アバナホールは、現在中級と認められた探索者以外の立ち入りを禁止していた。
駆け出しごときに、スライムやトロルは荷が重い。
だが、ルシアが淫魔の鎧と出会った時以来、危険なモンスターの出現も途絶えていた。
そろそろ何らかの結論を下さなければ、いい加減駆け出しどもが日干しになる。
そう考えたギルドは、ルシアとクオムにレミルを加えたパーティを編成し、アバナホールの調査を依頼してきた。
ギルドから見て淫魔の鎧の正確な実力は不明だが、複数のトロルを撃退している以上、問題視する必要はない。
レミルもそれなりに場数を踏んだ、信頼できる中級探索者だ。
ここに一枚格落ちとはいえ、安定した支援型のクオムを加えれば、そう簡単に全滅はないと、ギルドは踏んでいた。
勿論、三人を放り出すだけではなく、確かな実力者による支援パーティも派遣する。
駆け出しを脱したレベルのクオムやルシアが帰還できるなら、アバナホールを解禁したいと、ギルドは考えていた。
当然、ほかにも依頼を受けたいパーティや、ソロの探索者たちも存在する。
だが、彼らや彼女たちは、功名心が強すぎた。
功名心のない探索者など三流にもなれない覇気の足りない者たちだが、今回に限ってはそれがまずかった。
アバナホール調査の完遂を目指すあまり、撤退の判断を誤る危険性が高い。
元々駆け出し向きと言われているダンジョン故に、エンカウントするモンスターのほとんどは大して驚異ではない。
それ故の油断が怖かった。
その点、ルシアは身を以てトロルと相対し、レミルは冷静とは言い難いがトロルをやり過ごす判断を下していた。
悪く言えばおっかなびっくりのクオムも、無謀な突撃をするとは思えない。
何せ今回の調査は、ダンジョンの制覇ではなく、安全度の確認だ。
駆け出しどもに危険かどうかを判断することが最優先であり、トロルやスライムの討伐を目的としたわけではなかった。
ルシアは、最初にクオムから話を聞いたとき、この点を勘違いしていた。
トロルを討伐ことは事実だが、それに伴った代償はかなり大きい。
レミルはともかく、クオムの前であの痴態を晒すなんて、死んでも御免だ。
どう辞退するか悩み始めたルシアの雰囲気を察したクオムは、調査目的で撤退は自由、無事の帰還が最優先であることを強調する。
クオムにしてみれば死活問題であり、今回の依頼はかなり乗り気になっていた。
「なんだ、そうならそうと言ってよ。クオムったら。じゃあ、依頼は受けるってことで。後でギルドに行ってくるよ。でも久し振りだね、クオムとレミ姉と三人で組むのは」
さすがにいつまでも、自堕落な生活を続ける気はない。
いくら気持ちよくても、一日中触手セックスにのめり込んでいたいわけではなかった。と思うことにするが、ルシアはちょっと自信がない。
「ルシアが勘違いするのが、いけないです。クオムも楽しみですよ、三人で組むの。レミルさんが帰ってきたら、詳しく打ち合わせるです。じゃあ、クオムは準備にいくです。ごちそうさまでした、ルシア、淫魔の鎧さん。今度は、クオムがごちそうするです」
そう言ってクオムは席を立ち、依頼に必要な消耗品の買い出しに出て行った。
スペルユーザーにとって、スペル発動の触媒となる魔石や魔鉱石は必需品だ。
熟達したスペルユーザーになれば、触媒なしのスペル行使も可能だ。
だが、駆け出しに毛が生えた程度のクオムレベルが、触媒なしにスペルを行使することは自殺行為に等しい。
一回や二回ならまだしも、探索のように何度もスペルを行使すれば、あっという間に魔力切れを起こしてしまう。
魔力切れの症状は、動悸息切れ目眩程度の体調不良で済むこともあるが、酷いときには昏倒する場合もある。
熟達者であっても触媒の準備を怠らない理由は、探索中や戦闘中に人事不省に陥れば即、死が待っているからだった。
「ルシア、どんな格好で行くんだ?」
クオムを見送ったあと、手早く触手で洗い物を済ませた淫魔の鎧は、ルシアに聞いた。
「う~ん、意気込みを見せるのに、キミの正式な姿にするか、普段着がいいか……どうしよう? あ、でもこの前みたく露出の高いのはだめだからねっ!」
