第1話「天照」
日向本家。和製で、誰もが近づけば視線を奪ってしまうほど大きなその屋敷の客間で、2人の少年が正座して向かい合っていた。
いや、違う。正確には1人の少年と壮年の男性だ。ただ男性は30を過ぎてるにもかかわらず、若々しい肌を持ち、かつ体型もそこらの高校生男子と大差ないため、初見で彼を大人であることを見抜ける人はまずいない。
どちらも金色の髪に青き双眸を持っていることから、親子であることは明白なのだが前述のおかげで、一緒に歩くと親子ではなく兄弟に見られることなんてしょっちゅうだ。親としてそういう認識をされるのは複雑だろうが、男性―――
「そうか、明日発つのか。星導館に」
「ああ、ずっと考えてたんだ。父さんと同じ学園に通いたいって」
「あそこはおまえを今以上に成長させてくれるだろう。現に俺もあそこで美鈴と出会って成長できたからな」
懐かしみながら言う頼朝。美鈴というのは頼朝の妻であり、現役時代では誰もがうっとりするほどの美貌に誰にも捉えさせない抜刀術を使いこなしていたことから、『神速瞬麗』という二つ名で呼ばれ、頼朝とタッグを組んで鳳凰星武祭準優勝という成績を修めた。そのことから彼女は刀使いにとって憧れの存在であり、刀使いといえば彼女を挙げる者も少なくはない。
「頑張れよ。おまえは自慢の息子だ」
「ありがとう。あそこで勝ち続ければどんな願いも叶えられる。そして母さんを救ってみせる。必ずな!」
激励する朝頼に、少年―――
―――――
数日後、俺は船を経由してアスタリスクにやってきた。ここは初めての人だと広くて迷いやすいと父さんから聞いていたが、俺には地図がある。親父が初めての俺に配慮して持たせてくれたのだ。
(地図だと、次の曲がり角を曲がれば目的地だな)
星導館に近づくたびにワクワクが大きくなる。それは父さんと母さんが通っていいたのもあるが、一番は強い者と出会えるかもしれないからだ。
星導館を入れた6学園には朝陽と同じ星脈世代が何人も在籍している。しかも運がよければ星脈世代の中でも希少である魔女や魔術師と戦える可能性だってある。ヤバい……そう考えたら余計ワクワクしてきたぜ!!!
「あの、やめてくれるかな……?」
「いいじゃん。ちょっと付き合えよ」
心を躍らせながら歩いていると、ビルとビルの間から男女の声が聞えてきた。気になって覗いてみると、案の定男が女をナンパしてるようだった。女のほうは誰が見ても迷惑と見られても分かるような顔をしているが、男はそんなの知ったこっちゃないとでも言うかのように言い寄っている。
俺は母さんから女性が嫌がるマネはしちゃいけないと教わった。だが俺じゃないとはいえ、アイツの行動はそれに反することだ。それを黙って見逃すことは母さんが許しても(実際許さないだろうが)俺が許さない。というわけで、俺は彼等に歩み寄った。
「そう言わずに付き合ってくれよ~。少しだけでいいからさ~」
女に向かって伸びる男の手を掴む。2人とも俺に気づいていなかったのか、驚いた顔をしている。
「いてっ! なんだおまえ!?」
「いい加減にしろ! その子イヤがってるだろ!」
「そう言ってヒーローのつもりか? うざってぇんだよ!」
男が強引に俺の手をふりほどく。その時目にしたレヴォルフの校章から、そいつがその学園の生徒であることが分かった。父さんからレヴォルフはガラの悪いヤツが多いと聞いていたが、それは本当にだったようだ。
「俺はてめぇみてぇなヒーロー気取りのやつを見るとムカつくんだよ。ヘドが出るぐれぇにな!」
止められたことがよっぽど気に入らなかったのか、男は憎悪を込めた顔をしながらもナイフ型煌式武装を取りだす。俺はこういったタイプのヤツとは何度も対峙している。故に話し合いが通じないことも分かっているので、俺は拳を構えた。
「キミ、わたしのことはいいから逃げて!」
「大丈夫だ! キミは下がってて!」
身体を横に反らし、真っ直ぐ飛んできたナイフをかわす。男のほうを見ると、目が完全に血走っていた。ほんの少し話しただけでこれとは……カルシウム足りてないんじゃないか?
