※この作品はR-18です。

男娼少年イヴ -亜人っ娘だらけの異世界で穢され嫐られ毎日-   作:ノーティー・ナイト・ザ・リーアム・クラブ

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※BL描写あり


男の娘ウサギに連れ込まれて愛を囁かれた

 流されるように連れられた先、カーリオの家はマクタバ・ディアブから数十分ほどの場所にあった。

 大通り傍の小さな角を曲がり、古い家並みが続く商店街に入る。

 

 靴屋、雑貨屋、肉屋……積み木を詰めて並べたような店々の前を通り過ぎると、古い家々が並んだ住宅街へと景色は移り変わる。

 カーリオの家は、その住宅街の一角にあった。

 

 

「ここです」

 

 強く腕を引かれるがまま、イヴニンスは眼前にある縦長建物を見上げた。

 煉瓦は霞んではいたが、オンボロと言う訳ではない。

 一階は古い酒場となっており、その酒場の入り口傍にある小さな扉から、二階から四階の下宿へ上がれる。下宿階層は、最上階の部屋以外の窓には「貸間あり」と看板が張られていた。

 

 

 カーリオの家は、その看板の張られていない最上階だ。

 階段を上がり切り、鍵をあけ、彼は扉を開いてイヴニンスへ入室を促す。

 

 おそるおそるドア枠を潜り、帽子とマフラーを玄関にあったコート掛けに吊るし、リビングへ足を踏み入れる。

 中は一人暮らしにしては広く、また内装も綺麗に整えられていて、埃一つもない。

 

 

「……意外と広いな」

 

「でも安いお部屋なので、水道とかガスとかしょっちゅう止まっちゃいますから……*1

 

「パーラーメイドやっているんだろ?……なんだ。あいつはそんなお金を出してくれないのか?」

 

「いえいえそんな! フレデリカ様からのお給与に不満はございません……寧ろ、平均の労働者よりも多くいただいております……本当にあの方には感謝しております」

 

 言われてみればリビング内の家具は、どれも質の高い物ばかりだ。

 マホガニー材の椅子、羽毛がたっぷり詰まったクッション、大きな衣装箪笥に、細やかな木彫細工が施された長机と傍らに置かれたふかふかのソファ……十分給料が支払われている事は確かなようだ。

 

 

「なら……もうちょっと良い場所に住めるだろ。それにここからだとあいつの家も少し遠いし……近場に引っ越したら良くないか?」

 

「ふふっ……同じ事をフレデリカ様に言われましたね」

 

「じゃあ……」

 

 カーリオをリビングを、感慨に満ちた瞳で見渡した。

 

 

「この部屋は……わたくしが田舎から来た時から住んでいるんです」

 

「出稼ぎ?」

 

「………………そうですね。貧乏でしたので……最初は出て行きたかったですけど──」

 

 一瞬だけ彼は言葉を詰まらせ、また何事もなかったように続けた。

 

 

「…………愛着が湧いてしまいましたから。住めば都ってヤツですよ」

 

「そんな物なのか……?」

 

「……ほら、そんな事よりも」

 

 彼は買ったばかりの本を持って隣の部屋へ歩き出した。

 

 

 

「ついて来てください」

 

 そう誘ってから部屋に入ったので、イヴニンスもおずおずと彼の後を追いかける。

 

 

 

 純白のリネンが敷かれたセミダブルベッドと鏡台、ベッドの傍らにはランプと香炉の置かれた小テーブルが一つ。

 カーテンの隙間から一筋の光が差すこの部屋は、寝室だった。

 

 ただ家具より目を引くのは、ベッドのヘッドボード側に面した壁。

 壁には端から端まで、四段ほどの長い棚板が据え付けられており、その上に大量の本が横一列で並べられていた。

 

 本棚の下に置かれたベッドが、セミダブルなのによっぽど小さく見えるほど。

 ここまで本好きとはと、イヴニンスは圧巻を通り越してもはや呆気さえ抱いてしまう。

 

 

「…………かなり本の虫みたいだね」

 

