※この作品はR-18です。

乙女ゲームのR-18ルートに突入してしまった… 《もしかしたら あったかもしれない『はめふら』R-18ルート》   作:帆速やこぬ

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『はめふら』のカタリナと『FORTUNE LOVER』の登場人物たちのお話です。

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another story 気付いたら入学直前だったので破滅エンド回避に向けて準備を進めてしまった… 《魔法学園・入学編》

――ついに――この時が来てしまった――…

 

乙女ゲーム『FORTUNE LOVER』の舞台、魔法学園への二度目の入学。

これから再び、破滅エンド回避の為の学園生活が始まる―――それも、難易度を上げて。

 

寮の部屋の窓を開き、見慣れた“初めての”景色を眺めながら、深い溜め息を吐く。

 

 

前回の記憶を整理し、マリアとはすぐにでも仲良くなり、できるだけ一緒にいるようにしようと決めていた。これは破滅エンド回避の為でもあるし、嫌がらせ対策でもある。

二巡目という唯一のアドバンテージを有効に使い、せめて今回はマリアに一欠片だって悲しい思いはさせないぞと心に誓っていた。

もちろん、友人になれなかったメアリやソフィアとも、学園生活を通して少しずつでも仲良くなりたいと思っている。

 

 

「よし、頑張るぞ…!」

グッと拳を握り小声で気合を入れると、運び込んだ荷物を解いて部屋を整えていたメイドが振り向いた。

「カタリナ様、何か仰いましたか?」

「あ、ううん………少し周りを散歩してくるわね。荷物の整理、お願いね」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

 

この世界でのクラエス家のメイドの顔ぶれは、前回とかなり違っている。

きっとカタリナが我儘放題にメイドをいじめ、辞めさせたりしたのだろう。

なによりつらかったのは、アンがいない事だった。

アンの父親である男爵が勝手に結婚話を決めた時、この世界のカタリナは引き止めなかったのだ。

姉のように慕っていたアンが傍にいないと知った時、本当にかなり落ち込んだ。

 

「アン……元気にしているかなぁ……」

 

せめて幸せに暮らしている事を祈って青空を見上げていると、涙が滲んできた。

 

いや、弱気になっている場合ではない。

諦めたら、破滅エンド一直線なのだから。

それにジオルドとの婚約解消は、キースも応援すると言ってくれている――…。

 

「あ……」

 

キースの事を思い出した途端、きゅんっとお腹の奥が疼き、魔法学園までの馬車の中でたっぷりと愛された事を思い出してしまう。

「やだ、もう……」

 

初めて愛された日から、キースは本当に毎日、人目を盗んでは私を貪った。

 

互いのベッドで、屋敷中の部屋で、庭の陰で、馬車の中で。

 

愛していると甘く囁きながら、キスと愛撫でとろかされ、腰が抜けてしまうほど突かれ、失神するまで絶頂させられる。

 

あれからキースは決して私から目を離さず、いつも傍に付き添うようになった。

仲良くなれた事は嬉しいし、心強いけれど……。

 

「……でも少しはひとりになる時間も欲しいのよね」

 

さすがにキースも準備で忙しいらしく、寮の前で別れてからはまだ会っていない。

夕食は食堂で一緒に取ろうと約束はしているが、それまではまだ、だいぶ時間がある。

 

 

んんーっと伸びをしてから大きく息を吐き、前回畑を作っていた場所まで行ってみようかなと思い立って、林に分け入った。

 

今回、とても残念だけれど、野菜を育てる余裕はないだろう。

時間が圧倒的に足りない現状、やるべき事の取捨選択をよく考え、楽しいけれど時間を取られる畑仕事には手を出さない事にした。

屋敷にいた時は庭の一部を掘り返したりもしていたけれど、ここではきっぱり諦める。

無事二年生に進級する事ができれば、その時は改めて学園に申請すればいいし、破滅を迎えるようなら国外で農婦になり、思う存分畑仕事をすればいい。

死んでしまっては元も子もない。

 

――破滅エンドを回避できるまでの辛抱よ……!