淫魔の鎧が本来の姿を現せば、そこらのフルプレートアーマーでは太刀打ちできないほどの気品がある。
だからといって、今すぐ探索に出るわけでもなく、依頼の確認に行くだけの外出で、フルプレートアーマーはやりすぎだ。
淫魔の鎧の姿を仲間たちに見せたい気もあるが、やはり普段着の方がいいと思うルシアは、それを決めかねていた。
「お、おう。あれは敵の油断を誘うから、結構お勧めなんだがな。ま、悩むんなら、普段着っぽくして行くか」
室内着のラフな格好から普通の町娘の装いに、淫魔の鎧が変化する。
相変わらず内側には触手が蠢き、乳首とクリトリスに絡み付いてはいたが。
勿論、おまんことおしりの穴を触手が深く穿ち抜いていることは、言うまでもない。
「うん、これならいいかな。じゃ、ちょっと出かけようか。久し振りってほどでもないけど、緊張するなぁ」
さすがに慣れてきたか、性器を弄ばれさえしなければ、ルシアは平静を保てるようになっている。
淫魔の鎧がついているなら、護身用の武器は不要だ。
買い直したポーチを肩に掛けると、ルシアは部屋を出ていった。
「こんにちは~。クオムから聞いてきました~」
ギルドのドアを潜り、ルシアは元気よく挨拶した。
カウンターの内側から、その声に気付いた職員が手招きしている。
「ルシア、待ってたわ。さっきレミィとも話していたけど、急で申し訳ないわね。まだ疲れが残ってるんでしょうに」
三〇代前半の、落ち着いた大人の女性の雰囲気をまとう職員は、ルシアにイスを勧めながら話し始めた。
ルシアが生まれる前から、この事務所に勤めている大ベテランは、レミルを気軽に愛称で呼んでいる。
「大丈夫ですよ、ネルさん。元気はボクの取り柄ですから。で、アバナホールの再調査、ですよね」
クオムから内容は聞いているが、あれからどのようなことがあったか、以前とはどこに変化があったかは、あえて聞いていない。
クオムを信用していないわけではなく、余計なバイアスなしで情報を聞くために、誰もがしていることだった。
「そうねぇ、その前にいくつか聞きたいの。淫魔の鎧さん、あなたはどこまで知ってるのかしら、アバナホールのこと」
本来であれば、淫魔の鎧に聞きたいことは山ほどある。
いつ、どこから来たのか。
誰が、どのルートで持ち込んだのか。
アバナホールに、なぜ危険なモンスターが紛れ込んでいたのか。
今回の依頼は、その聞き取り調査も兼ねていた。
勿論、ギルドの強権で呼び出すことも可能だったが、ルシアともどもへそを曲げられても面倒だった。
他の町へでも流れられてしまっては、アバナホールに危険を残したままになってしまう。
出現モンスターが突然変貌したことも問題だが、淫魔の鎧のようなアーキファクトが今後も現れる可能性も大問題だった。
誰かが意図しておいたなら、その意図を確かめる必要があると、ギルドは認識していた。
「何かな、レディ? 俺に答えられることであれば、何でもお答えしよう。まず、あのダンジョンについてだが……」
淫魔の鎧は、ネルの問う意図には気付いている。
自身がどのような扱いをされてきたか、それを考えれば分からないはずがない。
ネルは勿論、ギルドの職員たちが、固唾を飲んで淫魔の鎧の言葉を待っていた。
「……なにも知らん。いや、本当だって。なにせ、二〇〇年前にあの箱に封じられてから、あの場所に運ばれたみたいだからな。元の場所からいつ移されたか、俺には分からない」
淫魔の鎧の答えに、誰もがずっこけた。
ネルは顎が外れたかと思うほど、大口を開けて唖然としている。
「……そ、そうなの? じゃあ、あなたを封じ込めて、アバナホールに運んだ者は誰なのかしら? 同一人物とは限らないでしょうけど。あと、なぜ、アバナホールだったのかしら? 推測でも構わないわ」
気を取り直したネルは、淫魔の鎧に立て続けに質問をぶつけていく。
後ろの職員は、一言も聞き漏らすまいと、紙にペンを走らせていた。
