男娼少年イヴ -亜人っ娘だらけの異世界で穢され嫐られ毎日- 作:ノーティー・ナイト・ザ・リーアム・クラブ
この世界の人類の寿命は、イヴニンスよりも二倍長い。イヴニンスにとっては老年期であろう六十代でも、この世界ならばまだ三十代ほどの年齢だ。
とは言え多くの人間は長い寿命に価値を見出しておらず、「若い時期が長いだけ」と考えているが一般的な認識だ。
寿命が二百歳と言うのはあくまで理論上の話。病気に事故に災害に事件と、死の要因はたくさん存在する。
実際、百歳まで生きられるのは恵まれた者だけで、多くの人間はその前に命を落としている*1。未だ死は身近なものだった。
また寿命が二倍だからと言って、赤子の時期が長いとかでもない。十八歳までは我々の世界の人間と同じようなスピードで成長し、以降はそのスピードが緩やかになる、と言った不思議な人体の仕組みだ。
そうした事も踏まえてか、寿命に対して時間感覚はイヴニンスとあまり変わらないようだ。
「学校」の仕組みや修業年限が似たような感じなのも、「子どもの成長は早い」と言う要因が故だ。
多くの帝国民は五歳から十歳ぐらいで国民学校に入学し、読み書きや計算を三年かけて教わる。
一方、最新鋭の教育を受けられるのはやはり上流階級のみで、その子どもたちは華やかな
寄宿学校の修業年限は八年。入学は十一歳から。卒業後は大抵、大学に行くのが一般的なエリートコースだ。
近年、産業革命を迎えた帝都アーニマでは、裕福な中流階級の子が寄宿学校に入学すると言った流れが出来始めている。
だが元より上流の人間からすればそれは、「成り金が貴族の真似事」をしているようにしか見えないだろう。
ガウアー家はワインを取り扱う会社を興している。
産業革命による大量生産・大量消費の時代を見越し、国内外の多くのブドウ農家と締結し、工事を作り、ワインの量産化と低価格化に成功。貴族の飲み物と言う印象が強かったワインを、身近な飲み物に変えた。
パブの経営も見事に当たり、莫大な資産を手にしたガウアー家は、「更なる発展には高い教育が必要だ」と次期当主である長女を寄宿学校へ入学させた。
三年生の「エレノア・リンダ・ガウアー」は、そう言う背景で名門寄宿学校「クイーンズ・スクール」に入った、ピューマ獣人の少女である。
大変だった。有名な家庭教師を雇って、勉強詰めの毎日だった。
しかし前述の通りガウアー家は由緒正しき貴族ではなく、元は小さな酒屋の一家。産業革命の波によって中流から成り上がった、いわゆる成り金だ。
故に、クイーンズ・スクールでの肩身は、三年を経ても狭い。
「あら? ミス・ガウアーじゃないの」
「ゲッ……」
バッタリ廊下で鉢合わせたのは、入学当初から中流出身のエレノアをいびり倒している、いわゆる「クイーン・ビー」の犬獣人少女。今日も今日とて、取り巻きを引き連れて現れた。
「はっ……なんですの? その姿勢の悪さ。まるでご老人でしてよ?」
ずっと机に向かって勉強していたせいか、猫背が癖付いてしまっていた。鬱陶しそうな顔で、ピンッと背筋を伸ばす。
「あなたも三年生ですわね? 三年経っても貴族らしさが身に付かないなんて……やはり所詮は成り上がりの中流。染み付いた垢は落とせないのでしょうか?」
そう言って取り巻きと共にクスクスと笑う。嘲笑さえも上品なのだから腹が立つ。
彼女は「アリア・ブーケット・シェリンガム」。名前から既にオーラが溢れているが、親が伯爵と言う名前負けしていないお嬢様だ。
ふわふわと触り心地の良さそうな、茶色と白の髪と尻尾。ぺたんと折れた獣耳。知的な顔付き。風貌からして、明らかに格上だ。
赤の他人なら憧れもしただろうが、あいにく今の間柄はクイーン・ビーとターゲット。その高貴で気取った風貌が、エレノアを苛立たせる。
