※この作品はR-18です。

男娼少年イヴ -亜人っ娘だらけの異世界で穢され嫐られ毎日-   作:ノーティー・ナイト・ザ・リーアム・クラブ

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成り金男装女に女装させられ添い寝で済まない

 今夜の相手は、街の一等地に居を構えている。

 この辺りになると街行く人々の服装が華やかなものとなっていた。

 

 蜥蜴車の窓からこっそり外を覗いていたイヴニンスは、タキシードを着ている女性を発見した。

 

 

「……この世界じゃ女も男モノの服を着られるんだな」

 

「面白いでしょ? あまり服の性差には拘らない世界だからねー。着こなして似合っているなら、どっちを着てもいいってのが常識だね。女の子っぽい見た目の男の娘がいるって言うのも影響してるかなー?」

 

「僕の世界じゃ考えられない……下手すれば異端審問で火炙りだ」

 

「え、マジで? 物騒過ぎない?」

 

「これは隣の国の話だよ。僕の国はそうでもない……わざわざ男装とか女装する人はいなかったけどさ。必ず神罰を受けるって言われてる」

 

「んへー。神は人を救いたいんだか縛り付けたいんだか……」

 

 イヴニンスは、ふと気になっていた事をアーリーに聞いた。

 

 

「……聞きたいんだけどさ。その……君たちの上司と言うのは……神だったりするのか?」

 

「あー……多分ナイトマンから説明受けてたよね。『私たちの事は話せない』ってさ。ごめんねー?」

 

「…………別にいい。まぁ、迷える子羊にいかがわしい事をさせる奴が神な訳がないよな」

 

 そう推察するイヴニンスを、ただアーリーはニタニタ笑って眺めていた。

 

 蜥蜴車は、片道十五分で停車する。

 昨夜と違い、今度の場所はオフィスからそれほど遠くはなかったようだ。

 

 スーツケースを持って外に出た時、真っ先に飛び込んで来たのは、大きな鉄柵の門。

 門を越えると広々とした庭があり、庭を縦断する赤煉瓦の道の先に綺麗な屋敷があった。

 

 

「……今度は貴族のようだな」

 

「うわー。凄い大きな屋敷だねー?」

 

「どこがだよ。僕の家の方が大きいし、もっと綺麗だ。これじゃ……うん。せいぜい避暑地の別荘ぐらいだね」

 

「イヴくんの御曹司ムーブ、私は大好きだよ」

 

 入口の近くまで来ると、アーリーがドアノッカーのリングを手に取った。

 真鍮製で、薔薇や百合と言った花で作られた冠を模している。

 

 リングでコンコンと扉を叩くと、少しの間を置いて使用人が現れた。

 黒のワンピースの上にエプロンドレスを重ねた、女中と思われるウサギ耳の少女。

 身長はイヴニンスと同じくらいで、眉目の整った真面目そうな顔立ちをしていた。

 

 

「申し訳ございません。ご主人様はもうお休みになされまして……」

 

「あ、違うよ? ナイトマンかイヴくんの名前でアポは取ってるでしょん?」

 

「だからイヴニンスだって!」

 

 名前を聞いた少女はサッと来客予定者のリストを確認し、続いてアーリーへ深々と頭を下げる。

 口調や動作の全てが淡々としており、生真面目な様が伺えた。

 

 

「これは大変失礼いたしました! 眼鏡をかけた男性が来られると伺っていたもので……」

 

「ナイトマンだね。彼に用事が出来たから、私が代わりにイヴくんを連れて来たの!」

 

「あぁ、そうでしたか……申し訳ございません、わたくしめの早とちりでした。さぁ、お寒いでしょうから、どうぞお入りください」

 

 少女は扉を全開にし、二人を玄関ホールへ迎え入れる。

 ハットを取ってから一礼し、アーリーは先に屋内へ入る。

 

 イヴニンスも、彼女の後に続いた。

 その際に扉を押さえていた女中の少女と目が合う。

 

 彼女は、アーリーの後ろに隠れていたイヴニンスの姿を見て、すっと目を細めた。

 

 

「……えと、あなた様が、イヴ様ですよね?」

 

「……イヴじゃない。イヴニンス・ジャックドー。ジャックドーと呼んでくれ」

 

「あ……分かりました、ジャックドー様」

 

 昨夜のパニアと違い、やはり女中なだけあって客人の要望には忠実だ。

 久々にジャックドーと呼ばれ、少しイヴニンスは気を良くした。

 

 

「ふふんっ。由緒ある家名なんだ」

 

「しかし……ふむ。確かにジャックドー様、かなりお綺麗なお顔立ちをされていて……なるほど。ご主人様が楽しみになさっていただけあります」

 

「……男に対して綺麗って、褒め言葉ではないぞ」

 

「あぁ、これは失礼を……わたくしめも『男』でございましたので、つい自分の尺度で話してしまいました」

 

「…………は?」

 

「あ。お荷物はお持ちします」

 

「……え? 男……?」

 

 女中を二度見するイヴニンスの隣で、彼女もとい「彼」は扉を閉めた後に、スーツケースを預かってくれた。

 それからアーリーらの前に立って、恭しくお辞儀をする。

 

 

「申し遅れました。わたくし、パーラーメイド*1を任されております、『カーリオ』でございます」

 

「本当に男の名前だ……」

 

「主人の『フレデリカ・リングフラワー』様は二階の寝室でお待ちです。どうぞこちらへ」

 

 自己紹介を終えるとカーリオはくるりと綺麗な所作で踵を返し、二人の案内を始める。

 呆然とカーリオの後ろ姿を見ているイヴニンス。その反応を、ニタニタとアーリーは面白がって見ていた。

 

