朝、ルシアが目を覚ましたとき、外はしっとりとした雨だった。
こんな日は外出もままならず、部屋で静養に努めるのも探索者としての嗜みのひとつだ。
そうは言っても、今日は保冷庫が届く日だ。
買い出しの都合も考えて、昼までに届けて欲しいと伝えてある。
「だから、今朝はなし。いいね、配達の人が来たときに、ボクがとろけちゃってたら受け取れないし、そんなとこ見られたらボク死んじゃうから」
寝ても覚めても性器を弄くられる感覚は続いているが、ようやく気を張っていれば何とかなる程度には慣れてきた。
だが、弱点を的確に突いてくる責めには、どうがんばっても勝てそうになかった。
「分かってる。いくらなんでも、そこまではしないさ。今までだって、やったことはないだろ?」
主人の不利益を、わざわざ呼び込む気はない。
信じてもらえないことが信じられないといった口調で、淫魔の鎧は言い返した。
「どの口がそういうことを言うんだい? 道端だったり、朝御飯食べてるときだったり。けっこう酷い目っていうか、危ない目に遭ってる気がするよ、ボクは」
当然の反論だが、淫魔の鎧は気にも留めない。
だいたい周囲に危険や悪意を持った者がいないかくらい、いつでも探っている。
「どの口って、俺に口はないんだけどな。だいたい、言うのを忘れていたことはあったかもしれないけど、俺がご主人に嘘をついたことがあったか? 信じてくれよ、ご主人。この目が嘘をついてるように見えるか?」
ルシアが言い返した瞬間、ステルス化していた触手が具現化し、可愛いともグロテスクとも言い難い眼球を作り出す。
ルシアは無言でその眼球に指を突き立てた。
だいたい言い忘れによる被害は、かなり甚大だった。
ルシアは、まさかこの歳で羞恥のあまりガチ泣きするとは、思っても見なかった。
「キミのどこに目があるんだよっ! 口なんかないって言ったじゃないか! それと同じだよねっ! それから、早く服になってよっ! 今配達の人来ちゃったら、ボク舌噛んで死ぬからっ!」
朝起きて以来、ルシアはまだ素裸のままだ。
淫魔の鎧と出会って以来、気が付くと朝には全裸にされていた。
こんな状態で来客が来てしまったら、以前の被害どころの騒ぎではない。
間違いなく、もっと酷い噂が流れるに決まっている。
「なんてことするんだっ! 古代の闘技場でも目と金玉は反則だったんだぞっ! 潰れたらどうすんだよっ!」
勿論、淫魔の鎧にダメージなどない。
だが、擬人化された触手が、目を突かれた触手を助けながら、ルシアに向かって抗議するように動いている。
端から見えたなら、非常に出来のいい人形劇のようだ。
コミカルな動きと、ちょっとだけ可愛らしく見えるシルエットに、ルシアは文句を言いながらも笑みが浮かんでくる。
「まったく……キミのそれ潰せたら、ボクは解放されるんじゃないのかい? ま、いいか。でも、それってお金取れるんじゃない、大道芸で? とにかく、保冷庫来るまでは禁止! 絶対禁止っ! ……そのあとなら……いいよ?……あ、買い出しもあるんだからね! だからちょっとだよ! ちょっとだけだからねっ!」
ルシアにとって、早くも日常と認識している遣り取りは、端から見ても楽しそうだった。
そんな声が、廊下を通ってクオムの部屋にも届いていた。
「……ん……ふぁ……朝……です……っ!? はへぇっ!?」
壁にもたれ、パンツを半端にずり下げた姿で、クオムは目を覚ました。
両脚を投げ出したまま、うなだれて眠ってしまったため、首が異様に痛んでいる。
折からの雨のせいで、おしりの下がまだしっとりと濡れていた。
ワンピースの寝間着の裾まで、くっしょりとお漏らしを吸っている。