「えぇ。何にもない日は一日中だって読み耽っています。少し度が過ぎていますか?」

 

「……ううん。僕もそうだし」

 

「……♪」

 

 カーリオは買ったばかりの「亡骸の顎」をテーブルの上に置くと、部屋の片隅にあった脚立を引っ張り出し、本棚の前に立てる。

 その上を慎重に登り、棚の最上部にあった一冊の本を抜き取ってからまた床へ降りた。

 

 

「この詩集がわたくしのオススメです」

 

「あの、亡骸の顎って本は読まないの?」

 

「あちらはまた一人の時に、姿勢を正してじっくり静かに読みますので」

 

 ウサギ耳をぴこぴこ動かして、妙にキリッとした顔でそう言う。

 相当に著者のキロネを尊敬しているのだなと察して、イヴニンスは苦笑いを浮かべた。

 

 

 彼が差し出した本を手に取り、タイトルに目を通す。

 

 

「……『溺れた魚』?」

 

「面白そうなタイトルでしょう? 所謂、恋愛叙事詩と言うものです。ほら、イヴさんは風景とか情景を表現した詩がお好きって仰っていましたよね? まさにピッタリかと」

 

「ふーん……ちょっと読んでみても?」

 

 その言葉を待っていたかのように、カーリオは一瞬だけ不敵に笑った。

 

 

「えぇ、良いですよ?」

 

 彼はベッドに座ると、隣をぽんぽんと叩いた。

 イヴニンスの仕事の関係上、ベッドに近付くだけでも戸惑いが出てしまう。特にカーリオに対しては、フレデリカ邸での情事が想起される。

 

 

「どうしました?」

 

「……何もしないよな?」

 

「……あら♪ イヴさんもしかして、この間の事を思い出して……恥ずかしくなりました♡?」

 

「…………」

 

 こう言った煽りにイヴニンスが弱い事は、カーリオにはもうお見通しだった。

 案の定、彼は顔を微か赤らめてから目を逸らしてから、「そんな事はないぞ」と言いたげにドカッとベッドに座る。

 

 

 

「……っ♡ んもう……可愛いなぁ……♡」

 

 そんな意地っぱりで素直じゃない彼を愛おしく思い、カーリオは疼いた胸を押さえながら、自らにしか聞こえないような声量で囁いた。

 興奮を覚えているカーリオの様子など露知らず、イヴニンスは膝の上で本を開く。

 

 

「……『盛る炎の獣の恋は、業へ成り果て身は焦げて、(さが)を捨て去る事、厭う無き』……凄い文から始まるな……」

 

「ふふっ……獣人の恋はとても激しいですからね」

 

 カーリオがベッドの上で座り直し、そのままピタリ、イヴニンスと肩を触れさせる。

 

 

「……『あれは静寂(しじま)に満ちた半月写る湖畔、彼は水辺で御御足(おみあし)を洗われていた』……」

 

「ロマンチックな出会いですね……」

 

「………………」

 

 暫く黙読を続けるイヴニンス。

 速読家である彼が、プロローグを読み終えるまでさほども時間はかからなかった。

 

 しかし数十ページほど進んだ時、イヴニンスの頬に赤みが差す。

 

 

「……こ、これ……」

 

「……へぇ。イヴさん、凄い速読家さんですね。しかも内容を理解されているようで……読書家にとったら羨ましい能力です……」

 

 時折イヴニンスの顔を覗き込み、ページを進める毎に恥じらいを見せる彼の表情を愉しんだ。

 

 

「どうです? 面白い作品でしょ?」

 

「…………あ、あのさ」

 

「いかがしました?」

 

「……男同士で……その……」

 

 イヴニンスは一度、生唾を飲んだ。

 

 

 

 

「し、シてるんだけど……」

 

 とんでもない物を見てしまったような、驚きと羞恥に満ちた丸い目をカーリオに向ける。

 そんな彼の様子を、カーリオもまた微かに頬を紅潮させて見つめる。

 

 

「えぇ、そうですね?」

 