 

「女の子だと思った?」

 

「……業が深いぞこの世界は……」

 

「あっはっは! それがサイコーじゃんさ?」

 

 男の娘メイドのカーリオに連れられ、玄関ホールへ通される。

 家名が「リングフラワー」なだけあり、壁紙やアナグリプタ*2の模様、階段の手摺り子や親柱に至るまで、これでもかと花がモチーフに使われていた。

 

 

 

 ホール上に吊られたシャンデリアを見やる。

 シャンデリアの中央には、大きな青い水晶が嵌め込まれていた。

 

 

「……なんだあの水晶」

 

「んー? なんだろねー?」

 

 深く気には留めず、そのまま廊下に入る。

 

 

 途中すれ違い様に、合計で四人ほどのメイドにお辞儀をされた。

 皆、見た目こそ少女だが、どうやらそれは違うようだ。

 

 

「最初にいた子はスティルルームメイド*3の『ジェイキン』と『マーク』、先ほどの子はランドリーメイド*4の『リッキー』で……今し方すれ違ったのがチェンバーメイド*5の『ルイス』です。他には見習いの『ウィルズ』が控えておりますので、申し付けがある場合は誰かしらにお声掛けください」

 

「うはは。見事にみんな男性名だね!」

 

「……この屋敷の主人とやらの趣味が分かった気がする……」

 

 嫌な予感を募らせながらも、思い足取りでカーリオに付いて行く。

 そして主人が待っていると言う、寝室前に来た。

 ドアノブが、花開いたパンジーの意匠に作られている。

 

 カーリオはドアを三回ノックし、「お客様をお連れしました」と声を張って、部屋にある者へ伝える。

 するとすぐに中から、ダウナーでハスキーな女性の声が響く。

 

 

「ありがとうカーリオ」

 

「失礼しま……」

 

「あぁ、待って。ボクから出るよ」

 

 ガチャリと扉が開くと、長身の女性(パニアほどではないが)が姿を現した。

 

 ワイシャツとベストの上に紺色のサックジャケット*6をはおり、そのジャケットと同布のスマート*7を穿いた男性らしい装いだ。

 端正な顔立ちと、狼の耳と鍵尻尾も相まって、一見しただけでは中性的な青年に見紛ってしまうほど。「相手は女だ」と聞かされていなければ勘違いしていた。

 

 

 グレーでやや乱れ気味のショートヘア、気怠げな姿勢と細い目が退廃的な色気を醸す、可憐で美しいよりも「危なげでカッコイイ」が似合う人物だった。

 すっかり度肝を抜かれたイヴニンスの前で、彼女は扉にもたれかかってから、まずはアーリーへにこりと微笑んで挨拶する。

 

 

「ええと……今晩はいい夜だね、皆さん。ボクが『フレデリカ・リングフラワー』だよ……ふふっ。だらしない態度でごめんね。夜が弱いんだ」

 

 そう言ってニヒルに笑うフレデリカに対し、「狼なのに夜に弱いのか」と思わず内心でつっこんでしまったイヴニンス。

 話しかけられたアーリーはいえいえと首を振った。

 

 

「分かります分かります。私も夜は眠りたいんですよね〜」

 

「だよねぇ。分かって貰えて嬉しいよ……ところでこの間来ていた男の人とは違うけど、お嬢さんのお名前は?」

 

「私、アーリーと言います。親しみを込めて、小鳥ちゃんとか天使ちゃんって呼んでくださいね。よろしく様です!」

 

「あっはっは! 面白い人だね……ん?」

 

 そこでやっと、フレデリカはイヴニンスに気付く。

 一瞬だけ、獲物を見定めたかのようにフレデリカの瞳の奥が燃えた。

 

 

「……もしかしてそこにいるのが……件のイヴくん?」

 

「イヴじゃなくて、イヴニンス・ジャックドーだ」

 

 曲がり形にも貴族であるフレデリカに対しても、「絶対にそれは譲らないぞ」と言った態度で訂正を入れるイヴニンス。

 驚いた顔でカーリオは見ているが、アーリーはやれやれと頭を振っていた。

 

 強気な態度を崩さないイヴニンスに対し、フレデリカも少し驚いて目を丸くするが、すぐに余裕ある笑みへと変わる。

 

 

「ふふふ……へぇ〜……これはこれは……困ったちゃんを連れて来たね、天使ちゃん?」

 

「嫌なら帰るぞ」

 

「ちょ、ちょっと、ジャックドー様……!」

 

 物申そうとするカーリオを押し止め、フレデリカは興味と劣情を混ぜ込んだ瞳を向ける。

 

 

「いいよいいよ。この頃ボクに対してそんな態度を取れる人は少ない。寧ろ新鮮で、期待できるよ」

 

「あっ。イヴくん、あぁは言ってますけど、根はヨワヨワですから。存分に分からせてあげてください」

 

「そうなの?」

 

「だ、誰が弱々しいだ!」

 

 するとアーリーは思い出したように、ポケットから一枚の紙を取り出してフレデリカに渡す。

 渡されてすぐに、紙に書かれている内容を読む。

 

 

「これは?…………あ〜らら?……これは、いいの?」

 

「えぇ。初回限定のサービスって奴ですね〜」

 

「……へぇ……性器にタッチ可能で……これはこれは……よろしくないなぁ……」

 

 危ない笑みを浮かべるフレデリカ。

 手紙を渡したアーリーは一歩下がり、過剰なほどペッコリとお辞儀をする。

 

 

「それでは私はこれで失礼します〜。また明日の朝にお迎えにあがりますので〜」

 

