男娼少年イヴ -亜人っ娘だらけの異世界で穢され嫐られ毎日- 作:ノーティー・ナイト・ザ・リーアム・クラブ
朝帰りの後、オフィスできちんと風呂に入ったイヴニンスは、暫し部屋で読書をして休んでいた。
彼の手には、カーリオから借りた何冊かの本の一つが取られていた。
また三時間ほど経ってからナイトマンが入室する。
先ほど回収した精気が余程高純度だったのか、やけに上機嫌だった。
「イヴニンス氏! ナイスですぜ! 今回の仕事は本当に良かった! なんだやれば出来るじゃないですかぁ、あなたぁ!」
「…………」
基本的にどこか冷めた感じのするあの彼がテンションを抑え切れていない。それほど凄かったのかとイヴニンスは察する。
「しかしまぁ、ちと意外ですな。イヴニンス氏、相手が男の方が良いんですかね?」
「なっ……!? そ、そんな訳ないだろ!?」
「いや、男同士で一線越えた人が言っても説得力ねぇですけど」
恥ずかしそうに口元を本で隠し、しどろもどろになりながら弁明する。
「……僕だってそりゃ……多分、女の人の方が好きなんだと思うけど……」
「けど?」
「……その……み、見た目が女の子だから、その、あの……色々と錯覚してしまう……って、言うか……」
目の前の男には隠し事が通じないと思い出し、ごにょごにょ言いながら「墓穴を掘ったか」と後悔した。
案の定、ナイトマンは全て見透かしたように目を細め、小さく頷き容赦なく言語として突き付ける。
「自分のより綺麗な身体とデカいイチモツにドキドキしちゃったんすな」
「は、は、はぁ!? 何言ってんだ!?」
「図星ですか」
「そんな訳あるかっ!!」
「まぁなに。同性だからこそ分かる魅力ってのもありますもんですぜ」
「だから違うってば!!」
すっかり赤面となったイヴニンスは、その恥ずかしさを誤魔化そうと傍らにあった枕を投げ付ける。
ナイトマンはそれをあっさり受け止めると、恐らく本題であろう仕事の話を始めた。
「また今晩も仕事が入りました故に、ご準備だけお願いしますな」
受け取った枕を、そのままイヴニンスの元へ放り投げて返す。
ボフッとそれを顔で受け、くぐもった声が漏れる。
「蟲人のお客様なんでよろしく」
言うだけ言って出て行こうとするナイスマンを、顔から枕を押し退けてからイヴニンスは呼び止める。
「オイ待て! 聞きたい事があるんだけど!」
「あ。注文した本棚はまだ製作中ですんで」
「本棚じゃなくて! ほら、その……僕にかけたって言う催眠術って奴の話」
「そんなんありましたな」
「もう解いてくれない? お陰で何でもかんでも相手の言いなりにさせられて大変なんだぞ……」
ナイトマンはキョトンと、惚けた表情を見せて言う。
「とっくに解いてますぜ? リムバケット姉妹の時に。イヴニンス氏の方が従順になってるんですよ、だから解きました」
そう言い残して閉められた扉。ぽかんと眺めているイヴニンス。
少しの間を置いて全てを理解し、怒りと羞恥を折半させた感情を込み上げさせ、顔を真っ赤に染めた。
夜になり、アーリーの付き添いの元、例によって蜥蜴車に揺られながら仕事場へ。
「ちゅっちゅっちゃ♡ イヴくんどんどんエロくなってる〜♡ お姉さん嬉しい〜♡」
「離れろ馬鹿っ!!」
横並びで抱き付き、身体を弄って来るアーリーと格闘しつつ、目的地に到着する。
蜥蜴車から降り、客が住んでいると思われる家を確認したイヴニンスは驚いた。
そこは繁華街から離れた閑静な高級住宅地の、更に道路からも離れた場所にあった。
白樺が生い茂る広い庭の中、その中央にぽつんとある、シンメトリーにして直線や垂直線が際立った造りの灰色煉瓦の屋敷。まるで世俗から隔絶されているかのように建っており、暗い森の中でぱっと場違いに明かりを灯したその屋敷は、まるで物語に出て来る悪い魔女の住む家のようだ。
「……なんだここ。庭と言うか……公園じゃないか」
「これまた凄いトコに来ちゃったねぇ」
敷地はぐるりと、湾曲したデザインが美しいアイアンフェイスが囲っており、中に入るには今イヴニンスらの前に建っている門を潜り抜けるしかない。ただ門自体に施錠はされておらず、イヴニンスが軽く押すだけで難なく開いた。
