この世界はおかしい。おかしいはずなのに皆はそれを当たり前だと思っている。だからおかしいのは多分僕なんだろう。
この世界は女性しかいない、正確には女性と両性具有だ。この世界で男性と言ったら両性具有のことを指している。ただ男性と言っても見た目は女性にしか見えないし、僕には違いが分からない。さらに町の人を見ても若くて顔の整った女性ばかりだ。僕には顔の綺麗な女性だけこの世にいるようにしか見えない。ただ、この世界に住んでいる人からしたら違うようで、僕にはまったく年を取っているように見えないのにお年寄りと若い女性の区別をつけている。さらに並んでいる女性は二人とも綺麗だと思っていたら片方は美人でもう一方の女性は不細工だと皆が言う。僕には違いが分からなかった。
これだけならまだ良かったが、致命的なのは性別が見た目で分からないことだ。男性も女性も同じ服を着ているのに皆は性別が分かっていて、僕には分からない。男性には男性の、女性には女性の接し方がある。それが僕には分からなかった。
なんでこんなことになっているのかと言えば、おそらく前世の記憶のせいだろう。前世で男性には男性器しかついてないし、見た目も女性とは全然違う、年を取ればしわくちゃになる。そんな世界に住んでいた記憶のせいで認識が歪んでいると思っている。前世で男だった僕は未だにこの体が好きになれない。性別はせめて男であってほしかったが女性の体だ。はじめの頃は女性の体に戸惑っていたし、嫌悪感もあったがいい加減なれてきた。というのも生理が始まって、いよいよ自分が女だと突き付けられたせいかもしれない。この世界の母は喜んでいたが、痛くて不快なだけで喜ばしいことだとは思えなくて、母の前では笑ったが憂鬱な気分だった。それでも何年かすれば、日常になる。
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昼休みで楽しそうに皆が話している教室から一人そっと抜け出す。昼休みが始まったばかりでまだ皆弁当を食べていて廊下の人影はまばらだ。できれば誰とも遭わずに目的地まで行きたい僕は人を避けるように廊下を進む。
僕が目指しているのは校舎裏の倉庫影にある日当たりの良い花壇だ。校舎の中からは影になっていて誰も見えないそこは僕にとって一番安心できる場所だ。教室に僕の居場所はない。なぜならクラスメイトから嫌がらせをされるからだ。
いじめは中学の頃から始まった。中学を卒業すれば終わると思っていたけど、進学した高校にもいじめていた子がいて同じことの繰り返しだった。
きっかけはクラスで人気の子が僕のことを好きだと言う噂がたったことだった。僕が色目を使っているビッチだと言うことになりいじめが始まった。始めは物を隠されたりする程度だったがいつからか隠された物が汚れた状態になっていたり、壊されたりするようになった。今日は弁当が無事だったため急いで避難をしてきた。
ここなら誰もいないし落ち着いて食べられる。お母さんの作ってくれた弁当が無事で本当に良かった。離婚をして女手ひとつで僕を育てる中、忙しいのに準備をしてくれている。そんな弁当がぐちゃぐちゃにされるのは耐えられない。どうしても許せなくて歯向かったことがある。ぼこぼこにされて裸の写真を撮られた。それをされてから心が折れた僕は、何をされても耐えるようにしている。耐えれば最初は面白がってても途中で飽きる。それを待つようになった。
昨日は雨が降っていたようで、地面に水溜まりができている。水溜まりに暗い顔の女の子が写っている。高校生にしては少し幼いがミディアムヘアーで優しげな顔のかわいい女の子だ。僕のことではあるがかわいいと思う。ただ、それが本当に他人からかわいく見えているかは分からない。お母さんはかわいいと言ってくれているがクラスメイトからはブスだと毎日のように言われている。多分お母さんは身内びいきが入っているから、かわいくないんだろう。勘違いしているとまたクラスの誰かを不快にしてしまう、それだけならまだ良いけど絶対に嫌われたくないひとがいる。その人にだけは嫌われたくない。
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今日は放課後に呼び出されることもなく家に帰ることができた。家に帰って携帯を見るとメッセージが来ている。学校に持っていくと、何をされるか分からないのでずっと家に置いているので学校にいるときは全然分からない。今日も遊べるかどうか天音くんからきている。
「お邪魔しまーす」
玄関を入ってそのまま2階に向かう。天音くんの両親は共働きで遅くまで帰ってこない。僕の近所に住んでいる天音くんはこんな僕とずっと遊んでくれている唯一の友人だ。天音くん一家とは家族ぐるみで付き合いがあって、親の帰りが遅い僕たちはよくこうやって遊んでいる。