「客室があるよ? 君も泊まって行けば?」

 

「それには及びませんでーす! 朝はナイトマンの方が迎えに来る手筈ですので!」

 

「そう?」

 

「ではでは、ごゆっくり〜。良い夜を!」

 

「そちらこそ良い夜を、小鳥ちゃん?」

 

 帰りしなイヴニンスの肩をポンポンと叩いてから、一瞥もせずに去って行くアーリー。

 フレデリカはカーリオからスーツケースを受け取ると、怪訝な目で睨むイヴニンスに「ちっ、ちっ」と舌を鳴らし、人差し指をクイクイ動かして呼び込む。

 

 まるで猫や犬にする仕草。嫌味に思いながらも、フレデリカに続いて寝室に入る。

 その際、厳しい表情のカーリオに耳打ちされた。

 

 

「……ご主人様にこれ以上、不躾な態度を取らないでください」

 

「な、なんだよ……」

 

「フレデリカ様は鉱石業で成功を収め、労働階級より上り詰められたお方……とても立派なお方なのです」

 

「……なるほど、つまり成り金か。道理で貴族っぽくないワケだよ。寧ろなんの気兼ねなく、色々言ってやれるね」

 

「あなたねぇ……!」

 

 フレデリカが咳払いをする。

 それに驚いたカーリオは深々とお辞儀をすると、イヴニンスを睨んだ後にそそくさと扉を閉めた。

 

 イヴニンスはフレデリカの方を見ると、彼女は背を向け、ジャケットとベストを脱いでコート掛けに掛けていたところだった。

 運んでくれていたスーツケースは、ベッドの上に置いてある。

 

 

「ボクの屋敷に来てくれてありがとう。本当に楽しみにしていたよ……もう、今日はこの夜の事で頭がいっぱいだったからさ……」

 

 イヴニンスは寝室を見渡した。

 想像していたよりもこじんまりとした寝室だ。ダブルベッド、化粧台、タンスと言った家具で床が狭まっている分、人が三人も入れば手狭になってしまう程度の広さしかない。

 

 

 壁紙には、上から下へと垂れ落ちるようにしてブーゲンビリアが描かれていた。

 家具にもこれまでと同じく様々な花の意匠が施され、今し方フレデリカが使用しているコート掛けさえも、一本のヒマワリのような形状をしている。

 

 鼻を打つ香りもまた、ラベンダーだ。

 どこから漂っているのかと確認すると、ダブルベッドの傍らに設置された小テーブルの上の香炉からだと気付く。

 薔薇が描かれた陶器製の香炉から、白い煙が一本、立ち昇っていた。

 

 

 

 

 その香炉の横には、使用人を呼ぶ為の小さなハンドベルがある。

 ベルの持ち手にある青い水晶もまた、花弁の形にカットされていた。

 

 

「……花だらけ」

 

「そりゃそうさ。だってボクの家名は『リングフラワー』だからね」

 

「その割には本物の花を飾っていないんだな、どこにも。庭も芝生だけだったぞ」

 

 フレデリカはぴくりと反応する。

 

 

「……ちょうど入れ替えの時期だったからだよ……季節に合わせたいって言う、ボクなりの拘りさ」

 

「ふーん……」

 

「それより、ほら。こっち……」

 

 部屋を見渡していた視線を、フレデリカの方へ向ける。

 

 

 立っていたフレデリカはすっかり上着を取っ払った姿だった。

 着痩せするタイプのようで、ベストを脱いでシャツ一枚となった胸部は、はち切れんばかりに大きい。

 更にサスペンダー*8によって両胸が挟まれ、より強調されていた。

 

 青年男性にしか見えなかったフレデリカが女性だと証明する、大きな箇所。

 

 

「んな……っ!?」

 

 不意打ちの迫力に驚いたイヴニンスは、顔をボッと赤くなる。

 

 

「う、上着着ろよ!」

 

「これから寝ると言うのに、邪魔でしょ?」

 

「そ、そうだけどさ……」

 

「……へぇ、やっぱり見ちゃうよね。メイドたちもよくこっそり、横目で見てくるからさ……バレバレの視線なのに。ふふっ!」

 

「そんなんじゃないっての!」

 

「そうなの?」

 

 ニタッと笑うとサスペンダーのベルトを引っ張り、更に胸を寄せ上げる。

 ぎゅむっと寄った胸がイヴニンスを煽った。

 

 

「真面目なカーリオもこれには敵わなくてね……申し訳なさそうに俯くのがまた可愛いんだよ」

 

「や、や、やめろよ……」

 

「へえー? これからヤラシイ事するのに? 雰囲気を盛り上げなきゃね」

 

「わ、わ、分かったよ! 分かったから……ほら! さっさと……え、えーっと……」

 

 大股で歩き、フレデリカを通り過ぎてベッドに座る。

 それからバンバンと、マットレスを叩いた。

 

 

「そ、その……ね、寝るならさっさと、寝るぞ……!」

 

「…………へぇ。君から誘ってくれるんだね」

 

「いやこれは仕事と言うか……や、やるしかないから! 僕は微塵もやりたくないが!」

 

 フレデリカは困ったように肩を竦めた。

 しかし尻尾はクルクルとゆったり動いており、まんざらでもない様を表現している。

 

 

「……初モノなのになぁ……君と繋がれない事を残念に思うよ」

 

「な、何言ってんだよ……と言うか、何するんだ」

 

「何すると思う?」

 

「僕に言わせるのかよ……え、えっと…………き、き、キス、とか……?」

 

