外から小学生の楽しそうな声が聞こえる。この時間だから今ごろ下校時間なんだろう。部屋の中から外の様子をそっと伺う。外で小学生がランドセルを背負って走っている。楽しそうな様子をぼんやりと眺めていたが気持ちが悪くなってきた僕は布団に戻る。
風邪を引いてしまった僕は今、学校を休んでいる。学園祭の準備期間中なのに皆には迷惑をかけてばかりだ。元々この体は貧弱だからか風邪がなかなか治ってくれない。もう一週間は休んでいる。僕はクラスの皆と馴染めていないのでこの学園祭で役に立って友達を作りたかった。だから、かなり無理をして色々と引き受けたのが良くなかったのか数日準備に参加しただけで殆どの期間、準備に参加できなくなってしまった。
最初の頃よりは良くなってきたけれど、学校に行くのが怖い。準備も録にせずに学園祭に今さら参加しても、誰も歓迎してくれないだろう。学園祭はもう3日後まで迫っている。このまま風邪が治らなければ良いのに、そう思いながら僕は目を瞑った。
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「愛?今日は学園祭だけど、どうする?体調が悪いようならまた学校に連絡するよ?」
布団に横になっているとお母さんの心配そうな声が聞こえてきた。僕の熱はもう下がっている。でも、行きたくなかった。皆から責められるのが怖い。学園祭当日は僕の役割はないから本当に必要とされていないかもしれない。
「まだ体がしんどいかも…」
「そっか、学園祭参加できなくて残念だけどまだ来年があるからね!その時に目一杯楽しめば良いのよ」
「…うん」
仮病だ。お母さんはそのまま仕事に行って部屋には僕だけがいる。休みの日はいつも1人で本を読んだり、テレビを観たりして過ごしている。いつもはそういうことを楽しみにして過ごしていたけど、今はとてもそんな気分にはなれなかった。嘘をついて休んで布団の中で寝ている罪悪感で気分が沈んで、体調不良は嘘のつもりだったが本当にしんどくなってきた。こんなことなら休まなければ良かった。次の日はちゃんと出席しよう、そう思いながら眠りについた。
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学園祭が終わった後、僕はいつも通り学校に登校した。皆は思い思いに学園祭の楽しい思い出を語っている。どことなくクラスの皆が僕に冷たく、手伝いもしなかった僕にはクラスの中に居場所はなかった。
昼休みになるといつも僕に酷いことをするグループの子が僕を呼んでいた。
「山本さん、なにか言うことのないの?」
「えっと、なにかって?」
クラスの中で直接話すことが今までなかったのでビックリしている。昼休みにクラスに残っている皆も僕たちのことを見ている。緊張で喉がカラカラになってきた。
「普通は休んでたこと謝らない?皆で山本さんの仕事分担したんだよ。」
一緒の衣装係の子にはお礼と謝罪をして、気にするなと言ってくれたので僕はそれで終わりだと思っていた。後でお菓子でも渡さなきゃとお菓子のメニューを考えていて、手伝ってくれた子が他にもいるかもなんて微塵も考えていなかった。彼女から言われた言葉でクラスの皆に迷惑をかけていたことに気づいた僕は目の前が真っ暗になりそうだった。
「ご、ごめんなさい。全然知らなくて…」
「普通に考えたらそれぐらい思い付くでしょ。別に責めたいわけじゃないし、見返りがほしいわけでもないけど、皆が手伝ったてこと忘れないでね。はぁ、本当はこんなこと言いたくないんだけど…」
「ごめんなさい…」
午後の授業もずっとぐるぐるとさっき言われたことを考えていた。クラスの皆が僕に対して以前にも増して冷たかったのは今回ずっと休んだ上に感謝も謝罪もしなかったせいだ。本当に僕の自業自得で嫌になる。
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「山本さん、今暇?トランプしない?」
「え?」
沈んだ気持ちのまま鞄を持って家に帰ろうと扉に向かっていたところ声をかけられた。振り替えると昼休みに僕に話しかけてきた子が、楽しそうに声をかけてきていた。今までこういう遊びに誘われたことのない僕は困惑して声が上手く出せなかった。
「やるの?やらないの?」
「良いの?」
僕は意図が良く分からず震えながら聞いた。
「良い?あぁ、昼間のことは終わったことだし気にしなくて良いよ。ただ人数が足りなくてさ、やろうよ」
「うん!ありがとう、私もやりたい」
数合わせで誘われたみたいだが、迷惑をかけたことを許してくれたのかな?学校の放課後でこういうゲームをするというのは友達みたいな感じで嬉しかった僕は少し弾んだ声で答えた。
大富豪をやるようだが、トランプでババ抜きくらいしかやったことのない僕はルールを教えてもらいながら皆で遊ぶ。最初はいつも酷いことをしてくる皆が怖くて緊張していたが、だんだんと緊張も解れてきてゲームに夢中になっていった。
皆が僕に優しくしてくれるのが何でかは良く分からないけど、これからは酷いこともされないし学校も楽しくなるかもしれない。そんなことを僕はこの時考えていた。
「ねぇ、ただ遊ぶだけだとつまんないし罰ゲームもしようよ」
「罰ゲーム?」
「そ、1位の人はビリに命令できるってことで今からやろっか」
心臓からうるさいくらい音がする。罰ゲーム…いつもされていたことを思い出すとビリになるのが怖くてしょうがない。必死に考えてビリにならないようにする。もう楽しむ余裕なんて僕にはなかった。
「あー、ビリになっちゃった。」
