階段を上がって廊下を少し進んだところにある部屋。ここが胡桃の部屋だと、彼女の両親から教えられて知っていたし、部屋の扉にも『くるみのへや♪』と丸っこい文字で書かれたプレートが下がっているので間違いない。文字は本人のだろう。きっと腐乳症を
ともあれ、ここに自分がサポートする胡桃ちゃんがいるわけだ。
そう思うと緊張してきた。大和はバクバク言う心臓を落ち着かせるため、深呼吸を一つ。――スゥ……。部屋から漏れ出た微かな
肺腑にたまった腐乳臭を二酸化炭素とともに吐き出す。気管を通って吐き出される腐乳臭はやはりいい匂いで。
大和はここに何しに来たかを忘れて深呼吸を繰り返すこと30秒。ようやく我に返ったころには緊張は吹き飛んでいた。
ドアを数回ノック。
少しの間をおいて返ってきたのは、
「ど、どうぞぉ~」
という弱弱しい少女の声。
おとなしい性格の子なんだろうかと思いつつ、「失礼します」と声をかけながら扉を開けて室内へ。
濃密な腐乳臭が大和の鼻をつく。芳醇かつ甘美。これこそ大和が長年追い求めてきた香り。
だというのに、匂いを楽しむ間も感動する暇もないほどに、大和は目の前の光景に固まっていた。
そこに女の子座りでいたのは紛れもない美少女。
卵型の輪郭に収まるのは細筆で描いたような柳眉。ぱっちりとした大きな目。すっと通った鼻筋に、ぷっくらとした桜色の小さな唇。
腰まで届きそうな髪はどこまでも艶やかで。肩にかかっていた髪がするりと何の引っ掛かりもなく落ちていくさまは、見ているだけでも気持ちいい。
きている服は上下ともにジャージだが、その野暮ったい服装でも美少女が身に付ければあら不思議、とってもオシャレに輝いて見えるのだから、つくづく美しいというのは得である。
そんな美少女が――泣いていた。
なぜか大和を見ながら、大きなお目目いっぱいに
「ふえぇぇ~~」
――初手、美少女の泣き顔。
二人の邂逅はそんな一手から始まった。
ふむん。と大和は自分の一手を考える。自分はどう動くべきか。そもこの美少女はなぜ泣いているのか。この状況を考えたり突っ込んだりすることはいくつもあるような気がするが、大和の取る一手はすでに決まっていた。
美少女を怯えさせないよう、大和は人好きのする笑顔(自分ではそう思っているし、相手にもそう見えていると思いたい)を浮かべながら、ゆっくりと腰を落としてその場で正座し、頭と両手を床に押し当てながら口を開いた。
「すみません。どうか、どうか通報だけは勘弁してください! 僕は
「ふえぇぇ~~!?」
――後手、土下座。
未成年の部屋に入り、その未成年女子を泣かせた成人男性に残された最後の
それから少しして、
「いやーハハハ、見苦しいところ見せちゃったね」
「ぐす、ぃぇ、こっちこそ泣いちゃってすみません……」
大和と胡桃の二人は気持ちを落ち着かせてから自己紹介をしつつ、今は足の低いテーブルを挟んで床に座っていた。
ティッシュで涙を
可愛らしい淡いピンクの壁紙。勉強机に本棚。壁際に置かれたベッドの上にはいくつものヌイグルミが枕を囲むように置かれていて。フローリングの床には今大和たちが腰を下ろしている、ふわふわなラグカーペットが敷かれ。その上にテーブルがあり、大小様々なデザインのクッションが5つほどある。
なんとも少女らしい部屋を、天井のシーリングライトが照らしていた。
変わっている点を上げれば、部屋に窓がないことと、天井の4
窓がないのは
ともあれ、この2点を除けば至って普通の女の子の部屋だ。……大和に女性の部屋に上がった経験はないが。
(そう考えると僕、今、人生初の女性の部屋なのでは!?)
