※この作品はR-18です。

乳を搾って人助け⁉   作:キャプテンキャップ

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05 飯島胡桃

「――うん……うん……分かった、準備しときます」

 

 じゃあね、パパ。と言って胡桃(くるみ)はスマホの通話を切った。

 灯りの消えた液晶画面に映る少女の顔は、随分と情けない表情をしていた。

 

「新しい搾乳師(せんせい)、かぁ……」

 

 胡桃にとって、搾乳師とは恐い存在だ。

 数年前に腐乳症を(わずら)い、それに(ともな)って大きく(Dカップに)育った胸、それに妊娠していないにもかかわらず出るようになってしまった母乳は、まだ小学生だった胡桃を苦しめた。

 小さい胸が好まれるこの世界において、胸が大きいことは女性としてマイナスでしかない。発症した年の終わりにはDカップまで急速に大きくなった胸も、今ではFカップ。しかもまだ成長中である。

 加えて、腐乳症患者の母乳からは嗅いだ人の体調を崩すほどの異臭――腐乳臭を放つので、一般的な生活を送れなくなってしまい、国の援助でリフォームした家の中のみで暮らす生活は、14歳の胡桃にはキツい。

 ただでさえキツいのに、パンパンに張った胸は母乳を出さないと痛い。幼い胡桃は自分で(しぼ)るのが苦手だ。軽く押しただけでも少しは出てくるが、同時に痛くもある。

 たくさん母乳を出すには、相応に乳房を押す必要があるのだけど、それがとても痛い。自分のやり方が悪いのか、それともこういうものなのかすら、少女には分からない。

 母親に代わりに(しぼ)って欲しいけど、腐乳臭に耐性のない母親には無理だった。

 

 その代わりに両親が頼ったのが搾乳師。

 

 高額な報酬と引き換えに、患者の搾乳をアシストしてくれる存在。

 腐乳症が女性にしか(かから)らない病気とあって同性の搾乳師の人気は高く、予約の枠がすぐに埋まってしまうため、胡桃の両親は男性搾乳師しか頼めなかった。

 それでもこの痛みから解放されるのであればと、少女は胸を見られる恥ずかしさを耐えてお願いしたのだが――。

 

 搾乳師の対応は酷いものだった。

 顔も見えない完全防護服に身を包んだ搾乳師の男性は、ノックもなしに胡桃の部屋に入ってくると、彼女に冷たい声音で「さっさと服を脱げ」「ブラを取れ」と命令し、混乱して動けない胡桃を「さっさと言われた通りにしろ! こののろまが!」と怒鳴った。

 

 顔の見えない男性に大声で怒鳴られ、涙を目に(たた)えながら言われた通りに震える手で上着を脱ぎ、ブラをたくし上げた胡桃。

 搾乳師はその間に準備していた搾乳機(マシン)のカップを少女の乳房へと押し当て、搾乳機の電源を入れた。吸引の出力は最大(マックス)

 乳肉ごと乳首が千切れるんじゃないかと思うほどの鋭い痛みが胡桃を襲う。

 余りの痛みに声を上げると「うるせぇ!黙ってろ!」と再び怒鳴られ、睨まれるのをバイザーの奥から感じて恐怖で喉がつぶれる。

 搾乳機という拷問は、機械についている大型のボトルがいっぱいになるまで続いた。時間にして10分ほど。

 搾乳機の電源を切ると、それでもまだ乳頭から母乳を噴出し続ける胡桃をみて鼻を鳴らした搾乳師は、持っていたバッグから『腐乳臭抑制パット』を取り出して乱暴に貼り付けた。

 

「蛇口の壊れた水道みたいな胸にはそれがお似合いだな。箱ごと置いてくから、あとは自分で適当に張り替えろ。それと、俺がくるときは前日から貼って少しは臭いを漏らさないようにしとけよ」

 

 一方的に言って、男性搾乳師は乱暴に扉を閉めながら出ていった。

 一人部屋に残された胡桃は、恐怖と緊張が一気にきれて泣いた。

 痛いのから解放されたい一心で、羞恥心を抑え込んで頼んだ結果がさらなる激痛(これ)だ。母乳は自分でするよりもたくさん搾れたし、その分胸の過剰な張りもいくらかましになったのは事実だけど……。これではあまりにも酷い。

