クオムが失神から目覚め、遅めの朝食をとりながら、ルシアたちはゴブリンが巣くう洞窟の裏にある森の調査をどうするか、打ち合わせていた。
今朝のメニューは挽いていない大麦の粥に、刻んだ干し肉と青菜、そして溶き卵を散らしてある。
手っ取り早い炭水化物の補給に、粥はぴったりのメニューだ。
煮込んで柔らかくなった干し肉も、出汁としてだけではなく確かな食べ応えがある。
たっぷりと入れられた青菜の香りが鼻腔をくすぐり、シャキシャキとした歯ごたえと幽かな苦みがシンプルな粥に絶妙なアクセントを加えている。
そして、干し肉からにじみ出たきつい塩気を、溶き卵が包み込んでまろやかにしていた。
「……うん、なんでキミは同じ食材でも、こんな美味しく作れちゃうのかな? 塩しか使ってないよね、確か」
程良い歯ごたえを残している青菜を噛みしめながら、ルシアは不思議そうに尋ねた。
ビタミンと食物繊維が豊富な青菜は、長期の遠征に不可欠な食材だ。
淫魔の鎧のおかげで快感を得る以外の排泄が必要なくなったルシアはともかく、クオムとレミルにとって遠征中の便秘は命に関わる問題だった。
遠征中は、どうしても食事の質が落ちる。
手っとり早さが優先されるため、干し肉や保存の利く堅いビスケットが主食になり、野菜類は後回しにされがちだ。
肉食中心の毎日は便秘を引き起こしやすく、体調の気づかぬ不良や集中力の低下を招きやすい。
探索中のつまらない見落としや、戦闘時に反応性が低下しては、どこで命を失うか判ったものではなかった。
淫魔の鎧は少しでも主人から危険を遠ざけるため、食事にも気を使っていた。
「お粥なんて、クオムはずいぶんと久し振りに食べるです。村にいた頃は毎日こればっかりで飽き飽きしてたですが、これなら毎日でも食べたいですよ」
町を拠点にして宿を取るならばまだしも、基本的に自己消費が中心の農村では、食材の種類も余剰も驚くほど少ない。
村からの依頼で来たルシアたちに、村人たちは優先的に食材を割り当ててくれているが、やはり同じ食材ばかりになっていた。
基本的に調味料は塩のみであり、その日採れた物に干し肉を足した粥は、ルシアやクオムが生まれた村でもごく普通のメニューだ。
いや、それしかないと言っていいかもしれなかった。
アレイバーグで外食や買い食いに慣れたふたりにとって、久し振りに食べる懐かしい味だった。
「淫魔の鎧さん、帰ったら作り方教えてくださらない? アレイバーグにいるときより、なんだか体調がいいわ。それに、これならきちんと量を計れば、私でも作れそうですもの」
レミルは生まれのせいか料理自体ができず、やはり外食か買い食いばかりだ。
遠征時は干し肉とビスケットばかりで過ごしていたため、こういった農村ならではのメニューは新鮮な体験になっている。
贅を尽くした美食の対極にある、ぎりぎりまで削ぎ落とされた素朴な食事を、レミルは気に入っていた。
「みなさまにお喜びいただけたようで、恐悦至極。やはり遠征時といっても、食に気を使えるときは使うべきだと、俺は思う。過去に仕えた超一流と呼ばれた探索者や軍人たちも、皆そうしていたからな。そのおかげで、こうしてご主人たちに旨いと言ってもらえているわけだが。ああ、クオム嬢、手伝いなら不要だ。心遣い感謝する。それより今日の指針を決めてしまえ」
ルシアの背中から延びる触手が、手際よく食器を片づけていく。
手伝おうとしたクオムを止め、打ち合わせを優先するように伝えた。
「ありがとうです。じゃあ、今日は森の風穴の探索と、薪集め。それから夕方に洞窟の偵察。でいいですか?」
浮かしかけた腰をイスに戻し、クオムが確認するように言った。
ゴブリンがいきなり襲ってくる気配がないなら、殲滅をそう焦る必要はない。
確実に掃滅するためには、確実に準備をしなければならなかった。
「そうね。……風穴の探索と薪集めにどれくらい時間がかかるかにもよるけど、昼間にも一度洞窟を見ておきたいわ。あいつらの動静は、毎日確認しておきたいわね。何がきっかけで、村に雪崩込んでくるか判らないもの」
