ルシアは何度目かの絶頂失神のあと、おまんこを貫く触手に手をかけた。
舐めたい。
口に頬張って、舌を絡めてみたい。
そのまま喉奥まで突っ込まれ、口の中まで犯されたい。
ルシアはおっぱいとクリトリスを責められながら、その一点に思考を集中する。
震える手が股間に伸び、おまんこを貫く触手を掴んでいる。
だが、引き抜こうとしてみたが、おまんこに食い込んだ触手はビクともしなかった。
「あひっ!♥ ……ちょうらい♥……キミの♥……ふとい、の♥……ひうっ!♥ ……ボクの♥……ぉ口に♥……くらひゃい♥……ああああんっ!♥ ぺろぺろ……しひゃいのぉ♥……はひゅっ!♥ ……ね♥……ぺろぺろ♥……キミ♥……あああっ!♥ きもちく……なりゅ?♥ ……ひあああああっ!♥」
淫魔の鎧は、ルシアの言いたいことを理解した。
昨日、なぜ力が解放されたかを、淫魔の鎧は理解した。
だが、悲しいかな、淫魔の鎧に快感はプログラミングされていない。
ただ犯し、淫汁を吸い上げ、魔力に変換して主人に返すしか、淫魔の鎧にできることはない。
「済まねぇなぁ、ルシア。気持ちは嬉しいけど、俺に快感はないんだ。ルシアが気持ちよくなることこそ、俺の喜び。それを見せてくれるのが、俺には一番だ。ルシアが望むなら、舐めてくれ。それでルシアが気持ちよくなるなら、舐めてくれ」
過去に同じようなこともあった。
見送った主人に思いを馳せながら、淫魔の鎧はルシアのおまんこから引き抜いた触手を口元に運ぶ。
自身の愛液まみれの触手だ。拒絶されても仕方ない。
そう思いながら、淫魔の鎧はルシアの愛液にまみれた触手を、持ち主の口元に差し出した。
「そうなんりゃね? れもいい♥……今日は……この子♥、ボク、放さにゃしゃにゃい♥……じゅっと♥……ぺろぺろ♥……しゅりゅ♥」
口元に這い寄った触手を抱き締め、頬ずりしながらルシアは答えた。
とろけた目で触手を見つめ、強く抱き締めては何度も何度も頬ずりする。
質量を失ったおまんこからは、愛液がしとどに溢れ出し、おしりの穴を貫いている触手に吸収されていく。
淫魔の鎧は数本の細い触手を繰り出し、ルシアの淫唇を開くと内側をまさぐり始めた。
今ルシアが口にしている触手と同じものを作ることは、何となくはばかられるものがある。
淫魔の鎧は、違うタイプの触手でルシアのおまんこを責め始めていた。
「……あむっ♥……くちゅっ♥……じゅるっ……ぢゅるるるっ……ふあっ!♥ 見にゃくれも……分かりゅ、よ♥……んああっ!♥ ……ボクの♥……くちゅくちゅ……おまん、こ♥……開かれてりゅ♥……いい♥……ぺちゃぺちゃ……じゅぽじゅぽりゃなくれも♥……きもちいいよぉ♥……ふあああっ!♥」
亀頭を象った触手の先端を口に含み、ルシアは舌を絡めて顔を振っている。
口唇を淫唇に見立て、口をおまんこの代わりにして触手を愛していた。
泡だったよだれが口から溢れ、頬を伝って耳を掠め、栗色の髪に垂れていく。
触手を口から離したルシアの唇からは、銀糸が何本も触手につながっていた。
「美味しそうにしゃぶってくれて、それが俺には嬉しいぜ、ルシア。俺に快感はないが、ルシアが大切にしゃぶってくれている感覚は伝わってる。ありがとう、ルシア」
触手の先端に、ルシアの唇や歯、舌の感触はしっかりと伝わっている。
とろけそうな目を寄り目にして、ルシアが触手から目を離すまいとしているのが嬉しかった。
それが見返りを求めない行為であっても、淫魔の鎧はそれを良しとはしない。
全力解放のトリガーを引いた返礼をしないなど、淫魔の鎧には考えられないことだった。
ルシアが望む快感を、ルシアが好きな快感を、全力で作り出すべく淫魔の鎧は触手を繰り出していった。