「俺を封じ込めたのは、我が造物主たる淫魔の王、インキュバス・キング、アダム様だ。それは間違いない。だが、なぜあのダンジョンに俺を置いたか、それがいつかは、まるで分からんな。箱の中で年月は数えられたが、運ばれたなどは分からなかったからな」
忌まわしき過去なのだろう、淫魔の鎧の口調に苦いものが混ざっている。
だが、それだけに嘘ではないと、聞く者全てが直感で理解していた。
「そう。なら仕方ないわね。アバナホールにトロルやスライムが現れた訳も、分からないままね……」
ネルは残念そうに呟いた。
「ああ、それならば推測だが、だいたいの理由は分かるな」
その場にいる全員の視線が、淫魔の鎧をまとうルシアに集中した。
「それを教えて頂戴っ! そのせいで、若い子たちを行かせられないのよっ! 死活問題よ、この町にとってもっ!」
駆け出し探索者が経験を積み、世界へと羽ばたいていく町として、アレイ・バークは名を馳せている。
経験を積んだあともこの町に残る者もいるが、大抵はさらに難易度の高いダンジョンを求め、別の町へと流れていく者がほとんどだ。
長い歴史の中で、町もそのように機能を進化させていた。
アバナホールがいきなり中級から上級向けダンジョンに進化してしまったら、町はそれについていけない。
混乱は町を衰退させ、順応するには多大な労力と時間が必要になるだろう。
町はいずれ順応するだろうが、駆け出したちの身の振り方を考えなけばならない。
このままここに留まっても実力不足で死ぬか、仕事にあぶれて日乾しになるか、商売替えを強要されるかだ。
そうなる前に、別の初級向けダンジョンを擁するギルドを、斡旋しなければならなかった。
今後のためにも、ある程度でもいいから予測が立てられるのであれば、それに越したことはなかった。
「ああ、聞いていただこう。まず、なぜダンジョンにモンスターが住み着くかだが、あれは魔界からやってくる。おっと、この話はここだけの話にしてもらおう。勿論、各国の上層部は承知しているが、庶民に知れたらパニックを起こしかねんからな」
さらりと恐ろしい話が飛びだした。
魔界の存在は、一定以上の地位を持つ者であれば、常識として知っている。
淫魔の鎧を始めとしたインテリジェンスウエポンは、この世界の住人では作り出せないものだ。
それが当たり前に存在する以上、供給源は必ずなくてはならない。
そして、淫魔の鎧の造物主たる、アダムと呼ばれる淫魔の王を始めとした魔界の住人が、この世界に姿を現すことも珍しくはなかった。
勿論、庶民の前にその姿を見せることも珍しくはなく、誰もが魔界の存在は認識している。
だが、人々を悩ませているモンスターが、魔界からやってきているとなれば話は別だ。
悪意と害意を以て、侵略の意図を持ち、大量のモンスターを次元の壁を越えて送り込まれたら、この世界の住人に抗する術はない。
既にこの世界の生態系に浸透したモンスターもいるが、あくまでも人間に対処可能な程度だった。
今のところ人間に対処できないモンスターは、ダンジョン深くに住み着くだけで、地上に出てくることはない。
だが、それらの強大なモンスターが大挙して地上の世界に襲いかかってきたら、この世界は確実に滅んでしまうだろう。
このような話を、軽々しく広めるわけにはいかなかった。
「それは予測していたけど、はっきりと明言されると、やっぱり認めたくはないものね。魔界はこの世界を侵略なり、滅ぼすなりの意図を持っているということ?」
少し青ざめた表情で、ネルは淫魔の鎧に問いただす。
情報統制がされている以上、あまり聞き出すのはまずいとは思ったが、町を守るためには知っておきたかった。
「いや、それはないと断言させていただこう。それよりも、魔界の住人たちは、この世界との交流や共存共栄を望んでいるくらいだ。俺を作り出し、この世界に渡したのも、そのためだ。ま、彼らはこの世界の空気の中に長くいられないから、無理と言えば無理なんだが。唯一可能な場所が、璋気がたっぷりと溜まったダンジョンの深部だ。そして、強大な力を持つ者ほど、この傾向が強い。つまり、地上への侵攻は無理ということになる」