食後のお茶を飲みながら、少し考えてからレミルは答える。
まっすぐ前だけを見てしまうふたりに、教え諭すような口調だ。
勿論、淫魔の鎧がそこに口を挟むことはない。
レミルの意見を肯定するかのように、触手を操りカップにお茶を満たしていた。
「じゃあ、そろそろ出かけようよ。今洞窟を偵察に行くのは、あいつらも動き出したばかりだろうし、危ないかな? 風穴の探索と、それから昼頃洞窟の偵察。夕方までに薪集め、かな?」
冷めたお茶をひと息に飲み干したルシアが、勢いよく席を立つ。
その瞬間、ワンピースの部屋着が、きらめくフルプレートアーマーに変化する。
一瞬だけルシアの裸体が露わになったことを、ふたりは黙っていることにした。
「……ぷはああぁぁっ! 何これぇっ!? どこもかしこも信じらんないっ!」
風穴から這い出たルシアが、止めていた息を大きく吐きだした。
そして風穴から走って離れ、悪態を吐きながら深呼吸を繰り返す。
「耐えられないですぅ……。やっぱり、燻して追い出すに限るです。クオム、イヤですよ、あいつらの洞窟に入るなんて……」
ルシアほど能動的ではないものの、クオムも風穴から距離を取って深呼吸を繰り返している。
そしてローブの臭いを嗅ぎ、しかめっ面を作っていた。
「これほどとは思わなかったわ……。帰ったら洗濯して髪も洗わないと、宿に入れないわね。いっそ、捨てちゃおうかしら」
覚悟はしていたものの、想像を絶する悪臭に、ふたりより場慣れしているはずのレミルまでが、大きく息を吐いていた。
腐臭に糞尿の臭い。何年も身体を洗っていないような、鼻に突き刺さる刺激臭。ありとあらゆる悪臭が、風穴の奥から流れ出ていた。
「でもこれで間違いないね。あいつらはこっちに出てくることはない。正面から燻して、出てくるのを待てばいいね」
ようやくひと息ついたルシアが、ふたりに言った。
悪臭に耐え、いくつもの風穴に潜り込んだ結果、人間よりふた周り小さいゴブリンであっても、抜け出せるような穴はなかった。
洞窟の入り口で火を熾せば、その煙は中部を燻して風穴に抜けるはずだ。
煙に巻かれて全てが死に絶えてくれるなら手間も省けるが、そこまで簡単にことが運ぶとは誰も考えていない。
それより残敵掃討のため洞窟に進入しなければならないことが、ルシアたちの心に重くのし掛かっていた。
「レミル嬢は、ゴブリン掃討の経験はなかったか? どこも同じようなものらしいぞ。俺に嗅覚はないから判らんが、いつの世も突入する者たちはイヤがっていたものだったな」
ひとり気楽に、淫魔の鎧はうそぶいた。
過去に何度ゴブリンの掃討戦に参加したか、数えるのも莫迦莫迦しいくらいだ。
だいたい駆け出しを卒業した探索者が放り込まれる大規模掃討戦といえば、ゴブリンかコボルド相手が相場だ。
仕えてきた主人たちは、少なくとも一回は参加していた。
勿論、指揮官であったり、前線で突入するファイターやソードマンであったり、どさくさ紛れの火事場泥棒であったり、攫われた女の救出であったりと、その立場はまちまちだった。
「あるにはあるけれど、ここまで酷いのは初めてかしら。さすが、一〇〇匹以上の群れね。そりゃぁ、あいつらに清潔なんて概念は、ないでしょうけど。よく生きていられるわ」
レミルもゴブリンの掃討戦に参加した経験は、片手では済まないほどにはある。
しかし、せいぜいが一〇から二〇匹程度の群れしか、今までは相手取ったことがない。
そして、今回の洞窟のような狭い場所ではなく、それなりに空気の循環もできているダンジョンばかりだった。
「とりあえず、薪を集めるですか? 洞窟の偵察を先にするです? 今なら臭いで警戒されないかもですよ?」
イヤがってばかりいるわけにもいかない。
新鮮な人間の女の匂いを消している今は、洞窟の偵察にはうってつけだった。
「そうだね。様子見て、薪を集めておく場所も探して、それから早く帰って身体洗いたいよね。薪運びなら、キミもいるし」