「……そう仰るミス・シェリンガムも、案外俗っぽいのですね。路傍の石を見たら積極的に蹴飛ばせと伯爵様から教えられているのですか?」
エレノアの切り返しに「まぁ!」と声を上げるアリア。
「あら失礼! 中流出身で、何も知らないミス・ガウアーに親切心で忠告してあげましたのに……わたくしの思いやりに気付いていただけないなんて、とても悲しいですわ……」
「……だったら一言多い気がするのですが」
「そうかしら? さりとて、事実ですし……ねぇ?」
わざとらしく悲しい表情を見せるアリアと、賛同する取り巻きたち。思わず口角がひくつく。
そうこうしている内にベルが鳴る。授業の予鈴だ。
「それではごめんあそばせ?」
すれ違う際に、彼女はボソッと、
「……成績、これ以上落ちる事のないように」
言われたくない言葉を残してから、アリアは取り巻きと共に去って行った。
残ったエレノアは一人、舌打ちする。
「……いちいち言うんじゃないわよ。人の成績のこと……」
しかしアリアの言う通り、成績はやや下降気味であった。
二年生まではなんとか食らい付いていたものの、三年生から授業が難しくなった。
そもそも入学試験さえも結構ギリギリのラインだったと、呆れ気味に教師から言われた事もある……それをわざわざ言う教師も教師だが。
学生生活はあと五年も残っている。しかし既に、焦りが出始めていた。相当頑張らないと、進級自体が危うい。
こんな場所来るべきじゃなかったと今では後悔している。
一つ授業が終わり、次の授業が行われる教室に移動する。
その際、廊下で談笑する下級生の話が耳に入った。
「この間さぁ、買ったって子。どうだった?」
「えぇ! とても懐っこくて、可愛らしい方でしたわ!」
足が止まる。
明るい色の巻き髪の子が、嬉々として話していた。
「身体の相性も抜群でしたし……卒業した暁には私が身受けしても……♡」
「遅い遅い遅い……六年あったらもう他の誰かに盗られちゃうってば。私の従姉妹も、将来を真剣に考えていた男娼盗られて今でも落ち込んでるし……」
「うっ……卒業してからは遅い……では母上に頼んで、我が家に監禁して貰おうかしら……」
「それはマズいと思うなぁ〜」
そう窘めながらも、友達はフォローしてやる。
「まっ! 先に全力で蕩けさせれば良いってだけ! 目付けた男を捕まえられずして、淑女の恥だよぉ?」
エレノアは人知れず溜め息をこぼす。
男を買うは、淑女の嗜みだ。
買った男を、自分しか考えられないほどとろとろに抱き潰す事、それが貴族たる力の証明でもあった。
なので大抵の貴族は、遅くても十二歳までには処女を捨てている。
いや貴族は、と言うより、中流だろうが下流だろうが、殆どの人間がそうだろう。みんな恋人だったり男娼だったりで、性交を経験している。特に獣人は情熱的で、そう言ったものに積極的だ。
ただ貴族の場合は高級サロンの目を見張るような美男子を買ったりと、やはり下々の人間とはレベルが違うが。
そして十四歳のエレノアだが……残念ながら処女だ。
勉強に追い付くのに必死で機会を逃してしまった。定期的に男を買いながらも成績優秀な面子に戦慄を覚える。セックスしながら暗記でもしているのではないだろうか。
出会いが無さ過ぎて父親や祖父以外に男と接した経験がない事に踏まえ、元来の人見知りも祟り、男を前にしたら緊張してしまう処女っぷりを発揮。
少なくとも獣人的には恥ずべき事であり、家族にも言えないコンプレックスだ。
(……このまま処女だったらヤバいな……)
そんな焦燥感は、予鈴に一旦、掻き消された。
一日のカリキュラムが終了し、食堂で夕食が振る舞われる。
食堂と言ってもそこは豪華絢爛とした大ホール。エレノアが始めて来た時はダンスホールかと勘違いしたほどだ。
