※この作品はR-18です。

乙女ゲームのR-18ルートに突入してしまった… 《もしかしたら あったかもしれない『はめふら』R-18ルート》   作:帆速やこぬ

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extra story 魔性の幼馴染みと星を見に来たら雨に降られてしまった… 《ニコル編》

「……もうすぐ着くよ、カタリナ」

馬車に揺られてなだらかな丘陵を抜け、森に差し掛かるとニコルが囁いた。

 

今夜は100年に一度と言われるたくさんの流れ星――流星雨が見られるという事で、ニコルに誘われアスカルト家の別荘に向かっているところだ。

「ん………」

朝が早かったせいかウトウトしていた私は眠い目を擦ろうとして、ニコルと絡めた指に気付く。

「あ……すみません、ニコル様。肩まで借りてしまって……」

「いや、愛しい人の寝息を聞きながら温もりを感じていられて、こんなに馬車での移動が幸せだと思った事はないよ」

そう言ってニコルは繋いだ手を持ち上げ、指にキスした。

どんな気障なセリフや仕草もニコルにかかれば優雅で麗しく、クラクラしてしまう。

夏の初め、馬車の中は開けた窓から風が通るといってもかなり蒸す。

長い時間くっついていたのだからさぞ暑かっただろうと思うが、そんな素振りはおくびにも見せないニコルは、無表情だけど本当に優しい。

それに最近は少し、表情が豊かになってきた気がする。

 

森に入ると、急に空気が変わった。

「ふぁー涼しい~」

「うん、この辺りは夜には結構涼しくなるよ。もう少し行くと、別荘に着くから」

ガタゴトと車輪を鳴らしながら木々の間を進むと、急に開けた場所に出た。

「わあ……」

 

行きついた先は広場になっていて、端に大きな樹がそびえている。

その大樹の傍に、森を背に立派なログハウスが3棟建てられていた。

「家族用と、使用人用、それに客人を大勢招いた時のゲスト用だ。今日招いているのはカタリナひとりだから家族用のハウスを使ってほしい」

長期の休暇に別荘として使用するという森へ招かれたのだが、当初はソフィアも一緒の予定だったのに、どうしても外せない大切な用事ができてしまったとかで、急に一緒に来る事ができなくなってしまった。

残念そうというよりも、むしろ期待するようなキラキラした瞳でソフィアに両手を握り締められ、告げられたのがつい昨日の事。

「明後日の午後にはお父様とお母様とそちらに向かいますので、それまではどうか――いえ! それまでと言わずこの先もずっと――お兄様の事をよろしくお願いいたしますわ!」

 

出掛ける際、いやにニコニコと嬉しそうなアスカルト伯爵夫妻とソフィアに見送られて朝早くに出発し、予定では午前中に到着するはずだった。窓から見上げるとすでに太陽は一番高くなる一歩手前という感じで、道中にニコルの用意してくれた果実の砂糖漬けをつまんだものの、確実に腹時計は正午を指している。

 

馬車から降りると、青空を振り仰ぐように身体を伸ばす。

「んんん~~~」

「疲れた? 少し遠かったか」

「いえいえ、大丈夫です! 空気が美味しいですねー」

心配そうにしているニコルに深呼吸して見せると、ホッとしたように微笑んだ。

「近くに川が流れているから水遊びも楽しめるし、森の中を散歩するのも涼しくて気持ちがいいよ。でもまずは――」

一足先に到着し出迎えてくれたアスカルト家の使用人たちが、大樹の木陰に丸太を組んで作られたテーブルへ美味しそうな昼食を並べている。

目にした途端にお腹の虫が大きな声で鳴き、ニコルがくすりと笑って手を取った。

「――昼食にしようか」

 

 

「とっても美味しいです、ニコル様!」

焼きたてのもちもちパンに胡椒を利かせたステーキとピクルスを挟んだ食べ応えのあるサンドイッチと、夏野菜とハムと炙ってとろけたチーズのサンドイッチ、マスタードをたっぷり塗ったパンでふんわりと焼いた甘い卵焼きを挟んだ卵サンド。澄んだ金色の野菜スープはあっさりした優しい味わいで、じんわりと胃の腑を満たしてくれる。

どれひとつとっても最高の美味しさなのに、交互に食べればもう止められない。

ぱくぱくと口に運んでテーブルの皿が空っぽになっていく様子を、料理人が満面の笑みで見守っている。

涼しい木陰で、緑の濃く薫る風を感じながら食べる食事は格別だった。

「外で食べるとどうしてこんなに美味しいんでしょうね? ニコル様」

「そうだね」

ニコルは微笑み、パンからはみ出したソースのついていた私の指を取る。

「美味しそうに食べる君と一緒だと、心まで満たされるよ」

そう言って指先のソースをぺろりと舐めた。

「~~~!?」

柔らかい唇と舌の感触に思わず赤面してしまい、焦ってキョロキョロと辺りを見回す。

使用人たちは礼儀正しく目を伏せて見ないふりをしていたが、どこか空気はほんわりとしていた。

 