「……ふぅぁっ!♥ ……キミに♥……うれひぃって♥……いわれひゃったぁ♥……くちゅっ♥……ぺちゃぺちゃ♥……ボク♥……うれひいにゃあ♥……あんっ!♥ あひっ!♥ はひゅっ!♥ ……らめらよぅ♥……そ、な……ひたりゃ……なめなめ……れきな、く、なりゅっ!♥ ああああああああああっ!♥」
乳首とクリトリスに、粘着タッチが始まっていた。
それだけでも触手を離してしまいそうな快感がルシアを包み、同時にGスポットにも微弱な電流が走る。
おしりりの穴の触手がゆっくりと抽送を開始して、敏感な神経叢を延々と擦りあげていった。
ルシアは手で口を塞ぐように触手を抑えつけ、弛緩しかけた口腔に自ら触手を抽送し、仰け反りながら喘いでいる。
尿道口に細い触手が入り込み、久しく封印されていた快感にルシアの身体がさらに仰け反っていった。
「うあああああああああっ!♥ それえええっ!♥ しゅきぃっ!♥ あひあっ!♥ らいしゅきいっ!♥ おひっこあにゃあっ!♥ おかひて!♥ らいしゅきなのぉっ!♥ ひぎいいいいああああっ!♥ イくっ!♥ ボクそれらけれイっひゃうのおっ!♥ あああああっ!♥ イくうううううっ!♥」
頭の中が真っ白になったルシアは、触手をくわえていられなくなってしまう。
触手を握りしめながら絶叫したルシアは、尿道口への快感の中で何度もイき続けていた。
淫魔の鎧は膀胱に貯留されたおしっこを、直接吸収するような無粋なマネは決してしない。
ルシアからお漏らしの快感を奪うような、無粋なマネは決してしなかった。
ルシアの絶頂が継続する中、尿道口でピストンしていた触手が抜けていく。
それがまたルシアを絶頂に放り投げ、つま先と首で身体を支えるルシアにとどめを刺した。
触手が尿道口から抜けきったとき、痙攣しながらルシアの身体が硬直する。
断続的な絶頂と余韻の繰り返しの中で、脱力したルシアの身体がベッドに落ちる。
両膝を外側に曲げて中途半端に開かれた太腿の間から、ルシアのおしっこが高いアーチを描いた。
「……ぁぁぁぁぁ♥……しゅご、いぃ♥……あむっ♥……くちゅっ♥……はぁぁぁ♥……キミの触手♥……おいひいよぉ♥……あむっ♥……んんんんっ!♥ ひぐっ!♥ ……ぁぁ、ぃぃ♥……んむぅぅぅ♥……はひっ!♥ ……♥」
無心に触手にむしゃぶりつくルシアは、必死になって絶頂失神を耐えている。
ルシアは淫魔の鎧に嬉しいと言われ、それを続けたいと強く願っていた。
快感抑制の実験で持て余した性欲を鎮めるために触手セックスをねだり、始めていたはずだったが、今のルシアは快感を求めながらのご奉仕に熱中している。
そんなルシアをあやすように、淫魔の鎧は一転して優しく触手を操っていた。
粘着タッチと電流責めを一時中断し、おっぱいを優しく揉みしだきながら、クリトリスを柔らかく擦りあげる。
ルシアがフェラチオに没頭しやすいように、横臥の態勢に身体を転がしていた。
「んむぅ……ぷぁっ!♥ ……ボクの♥……えっち、な♥……おしりゅ♥……いっぱい♥……取っていいんらから、ね♥……ボクが♥……なめなめ♥……ぁぁぁぁ♥……しゅるより♥……それ、が♥……らいじらもん♥……ぁぁぁぁ、ぃぃょぉ♥……ちゅっ♥……ちゅるっ♥……ひっ!♥ ……ちゅるるっ♥……あああ♥……♥」
ルシアは淫間の鎧の変化に、嬉しくない遠慮を悟っていた。
そして、心構えならばともかく、自己満足にも気付いている。
淫間の鎧が何を一番喜ぶか、ルシアはそうありたい。
でも、我が儘でもいたかった。
きっと淫間の鎧は、ルシアが喜ぶのが一番嬉しい。
なら、限界突破まで責められ、ありとあらゆる淫汁を噴き散らして垂れ流しながら、触手をくわえたまま失神するまで絶頂すればいい。
触手をしゃぶりながら、違う触手に脚を垂直に持ち上げられ、おまんこをぱっくりと開かされ、小さく悲鳴を上げたルシアは、次の責めに心を震わせていた。