それが14歳の少女の部屋だろうと、なるほどこれが女の人の部屋か~。と、ちょっと感動してしまう大和。
「……ぁの、あまり部屋を見られると、その……恥ずかしい……です」
細く、ちいさな声を投げかけれられてハッと我に返る大和。慌てて部屋を眺めるのをやめて、正面の胡桃へと視線を戻した。
瞳はまだ潤んでいるものの、どうやら涙は止まったようだ。
「ご、ごめんね。女性の部屋って珍しくて……つい」
「あ、ぃえ大丈夫です。こっちこそごめんなさい。……ぇっと、そういえば先生、防護服を着けていないようですけど、大丈夫なんですか?」
「うん? ああ、全然平気だよ」
上目遣いで聞いてくる胡桃に笑顔で返すも、少女はどうにも信じきれていないよう。どうにも心配顔だ。
なので大和は安心させるように「見てて」と言ってから、大きく深呼吸。
深く、長々と息を吸って、しばらく肺腑にため込み、最後に「――ふぅぅぅ」と細く長く息を吐いた。
「……ね? 全然大丈夫でしょ?」
自分の顔を指さしながら、もう一度ニコリ。
少女を安心させるだけでなく、大好きな腐乳臭を思い切り嗅ぐことができる一石二鳥の行為。
腐乳症患者の部屋で防護服を身に着けないだけでも非常識なのに、腐乳臭が充満した空気で深呼吸しても顔色ひとつ変えない大和。胡桃はとても驚いた。口をポカンと開けてしまうほどに。
その様子に大和はつい笑ってしまう。
会ってまだ1時間も経っていないが、胡桃から常に
できればずっと今のような雰囲気でいてもらいたい。
胡桃の両親から、以前の搾乳師の対応が酷く、それが胡桃の性格にも悪影響を及ぼしているとは聞いている。
元からおとなしかった子が、搾乳師から与えられた恐怖でさらに内向的になったのだと。
具体的にどういう扱いを受けていたのかまでは聞いてはいないが、今みたいに年相応な表情と雰囲気になれるのであれば、搾乳師に植え付けれられた恐怖くらいは、自分でも取り除けるのではないかと思う大和。
子供が大人の勝手な理由で心に傷を負っていい道理はなく、大人におびえて暮らす必要もない。
本来、子どもにとって大人とは恐れるものではなく、甘えるものだと、心優しい青年は思う。
搾乳師は患者の搾乳のサポートを行うだけではない。その心身のケアまでサポートするものだと講習で習った。それが高額な報酬を得ることへの
嘱託ではあっても、自分も
怯えに曇った少女の顔に、明るさを取り戻してあげたいと決意する大和だった。
そんな大和のキリっとした表情を向けられた胡桃はといえば、
(はわわ! ななななんか凄い見られてる! でも前の
幼い心に芽生えた感情がよく分からないまま、恥ずかしさのあまり
「……ぁの、こっち見ないで……ぁぅ……」
(ぼくのかんじゃ、ちょーかわいくない?)
胡桃の無意識あざと可愛い仕草に、心にクリティカルヒットを受けて思考がひらがなになってしまう24歳児の大和。
どうにか平静を取り戻した彼は、こほんと
美少女の仕草に脳がやられそうになったが、先ほど胸に秘めた決意を熱く燃え立たせると、業務へと取り掛かることにした。
「それじゃあ、胡桃ちゃん。そろそろ始めようか」
始める――そこに込められているのは、搾乳だ。
大和のその言葉に、胡桃の肩がビクンと跳ねる。
顔を隠していた両手が下がり、赤かった顔は今は青白い。
さっきまで胸を温めていた未知の感情は凍り、代わりに恐怖がひたひたと這いまわる。
搾乳という行為は、胡桃にとってそれほどまでに怖いものなのだ。
少女の揺れる瞳が大和の横に置かれた大きなバッグに吸い寄せられる。
前の搾乳師も持っていたバッグ。