 昨夜のパニアとの情事を思い出し、真っ赤になって俯くイヴニンス。

 フレデリカはその手前でしおらしくなった彼を、どんよりとした目で見ていた。

 

 

「……キスとか?」

 

「あ、ああ、あと、顔を……舐めたり……身体を撫でたりとか……」

 

「………………」

 

「えと、首筋とか吸ったり、噛んだり……それか抱き締めるか……」

 

「それは前の客との情事?」

 

 パッと顔を上げたイヴニンスの前には、いつの間にか近寄っていたフレデリカの姿。

 上目遣いだったイヴニンスの顎を掴み、クイッと見上げさせる。

 

 

「……っ!?」

 

 眼前まで寄ったフレデリカの目は瞳孔が開き、ドス黒い感情で歪んでいた。

 

 

「あーあ……純潔、かと思ったけど……ちょっと穢されたようだね」

 

「……僕は穢れてない……」

 

「強情だなぁ」

 

「け、穢れているとか言うなら……嫌なら帰してよ」

 

「いいや? 全然? 寧ろお膳立てしてくれた前のお客さんに感謝だよ……でも今の客にさ? 前の情事を悟らせるなんてのは……少し酷くないか?」

 

 フレデリカはイヴニンスの耳元に顔を近付け、一段と低い声で囁いた。

 

 

 

 

「……()()の中から前の客(そいつ)が消えるまで、付き合って貰うよ」

 

「っ!?!?」

 

 ゾクリと、得体の知れない悪寒がイヴニンスを貫く。

 尚もフレデリカは続けた。

 

 

「ボクは実業家だ。欲しい物は必ず手に入れたい」

 

「実業家って……な、成り金の癖に……!」

 

「……あ〜らら? 貴族みたいな事を言うんだね?……もしかしてそっちの出だったり?」

 

 イヴニンスがギクリと身体を震わせたタイミングで、フレデリカはサッと離れた。

 先ほど見せた嗜虐的な笑みは鳴りを潜め、最初のような気怠い微笑み顔となっていた。

 

 

 

 

「まぁ、君とは良い関係を築きたいと思ってるよ」

 

 フレデリカは下層から中層、或いは既に上層へと駆け上ったやり手。

 それだけに頭の回転や直感力、観察眼が秀でているようだ。

 

 既にイヴニンスの中には「この女には勝てないかもしれない」と言う諦念がじんわり、宿り始めていた。

 警戒する彼の前でフレデリカは、ピッと指を差す。

 

 指先はイヴニンスの隣を示していた。

 

 

「これからやる事やる前に……実は注文した事があってね」

 

「注文……?」

 

「多分そのスーツケースの中かな? その中にある服に着替えて欲しい」

 

 そう言えばナイトマンから「仕事道具」と言って渡されていた。

 中身はイヴニンスも知らされていないが、フレデリカの口振りから察するに服のようだ。

 

 

 イヴニンスはスッとスーツケースに寄り、中を開けた。

 確かに白い服のような物が畳んで仕舞われている。

 

 何だろうとそれを手に取り、広げた。

 瞬間、イヴニンスは困惑の声をあげた。

 

 

「……え?……は?」

 

 

 

 

 女性用のシュミーズだ。

 ふと、事務所のマネキンに着せられてあった事を思い出す。

 あれはアーリーの物ではなく、自分の物だったのかと悟った。

 

 

「……嘘だろ……?」

 

「それに着替えて。『女装』のオプションだよ……君は今夜女装して、ボクと添い寝して貰う。聞かされていない?」

 

「は、はぁ!? 僕が……これを着ろと!?」

 

「嫌なの?」

 

「嫌に決まってんだろ!?」

 

「ならボクが手ずから着せてあげようか?」

 

 悪戯っぽく舌を見せ、袖口を捲りながら近寄るフレデリカ。

 着ないと言う選択肢がないと気付いたイヴニンスは、必死に彼女を止めた。

 

 

「くっ……! わ、分かったから止まれよ……!」

 

「あれ? 意外と押しに弱いんだね…………ふーん……へぇ……」

 

 これはイヴニンスにかけられた催眠の効果だ。

 また従ってしまったと、イヴニンスは目を伏せて悔しがった。

 

 

「……き、着てやるから……あ、あっち向いてろよ」

 

「……へへっ。はいはい」

 

 そう言ってフレデリカはクルッと、綺麗なターンを決めてそっぽを向いた。

 口調こそ気怠げだが、尻尾が大きく揺れている。楽しみで楽しみで仕方がない様子だ。

 

 

「……あの、秘密主義の偏屈男め……! 何でもかんでも隠し事ばっかで……!」

 

 ナイトマンへの呪詛を呟きながら、赤く染まった顔でシャツを脱ぐ。

 改めてシュミーズを見た。ウール製の白い服色で、大きく肩や胸元が見えるよう襟ぐりが開いている。

 

 待っている間のフレデリカも、獣耳を後ろの方へ向け、衣の擦れる音を聞いて期待値を上げていた。

 

 

 シャツを脱ぎ、上裸となる。

 次にズボンを脱ぐ。

 そしてシュミーズの裾を広げ、躊躇いを見せてから一気に被る。

 

 襟から顔を出し、肩紐にそれぞれの腕を通す。

 大きく溜め息を吐いてから、フレデリカの方へ顔を向けた。

 

 

「……き、着た」

 

「待ちくたびれたよ。着るのに五分も普通はかけるぅ?」

 

「脱ぐぞ……」

 

「ごめんごめん……では、拝見いたします」

 

 再び綺麗なターンで、振り返るフレデリカ。

 イヴニンスを見て開口一番に言ったのは「へぇ!」と、上機嫌な声だった。

 

 