うんざりしたような、諦めたような表情で、ルシアは言った。
とにかく、さっさと偵察を済ませ、薪を集めておきたい。
半日程度で充分な薪が集まるのか、初めて来た森では勝手が分からない。
そして万一に備えて、村を囲う柵の補強に適した材料があれば、それは持ち帰りたい。
それ以上に今夜は、風呂に入りたかった。
汚れを弛ませる分や身体を拭く分までならともかく、さすがに風呂まで沸かす薪に村の備蓄を使わせて欲しいとまでは言えない。
ルシアたちは森の中を薪を探しながら、ゴブリンが巣くう洞窟まで移動し始めた。
「はぁぁぁぁ、生き返る~」
温かいお湯で身体を洗い、湯船に身を沈めたルシアがとろけたような声を上げた。
洞窟の偵察を終えたルシアたちは、集めた薪を使って沸かした風呂に入っている。
淫魔の鎧が触手を展開し、大量の薪を抱えてくれたおかげで、森と村を往復することなく必要なだけ薪を集めていた。
「ルシアはずるいですぅ。クオムたちはまだ洗濯が終わらないのにですっ」
身体を洗い終え、そしてローブやインナーから下着まで、たらいで揉み洗いしているクオムが口を尖らした。
「あなたは、まだ洗えるからいいじゃないの。私の革鎧は拭くしかないのよ。今夜は臭い消しの草を摘めておくしかないんだから」
やっとインナーと下着を洗い終えたレミルが、ルシア続いて湯船に入った。
お湯の中でたゆとう豊満なおっぱいが、ルシアに劣等感を抱かせている。
レミルだけでなくクオムも、ルシアが劣等感を抱いてしまう胸部装甲を揺らしながら、洗濯に勤しんでいた。
淫魔の鎧はこんなときは慰めても主人が意固地になるだけと、長い歴史の中で思い知らされてきた。
ステルス化したまま目を浮き上がらせることもなく、静かに様子を眺めているだけだった。
「キミのおかげで、生き返ったよ。ありがとう」
部屋に戻ったルシアは、素裸のままベッドの上で淫魔の鎧に礼を言う。
以前の買い出しで判っていたが、触手の力は偉大だった。
もし、ルシアたちだけであれば、風呂を沸かすほどの薪を集めるのに、森と村を何往復すればいいか判らなかった。
「いや、礼には及ばんよ、ご主人。戦うだけが俺の使い方じゃない。いつも言っているだろう? 道具は上手く使えばいいと」
別に淫魔の鎧は卑下ているわけではない。
道具であることを自覚し、道具でしかないことを理解しているだけだ。
無理に擬人化されても、思考回路がついていかない。
自我もあれば感情もあるが、あくまでも主人がどう使い、どう役立てるかが、淫魔の鎧には最重要事項だった。
「う~ん、それは理解しようとしてるんだけどさ。キミは感情もあるし、こうやって話しもできる。それに、いつもボクを最優先に考えてくれるし。そうすると、やっぱりただの道具だって割り切るのは、ボクにはまだ難しいよ」
大人になれば判るといつか言われて以来、ルシアは勉めて淫魔の鎧の思考を理解しようとしている。
だが、道具だと割り切ることは、簡単なように思えて難しい。
出会ってすぐの頃のような、一方的に思える陵辱ばかりであれば、いっそ割り切れたかもしれない。
しかし、今となってはあの陵辱は緊急避難であり、ルシアの命を救うためには仕方ないことだったと理解している。
そのあともかなり酷い目に遭わされたが、淫魔の鎧とはそういうものだと思うしかない。
だいたい、歴代の所有者は、それを承知で淫魔の鎧を求めていた。
ルシアのように偶然から手に入れ、それが淫魔の鎧であることすら解らなかったことなど、今までにはなかったことだった。
「そうか。ならば、ありがたくご主人の感謝を受け取らせていただく。なに、無理をして大人になる必要はない。時間が経てば、嫌でもなってしまうことだからな。さ、それより今夜は薪を全部使ってしまったからな。明日は朝から薪集めだろう? 早く髪を乾かして、寝た方がいいんじゃないか、ご主人」
洗濯に手間取った結果、思ったより薪を使ってしまっていた。