「え? クオムはどうして? こんなことに? なったです? ……~~っ! ……電撃を……」
独り暮らしの気楽さからやってしまう、男が見たら幻滅しそうな数々の行いだって、ここまで酷くはなかった。
クオムは昨夜の記憶を手繰り、途切れる寸前の光景を思い出して、その場にうなだれた。
オナニーの余韻の中で眠ってしまったことならあるが、絶頂のあまり失神してしまった経験などあるはずがない。
なぜ、そんなことになってしまったのか、クオムはうなだれたまま考えていた。
「はぁ……。だからって、ルシアに文句を言うのは、筋違いですぅ……。」
隣の部屋から聞こえてきた女の子の歓喜の声が、間違いなく原因だ。
聞こえなくてもオナニーにふけった経験はあるが、昨夜に関しては間違いなくあの声が原因だった。
ルシアが今まで部屋に男を引っ張り込んだことはないが、やってはいけないという決まりはない。
ルシアだって年ごろの女の子である以上、男の一人くらい、いつできてもおかしくはなかった。
「クオムだけ置いて……ルシアもレミルさんの方へ行ってしまったのです……」
酷い言いがかりだが、あながち間違ってもいない。
確かに、昨夜はクオムだけ置いて、ルシアはレミルの方へ行ってしまっていた。
同方向へ行くだけではなく、同じ所へイってしまったのだけれども。
独り身の寂しさを、クオムは噛みしめていた。
「こんなことしてても仕方ないですぅ。雨ですけど稼ぎに行かなきゃですね。はぁ、早くアバナホールの探索が解禁になって欲しいです」
ルシアが発見した新たなエリアの詳細が確認されるまで、アバナホールの探索は禁止になっていた。
もちろん、探索者が危険をすべて避けているわけではないが、無謀な探索は莫迦のすることだと思われている。
初心者向けといわれていたアバナホールに、中級以上で初めて対処可能なスライムやトロルが出たならば仕方ない対処だ。
気軽とは言わないが、駆け出しの訓練場と認識されていたダンジョンが、初心者で対処しきれなくなったのなら、制限をかけなければ死人を増やすだけだった。
クオムは、見事にそのあおりを食っていた。
クオムにとってアバナホールは手ごろな稼ぎ場所であり、一度潜れば数日は楽に食べられていた。
雨が降ろうが、ダンジョン中であれば関係ない。
雨の日を休養に充てる探索者は多いが、雨であろうと探索に出る者も少なくはなかった。
不定期な休みを取るよりは定期的に休みを取り、体調を整えることを好むものも多い。
クオムもそのタイプであり、屋外探索日和でも休むし、雨が降ろうとダンジョンに潜っていた。
この世界の探索者に貯金などするものは少なく、基本的にその日暮らしが多い。
特に駆け出しの探索者に大金を手にできるチャンスは少なく、稼ぎの手段を制限されると明日食うパンにも困る羽目になる。
今回のようにダンジョン探索を主にする者が入場を制限されてしまうと、アレイ周辺で魔道具や魔道薬の材料を採取するか、材料を仕入れてそれらを作るしかクオムに稼ぎの手立てはない。
もちろん、コミュニケーションに自信のある者であれば、酒場のウエイトレスでもやればいい。
だが、基本的に人が怖いクオムにとってそれはダンジョンに潜るより難易度が高い。
それ以外の店で店員をやろうにも、人手不足であっても余分な人員を雇う余裕があるところはほとんどない。
もともと商家の店員は幼少時より奉公に来た者がほとんどであり、客の対応からあしらい、商品の説明ができなくては話にならなかった。
いきなり昨日今日に来た者で、できる仕事ではない。
そうなると、あとは娼館に行くしかない。
当然、クオムにそれができるはずもなかった。
クオムは身支度を整えると、ギルドへ行くために部屋を出た。