屋敷の前までは一本の道が続いており、木々が不気味に騒めく中を少し歩かされる。
「……庭だけでどんだけあるんだ。もう家の方がオマケって感じだぞ……」
「私の見立てじゃ……コレは相当な人間嫌いさんが住んでいると見えるね!」
「庭の維持費だけでも馬鹿にならないだろ……」
屋敷に入る前から圧倒されるイヴニンス。一方のアーリーはこの光景を楽しんでいるようで、屋敷までの道中にある小さな石橋の上をクルクル舞いながら渡っていた。
イヴニンスのその橋を渡る。途中で下を見やると小川が流れており、その先には池が作られていた。
「……拘り過ぎだ。こんだけやるなら、もう街じゃなくて山の中とかに建てたら良いのに……」
感心と呆気を半々に抱きながら、扉を叩いているアーリーの後ろに付く。
「どうもー! お待たせしましたー! 当店目玉商品のイヴくんをお届けに参りましたーっ!」
「商品とか言うな……」
「あら、嫌だった? じゃあ……帝都随一の性欲処理能力を誇る、共有彼氏イヴくんをーっ!」
「余計に酷くするな!」
しかし扉の向こうから応答はない。使用人すらいないようだ。
軒先に吊るされたランタンが赤々と闇を晴らしている。その灯りを浴びながらアーリーは、ムッとした顔でまた扉を叩く。
「あのー! すいませーん!」
扉に耳を当ててみるものの、やはり応答もない。
「ちょっとちょっと! 呼んだのに出ないって、失礼なんじゃないですかー!? こうなったら蹴破ってでも……」
「……?」
ふと視線を下げた際にイヴニンスは、扉の隙間に挟まっていた紙に気付く。
「……なんか……手紙みたいなのがあるけど」
「手紙ぃ?」
拾い上げ、紙を裏返して文が書かれてある面を読む。
そこには簡素に「鍵は開いている。男娼だけ入って。他は帰って」とだけあった。
「……だってさ」
「はぁ〜ん……なるほどぉ……文章からして人嫌い感出まくりだし……もうイヴくん以外興味ないってのがもう、筆跡からすっごい滲み出てるし……」
拗ね顔で唇を尖らせるアーリーだったが、すぐに諦めたように溜め息を吐いてから踵を返す。
彼女も仕事で来ている分、客の意向には極力従わなければならない事は承知だったのだろう。相手の言う通り、イヴニンスを置いて帰ろうとし始めた。
「じゃあ、朝になったら迎えに来るからねぇ〜……」
「ねぇ。今日の客はどんな人なんだ?」
「あれ? 言ってない?」
「……ずっと僕にベタベタしてただけで何も聞いてないぞ」
自分の額を叩いて茶目っ気を見せながら、また踵を返してイヴニンスに向き直る。
その手には、一冊の本が乗っていた。
「……なにそれ? 本?」
おずおずと受け取り、表紙を見る。
タイトルと作者名を確認した途端、イヴニンスは驚き顔で「あっ」と声を漏らした。
「これ……カーリオが買ってた本じゃ……!」
「んふふ……今夜のお相手さんは、その本の作者さんだよ!」
それだけ言い残してバイバイと手を振ると、彼女は蜥蜴車の方へ去って行った。
一人残されたイヴニンスは改めて本のタイトルを見やる。
タイトルは、『亡骸の顎』だ。
本を抱えながらイヴニンスは恐る恐るドアノブに手を掛ける。
手紙にあった通り施錠はされておらず、扉はそのまま開かれた。
玄関ホールは広く、また幻想的な造りであった。
中央には木の幹のような螺旋階段があり、その先にある天窓から差し込む月光がホール全体を青く柔く照らしていた。
「……暗っ」
ホールを照らす光は、まさにその月光のみ。
青白く差し込まれた月明かりが朧に家具や階段、壁の輪郭を情けなく浮かび上がらせるばかりで、視界は明瞭とは言えない。
せめて転ばないようにと足元に注意しながら、イヴニンスは扉を閉めてホールの中央へと歩き出す。
どこへ行けば良いのか分からず、辺りをくるりと見渡す彼だったが、ふと闇の中で鈍く光る何者かの瞳が目に入り、身体を跳ねさせる。
「うわ……っ!?」
小さな悲鳴を呼び声とでも思ったのか、その光る瞳の持ち主は壁を這い、床に付き、イヴニンスの足元にまで寄る。
月明かりの下に現れたそれは、大型犬ほどに大きな身体を持った、錆色のカナヘビだった。