「な、なんて物を読ませんだ……!」

 

「でも文章は綺麗ですよね? 押韻に言葉選び、そして巧みな情景描写……全てが整っていて……」

 

「た、確かにそうだけど……うぅ……なまじ描写が上手いから想像しやすい……うわ、挿絵もあるし……!」

 

 中断しようと本を閉じかけたが、カーリオがイヴニンスの手の上に己の左手を重ねて止めた。

 少し冷たい彼の指先が、イヴニンスの手の甲を撫でる。

 

 

「……っ!」

 

「どんな風にシてましたか?」

 

「は……は、はぁ!?」

 

 離れようとしたイヴニンスを、カーリオは彼の肩に右腕回して阻止。

 

 

「うっ……!?」

 

「言ってみてください。どんな風に、シてました?」

 

 視界いっぱいに広がる、蕩けたカーリオの瞳。

 置かれた彼の手の指がピッと伸びて、開いていた本の一節を差し示した。

 

 そして押し黙ったイヴニンスに代わり、カーリオは自ら示した箇所を読み上げる。

 

 

「……『貪り求め合い、ふたり耽溺なまでに快楽を愛した』」

 

 朗読する彼の声にはたっぷりと、甘く吐息が込められていた。

 

 

「『やがて互いの胎内にまで満ち足りたいと案じ、焼ける程に火照る肌と肌を絡ませ』」

 

「も、もう良い……!」

 

 挿絵には、二人の男が交わう姿が描かれていた。

 主人公が、愛人の片足を肩に乗せ、熱り勃ったペニスを向けている。

 

 

「『彼の解れた秘孔へ、私はこの鎮まらぬ物を挿し入れた。耽るふたり例えると、鞘に収まる刃のように──」

 

「もう良いってば!」

 

 カーリオを押し退け、勢い良く立ち上がった。

 それから持っていた本をベッドに颯爽と置くと、カーディガンを翻し背を向ける。

 

 

「そ、そろそろ僕は帰るからなっ! あの……オススメの本ってのはその、また今度にでも──」

 

 出て行こうとするイヴニンスの肩が掴まれ、身体を無理やり後ろへ回された。

 

 

 

 

「──っ!?」

 

 回され、向き直らせただけではない。

 カーリオの表情を確認する前に、彼は振り向かせたイヴニンスを強く突き飛ばす。

 

 

「いっ……!」

 

 壁に背をぶつけ、顔を歪める。

 

 

 

 

「な、何して──うわっ!?」

 

 途端一気に距離を詰めたカーリオが、イヴニンスの顔のすぐ横にある壁に、肘から上を叩き付けた。

 空いたもう一方の手は、イヴニンスの頬に添えられる。

 

 

 

 

「………………!?」

 

 すっかり壁際へ追いやられてしまったイヴニンス。

 呆然とする彼をカーリオは、蕩けた瞳と熱っぽい表情で見つめた。

 

 

 鼻と鼻がくっ付きそうなほどに近い。

 

 互いの息遣いが良く聞こえる。

 

 甘い匂いさえも。

 

 

 

 

「……単刀直入に言います、イヴさん……わたくし、あの夜からあなたを忘れられないんです」

 

 切なそうな声音で芝居がかった台詞を、カーリオはイヴニンスの耳元で囁いた。

 

 

「いきなり何すんだよ……!?」

 

「えぇ、こんな事初めてですよ。どうにもあなたの声音、匂い、表情、態度の全てが……面白いように琴線に触れる……」

 

「意味が分からな……っ!」

 

「なのにあなたはズルい人だ」

 

 熱い吐息が耳にかかり、イヴニンスは身体をぶるっと震わした。

 

 

「……わたくしがこれだけ恋焦がれているのに……あなたはあのパニアさんに心を傾けているなんて」

 

「っ!?!? は、は、はぁ!? 何言って……っ!」

 

「バレバレなんですよ……」

 

 分かりやすい彼の姿を見て、夢見心地に満ちていたカーリオの瞳は次第に鋭くなって行く。

 