雨の日でもできそうな、あまり人と関わらずに済む依頼があるか、それを相談しなければ明日は誰かに金を借りなければならなくなってしまう。
それだけは、何としても避けたいクオムだった。
とりあえず、汚してしまったパンツと寝間着は、シャワールームで洗ってある。
雨のせいで夜までに乾くかどうか、クオムは半ば諦めているが、かといって放置しておくわけにはいかない。
生乾きでも、お漏らししたままの寝間着よりははるかにましだった。
廊下に出ると、ルシアの部屋から楽し気に言い争う男女の声が聞こえてくる。
人の気も知らないでと、クオムは胸に毒づいてドアを蹴り飛ばそうとした。
「ん? 誰だっ!?」
淫魔の鎧が触手を伸ばしてドアノブを掴み、クオムの足が当たる前にドアを引き開ける。
「ちょっと待ったぁっ!」
淫魔の鎧が行動に出たということは、なにかしらの悪意や外囲を持った者だと思っていたが、ドアの向こうにクオムの姿を認めたルシアは咄嗟に制止していた。
だが、ルシアが止める暇もなく、別の触手がクオムに巻き付き、部屋の中へ引きずり込んで拘束した。
「きゃうんっ!?」
宙を舞うようにに引きずり込まれ、小さく可愛らしい悲鳴と共に丁重に着地させられたクオムは、全身を触手に拘束されていた。
もちろん、ルシアの許可なく他の女の性器に触れることなどない。
だが、ロープでもなく、全身を苦痛を感じない程度に拘束する触手に、クオムは目をきょとんとさせていた。
「何てことするのさ、キミはっ!? クオムはボクの友達だよっ! 危ないじゃないかっ! 早くほどいてあげてよっ! もうっ!」
ルシアがクオムに巻き付いた触手をほどこうとするが、ぎっちりと絡み合った触手がほどける気配はない。
それならばとルシアは触手を引きちぎろうとしたが、彼女の力ごときでどうにかなる淫魔の鎧の触手ではなかった。
「ああ、これは失礼をした、クオム嬢。非礼を心から詫びさせていただく」
ルシアの行動にクオムの存在を理解した淫魔の鎧は、すぐに触手から彼女を解放した。
そして、しれっとした口調で、クオムに非礼を詫びている。
「はい? はいぃぃぃっ? 何にもないところから声がしますっ!? ル、ル、ル、ル、ルシア、何がいるんですかあっ!? そ、それに……な、な、な、なん、なんで裸なんですかぁ!?」
淫魔の鎧とは初対面のクオムには、何もない所から声が響いてきたようにしか聞こえない。
ついでに、素っ裸で何もない空間に怒鳴りつけるルシアは、誰が見てもどこか違う世界にイっちゃった人にしか見えない。
ルシアが何かにとり憑かれたか、狂ったかと思ったクオムだが、それをストレートに口にする勇気はなかった。
つい、見たままを叫んでしまったクオムを、いったい誰が責められようか。
クオムの言葉にルシアは辺りを見回し、そして認めたくない事実を確認するように、自分の胸元から下へと視線を向ける。
少々小振りだが形のいいおっぱいが、荒い息と共に揺れている。
恥毛のないきれいな割れ目が、ステルス化したままの触手をくわえこんで、ぱっくりと開いていた。
「……。え? ……ええ? ……えええええええええっ! 何てことしてくれんのさキミはぁぁぁあああっ! 死ぬっ! ボク舌噛んで死んでやるぅうぅうううっ!」
雨が降る静かな朝の部屋に、ルシアの絶叫が響き渡った。
風呂に一緒に入ったことはあっても、現在褥を共にしているわけでもないクオム相手に、広げられたおまんこを見られるなど、これ以上の恥辱はなかった。
「ル、ルシアっ、大丈夫ですっ! クオム見てないですっ! 何も見てないですっ!」
「ご主人っ! 落ち着けっ! これは事故だっ! 不幸な偶然だっ! だからルシア、暴れるなぁっ!」