「んああああああんっ!♥ 入、って!♥ きたあっ!♥ じゅぽじゅぽおぉっ!♥ おまんこしてりゅううぅっ!♥ きもひいいっ!♥ ボクのおしりゅっ!♥ いっぱいいっ!♥ いっぱあああいっ!♥ ああああっ!♥ おひりもおぉっ!♥ りょーあにゃっ!♥ りょーあにゃされへりゅよおぉぉっ!♥ ひ、ひぎっ!♥ なめなめれきにゃっ!♥ いやあっ!♥ イかしゃれりゅのやあああああああああっ!♥」
ルシアの意図を理解したか、太くて固い芯を持った触手が、ぱっくりと開いたおまんこにめり込んだ。
脳天まで貫く衝撃に、ルシアは触手から離してしまった口をぱくぱくと開閉させながら、大きく痙攣している。
触手のピストンに歓喜の絶叫を放ちながら、ルシアは絶頂へと駆け上がっていく。
脚を大きく開かされた無防備な態勢でおまんことおしりの穴を突かれながら、被虐的な快感がルシアに沸き上がってきた。
触手をしゃぶれないことで苛められているような、滅茶苦茶にされているような淫楽に脳が焼かれ、ルシアは絶叫しながらイかされている。
「いやああっ!♥ ぺろぺろしゅりゅうううっ!♥ イかひゃれるのいやあああああっ!♥ ひぎいいいいいいっ!♥ ……あひっ!♥ ……あへぁ♥……」
容赦ないピストンが両穴を穿ち、乳首とクリトリスに電流が走る。
太い触手とともにおまんこに潜り込んでいた触手からも、Gスポットに電流が撃ち込まれていた。
何度も絶頂が強要され、愛液と腸液を触手に掻き出されながら、ルシアは潮を噴いている。
やがてひときわ高い絶叫のあと、ルシアは糸が切れた人形のように失神した。
無様に開かれた股間から、おしっこが垂れ流され、シーツに落ちる前に触手に吸収されていく。
いつもおまんこを埋め尽くしている愛しい触手を抱き締めたまま、ルシアは深い眠りへと落ちていった。
「さて、こんなものか」
あれからルシアは眠ったままで、外はもう日が沈んでいた。
テーブルにはいくつもの皿と、ワインのピッチャー、そしてパンが並んでいる。
キッチンには下拵えが済んだ食材が、料理に使われる順序通り、几帳面に揃えられていた。
「起きろ、ご主人。食事の時間だ。起~き~ろ~」
淫魔の鎧が、ルシアを揺り起こす。
昼過ぎから夜まで熟睡しているとはいえ、朝からの実験に昼からの触手セックスと、ルシアの体力はかなり消耗していた。
なかなか起きられないルシアを、淫魔の鎧は粘り強く揺り動かしている。
「……ん、んん……ぁん♥……はう……」
ようやくルシアが目を覚まし、ゆるゆるとベッドに身を起こすが、ぽーっとしたままあたりを見ている。
抱えていたはずの触手がいなくなったことに気付き、ルシアの眉が悲しそうに垂れ下がった。
「起きたか? ん? ちゃんと、ここにいる。ほら、食事の前に顔を洗え。寝ぼけたまま食っても、旨くないぞ」
ルシアの動きから何を探しているか理解した淫魔の鎧は、軽くおまんこの奥を突き上げた。
その間も、壁から生え出した触手が料理を仕上げていく。
「ひゃんっ!?♥ なにするのさっ! ……う~、分かってるよ~だ。顔洗うから、服になってよ。誰もいなくても、裸だと落ち着かないよ」
おまんこへの突き上げで小さな悲鳴を上げてしまったルシアは、宙に向かって可愛く舌を突き出す。
それでやっと目が覚めたのか、シーツをはぎ取るとベッドから降りた。
淫魔の鎧がゆったりとしたワンピースに変化し、左の胸元に目が現れる。
その目にウインクして見せたルシアは、触手の邪魔にならないようにシンクの端で顔を洗った。
「どうしちゃったの? こんなご馳走いっぱい作っちゃって。みんな美味しそうだね」
タオルで顔を拭きながら、ルシアは次々とできあがっていく料理に目を丸くした。
どれも繊細な彩りと盛り付けがされていて、見ているだけでも楽しかった。