 

「あなた、パニアさんがわたくしにデレデレしていた事に、嫉妬していましたよね?」

 

「あ……いや……あれは……!」

 

 図星を突かれて、イヴニンスから毅然とした態度は消え失せた。

 あわあわとしどろもどろになり、目は泳ぎ、顔はそっぽを向こうとする。

 

 

「……フレデリカ様と、わたくしの……あぁ。そう言えばウィルズも……ともあれ、これだけ節操なく人の心を奪っておいて…………そうですか。あなたはパニアさんが大好きですか、そうですか」

 

 背けようとしたイヴニンスの顔は、無理やり前へ向かされた。

 その時に目の当たりにしたカーリオの表情は、いつかの見覚えあるものだった。

 

 鋭い眼差し、不敵に上がった口角、乱れて垂れた前髪に、少し低くなった声。

 

 

「……その感情を向けられたいのは……誰でもない、わたくしなのに……」

 

 イヴニンスは全て思い出し、息を呑んだ。

 

 

(……あの時の、だ……!)

 

 フレデリカ邸での情事の時に見せた、可愛い顔に似つかわしくない雄の表情。

 瞼の隙間から爛々とした瞳を覗かせ、カーリオは丁重さのベールが剥がれた、荒々しさのある言葉遣いで言った。

 

 

 

 

「ホント生意気。苛々する」

 

 

 

 

 ゆらり、カーリオの身体が前へ動いた──と、気付いた頃にはもう遅かった。

 圧倒され、半ば放心状態だったイヴニンスの口に、貪るようなキスを押し付けられていた。

 

 

「んっ……!?」

 

 お淑やかないつもの態度とは一変した、何とも暴力的なキス。

 

 

「はぷっ……♡ ちゅるる……♡」

 

「ふぁ……っ!?」

 

 舌を捩じ込まれ、まるでピアノの鍵盤を指で滑らせて弾くように、歯茎の端から端までを舐め取って行く。

 必然的にカーリオは顔を傾けて押し付ける形となり、伴って二人の身体は隙間なく密着する。

 

 

「ちゅっ……♡ じゅるっ……はぁ……♡ あむ……っ♡」

 

「んぁ……っ! ぁ……っ……んん……っ!?」

 

 差し込んで舌を絡ませ、波打たせ、唾液を流し込むように。

 快楽から逃げたいイヴニンスだが、壁とカーリオに挟まれてしまい身動きが取れない。

 

 

「れろっ……♡ ちゅっ♡……じゅるる……♡」

 

「ん……っ……! ふぅ……っ!!」

 

 二人の口から唾液が零れ落ちる。

 それは長い長いキスであった。

 

 

「……ぷはっ……」

 

「はぁ……っ!!」

 

 やっとカーリオのキスが止む。

 唾液に塗れた口元を雄々しく拭いながら、ジッとイヴニンスを見据える。

 

 

「ふぅー……っ! ふぅー……っ!」

 

 彼もまた口元を拭いつつ、カーリオを潤んだ瞳で睨んでいた。

 整える為に荒い呼吸が続き、吸って吐く度にイヴニンスの腹部が大きく上下している。

 

 

「……キスは上手い方なんだけどなぁ」

 

「……お前より凄いのを経験してる。ざまあみろ」

 

「……ふふっ……煽ってくれますね……♡」

 

 カーリオは自身の腰を、ぐっとイヴニンスに密着させた。

 途端、イヴニンスの身体がびくりと跳ねる。

 

 

「んあっ……!」

 

「……でも感じてないって訳じゃなさそうですね……♡」

 

 既にイヴニンスのペニスは勃っており、ズボンの裏から固く浮き上がっていた。

 カーリオのモノも同様だ。エプロンドレスを張らせるほどに強く勃起した彼のペニスが、イヴニンスのペニスに押し付けられた。

 

 

「あぁ、もう……痛いくらい勃ってる……♡ 分かります? わたくしのモノの形……♡」

 

