今日の放課後はすぐに帰らずに教室にいた。後、2週間ほどで文化祭があるためその準備のため残らなければいけない。部活に入っていない僕は久しぶりに学校に遅くまで残っていた。
「山本さん、これお願いね」
「えっと…私、衣装係で会場準備じゃ…」
文化祭で僕のクラスでは喫茶店をやることになったが、女子が接客をして男子が調理をすることになっている。でも全員が当日に動くわけではなくて、一部の人間は準備のため別班として分けられていた。僕は当日は参加せずに受付や給仕をするみんなの衣装を作ることになっている。衣装と言ってもエプロン程度のものだがクラスの女子の半分以上の数を揃えるとなるとかなりの数になってしまう。
「いや、私たち当日接客もするよね?山本さん当日何もしないでしょ?それに山本さんと違って私たち部活もあるし。なら、私たちの分も少しくらい手伝ってくれてもいいじゃない?嫌なの?」
「いや、そう言う訳じゃ…」
「そうやって文句ばかり言ってないでちゃんと準備をしてよね。楽なことばかりやって文句ばかり言うの、本当に自己中だよね」
人前に出るのが苦手な僕は当日接客しなくてもいいと聞いて正直ほっとしていた。だから事前の準備は頑張らなきゃと思っていた。それなのに手伝うこともしようとしなかった。それを指摘された僕は申し訳なさでいっぱいになっていた。
「ごめんなさい…」
「ごめんじゃなくて、ちゃんとやってね。謝ればいいと思ってるでしょ」
謝る以外に何も思い浮かばない僕は黙ってうつむくことしかできない。
「…」
「何?なにか文句あるの?」
「あっ…ちがっ、ごめんなさ」
「謝らなくていいよ、さっき言ったことも分からないの?はぁ…」
こんな自分が情けなくて、同級生から軽蔑されていることが辛くて視界が滲んでくる。泣いちゃダメだ。そう思っても涙は止まってくれない。
「やめてよ、私が悪者みたいじゃん。自分が悲劇のヒロインとか思ってる?山本さんが悪いんだよ?」
「…ごめっ、ひっく、ぅごめ…なさい。」
「もういいよ。私たちは帰るから」
そう言って彼女たちは帰っていった。衣装係は僕ともう一人いるのだがその子は今日は休みでいない。なので教室には僕以外誰もいなくなってしまった。
教室の中は僕の嗚咽しか響いていない。すすり泣きながら静かな教室の中で彼女たちから渡されたメニューや看板の準備を始める。涙をポロポロ零しながら書いていたため、せっかく書いていたメニュー表の字が滲んでしまう。一枚無駄にしてしまった。涙を拭って書き直しを始める。
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学校では終わらなかったため、家に持って帰って準備をすることにしてその日は切り上げて帰ることにした。外はもう真っ暗になっている。こんな遅くまで残っていたことに少し驚きつつ、空の星明かりをぼんやり眺めながら家に帰る。
「愛~ただいまー」
「おかえりなさい、お母さん」
「あら、何かしてるの?」
お母さんはそう言って僕の手元を覗き込んだ。今日クラスメイトからお願いされたメニュー表を書いていたのだが、お母さんは勉強をしていると思ったんだろう。
「そろそろ学園祭が近いから、その準備だよ」
「ありゃ、もうそんな時期か。愛のクラスは何するの?」
お母さんはニコニコしながら僕に聞いてくる。多分、僕が出し物に参加すると思ってるんだろう。お母さんの期待に答えられないことに罪悪感を感じながら答える。
「喫茶店だよ。今はそのメニュー表作り」
「喫茶店かー。じゃあ接客とかもするの?」
「あっ、私は準備だけで当日は参加しないよ…」
「そっかー、でも準備だけでも楽しいよね。皆で集まって時間ギリギリだーって、慌ててたっけ…」
お母さんは懐かしそうに昔のことを話している。お母さんの学園祭はとても楽しかったのかな?いつもの冗談を言う雰囲気ではなく、落ち着いた雰囲気のお母さんが珍しい。
「別に裏方でも楽しめば良いのよ。だから、当日参加するとかしないとか気にしなくて良いの。準備も立派な仕事よ。お母さんは愛がクラスのために頑張ってるのすごいと思うよ。」
「…うん」
顔に出てたのかな、お母さんが優しい声で話しかけてくれている。
「根を詰めすぎないでね。体壊したら損だよ。」
お母さんはそう言って、僕の肩を叩いて出ていった。お母さんが部屋から出ていってくれて良かった。今の顔を見られたら余計に心配を掛けてしまいそうだから。
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「ごめんなさい、昨日頼まれたメニュー表と看板まだ終わってなくて…」
「は?終わってないの?はぁ、山本さんに頼んだ私が悪かったわ。いいよ、後は私たちがやっとくから。」
「ごめんなさい…」
あの後、朝まで徹夜してやったけれど結局終わらせることができなかった。いつもそうだ、人の期待に応えることができない。そんな自分が嫌になる。寝不足でふらふらしながら放課後まで頑張って起きて授業を受ける。放課後は昨日休んでいた子もいるので、一緒にエプロンを作っていく。
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「あれ?」