 おまけに、『腐乳臭抑制パット』は粘着力が強く、お風呂に入ったり、パットが母乳を吸い込めなくなって交換しようと剥がす際にとても痛かった。

 それでも言いつけ通り、胡桃は『腐乳臭抑制パット』を貼り続けた。

 搾乳師の訪問日は前日から貼った。

 そして搾乳師は躊躇なく、一気に剥がす。粘着剤に引っ張られる乳房がとても痛い。だけどそれを言えば怒鳴られた。

 だから胡桃は痛みを耐えた。少女は恐怖に耐えた。

 つらい。つらいけど、両親には言えない。せっかく搾乳師を頼んでくれたのに、痛いから嫌だとは言えなかった。幼いとはいえ、搾乳師が高い報酬を望んでくるというのはテレビで知っていたから。

 

 けれど――

 最低でも月に2回は行われる搾乳師による搾乳という名の拷問(ぎゃくたい)。カップの跡がついてとれない乳房。

 次第に黒ずんでいく乳首と乳輪。腐乳臭抑制パットによる酷いかぶれ。

 

 4年間耐え続けてきた少女は、ついに先月耐えきれなくなった。

 父親からスマホで来週、搾乳師が来ると伝えられて泣いた。どうしたことかと驚き、慌てふためきながら(たず)ねてくる両親に今まで自分がどう扱われてきたかを泣きながらに話した。

 

『――そうだったのか……胡桃は、どうしたい? 胡桃の正直な感想を父さんと母さんに聞かせてくれ』

 

 息をのんで聞いていた父親は、最後に静かにそう聞いてきた。

 

「ヒック……ひっく……も、もう、あの搾乳師の人は嫌だよぉ……」

 

 喉をしゃくらせながら本音を言えば、父親は『分かった。来週の予約はキャンセルして、新しい人を探そう』と言ってくれて。それから母親が『ごめんね胡桃ちゃん、今まで気づいてあげられなくて』と震えた声で謝ってきた。恐らく泣いているのだろうけど、謝るのはこっちだと思う。こうして娘と母親の謝罪合戦は父親が止めるまで続いた。

 

 父親が言った通り、翌週の訪問はキャンセル。

 どころか、これまでの行いを搾乳師を統括している厚生労働省に苦情を入れたらしく、該当搾乳師への厳重注意と、これまで支払われていた報酬の大部分が返金されることとなった。

 

 それを聞いて胡桃は喜んだが、問題も出てしまった。

 どこから漏れたのか、それとも当の搾乳師が同業者に口を大きくして話まわったのかは知らないけれど、この一件が大勢の搾乳師の知るところとなり、胡桃の依頼を受けてくれる搾乳師が見つからなくなってしまったのだ。

 自分も二の舞にはなりたくないということは、大抵の搾乳師は、多かれ少なかれ胡桃を担当していた搾乳師と似たようなことをしていると言っているようなものだ。

 

 夫婦は憤慨したが、見つからないものはしようがない。『腐乳症対策課』の助言を受けて、娘の依頼を搾乳師ならだれでも見れる依頼リストに載せることにした。

 これなら遠方の搾乳師や嘱託搾乳師も見るので、職員が直接紹介するよりは見つかる可能性が高いらしい。

 

 それから数週間後。今から3日前。新しい搾乳師が見つかったと、両親から聞かされた。

 

 ――今度の人も男の人だけど、とても優しそうだった。

 

(パパとママはそう言ってたけど、どうなんだろう?)

 

 胡桃にとって搾乳師は、前の恐い人しか知らない。だから、搾乳師(イコール)怖い人。

 不安しかない。不安しかないけど、会わないわけにはいかない。

 

(自分一人で上手く搾乳できればいいんだけどなぁ……)

 

 そうすれば会わなくてすむ。両親に無駄なお金を使わせずにすむ。

 けれど上手く搾乳できない胡桃には、それができない。

 

「せめて前の人よりも優しかったらいいな……」

 

 そう独り()ちてため息を吐くと、張った胸が痛んで涙が浮かんだ。

 

「本当にもうっ、こんな胸大っ嫌い」

 

 もう一度ため息を吐いたところで、部屋がノックされた。

 

 新しい搾乳師が来たのだ。

 まだ会ってもいないのに、胡桃の目尻に大きな涙が浮かんだ。

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