「これはこれは……なかなか……」

 

「み、み、見るなよぉ……!」

 

 新雪のように白い肌と美しい絹のシュミーズとは、とても相性が良かった。

 肩紐からすらりと伸びた両腕は細く柔そうで、触れてしまえば壊れてしまいそうだ。

 

 首から首筋への流れるような線と言い、くっきりと浮き出た鎖骨と言い、男とは思えないほど綺麗な身体付きをしていた。

 

 

「……見違えたよ。服一つでここまで変わるなんてね」

 

「見るなっての……!」

 

「……しかし、しかし、だ……んー……それはよろしくないよね?」

 

 フレデリカが指摘したのは、イヴニンスが穿いたままのドロワーズ*9

 

 彼女が目くじら立ている理由を知り、イヴニンスは更に顔を赤くしながら下穿きを押さえる。

 

 

「あ……その表情と仕草……なかなかクるものあったよ……」

 

「ぬ、ぬ、ぬ、脱げって事か……!?」

 

「知らないの? シュミーズの下には何も着ないんだよ?」

 

 つまりドロワーズを脱ぎ、下半身を空気に晒せと言う意味だ。

 

 

「ふざ、ふ、ふ、ふざけんじゃない……! ただ添い寝するだけなのに……そ、そこまではやり過ぎじゃ……!」

 

「オーケー。じゃあボクが手ずから」

 

「わ、わ、分かった分かった!!……あーもうっ!」

 

 ズイッと眼前に迫られ、許諾してしまった。

 面白いように作用する催眠に苛立ちながら、イヴニンスは渋々自身のドロワーズに手をかける。

 

 紐を外してウエスト部分を緩め、隙間に指を入れた。

 チラリと上目遣いでフレデリカを見ると、彼女は腰に手を当ててニタニタ笑っている。

 

 

「……くっ……! み、見るなって……!」

 

「ここまで来たらもう良くないか?」

 

 ゆっくり脱ぐよりは恥ずかしくないと判断し、さっさとドロワーズを脱ぐ。

 脱いだ物をさっさとスーツケースに仕舞ってから、シュミーズ一枚だけの姿をベッド上で晒す。

 

 下に何も穿いていないと言う、男性たるイヴニンスにとっては経験した事もない感覚。

 落ち着かない様子で足をもじもじ動かしていた。

 

 

「スースーする……」

 

「それがスカート穿いてる女の子の感覚さ」

 

「……使用人らに女装させているの、お前の趣味だな?」

 

「んふふ!……バレた? あちゃー。バレないように気を配ってたんだけどねー」

 

「………………」

 

「……じゃあ、ボクの性癖が判明しちゃったところで……ほら。枕元まで行きなよ」

 

 ベッドからスーツケースを下ろして床に置き、フレデリカもまたベッドの上で膝立ちになる。

 合わせてイヴニンスも、彼女から距離を取るようにして枕元まで行く。

 

 

「……へぇ。裾を必死に引っ張っちゃってさ。座り方もペタンとしちゃって……どう見ても女の子だよ、君……んー。ちょっと髪が短いけどね」

 

「だ、誰が女の子だ……」

 

「……想像以上だ」

 

 フレデリカは体勢を変えて、イヴニンスの隣に寝転がる。

 頭を腕で支え、髪を掻き上げるような姿勢でこちらを見て来た。

 

 

「……どうしたのさ。これはベッドで、椅子じゃないんだ。寝転がりなよ」

 

「……朝まで添い寝すればいいんだな」

 

「そうだね。朝まで、ボクと、添い寝をすれば」

 

「…………へ、変な事はしない?」

 

「どうかな? 少なくとも今ベッドに寝転がらない限りは……んー。無理やり押し倒して……何かしちゃうかも?」

 

「………………」

 

 全く掴み所のないフレデリカに辟易しながらも、彼女から背を向けて寝転がった。

 するとすぐにフレデリカはイヴニンスの方へ寄る。

 背中にぷにっと彼女の胸が、そして後頭部へは彼女の息が当たる。

 

 

「んっ……!」

 

 思わずイヴニンスの陰茎が屹立。

 シュミーズを押し上げてしまう為、気恥ずかしさから身体を丸めて、それを隠そうとする。

 

 その間もフレデリカはイヴニンスへ更に密着し、鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。

 

 

「……はぁ……♡……すぅー……ふぅ……♡……良い匂いがするね。花の香りのようだよ……」

 

「気持ち悪いからやめろよ……!」

 

「……お肌、白いね。髪も透き通るような黄金(こがね)色で……綺麗だよ。とても」

 

「う、うるさいなぁ……! さっさと寝ろよ……!」

 

「……んー。でもやっぱり……」

 

 フレデリカは、露出されたイヴニンスの肩や首を撫でた。

 

 

「んん……!?」

 

「背筋が角張っているね。首筋も芯がしっかりしてる。骨の形はちゃんと男性だね」

 

「変な事しないって約束だろ……!?」

 

「んー? これくらいただのスキンシップ……でしょ?」

 

「手つきがなんか嫌なんだが……んうっ……!?」

 

 

 フレデリカは更に密着する。

 胸は大きく潰れ、イヴニンスの背中とフレデリカの腹部がくっつくほどだ。

 

 突然シュミーズの上から、イヴニンスの腕の裏に両手を差し込んだ。

 

 

「ひっ!?」

 

「えーっと、解剖学の最新図面によると〜……確かここが、下後鋸筋(かこうきょきん)で……」

 

「ど、どこに手を突っ込んで……!?」

 

「で、ここが前鋸筋(ぜんきょきん)だったっけ?」

 