そして、洞窟を偵察した結果、このゴブリンの群れは、どちらかといえば夜行性が強かった。
ゴブリンの群れは、その群れごとに夜行性であったり、昼行性であったりと、種族としての性質がはっきりしていない。
なぜそうなのかは判っていないが、陽の光を避けながら生きる群れと、燦々たる太陽の下を好む群れが、古くから知られている。
今回討伐の対象になっている群れは、日中洞窟から出てくる個体がほとんどいなかった。
ならば、日のあるうちに薪を集め、翌朝からいぶり出してやればいい。
「そうだね。今夜も夢、見るのかなぁ……キミの触手の夢がいいな♥……」
最後は口の中で小さく呟いた。
そのとき、突然部屋の床から薄紫の煙が立ち登る。
咄嗟に防音シールドを張った淫魔の鎧と、呆気に取られるルシアの前で、煙は徐々に人の形を取っていく。
「探したわっ!♥ ダーリンっ!♥」
薄蒼い肌。
あどけなさを僅かに残す相貌には、猫科の猛獣を思わせる金色の瞳が鈍く輝いている。
腰から生えたコウモリのような翼と、先端がハート型のしっぽ、そして側頭部から額の上へと伸びる羊のような角が、この生物が魔族であることを如実に物語っていた。
魔装具の光を受け、縦に絞り込まれた虹彩が、訝しげにルシアを見下ろしている。
だが、咄嗟にフルプレートアーマーへと姿を変えた淫魔の鎧を見て、待ちこがれた想い人にようやく会えたように、魔族は喜色満面でシナを作っていた。
「げぇっ! リリムっ!?」
心底嫌そうに、淫魔の鎧が吐き捨てた。
心なしか左胸の目が、ヒクついているように見える。
「誰、この人?」
リリムの馴れ馴れしい態度に可愛く嫉妬し、知らず知らずのうちにルシアは敵愾心を燃やしている。
「ふんっ、なに? この下等な生き物は? まあ、ダーリンに免じて殺さないであげるわ。私はサッキュバスプリンセス、リリム様よ。恐れ多くも、次代の淫魔の女王。人間ごときが私の前に立つなんて、ダーリンがいなければ許されないことよ。だいたい人間ごときがダーリンといるなんて、宝の持ち腐れね。どうせ、ひと晩も保たずに失神してしまうわよね、人間なんて。私みたいに三日三晩はぶっ続けでできなくちゃ、ダーリンも満足しないでしょう。あぁ……思い出すわ、ダーリン。四日目に失神した私を触手で操り、下級淫魔の群れに放り込んで、私のプライドをずたずたにしてまた犯し抜いてくれたとき、私、一生ダーリンについていくと決めたの。それからまた三日三晩触手で穴という穴を貫いて、私がもうやめてって泣いてお願いしたのに一顧だにせず、失神しても無理矢理起こしてまた失神するまで犯し尽くして……もう、濡れてきてるの、ダーリン」
とろけるような瞳でルシアを見下ろしながら、頬を両手で包み、リリムは身悶えている。
「ちょっと待てっ! 黙れ、リリムっ! ご主人っ! こいつはこんなこと言ってるが、一度だって契約などしていないっ! 淫魔の権能で逆らえなくしてただけだろうがっ! 俺を勝手に使いやがってっ! それで人魔大戦引き起こしたんだろうがっ! 五〇年振りに封印解かれたと思ったら、そのせいでまた二〇〇年も封印だっ! おまえには恨みしかねぇっ! だいたい、アダム様とリリス様がレプリカお作りになってただろうがっ! 未来永劫、おまえと契約なんぞしないからなっ!」
慌てたような淫魔の鎧に、ルシアは冷たい視線を送っている。
「……どういうこと? ボクにも解るように説明してくれないかなぁ。あ、きちんと納得いく説明が欲しいなぁ」
どこからどう見ても、浮気した彼氏を責める彼女の目つきだった。
「ルシア、落ち着けっ! 今説明するっ!」
重く冷たいルシアの声に、珍しく淫魔の鎧が狼狽えている。
お約束の眼球を作り出すこともしない。
それがまたルシアを、疑心暗鬼にさせていた。
「ダーリンが名前で呼んだ!? 私以外にっ!? きぃいいいぃっ!」
どこから取り出したか、高級そうなハンカチをくわえ、両手で引っ張りながらリリムが地団駄を踏む。