いつもあそこから搾乳機がでてきて自分を苦しめ、痛みつけた。
いつもあそこから腐乳臭抑制パットがでてきた。
それらがもたらしてきた苦痛の記憶に、知らず知らずのうちに胡桃の歯がガチガチとかち合う。
そんな少女の様子に大和は苦笑をもらす。
「大丈夫だよ、胡桃ちゃん。僕は搾乳機は使わない」
青年の言葉に目を見開く胡桃。
「あれって痛いよねー。僕、講習の実技の時に、試しに腕にカップをつけて吸引したことがあるんだけど……いやぁ、最低の『弱』でも結構ヤバかったけど、『強』は肉がもげるかと思ったよ」
眉をハの字にして情けなく笑う大和。そんな彼を唖然としながら聞いていた胡桃。
「……試したんですか?」
「うん」
「……ぇと、なんで?」
「何でって言われてもなぁ……自分がさ、担当の患者さんに使うかもしれない機械だから、その使用感を確かめておこうと思ったんだ」
それを知っていれば、患者と大まかな使用感を共有できるから、もしかしたらより親身になってサポートできるかもしれない。……まあ興味があったのも事実だけどね。と最後に冗談めかしたように付け加えたのは、照れ隠しだったのだろう。
胡桃にとって、大和の考え方は衝撃だった。前の搾乳師は胡桃のことなど考えずに、自分の実利を優先して搾乳機を使っていた。
胡桃が痛いと訴えても怒鳴って黙らせ。胡桃がもう嫌だと苦情を言っても、睨むだけで無視した。
なのに、この新しい搾乳師は、自分の担当する患者と使用感を共有するために、自分の体で試したという。
その結果得られたのが、痛み。
「腐乳症の人にとって搾乳がすごく大事な行為っていうのは理解してるし、搾乳機が優れた機械であるのは認める」
腐乳症患者は、妊娠していなくても、年齢問わずに母乳が出る。それも大量に。母乳を絞らなければ、母乳をため込んだ乳房はパンパンに張り、母乳の出が悪くなる。そうなると搾乳機の『弱』では上手く吸い出せず、『中』か『強』を使わざるを得なくなる。だけどこれがとても痛い。とてもじゃないが、長時間耐えられるものじゃない。
だけど絞らなければ、やはり胸が張って痛いのだ。
「けど、それで痛みを
自分の体(腕だけど)で試したからこその、大和なりの結論だった。
その言葉が、胡桃にとって凄く嬉しい。
搾乳機を使わないというのもあるが、それ以上に自分たち腐乳症患者のことを考えてのことだと分かって嬉しいのだ。
ただそうなると、疑問が一つ。
「……ぇっと、じゃあ、どうやって
男の人に面と向かって『搾る』と言うのが恥ずかしく思えた胡桃は、他の言葉を捜した結果、すごく抽象的な質問になってしまった。
が、返ってきた大和の答えもまた、ある意味抽象的だった。
「うん。手でやろうと思ってる」
「……て?」
思わず自分の開いた両手を大和に見せる胡桃。
「手で」
大和も自分の開いた両手を胡桃に見せる。
しばし無言で見つめあっていた二人は、何となくテーブルを挟んでハイタッチ。
ぺちん。と小さく音を立てた、ごく短いふれあい。
(ぁ、おっきい……)
自分の指、一関節分くらいは大きな大和の手。硬い
また顔が赤くなるのが分かった少女は、大和から目線を切るようにうつむく。
だけど、
(も、ももももしかして私、大和さんのこと、すすすすs――好きになっちゃった!?)
それは恋というには小さな、だけど勘違いと断じるには大きな感情のさざ波。
出会って半時間足らず、飯島胡桃は初恋に落ちた――かもしれない。
(……あれ? でも待って?)
胡桃はハタと気づく。
(わ、私これから好きになったかもしれない人の前でおおおおおっぱいさらけ出して、好きかもしれない人の手で母乳を絞ってもらうの!?)