デザートに果物がたっぷり入ったゼリーをお腹に収め、ようやく人心地が付く。

「満足してもらえた? カタリナ」

「はい! とっても!!」

力を込めて返事をすると、安心した表情で使用人に合図をした。

「用意した部屋に案内させよう。カタリナは午後からはどうしたい? 少し部屋で休む?」

「いえ、馬車でたくさん眠ったので、大丈夫です!」

「なら半刻ほどしたらロビーに降りてきて。川添いを一緒に散歩しよう」

「わあ、楽しみですわ」

「では、また後で」

 

 

「――ちょっと食べ過ぎだったかな?」

少し反省していると、アンは私のドレスのウエストを緩めながら溜め息を吐いた。

「お嬢様が食べ過ぎてしまうのはいつもの事では?」

アンは辛辣なセリフを吐きつつも、てきぱきと身支度を整えていく。

少し長く馬車で移動になる予定だったのと夏の避暑という事で、今日の装いは薄い生地でできた淡いブルーのドレスだ。スカートの丈も普段より少し短めで動きやすい。

これから森を歩くので、靴はヒールが低く底が柔らかいものに変え、散策の邪魔にならないように髪は編み込んだ。

「少し目を閉じてください、お嬢様」

日焼け止めに軽く粉をはたき、唇にごく薄く紅を差す。

「お化粧なんてまだいいのに……」

「お嬢様は普段構われない分、こういう時こそギャップを見せるべきです」

姿見の前に立たされると、鏡の中には立派な貴族令嬢が出来上がっていた。

――ん~~…私が綺麗に飾ったところで、ニコルが喜ぶかなあ……

心の内が顔に出ていたのか、アンが鏡越しに微笑んだ。

「お嬢様はご自分の事をよく“悪役顔”なんて仰いますが、切れ長な目も、細い顎や頬の輪郭も、とても綺麗で魅力的なのですよ。ですから、自信を持ってください」

「……ありがとう、アン。私、頑張るね」

何を頑張るのかよく分からないが、とりあえず元気づけてくれたアンに笑い返す。

「ん?」

――あれ? “頑張る”って単語、つい最近聞いたな?

「そういえば朝出発する時に、ニコル様が目を輝かせたご両親とソフィアに“頑張って”って言われて赤くなっていたけれど、あれってなんだったんだろう?」

「お嬢様……そこは見なかった事にしましょう」

 

 

ロビーに下りていくと、ソファで待っていたニコルが読みかけの本を置いて立ち上がった。

手を取り、甲にキスをしてから微笑む。

「とても綺麗だ、カタリナ。その髪型とてもよく似合っている」

「あ、ありがとうございます」

なぜか、私よりもアンの方が満足そうに頷いている。

「では、行こうか」

 

 

森に足を一歩踏み入れた途端、スウッと外界から切り離されたような静けさに包まれる。

木々のざわめきや鳥のさえずりに身を委ね、キラキラと落ちる木漏れ日を浴びながらニコルと並んで森の中をそぞろ歩くと、世界にはもう二人しかいないような錯覚に陥りそうになる。

「カタリナ。足元、気を付けて」

時折、大きく隆起した木の根をニコルに差し出された手に掴まって乗り越えたりしながら15分ほど森を歩くと、流れる水の音が聞こえてきた。

樹が途切れて、砂利の広がる川べりに出る。

川の水は結構勢いがあり泳ぐのは難しそうだけれど、足を浸けるだけなら冷たくて気持ちよさそうだ。

――川幅も深さも意外とありそうだから釣りもできそう!

「ここでバーベキューをするのもいいですね! 川で釣った魚とか、森で採れたきのこを焼いたり!」

「それは楽しそうだ。明日両親とソフィアが来たら、夕食はそうしよう」

「川に足を浸けてもいいですか?」

「ああ、もちろん。割と流れが速いから、足を取られないよう気を付――」

早速足を踏み出しかけ、ハッと何かに気付いたニコルに手を取られてたたらを踏む。

「待って、カタリナ」

川を見るニコルの緊張した面持ちにただならぬものを感じて、辺りを見回す。

――熊とか、何か動物でもいたのかな?

何もいないように見えるけれど、慣れている人の目には違うものが映るのかもしれない。

「川が濁っている……それにいつもより水量が多くて流れも速い――…」

ニコルが呟き、振り返った。

「カタリナ、ここから動かないで。絶対に近づいてはいけないよ」

ニコルは砂利に下りると、流れに近づいて様子を確認し、上流を見上げた。

眉をひそめて探るように空を眺めてから、足早にこちらに戻ってくる。

「ニコル様?」

なんだか表情が暗い。

「すまない、カタリナ――今夜の流れ星、見られないかもしれない」

 

 

 

かまどから出したばかりでジュウジュウパチパチと脂のはぜる、焼けたお肉のいい匂い。

しっかり塩とハーブが摺り込まれたローストビーフを料理人が目の前で削ぎ切り、肉汁と香味野菜を煮詰めた濃厚なソースをかけてくれる。口の中でほどけるような柔らかさと凝縮された旨味に、食べれば食べるほど食欲が増してくる。

――最高~~~

「美味しいですね、ニコル様!」

「うん……」

少し早めの夕食を口に運びながら、気落ちしている様子のニコルに努めて明るく声を掛ける。

「もうお気になさらないでください。天気が崩れてしまったのは、別にニコル様のせいではないのですから」

午後の散歩でニコルが気付いたのは、上流で雨が降り、その雨雲がこちらに迫っているという事だった。

「ちょうど上流側の天気がこの辺りに来るんだ。だからあちらの方角の空を見ると、これからの天気が分かる」

“流星雨を一緒に”と遠出に誘った手前、その目的が果たせないのがガッカリなのは分かるけれど。

 