「か……カナヘビ……?」
カナヘビは二股に割れた舌をチロチロと見せながら、つぶらな黒い瞳で興味深そうにイヴニンスを観察する。
噛まれはしないかと少しだけ慄くイヴニンスだったが、カナヘビは床を這って旋回し、長い尻尾を彼の目の前で揺らめかせた。そして首だけを回し、ちらりと流し目で見やる。
「……つ、ついて来い……って、言ってるのか……?」
イヴニンスが意図に気付いたと見るや、カナヘビはまたカサカサと螺旋階段の下まで這い進み、手摺の隙間を擦り抜けるようにして登り始めた。
それに続くようにイヴニンスも、丁度真上にある天窓から見える月を目指すかのように、螺旋階段を恐る恐る上がる。
カナヘビは螺旋階段で二階フロアに付くと、時折イヴニンスが付いてこれているのかを確認するように振り返りながら、暗い廊下を先導する。
廊下は暗いオーク材で構成されており、しかも敷かれている絨毯も灰色なので、宵闇を一層引き出しているかのようだ。
「……陰気臭いな」
そうぼやきながらも、淡々と案内を続けるカナヘビに付いて行く。
すると暗く黒い廊下を裂くように照る、明るい光が現れた。その光は廊下の一角にある扉の隙間より漏れており、カナヘビはその隙間からスルリと室内に入って消える。
光があると言う事は誰かいる証だろう。これからする事に緊張を覚えながら、一度深呼吸をしてからイヴニンスは扉を開けた。
入った部屋は、見た感じでは書斎のようだ。
部屋の一角に本棚が置かれ、それに挟まれるように机が置かれている。
その机に向かい合い、タイプライターを打ち続けている蟲人の女が一人。傍らに置かれたランプの煌々とした明かりを受け、やや苛立たしそうに長い蟲手で頭を掻いている。その蟲腕や脚にはララの時とは違い、柔っこい白い毛がフワフワと生えている。
イヴニンスが唖然とその後ろ姿を見ている間に、カナヘビは彼女の足元に辿り着く。
しゅるしゅると舌を出し入れして音を立て、執筆に勤しむ自らの主人に存在を気付かせる。すぐに彼女はタイプライターを打つ手を止め、カナヘビへ手を伸ばして頭を撫でてやった。
その際にやっとイヴニンスの存在にも気付いたのか、くるりと振り返った。
「あ……」
やっと今回の客と顔合わせとなり、まずイヴニンスは困惑気味に声を漏らした。
鼻眼鏡*1のレンズ越しにこちらを観察する、赤い目の少女。
目元は眠たそうに垂れ、疲労が出ているのか顔色も悪くて青白い。茶色の髪も長い割に手入れが行き届いていないようで、唸ってボサボサだ。
顔立ちは決して悪いものではない、寧ろ美人と呼ばれるほどだ。だが不健康そうな見て呉れに、表情からも伺える苛ついた様子が美麗さよりも厳しさと危うさを主張させている。
「……あー……そういや呼んだっけ」
イヴニンスを視認し、思い出したように気怠げな声を出す。
「……忘れていたのか」
思わずズッコケかけるイヴニンス。
彼女はやや面倒臭そうに溜め息を吐くと、カナヘビを蟲腕で抱きかかえてから、ふらりと立ち上がる。
蟲人とあってかララのような感じを想像していたイヴニンスだが、向かい合わせで立つ彼女は存外に小ぢんまりとしていた。身長自体はイヴニンスよりあるものの、目線がほんの少し高い程度。
服装は丈の長いインディゴのドレスで、肌寒いのか肩周りにカシミアの赤いショールを羽織っている。
だがやはり目が行くのは、人外的な部分。身長差が少ないにしろ、彼女は蟲人だ。
裂け目のラインが耳まで走った口元、人間らしいものと蟲じみたものがある多腕の種族、と言う点はララと一致している。
相違点は、触角と羽根がない点。そしてララの脚は蟲のものだったのに対し、彼女の脚は人間のもの。そしてまた、全ての手足を合わせ、十本ほども数がある点だろう。
腰から伸びてもう一つの脚のように機能している蟲脚が二本、背中から生えている蟲腕がまた二本、そして首の後ろから生えた一際短めのものが二本。そのどれも、柔い毛がフサフサと生えている。
(同じ蟲人でも……これだけ身体が違うんだな……)