その事実に思い至って、胡桃の頭はオーバーヒート。一昔前の漫画なら頭頂部が噴火していたかもしれない。
前の搾乳師の時には、怒鳴られるのが嫌で胸をさらけ出すのにそれほど抵抗はなかったが、今は違う。
なんせ相手は好きになったかもしれない人。そんな人に自分のおっぱいを見られる。
恥ずかしい。単純に。
想像しただけで顔から火が出そう。
そして同時に、自分の大きな胸がどう思われるのか怖い。
この世界、女性の胸は小さい方が圧倒的に好まれる。BカップよりもAカップ、AカップよりもAAカップ。それが世の男性の好みであり、巨乳と呼ばれるBカップ以上は奇乳といわれ、それは基本Cカップ以上に発育する腐乳症患者を指す
胡桃のカップはF。身長150㎝ちょうどと、14歳にしては少し低めに対して大きく育った胸。
男性からすれば奇異に映ることだろう。現に前の搾乳師の男性にはたくさんの酷い言葉を投げつけられた。
加えて、今の自分の胸は搾乳機のカップ跡やかぶれ等で傷ついていて醜い。それを見られるというのは――嫌だ。
恥ずかしいし、怖い。
だけど自分で搾乳がうまくできない以上、大和にその手伝いをしてもらわないと胸が張って痛い。
「お、ぉ願いします……」
羞恥心に顔を焦がしながら、消え入るような声とともにぺこりと頭を下げた胡桃が
ジジジ……。
胡桃がファスナーを下ろす音を耳に入れながら眺めていた大和は、彼女はたんにジャージの上着を脱いでいるだけだと思っていた。その下にはシャツか何かを着こんでいるのだと。
だけど、違った。
引き下ろしているスライダーが噛み合っていたエレメントをほどいていき、ジャージの前が開いていけば当然、その下が露わとなっていくのだが――
大和の視界に飛び込んできたのは何色かのシャツなどの洋服ではなく、肌色。つまりは素肌。
胡桃はジャージの下に何もつけていなかったのだ。服はおろか、ブラさえも。
小学4年生のころに腐乳症に
子供特有のもちっとした肌にシーリングライトの光が当たり、女性特有の柔らかな凹凸を陰影で浮かび上がらせる。
少しずつ露わとなっていく少女の素肌。すでにファスナーの殆どが開いていて、ちょうど今、彼女のかわいらしいおへそが
14歳の少女が服をはだけさせる行為に、大和は目が離せなかった。
理性では目を逸らさないとと思っていても、
ついにスライダーが最後まで下ろされ、箱と呼ばれる部品から蝶棒が抜かれると、胡桃の鎖骨部から下腹部までが露わとなった。
胸は見えていないが、それでも充分に
大和は思わずゴクリとつばを飲み込もうとして、どうにか寸前で思いとどまった。
ここでつばを飲み込むのはどうにも体裁が悪い。相手はこちらに医療行為を期待しているのに、まるで興奮しているみたいではないか。
……まあしているのだが。なんなら股間も反応しているのだが。
胡桃はこちらにちらりと視線を投げた後、少しの躊躇を見せる。が、一度ぎゅっと目を
脱いだ勢いも相まって、その大きな胸がプルン!と
それは小さな胸を愛する世の男性なら嫌悪する光景だろうが、ここにいるのはBカップ以上のおっぱいを愛する
だというのに、大和の表情は興奮とは程遠いものだった。目を大きく見開いて驚愕したのち、痛ましいものを見たかのように眉をしかめたのだ。
大和の目に飛び込んできたのは、確かに彼が大好きな巨乳だ。たわわに実ったそのサイズも、柔らかそうでいて張りのありそうな乳肉も、大和の好みにドストライクである。
だがしかし、そこには乳首と乳輪を覆い隠す四角い
大和にはそれに見覚えがあった。『腐乳臭抑制パット』――その名の通り、腐乳臭を閉じ込める医療用品なのだが。
「……使い方が間違えてる」
「……え?」
「その貼り方、間違えてるんだ」
「…………ええ!?」
それを聞いて、両手で握りしめていたジャージを床に落とす胡桃。
「パットの貼り方、前の搾乳師の人から教えてもらわなかったの?」
「ぇっと……ハイ……」
胡桃が
普段使いの強要、直貼り。何もかもが間違えている。
「……なるほどね」
胡桃の両親が前の搾乳師の対応が酷かったというのも頷ける話だ。
腐乳臭抑制パットは、腐乳臭を含む母乳を内側のパットに吸着させて抑えつつ、製品
ただ、粘着剤が強力であるため、直に素肌に貼ることは推奨されておらず、まずは腐乳症患者用に作られたジェルタイプの薬用乳液を薄く乳房に塗って、吸着力を緩和してから貼るのが大前提。