「うるせぇっ! 黙れっ! おまえなんぞご主人と呼びたくねぇだけだっ! 勘違いするんじゃねぇっ!」
淫魔の鎧が怒鳴りつけるが、リリムは引き下がらない。
カオスな光景は、収まる気配を見せようとはしなかった。
かつて、この世界にさまざまな援助をしていた魔界から、リリムが代表として親善訪問に訪れたことがあった。
その際にリリムは、当時世界大戦の生け贄にされ、五〇年の封印から解かれていた淫魔の鎧を、ハッタリのため勝手に持ち出していた。
下級淫魔には無理だが、リリムは淫魔の王女の権能により、契約を無視して支配や着脱可能だった。
勿論、その場合の淫魔の鎧に、コアの目は浮き上がらない。
いやな予感がした淫魔の鎧は、人々に知られている形状を変化させてから同行した。
魔界の使節団と淫魔の鎧が諌めるにも関わらず、リリムは滞在先で触手セックスに明け暮れていた。
そして、あろうことか公式会見の席で、驕りから人間を見下した発言に終始し、対応していたその国の王女を衆人環視の前で、淫魔の鎧に強制した触手セックスに引きずり込んでしまった。
当然人間側は大激怒し、その剣幕に脅えて逃げるリリムを追いかけ魔界へ雪崩込み、なし崩しに人魔大戦勃発した。
本来なら、人間が次元の壁を破ることは不可能だ。
だが、慌てふためいたリリムは、次元の歪みを淫魔の鎧が修復する暇もなく魔界の奥深くに逃げ込んだ。
そのせいで、有史以来初めて、人間が魔界に足を踏み入れてしまった。
人間界とこと構える気などないアダムとリリスの尽力で、戦争自体は全面戦争に発展することなく終息した。
だが、人間側へのけじめと、リリムを止められなかった罪で、淫魔の鎧は再封印されることになった。
その結果が、アバナホールへ目玉モンスター付きで転送だ。
リリムの権能には逆らえなかった淫魔の鎧にしてみれば、言い掛かりの上とばっちりでしかなかった。
「ひょっとして、この人が原因?」
ルシアの視線にリリムは悪びれることなく、いや、悪いなどとは欠片も思わない様子だった。
改めて見ると、あどけなさと妖艶さが混ざり合った笑みを浮かべ、金色の瞳が蠱惑的に輝き、蒼い肌とは対照的に燃えるような朱の長い髪が腰まで真っ直ぐ伸びている。
淫魔の象徴の角が優美な曲線を描いていた。
扇情的なビキニアーマーに包まれているが、レミル以上に豊満なおっぱいが息づいている。
大きいだけでなく、形も極上。
くびれた腰に張りのあるおしりと、どこを取ってもルシアを超越していた。
「……あは。あははははははっ! ダーリンだってっ! ボク以外にっ! キミをダーリンだってっ! あはははははっ! ボク以外の女がっ! ボクだって、まだ恥ずかしくて言ったことないのにっ! ……ぁふぅ……」
衝撃の展開の連続に、ルシアは思わず卒倒した。
「あたしの言うことに忠実なの。ダーリンの奔放さなんて、欠片もないんだから。それに……してることは同じでも、苛めてくれないんだからっ!♥」
リリム姫様、ルシアと淫魔の鎧の会話などお構いなしに、レプリカへの不満を長々と語る。
ドMだったらしい。
「うるせぇっ! 今それどころじゃねぇっ! レプリカ野郎に潮噴かされて、それで面ぁ洗っておととい出直してきやがれっ! まさかと思うが、リリム。あっちこっちのダンジョンに、無理矢理次元歪めて入ってねぇだろうなぁ?」
卒倒したルシアを介抱しながら、淫魔の鎧がリリムを怒鳴りつける。
そして、ふと思い当たった疑念もぶつけてみた。
「ダーリン、いつの間に幼女、まで……? そうよ、ダーリンに会いに行くって言ったら、お父様もお母様もお怒りになるのっ! だからこっそりと……さあ、ダーリン、そんな子供なんて放っておいて、私と一緒に正しい道に戻るのよ」
ルシアの無毛の恥丘を見て、泣き崩れるリリム。
「……ぁぅ……ぇ? ……誰が幼女だってぇ? ボクだって毛が生えてこないの、気にしてんだからぁっ!」
目を覚ましたルシアは、リリムの幼女発言に気にしていたところを突かれ、大激怒する。