淫魔の鎧の言葉に、全員が胸を撫で下ろした。
勿論、謀っている可能性もないとはいえないが、もし魔界の住人に侵略の意図があったなら、とっくに行動に出ていたはずだった。
魔界の住人のうち高位の者であれば、自らの力で次元の壁を破ることは可能だ。
淫魔の鎧が初めてこの世界に送り込まれたときも、アダムの力で次元の壁は破られていた。
また、魔界での闘争に敗れた住人が、安住の地を求めて次元の壁を破ってくるケースもある。
だが、それ以外にも次元の揺らぎにより壁が破れ、モンスターがこの世界にやってくることがあり、その場所がダンジョンや古戦場などの璋気渦巻く特異点ということだった。
「あなたの話を信じるなら、一安心ということね。今回アバナホールに強大なモンスターが現れたのも、それということかしら? なら聞きたいのだけれど、次元の揺らぎによる壁の破損は、永続的なことなのかしら? それとも、あのとき以来トロルやスライムの姿を見ないけれど、一時的なことと考えていいのかしら?」
最重要事項を、ネルは訪ねた。
この答え如何によっては、町は改革を迫られる。
生き残りを駆けた闘争は、なにも血を流すことだけではなかった。
「あ~、非常に言いにくいんだが、ルシア、いいか? これは推測と、あの時点で俺が感じたことを合わせての結論だが、今回の異変はルシア、ご主人が原因だ」
「はいぃぃぃぃぃぃっ!?」
淫魔の鎧の断定的な口調に、ルシアの素っ頓狂な叫びが重なった。
「ちょっと待ってよっ! ボクがいったい何したって言うのさっ!?身に覚えのないことで言いがかりを付けるのは、やめてくれないかなぁっ! やっぱりキミを解呪してもらうこと――」
「慌てるな、ご主人。順を追って説明する。ご主人に対する疑惑は、いや、そんなものは元から無いが、それで晴れる」
慌てふためくルシアの言葉を食いちぎり、淫魔の鎧は噛んで含めるように言った。
かもしれない、などとも言わない断定的な口調に、ルシアはとりあえず黙ることにする。
「まず、あとから聞いた話だが、ベテランの探索者たちが玄室の調査を優先したことで、ご主人が先に俺が入った箱を見つけた。ご主人、その前に目玉の化け物を倒しただろう? あれは俺をあそこに運び、箱から出そうてする者を追い払うために、そのまま配置されていたものだ。さっき、いつあそこに運ばれたか分からないと言ったが、あれの弱体化を考えると、封印されてすぐ。つまり二〇〇年はあそこに俺とあれはいたと思う。でなければ、ご主人は殺されることまではなくとも、追い払われていたはずだ」
そこまで言って、淫魔の鎧は一息入れた。
まだルシアの頭の上に、疑問符が漂っている気がする。
淫魔の鎧はネルに飲み物を頼み、また話を再開した。
「あれは次元の壁を破る力を、アダム様から与えられていた。と言っても、せいぜい敵をダンジョンから放り出す程度だったはずだ。だけど、ご主人は首尾よくあれを倒した。倒してしまった。あれの断末魔が、どこか違う場所からトロルを呼び寄せてしまったんだ。スライムもそうだろう。あのとき、俺はこのダンジョンは異常だと言っただろう? 次元の揺らぎが酷かったんだ。だが、たぶんだが、あれの力はもう残っていないはずだ。あのとき以来、トロルやスライムが発見されていないなら、そうなんだろう。だから、今回それを確認すれば、ご主人にかけられるであろう疑惑も、晴れるということだ」
結局は不可抗力であり、ルシアが罪に問われることはない。
意図して次元の壁を破り、凶悪なモンスターを呼び込んだならまだしも、偶然でしかない以上ルシアを罪に問う必要はない。
淫魔の鎧の言葉を聞いたネルは、そう結論していた。
だが、あくまでもそれは淫魔の鎧の推測であり、確証を得たわけではない。
やはり、今回の依頼は遂行してもらう必要があった。