しかも長時間貼ると内部で蒸れてかぶれたりするので、1~2時間ほどの使用が好ましいとされる。
元々が腐乳症患者がなんらかの理由で部屋を出なければならなくなった時、短時間匂いを抑えるための物。間違っても普段からずっと貼り続けるものではない。
しかも聞いたところによると、剥がすときも無理やりしていたらしい。本来は剥がすときもパットの縁に乳液を塗りこんでから、ゆっくりと剥がすのが正解だ。
大和は腐乳臭抑制パットの粘着力の強さも、搾乳機
乳液を使わないで貼ってから剥がすと、誇張抜きでめちゃくちゃ痛かった。皮膚が限界まで引き延ばされて、さらに引っ張ってようやくバリバリバリと剥がれる。
逆に乳液を腕に塗りこんでから貼って、剥がすときもパットの縁に乳液を塗りこんでからやると、そこまで痛くなかった。
それを教えられず4年間も直貼りを繰り返し、搾乳機での搾乳を続けていたのであれば、彼女の胸はさぞや酷い状態になっているだろうと大和は察した。
察することができたのは、彼が支給される物を自身で試した経験からであり、だからこそ行動も早かった。
「まずはその腐乳臭抑制パットをすぐに剥がそう」
大和の言葉に、剥がすときの痛みを思い出したのか泣きそうな顔になる少女に、安心させるように語りかける。
「大丈夫、僕に任せて。これでも一応プロだからね。こういう時の対処法もバッチリさ」
下手なウィンクを一つ飛ばしつつ、横に置いていたバックを持って胡桃の隣に腰を下ろす。
大和の下手なウィンクに気が緩んだのか、口元に小さな笑みを浮かべた胡桃は、
「ぇと、ハィ……よろしくお願ぃします……」
大和の方へと体の向きを変え、恥ずかしいのを我慢して胸を突き出す。こうした方が作業しやすいと思ったからだが、巨乳好きの童貞には破壊力が高い仕草だった。
(くっ、鎮まれボクの股間! 今は治療が先だ!)
海綿体の熱膨張をどうにか抑え込んだ大和は、バックの中から取り出したジェルタイプの薬用乳液を腐乳臭抑制パットの縁に指先で塗りこんでいく。その際に指が乳肉に触れるのだが、その度に股間が反応しそうになるので抑えるのに大変だった。
しばらく待ってパットの縁が緩んできたら、今度はその隙間に液体タイプの乳液を少量流し込む。するとさらにパットの粘着力が緩んでいくので、この工程を何度も繰り返してパットを剥がすのだ。
ちなみにこれは間違ってパットを直貼りしたときの対処法であり、ちゃんと乳液を塗ってから貼った場合は縁をジェルタイプの乳液でふやかすだけで殆ど痛みなしで剥がせる。
つまり何もかも前の搾乳師が悪い。
数分かけてようやく一つ目のパットを剥がし終えることができた。
「どう? あんまり痛くなかったでしょ?」
「……ぇと、ハイ……あんまりとぃうか、全然痛くなかった……です……」
これは本当のこと。大和が言ったように、痛みは感じなかった。ただ、好きかもしれない男の人の指先が、乳液を塗るときに自分のおっぱいに触れるのが恥ずかしくて、多少はあるはずの痛みまで感じている余裕がなかったというのが本当のところ。
ともあれ、痛くなかったと聞いた大和は「それは良かった」と返しつつ、自分の腕を犠牲に、この対処法をスムーズにできるまで何度も練習した甲斐があったと喜んだ――のも束の間。
腐乳臭抑制パットの下から現れた少女の乳首と乳輪の惨状にまたも眉をひそめる。
乳首と乳輪は黒ずみ、その周りには搾乳機のカップの跡と思われる丸い
「これは……酷いね」
特にかぶれ。パットが覆っていた部分の乳肉には、長く湯船に浸かったあとの指のように
「……ぁぅ……」
「胡桃ちゃんがそんな申し訳なさそうな顔をする必要はないよ。全部前の搾乳師が悪いんだから」
ここまでくると温厚な性格の大和でも殺意が湧いてきそうだ。
まだいたいけな少女の体を何だと思っているのか。今もし目の前に件の搾乳師が現れたら、そいつの目と口にパットを直貼りしてやるのに。
さて、胡桃の好感度を知らぬ間に稼いだ大和は、前の搾乳師への怒りよりも目の前の少女の治療が大事だと気持ちを切り替える。
本来なら病院で診てもらうのが一番なのだが、腐乳臭の問題もあって、命の危険性がない限り病院での診察は受けられない。それ以外の場合、受けられるのはリモート診察のみ。
こういったところでも腐乳症患者の不便さが出てくるが、幸いといっていいのかわからないが、このくらいの症状であれば搾乳師は対処法を習っている。