「おう。まあ、なんだ……、全力解放のお礼というか、祝いというか……そんなところだ」
照れくさそうな、淫魔の鎧の声が聞こえてきた。
身体があったなら、きっと俯きがちに頬を指で掻いているような、そんな声だった。
「どうしよう、それならレミ姉とクオムも呼ばなきゃだけど、急すぎるよね……」
あの二人にも、淫魔の鎧を祝ってほしい。
だが、事前に声をかけていたならともかく、既に一般的な夕食の時間になっている。
出かけているかもしれないし、何か買い込んでいるかもしれなかった。
「心配するな、ご主人。レミル嬢にもクオム嬢にも、既にお裾分けしてある。声をかけたんだが、そんな大事なことは二人で祝えと言われてな」
触手をひとときも休めることなく、淫魔の鎧は答えた。
ルシアが眠っている間に、二人に料理を持ち帰ってもらっていた。
勿論、部屋の中までは招き入れず、ルシアには厳重にシーツをかぶせた上でのことだった。
「そっか。なら、喜んで。キミが食べないのが残念だけど、今はボクだけで食べさせてもらうよっ」
そう言って満面の笑みで席に着いたルシアの前に、スープの皿が運ばれてきた。
淫魔の鎧が料理してくれたことも、レミルとクオムの気遣いも、今のルシアにはこの上もなく嬉しいことだ。
ルシアはコーンポタージュをひとくち飲み下し、輝くような笑顔を見せていた。
「お、気に入ってくれたようだな。かなり疲れていたようだったから、栄養価が高くて、胃に優しいメニューで考えてみた。慌てずに、ゆっくりと食ってくれ」
そう言いながらも、次の皿が運ばれてくる。
湯がいたアスパラガスとニンジン、そしてイエローパプリカの温野菜サラダだ。
生のレタスが添えられ、歯触りの違いが演出されている。
そこに真っ赤なドレッシングが、彩りを増すようにかけられていた。
レモン汁とオリーブオイルを一対三でよく撹拌し、塩胡椒に砂糖少々、そして裏ごししたトマトを合わせたソース・ヴィネグレット・ジャンジャンブルに近いものだ。
本来であれば砂糖は使わないが、淫魔の鎧はルシア向けにちょっとしたアレンジを施していた。
「うわ……。すっぱくてさっぱりしてるけど、トマトの味が効いて、美味しいよ、これも。やっぱり、どこかの王宮とかのメニュー? どうして、一皿ずつ出すの?」
どうすればこんな美味しいものを作ることができるのか、どこでこんな知識を仕入れていたのかと、半ば呆れたような表情で、ルシアは舌鼓を打っている。
町の食堂や酒場では、まず間違いなく食べられない味だった。
そして、大人数での会食の場合、様々な料理を乗せた大皿を、所狭しと並べるサーブの仕方がこのあたりの常識だ。
一皿ずつ、盛り付けや彩りに巧緻を凝らしたサーブの仕方も、ルシアには珍しいものに思えていた。
「ああ、これは北の公国のメニューだな。だからサーブも公国流にしてみた。料理を出す順番も本当は決まってるんだが、今日はちょっと入れ替えてみた」
温暖なこのあたりとは違い、北の公国では大皿で料理をサーブしていない。
暖房設備がそれほど発達していないこの世界のこの時代では、北の公国の冬に大皿で料理を出そうものなら、取り分けている間に冷め切ってしまう。
そのために、各人に一皿ずつサーブする習慣が、北の公国では発達していた。
現代の地球で普及しているフレンチのフルコースも、ロシアの宮廷晩餐会がベースとなっているが、そのスタイルが発展してきた理由は同じだ。
「おもしろい食べ方だね。うん、楽しくていいね、こういうのも。次は何? 今日は北の公国尽くしかな?」
よほど空腹だったのか、温野菜のサラダをぺろりと平らげたルシアは、次の皿をねだっている。
淫魔の鎧は、それを宥めるように、ルシアのカップに触手でワインを注ぎながら、次の皿を別の触手で運んできた。