「んやっ!?」

 

 脇下を出た箇所までの筋をなぞり上げた。

 ぞわりと、寒気に似た鈍い快感が走る。

 イヴニンスは身体を跳ねさせ、甲高い声をあげた。

 

 

「あっ……!?」

 

 自らの出した声に驚き、赤面しながら口を押さえ、信じられないと言った様子で膠着する。

 

 

「…………へぇ……♡」

 

 一方そんないじらしい彼の姿を見て、フレデリカは嗜虐的に口角を吊り上げた。

 

 

「……かわいい声出せるんだね」

 

「……!? い、いや、これは……っ!」

 

「ほら。もっとここ、さすってあげるよ」

 

「やっ……!? 待って……ひぃっ!?」

 

 手を立てて、四本の指でなぞるように、脇腹上部の筋を撫で回す。

 面白いようにビクビクと、イヴニンスは反応してみせた。

 

 

「んっ……ぁ……っ……!」

 

 綿製のシュミーズの布も一緒に擦られるので、その感触がまたこそばゆく、同時に気持ち良いようで。

 

 

「ここを触るだけでこれだけ声が出るなら君、『メスイキ』の素質あるよ」

 

「あぅ……っ……め、メス……いき……?」

 

「さぁて、こっちの具合は?」

 

「な、なに……」

 

 イヴニンスの胸を鷲掴む。

 

 

「ん……っ!?」

 

 そのまま胸の筋を中央へ寄せるようにして、こねくり回す。

 

 

「んー……ボクからすればもう少し膨れている方が良かったけど……」

 

「いっ……!……い、意味分からないって……やぁ……っ……!」

 

「まぁ、一から開発できると言うなら……それもまた乙なモンだけどね……♡」

 

「くぅ……っ……! 胸ばっか……っ」

 

「……あははは♡ 今の台詞、サイコーに女の子だった♡」

 

 胸への愛撫をやめて、何かを探すように左右の胸筋を、両手の人差し指一本ずつでなぞる。

 そしてシュミーズからぷつっと浮き出た、その二つの突起物に触れた。

 

 

「あっ……♡!」

 

 突起物とは、イヴニンスの乳首だ。

 甘い声を出した彼の反応を確認し、フレデリカは目を爛々とさせながら囁く。

 いつの間にか彼女の顔は、イヴニンスの肩の上から突き出ていた。

 

 

「……見つけた……♡」

 

 瞬間フレデリカは爪を立て、乳首をカリカリと引っ掻き始める。

 電撃が突き抜けるような快感が、乳首から全身へと行き渡った。

 

 この突然の快楽に、イヴニンスは過剰に反応してみせた。

 

 

「んぁ……♡!? や、やめ……っ……なにこれ……ッ!? ひうっ♡!?」

 

「へぇ……へぇー♡ 乳首で感じちゃうんだ……やっぱり女の子だよ君……!」

 

「ちが、違うって……んやっ♡!? あん……っ……あっ♡……!」

 

「じゃあその甘い声はなんなのさ……!? とことん強情だね……君……!! あはは♡!」

 

 指一本での引っ掻きだったものが二本となり、爪先で挟んで摘み上げるような形にシフトする。

 これにはイヴニンスもたまったものではない。

 上半身を反らし、快感に鳴く。

 

 

「や、やめへ……っ♡!! 引っ張っちゃ……んっ♡! いっ……♡!?」

 

 扇情的なイヴニンスの声と反応に当てられ、フレデリカもどんどんと興奮して行く。

 気怠げだった目には生気が宿り、口調も乱暴なものへの変わる。

 

 

「そういや君さっき、メイドのカーリオにごちゃごちゃ言ってたよね……♡!? えぇ♡!?」

 

「んやっ♡!? あっ、ま……ひうっ♡!?」

 

 片手で乳首を責めながら、もう片方でイヴニンスの腹を強く撫で回す。

 

 

「ぎ……っ!? あぅっ♡! い、言ってな……」

 

「はぁッ!?」

 

 親指で乳首を押し潰してやる。

 

 

「ッ!?!? ひゃあっ♡!?」

 

「ほら言えよっ♡! どうなのさっ!?」

 

「い、言ったっ!! 言ったからぁ!? やめ……あっ♡!」

 

「人様の使用人にちょっかいかけるなんてさぁ♡!? 礼儀ってモノを知らないのかなぁッ♡!?」

 

「……っ!?」

 

 フレデリカはイヴニンスを押して、うつ向けにさせる。

 その上から覆い被さり、彼のお尻を上げさせた。

 

 更に両手を弛んだ裾の下から突っ込み、直に乳首責めを続行。

 シュミーズの裾がイヴニンスの腹部まで捲れ上がり、臀部や股座、胸までが丸見えになってしまっていた。

 

 

「ちょ……!? ま……! み、見えてるから……っ!」

 

「うるさいなぁ……アゥッ!!」

 

「あぐ……っ!?」

 

 背後から首筋に噛み付く。パニアの時よりも強く。

 歯形から血が滲むほどに強く、噛み付かれた。

 

 

「あ……が……っ……!?」

 

「ゥゥウ……ッ♡!!」

 

 犬が、格下の別の犬に、似た体勢で「マウンティング」を取っていたのを不意に思い出す。

 イヴニンスは悟った。

 自分は今、このフレデリカの「下僕」にされているのだと。

 

 歯形は、その証だ。

 パニアの付けたキスマークよりも暴力的で、支配的な印。

 それが今、自身の首筋に深く強く激しく、刻み込まれた。

 

 

 同時にフレデリカは、イヴニンスの乳首を摘み潰し、引っ張り上げる。

 