頭の中でララの容姿と比べては、驚きと興味が同時に表れて尽きない。思わず観察してしまっているイヴニンスの手前で、彼女はペットを撫でながら彼が小脇に抱えている本に気付いて声をかける。
「……あれ。それ、アレじゃないの。アタシの作品じゃんか」
アーリーから渡された、『亡骸の顎』だ。
抱えていたそれをイヴニンスは両手で持ち、彼女に見せる。
「あ……あぁ……でもこれ、渡されただけでまだ……また仕事が終わってからでも読んで──」
「あー……読まなくて良いよソレ。ひっどい駄作だから」
「……は?」
作者本人から「読まなくて良い」と言われ、唖然とするイヴニンス。
一方のその作者本人はバツが悪そうに目を逸らし、ヒト手で頭を掻きながら愚痴を捲し立て始める。
「そもそも書き出しから面白くないって思ってたし、もうちょい言葉選びとか構成とか練りたかったのに、締め切りがやたら短めだったしさぁ。アタシはボツだって言ったのに、勝手に置いてた草稿を持って行ってからに……」
「そ、そうなのか……」
「正直読めたモンじゃないわそれ。アタシは恥ずかしくて、一節も読めないわそんなの。そもそもなに?『明日が始まり、今日が終わる。その度、終わりへと歩み寄る』って書き出し? ダサ過ぎる」
「……自分で書いたんじゃないか」
「その時は『良い』って思ってただけ。後から読んだら酷いってのはもうザラよザラ」
自身の新作を、まさかの作者本人が酷評しまくる。
内心で「カーリオがいたら泣くんじゃないか」と想像し、イヴニンスは苦笑いしてしまう。
一頻り愚痴を吐き終えた後、溜め息と共に彼女はまた顔を向けた。
「……まぁ、終わった事はもう良いや……で? アンタが噂の高級男娼?」
鼻眼鏡のレンズ越しに目を細め、イヴニンスを品定めする。合わせるように腕の中のカナヘビも、無感情的な瞳で彼を見つめていた。
品定めされている事と、これから間違いなくいかがわしい事をすると分かっているので、イヴニンスは羞恥から頬を赤らめ、目を伏せる。
「うっ……」
「金額見た時は喧嘩売ってるのかなって思ったけど……ふぅん……ほぉ〜……」
透き通ったプラチナブロンドの髪に、絶世と称しても差し支えない顔立ち、服の上からも分かる華奢で扇情的な身体付き。何よりも今の、本を胸に抱えて恥じらう姿がまたいじらしく官能的だ。
「……エロいじゃんさ」
「な、なに言ってんだ!?」
「その媚びてない感じが良いね。天然素材でそう煽って来るなんて、天性の才能だわホント」
「なっ……あっ……!?」
真っ赤で言葉を詰まらせているイヴニンスから、彼女は伸ばした蟲手で『亡骸の顎』を抜き取る。
「あ……」
「じゃあ時間勿体ないし、部屋移動するよ」
そのままイヴニンスを通り過ぎると、カナヘビを抱いたまま書斎から出ようとする。
少し呆然とその後ろを見ていた彼に、扉を開けた彼女が顎を上げながら呼ぶ。
「ほら、早く」
そう言い残すと、扉は開けたまま暗い廊下に消えた。
少し会話しただけだが、今回もまた強烈な客だなとイヴニンスは小さく溜め息を溢す。
「……天才詩人、『キロネ・デル・レイ・ライコーサ』ねぇ……」
一人書斎で彼女の名を言ってから、イヴニンスも書斎を出て扉を閉めた。
廊下を歩きながら彼女──キロネは口を開く。
「無駄に広いからなぁ、この家も」
イヴニンスは彼女の後ろから、ヒト脚に合わせてヒョコヒョコ駆動する蟲脚を見ながら話しかけた。
「無駄に広いのは庭のような気がするけど……」
「自然が好きなの。執筆も捗るしさ。街はゴチャゴチャしていて好きじゃない」
「……だったらどこか、田舎とかに住んだら良かったんじゃないか?」
「田舎じゃ何もないじゃんか。ちょっと行ったら何でも買えるぐらいの手軽さだけは、都会の良いトコ」
「……でもって、わざわざ庭まで買う必要はないだろ。自然が好きなら、休みの日に山とかに行けば……」
「いや面倒臭いじゃん」
思った以上に奇人だと察したイヴニンスは、静かに頭を抱える。
自然は好きだがわざわざ出向くのは面倒なので、広い庭を買った……貴族でもそうそうしない金の使い方に理解が及ばなかった。
「面倒臭いって……」
「それにここのところ書いてばっかで全然遊びに行けないし。だったらすぐ手の届く所に庭でも置いといた方が良いかなぁ〜って。金は無駄にあるし」