「ニコル様、以前ソフィアにも話した事があるのですけど、私、雨って結構好きですよ。“恵みの雨”っていうくらい植物も動物も潤わせてくれる大切なものですし、雨音とか雨だれのリズミカルな音とか、雑音が消えて余計な物音がしなくなるところとか、雨の日だけの楽しみがあると思うんです。だからニコル様、星が降らないなら、雨を楽しみましょ?」

 

驚いたような顔をしていたニコルがふわりと微笑んだ。

「……そうだな。本当に、その通りだ。励ましてくれてありがとう」

「いえいえ。そしてとにかく今は、この絶品のローストビーフを楽しむべきです! 最高です! 何枚でもイケちゃいます! それと、私におかわりください!!」

 

 

 

夕食後に移動した居間の窓から外を眺めたニコルが、予想通り降り出した雨を見て溜め息を吐いた。

――んん~…やっぱりまだ、気にしてる?

それも仕方がないか。100年に一度の流星雨って言われていたものね。もしかしたらニコル、本当に凄く凄く楽しみにしていたのかもしれない。

そう考えると、さっきのセリフは失礼だったかなと心配になってくる。

星が見たかった人に雨もいいなんて、相手の悲しい気持ちに寄り添わない、一方的なものの見方の押しつけだ。

「ニコル様……先程は生意気な事を言って、すみませんでした。せっかく連れてきていただいたのに無神経でした」

「え? あ、いや、むしろ俺の方こそ、こんなところまで連れ出しておいて肝心の星が見せられず、挙句に気まで遣わせてしまって申し訳ないと反省している」

「そんな! 馬車でいただいた砂糖漬けも、昼食も夕食も、とっても美味しかったですわ!」

力強く言った後、壁際に控えたアンが頭痛を覚えたように額を押さえた。

――あれ? 今、私、食べ物の事しか言ってなかった?

「も、もちろんニコル様と二人で揺られた馬車の旅も、森を散歩したのも楽しかったです」

「ありがとう」

浮かべた微笑みに、少し影が差す。

「君に喜んでもらいたかったんだが……」

「楽しいですよ? それにニコル様に誘っていただいた事自体がとても嬉しいです」

ソファから立ち上がってニコルと並んで立つと、窓に映った自分の影から雨の具合に目を凝らす。

「まだ小雨ですね」

「だがおそらくこれから強く―――え、カタリナ!?」

居間からテラスへ出られる扉を開け、そのまま外へ出る。

雨はシャワーのように優しく降り注いであっという間に全身を濡らし、夏の火照った肌を鎮めてくれた。

「雨、気持ちいいですよ、ニコル様」

くるりと回って両手を広げて見せると、戸惑い顔だったニコルが軽く息を吐いて微笑んだ。

「……まったく――敵わないな、カタリナには」

テラスに出てきたニコルは、私を抱き締めた。

夕闇の中、窓から漏れる明かりに反射した黒曜石のような黒い瞳の輝きに、魅入られたように目が離せない。

ニコルは不意に、お辞儀をして手を差し出した。

「――踊っていただけますか、愛しい人?」

「もちろん」

手を取り、ずぶ濡れのまま踊り出す。

「今夜は独り占めだな」

銀色の雨がキラキラとニコルを縁取り、前髪から雫が落ちる。

――うわぁ……めっちゃかっこいい!

水も滴る色気増し増しのニコルと一曲分くらい踊ったところで急に雨脚が強まり、さすがに二人で顔を見合わせて苦笑し、居間に戻る。部屋ではアンとアスカルト家の使用人がタオルを持って待っていた。

甲斐甲斐しく身体を拭かれていると、使用人が平身低頭する。

「申し訳ございません、ニコル様、クラエス様。実は給湯器が故障し、お風呂のご用意がニコル様のお部屋にしかできませんでした」

「では、カタリナ、先に入ってくれ。身体が冷えて体調を崩したりしてはいけない」

「いいえ、私は後で大丈夫です。ニコル様こそ、私の我儘に付き合ったせいで体調を崩されたりしたら合わせる顔がありません。どうかニコル様がお先に」

互いに譲り合っているうちにだんだん身体が冷えてきてしまい、くしゃみが出てしまう。

ニコルは少しの間考え込んだ。

「……このままでは、二人とも風邪を引いてしまう。だからその――二人で入るのはどうだろう」

「ええ!? ――えっと……」

使用人は激しく頷き、固まっていたアンは仕方がないとでもいうようにしぶしぶ頷いた。

「……はい」

 

 

 

――なんだ、この状況…!?

湯船に張られたお湯は熱めで、冷えた身体はすぐに温まった。

だけどそれ以上に、背中合わせに一緒に入るニコルの存在が身体を火照らせる。

まさかこんな風に一緒にお風呂に入る事になるなんて、思いもしなかった。

――いや、恋人なのだから、このくらい当然なのかな!?