「おしゃべりなんて余裕だなぁ。こっちはてめぇを切りたくてうずうずしてるってのによぉ!!」
「お前、危ないヤツだな……」
「うるせぇ! いいかたお前は黙って俺に切られればいいんだよぉ!!!」
めちゃくちゃな斬撃の軌道を何度かかわした後、腹部に蹴りを入れる。男は“ぐほっ……!”と短いうめき声を上げながら腹を抑え、後退。その隙に握った右拳に星辰力を集約させ、俺は男のほうへと踏み込んだ。
「日向流拳術初伝―――
まっすぐ伸ばした右拳を男の頬に当てる。男はまっすぐ吹き飛び、クレーターができるほどの衝撃を喰らった。気絶したみたいだが、ヤツは腐っても星脈世代。手加減はしたし、少なくとも死ぬようなことはないだろう。
(初日からレヴォルフに会うなんて、幸先悪いなぁ……)
でも、後悔はしてない。あの状態の彼女を放っておくなんてできなかったから……。
「ケガはなかったか?」
「大丈夫、キミが守ってくれたから。それにしてもキミ、強いんだね」
「これでも拳士の端くれだからな! 何にしても、キミが無事でよかった!」
笑顔で言うと、俺は拾った荷物を肩にかける。
「じゃあ俺は急いでるから、これで!」
「あっ、待って!」
呼び止められ、駆けだそうとしていた足を止める。
「な、なに?」
「わたしはシルヴィア・リューネハイム。よかったらキミの名前を教えてくれないかな?」
「シルヴィア、リューネハイム……」
たしかクインヴェールの生徒会長も同じ名前だった。でも、世界の歌姫である彼女がこんなところにいるわけない。俺はそう結論づけ、クインヴェールの生徒会長と目の前の彼女は同一人物説を否定した。
「朝陽! 日向朝陽だ! じゃあな!」
高らかに名乗ると、俺はその場から走り去った。後ろから“その名前、憶えておくよ。朝陽くん”という彼女からの声を受けながら。
―――――
思わぬハプニングがあったが、無事星導館に到着した。
(ここが星導館、父さんと母さんの母校か……)
そんな星導館は見上げられるほどの大きく、地図を見る限り敷地もかなり大きい。俺の実家もそれなりに大きいが、星導館はそれ以上なのは間違いない。
(ここにはどんなヤツがいるんだろうな~! あ、そういえば!)
ここには父さんが現役時代に使ってた純星煌式武装が保管されてるんだったな。名前はたしか……。
(
名前からして実に神々しい。一応自分用の煌式武装はあるけど、父さんが使っていたものなら興味あるし、あとで見せてもらえるよう頼んでみるか。父さんの話じゃ申請すれば見せてもらえるって話だったし。
「げっ!?」
何気なく時計に目を移すと、心臓が跳ね上がった。現在の時刻は8:24、完全に遅刻だ。俺は間に合うように時間は調節した。にもかかわらず遅刻しそうなっているのは多分―――いや、絶対トラブルに首を突っ込んだのが原因なのだが、それでも俺は後悔しない。こんなことで後悔するなら、最初から首を突っ込んでないからだ。
(大変だ! 急がないと!)
慌てて掲示板のほうに向かう。だが、人は1つのことに集中すると周りが見えなくなるもの。故に俺は曲がり角から人が来てることに気づかず、人とぶつかってしまった。勢いよくぶつかったから尻餅をついてしまった。相手のほうは大丈夫か?
「わ、悪い! 大丈夫か!?」
謝罪しながらぶつかった人見る。ぶつかったのは女の子で、銀髪のツーサイドアップに小柄な体型には不相応な
(あ、ダメだダメだ! どこ見てるんだ俺は!?)
俺も男なのでしかたないとは思うのだが、それでも女性は男性にそういう目で見られるのはあまりいい気分はしないだろう。それに今は彼女を起こすのが先決だ。
「不注意だったよ。本当にごめんな?」
もう一度謝罪して、手を伸ばす。少女は“いえ、大丈夫です……”と控えめな声で言うと俺の手を取り、立ち上がった。
「私も不注意だったので……ごめんなさいです……」
「いや、俺は大丈夫だから。そんなことより、ケガとかしてないか?」
「大丈夫です。星脈世代はこのぐらいじゃケガしないので……」
彼女の言ってることは事実だ。でも、彼女のこの物言いは好きになれなかった。だから俺は余計なお世話だと思いつつ、つい言ってしまった。
「そんなこと言うなよ。痛みを感じるのは非星脈世代と変わりないんだからさ」
「……」
少女は黙ったまま俯く。それでも言わずにはいられなかった。俺達星脈世代は特殊とはいえ、れっきとした人間なのだから。
「気を悪くさせたなら謝る。でも、キミはなんだか自分のことを大事にしてないように思えたからさ」
「気を悪くするなんてそんな……優しい方なんですね。あなたは」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ。じゃあ俺は行くから、縁があったらまた会おうぜ!」
そう言って去ろうとするが、忘れていたことがあったので身体にブレーキをかける。
「どうしたのですか? 急いでるんじゃ……」