「ねえ、こいつぶちのめしていい? また戦争になったりしない? 今の、ボク許せないんだけど」
怒り心頭のルシアは、淫魔の鎧にリリムをブチのめせるかどうか確かめた。
恥毛の有無が戦争の引き金になったなど後世に残されたら、これ以上の辱めはない。
いっそ、衆人環視の中で失神してお漏らしするまで触手セックスにのめり込む方が、まだマシだと錯覚するほどに、ルシアは怒りに狂っていた。
「あ、それは心配ない。今度こそ、アダム様もリリス様もこいつを許さないだろう。泣きついたら、かえって四、五〇〇年は謹慎じゃないか。それから、こいつは弱い。今のルシアなら俺のブースト無しで余裕だ。あと千年くらい男の精を吸ったら手がつけられなくなるけど、それはルシアには関係ないからな」
淫魔の鎧はリリムに見せつけるように、敢えてルシアの名を呼んだ。
その言葉に後押しされ、つかつかと歩み寄ったルシアにリリムが掴みかかるが、あっさりと振り解く。
床にリリムを投げ捨てたルシアは、ツノを掴んで引きずり起こし、その頬に掌を叩きつけた。
「きゃんっ! ……あふぁ……」
いい音を立ててヒットしたルシアの掌は、指が頬を、掌底が顎を捕らえていた。
リリムの脳が頭蓋の中でいい具合にシェイクされ、軽い脳震盪を起こしている。
脚に来たリリムはふらつきながら後ずさり、ベッドにすとんと腰を落とすと両手を広げて倒れ込んでしまった。
「ねえ、どんな辱めが一番効くかなぁ。サッキュバスが犯されるなんて、ただのご褒美だよね? だったら、君の魔力でおちんちん生やしちゃって、失神するまで搾り取っちゃおうか」
ベッドの横に立ったルシアは、鼻息も荒くリリムを見下ろしながら、淫魔の鎧に尋ねた。
人間と魔族の違いこそあれ、決して同性に向かって言っていい内容ではない。
だが、そんなことも忘れるほど、ルシアは幼女発現に怒り心頭だった。
それ以上に淫魔の鎧をダーリン呼ばわりしたことが、ルシアの怒りに火を着けていたが、当人は全く自覚していない。
「そうだな。それがいいだろう。逆をやると支配されかねん。俺が濃厚接触するのも危ないから、ルシアに発動する寸前の魔力を渡そう。徹底的に搾り取ってやれ」
そう言いながら、淫魔の鎧は魔力を練り上げ、ルシアのおしりの穴に注入する。
そのさなかにも、淫魔の鎧はひとつの結論に達していた。
アバナホールや王都のダンジョンに、危険なモンスターが出現した理由は、リリムの暴走だと。
あとさき考えず次元の壁を越え、後始末もしていなければ、次元の壁は歪んだままだ。
危険なモンスターが瘴気渦巻くダンジョンに惹かれ、歪んだ次元の壁を越えてきたに違いない。
さっさとリリムを叩きのめし、ギルドに報告しなければならない。
場合によっては、ルシアを連れて魔界に行かなければならないかもしれなかった。
「……っ!♥ ああんっ!♥ んふっ♥……さあ、かくごはいいね? ボクはあなたが言う……ダーリンの触手で、い~っぱいイかせてもらうんだ。おっぱいも、クリトリスも、おまんこも、おしりの穴も、ぜ~んぶイかせてもらうんだっ!♥ ボクに精液搾り取られながら、指をくわえて見てるんだねっ!♥」
淫魔の鎧との付き合いで、ルシアもいい具合に壊れ始めていた。
淫魔の鎧から魔力の他に、リリムの着用しているビキニアーマーの造作の情報も流れ込んでいた。
「ぃゃ……ゃめ……」
リリムはまだ脳震盪から回復できず、イヤイヤと緩く首を横に振るしかできない。
勿論ルシアがリリムの言うことなど聞くはずもなく、ビキニアーマーを解体していく。
ショルダーガードが外され、肘から手首を守るアームガードが剥がされる。
次いでウエストプレートが取り外され、膝から足首までを覆うレッグガードと、蹴られたら痛そうな先の尖ったシューズが剥ぎ取られた。
耳障りな金属の不協和音を響かせてブレストガードが取り払われ、蒼にピンクのコントラストが美しいリリムの豊満なおっぱいが露出する。