何がなんだか分からないままアンに手早く服を脱がされ、一応身体にタオルを巻かれて湯船に放り込まれてから、お互いなんて言ったらいいのか分からずに柔らかな水音だけが響く。

決して小さな湯船ではないのに、身動きするのにも緊張してぎこちなくなってしまう。

窓の外では雨と風が強まり、時折パラパラとガラスに当たって音を立てていた。

「……俺が一緒ではゆっくりできないだろう。俺はもう温まったから、カタリナはゆっくり浸かっていくといい」

遠慮して上がろうとするニコルの手を、咄嗟に掴む。

「カタリナ?」

「あ……」

なんで引き止めてしまったのか自分でも分からないけれど、このシチュエーションはもっと恋人らしくなるチャンスのような気がする。

「えーと……洗いっこ! 洗いっこしましょう、ニコル様! ソフィアと一緒にお風呂に入った時も、必ずやるんですよ」

「いや、でも……」

「まずはニコル様の背中を洗いますね」

少し強引に湯船に沈んでもらい、背中を優しく海綿で擦る。

一見華奢なニコルの背中は、適度に引き締まっていて肌もすべすべだ。

と、ニコルが少し震えた。

「あ、寒いですか?」

「ちょっとその……くすぐったくて」

恥ずかしそうに言うニコルが可愛くて、少し悪戯したくなってしまう。

――タオル越しだし、恥ずかしくない、恥ずかしくない!

自分に言い聞かせながら、ニコルの背中に抱きついて身体をくっつける。

「!?」

息を飲んだニコルの上半身に両手を回し、首筋から胸を洗う。

「――気持ちいいですか、ニコル様?」

「カ、カタリナっ、胸が当たって――」

「気持ちよくないですか?」

「気持ちいい、けれど、その……」

ニコルが少し前屈みになりながら、なんだか必死に身体を離そうとしている。

「カタリナ――本当に、これ以上は―――」

湯船から上がろうとするニコルともみ合ううちに、腰に巻いていたニコルのタオルが外れ、はらりと落ちそうになる。

「ッ!」

ニコルの視線につられて反射的に視線を落としかけると、バッと片手で目を隠され、もう片方の手で少し乱暴に海綿を取り上げられてしまった。

「――交代だ」

短い言い方に、怒らせてしまったのだと悟る。

「あ、あの……ニコル様――」

「このままでは洗えないな。タオル、取るよ」

「え!?」

有無を言わさずタオルを外され、肌を露わにされる。

ニコルは私を背中から抱きすくめると、海綿で首筋を優しく撫で、その手をゆっくりと下ろしていった。

「んっ……」

乳房を撫でられ、海綿越しなのにキュウッと乳首が硬くなってしまう。

「……身体を洗っているだけなのに、ここ、どうしてこんなに硬く尖らせているの?」

首筋にかかるニコルの息が熱い。

「教えて、カタリナ」

「ニ、ニコル様に触れてもらえて、嬉しくて――気持ちよくて――…」

「なら、俺がどうしてこうなっているのかも、分かるね?」

「――!!」

お尻に押し付けられた硬い感触が、ドク、ドク、と脈打っていた。

「必死に我慢していたのに――こんなに煽るなんて本当にいけない娘だ。これはお仕置きが必要だな」

「あ………」

“お仕置き”という言葉に、まるで期待してしまっているかのように下半身にきゅんと痛みが走る。

ニコルは後ろから両手で乳房を愛撫し始めた。

「っ――んっ♡ ……ん………♡」

優しく手の平で持ち上げたり、指先を滑らせるように這わせたり、時折キュウっと絞るようにしたり、お仕置きというには優し過ぎる愛撫に簡単に身体は甘くとろける。

だけどしばらくして、それが本当にお仕置きなのだと気付いた。

ニコルの指は一番敏感な部分を避け、絶対に触れようとしない。

――触って……ほしい、のに――…

一番触れてほしい部分に触れてもらえないもどかしさで、気が変になってしまいそうだ。

――あ、また……

ようやく触れてもらえそうなところにきた指が、スルリと避ける。

――触れてほしい、触れてほしい、触れてほしい…!

「もう、や……もうやぁ、ニコル様っ………」

「カタリナ? どうかした?」

「悪戯してごめんなさい……お願いですから、これ以上焦らさないで!」

「もう降参?」

少しからかうようにニコルが低く囁いて耳を噛み、その囁きだけで腰が砕けそうになる。

「だって……」

「ん?」

焦らされ昂った身体が心を支配して、ずっと考えないようにしてきた事が口から溢れ、止められなかった。

「だって、ニコル様もひどいです! 恋人になってから結構経つのに、まだ一度しか愛してくださらないではないですか。本当はもっともっと触れてほしくて、会う度、期待して――ニコル様が望んでくれるなら、どんな事だってするのに!」

「!」

「いつも優しくて、気遣ってくれて、少し外見や持ち物を変えただけでもちゃんと気付いて褒めてくれて――愛されているのは分かるんです。でもあれ以来こんなに長い事キスすらしてくださらないのは、もう私の事が好きではなくなってしまったのではないかと不安になって――」