ふとキロネを絶賛していたカーリオの姿を思い出す。人気詩人だと聞いてはいたが、公園ほどの庭を買えるほどだとは予想外だった。
しかし当の本人は全くそれを鼻にかけていない。寧ろ自作品を酷評する有り様だ。
どうにも世間の人気と本人の自己評価とが食い違っている。そこもまたキロネの持つ独特な価値観と、浮世離れしたような風格を際立たせていた。
色々と話し込んでいる内に目的の部屋に着く。
入室する前にキロネはまず、今まで抱いて撫でていたペットのカナヘビを床に下ろした。
「はーい、『ポーちゃん』はここまで〜。男娼くんの案内ありがとね〜」
「ポーちゃん……」
カナヘビことポーちゃんは名残惜しそうにキロネを見つめた後、踵を返してトコトコと離れて行ってしまった。
見えなくなるまで目で追っていたイヴニンスだが、扉の開閉音を聞いてまたキロネの方を見やる。彼女は先に部屋の中へ入っていた。
イヴニンスも続けて扉を潜れば、そこは品質の良いソファや椅子が置かれた暗い
てっきり寝室とばかり思っていたので、驚いた顔で部屋中を見渡す。
「……ソファでするつもりなのか……?」
何だかパニアを思い出すなと小さく呟いてから、室内へと。
その間キロネはマントルピース上にあった油差しを手に取り、暖炉内に既に置かれていた薪に油を撒いた後に、マッチに火を付けて放り込む。火はすぐ燃え広がり、パッと室内を明るくした。
「んじゃ。ヤろっか」
キロネはソファに座り、足を組んでからイヴニンスを誘う。
「ここんとこずっと書いてたからムラムラしてんのね」
「……ええと……べ、ベッドとかじゃないの……?」
「寝室遠いし」
「…………」
もう彼女に「普通」は通じないのだなと悟り、その極端な面倒臭がりに飽き飽きしながらも従う事に決めた。
誘われるがままにキロネの隣へ歩く。ついこれまでの秘め事を思い出しては、顔を赤らめ緊張してしまう。
様々な感情を抱きながら、何とかキロネの隣に座る。すると彼女は付けていた鼻眼鏡とショールを外し、長い蟲腕を使って「亡骸の顎」と一緒にテーブル上に置いた。
「じゃあ始めるよ」
「……う、うん……」
また押し倒されるのだろうかと、背筋と足をピンと立てて身構えるイヴニンス。恥ずかしくてキロネの方を見られない。
暖炉の中で薪が何度か弾ける音がする。それが消えたのを合図とするように、キロネはイヴニンスに身体を向け、腕を広げた。
来る……と、目を瞑ったイヴニンスの膝にキロネは倒れた。
「うわああああんっ!! ママぁぁーーっ!!」
そしてイヴニンスの太腿の上で頬擦りしながら、泣き言を喚き始めた。
さっきまでの澄ました風貌から打って変わり、完全に子どもの言動。驚いて目を開け、イヴニンスはそのまま瞬いた。
「……は?」
「もうお仕事やだぁぁぁーーっ!! 書きたくなぁーーいっ!!」
「…………は?」
「やだやだやだやだーーっ!! わあーーんっ!!」
「…………えっと」
「なによ」
「うわっ……!」
かなり不満そうな顔付きでキロネは一度身体を起こし、また最初の性格に戻る。
あまりの豹変ぶりに慄きながらも、イヴニンスは尋ねた。
「……今のなに?」
「なにって、甘えてんのよ」
「いや……は……は?」
苛々した様子で髪を掻きながら、寧ろイヴニンスの無知を嘆くかのように要件を言った。
「アンタ、今からアタシの『ママ』。だから目一杯、アタシを甘やかして」
そう言うとまたバターンとイヴニンスの膝に倒れ込み、スリスリと太腿に顔を擦り付ける。
「うへへ……ママのお膝大好きぃ〜……」
「…………いや……僕、男だけど」
「はぁぁぁあ〜〜……物分かり悪いなぁ……いいからママになれば良いんだってば!」
「え……えぇ……?」
混乱するイヴニンスを置いてきぼりに、ひたすら彼の膝上で頬擦りして甘えるキロネ。
すっかり押し切られ、諦めが付いたイヴニンスは、もうなるようになれと流される事を選び、それ以上の質問をやめた。
▼イヴちゃんエロエロ感度累加記録♡
[おやちゅみ♡]
▼ナイトマンダイアリー
[童心に帰るのが一番のストレス解消だ]