被虐趣味のせいか、既にリリムの乳首は勃起し、その存在をルシアに向かって主張していた。
「じゃ、いくよ……ああん♥」
ぴくりとも動けないリリムの顔に、ルシアは跨がった。
ルシアはクリトリスを弄くりながら、リリムの唇に自身のおまんこを押し付ける。
愛液が秘裂から溢れ、リリムの口に流れ込んでいく。
「……ぁぁ……ゃめ……ぁあっ!? 痛いっ!? 痛いのぉっ!? ダーリンっ! 私の身体っ! 何がっ!? 助けてぇっ!」
リリムには理解できなかったが、淫魔の鎧の魔力でクリトリスが肥大し、男の肉棒へと変貌していた。
金属製のアーマーに抑えつけられ、極限まで勃起した肉棒は、リリムに鋭い痛みをもたらしていた。
「……まだ言うか、こいつ。しばらく痛がってればいいよ」
やさぐれたようにルシアは吐き捨て、リリムの上から退いた。
タオルを引き裂き、リリムをM時開脚に縛り上げ、左右の手も足首に縛りつけ、うつぶせにしてベッドに転がす。
そして、リリムの目の前に腰を下ろし、両脚を広げて見せた。
「……なに、を、する、気? 早、く、元、に、戻し、な、さい……ダー、リン、を、返、せぇ……痛、い、のぉっ! ああああんっ!♥ ダ、ーリ、ン」
ようやく脳震盪が治まってきたリリムは、噛みつくような視線をルシアに向けている。
勃起した肉棒は反り返ろうとするが、アーマーに抑えられてリリムには痛みしかもたらさない。
だがそれも、いつの間にか快感に置き換えられていた。
「……まだ言うか。おまえが言うダーリンの触手は、もうボクのものだっ! キミの触手でボクをイかせて。あいつに見せてやろうよ」
怒りと嫉妬と独占欲に、ルシアはいい具合に壊れていた。
おまんこから可視化している触手を引き抜き、愛液にまみれたそれを愛おしそうに舐めて見せる。
そして、触手を引き抜いたことで閉じてしまった淫唇を、リリムに見せつけるように指で広げた。
「えへ♥。ボクのおまんこ♥、もうとろとろぉ♥……いっぱい♥、いっぱぁい♥、ずぼずぼして♥、ね♥」
リリムの目の前に、雄大な肉棒の形をした触手をルシアは置いた。
無毛の割れ目はピンク色の肉襞を剥き出しにして、淫猥な汁を垂れ流している。
うつ伏せに転がされて涙目のリリムと、性欲を剥き出しにした肉襞の二者択一を選ばされたように置かれた触手は、芝居がかった仕草でリリムを一瞥したような動作を取る。
そして、迷わずピンク色の肉襞に向かって、触手は匍匐していった。
「……いやぁっ! ダーリンっ! 私をっ! 私を犯してよぉっ! そんな下等生物の幼女を犯すなんて、間違ってるわっ!」
幼女を犯すなんて間違ってるが、無毛とはいえ仮にもこの世界では成人と見なされるルシアを幼女と言うのも、また間違っている。
ルシアの中で、切れてはいけない何かが、ぶつんと切れる音が聞こえた。
「……あは。また言った。ボクが幼女だってっ! キミ、徹底的にやっちゃってっ!♥ ボクがすぐ失神しちゃうくらい犯してっ!♥ 三日三晩しなけりゃいけないような不感症と一緒にするなぁっ!♥」
もう、滅茶苦茶。
今のルシアはただでさえ嫉妬が混じり、リリムに対して優位に立ちたかった。
既に淫魔の鎧とレミルの三人で触手セックスにのめり込んだ経験から、痴態を見せることへの抵抗も薄れている。
そこへ持ってきて、さっきの魔力注入で羞恥心が麻痺していた。
触手がピンクの肉襞に取り付き、いきなり挿入しないで這い回っただけで、ルシアは仰け反って歓喜の声を上げてしまう。
「あああああああんっ!♥ キミの触手ぅっ!♥ ボクのおまんこに来たぁっ!♥ いいよぉっ!♥ ずぽずぽだけじゃなくて優しいのぉっ!♥ ちっちゃいのもいっぱい来たぁっ!♥ あああああっ!♥ まだ奥まで入ってないのにぃっ!♥ ひああああああっ!♥ ボク、キミが触ってるだけでイっちゃうよぉっ!♥ サッキュバスにっ!♥ サッキュバスに見られながらっ!♥ ボク、失神するまでイくのぉっ!♥」
狂った夜が始まった。