 ぐりっ、ぐりっ、とイヴニンスのペニスを押し潰すように動かす。

 服越しからでも分かる。彼のペニスは、イヴニンスよりも大きく立派だ。

 

 

「あぅ……っ……!」

 

「……これ……どうやって鎮めようか……ねぇ……どうしてやりましょうか……♡?」

 

「う……!」

 

 カーリオの背後、ベッドの上に置かれたままの『溺れた魚』を見て、作中の描写と挿絵が脳裏に過る。

「まさか」と察し、息を飲んだ。

 

 

「……っ……」

 

 同時になぜか、お腹の中がきゅぅんと疼く。

 ドゥーアにされた事、教えられた事を、つい思い出してしまった。

 

 

 

 

「……あの夜以来、『溺れた魚』を読むと……妄想に耽ってしまうんです。主人公はわたくしで、あなたは愛人……だとすれば……」

 

 カーリオは物憂げに視線を下げ、小さく首を振った。

 

 

「……それ故に……悲しくなって、不安になってしまう……この詩の通りなら、わたくしとあなたはいずれ……」

 

 意を決したようにまた合わせられたその瞳は、あまりにも凛々しく、愚かしいまでに真っ直ぐだった。

 

 

 

 

「……絶対に離したくない。離れたとしても……いつまでもいつまでも、あなたの傷痕になってでも残れるように……だから、イヴさん」

 

 更に腰を押し付け、カーリオは自身のペニスをイヴニンスのお腹にくっ付ける。

 柔い生地の向こうの彼のモノが、臍の下で熱く脈打っているのを感じる。

 

 

「……あなたのナカに入りたい。あなたのナカに入れたい」

 

「……っ……!?」

 

「立てなくなるまで犯したい。気を失うほどの快感を叩き付けてやりたい」

 

「っっ……!」

 

「ドロドロに、トロトロに、ぐちゃぐちゃに、めちゃくちゃに、訳も分からなくなるまで穢してやりたい。その白い肌を、煌めく黄金色の髪を、吐き出した体液で染めて汚してやりたい」

 

 いつもの、お誂向けの微笑みではない。

 ニタリと湿り気を帯びた、ドス黒い欲がこびり付いた悪い笑みで、カーリオは宣言する。

 

 

 

「……だから()のナカに注いでやる。『カーリオ・シャンク』のありったけを、お腹いっぱい」

 

 赤い顔で圧倒されているイヴニンスの、腰を撫でた。

 

 

 

 

「……覚悟してよね、()のイヴ……♪」

 

 先ほどからお腹の中の疼きが止まらない。

 興奮気味な浅い息を繰り返しながら、イヴニンスはその疼きが導くままに抗う事をやめた。

 

 

 

 さっき一瞬見えたカーリオの物憂げな表情が、不安の吐露が、妙に焼き付いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか太陽は真上。

 どこか遠くで、正午を知らせる聖堂の鐘が響く。

 

 人々は仕事を一旦やめて休憩に入り、大通りは相変わらず蜥蜴車の往来が止まない。

 工場の煙突からは黒煙が登り、青空の中で薄くなって消えて行く。

 

 

 古い下宿の一室、カーテンで締め切られた仄暗い寝室は、この時だけいつも通りの世界から断絶された二人きりの世界と化す。

 

 

「ちゅ……♡ はむっ♡……ちゅるるっ♡」

 

「ん……っ……! あっ……う……!」

 

「じゅる……ちゅっ♡ ちゅっ♡」

 

「う……っ……! んゃ……っ……!」

 

 数多並んだ本の背表紙が俯瞰する、ベッドの上。

 イヴニンスを仰向けで組み伏せ、覆い被さったカーリオが、淫靡な水音を響かせて彼の首筋にキスを浴びせていた。

 

 その上で器用に彼の着ているカーディガン、シャツのボタン、そしてサスペンダーを外して脱がし、裸に剥いて行く。

 

 

「ぷはっ……ふふっ……あの時も思ってましたけど……」

 

 晒されたイヴニンスの、薄紅色の乳首はピンと勃っていた。

 