だがそれに胸を躍らせたのは最初だけで、今ではすっかりホールの隅で一人虚しく食べている始末だ。
「……ゲッ……」
一方で向かい側。アリアが見せつけるように、多くの取り巻きと共に食事を楽しんでいた。
絡まれないよう急いで食事を済まし、さっさと席を立った。我ながら情けなさ過ぎて泣きそうになる。
「…………」
ちらりと横目でアリアを見た。
取り巻きにチヤホヤされ、輝かしい将来が決まっていて、才色兼備……結局、血統には誰も敵わないのだろうか。
アリアを遠巻きに見つめる下級生たちが、こそこそと噂話をしていた。
「ねぇっ! 聞きました? ミス・シェリンガム、あの『椿王子』を買ったそうですわ! 一緒に繁華街へ行くところを見た方がいるの!」
『椿王子』は知っている。いや知らない者などいようものか。
帝国に数多いる男娼のその頂点にいる人物。皇族さえ虜にさせる、帝国一の超高級男娼だ。添い寝するだけでも庭付きの別荘を買うに等しい金が必要と聞く。抱くともなればそれ以上だろう。
下級生たちは続ける。
「羨ましい……最高の夜に決まっていますわ……」
「お金があっても断られる方がいると聞くのに……」
「欠点を探す方が難しいよ」
「私たち下級生にも優しいしね!」
「食事をして談笑されるだけでも絵になりますわね」
「さすがはミス・シェリンガム。未来の伯爵様ですわ」
「ホント綺麗だよね、ミス・シェリンガム」
ミス・シェリンガム、ミス・シェリンガム……彼女を讃えるその声が耳障りに思い、エレノアは止めていた足を動かした。
「…………クソ……」
口をついた悪態でさえ、誰の耳にも入らない。
惨めな劣等感を抱えたまま、身を隠すように出て行った。
寮に戻ったエレノアは、ずっと自室で勉強していた。
しかしどうしても分からない箇所があり、そこでずっと躓いてしまう。
「……全然ダメっ!」
苛立ちを吐き出した後、勉強は取りやめてベランダに出た。
ベランダの隅には幾つかの植木鉢が置かれており、その一つにはマリーゴールドが植えられていた。
ジョウロを持ち、水をあげる。それでも少ししおれている花弁見て、エレノアは呟く。
「……もうそろそろマリーゴールドも厳しい季節よね。新しい種買わないと」
彼女の趣味は、園芸だった。実家では花の他に、ラズベリーやグーズベリー*2なんかも育てていた。
季節毎に花を植え替え、愛でる。忙しい毎日の中のささやかな癒しだ。
「……お疲れ様。ふふっ」
そう言いながら、種から育てたマリーゴールドを名残惜しそうに撫でた。
再び室内に戻る。机の近くまで来たが、今日はもう勉強する気になれず、制服のままベッドに横になる。
まだお風呂に入ってない、ブラウスとスカートが皺になる、勉強だってまだ分からないところが……考えるのが面倒臭い。
「…………」
天井を眺め、ぼーっと思考を止める。
すると不意に訪れる、ムラムラ。
「……はぁ……課題ばっかだったから全然シてなかった……」
もじもじと膝を擦り合わせる。頭に詰め込んだ学びが飛んでしまいそうで、正直やりたくはなかった。
だがもう理性ではどうにも押し込めないほど、身体は発情していた。それに、そんな状態だとしても、劣等感と嫌な気分が脳内に渦巻いている。
「……あぁ、もう……!」
この気持ちを消してしまいたい。その一心でとうとうドロワーズ*3を脱いでしまった。
スカートの下、外気に触れる性器。
深く深呼吸した後、エレノアはスカートを捲って、割れ目に触れた。
「んっ……」
彼女のそれはぽってりとした大陰唇により、ぴっちり閉じて筋となっていた。
その筋に軽く中指を差し込み、膣口から陰核にかけてをゆったり擦る。
「んぅ……ふぅ……っ……」