 

「い……♡……ひぃ……っ……♡!?」

 

 痛みと当惑、恐怖と屈辱、温もりと冷淡さ。

 混沌とする感覚や感情を、強い快感一つでつん裂く。

 

 

「あ……っ♡!……が……っ……♡!」

 

 下半身を曝け出した状態のイヴニンスの反り返ったペニスが、内股になった太腿の隙間から見える。

 そこからタラタラと、粘ついた液体がシーツの上に垂れていた。

 

 そのまま二、三度、ビクビクと激しくペニスが揺れる。

 

 

「あぇ……っ♡!?」

 

 同時に全身が痙攣。

 堪え切れない快感により、イヴニンスは白目を剥いた無様な姿で、絶頂を迎えてしまった。

 

 

「……っ♡」

 

 くてんと力なく枕に顔を埋めるイヴニンス。

 その様を確認したフレデリカは、やっと彼の首筋から口を離した。

 

 くっきり大きく浮き出た、滲んだ血による赤いリング。

 上手く出来たその歯形を見て、フレデリカは上機嫌に口角を吊り上げるのだった。

 

 

 

 

「……なぁ、イヴ……ボクのイヴ……」

 

 彼の顎を掴んで無理やり顔を上げさせる。イヴニンスの目は虚の状態。

 そのまま耳元に口を寄せ、囁いた。

 

 

 

 

「お前は誰の物だ?……んー? 誰の物になりたい?」

 

「……ぅ……ぁぅ……♡」

 

「……答えられないか。まぁ、いいや……これからボク無しじゃ生きられない身体にしちゃえば……」

 

「……う……」

 

「…………楽しみだよ。イヴからボクに尻振ってくれる日が……」

 

 フレデリカはイヴニンスを抱き上げ、ベッドの上に座る。

 自然とイヴニンスは、彼女の股の間に収まる形となった。

 

 

 

 

 強過ぎた快感で、まだ思考がぼんやりとしているようだ。

 裾が腹までたくし上げられ、顕になっている下半身を庇う暇がなかった。

 

 

 ちらりとフレデリカは、未だ勃ったままの彼のペニスを見やる。

 

 

「……へぇ♡ それなりにはあるんだね……んー……でも射精はしてないっぽいね」

 

「……んぇ……ぁ……え……?」

 

 やっと我を取り戻したイヴニンス。

 ボーッと下半身を見下ろした後、丸見えになっていると気付いてハッと隠そうとする。

 

 

 それをフレデリカは両手を取って、阻止した。

 足を閉じようとするのも、フレデリカは巧みに自身の足とを絡ませ、これも阻止。

 

 イヴニンスは股座をかっ開いた状態となっていた。

 とんでもない羞恥心に涙目だ。

 

 

「な……!? う、うわ……み、見るなぁ……!」

 

「お。意識を取り戻したね」

 

「ど……こ……こ、これのどこが添い寝なんだよ!? この変態女めっ!!」

 

「さっきまで甘々な声で喘ぎ散らかしてたクセになぁ……本当に強情だ」

 

「あ、あれは……!?」

 

 フレデリカはベッド傍の小テーブルの方へ手を伸ばし、何かを手に取った。

 

 

「これはもう少し……おしおきが必要かなぁ……♡」

 

 手に取った物は、香炉の横に置いてあった小さなハンドベル。

 構えた途端、持ち手の青い水晶が妖しく煌めく。

 

 

「そ、それ……使用人を呼ぶ為のベルか……!?」

 

「よく分かったね。でもこの寝室からじゃ、ベルの音は廊下にも響かないよ」

 

「は……? じゃあ何に……」

 

「この持ち手の水晶ね。これ、『魔石』の一種でねぇ」

 

 イヴニンスの眼前まで近付け、花弁の形の青水晶を見せ付ける。

 

 

「……玄関ホールのシャンデリア、これと似た、大きい水晶が嵌め込まれてなかった?」

 

「……そう言えば……」

 

「これねぇ。シャンデリアの水晶と連動していてね……このベルを鳴らすと、その音が向こうの水晶に伝わってね」

 

「………………待て」

 

「それを聞き付けたメイドがすぐ、ボクの所に来るって仕組みなんだ♡」

 

 

 羞恥で真っ赤だったイヴニンスの顔が、一気に青褪める。

 痴態を晒しているのだのは、一度忘れた。

 

 

 フレデリカはベルを使って、使用人をこの部屋に呼び込むつもりだ。

 

 

「多分来るのはぁ……まとめ役のカーリオでしょ? チェンバールーム担当のルイスに……あ。ルイスは今、見習いのウィルズの研修係を担っているから、彼も来るかな……じゃあ、計三人だね」

 

「…………しょ、正気じゃないぞお前……」

 

「何言ってんのさ、ボクのイヴ」

 

「……っ!」

 

「ボクのイヴ」と呼ばれた瞬間、言い様もない寒気が背筋に走る。

 まさにイヴニンスの身体が、フレデリカに支配されつつあった証左だ。

 

 

 

 

「……狂わせたのは君なんだ」

 

 謎の感覚に戸惑う彼を無視し、ハンドベルを鳴らそうとするフレデリカ。

 ハッと気を取り直したイヴニンスはそれを阻止しようと暴れる。

 

 

「へぇ。ボクに抵抗するんだ……でもそんな細い腕と、肋骨の浮いた身体でボクに勝てる?」

 

 フレデリカの言う通り、イヴニンスの四肢の拘束は完成に極まっており、ぴくりとも動かさなかった。

 イヴニンスはこのまま、大股を晒しながら、メイドたちが来るのを待つハメになるのだ。

 