「ん~~っ! ん~~っ! ん~~っ! ふぁにゃふぇぇぇっ! ふぃにゅっ! ふぃんふぇひゃひゅぅぅぅっ! んんんん~~っ!」
慌てて宥めすかすクオムと淫魔の鎧。
そして、触手に猿轡をかまされ、両手を拘束されて床をのたうち回るルシア。
それも素っ裸で。
この世にこれほどカオスな世界があったなんて、クオムは新しい世界の扉を開けてしまったのかと恐怖した。
「……」
ルシアは涙をぽろぽろこぼしながら、淫魔の鎧が変化したワンピースに身を包まれベッドに座っている。
淫魔の鎧の触手に全身をくまなく責められ、随喜の涙を流しながら絶頂失神するほど性に開眼したルシアであっても、見られて耐えられることと耐えられないことがあった。
「クオムのせいですぅ……。男の人と楽しげに話してる声に、クオムが嫉妬しちゃったからですぅ……。ルシア、ごめんなさい」
思わず抱いてしまった嫉妬心が、ルシアへの敵意と受け取ってしまった淫魔の鎧による勇み足だ。
原因となったクオムは、穴があったら入りたいほど恐縮してしまっている。
「だから、咄嗟のことだったんだよ。悪気はなかったんだ、ルシア。もう機嫌直してくれよ」
ドアをけ破りそうな気配に、咄嗟に拘束することを選んでしまった淫魔の鎧は、本体のステルス化を解除し忘れていた。
悪気がない分、始末に悪い。
戦闘に関しては誰にも負けない自信はあるが、それ以外のところは少々抜けている淫魔の鎧だった。
もっとも、それが歴代の主人たちに愛されてきた理由だったのかもしれなかった。
「……。ひっく……。もういいよ。解ってるから。ぐすっ……ボクも、はしゃぎすぎてたのは解ってるよ。クオムは気にしないで。いつものことだから。後でちゃんと慰めてよね」
救いようのない結果になってしまったが、ルシアも自分の安全を優先してくれたことくらいは解っている。
解ってはいるが、納得できるかどうかは、また別の問題だった。
そうはいっても、いつまでも泣いているわけにもいかない。
この騒ぎの間にも、保冷庫の配達が来るかもしれなかった。
最後はクオムに聞こえないように、小さく甘えた声だった。
「ルシア、じゃあ、クオムは行きますね。本当にごめんなさい。淫魔の鎧さん、お騒がせして申し訳なかったですぅ……」
クオムからすれば、ルシアの怒りが淫魔の鎧に向いたことは、完全なとばっちりに見えた。
部屋の中で仲のいい二人が全裸でいようが、見せびらかしていないのであれば何の問題もないことだった。
取り乱したルシアが淫魔の鎧にされていたことを、いや、途中からはしてもらっていたことを口走ったため、クオムは二人の仲をすっかり理解してしまった。
「うん、ごめんね、クオム。ちょっとボク、取り乱しちゃって。……あの、ここで聞いたこと……」
淫魔の鎧との行為の一端を、クオムの前で口走ってしまったルシアは顔を真っ赤にしていた。
クオムがそのことを外で喋ったり、広めたりするとは思わないが、なんとなくルシアは口止めするような言葉を口にしていた。
「大丈夫です、ルシア。クオムはそんな噂広める気はないです。じゃ、行ってきますね。お二人とも、ごゆっくり」
クオムにしても、人の秘め事をうわさとして聞くのは好きだが、広めるのはまた違うと感じていた。
少しだけ寂しい気分と共に、クオムはルシアに答えていた。
クオムの言葉に、ルシアの顔が真っ赤に染まった。
「クオム嬢、今後とも我がご主人をよろしくお願いする。いずれ、この非礼をお詫びする機会をいただきたい」
主人の友と分かれば、淫魔の鎧は礼儀正しく接することにしている。
もちろん、レミルのように誘いがあって、ルシアがそれに乗るなら話は別だ。
だが、クオムが二人のセックスをオカズにしてオナニーしていたことを、ここでバラす気はない。