僕が一位で言い出した子がびりになってしまった。負けないことに必死で勝ったときのことなんて考えていなかったが、何を命令すればいいか全く分からない。あまり無茶苦茶のことを言うと後が怖いので命令なんてしたくなかったが急かされたためとっさに言葉を出す。
「い、いぬの真似をしてください。」
「わん」
他の子達は吹き出して盛り上がっている。言わされた子も笑っていて、怒られるんじゃないかと思っていた僕は拍子抜けしてしまった。今回は本当に遊びで警戒なんてする必要もないのかもしれない。そう思った僕はそっと息を吐いて安堵していた。
「次は私が一位~」
今度は僕がビリで逆の立場になってしまった。彼女は唸りながら内容を考えているようで何を言われるのか少し不安になりながら僕は待つ。
「あ、好きな人に告白するで!」
僕の心臓が跳ね上がる。天音くんが好きなことは誰にも言っていない。確かに天音くんとは付き合いたいと思っているけどこんな形では嫌だ。それに、僕からの告白ではなく天音くんからの告白が良い。最近読んでいる恋愛小説ではいじめられている女の子が男の子に助けられて告白されている。そんなシチュエーションを読んでから僕もそんな告白をされることを妄想していた。
でもそれ以上に断られるのが怖い。だから、僕はいないと嘘を言って断ろうとした。
「山本さんて隣のクラスの鈴木くんが好きなんでしょ?」
「え?」
どこからその名前が出てきたのか分からず思わず聞き直してしまった。
「中学の時、一緒の委員会やってたでしょ?その時から怪しいと思ってたのよ」
「ち、違うよ。たまたま一緒だっただけで好きとかそういうのはなくて…」
他の子達は後ろの方であの学年一のきも男と…と笑っている。別に容姿は僕には分からないしどうでも良い。だけど僕が好きなのは天音くんで鈴木くんじゃない。確かに罰ゲームで告白は嫌だけど違う人に告白するくらいなら罰ゲームでも天音くんとがいい。
「何?嫌なの?私には命令したくせに自分の時だけ断るわけ?」
「で、でも…」
「それにそんなに嫌がるの鈴木がかわいそうだわ。人を見た目で判断して、そういうの差別って言うんじゃない?」
「見た目で判断してるんじゃなくて…」
「なら付き合えばいいじゃない。約束も守らない、見た目で差別する。すぐに嘘をつく。山本さんて本当に屑だよね。そもそも告白して鈴木くんにOKされると思ってるわけ?自意識過剰なんじゃない?」
「好きじゃないのに告白は鈴木くんに悪いよ…別のことなら何でもするから…別のを…」
「最初はそこまでじゃなくても、付き合ってるうちに好きになるって。ていうか、休んだときも謝らないし今回も自分だけ罰ゲームやらないし何なの?」
いつの間にか周囲を囲まれた僕は怖くて震えていた。今までされてきたことがフラッシュバックして吐きそうになる。
「私は鈴木くんが好きです…」
怖くてしょうがない僕はこれから最低なことをしようとしていた。
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「す、好きです!付き合ってください」
「え、え、え?」
僕は今校庭の隅で鈴木くんといる。教室からは昨日の大富豪のメンバーが見ている。鈴木くんは顔を真っ赤にして戸惑っている。そもそも、高校に入ってから殆ど話していないのに急に告白されてもOK何てするわけないし、不細工な僕に告白されても嬉しくもないだろう。申し訳なさで一杯だが、OKされることがないから大丈夫だろう。僕はそう考えていた。だから今回のことは忘れてほしい、そう伝えようとした矢先のことだった。
「う、うん。ぼ、僕も好きで、えっとずっと好きでした。お、お願いします。」
「え、私で良いの?」
「うん、憶えててくれたんだ。僕のことなんて興味ないと思ってたから嬉しくて」
鈴木くんは興奮しているのか少し話が噛み合わないが、付き合うことになってしまった。どうしよう、断られると思っていたからなにも考えていない。今からでも正直に言うべきなのだろうか?でも、鈴木くんがこんなに喜んでいるのにそんなことを言う勇気が僕にはなかった。
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今は鈴木くんの家にお邪魔している。ソファーに僕は腰を掛けてガチガチに緊張している。彼女になったという事実が信じられなくて未だに思考がふわふわしている。鈴木くんは部屋を片付けると言って10分くらい二階でバタバタしている。
20分経ったころ、部屋を下りてきて僕を誘ってくれた。今は二人でアニメを見ている。結構話題になっている作品らしく普段アニメを見ない僕は全然知らなかったが、気づいたら展開に夢中になっていた。
エンディングまで見たところで隣を見たら鈴木くんと目が合った。鈴木くんは慌てて前を向いて次の話に進める。また、見ていると主人公とヒロインがキスをする場面になった。なんとなく気まずいなと思っていると、僕の手を鈴木くんがそっと握ってきた。思わず鈴木くんを見ると潤んだ目で僕を見つめている。潤んでいる鈴木くんの目は綺麗で、僕は目が離せなかった。
鈴木くんはそっと目を瞑り僕に顔を近づける。僕は鈴木くんの彼女だ。思わず避けそうになった顔を僕も目を瞑り近づける。
唇が触れるだけのキスで一瞬で終わってしまった。
「は、初めてでえっとごめん、上手く出来なくて…」
「私も初めてだから…」
鈴木くんは顔を真っ赤にしてアニメを見るのを再開した。
初めては天音くんとするんだと思っていた。それが叶わなくなったことへの悲しみと、それ以上に騙していることへの罪悪感で僕はぐちゃぐちゃだった。