「いや、ここで会ったのも何かの縁だし、名前を聞いておこうかなって。俺は日向朝陽、高等部1年だ! キミは?」
「えっと、刀藤綺凛……中1です……」
刀藤……ということはあの家系か。来て早々大物に会ったな。
「刀藤か。縁があったら俺と戦ってくれよな! じゃ!」
そう言って、俺は今度こそその場から走り去った。
―――――
だんだん小さくなっていく朝陽の背中を、綺凛は黙って見送る。
(日向朝陽……先輩……)
綺凛もまた彼の名字を聞いて、どこの家の者かすぐに分かった。刀藤流も有名ではあるが、日向流もそれと同じくらい有名な流派なのだ。
(なんか、陽だまりみたいな人だったな……)
去り際に向けられた笑顔。それはとてもまぶしくて、でも心が温かくなるものだった。綺凛はあの日以来、誰かに優しくされたこともなければあんな笑顔も向けられたこともなかった。故に彼の笑顔が頭から離れず、こう願った。“また会いたい”、と……。
―――――
入学式を終えて放課後、俺は今生徒会室の前にいる。ここに来た目的は1つ、生徒会長に純星煌式武装の貸出の申請をするためだ。
(生徒会ってお堅い雰囲気があるから苦手なんだよなぁ……)
ただ、ここでしか申請はできないので、意を決してドアをノックする。その後中から“どうぞ”と愛想のいい返事が聞こえてきたので、俺は“失礼します”と言って中に入る。
「ようこそいらしてくれました。話は聞いていますよ。純星煌式武装の貸し出しの申請、ですよね?」
そう言って、俺を笑顔で迎えてくれたのはクローディア・エンフィールド。本学園の生徒会長であり、序列2位の純星煌式武装持ち……と、クラスの人が言っていた。
「はい。申請には生徒会長に話を通すよう言われたので」
「では手続きはこちらでしておくので、翌日の放課後にまたここにいらしてください」
「わかりました。ありがとうございます」
ということで翌日の放課後、再び生徒会室へ。これから純星煌式武装が保管されている地下に案内してくれるということで、彼女の後を突いていくことに。
「エンフィールド……さん、天照は過去に誰かに扱われたことってあるんですか?」
「ええ、あなたの父が使用されていましたよ。それと、私もあなたと同じ1年なので、敬語は使わなくて結構ですよ? 呼びもクローディアで結構なので」
生徒会長で大人びた雰囲気だったので、俺は彼女のことを上級生だと思っていた。でもまあ、同学年で本人がこう言ってるなら、そうするか。
「わかった。それで、クローディアはいつからこの学園に?」
「ふふっ、素直な方ですね。中等部からです」
「そんな前からか」
話をしながらエレベーターで地下へと降りていく。
「あなたの父、日向朝頼は現役時代、星導館の頂点に君臨し、向かってくるものを素手でなぎ倒す姿から“拳神”と呼ばれていました。あなたの名字を聞いた時はもしやと思いましたが、顔立ち、天照を指定してきたところで確信しました。あなたが彼の息子だということを」
「まあ、父さんがどんなの使ってたか気になってたっていうのもあるけどな」
「ふふっ、あなたの父も当時は同じことを言っていたそうですよ。これも遺伝でしょうか?」
そこは関係ない……と思いたい。
「では、ここから天照をお選びください」
「わかった」
地下に着くと、俺は表示されたウインドウから天照を選ぶ。貸出し可能な純星煌式武装はあいうえお順で並んでいたため、それはすぐ見つかった。
天照は指名されると、カプセルからその身を俺達の前に晒す。俺はそれを纏い、星辰力を流しこむ。そして測定が終わった時、作業員が一斉に大きな声を上げた。クローディアは80%以上で合格と言っていたが、俺としては93%は―――。
「適合率100%! すごい、拳神を上回る適合率です!」
拳神とは父さんが現役時代に呼ばれていた二つ名。というか、100%? 俺の聞き間違いじゃないなら、適合率は100%って言ったのか?
「ベタ惚れのようですね。おめでとうございます」
拍手をして、クローディアが祝福してくれる。周りの人達も驚いてるのだろうが、一番驚いてるのは本人である俺だ。93%いければいいと思っていたのが、それを上回る―――しかも最高値である100%を出してしまったのだから。
「ありがとな。これも父さんの血のおかげかな?」
「そんな理由で純星煌式武装は持ち主を決めたりはしません。天照はあなた自身に惚れたんですよ」
にっこり笑って否定するクローディア。まあ、それなら嬉しい……かな?
「今日からあなたが天照の使用者です。大事にしてあげてくださいね」
「もちろんだ! よろしくな、天照!」
その挨拶に返事するように、ウルム=マナダイトが光を放った。
R要素は後々書きます。
誰と付き合いたいですか?
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綺凛
-
シルヴィア
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両方