ただ、直接触れなくても、声による手伝いくらいはしてやってもいいと、淫魔の鎧は考えていた。
クオムは、淫魔の鎧の考えに気づくことなく、軽く頭を下げてからドアを出て行った。
「もう、気を付けてよ。だからボクは言ってたんだ。あれがクオムやレミ姉じゃなかったら、ボクはもうこの町に住んでられなくなっちゃうからね!」
クオムが外出し、保冷庫を受け取り、淫魔の鎧をレインコート代わりにして買い出しを済ませたあと、ルシアは頬を膨らませて淫魔の鎧に文句を言っていた。
この世界にも室内裸族はいるが、そのまま対応に出れば露出狂と誹られるのは当たり前のことだった。
そう言いながらも、ルシアは保冷庫の中を楽しそうに眺めている。
買い出しに出かける前に内蔵された魔石に魔力を注いで言ったおかげで、保冷庫の仲はすでに冷え切っていた。
生鮮食品を詰め込んだ後も、ルシアは流れ出してくる冷気を楽しんでいた。
「ああ、すまん。クオム嬢だったか、嫉妬だと言っていたが、よほど溜まっているんだろうな。俺が敵意と勘違いするほどだったからな。おい、ご主人、あんまり開けっ放しにしてると魔力がすぐ切れちまうぞ」
確かに失敗だったため、淫魔の鎧は素直に謝った。
主人の危険を見過ごすわけにはいかないが、主人を危地に立たせたことはプライドが許さない。
そのお詫びというわけではないが、淫魔の鎧は保冷庫の魔石が壊れない程度に過剰な魔力を注いでから出かけていた。
そうでもなければ、こんなに早く冷気で満たされるはずがない。
この世界に普及している冷蔵庫にあたる魔道具は、使用者の魔力を動力源にしている。
冷気の魔石が使用者の魔力に反応し、注がれた魔力量に応じた期間、その中を一定の低温に保ってくれる。
現代日本の冷蔵庫のように、開けっ放しにすると中の温度が上昇することもない優れものだ。
もちろん、その分魔力の消費も早く、何度も注ぎ込まなければならなくなる欠点を持っていた。
「あぁ、うん。分かったよ。じゃあ、いいかな?」
股間を抑えるようにもじもじしながら、ルシアはベッドに腰を下ろす。
朝からお預けにされたルシアは、夕食の後まで待っていられなかった。
顔を真っ赤にしてベッドに座ったルシアは、触手の侵入を心待ちにしている。
「何言ってるんだ、ご主人。まずは食事だ。体調を整え、充分な休養を取らなきゃ、いい淫汁は生まれないからな」
いいことを言ってはいるが、最後で台無しだ。
もちろん、空腹状態で触手セックスに突入して、途中でルシアの体力が尽きてしまっては元も子もない。
それ故に、まずは食事というわけだが、クオムの帰宅を待つという理由もあった。
触手拘束のお詫びを、こっそりとしておくつもりだ。
嫉妬心については、当人がどう解決するかの問題であり、淫魔の鎧がどうこうできることではない。
そして、レミルのように誘ってくるならともかく、淫魔の鎧から別の女を引き込むようにことはあり得ない。
ならば、その嫉妬心も利用して、いい気持になってもらうくらいしか、当面できることはないと淫魔の鎧は考えていた。
「ええ~っ! なんでだよぉ、ボク、ずっと我慢してたのにぃ。キミがボクをこんなエッチにしちゃったんだから、ちゃんと責任とってほしいな」
ルシアは自分で言っておきながら、なんで自分がこんなになってしまったか頭がくらくらしていた。
数日前の自分が見たら、往復ビンタでもして目を覚まさせようとするはずだ。
そんなセリフがすらすらと出てくるほど毒されてしまったのだとルシアは自覚していたが、やはりそれは認めたくはないことでもあった。
「ちゃんと責任は取ってるだろう? ご主人。毎回失神から覚めなくなるまでイかせてやってるじゃないか」