「いや、いろいろな国のメニューを、ご主人に合わせて組み合わせてある。さて、さっき言ったように、本来はこの皿から始めるんだが。起き抜けな上に、腹が減りすぎてると思ってな。あえて最初はあったかいスープから始めてみた」
細かく斬ったエビとハムが生クリームと卵白で寄せられ蒸し上げられたテリーヌと、薫製にされた鴨肉、飾り切りを施された二十日大根が可愛らしく並べられている。
「うん。ありがとう。おかげでお腹が落ち着いたみたいだったよ。これも美味しそうだね。なんか、ずいぶんと可愛らしいけど、これを、キミが?」
ルシアは目を楽しませてくれた料理を、食べるのが忍びなくなっていた。
それにしても、普段見せる淫魔の鎧の振る舞いからは、とうてい想像もできない盛り付けだ。
小さく笑みを浮かべたルシアは、意を決してテリーヌにフォークを向けた。
「うわ……美味しい……ふぅ。もう溜め息しか出ないや。どう表現していいか、ボクには分かんないよ」
あっという間にこの皿も平らげたルシアは、パンをちぎって皿に残ったソースを拭う。
一滴たりとも残したくなかったルシアは、本当なら皿にかぶりついて舐めたいくらいだった。
「そこまで言ってもらえるなら、感謝の極みだ、ご主人。次は魚だ」
分厚い舌平目のフィレを、小麦粉をはたいてバターで焼き上げた、先日も作ったムニエルだ。
あのとき以来この料理法を気に入っていたルシアには、目新しくなくても嬉しい一皿だった。
それでも全く同じではなく、ソラマメと舌平目の肝を合わせたピューレを、同じ舌平目の骨とアラから取ったブイヨンで伸ばしたソースが添えられている。
「ねえ、この魚はいつの間に買い込んだの? この前はこれ買ってなかったと、ボクは記憶してるんだけど?」
まさか、失神している間に身体を操られていたのではと、ルシアは急に不安になった。
緊急時ならともかく、それならば起こしてほしかった。
「心配するな、ご主人。クオム嬢が行ってくれた。ああ、お礼はしてあるから、こちらも心配は無用だぞ」
夕食を誘った際に、まるで起きる気配を見せないルシアに、クオムが買い出しを買って出ていた。
勿論、今夜の料理にワインを一本つけて礼をしてある。
「ふぅん、ならいいけどさ。うん、やっぱりこれ、好きだなぁ、ボク。これ食べるまでは魚っていうと、そのまま煮込んだものしか知らなかったよ」
意外と魚を焼くのは時間がかかるし、加減も難しい。
この世界でも、上流階級にはいくつかの魚を焼くメニューはあるが、基本的には煮込むことがほとんどだ。
その上、ある程度熟成が必要な獣肉に比べ、鮮度の劣化が激しく、短期であっても保存が難しい。
ルシアが出入りするような大衆食堂や安酒場では、まともな魚は期待できるはずもなかった。
「そうか。ならこれは口に合うか心配だな。無理はしなくていいぞ。レミル嬢は見ただけで断っていたからな」
淫魔の鎧が前置きをして、小振りな皿を差し出した。
オニオンスライスの上に、鮮やかな赤い魚の切り身が並び、透明なドレッシングがかけられている。
マグロの赤身のカルパッチョだが、レミルは生魚というだけで、強い忌避感を示していた。
てっきり焼くか煮ると思って買ってきたクオムは、一瞬怪訝な表情を浮かべていたが、探求心豊かなスペルユーザーの本領を発揮し、未知の料理に果敢にも挑んでいた。
そんなお裾分けの際の光景を思い出し、淫魔の鎧はルシアに無理をしないようにと断りを入れていた。
「へぇ……生、で。初めてだよ。でもキミが出すくらいだから、美味しいんでしょ? ボクは信じてるよ」
言葉とは裏腹に、なんとなくひきつった表情になったルシアは、意を決してカルパッチョを口に入れた。
目を固く閉じて咀嚼し、表情を緩めて嚥下する。
「……。……ちょっとレミ姉のところに行ってくる。これ食べないなんてっ! きゃんっ!」