 

「性格だけじゃなくて、乳首まで生意気なんですから♡」

 

「あっ……♡!?」

 

 楽しそうな声音で、乳首を親指で押し潰してやる。

 途端、イヴニンスから甘い嬌声があがった。

 

 

「いっ……♡!? ぎ……っ……♡!……な、生意気って言うな……っ!」

 

「……♡ ホントに煽り上手ですね、イヴ……♡ ほら、もっとグリグリしてあげる♡」

 

「あ……まって……いひっ♡!?」

 

 押し潰す、爪で引っ掻く、摘む。

 あらゆる方法でカーリオはイヴニンスの乳首を弄んだ。

 

 

「あれ?……何だか……前よりぷっくりしてません? 心なしか敏感なような……」

 

「気の、せい……だろ……っ……♡! んっ……♡」

 

「そうかな?……まぁ何にせよ、君の身体は段々とエッチになって来ているってのは確か……かもしれませんね♡」

 

「…………くぅ……っ」

 

 否定出来ず、羞恥に染まった顔を背けた。その姿がまた、カーリオの劣情を煽っている事も知らずに。

 

 

「ふぅーっ……♡……じゃあ、あの夜の続きでも……♡」

 

 垂れた前髪を掻き上げ、興奮気味に鼻から息を吐くと、ピンと勃ったイヴニンスの左乳首に顔を近付けた。

 

 

「……あむっ♡」

 

「ひっ……♡!?」

 

 乳頭を口に含み、吸い込む。

 

 

「ちゅる……っ♡ じゅるる……っ♡」

 

「あ……っ……♡! ま……また……♡」

 

「ちゅっ……♡ んふふ……こんなにおっぱい切なそうにして……吸い付かないのが野暮ですよ♡」

 

 今度は口を大きく開けて舌を出し、ゆっくり舐め上げた。

 舌表面のざらざらした突起*2が乳首に引っ掛かり、断続的な快感を生む。

 

 

「んっ……♡ ぐぅ……っ……♡!」

 

「んぇーー……っ♡」

 

「あ……ぅ……っ♡……!」

 

「れろっ……♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡」

 

 舐めたり、キスするように吸ったりを繰り返す。

 その度に鈍いながら尖った快感が走り、声を押し殺そうとするイヴニンスの口より甘い喘ぎが漏れる。

 

 

「はむっ……ちゅるっ♡ ちゅるっ♡」

 

「ぎ……っ、い……っ……♡……そ、そこばっかり……っ……♡!」

 

「ぷはっ……えへへ♡ だって可愛いですし……♡」

 

「……うぅ……か、可愛いとか言うな……」

 

「もう……そう言うトコだよ……♡」

 

 愛おしさ余って辛抱堪らなくなったのか、カーリオは腰を突き出し、上下に振る。

 彼のペニスがイヴニンスの腹上で擦られて、ぐにぐにと動く。

 思わずその感触に、イヴニンスはドギマギ。

 

 

「んっ……♡……あぁ、駄目ですね……まだ前戯なんですから……出しちゃったら勿体ないですね♡」

 

 名残惜しそうに吐息を漏らし、腰の動きを止めた。

 次にカーリオはイヴニンスの白い胸板に舌を這わせ、時折吸い付いては赤い痕を残す。

 

 

「れろ……ぢゅるるっ……♡」

 

「んっ……!」

 

「……んふふ……♡……ちゅーーっ♡」

 

「んん……あ……っ……!」

 

 吸引音が一つ鳴ると、イヴニンスの身体がびくびく震え、そして痕が一つ増える。

 すっかり彼の首と首筋、鎖骨と胸はキスマークがいっぱい。

 

 

「……ふふっ♡ 良いね、似合ってますよ……♡」

 

「……どうせ消えるよ」

 

 事実、どれほどキスマークや歯形が付けられようとも、翌日にはアーリーの力で全て治癒されてしまう。勿論、そんな事口が裂けても言えないが。

 

 