「分かりました。ルシアが罪に問われるようなことはないと、当ギルドの責任において宣言しましょう。なんなら文書で残しますよ。とにかく、貴重な証言をいただき、感謝の念に堪えません。私の言葉などでは軽いかとは存じますが、ギルドの総意とお受け取りください。そして、今回の依頼は、それを証明するためにも、是非ともお受けいただきたく存じます」
可能な限り丁寧な物言いで、ネルは依頼の受託を求めた。
淫魔の鎧の言葉を信じれば、依頼自体が必要なくなる。
だが、確証を得たわけではないギルドとしては、調査をしないでは済まなかった。
「当然だ。俺の話だけで調査を打ち切るなど、正気の沙汰とは思えないからな。ご主人の疑惑を晴らすためにも、受けさせていただこう」
その程度のことが分からない、淫魔の鎧ではない。
もし、顔があるなら満面の笑みで、依頼を受託していた。
「ありがとうございます。クオムは既に受けておりますし、レミィ、いえ、レミルも承諾しています。ご準備ができ次第で構いませんので、アバナホールに赴く際にはご一報くださいませ」
未だに疑問符を漂わせているルシアを放置して、ネルと淫魔の鎧は結論に達していた。
ネルが差し出した手を、触手に操られたルシアが握り返し、ギルドにおける聞き取り調査は終了となった。
帰り道で、ルシアは淫魔の鎧の会話術に、驚嘆の意を示していた。
とてもではないが、自分にできるとは思えない。
下手をすれば投獄されていたかもしれないことを、あっさりと被害者として仕立て上げた手法は、真似しようと思ってできることではなかった。
「ありがとう……キミには助けられてばかりだね、ボク……」
何を返せばいいのか、ルシアは不安になっていた。
確かに犯され、あらゆる淫汁を提供してはいるが、それだけでは返しきれない気がしてきた。
あれはあくまでもルシア自身が、気持ちよくなった結果だと思う。
ルシアから淫魔の鎧に何を返せるのか、ギルドでの会話に追い詰められていた。
対等でいたい。
ルシアはそう思う。
淫魔の鎧に対する信頼感は、今日また上がっていた。
間違いなく、ルシアを最上に考えてくれていることが分かる。
では、ルシアは何を返せるのか、帰り道の間そればかりを考えていた。
「……好きにして。ボクのこと、キミの好きにして……」
部屋に戻ったルシアは、ベッドに身体を投げ出して言った。
返せるものは、身体しかない。
淫魔の鎧が望む、淫汁しかない。
「おい、どうしたご主人。いきなり、なんだ? そりゃ、ありがたいが、いきなりすぎだ」
からかうときはからかうが、ルシアが真面目になれば真面目に返す。
「だって、今日の話だって、ボクには分からなかった……キミが話してくれなければ、ボクは牢屋に入れられちゃったかもしれないんだからっ! お礼じゃないけど。お礼じゃないけどっ! ボクにはっ! ……ね、キミが喜ぶこと、して」
それしかできない。
ルシアが差し出せることは、喜びながら淫汁を淫魔の鎧に吸い取らせることしかない。
命を救われ、罪を消された代償がセックスなら、躊躇うことはない。
ルシアは、淫魔の鎧にも楽しんで欲しかった。
「ご主人、どうしたんだ? 俺がご主人を守るのは、当然のことだろう? 礼などには及ばんよ。俺が喜ぶこと? ご主人が望むことこそ、俺の喜び。……なあ、ルシア。俺は道具だ。知性と意志は持たされたが、あくまで俺は道具なんだ。ルシアの気持ちは嬉しいが、俺にそこまでの気遣いをする必要は、ない」
今までにも、何度もあった。
触手セックスに溺れた主人が、淫魔の鎧を人生の伴侶としたがることは、何度もあった。
淫魔の鎧は、それを認めない。
そんなことは、決して認めない。
人の伴侶は、人でなければならない。
淫魔の鎧は、道具でしかないことを、自身に課していた。理解していた。
喜びも、楽しみも、生き甲斐も、何もかも感じることはできようと、あくまでも道具でしかないことを、淫魔の鎧は理解していた。
触手を使い主人を快楽の海に導こうが、それは道具のすることだ。
愛し、恋い焦がれ、睦み合う人のなせることではない。
いくら人外の快楽をもたらそうが、それは人外の業だ。
巷に転がる張り型と、何ら変わることはない。