「そんな!」

「愛しているって言ってくれたのも、本当は家の為だったのではないか、ソフィアの為だったのではないかなんて考えてしまって――」

「ま、待て、カタリナ! そんな事は決して――」

「愛しているという言葉自体、嘘だったんじゃないかって――」

「カタリナ!!」

強い調子で名前を呼ばれ、ハッと我に返る。

「そんな訳ない――そんな訳ないじゃないか! 子供の頃からずっと大切に想ってきた。何度も諦めようとしたけれどどうしても諦められなかった。会えば会うほど惹かれて愛おしさは増して――愛していると伝えるのにどれだけの勇気が必要だったか、想いを受け入れてもらえてどんなに嬉しかったか――…」

ニコルは向き合うと、私を強く抱き締めた。

「すまない、カタリナ、不安にさせてしまって……そんな風に思っていたなんて知らなかった――」

しばらくそのままお互いの温もりと息遣いを感じて抱き合っていると、ニコルが囁いた。

「落ち着いた?」

「……はい……すみません、私……ニコル様を疑うようなひどい事を――…」

「いや、いいんだ。そう思われても仕方がないような振る舞いをしてきた、俺が悪かったのだから」

ニコルは軽く息を吐いた。

「……ねえ、カタリナ。今日雨になりそうだと分かった時、俺は凄く気落ちしていただろ?」

「はい……」

「あれはね、二人で流星雨を見て、いい雰囲気になったところで君を――その……抱きたいって思っていたからなんだ」

「!」

驚いて思わず顔を上げると、自嘲気味にニコルは笑った。

「わざわざそこまで準備しないと手も出せないなんて、我ながら意気地がないよな」

――だから、あんなにがっかりして――…

「本当にすまな――」

最後まで言わせず、ニコルの唇を塞ぐ。

初めは戸惑っていたニコルも、すぐに応えて唇を合わせ、舌を絡め始めた。

「ん……………」

――ああ、そうか……待っていないで私から、すればよかったんだ――…

ニコルががっつくタイプではない事は分かっていたのだし、私から誘えばこうしてちゃんと、受け止めてくれるのだから。

「っん――♡ ………んぅ……っ♡」

たっぷりと舌を絡め合ってから軽く息を乱したまま唇を離すと、舌先に糸を引いた。

熱っぽい瞳で、ニコルが囁く。

「……ベッドに、行こうか」

 

 