皿を持って、憤然と立ち上がったルシアを、淫魔の鎧が強制的に座らせた。
「やめとけ、ご主人。食の好みは人それぞれだ。強制するのは無粋の極みだぞ。レミル嬢にも育ってきた過程で、作り上げてきた好みがある。無理して食べさせても、いいことはないんだ」
現代の地球でも、食の好みは民族地域によって千差万別だ。
そして、生魚を受け入れる者は、どちらかと言わなくても少数派でしかない。
この世界においても、生物的には同じような進化を遂げてきた人間は、生魚に強い忌避感を持つ者が大多数だった。
そんな中で、幼い頃からの貧乏暮らしになれていたルシアは、食べられるものなら何でも食べてきた。
そのせいか、食に対する忌避感があまりない。
カルパッチョを素直に受け入れられたのも、そんな育ちが影響していたのかもしれなかった。
反対に貴族であったレミルが、生まれ育った地域に魚を生食する習慣がなければ、躾の中で培ってきた常識に則して忌避感を持ってもおかしくはなかった。
そして隣の部屋では、ルシア同様に育ってきた少女が、カルパッチョの虜になっていた。
「キミがそこまで言うなら……。でもいつか、レミ姉に食べさせるよ、ボクは」
多分に身贔屓もあるだろうが、ルシアはカルパッチョを忌避しているのはもったいないと、素直に思っている。
どうすればレミルに忌避感なく、これを食べてもらえるか、ルシアは頭を悩ませていた。
「何とかして食わそうなんて考えるなよ、ご主人。下手をしなくても嫌われるぞ。食の好みってなぁ、そんなもんだからな」
すかさず、淫魔の鎧が釘を刺す。
気に入ってくれたのは嬉しいが、それが元で二人の中に亀裂が入ることは我慢ならない。
萎れるルシアの前に、淫魔の鎧は今夜のメインディッシュをサーブした。
分厚い食用牛のサーロインだ。
ギリギリの見切りでミディアムレアに焼き上げられた肉に、赤ワインベースのソースがかけられている。
刻みタマネギを形を失うまで炒め、ブイヨンと赤ワインで伸ばしたあとに香味野菜とローリエを加え、灰汁を取りながら煮詰めて塩胡椒で味を調えてある。
それをフライパンに残った肉汁と合わせひと煮立ちさせた、時間と手の掛かったソースだった。
立ち上る湯気と香りに、ルシアの表情が一気に晴れた。
「ああ……食べ終わっちゃった……」
満足げな、少し寂しそうな表情で、ルシアは皿に残ったソースをパンで拭っている。
少女とはいえ、さすがは身体が資本の探索者だ。
大の大人でも胃もたれしそうな量を平らげて、平然としている。
「ご主人、初めてのフルコース、ご満足していただけたかな? デザートはこれだ」
ルシアの前に、すり下ろしたリンゴを氷結のスペルで冷やした、シャーベットもどきが供された。
勿論、熱いお茶も出されている。
普段安物のお茶や、茶葉ではないハーブティーしか口にできないルシアにとって、かなり張り込んだ紅茶の香りは、それだけで心を和ませてくれた。
「ふう……♥。あは。フルコースって言うんだ。もう、満足だよ、ボク。食事でこれ以上の満足なんて、もう考えられないよっ!♥ 明日から元の食事に戻れるのか、不安なくらいだ。でも、お金は大丈夫なの? こんなときに聞くのも興醒めなんだけど……」
紅茶を飲みながら、ルシアは不安を口にした。
アバナホールの再調査でオーガの討伐と、危険手当の上増しがあった分、まだ心配はいらないが、育ち故の貧乏性はそう簡単に抜けるものではない。
つい先日淫魔の鎧と出会う前まで、その日暮らしに等しいタイトロープな生活を続けざるを得なかったルシアは、どうしてもそこが心配になってしまった。
「まだまだ、懐具合はあったかいぞ、ご主人。先日のオーガ討伐は、ご主人たちの実力からは、快挙と言ってもいいくらいだ。ギルドもずいぶんと張り込んでくれたさ」
