からかい上手のノクトさんが、男をからかったらどうなるか理解(わか)らせられる 作:猪熊夜離
アティスマータ新王国王立士官学園の食堂で、いま、一人の男子生徒に性的不能疑惑が掛けられていた。
「それで最近はどうなんだい。少しは進展あったかな」
「あったら自分から報告するよね。それがないってことは相変わらず手を出してこないんだ」
「Yes. 朴念仁を通り越して実は不能なのではと疑いを持ち始めました」
話を切り出したのは三年生のシャリス・バルトシフト。三人の中では最年長でリーダー格でもある。
後輩の恋バナを面白そうに弄っているのは二年生のティルファー・リルミット。学園のムードメーカー的存在で楽しいことが大好きな少女である。
そして二人に話を聞いてもらっているのが一年生のノクト・リーフレット。顎のあたりで切りそろえた黒髪が艶々光る小柄な少女で、ジト目で周囲を観察しながら時折鋭い一言を放つ。
「その結論は保留するとして実際、ノクトが誘惑してもノッて来ないのだから、たいした自制心と褒め称えるべきなのかな」
「そんな我慢強さ、いまは要らないんだけどねー」
ノクト、シャリス、ティルファーは、学園では
「さっさとライっちも狼になってガオーと襲っちゃえばいいのに」
ティルファーが両手を四つ足動物の前足に見立てて、食べちゃうぞーのポーズを取る。
三人が話題に上げているのは皇ライという少年だ。
王立士官学園は女子校である。この学園に通うのはほとんどが女子であり、唯一の例外は旧帝国の王子だったルクス・アーカディア。
女の園にルクスだけ男子ぽつんという状況が続いていたところに、他国からの留学生でライが編入してきた。学園二人目の男子生徒が誕生したのだ。
全寮制の学園でライはノクトと相部屋することになった。男女のルームメイトなど通常あり得ないのだが、面白いもの好きな学園長レリィ・アイングラムの思いつきにより決定した。
「年ごろの男女が同じ部屋にいて何か起きても不思議じゃないはずなんだけどねー」
「私が思うに彼は国を代表して留学しているわけだから、その立場で不純異性交遊による問題は起こせないと自分にブレーキ掛けているのではないかな」
「せっかく女の子が襲われ待ちなのに甲斐性ない王子様だなー」
「そうしないのは勃たないからじゃないかとノクトは疑ってるんだね」
シャリスの問に控えめな首肯で返す。
彼と相部屋になって三ヶ月。ノクトはライが奮い立って自分に手を出してくるよう仕向けるため、風呂上がりに薄着で部屋をウロウロしたり、自然なアクションを装って彼の腕に胸を押し付けてみたりした。
「反応は上々なんですが具体的なアクションとなると」
「難しいね。まさか本人に生殖に支障をきたす肉体的な事由があるかと問いただすわけにもいくまい。男というのはあれで繊細な生き物らしいから、ストレートに聞くのは却ってストレスで悪化させてしまう可能性もある」
最年長のシャリスが処女の耳年増なりに話をまとめに掛かる。
「当面はアプローチを続けるしかないだろう。より直接的に女のほうから行為を求めるのも考えなければな。はしたない振る舞いではあるが最終手段を用意しておく必要はある」
「さんせー。いざとなったら押して、押して、押し倒せ!」
ティルファーの元気な物言いにノクト、シャリスの表情が緩んだところで集会はお開きとなり、三人はそれぞれの部屋に戻っていった。
シャリス、ティルファーと別れて自室に戻ったノクトは、全身鏡に映る己の姿を様々な角度からチェックしていた。いまの彼女は学園の制服を脱ぎ、水着に着替えている。
布面積が小さい黒のビキニに着替えた彼女の胸は細身の割にボリュームがあり、腰はキュッとくびれ、お尻はプリッと引き締まって上を向いている。普段は幼いイメージになりがちなノクトだが、脱ぐと制服の上からだけでは分からなかった、意外にも女性らしい身体つきが開放される。
これなら単なる『妹的存在』を超えた女とライに認識させられるだろう。
悪くないですね、と鏡に向かって自画自賛していた時、部屋のドアがノックされる。
帰ってきたなと心のなかで呟きながら入室を許可する。
学園の寮は二人一部屋が基本。ここはライの部屋でもあるのだが、彼は学園ラブコメにありがちな着替えアクシデントを避けるため、必ず入出時にはノックして返事が戻って来るまで待つ。
アクシデントの一つでも起きてくれたら事はもっと単純に進んだのだろうか。なんとも余計な几帳面さだ。
「何してるの」
ドアを潜ってライは立ち止まった。
鏡に向かってお尻を突き出し、ビキニの食い込み具合をチェックしている女子の姿に彼は後退る。
「僕まだ外に出てようか」
「No. ここで見ていてください。他者の評価も参考にしたいと思います」
ノクトは玄関で立ち尽くしたままの同居人に近づく。歩くたびに巨乳がたぷん、たぷん揺れる……と言ったら詐欺になってしまうサイズであるが、それでも寄せて上げて男子の目を喜ばせる谷間が作れている。
フィルフィ・アイングラムやセリスティア・ラルグリスといった、学園屈指の巨乳とは比べるべくもないが、女性らしいボディラインは出せているはずだ。
くびれを強調しながら、しなを作って歩むノクトはライの視線を皮膚感覚で感じ取っていた。
「どうですか先輩」
前屈みになって谷間を強調しながら悪戯っぽくウインクする。
腰に手を当て、お尻を突き出し、女体のカーブを強調するポージングで彼に迫る。
学園の行事で来週は全校生徒が海に行く。その時に着る予定の水着を試着していた、というのが今日の作戦だ。
「ああ、いいんじゃないか」
「No. やり直しを要求します。こっちを見て言ってください。目を逸らさないで」
ライはノクトを直視できず視線を様々な場所に泳がせる。まったく女として意識されてないわけではない。ノクトの悪戯心に火がつく。
「先輩もっとよく見てください。少し大胆すぎたでしょうか」
ほとんど隠されていない白い肌を惜しげもなく晒し、ブラの位置を直すフリで水着をずらして乳房の上部を露出させる。
二人の身長差を考慮し、ライが普段の調子で見下ろすとカップから乳首がポロリしそうに見え、ハラハラドキドキする角度は事前に計算済みだ。狙いどおり彼の視線が谷間に吸い込まれる。
フィルフィやセリス並の巨乳を持たなくとも工夫しだいで戦える手応えは掴んだ。
「とても似合ってると思う。黒はノクトのイメージとは少し違う気もしたけど、コントラストで白い肌とのギャップが映えるし、大胆なビキニも意表をついた選択だ。大胆すぎるといえば大胆すぎるけど、年に一回のイベントなんだし、これくらいは攻めてみてもいいんじゃないかな」
生真面目な彼らしく本気のファッションチェックが返ってくる。
正直そこまでのコメントを期待していなかったノクトは「あっ、はい、ありがとうございます」という反応になってしまうが、真面目に考えた答えをくれる彼への好感度が下がることはない。
「だいぶ一般論に寄った視点からの意見ですが参考になりました。ところで先輩の個人的な趣味ではどうです? こういうのはお好きですか?」
そこが重要なのだとノクトは強調する。
あーとか、うーとか呻きながら、往生際悪く時間稼ぎした末に、ライは「可愛いと思うよ」と言った。
「ありがとうございます。その言葉で自信が持てました」
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