 

自分に言い聞かせながら林を突っ切っていくと、ふと樹々の間に柔らかな金色が見えた気がした。

 

――あれ? 今のって――…

 

期待と懐かしさで、見覚えのあるその色を追いかける。

樹々が途切れて広場になっているところに、きょろきょろと樹の向こうを見通そうとしているマリアがいた。

 

「マ――」

 

ついいつものように話しかけようとして、慌てて口を押える。

いけない、いけない。

この世界のマリアとは、今が初対面だ。

 

マリアがこちらの気配に振り返った。問うような視線を投げかけられる。

 

「ごきげんよう。こんな林の中を歩いているので、好奇心で声をかけてしまいました。私、カタリナ・クラエスと申します」

挨拶をすると、慌ててマリアも挨拶を返す。

「マリア・キャンベルと申します」

 

魔法学園入学時の――私の感覚で言えば一年前の――マリアは、なんだかいやに幼く見えた。少し不安げなところが、とても初々しくて可愛い。

 

そうか、毎日会っていたから気付かなかったけれど、マリアもあの一年で成長していたんだな。

 

「まあ、あなたが噂の、光の魔力を持つという新入生ね!」

「え? あ、はい……」

目を見開いてから、頬が赤くなる。どうしたんだろう?

「あの、クラエス様。わたし、噂になっているのですか?」

あ、気になったのはそこか。そうだよね。知らない間に自分の事が噂になっていたら、なんだか恥ずかしいよね。

「それはもう、皆、わっくわくよ!」

「え?」

さすがマリア。キョトンとした顔も可愛い。

 

 

――実は私の入学前の半年は、なかなかに忙しい日々だった。

 

まずキースに謝り倒して、構い倒した。

できるだけ一緒にいるようにし、喜んでもらえるようにした。

長く孤独な日々を送っていたキースは、一度心を開いてくれるととても甘えんぼうで、少しでも私から離れる事を嫌がった。

前回のように“義姉さん”と呼んでくれるようになったし、最近ではかなり砕けた口調になってきている。

こんなにエッチに積極的なのは予想外だったけれど、チャラ男予備軍だったのだから仕方がないかもしれない。

本来様々な女性と浮名を流すはずだった欲求や興味を、今は全て私に向けているのだろう。

私が拒むと、マリアや他の女性に目を向けてしまうかもしれないから、求めてくれるうちは受け止めるつもりでいた。

 

 

それと同時に、ギクシャクしていたお父様とお母様の誤解を解く為、キースの出自を三件の興信所に頼んで調べてもらい、全ての興信所から出された「キースはクラエス公爵の愛人の子ではない」という結果をお母様に見せ、二人でちゃんと話し合うように勧めた。

一晩中話し合った翌日の朝、疲れた表情なのにどこか清々しい二人の顔は忘れられない。

おかげで随分、屋敷の空気が和やかになった気がする。

 

 

並行して、ラファエルを闇の魔力から解放する為に、魔法省に匿名で手紙を書いた。

噂では内偵を進めた魔法省が春前に動き、ディーク侯爵家は取り潰し、ラファエルは二年生に進級せずに学園を退学したそうだ。

闇の魔力に関わる件なのでディーク家の罪状が公にされる事はなかったが、ラファエルの――人気者だったシリウスのファンクラブ会員たちが、突然の退学を嘆いているのをお茶会や舞踏会の席で何度も耳にした。

 

 

合間に、大好きなお菓子やロマンス小説を購入する為にたびたび街にお忍びで出掛けていたが、思わぬ収穫もあった。

本屋でソフィアとばったり出会う機会があったのだ。

もちろん前回のように親しくはできなかったけれど、ロマンス小説仲間として印象付ける事はできたはず。まだ警戒しているようだったけど、一応、魔法学園でも読書会を開いたり、ロマンス小説を嗜む会を作ろうと約束している。

 

 

残念ながら、メアリとは王子の婚約者として同じ立場の分、悪い話が耳に入っているらしく、お茶会のお誘いなども全て断られてしまっている。

かなり嫌われているようで、こればかりは学園生活での私を見てもらうしかない。

 

 