 

「ま、待って!? 許してぇ!! き、キスでも……あの……キスしていいからさぁ!?」

 

「…………相当、前の客のキスがお気に入りだったみたいだなぁ」

 

「ぇと……っ……!」

 

 胸を押し付け、前屈みになって、イヴニンスを覆うような姿勢となる。

 どんよりと濁り、曇った瞳を見せ付けながら、フレデリカは死刑宣告にも似た一言を放つ。

 

 

 

 

 

「ここからは、ボクの屋敷総出で分からせるから」

 

 ハンドベルを大きく振って、鳴らした。

 チリンチリンと音が鳴り、水晶が輝く。

 

 

 

 

 フレデリカとイヴニンスが絡み合う寝室の扉を貫通し、廊下に出る。

 

 そのまま廊下を突き進み、応接室の前を曲がって更に進む。

 途中、ランドリーメイドのリッキーとすれ違った。

 

 先にあった階段を駆け下り、玄関ホールまでの小さな廊下をまた進む。

 

 

 とうとう見えない力は、玄関ホールに到着し、天井へ昇る。

 

 シャンデリアに嵌め込まれた青い水晶へ入り込んだ。

 

 

 

 

 水晶は青く煌めき、ベルの音を鳴らす。

 それはホールのみならず、屋敷中に響くような大きな音となって増幅される。

 

 それぞれ作業をしていたメイドらが、一斉に音のする方へ獣耳を向け、次に顔を向けた。

 

 

 使用人らのベッドをメイキングしていたカーリオも、その一人だ。

 

 

「……? ご主人様が呼んでる?」

 

 すぐに彼は作業を中断し、大急ぎで二階の寝室に駆け出した。

 フレデリカの予想通り、別室にいたルイスがウィルズを伴って向かい始める。

 

 

 

 階段を上がり、

 

 廊下を進んで応接室の前を曲がり、

 

 キョトンとするリッキーとすれ違って、

 

 寝室の前にカーリオ、ルイス、ウィルズが到着。

 

 

 カーリオが代表してドアを三度、ノックした。

 

 

「ご主人様?」

 

 室内では声を上げようとする口を押さえられたイヴニンスの姿。

 

 

「んーっ!? んーーっ!?!?」

 

 フレデリカはベルを置き、彼の口を押さえながら、期待に満ちた目で声を上げた。

 

 

「入って来てくれ」

 

 やめろと心中で叫ぶイヴニンスを無視し、「失礼します」の声と一緒に扉が開かれてしまった。

 

 

 

「お呼びでしょうか、ご主じ…………んぇっ!?!?」

 

 下半身を晒したイヴニンスの痴態を見て、真面目なカーリオの顔が真っ赤になった事は、言わずもがなだろう。

 朝までは、まだまだ先だ。

*1
客間担当のメイド

*2
模様が浮き出しているタイプの壁紙

*3
食糧庫担当のメイド

*4
名前の通り、洗濯担当のメイド

*5
私室担当のメイド

*6
寸胴型のカジュアルなジャケット

*7
脚の形にぴったり合わせたズボン

*8
ズボン吊り。サスペンダーはアメリカ英語で、イギリス英語ではブレイシーズと呼称する。イギリスでのサスペンダーとはガーターベルトを指す。ここでは前者の意味合いで使用。

*9
カバチャパンツの名称でも有名だが、元々ドロワーズは男性下着だった。女性が着る事に「男装ではないか」と議論された時代もあったらしい。




▼イヴちゃんエロエロ感度累加記録♡
●各部感度
・弱点:脇腹と首筋、更にはお胸も追加!詳しく言うなら前鋸筋がビンビン!
・口:キス中毒寸前のエロエロマウス!頑張ればお口だけでイケそう!
・乳首:あーあ、目覚めてしまったね……?
・陰茎:射精回数ゼロ。敏感さは人並み?付いている意味ないよね。
・お尻:未経験。処女。エッロ……私にチンポくっ付けて掘り倒して鳴かせたい。
・前立腺:めちゃプリプリなのにさぁ、男として普通の機能しかない。もったいなくない?

●精神状態
・好きな人:パニアさんとフレデリカさんとの間で板挟み状態!これが本当の(うわなり)だね!歌舞伎の演目だよ!最終的に女女女嫐女女女になりそう。
・堕落具合:無垢だけど、マゾに目覚めつつある感じ?エッロ!
・雌雄度数:まだオス。チンポの方が感じるレベル。でも喘ぎ声はメス。


▼ナイトマンダイアリー
●現状の見立て
・ジャックドー家を守ると言う気概で頑張っている。あの年齢で、しかもこんな状況に陥ったと言うのに、この高潔さと適応能力は特筆すべきだ。ただ立派な反面、誰に対しても心を開こうとしないもんですから、精気回収の妨げとなっている……まぁ、その反抗的な態度が相手方の劣情を煽ってくれるので、まだ良いとする。分からせたがりの多い世界で良かった。

●今後の指標
・あのフレデリカ氏。あれは生粋のサディストだ。間違いない。一応手紙に、『性器含む全身タッチ』と『女装オプション』『一回分の搾精(本番以外)』を許可した。あと最初に会った際に「道具は使用して良いか」と聞かれたので、『自前の道具ならば使用可』とも書いておいた。しかしこの「道具」って、何を指すんだろうね。なんか拡大解釈して、「使用人はボクの道具だー」とか言い出しそう……まぁいっか。多くの精気が集まる上、とっととイヴニンス氏を精通させて「本番」の仕事も取れる。もうちょいイチャラブ路線で行きたかったが……上層部がうるさいもんで。
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