管理人さんの良いシゴト、亜人の人妻はお嫌いですか? 作:37級犬築士
次で最後、連れられた部屋の前で立ち止まる。扉の取っ手に触れようとした瞬間、見計らったかのように戸が開かれた。
「……」
しかし、開いた戸の先には誰もいない。誰もいないが
「……猫」
猫だ、種類は色々と、小奇麗で首輪もしているから飼い猫だろうが、しかし辺りを見渡せば何匹もぞろぞろ動き出して、こっちを見てはニャーニャーと騒がしい。なんとも、野良猫たちの集会にばったりと踏み入ったような心境だ。
何だお前はと、にゃーにゃー鳴いて寄ってくる。警戒してるくせに、もしかすると餌をくれる相手なのか、そんな考えをしていると推測する。うん、普通に可愛い
昔都心で通ってた猫カフェ、あの時のことを思い出す。人になれた猫がたくさんいて、というかここはまさしく
「あらら、千佐子さんたらお店の猫を連れて」
「お店の、千佐子さん?」
「そうよ、この部屋の持ち主。猫カフェを経営しててね、店に置いてる猫ちゃんを時々連れて来るのよね。まあ、不思議と皆いい子で悪さもしないから許してるの」
「……はぁ」
「ほら、おばさんにも構ってくださいな……ほぉ、よしよし……いい子ね」
説明も途中に、冴子さんは部屋に乗り出しそのまま猫たちと遊び始める。大きな体に飛び乗ったり、揺れる冴子さんのたわわに猫パンチをしたりと。うん、けしからん
「冴子さん、その千佐子さんって人は……というか飼い主いないのに部屋の中でこんな」
「いいのいいの、千佐子さんならいいよって言うはずよ」
「そうだヨ、サエコにはお世話なってるからネ。猫たちも喜んでるし……気にしないネ」
「……まあ、それなら……じゃあ、俺もせっかくだし」
手ごろな三毛猫を手招き。素直に近づきそのまま足に顔をこすりつける。喉をかいてやると気持ちのいい声を上げる。
「おぉ、お兄さんうまいネ。テクニシャンだネ」
「まあ、昔から動物には好かれやすくて、近所の野良猫で上手くなりまし……て」
……チリン
「ニャはは、それなら納得。この子たちも警戒しないし、お兄さんアタリだ、管理人さんが猫嫌いならどうしようかって、チサは心配だったんダ」
「……心配、はぁ」
「ん、なにか気になることでも?」
「……はい、それはもう」
気配はなかった。位置的にもおかしい、入り口からすぐ後ろとかなら気配を殺して外から忍んだと、そう推測できる。でも、この女性は
「ニャハハ~」
「……」
部屋の真ん中、ダブルベッドの上に座っているのだ。まるで、初めからそこにいたかのように
ダボっとしたシャツとハーフパンツの部屋着姿。露出は少ないがプロポーションは先の二人に劣らない、特にふくらみは
毛先から根元まで金と黒のグラデーションで、外国人が黒髪に染めているのか、それとも日本人が金髪に染めているのか、判断に迷いそうになる、が
頭、頭に付いた猫の耳、それでこの人が日本人か外国人のくくりに当てはまる者じゃないと察した。
後ろで揺れる尻尾から見ても、おそらく種族は獣人、それもポピュラーな猫人(ワーキャット)か
「……それ、ちょっと違うヨ」
「?」
「心を読んだって顔してるね。顔見ればそれぐらいわかる、チサは猫だけどワーキャットじゃないヨ」
「……ッ」
ゆらゆらと近づきながら、周りの猫たちと変わらない軽さと気ままさで千佐子さんは迫ってくる。また抱擁かと、身構えて警戒しながら冴子さんに助けを求め……だめだ、猫に夢中でこっちに気づいてない
「君、フミトくんだよね……タビト、君のおじさんからは聞いてるヨ」
「!」
また急に現れた。ほんの少し視線をどけただけで、気が付けばもうすぐそばにいる。この人は、人の意識の合間をすり抜けてくる。意識の外からその存在をぬっと現わして、そして