「~~っ!」
顔を真っ赤にしたルシアに八つ当たりされた枕が、ドアに炸裂する。
だが、それに構うことなく、ルシアの身体は勝手にキッチンの前へと、移動されていた。
勝手に保冷庫の扉が開けられ、中から魚が取り出される。
触手が材料を集め、ルシアの前に並べられていく。
「ひゃうっ!? ……分かったよ、ボクもおなかペコペコでするよりはいいかなって思う……から、さ。じゃ、美味しいもの教えてくれるかな?」
ルシアは諦めた。
その分、たっぷりしてもらおうと、心に決める。
そして、そう考える自分に、また羞恥心を掻き立てられてしまった。
「おう。昨日は肉だったから、今夜は魚にする。あと、昨日野菜が少なかったから、今夜はたっぷりとな」
白身魚のムニエルと、カブの蒸し焼きが手際よく作られていく。
上流階級では普通のメニューだが、ルシアたちが属する庶民階級には知られていない。
淫魔の鎧は、過去に教えてもらったレシピより、少し塩気を強く作っている。
当然、社会階級が違えば味覚も違い、労働環境が異なれば必要とする塩分も異なっている。
職業軍人を除き、必要以上に身体を動かすことのない貴族等の上流階級に比べ、身体が資本の庶民たちは塩分をより必要とする。
淫魔の鎧が主人とする者たちは、当たり前だが戦いや探索を職業とする者たちだった。
そんな主人に合わせて、淫魔の鎧は上流階級のレシピを改良していた。
「ふぅん、楽しみだね。ボクたちが食べる魚なんて、塩漬けばっかりだからね。いいのかなぁ、こんなに奮発しちゃって」
もちろん、トロル討伐の報酬のおかげだ。
まだしばらくは贅沢をして過ごしていても許されるほど、ルシアの懐は温かった。
トロル討伐を知る周囲の者たちも、それだけのことを成し遂げたということは、それなりに消耗していると考えている。
ルシアが自堕落な生活をしていたとしても、それが人様に迷惑をかけない範囲であれば大目に見ていた。
「いいんじゃないのか、ご主人。ご主人が大金を掴みたいとか、英雄になりたいってんならまた話は別だ。過去の俺の主人のほとんどはそうしてきたが、そうじゃない主人もいた。俺はご主人がそうありたいと願うままに、だ」
ルシアの手を操りながら、手際よく魚をさばいてフィレにしていく。
カブの葉を落とし、四つ切にしたあと、火にかけてあった小振りなフライパンに並べていく。
カブに軽く焼き目を付け、白ワインを振って蓋をして弱火に落とし、ムニエル用の小麦粉を取り出した。
「ねえ、キミに任せて切っちゃったけど、これ、少し多くない?」
無理すれば食べきれなくはないが、ルシアが普通に食べるにはかなり量が多い。
疑問に思ったルシアは、手を操られるままにして、淫魔の鎧に尋ねた。
「ああ。そろそろ……ほら、足音が聞こえるだろ? クオムの分だ」
一度覚えた匂いは、アレイの街中であればロストすることはない。
外で食べてくるにはまだ早い時間であり、多分クオムも腹を空かせているはずだった。
「そっか。うん、ボク呼んでくるよ」
ルシアは三人で囲む夕食に心が弾み、クオムを呼びに行こうとしたが、足が動かない。
その間にも、両手は的確にムニエルをこしらえていた。
「何言ってんだ、ご主人。料理をほっぼり出して行くわけにいかんだろう。もう火にかけちゃってるんだぜ。心配するな、俺が声をかけてくる」
ルシアには料理を続けさせ、淫魔の鎧は触手を伸ばしていく。
ドアを開けて廊下に出た触手は、帰ってきたクオムを迎えた。
夕食後、クオムも部屋に戻り、シャワーを浴びたルシアはベッドに転がった。
もちろん、淫魔の鎧は既にステルス化している。
全裸でベッドに転がるルシアは、淫魔の鎧が何かする前に愛液をこぼし始めていた。