といっても医者がやるような本格的な治療ではない。
病院に行けない、通えない腐乳症患者のために開発された医療用品を、教えられた通りの手順で用量・用法を守って使用するだけだが。
ただ、この医療用品の効能が凄い。
例えばこれ。
先ほどから使っている液体タイプの薬用乳液。これ、実は
その上から今度はジェルタイプの薬用乳液。これも手のひらに適量とってから揉むようにして伸ばしてから、これは患部だけじゃなくて乳房全体に塗りこむ。ジェルタイプの乳液は液体タイプの乳液が深くまで浸透するのを助ける役割だけでなく、乳房の過剰な張りを緩和する役割ももっている。
この2つを併用することで腐乳臭抑制パットによる軽度から重度までの
嘘みたいな話だが、本当のことであるのはこれも自分の腕で実証済みの大和。
不安そうに見ている胡桃に自分の腕を見せながらそう話す彼の腕は確かに奇麗で。
次に搾乳機のカップ跡だが、これはジェルタイプの乳液に含まれる成分で数日で治る。もちろん実証済み。
そして最後に乳首と乳輪の黒ずみであるが、これには専用のクリームがあるので、それを使用する。
市販にも似たような製品があるらしいのだけど、腐乳症患者専用のこれは、効能がずば抜けているという。なんせどんな程度の黒ずみも24時間で奇麗なピンク色に戻るというのだから。
男の大和にはいまいちよく分からなかったが、彼の担当講師だった女性と、担当の安達の女性2人が、もしこのクリームが市販されていたら絶対買うと言っていたので、よほど凄いのだろう。というかそこまで効能がすごいのであれば市販しても良いのでは? と思うが、販売されていないということはきっと色々複雑ななにかがあるんだろう。利権とか。
ともあれ、これは流石に試してはいないが女性が欲しがるほどなので性能は確かだと思う。
不安げな表情の胡桃にそういったエピソードを交えつつ話したり実証のために使った自分の腕を見せたりして対処していけば、あらかた作業が終わるころには少女の表情は随分と和らいでいた。
なんせ自分の体を張って効能を確かめた者の言うことだ。説得力がある。それに、すでにかぶれの痛みが薄らいできてる。即効性がすごい。これで疑えという方が難しいだろう。
「はい、これで終わり」
乳輪と乳首にクリームを無心で塗り終えた大和は指をハンカチで
美少女の半裸は童貞に効くので、胡桃には迅速に隠していただきたい。
「あ、ジャージのごわごわした生地だとこすれて痛いだろうから、柔らかめの下着は着用してね。もしなかったら下着にガーゼを仕込んでも大丈夫だから」
「ぁ。ハイ……分かりました。……ぁ、ぁの……ちょっと着替えてきます」
脱いでいたジャージの上着で胸を隠しつつ立ち上がろうとする胡桃を見て慌てて止める大和。
「あ、ごめん! ぼ、僕が部屋から出るね! 着替え終わったら呼んで!」
言うが速いか、ぴゅーん!と音が聞こえそうなほどの速度で部屋からとびだしていく大和を見て、胡桃はくすくすと笑う。
「……へんな人。でも、いい人」
ぽわぽわとした気持ち。先程まで大和が触れていた自分の大きな胸を見下ろして、少女は呟く。
「先生、私の胸、変な目で見たり、気持ち悪がってなかった……よね」
むしろ、興奮してたような……
「まさか、ね」
世の男性の好みは小さな
でも、もし――
「……先生が大きな胸が好きだったら――」
好きだったら……。その先は胡桃の口から言葉として出るのではなく、少女の頭の中でより具体的な行為として映像化された。
「は、はわわ! は、挟んだりなんてそんな! ぇえエッチだよ私!」
少女が何を想像したのかは、乙女の尊厳にかかわる事なので秘密にしよう。
「……と、とりあえず先生に見られても大丈夫なように、かわいいブラにしとこう……」
そう独り言をつぶやきつつ、いそいそと下着が収まるタンスの引き出しをあけて中を漁るも……。
「……そういえば私、かわいいブラなんて持ってない……ふぇぇ……」
そもそもBカップ以上に対応したブラというのが多くない。同じ腐乳症患者のデザイナーが作ったブラもあるが、そういった物は総じて高い。
安価なものは政府が民間に委託して作った簡素なデザインの物ばかり。胡桃が持っているのは全部これだ。
これまではそれで事足りた。
だけどこれからは違う。
これから搾乳をしてくれる新しい搾乳師の人は、自分が好きになった人なのだ。