ピリピリとした刺激が込み上げて来て、気持ち良い。
もっと刺激が欲しくなり、ブラウスのボタンを外し、ブラ*4を曝け出した。
着用しているのは、レースのハーフトップブラ。中央に連なるボタンを外し、乳房を解放する。
「……ホント貧相な身体……」
コンプレックスなのは僅かに膨れた程度の胸、そして小さくて痩せた身体。下手すれば入学したての下級生にも間違われかねないほどだ……子どもの頃から勉強漬けだった弊害だろうか。
それでもツンと主張する乳首。空いていた手で、それを弄る。
「ホントに……ッ……クソッ……!」
手の平で乳首ごと胸を押し潰し、グリグリと捏ねるのが好きなやり方だ。
そうして胸を弄りつつ、性器の方も指を動かす。
「ふっ……ふっ……んぅ……っ……!」
身体を横倒しに、尚も続ける。
性器は次第に湿り気を帯び、ちゅくちゅくと音が聞こえた。
伴って、割れ目を擦っていた指も湿る。その湿った指で、陰核に触れた。
「んぁ……♡」
強い刺激で、身体が跳ねる。
上手く指を使って皮から更に陰核を飛び出させると、それをクリクリと指先で転がす。
「く……ぅう……っ……♡」
ぴくぴくと身体が快感に悦び、反応する。
胸の方も、乳首を指で摘むように弄る。摘んで、少し引っ張るのが好きだ。
「……はぁ……♡……ぁ……ん……っ……♡」
暫くそうやって胸と陰核を責めていると、お腹の底から迫り上がるような快感がやって来る。絶頂が近い。
「はあっ……♡ はぁっ……♡ あぁ……っ……♡」
乳首と陰核を転がすそれぞれの指の動きが早くなる。
スカートの下から聞こえるくちゅくちゅ、と言う音が興奮を煽る。
「あ……っ……♡ ヤバい……♡……イきッ、そ、う…………っ♡」
迫り上がった快感が、腹の底で破裂したような感覚が走る。
「イっ……く……ッ……!……うっ……♡」
ビクンと身体が跳ねた。絶頂の訪れだ。
身体を折り曲げ、絶頂を絞り切るように、乳首と陰核をギュッと摘み続けた。
「く……っ♡……!……うっ…………ッ……♡」
獣耳と尻尾をピンと立たせながら、本能に身を委ねる。
この快楽が元気をもたらす事を期待しながら。
胸の蟠りを消してくれる事を祈りながら。
立っていた尻尾がしな垂れる。段々と、絶頂の波が引いて行く。
刺激が快感から、普通の痛みに変わって行く。そのタイミングでエレノアは指を離した。
「……ッ……ハァ……ッ……ハァ……ッ……!」
大きく荒く、息をする。そのまま身体が落ち着くのを待った。
性器を触っていた手を、眼前に持って来る。濡れて、いやらしく照っていた。
それを赤ら顔で眺めながら、エレノアは溜め息を一つ。
「……ハァ…………」
嫌な気分は結局、ずっと消えていない。余計に疲れただけだと目を細める。
「…………お風呂行こ」
ブラを直しながら、ゆっくりと身体を起こした。
風呂は寮毎に共用となっており、エレノアはできるだけ人のいない時間帯を狙って行くようにしている。
大浴場への道すがら、色々と考えていた。
今度の休日に種も土も買わないと。そうだ、家族への手紙も書かないと。まだもう少し復習もしておかないと。あのマリーゴールドは押し花にするのも良いかもしれない。それから、それから……
「ハロー♡」
背後から声を掛けられ、びくっと身体が跳ねる。
クラスメイトだろうか。だとすればまたイビられるのだろうか。意を決して、エレノアは振り返った。
立っていたのは、見た事ない少女。制服ではなく、白いワンピースを着ていた。
大きなハットのツバの下から、こちらを覗くように顔を出す。
きめ細やかな白肌、絹のような白髪、宝石のような金色の目。同性のエレノアでも目を見張るほどの美少女だった。
しかしその表情は、あまりに不適なニヤニヤ笑い。何を考えているのか分からず、すぐに不気味さが感じられた。