人は、人と愛し合わなければならない。
たかが人生のスパイスに、愛を抱くべきではないと、淫魔の鎧は思っている。
「でもっ! ……そんな言い方しないでよ……。ボクは……ボクはぁっ! キミにも喜んで欲しいし、楽しいって思って欲しいんだっ! キミに顔がないから分からないけど、ボクだけ気持ちいいだけじゃだめ。キミも気持ちよくなって、楽しくて嬉しくて、ボクと一緒になってよっ!」
ルシアの言葉に、淫魔の鎧は答えられなかった。
これほど嬉しい言葉はない。
何度聞いても、ありがたい言葉だ。
だが、命の考え方が違いすぎる。
何をしても壊れず、永遠の時を過ごす淫魔の鎧にしてみれば、人の一生など瞬く間のことでしかない。
ルシアの気持ちは嬉しいが、短い快楽のあとには永遠の別れが待っている。
その間、快楽に溺れて、人の道を踏み外させたくはない。
やってることと考えることが乖離しているが、淫魔の鎧はそう思っていた。
「そうだなあ、今のご主人にはまだ早いか。いずれ、大人になれば分かる」
過去の主人たちも、割り切っていた。
だが、ルシアは歴代の主人の中でも、突出して若い。
淫魔の鎧への信頼が、擬人化した人格への恋愛感情と、まぜこぜになっているようだった。
「やだっ! それが大人になるってことなら、ボクは大人になんかなりたくない!」
思春期特有の、大人を小狡く汚い存在と思い込む感情だ。
真っ正直に、策を講じることを狡猾だと拒み、その挙げ句大人に潰され恨みを募らせる。
そうやって人は学び、大人へと成長していくが、拗らせればあとは誰にも相手にされず、利用されるだけの人生が待っている。
「残念だが、ルシア。人は嫌でも時間とともに必ず大人になり、周囲もそう扱う。それを拒否することは許されないし、拒否すれば打ち捨てられ、社会から落ち零れていくだけだ」
持ち主が転落していく様など、淫魔の鎧は見たくない。
造物主アダムから付与された知性は、普通に幸せを求めて足掻く、人と同じものだった。
「いいよ。キミさえ一緒にいてくれるなら。ボクはそれでもいいよ」
ルシアは、意固地になっていた。
もう何を言っているか、自分でもよく解っていない。
それなりに利発な少女ではあるが、年相応の幼さが表に出てきてしまっている。
「そんなことは、俺は許さない。俺が許さない。主人が道具などに溺れ、人の道を踏み外すなど、俺に許せるはずがない。ま、ルシアはまだ子供だ。ゆっくり大人になっていけばいい。そのときが来たら、じっくり考えればいいさ。今は溺れていても、いいのかもしれないな」
淫魔の鎧は、ルシアをバカにしたりしない。
ルシアに足りない部分があれば、補えばいいだけだと考えている。
触手がおっぱいの丘を這い登り、乳首へと絡み付いた。
今夜は焦らしたりはせず、かといっていきなり強烈粘着なタッチもしていない。
優しく乳首を揉みほぐし、おっぱい全体を愛撫していた。
「ふぁっ!♥ ……そんな言い方……ずるいよキミは……言い返せない……あんっ!♥ ……じゃないか……ああっ!♥ そんな……優しく……されたら……んあっ!♥ ……ボク……すぐ……とろけちゃう……ひぃんっ!♥」
二つの突起がピンク色に染まり、固い芯を持ったところでクリトリスへの愛撫がスタートする。
過剰な快感をもたらすことなく、ルシアの官能がゆっくりと掻き立てられていった。
乳首に触手が巻き付き、緩やかに絞めながら先っぽを掻き乱す。
クリトリスを軽く押し潰し、恥骨に押しつけてこねていく。
それだけでルシアのおまんこは愛液に満たされ、挿入されている触手をぬちゃりと包み込んでいた。
「ふっ!♥ ふあっ!♥ ふーっ!♥ ふーっ!♥ ……はひゅっ!♥ 放さないでっ! ボクを……ずっと……ああああっ!♥ ……全部……ボクの全部あげ、る、から……ッ! ひゃうううっ!♥」
うなじを触手が這い、わき腹を撫でさすり、へそを何本もの先端が埋め尽くす。
性器への直接的な愛撫でなくとも、ルシアは身を捩って快感を伝えていた。
わずか数日で触手セックスに開発されたルシアは、全身が性器に変えられたような錯覚に捕らわれている。