身体を拭うのももどかしく、ベッドにもつれ込む。

「愛しているよ、カタリナ……本当は、一晩中愛したって足りそうにない……」

寝室の明かりは適度に落とされていて、ニコルの美貌を更に怪しく際立たせる。

ニコルの手が、優しく頬を撫でた。

「いつの間にこんなに――」

「ニコル様?」

「綺麗に――本当に綺麗になったね、カタリナ……毎日愛しくて、同時にいつだって心配なんだよ……誰にも触れさせないよう、この腕の中に閉じ込めておけたらいいのに……」

まぶたにそっとキスをして、ニコルは囁いた。

「その代わりに、君自身も知らないほど奥へ、俺を刻み付けよう――」

ニコルが乳房を愛撫しながら乳首を舐め回す。

「あんっ♡ ……あぁ♡ ………気持ちいいっ……気持ちいいです、ニコル様ぁっ」

期待で敏感になり過ぎた乳首をぬるぬるとした舌が這い、優しく吸われると、つられるように下半身も疼いてきてしまう。

つと、ニコルの指が脚の間に滑り込んだ。

「っ――!」

身体中で一番柔らかく敏感な部分に触れられ、反射的にビクンと反応する。

「力、抜いて……」

ぷちゅ、くちゅ、と部屋に響くいやらしい音とニコルの指の滑らかな動きで、自分がどんなに感じてしまっているかが分かる。

「見て、もうこんなに溢れているよ」

ニコルは指に滴るほど絡まる愛液を、目の前で舐め取ってみせた。

「あ………♡」

自分の愛液を美貌の恋人が美味しそうに舐める様子に、ゾクゾクとしてしまう。

ニコルが身体をずらした。

「カタリナ……脚、広げて。一滴残らず舐め取らせてほしい」

自分の秘部を広げて見せるなんて恥ずかしくて絶対にできるはずがないのに、ニコルに見つめられてねだられてしまうとイヤだなんて言えない。

――ううん、むしろ、してほしい……

さっき自分でも言ったではないか。“ニコルが望むのならなんだってする”って。

「ニ、ニコル様に……舐めて、ほしいです……♡」

おずおずと脚を広げて、太ももを自分で押さえる。

はしたないと分かっているのに、恥ずかしいのに、止められない。

ニコルが見た事のない笑みを浮かべ、その微笑みを目にした瞬間、再びゾクゾクと背筋が震える。魔性の笑みとしか形容しようのない、艶然たる微笑み。

「可愛いよ、カタリナ――君を悦ばせる為なら本当に、俺はどんな事だってできるよ……」

ニコルは脚の間に顔をうずめると、愛おしそうに舐め回し始めた。

「っ――っ! ……ふっ…んうっ!」

――舌、が――ニコルの舌が、私のあそこを舐めて――…

まだそれほど遅い時間ではないので、部屋の外ではまだ使用人たちが忙しく働いているかもしれない。

必死に声を我慢し、その抑制がかえって身体を昂らせた。

「カタリナ、こうしてここ――指で押さえていて」

ニコルに手を取られ、秘部の割れ目部分を持ち上げるように押さえさせられる。

剥き出しにされた陰核は期待で真っ赤に充血して勃起し、触れられるのを待っていた。

「ああ、とても……美味しそうだ」

普段の穏やかなニコルからは想像もできないほどいやらしい舌遣いで舐め回され、チュッチュッと敏感な突起を吸われると、もう声が抑えられなかった。

「あぁっあっ……そこ――いいっ――気持ちいいのっ♡ニコル様ぁ! もっと! もっとぉ♡」

「うん、もっともっと、狂わせてあげるよ。カタリナ」

ニコルは陰核を責めながら、膣に指を滑り込ませた。

「んあぁっ♡」

ゆっくりと指を動かすと、ニコルがふふ、と笑う。

「――凄いよ、カタリナ……溢れてくる愛液が真っ白だ」

恥ずかしい、と思う余裕もなく、ただ感じるままを口にする。

「ニコル様に愛されているのだと思うだけで、まるで甘い毒を飲んでしまったみたいに身体の芯が痺れて、気持ちいいのが止まらないの!」

欲望が――お腹の奥の疼きが止まらない。身体の昂りのままに、私ははしたなくねだった。

「お願い、来て、ニコル様! もう我慢できない――ニコル様が欲しくて、たまらないの♡」

ニコルがフッと笑った。

「そんなに――俺が欲しい?」

瞳の奥に激しい欲望の炎が燃え上がるような微笑みを浮かべるニコルを見た瞬間、最後の理性が飛んだ。

――こんな表情……私しか知らないんだ――…

「欲しい! ニコル様と繋がりたいの! 奥まで――一番奥まで滅茶苦茶にして!」

「ああ、奥の奥まで、注いで満たすよ――」

 

 

溢れても溢れても注がれる精液。

絶頂しても絶頂しても休むことなく続く抽送。

自分で触れる事のできない奥まで貫かれ、突かれ、擦られ、えぐられ、満たされて、求められる事がただ嬉しくて、快楽を貪る。

部屋には荒い息遣いと、愛液と精液を含んで打ち付けられる肌の音、そして互いに愛していると囁き合い、名を呼び合う声と喘ぎだけが響いていた。

 

「カタリナの中――熱くて、ぎゅっと包み込んで――奥へと飲み込むみたいに導いて――まるで“もっと奥まで愛して”って言っているみたいで、本当に可愛いよ――」

「嬉しいです! もっともっと、ニコル様が満足するまでいっぱい、して…!」

「あ……ここ――好きだね? ふふ……吸い付いて絡みついてくる」

「そこ、好き! ニコル様にされるの、全部好き!」

「こら、そんなに締め付けたら――すぐに出てしまうよ――」

「あぁっおかしくなるっ♡――もう、おかしくなっちゃうぅ!」

「中、凄いね……こんなにうねって――もうイキそう?」

「イっちゃう♡ ニコル様に見つめられてイッちゃうの♡ キスして、ニコル様! 舌を絡ませながら一緒にイキたい!」

「可愛いよ、カタリナ――そのとろけきった表情も、淫らにねだる姿も、何もかもが全部可愛くて、狂おしいくらい愛しいよ――…」

「嬉しい♡ ニコル様のっ、全部注いで! 奥から満たして! ニコル様だけのものにして!!」

「君は俺だけのものだ――その瞳に映すのも、その耳に愛を囁くのも、その唇を塞ぐのも、こうして乱れ狂わせるのも、俺以外はもう絶対に許さない――」

 

 

いつもは見せない独占欲と執着心と性欲を剥き出しにして求めてくるニコルに、愛されている事を実感して悦びが全身を満たす。

自分以外誰も聞いた事がない喘ぎ声や絶頂する時の声と息遣いが、まるで媚薬のように頭と身体の芯に染み込んでいく。

 

「愛しているよ、カタリナ――…」

「私も―――私も愛しています、ニコル様……」

 

 

 

「………ん……ニコル、様?」

頬に触れる優しい感触に目を開くと、ニコルが微笑んだ。

「すまない、起こしてしまったか」

「私……寝ちゃってました?」

「ほんの30分くらいかな。無理もない。あんなに激しく――」

言いかけて、ニコルが顔を赤らめる。その様子についつられて、自分の頬にも血が上るのを感じた。

――そうだった……さっきまで信じられないくらいエッチな事をしちゃってたんだった!

急に恥ずかしくなって、うつむいてしまう。

「あ、えっと……今、何時くらいでしょうね?」

ぎこちなく言って、時計を探して部屋を見回す。

「真夜中を少し回ったくらいかな――湯船にお湯を張り直してきたから、身体を流してくるといい」

「え? 給湯器が故障したって……」

「お湯ならちゃんと出たよ。俺と君との関係を深める為の嘘だったのだろう――おそらくソフィアの指示だな」

「ええ!?」

ソフィア!? 嘘でしょ!?

「明日来たら、たっぷり説教を――」

ふと言葉を切ると、ニコルが微かに笑った。

「――いや、礼を言わないとかな」

照れくさそうな、それでいて二人の関係が確実に一歩進んだという確信を得た笑顔。

「そう……ですね」

お互いあれだけ本音をぶつけ、愛を囁き合い、乱れた姿を見せ合ったのだ。

もう恥ずかしがる必要はないのかも。

それなら。

「ね、ニコル様……お風呂、一緒に入りませんか?」

「そう――だね、それもいいか」

 

 

ニコルに背中から抱き締められるように湯船に浸かり、だけどさっき一緒に入った時みたいな緊張感はない。

――これがかの有名な“賢者タイム”ってやつなのかな?