「良い夜ですね♡……いや。ギリギリ夕方なのかな? グッドイヴニ〜ング♪」
「……ど……ちら、様でしょうか……?」
動揺と人見知りが同時に発動し、言葉がちょっと詰まってしまった。
少女は演技っぽく澄まし顔となると、ワンピースの裾を持っては恭しくお辞儀をした。
「これはこれは、自己紹介が遅れました……えへへ♡ わたくし、アーリーちゃんと申し上げます。気軽に小鳥ちゃんって呼んで貰っても良いよ♡」
「……い、いや……だから……誰、ですか? 生徒の方では……ないですよね? 多分……」
「あんっ♡ 私ったら♡ 名前だけ言ったって誰か分かんないよねー? うっかりアーリーちゃん♡」
舌を出して頭をコツンと叩いておどけるアーリー。
あまり学園では見ないテンションの人種なので、エレノアとしてはどう接して良いか困惑している。
するとアーリーは掛けていたポーチを開くと、一枚のカードを取り出した。
そしてそれを指に挟んだまま、一歩一歩とエレノアに歩み寄る。謎の圧力を感じ、半歩だけ後退りしてしまう。
「私ねぇ? ちょっとしたオフィスを経営しているんだけどね?」
アーリーが差し出したそのカードを、おずおずと受け取る。
カードとは名刺で、どうやら彼女は高級サロンの経営者のようだ。
「……なんでサロンの経営者様が……学校に?……あっ。もしかして、卒業生の方で……?」
「違う違う! ただの営業だって!」
「寮内で……?」
「んふふ♡ こう言う、『貴族様』のご令嬢様を抱き込もうって私なりの作戦なのよン♡ あっ。ちゃんと学園から許可貰っているから安心してね♡」
貴族様と聞き、エレノアは思わず奥歯を噛んだ。
「……じゃ……じゃあ……談話室にでも行ったら良いです。私より、物凄い貴族様がいらっしゃいますので……」
そう言ってその場を去ろうとするエレノア。
しかしアーリーは彼女の腕を掴み、引き留めた。
「……っ!?」
「……って、考えていたんだけど……」
強い力。動揺し、アーリーの目を見る。
縦に割れた、獰猛な瞳をしていた。
「……良いねぇ、あなた。拗らせ処女って感じ……私、気に入っちゃった♡」
「は……はぁッ!?」
真っ赤な顔で力を込め、振り払う。すると彼女は舞うようにステップを踏んで、エレノアから離れた。
「今度の休日にでも遊びに来てさ。出血大サービス、安くしてあげるよ♡ あははっ!」
流し目で手を振ると、何とも華麗な足取りでアーリーは去って行った。
「……だ……誰が処女よ……」
悪態を溢す。
そのまま廊下の突き当たりが彼女を隠すまで見送り、それから怪訝な顔でカードを見た。
カードには住所の他、一文が添えられている。
『帝国一の美貌、イヴ。彼と過ごす甘く優美なひととき』
イヴ。聞いた事がないし、椿王子がいるのに帝国一とは大きく出たなと呆気が生まれる。
しかしどうにも、自分の心を掴んで離してくれなかった。
未だ赤らんでいた顔で、ごくりと喉を鳴らす。
休日となる。門限の二十時までなら、生徒たちは自由に街へ繰り出せる。
昼前、エレノアは緊張した面持ちで繁華街に来ていた。手にはアーリーから渡されたカードが。
書かれている住所に着く。
そこは帝都指折りの一等地で、赤煉瓦のオフィスビルは入るのも躊躇するほど立派なものだった。
「…………ウソぉ」
てっきりもっと汚らしくてこじんまりとした場所を想像していた。そうであれば鼻で笑ってから園芸店へ行けたのに。
少し逡巡したものの、意を決して入り口に飛び込んだ。
階段を登り、オフィスのある階層に着く。
そしてとうとう、扉の前まで辿り着いた。
「……本当に来るなんて……なに期待してんのよ私……」
今更になって、なんだかんだ来てしまった自分が心配になった。