絶頂の余韻に朦朧状態な上、それをクオムに見られてしまったショックから、あのときのルシアにはまともな記憶が残っていない。
一切合切を、脳が記憶することを拒んでいた。
結局、世事に慣れたレミルがあとの話し合いをまとめていたが、報酬がいかほどだったのかまで、ルシアは記憶から消してしまっている。
淫魔の鎧がレミルから報酬を受け取り、現在はそのまま管理していた。
「キミがそう言うなら大丈夫か。なんだか、全部頼っちゃってるみたいで、ボク、なんだか申し訳ないやら情けないやら……こんなボクだけど、よろしくお願いします」
ルシアは宙に向かって、ぺこりと頭を下げた。
そのとき、左の胸元の目と視線が合う。
淫魔の鎧の目は、優しく笑みを浮かべているように、ルシアには見えていた。
「ああ、こちらこそだ、ご主人。まだ、あまり役に立っていない気もするがな。もっとも、ご主人の命を救うなんてことは、あまり起きてほしくはないがな。ご主人には、危険に近付いてほしくはないものだな」
危険や闘争とは無縁の人生を送ることができるなら、それに越したことはない。
淫魔の鎧の本領は闘争にあるとはいえ、大切に思う主人が危険に近付くことを好ましくは思っていなかった。
過去の主人の中でも激動の人生を送った女性たちを思い出すにつけ、ことさらルシアには危険に近付いてほしくはなかった。
とはいえ、ルシアに危険が近付くなら、淫魔の鎧は全ての力を振り絞ってこれを打ち砕く。
ルシアが戦いの中に栄達を求めるというならば、万難を排してそれを掴み取らせる。
その決意は変わらない。
その決意が変わることは、決してない。
それが淫魔の鎧の存在意義だった。
「ねえ、また作ってくれるかな? 毎日は無理でも、何か今日みたいな節目になった日とか……♥」
ルシアは、危険に近付いてほしくはないという淫魔の鎧の言葉に、答えを返せない。
できることなら、探索者として行けるところまで行ってみたかった。
それは無謀な挑戦をしたいというわけではないが、あえて危険に踏み込むことを厭わないということだ。
淫魔の鎧がルシア第一に考えてくれていることは、痛いほどよく解っている。
だからこそ、それに甘えてばかりではいけないと、そう思っていた。
いつか、どんな危険でも平然と噛み破れるような、そんな強さを持った探索者になりたい。
ルシアは、そう決心していた。
「そうだな。また、いいことがあったら、フルコースで祝うとしよう。ご主人に料理は覚えてもらうが、その日ばかりは俺が腕を振るわせていただく」
ルシアの内心を見透かした淫魔の鎧は、そのことには触れずルシアの願いを承諾した。
その答えを聞いたルシアが、嬉しそうに飛び跳ねている。
一緒に部屋の中を飛び跳ねながら、淫魔の鎧はそれが一番嬉しかった。
「ご主人、明日もまた、実験を続けるのだろう? 今日の疲労具合を鑑みるに、そろそろ休んだ方がいいんじゃないか?」
はしゃぎ回るルシアに、淫魔の鎧が声をかけた。
休めるときには、徹底して身体を休める。
一流の探索者であれば、当たり前の心構えだ。
「うん。そうだね。でも、その前に。……触手のフルコース、またボクにご馳走してほしいな。ボクのえっちなお汁のフルコースも、キミにご馳走……きゃっ!♥」
真っ赤に染め上げた顔を両手で覆ったルシアが、ベッドにダイブした。
おっぱいごとシーツに押しつけられた目が、楽しそうに歪んでいる。
次の瞬間、ルシアは全裸になり、無数の触手に包み込まれた。
その夜、淫魔の鎧が施した防音バリアを通り抜け、ルシアが性の喜びを爆発させた喘ぎ声は、レミルとクオムの耳に届いていた。
レミルが連れ込んだ男との情事をいつになく濃密にし、クオムがオナニーを失神するまで止められなかったことは、それはまた別の物語。