今回は落ち着いて、お湯とニコルに身を委ねていられる。

「……お湯、ぬるめですね。ニコル様はこのくらいがお好みなんですか?」

「眠る前だからこの方がいいかと思ったんだが――熱い方がよかった?」

「いえ、あの……少しずつでもニコル様の好みを覚えていきたいなと思って……」

ニコルがドキリとしたように身じろぎし、「そうだな……」と呟いた。

「……愛しい人と一緒に入るのなら、ゆっくりと浸かれるぬるめの湯がいい――」

「そうなんですね」

「――という事を、俺も今、初めて知ったところだ」

「! ……!?」

――ニコルが冗談を!?

驚いて振り返ると、ニコルが少し照れながらもからかうような優しい表情で見返した。

「……………ぷ」

二人で吹き出し、クスクスと笑い合う。

子供の頃から、穏やかにひたむきに見守ってくれていたニコルだけれど、こんな風に笑い合うのは初めてなのだと今更に気付く。

万人を魅了する魔性の笑み。黒髪に黒い瞳を持つミステリアスな魅力。

ずっと一緒にいる私ですら、倒れるまでではないにしろ見つめられると未だにクラクラしてしまっていた。

だけどその瞳の中で恥ずかしいほど乱れ、自分をさらけ出した今、もうそんな事にはならないという確信がある。それはお互い心に一歩深く踏み込み、繋がる事ができた実感。

「……ニコル様」

「ん?」

「私、今日――ここへ来られてよかったです」

ほんの少し身体を後ろに反らせ、ニコルの首筋に顔を擦り付けるようにする。

ニコルはその言葉に応えるように、優しく抱き締める腕に少しだけ力を込めた。

「俺もだ」

軽くキスを交わしてから、ニコルは湯船の傍に用意されていた水差しに手を伸ばす。

「飲む?」

「ありがとうございます。いただきます」

手渡されたグラスの水をくっと飲み干すと、ニコルは同じグラスにもう一度水を注いだ。

「――ねえ、カタリナ。俺にも飲ませてくれる?」

「え? あ、はい……」

グラスをニコルの口元に近づけると、手で押し戻される。

「そうじゃないよ」

そう言ってニコルは私の口元を指さした。

「頂戴?」

「え……」

――く、口移しでって事…!?

魔性というより子供みたいに期待する目で見つめるニコルにイヤとは言えず、グラスから一口、水を口に含む。

――なんか……キスより恥ずかしいかも………

そう思いながらも軽く口を開いて待つニコルにゆっくり屈んで唇をつけ、少しずつ唇を開いて水を流し込んだ。

ニコルはコクンと飲み下すと、ぺろりと唇を舐めて微笑む。

「ん、美味しいね。ありがとう」

恥ずかしいけれど、ニコルが私に我儘を言ってくれた嬉しさの方が大きい。

後ろから抱き締めていたニコルが立ち上がった。

「上がりますか?」

「いや、君と向き合って入りたいと思って」

対面にニコルが移動し、お湯の柔らかい水音が広がる。

深夜の静けさをはばかるように、ニコルはぽつりと話し始めた。

「カタリナ……さっき君が言っていた事だけれど……」

どれの事だろう?

「一度愛し合ってから、長く君を抱かなかった理由」

「あ……」

「言い訳を――させてもらっても、いいだろうか?」

「……はい」

「カタリナ。俺たちが初めて結ばれた日の事――ちゃんと、覚えている?」

 

 

そう。

実を言うと初めてのニコルとのエッチは、魔性の魅力に当てられたのか、途中から記憶がない。

「君は途中で気を失ってしまったんだよ」

「え!?」

「あれは気持ちがよ過ぎて失神した、というのとは違うよね?」

「ええっと……」

そもそも記憶がないから分からないけれど、たぶん違う気がする。

なんと返せばいいか困っていると、ニコルは続けた。

「責めている訳ではないんだ。ただ、俺もあの後、改めて考えさせられた」

ニコルは言葉を選ぶように、少し黙る。

「――幼い頃から容姿を褒められる事は多かったが、年々周囲の反応がおかしくなっている事には気付いていた。だからこそ普通に接してくれる幼馴染みたちが、取り分け、いつも屈託なく笑ってくれる君の事が大切だった。だけど睦事の最中に愛する人を失神させてしまって、真剣に対策を考えなければいけないと思ったんだ」

真っ直ぐにニコルは私を見つめた。

「それでまずは、俺の視線に慣れてもらう為に見つめ合う時間を少しずつ長くしていった。見つめていてもソワソワしなくなるくらいまでね。触れるのも、頻繁に軽く触れるようにしながら少しずつ慣れていくようにして、身体を重ねる事は我慢していたんだ――本当に、とても我慢していたんだよ。なのに君は――いや、一緒に入ろうと誘ったのは俺だったのだから君を責めるのは違うのだが」