ここまで来たらもう何とかなれと、深呼吸を一つ済ませた後、扉を押した。
開かない。鍵がかかっていた。
「……は? あ?」
ドアノブを回して押し引きするも、やっぱり鍵がかかっている。
カードを見る。きっちり営業時間のハズだ。
扉を何度も叩き、「すみません」と声を張る。しかしそれでも、扉は開かれない。
「……え、なにこれ。臨時休業?」
であれば出鼻を挫かれた事になる。舌打ちし、怒り混じりの溜め息をつく。
「……来るんじゃなかった。何が休日に来いよ、あの嘘吐き女……」
諦めてビルを出ようかと、踵を返す。
途端、ガチャリと、扉が開いた。
「……っ!?」
その音に気付き、振り返る。
少しだけ開かれた扉の隙間から、誰か覗いていた。
「……なに?」
帽子を深々と被り、厚着のコートと大きなマフラーで徹底的に肌を隠した人物だ。
声でやっと男だと分かったものの、声音からして明らかに警戒されている。
対するエレノアも「あ、いや」と挙動不審になりながら、カードを見せた。
「これ……あの……アーリーって人に……来てって言われ……あ、あの……」
「…………」
ひったくるようにカードを取られる。
それから彼は困ったように頭を掻いた。
「……なんであいついないんだよ……」
「い、いないなら全然、帰りますし……」
「いや……」
彼は少し考え込むと、疲れたように溜め息を吐いてから扉を全て開けた。
「……んっ」
入れと顎で示し、奥へ行く。
それに続くようにエレノアも、恐る恐る中へ入った。
先導する彼に続き、廊下を歩く。ふとちらりと、彼の背を見た。
今の時期まだその格好は早いだろと言わんばかりの重装備。ただ理由ぐらい、エレノアは分かっている。女に襲われない為だ。
声はかなり若かった。歳は近いのだろうか。もしかしたらこの子が「イヴ」なのだろうか。
どんな質問をしようかと考えている内に、廊下の奥にある事務所に通された。
「紅茶は──」
「あっ、いやっ、おかまいなく!」
「……いや。飲みたかったら自分で勝手に淹れて」
素っ気なく突き放すと、上着を脱ぐ為にコート掛けの方に行ってしまった。
エレノアは唖然としながら、とりあえずソファに身体を沈める。
(……感じわるっ!)
非常に腹が立つ。アレがイヴだとすればかなり嫌な奴ではないか。
これで高級サロン並みに払わされるとすれば、ぼったくりも良いところだ。陰口は幾らでも言って良いが、せめて客の前では全力で愛想を振り撒いていて欲しい。それがプロだろうと、エレノアはかなり苛々していた。
(あまりにも酷かったらゴネまくって、金払わずに帰ってやるわ)
そう決意しながら、幾分か厳しい目付きで彼がいる方を睨み付けた。
その鋭い目が、途端に丸くなる。
上着や帽子を脱いだ、彼の姿がそこにあった。
隠れていたものが露わになった、彼がいた。
見惚れてしまった。
美しく揺れる金色の髪、透き通るような白い肌、綺麗な碧眼と愛らしい泣きぼくろ。
その整った顔立ちはまるで人形のよう。服の上からも伺える身体の線は華奢でありながら、男性らしくしっかりともしており、女の本能を刺激する色香があった。
間違いなく、そこにいたのは絶世の美男子。大貴族を相手するような超高級男娼並みの、いやそれ以上の美貌。
エレノアの目が瞬く。一瞬、呼吸を忘れる。
彼は睫毛の長いその目を向け、口を開く。
「……イヴニンス・ジャックドー。イヴニンスで良い……本当はジャックドーって呼んで欲しいんだけどさ……」
そう言ってから困ったように、あるいは気恥ずかしそうに、鼻をかいた。
▼イヴちゃんエロエロ感度累加記録♡
[おやすみ♡]
▼アーリーダイアリー
[セッティング完了♡拗らせ処女とイヴくんの絡みとか絶対かわいい♡]
▼ナイトマンダイアリー
[メーデーメーデー]