そんな人に野暮ったい下着は見られたくない。見られるなら可愛い下着がいい。
もう今日は仕方ないとして、先生が帰った後にお母さんにお願いしてかわいいブラを買ってもらおう。
そう決意してふんす!と気合を入れる胡桃だった。
胡桃の着替え(といってもブラをつけて脱いでいたジャージを着ただけ)が終わり、呼ばれた大和が少女の部屋へと戻る。
「胡桃ちゃん、ジャージが好きなの?」
「ぅん、楽で好き……変かな?」
「いやいや全然! ぼくも家だと高校の時のジャージ着てるし」
首を傾げて聞いてくる美少女に、「楽でいいよね、ジャージ」とフォローする。まあじっさい似合ってるので問題ない。
こほんと咳を一つ。大和は話を変える。
「今日は本当だったら胡桃ちゃんの搾乳の手伝いをするはずだったんだけど、やめとこう」
理由は胡桃の胸の状態が酷いから。これが癒えるまでは搾乳は控えるべきだろう。
「はぃ、分かり……ました。……ほっ」
頷いた胡桃はどこか安堵した様子で。それを見た大和は、やはり初日からいきなり素手で搾乳というのはハードルが高く、少女を無駄に緊張させてしまったかと内心で反省。単に地味で野暮ったいブラを大和に見られずに済んでよかったと思っているだけなのだが。
「搾乳はかぶれ等の症状が落ち着いてからにしよう。それでいいかな?」
それまで搾乳できずとも、ジェルタイプの乳液が乳房の張りを緩和することである程度は自然と母乳がでるようになる。全然でないよりはマシなので、少しの間それで我慢してもらおう。
「はい、それでいいです……ぉ願いします……」
ぺこりと頭を下げてくる胡桃に大和も「これからよろしくね」と頭を下げた。
それと完治するまでの間にも乳液やクリームによるケアは続ける必要があるので、大和は先程使っていた液体タイプとジェルタイプの乳液、乳首と乳輪に沈着した黒ずみを消すクリームを胡桃にあげた。
初めは遠慮する少女だったが、実はこれ、大和が講習を受けている際に実技で貰い使っていた残り物なので、大和の懐が痛むわけでもない。そう説明して半ば無理やり渡した。
その後は乳液やクリームの塗り方を教えつつ1時間ほど雑談し、親交を少しばかり深めたあと、連絡先を交換してお
階段のところまで見送ってくれた胡桃の表情はどこか寂しそうで。
(少しは仲良くなれたかな?)
と思う大和だったが、仲良くどころか恋心を抱かれているとは思うまい。
ともあれ胡桃と別れたあと、階段を降りた先にある小部屋にて脱臭と消臭を終えると、着ていた服と下着を持ってきていた密閉袋に入れて新しい服と下着に着替えてようやく小部屋を出る。
その後、胡桃の両親と今日の報告を行う。前の搾乳師が教えた間違ったパットの使い方による胸部へのダメージ。それの治療。それらが完治してから搾乳を行うので、今日予定していた搾乳の中止。
大和の話を聞いて前の搾乳師への怒りが再燃した夫妻だったが、娘の症状が数日で治ると聞いて大和に深く感謝した。
ここでも軽く雑談した後、胡桃の症状が落ち着いたら連絡をもらえるようお願いして、飯島家を後にした。
こうして大和の初出勤は終えたのだった。
後日、胡桃からSNSを介して『奇麗に治りました!』とのメッセージが届いた。
良かったねと返してすぐに、1枚の画像が貼られた。
そこには胡桃の姿。
自撮りと思われるその画像には、めくりあげた白シャツの裾を口で
かぶれで酷い状態だった乳肉は健康的な乳白色を取り戻し、搾乳機のカップ跡はどこにもない。黒ずんでいた乳首と乳輪も、奇麗な桜色。
赤らんだ顔には満面の笑みを浮かべながら、こちらに向かってピースしている胡桃はとても嬉しそう。
なのだが、この画像はあまりにも攻撃力が強すぎたようで――
「く、胡桃ちゃん!? ――っう!!」
狭いアパートの一室で、14歳少女のいたいけな姿を見て、手も触れていないのに股間を爆発させた新米嘱託搾乳師がいたそうな。
イラスト入れてもいい?
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イラストありがいい。
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イラストなしがいい。
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どっちでもいい。