「ねえ♥……早くぅ♥……ボク、も♥……我慢できないよぉ……♥」
甘い声で、ルシアはねだっている。
今思えば、朝起きてすぐであれば、触手セックスのチャンスがあったことを思うと、さんざんに焦らされたような気分になっていた。
「しょうがないご主人様だな、ルシアは。ま、約束だし、保冷庫にかなり魔力を使ったからな。ここいらで、たっぷりと魔力補給させてもらうぜ」
実体化した触手が、ルシアのおっぱいを這い回り始める。
ルシアの白く細い腰が、ぴくんと跳ねた。
胸の膨らみを乳首を中心に円を描くように、触手が這い回る。
まだ触れてもいないのに、ピンク色の乳首は芯を持ち始めていた。
「……あふ♥……あんっ!♥ ……だめぇ♥……そんな♥……焦らさないでよぉ♥……あんっ!♥ そ、そこ♥……いいよぉ♥……もっと♥……ね♥、ボクのこと、さんざん焦らしたんだからぁ……♥」
おっぱいを這い回る触手は、ルシアを焦らすように乳首には触れず、膨らみに何度も円を描く。
腹を這いずる触手がルシアのへそを包み込み、中から数本の小触手を繰り出して窪みの中をまさぐっていた。
ルシアの身体がまた小さく跳ね、膨らみの頂点にあるピンク色の突起が、何度も揺れる。
「俺は焦らしてなんかないぞ、ルシア。今はだめ、あとで、夜って言ってたのは、ルシアだからな」
ルシアのおねだりを淫魔の鎧はあっさりと切り返し、さらに焦らすようにわき腹からシーツに密着している背中へと触手を這わせていく。
直接的な性感帯である乳首やクリトリス、おまんこにおしりの穴を敢えて避け、ルシアの感覚を尖鋭化させていく。
心地よい刺激が断続的に襲いかかり、ルシアの身体は小刻みに震えている。
「あっ!♥ んんっ!♥ そこっ!♥ ……意地悪……しなっ!♥ あんっ!♥ いでぇっ!♥ ひぅぅっ!♥ ……はぁはぁ♥……やっぱり、ぃっ!♥ キミは……いじ、わる♥……だ……あああんっ!♥」
時折、背中やわき腹、そして耳元やうなじで性感帯を探り当てているのか、ルシアの身体が大きく跳ねる。
シーツを握り締め、両脚をぴんと伸ばしたルシアは、つま先をぎゅっと丸め、歯を食いしばり、目を固く閉じて快感に耐えていた。
だが、今は触手を抜かれているおまんこからは、早くも愛液が溢れ出し、触手の蹂躙を待ち望むおしりの穴がひくひくと震えている。
軽い前戯だけで、ルシアは絶頂寸前まで追い詰められていた。
「……っ!? ルシア……? 今夜も、ですか?」
自室で魔導書を呼んでいたクオムは、隣の部屋から聞こえてくる声に顔を上げた。
魔導書を机に置き、クオムはそっと立ち上がる。
足音に気を使い、衣擦れの音にも気を使って、ルシアの部屋との間を隔てる壁にそっと背中をもたれかけた。
躊躇うことなく寝間着を脱ぎ、下着姿になったクオムは、おっぱいと下腹部に手を這わせる。
淫魔の鎧がなにもしていなくとも、クオムは淫魔に魅入られていた。
「んっ! んんんんっ!♥ ……はぁ……ルシア、すごい……ずるい、です……んぁ♥……んっ!♥ んんんっ!♥」
乳首を指先で何度も軽く弾きながら、色素の薄い茂みを掻き分け指がクリトリスに伸び、その腹で極小の突起をこね始める。
万が一にもルシアに声が漏れ聞こえないように、クオムは固く口を引き結んでいた。
それでも小さな吐息と共に口元が緩み、ほんの小さな反感がこぼれ出る。
それは、アレイバーグでもろくな出会いに恵まれない、己が不幸を呪う声でもあった。
レミルほどではないが、ルシアより恵まれたプロポーションを持ったクオムを、男たちは放っておくはずがなかった。
顔立ちも、プラチナブロンドにぱっちりとした碧眼と、すっきりとした鼻筋に控えめな口元と、レミルやルシアに劣るものではなかった。