「い、いえ、私も反省しています……」

「だからね、カタリナ。よく見て」

ニコルが両腕を広げた。

「今、君を愛しているのは魔性の伯爵なんかじゃない、ただのひとりの――男だ」

 

「ニコル様……」

私との事をそんなに真剣に考えてくれていたのだと知って、胸が温かいものでいっぱいになった。

今夜ニコルに愛された事は、ちゃんと一部始終を覚えている。

その瞳の中に映った自分の瞳さえ覚えている。

だからたぶんきっと、私たちはもう大丈夫。

ニコルの広げた腕の中に、身体を預ける。

「――ずっと、傍にいてくださいね、ニコル様」

「ああ……ああ、もちろんだ」

驚きはすぐに喜びに変わり、額をくっつけて笑い合う。

 

「……そろそろ上がろうか」

「そうですね。もうふやけてしまいそうです」

今度はきちんと身体を拭き、バスローブを着て浴室を出る。

ゆるめのお湯でも長い時間浸かっていたので、身体はぽかぽかとして暑いくらいだ。

――少しだけ、夜風に当たろうかな

ニコルが、夜は涼しくなるって言っていたから、ちょっとだけ……。

部屋の窓を開き、外の光景に思わず息を飲む。

「―――コル様……ニコル様」

驚きのあまり、声がかすれて上手く出ない。

「どうかした、カタリナ?」

傍に来たニコルも、窓の外を見て言葉を失った。

 

―――満天の星空に、星の雨が降っている―――

 

ほんの少しの間見上げているだけで、絶え間なく縦横無尽に星が天を駆けていく。

そして降った雨が広場に薄く溜まり、鏡のように流星雨を映し出す。

視界いっぱいに、瞬く星と流れる星が広がっていた。

 

「凄い……本当に星の雨だ……それも空だけでなく地面まで」

「綺麗……」

 

その光景にただただ圧倒され、息をするのも忘れて見入る。

「雨、いつの間にか止んでいたんだな」

そう言われて、2度目にお風呂に入っている時に外が静かだと感じた事を思い出す。

「……宇宙に浮かんでいるみたいですね」

空と地面に広がる星々の競演を前に自分の存在の小ささを感じて少しだけ不安になると、ニコルが温かな手でそっと手を握った。その温もりが現実へと引き戻してくれる。

 

「……ニコル様は流れ星に願い事をすると、叶うって知っていますか?」

「子供の頃に聞いた事はあるが……」

「これだけあれば叶い放題ですね。ニコル様なら何をお願いしますか?」

「願い事、か……」

――私は何をお願いしよう……?

一際強く光って落ちていった流れ星に、無意識に窓から手を伸ばして呟く。

「掴めそう……」

その言葉を聞いて、ニコルが繋いでいない方の手を空へ伸ばして悪戯っぽく笑った。

「見ていて、カタリナ。今、星を捕まえるから」

スッと夜空を走った光を掴むように手をぎゅっと握りしめる。

「――捕まえたよ」

「え!?」

確かに星を掴んだように見えたけれど。

「……星をどうぞ、愛しい人」

ニコルは目の前に優雅に跪くと、手の平を開いて見せた。

その手には、ニコルの瞳のように艶めく黒い石の光る指輪。

そっと手に取ると、繊細な細工に縁どられた黒い石の中で、ゆらゆらと青い炎が燃えている。

「凄く綺麗……」

「俺と君の瞳の色が入った石だ」

見つめ合ったニコルの瞳に自分の瞳が映っているような、不思議な石。

角度を変えるとゆらりと濃い青や明るい水色に色を変え、本当に青い炎が燃えているみたいだ。

「まるで魔法みたい……」

「ブラックオパールという石だよ。遊色――石の中で色を変える部分が君の瞳の色のものをずっと探していたんだ。君が宝石や装飾品にはあまり興味がないと知っているけれど、どうしても二人の色を持つ石を贈りたかった。だから、これは俺の我儘なのだが―――受け取ってもらえるだろうか?」

「もちろんですわ。嬉しいです、ニコル様……ありがとうございます!」

「指に嵌めても?」

頷くと、立ち上がったニコルが指輪を持ち上げる。

「カタリナ、愛しているよ」

ニコルは私の左手を取り、薬指に口づけをしてから指輪を嵌めてくれた。

 

「ずっと君の傍に――一番近くにいさせてほしい。俺の願いは星ではなく、君にしか叶えられないから――」

 

 

 

 

 




R-18ルート本編で、妹と一緒ってちょっとどうなの、な展開だったニコルなので、いつかちゃんと結ばれる話を描きたいと思っていました。
ニコルの場合、とにもかくにも魔性の魅力を克服しない事には話が進まない為、その過程を描いてみました。

なかなかいい感じ(話の中の二人が)になったと思う(思いたい)のですが、いかがだったでしょうか…?(,,•﹏•,,)ドキドキ

ブラックオパールの描写は”そうはならんやろ”ですが、プレゼントした石がそういう石だったという事でご容赦ください。

裏設定で、実はソフィアとニコ母もこっそり来ていて、陰からこっそり見守り、時にはトラブルを演出したりしていた、というおまけ話をつけようと思っていたのですが、せっかくロマンチックに終わったのに蛇足にしかならなさそうだったので止めました。σ( ̄∇ ̄; )
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