「今この瞬間に残っている事、それが大事なんですよ」

 

 カーリオは首を振って否定し、語る。

 

 

「どこか儚い君が、本当に僕の前にいるんだって……その存在を色濃く、鮮明にハッキリと、感じられるように印を付ける……例えそれが刹那の安寧だとしても、君と言う存在を今だけ……強く強く、確かめたいんです」

 

「…………詩の読み過ぎ……」

 

「ふふっ……ロマンチストですね、僕は……♪」

 

「……過剰に心配症なだけだろ」

 

「それほど君が愛おしくて堪らないって事だよ、僕のダーリン……♡」

 

 可愛い顔に似合わない、歯が浮くような台詞の数々。

 完全に彼のペースとオーラに飲まれ、イヴニンスはただ恥ずかしさと動揺を紛れさせる為に目を逸らすしかなかった。

 

 

 カーリオはそれからも胸や首に吸い付きながら、まだ半分しか脱げていなかった彼のズボンと下着を下ろさせる。

 途端に痕付けを止めて、チラリと脱がせた下半身を流し目で見やる。

 

 

「……興奮してくれて嬉しいな……♡」

 

「うぅ……」

 

 内股にして隠そうとしても、ピンと猛々しく反り返ったペニスはもうどうしようもない。

 

 

「……もう初体験はお済み?」

 

「……一回だけ」

 

「ふふふ……フレデリカ様が知ったら悔しがるだろうなぁ……」

 

 カーリオは胸からペニスまで、嫌らしく指をゆっくり這わせて向かわせた。こそばゆくてイヴニンスは身体を捩る。

 

 

「そう言えば、本当の意味での初めては……ウィルズみたいですね。アレが精通なんでしょ?……あの子、毎日夜になると窓辺に立って、君が来ないかそわそわしてるんですよ。いじらしい子ですよねっ♪」

 

「ぅ……っ……」

 

「……そして君は、とても罪深い人……♡」

 

 ペニスの根元に指が触れ、そのまま睾丸裏までくるりと一周させた。

 

 

「ぁう……っ……!」

 

「恋と快楽で誰彼構わず狂わせる、どうしようもない人……まるで淫魔、或いは悪魔……」

 

「……ぼ、僕の本意じゃない……あくまで仕事、だから……」

 

「……まぁ、そんな事は知ってますよ」

 

 カーリオの指先が、ペニスの裏筋をなぞり上げた。

 

 

 

 

「……だって、僕もそうでしたし」

 

 スッと指が離れた。同時にイヴニンスへのしかかっていたカーリオの身体も、離れた。

 

 

「……え?」

 

 暫し身体に自由が戻り、イヴニンスは当惑気味に身体を起こした。

 カーリオはそのすぐ横で膝立ちになると、まずはエプロンドレスを脱ぎ捨て、黒のワンピース姿のみとなる。

 

 

「フレデリカ様から聞いてなかったですか? あの屋敷にいた男の娘メイドは全員──」

 

 先に、穿いていたドロワーズをずり下ろし、彼はワンピースの裾に手をかけた。

 

 

 

 

「……元男娼なんですよ……♡」

 

 捲り上げ、裏表を返すようにしてワンピースを脱いだ。

 

 

 カーテンの隙間から漏れる光が、彼を背後から照らす。

 角張って筋の通った、肩から腕にかけての線。なだらかながら、引き締まった腹筋。浮いた肋骨と薄い胸板。

 晒されたカーリオの裸体は細身で整ってはいたものの、やはり男らしいものであった。

 

 

 反面、どことなく女性的な要素もあった。

 長い髪、綺麗な鎖骨、きゅっとくびれた腰付き、丸々と柔っこい臀部、少し足を開いて内股に浮き出たの薄筋*3、ぷっくりと勃った乳首。

 

 

 脱いだ衣服を乱雑に床へ落とし、彼は身体を反らして自らの裸体を艶かしく誇示する。

 醸される色香の強さは、男と分かっているイヴニンスの目を奪ってしまうほどだった。

 

 

