長くて……」
「ふふっ……ありがとうございます。お姉さんもお綺麗で、可愛らしいですよ」
「ふひゅっ!? ひ、ひぃい……! 私なんか全然……」
「……」
イヴニンスの目がじとりと、細められる。
「ね、ねぇ、君の名前教えてくれない、か、かな?……えと? その……隣の子、も?」
「……」
「良いですよ。はじめまして、わたくしは『カーリオ・シャンク』です」
「…………」
「か、カーリオ、ちゃん、くんだね? イヒヒ……わ、わ、私はパニア・ベルダラで……い、一応、作家志望で……」
「………………」
「わぁ! 作家さんなんですか? 本は出されて?」
「……………………」
「ま、まだ出してなくて……こ、こ、これから持ち込みとか何だけど……も、も、もし良かったら、住所とか教えてくれたら、出版された時に送る……よ?」
「…………………………」
「んー……良いですよ。あ、でも、わたくしの職場で良いですか?」
「………………………………」
「ひぇ……い、いいよ……イヒヒ……カーリオちゃんね?……イヒヒ♪」
イヴニンスの右瞼がピクリと歪んで閉じられた。
パッと一歩踏み出し、浮かれているパニアの前に立つ。
「や、やった……と、友達作り頑張ったよイヴく──アイターーっ!?!?」
「!?」
ボソボソ何か言っていたパニアの爪先を、思いっきり踏む。
踏まれたパニアもだが、彼の隣にいたカーリオも驚き顔だ。
「え!? え!? え!?!? な、な、なになになに!?」
「…………」
「え、えーっと……わ、わ、私、何かやっちゃいました……?」
「……フンっ」
すぐに踵を返し、通路の先を行ってしまうイヴニンス。
涙目で放心状態のパニアに一言謝った後、カーリオは彼の傍まで駆け寄った。
「イヴさん?……どうしちゃったんですか?」
「…………なに?」
ムッとした目を向けるイヴニンス。
その目を見てカーリオは察したように、蹲るパニアを一瞥してから微か頷いた。
「…………あのパニアさんって方、前のお客様ですか?」
「……知らない」
恥ずかしくなって目を逸らすイヴニンス。
「…………ふーん」
その横顔を見つめるカーリオの瞳が、どんより澱む。
最後にもう一度、後ろでメソメソしているパニアを一瞥…………その瞳には羨望と嫉妬が宿っていた。
カーリオとイヴニンスはそれぞれ手に取った本を買うと、店から出た。
まだ彼はイヴニンスの腕にくっ付いている。立っているだけなら良いが、そろそろ歩き辛い。
「……それじゃあ、本も買えたから……僕はここで……」
離れようとするものの、カーリオは抱き付かせたその腕を離さなかった。
表情を確認したいものの、なぜか彼はそっぽ向いている。
「……イヴさん。わたくしの家に、来ませんか?……今から」
「……え?」
突然彼の口から飛び出した、抑揚のない誘いの言葉。
「……有り余るほどの本がございますので……お譲りしますよ」
「……い、いや……また自分で買うから……」
「わたくしとイヴさん、趣味趣向が合いそうですので……きっとイヴさんが気に入る作品ばかりかと」
「でも、あ、あのなぁ……」
「結局店内でオススメを教えられませんでしたから、その間に合わせにと」
無理に離そうにも、カーリオの力は強い。
引き剥がせも、そこから一歩も動く事も出来ず、四苦八苦の末にイヴニンスは根負けした。
「……昼までには帰るからな」
「…………」
カーリオはやっとこちらを向いて、貼り付けたような笑みを見せ付けた。
「……えぇ♡」
まだ午前中。時間はたっぷりあると、カーリオは欲望に満ちた感情で思い巡らす。
それだけで欲情が、腹の底から突き上げて出て来る。この感覚が苦しくも、心地良い。
スカートの下にある彼の「男の象徴」は、下着の中でこれでもかと屹立していた。
澄ました表情だがカーリオは、それを隠すのに必死だった。
▼イヴちゃんエロエロ感度累加記録♡
[イヴくんもお休みだし、私もお休みでーす♪]
▼ナイトマンダイアリー
[休息を甘く見るべからず。惰眠もまた救いなり]