部屋に入ると漫画に夢中になっている天音くんがいた。いつも夢中になると周りの音が聞こえなくなる天音くんは今日も僕が入るまで気づかなかったみたいだ。天音くんは前世で会ったら目も合わせられないくらい美少女だ。この世界は性別に関係なく化粧をするが天音くんは特に化粧もしていないのにとてもかわいくて肩まで伸ばした髪もさらさらで清楚な感じのする子だ。天音くんの優し気な顔を見ていると、とても安心する。
今日は二人でゲームをすることになって、必死にプレイしている。今やっているゲームは特別興味のないゲームだけどないけれど天音くんとやっているというだけで面白くなってくるから不思議だ。
天音くんとは小学校から高校まで一緒の学校だったけど今まで同じクラスになったことはない。はじめの頃は残念だったけど、今ではいじめられる姿が見られなくて良かったと思う。天音くんはどこからか聞いたのかいじめている子達にいじめに関して怒ってくれた。天音くんはおとなしい子で、本当は怖いはずなのに震えながらも立ち向かった。嬉しかった、その姿は僕に眩しすぎてその日から彼は僕のなかでヒーローになった。
その後いじめはより陰湿で過激になっていった。校舎裏に天音くんを呼び出して罵倒させられたこともある。いじめていた子達は影からこっそり聞いていたとはいえ罵倒すればいじめを軽くしてくれると言われそれに乗ってしまった。どうしようもない屑だ。いじめられて当然の人間だと思う。
「言わされたんでしょ?それくらい分かるよ。全然気にしてないし、むしろ山本さんの方が大丈夫?」
天音くんはそんなどうしようもない自分を許してくれた。嬉しさと罪悪感とでぐちゃぐちゃになった僕は彼の前でみっともなく泣いてしまった。こんなに優しい彼を傷つけたくなかった。いじめられているみっともない姿を見せたくなかった。それから何度か教師がいじめについて注意してくるようになったけどその度にいじめは陰湿になっていった。もしかしたら天音くんが教師に言っていたのかもしれないけど、何度か注意があった後に解決したことになって注意もされなくなった。
また彼を罵倒させられるかもしれない、もっとひどいことをさせられるかもしれない、そう思った僕は学校では天音くんを避けるようになった。天音くんには学校で男女でいるところを見られて付き合っていると思われたら嫌だからと伝えた。それでも彼との繋がりを絶ちたくない僕は浅ましくも放課後にこうやって会っている。彼を学校で避けているのもこれ以上彼に対して嫌われることをするのが嫌だから。どこまでも自分のことしか考えていない自分は彼に相応しくない。そんなの分かっているのに、気持ちが抑えられない。
どうしようもないくらい彼が、天音くんが好きだった。
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僕は隣に座っている山本さんをゲーム画面を見ているフリをしてチラリと顔を覗き込む。学校でも一番可愛いんじゃないかという整った顔に見とれてしまった。そんなことをすれば当然動きが悪くなるわけで、負けてしまう。もう一度仕切り直すがまた彼女に目が行ってしまう。彼女もこちらを見ていたようで目が合ってしまう。彼女はあからさまに目をキョロキョロさせ、その後困ったように笑い恥ずかしそうにうつむいてしまう。
彼女が僕のことをどう思っているのか分からない。以前学校では話さないようにしようと彼女に言われてから学校では話さないようにしている。彼女はクラスの中でも美人で有名だった男の子から好意を持たれていると噂が流れ、いじめられたことを気にしているのかもしれない。噂ではなく本当のことだったんだが。
クラスの中でも容姿がどんなによく見積もっても中の下くらいしかない僕と一緒にいることを羨むひとなんかいないだろう。そう考えたら彼女は、不細工な僕といるところを見られるのが恥ずかしいのかもしれない。そう考えたら気持ちが沈んでくる。
以前、彼女から体目当てなんだろうと言われたことがある。もちろん優しい彼女がそんなことを言うわけもなく言わされた言葉であることはすぐ分かった。それでもその言葉には心当たりがあって彼女を助けたら好きになってくれるかもしれない、そんな打算的な考えが心のどこかにあったのを見透かされた気がした。
恥ずかしかった。彼女の弱っている心につけこむ本当に最低な人間だと思う。彼女に相応しくないのは分かっているけれど、僕は彼女に恋をしている。
だけどそんな醜い感情は彼女に見せない、今の友達という関係を崩したくないから今日も彼女と友人として接する。無害な友人として。