「……ッ」
……良い匂い、女の人の
「……君も、良い匂いだヨ」
「え、あっ」
「さっき、他の二人とも会ったネ。女の甘い匂い、それと」
……君のエッチな匂い、先走り漏れてるでしょ
「――――ッ」
「あたりだネ。わかるよ、デミは鼻が利くんだ。ま、困ったらいつでもおいデ。お姉さん、エッチなことは得意分野だかラ……にゃはは」
「……本気で、そんなの」
「じゃあ、今確かめる?」
「!……そ、そんなの」
指摘されて、色香に揺さぶられて、これでは屈してしまう。
「あ、あの……俺は管理人です。あいさつに来ただけで、その、からかうのは」
「……なら」
「!」
ぬるりと、また音もなく、重力を忘れたような動きで背後に回る。
肩に置いた手、体重をかけているようでまったく重みはない。良い匂いで、女性特有の高い体温が伝わってくる。
「……ッ」
「きみ、タビトの息子ダロ……匂い、わかるよ」
「!」
「驚くことかナ? でもさ、ここにいる娘は皆タビトさんのお世話になってるヨ……だから、君の知らないおじさんのこと、たくさん知っているかもネ」
「……おじさんの、あなた達が……てッ」
……くちゅ、ちゅぅ
「!」
「ニャハハ……隙あり」
指先が唇をなぞる。人を食ったような、まさに今味をかすめ取られたわけなのだが、なんとも妖艶に笑みを向けてくる。
「……ッ」
……いま、首の
「あ、千佐子ちゃんキスマーク付けたでしょ」
「うん、つけちゃったヨ……タビトのことを思いだしたらさ、ついネ」
「……えぇ、いや」
つい、そんな気軽さでこんなことが
……文化の違い、とかかな
初めて尽くし、女性に関する刺激を山ほど受けているからか、考えも落ち着きようがない。時間がたってようやく気付いたうなじ当たりの痛み、というか痒み。確かにそこにはあざの様な質感がある。
牙も当たったのか、血こそ出てないが、鈍く残る感覚が生々しい。
見る限り、千佐子さんは容姿端麗だ。そんな人に、こんな積極的なことをされて
痛みが、与えられて
「……ぁ、くッ」
「ん、あらあら」
恥ずかしい、そんな想いがいっぱいに胸に募る。
酒だって飲める年齢で、大学も卒業した自分が、こうも簡単に動揺して、戸惑って
「……文人くん」
「!」
気づけば、俺の視界は涙にぬれていた。
「あ、あの……これは、ちがうッ」
「ふふ、いいのよ……イジワルされたもの、あとで私が怒っておくから……泣き止んでね、よしよし」
「……ッ」
涙にぬれた視界、それが一気に暗闇に消えた。
包まれる感触、後頭部を撫でる手の平、今自分がどうなっていて、誰に何をされているか、ありありと想像で可視化されていく。
「オー、さすが八尺様……おっぱいだけは叶わないネ」
「そう? 皆十分大きいじゃない」
「サエコさん以外は皆普通おっぱいだよ」
「もう、その分他も大きいから大変なのよ……色々とね」
「――――ッ」
自分を置いて、二人はのほほんと会話を続ける。
片やこっちは、溺れるほどの爆乳に顔を飲み込まれて、汗やなんやらの匂いも混じって、もう
「あ、それよりも……いきなりあんなことしちゃ、文人君はまだ若い子よ。旅人さんとは違うのよ
「ニャハ、ハ……ま、そうだネ。フミト、ごめんヨ……ちょっとからかい過ぎたネ」
「ほんとうよ、まったく……あら」
「…………」
その後、俺は別室で目を覚ました。
擬音にすればバタンキューという、古めかしいオノマトペだろうか。酸欠か熱中症か、とにかく俺は倒れてしまった。
管理人初日、住人紹介はこれにて全員。後が悔やまれる、我ながらそう思ってしまう初日であった。
今回はここまで、住人紹介は以上です。