だが、寄ってくる男たちは身体目当てか、クオムの持つスペルの遠距離攻撃を望んでの者ばかりだった。
もちろん、レミルやギルドの大人たちが悪い虫は追い払ってくれてはいたが、クオムを幻滅させるには充分だった。
同じように身体や若さを侮られての使い走り目当てにされていたルシアとは、同じ境遇同士で男の見る目のなさを嘆く仲だったが、なぜか先を越されてしまったとクオムは感じていた。
ルシアの喘ぎ声を聞きながら、艶本で見た触手の責めを想像し、クオムは指を止められなくなっている。
小さな嫉妬心のせいで、クオムはオナニーに没入していった。
「んあああっ!♥ だめぇっ!♥ ボク、もう我慢できないよぉっ!♥ んっ♥……ぴちゅっ♥……ぢゅるっ♥……ぺちゅっぺちゅっ♥……んはぁっ♥……ぢゅぷっ♥……ぐぢゅぐぢゅぐぢゅぐぢゅっ♥……ぷはあっ!♥ ね、キミのこれで、早くぅ♥……ボクのおまんことおしりの穴ぁ♥……ちゅっ♥……ぢゅぷっぢゅぷっ♥……ずぽずぽしてよぉ……♥」
シーツを掴み締めていたルシアの手が宙をさまよい、触手を掴み締めて口に運ぶ。
拙くとも一所懸命に舌を絡ませ、口に含み、歯を軽く当てながら触手を舐めしゃぶる。
顔を前後に振りながら、口腔内に触手をピストンさせながら、ルシアは必死におねだりしていた。
その間にも触手はルシアを焦らすように、巧みに乳首もクリトリスも、おまんこもおしりの穴も避けながら、それ以外の全身を撫でるように這い回っている。
ルシアは必死に快感を耐えながら、触手フェラを続けるが、おまんこはとろけたように愛液を垂れ流していた。
「もうできあがっちゃったか、ルシア? フェラもずいぶんと巧くなったし、躊躇いもなくなってきたな? 欲しいんだ、そんなに?」
淫魔の鎧は、敢えてクオムにも聞こえるように、ルシアを煽っていく。
そして、焦らしに焦らした乳首に、触手を絡めていく。
それでもまだ焦らすように、ゆっくりと、ゆっくりと乳首の先っぽを触手の先端で擦りあげた。
「欲しい♥……欲しいよぉ♥……ボク、いっぱい欲しいよぉっ!♥ 意地悪しないで♥……じゅぽじゅぽいっぱぁい♥……んあああっ!♥ きたっ!♥ おっぱいっ!♥ ひいっ!♥ ひぃぃいいぃぃんっ!♥ あっあっあっああああああひあっ!♥」
焦らしに焦らされ、待ちに待った快感に、ルシアは一瞬でイってしまった。
全身を細かく痙攣させ、続けざまにぷしゃぷしゃと潮を噴き散らす。
背中を仰け反らせて硬直したルシアの身体がぼとりとシーツに落ち、弛緩した尿道口からはおしっこがしょろしょろと流れ出していた。
「おいおい、これだけでイっちゃったのかい、ルシア? まだ始まったばかりだぜ? あー、聞こえてないな、これは」
焦点の合わない視線をさまよわせながら、ルシアは呻くような声を喉から漏らしている。
だからといって、責めの手を休める淫魔の鎧ではない。
ざらついた触手の先端で、ルシアの乳首をこね始めた。
「っ!? ルシ、ア……イっちゃった、ですか……んっ!♥ んんっ!♥ ぁっ!♥ ぁひぃっ!♥ んんんんっぁっ!」
淫魔の鎧が幻視を見せているはずもないが、クオムはルシアの痴態を脳裏に限りなく正確に描いていた。
スペルユーザーが必要とする素養に、豊かな想像力があるが、クオムはそれに長けていた。
この世の理法を無視し、覆す現象を生み出すスペルを行使するには、想像力が不可欠だ。
クオムは持てる想像力の全てを駆使し、ルシアが淫魔の鎧の触手をフェラしながら犯される光景を、脳裏に描き続けている。
少しずつ喘ぎ声が漏れ出していることを、オナニーに没入しきったクオムは気付いていない。
指が乳首とクリトリスから、離れなくなっていた。