おしりの穴に注ぎ込まれ、粘膜からダイレクトに吸収された媚薬の効力は、一回のセックスだけでは失われない。
血流に乗せられて全身に行き渡らされた媚薬の効力に、ルシアは常時曝されていた。
「おまんこ、じんじんすりゅっ!♥ 早くぅ♥……ずぼずぼしてぇっ!♥ ボク……ああっ!♥ 我慢れきないっ!♥ あっ!♥ うあああああああっ!♥ らめっ!♥ 焦らすのいやぁっ!♥ あうっ!♥ あんっ!♥ あああああああっ!♥」
おまんこに挿入されていた触手が、伸びながらゆっくりと抜けていく。
長々と伸びた触手は延々と中のひだを掻き乱し、ルシアをのたうち回らせる。
一メートル以上に伸ばされた触手は、焦らすようにゆっくりと縮みながら、ルシアのおまんこに収まっていく。
激しいピストンとはまた違う快感に、ルシアは早くもとろけていた。
「今のしゅごい♥……あああっ!♥ ああっ!♥ ボク……今のしゅき♥……にいいいいっ!♥ ……なったぁ♥……うあああっ!♥ おしりもぉ♥……おしりの穴にもして♥……んひぃっ!♥ あお♥……おおおおっ!♥ イくうううううっ!♥」
何度も繰り返されるおまんこへの長々とした抽送に、ルシアの頭の中が真っ白に塗り潰されていく。
おしりの穴に同じことをされたらと、ルシアは恥ずかしい願望を口にした。
おまんこと同じように触手が伸びながら、おしりの穴の入り口に集中する敏感な神経叢を延々と擦りながら抜けていく。
それだけでルシアは、絶頂へと駆け登っていた。
「あ゛ーっ!♥ あ゛ーっ!♥ あ゛ーっ!♥ いぎぃぃぃいいいっ!♥ はぁはぁはぁ♥……らめぇ♥……しゅごひぃ♥……はひゅっ!♥ そんな、したりゃ♥……おかおに♥……えっちなお汁♥……かかっひゃ……う♥……よぉ♥……あひっ!♥ うああああああっ!♥ らめらめらめらめぇっ!♥ れひゃううううっ!♥ あああああああああっ!♥」
触手に脚を持ち上げられ、まんぐり返しに固定されたルシアの目の前で、触手がゆっくりと動いている。
おまんことおしりの穴をゆっくりと出入りする触手から、ルシアの顔にいやらしい汁が滴っていた。
決してスピードアップすることなく、ゆるゆると出入りを繰り返す触手の動きに、ルシアの脳は快感で焼き切れる。
我慢することなど適わず昇天し、ルシアは大量の潮を噴いてしまう。
顔に降り注ぐ潮に被虐的な快楽をさらに掻き立てられたルシアは、背筋に走るぞわりとした感覚とともに、イったままイき続けていた。
力なく両腕を投げ出し、指先だけを小さく痙攣させるルシアのぼんやりとした視界の中で、愛液を滴らせた触手が蠢いている。
思考力が極度に低下し、触手セックスのことしか考えられなくなったルシアのおまんことおしりの穴を、長大な触手が犯し続けていた。
クリトリスはいつの間にか包皮を剥かれ、真っ赤に充血した鋭敏な姿を晒されている。
両の乳首もろとも粘着タッチに弄ばれ、ルシアに軽い絶頂を繰り返しもたらしていた。
「ボクのおまんこぉ♥……おひりぃ♥……しょくひゅに♥……犯しゃれて♥……うれひそ、に♥……よだれ垂らひてりゅ♥……んひぃっ!♥ あんっ!♥ またれれりゅ♥……ボク♥……おかおに♥……えっちなおひりゅ♥……いぎっ!♥ きゅぅぅううっ!♥ びひゃびひゃひちゃうのぉっ!♥ いぎゅううううっ!♥ はあっ!♥ イくイくイぎゅイぐイぐぅうう、あああっ! ……」
小刻みな痙攣とともに、間欠泉のように潮が噴き出され、ルシアの顔に降り注ぐ。
おっぱいもぐっしょりと潮を浴び、魔照明に照らされて艶やかに光を反射している。
視覚まで犯されたルシアに、より大きな絶頂の波が押し寄せた。
目の前で両脚がガクガクと痙攣し、また大量の潮が顔に降り注ぐ。
容赦なく口に流れ込んだ潮を飲み下したルシアのおしりから、触手が一気に引き抜かれた。
絶頂痙攣が収まらないうちに襲いかかってきた次の絶頂に、ルシアの身体はあっさりと限界に達する。
ぴくぴくと全身を痙攣させたまま、ルシアの意識は闇に沈んでいった。