気が付いたらベッドの上にいる。もう外は真っ暗だ。それにここは家じゃなくて保健室だ。状況が理解できなくて混乱する。
「おー、起きたか」
一緒に作業をしていた子、四条さんから声をかけられる。四条さんはパイプ椅子に座りながらエプロンを縫っている。もしかして、私寝てた!?顔から血の気が引いていく。
「ご、ごめんなさい!あの、ちょっと寝不足で…じゃなくて、四条さんがしてくれてたのに私…」
「ん?ああ、これ?いいって、昨日あたし休んでたし、これでおあいこでいいよ。」
昨日は結局みんなの手伝いで衣装制作はほとんど進んでいなかった。あおいこになんてできない。僕がしたことなんて何もない。
「実は、昨日全然進んでなくて…」
「まぁ、しょうがない。まだ、時間はあるから終わらせられるし、そこまで気にすんな」
そう言って私の髪をくしゃくしゃにして四条さんは笑った。四条さんはいつもクラスで一人で少し避けられてる。ただ、友達が作れないだけの僕とは違って彼女は人を寄せ付けない雰囲気があった。だから僕も少し怖くて彼女にはできるだけ近づかないようにしていた。でも話してみたら四条さんはすごく優しくて、勝手な思い込みで遠ざけていたことが恥ずかしかった。
「とりあえずこれもうすぐ終わりそうだから、終わったら帰るか」
「あ、ありがとう。じゃあできなかった分とか片付けは私がやっておくね」
「?今日はもう遅いし、片付けくらい一緒にするから」
「わ、悪いよ。私今日はなにもできてない」
僕は慌ててベッドから立ち上がろうとして、立ちくらみでふらついてしまう。四条さんにはそれを抱き止められて心配されてしまう。
「おいおい、無理すんなよ。寝不足なんだろ?そこで横になってていいから」
彼女から横になってろと睨まれてそのまま彼女を待つ。こんなのばっかりで本当に嫌になる。彼女は本当に全部自分で終わらせてしまいそのまま一緒に帰ることになった。
夕日も殆ど落ちてしまい薄暗い道を街灯が照らしている道を四条さんと二人で歩く。僕は何かを話そうとさっきからずっと考えているがなにも話題が思い付かない。こういうときに皆は何を話しているんだろう?テレビ番組?好きなタレント?ゲーム?本?…わからない。
「山本はさ、何処に住んでんの?」
「え…、私は◯◯町に住んでるよ。」
「あー、少し遠いな。電車通?」
「うん、だから駅に行こうと思って…」
「そっかあたしも家は駅の方向にあるから駅まで一緒に行くわ」
それから、四条さんとは僕の住んでる町の話をして盛り上がった。クラスメイトとこんなに話したのは始めてですごく興奮して話してしまった。僕の話ばかりで四条さんのことについて何も聞いてないのに気づいたのは家に帰ってからだった。
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「山本さんこれまたお願いね。」
「えっと、これは?」
「部屋の飾り。できるでしょ?」
この前メニュー表を頼んできた子がまた僕に仕事を依頼しに来たようだ。前回は中途半端にしか終わらせれなかったけど、今回は終わらせられるように頑張らなきゃ。
「うん、材料はどこに…」
「いや、それはお前らの仕事だろ」
教室の入口から四条さんがこっちを睨みながら立っていた。彼女は少し誤解をしてるようなので僕が弁解する。
「あ、四条さん皆は部活があるから忙しくてできないんだって。私は部活ないし、今日の衣装が終わってから私だけで作業するから四条さんはやらなくても大丈夫だよ。」
「そうじゃないだろ…山本、お前はそれで良いのか?」
四条さんは僕が嫌々やっていると思っているようだ。確かに最初に頼まれた時はちょっと嫌だったけど、でもこうやってクラスの誰かから頼られることでクラスの一員になれたみたいで今は少し嬉しかった。前回は終わらせることができなくて皆を失望させてしまったけど、今回挽回できたらお母さんみたいに楽しい思い出作りができるんじゃないかと思っている。実際に四条さんと衣装を作るのはすごく楽しくて、だから四条さんの勘違いを正さなきゃ、そう思った。
「あっ、違うよ、嫌じゃなくて私が好きでやってることで…」
それを聞いた四条さんは驚いた顔をした後で、見たこともない形相で僕を睨む。怒られると思った僕は、いつもと同じように視線を下げる。誰かから怒られる時は怖くて目が合わせられない。本当は視線を合わせないといけないのにそれができない。怒鳴り声が来ると思って震えて待つ。
僕の肩に四条さんが手を乗せる、それだけで僕はビクッとしてしまう。
「学園祭の準備期間中は部活動休みだよな?どういうことだ?」
「えっ…」
思わず四条さんとお願いしてきた子の顔を見上げた。どういうこと?部活動は休み?
「大会が近くてさ、こっそりやってんのよ」
「あんたら全員で?部活もバラバラなのに?」
「何が言いたいの?」
「あんたら、あたしのダチに嘘ついて仕事押し付けてんじゃないかって言ってんだよ」
「ちっ、嫌われもの同士仲良くやってれば?もう良いよ。皆行こ」
皆はそう言って外に出ていった。
「何なんだあいつら…山本大丈夫か?」
「友達?」
「っ!そこは流せよっ!」
四条さんは真っ赤になって顔を反らす。友達、前世でも今世でも言われたことのない言葉だった。だから、噛み締めるように口の中で何度も呟いた。