「……僕の身体も、すっかりお姉様方に作り変えられてしまいました……君も、僕のようになるんですよ……?」

 

 それがまた嬉しいとも言いたげに、カーリオはイヴニンスを見据え、少し首を傾げて蠱惑的に微笑んだ。

 

 

 

 

「……まぁ、僕が何であれ……今から君を抱くのは、その僕の方なんですけど♡」

 

 カーリオは後ろを向いて、『亡骸の顎』と『溺れた魚』が置かれた小テーブルに手を伸ばす。

 そのテーブルには引き出しが付いており、彼はその中から何かを取り出した。

 縦長の瓶に入った、ブリリアントイエローの液体。何なのか検討も付かないイヴニンスは、半ばとろんとした瞳のまま眉を寄せる。

 

 

「……それなに?」

 

「オイルですよ」

 

 

 

 オイルと聞いた途端に、そのとろんと緩んだ表情は引き締まる。

 

 

「最近話題なんですよ? ハンドメイドのオイルも売っているマッサージ屋さんがありましてね。少し値段は張るけど、これがとんでもなく高品質で!」

 

「…………そのマッサージ屋の名前は?」

 

「リムバケット・トゥエンティー・フィンガーズってお店です。ちょっと治安の悪い所にあるのが難点ですが……」

 

 変態狐姉妹が作ったオイルと聞き、イヴニンスは頭を抱えた。

 同時にそのオイルが、どう言う目的で使われる物なのかも察して、頬を染めた。

 

 

「お尻は女の人の膣と違って濡れませんからね。滑りを良くしなきゃ……」

 

「…………」

 

「あっ……ねぇイヴ? お尻の経験はある?」

 

「……な、ない」

 

「……ホントに?」

 

 疑わしげにウサギ耳をピコピコさせ、ジトっと睨んだまま詰め寄られる。観念したイヴニンスは真っ赤な顔で白状した。

 

 

「……指は挿れられた……ぜ、前立腺ってところも弄られて……これも一回だけ……」

 

 そのオイルの作成者に、とは隠しておいた。

 イヴニンスがお尻の経験もあると把握したカーリオは、少し残念そうにしてから安堵したように頷いた。

 

 

「じゃあ……まだ『処女』ですね♡ ホントは僕がナカイキの初めてまで取りたかったのに……」

 

「……ね、ねぇ……そ、その……」

 

 ちらりと、イヴニンスの目線がカーリオの股間に向く。

 扇情的な彼の身体と雰囲気をぶち壊すような、大きく、そして亀頭の皮が剥けたペニスが、腹まで反り返らんばかりに屹立していた。

 

 

「……ソレを……本当に……ぼ、僕の……ナカに?」

 

「……えぇ? だからあの本を読ませたんじゃないですか」

 

 瓶を開け、中のオイルをトロトロと手に多く垂らす。

 そして上目遣い気味にカーリオは、イヴニンスを見据えた。

 

 

 

「僕が、君の処女を散らすんですよ……『水揚げ*4』ってヤツですね……♡」

 

 お腹の中が疼いて仕方ない。

 無意識にイヴニンスは生唾を飲む。それが期待から来た行いだとは、気付けなかった。

*1
この世界での「安い部屋」とは狭い部屋ではなく、インフラ設備が脆弱な部屋を指す。相当な貧民街を除き、どんなに安い部屋でも基本1LDKほどの広さはある。

*2
舌を覆うこの突起も乳頭と呼んだりする。その乳頭の内、味覚を感じ取れる部分は味蕾と呼ばれる。

*3
太腿の内側にある筋肉で、主に股関節の駆動を担う。開脚をした際に、股下から太腿にかけて一本の太い腱のように表出する。この表出箇所がフェチズムだと言う紳士も多い。

*4
遊女が客と寝て、処女を喪う事を表した隠語。




▼イヴちゃんエロエロ感度累加記録♡
[イヴくんもお休みだし……アレ?お休みでない?]


▼ナイトマンダイアリー
[イヴニンス氏、もしかして……?]
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