逆に攻略対象だけどライバルキャラがカタリナではないアランとニコルには、決して近づかないよう徹底的に距離を取った。

中途半端に知り合って、そのルートに巻き込まれる可能性を恐れたからだ。

この方針に従えば、メアリとソフィアとも仲良くなるのはまずいという事になるが、攻略対象に近づく事に比べれば、ライバルキャラとはそこまで危険ではないだろうと思う事にした。アランとは二年生になってから仲良くなればいいし、ニコルは卒業してしまうけれど、ソフィアと仲良くなれれば接点も増えるだろう。

 

 

そして、マリアへの嫌がらせを回避する為に、私は噂を流した。

 

すなわち、“王子の婚約者でもある公爵令嬢カタリナ・クラエスは次の春から魔法学園に入学するが、同時に入学する予定の光の魔力を持つ平民の女の子に強い関心を示している”と。

 

お茶会や舞踏会などで事あるごとに「珍しい光の魔力なのですって!」「本人もとても優秀らしいですわ」「会えるのが楽しみ!」と注目している事を伝え、平民である事を卑しむ娘たちには「私は仲良くなりたいなあ」と身分の違いは気にしていない事をアピールしてある。

 

前回マリアへの嫌がらせについてキースに相談した時のアドバイス、“公爵家の自分が傍にいる事で手出しさせづらくする為に、できるだけ一緒に行動する”の応用で、私が注目しているという印象を持たせる事で、入学前から牽制しておいたのだ。

 

 

 

「――だって珍しい光の魔力よ! 凄いわ!」

「生まれ持ったものなので、私が凄い訳では……」

「それに成績もとても優秀だとか」

「いえ、そんな――」

ほんの少し、マリアの瞳に陰が差したが、ここは勢いで押し切ってしまう。

「だからきっと、キャンベルさんは凄く努力家なのだろうなって」

「――え?」

マリアが驚いたように顔を上げる。

「私、あなたに会えるのをとても楽しみにしていたの! ぜひ、私と仲良くしてくださいませんか?」

ドキドキしながら片手を差し出すと、マリアは一瞬泣きそうな表情をしてからふわりと笑って、手を取った。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

緊張が緩んだ優しい笑顔に、ついこちらまでえへへ、と笑い返してしまう。

 

 

「ところで、キャンベルさんはこんな場所で何をしていたの?」

「寮までの道が分からなくなってしまいまして……」

「あー、寮までの――…」

言いかけてカッと目を見開き、思わずグリンとマリアを振り返った。

 

――寮までの道で、迷子!!?

 

それはつまり―――ジオルドとマリアの、出会いイベント!!

 

――なんで!? ジオルドとの出会いイベントは入学式の後じゃなかったっけ!?

軽くパニックになっている私に、マリアが心配そうに尋ねる。

「あの……どうかなさいましたか、クラエス様?」

 

 

このまま私がマリアを寮まで案内してしまうと、ジオルドとマリアの出会いイベントを邪魔する事になる。

どのみち二人は生徒会で一緒になるのだから、ここで出会いを邪魔したところで意味はない。ないどころか“私が出会いを邪魔した”みたいな感じになってシナリオに悪影響を及ぼし、バッドエンドに向かう可能性がある。

本当はすぐにでもこの場を離れた方がいいのだろうけど、迷子のマリアを放っておく訳にもいかない。

仕方がない、ここは―――。

 

 

「じ、実は私も今日入寮したばかりで、迷子になっていたところなの。だから一緒に行きましょ!」

「そうだったのですね。では二人で道を探しましょう」

ごめんね、マリア。嘘を吐いて。

心の中で謝りながら、わざと間違った方向へ誘い、同じところをぐるぐるとウロつく。

 

「見つかりませんね……」

「うーん、困ったわね。“誰か”通りかからないかしら?」

 

――もう! なにやってるのよ、腹黒ドS王子! 早く颯爽と現れなさいよ!!

 

「ここ……どの辺りなのでしょう?」

そう言うとマリアは周囲を見回し、一番高そうな樹へと歩いて行くとその樹を見上げる。

「どうしたの、キャンベルさん?」

「この樹に登って、高い所から位置を確認しようかと……」

「だったら私に任せて!!」

「ええ!?」

心の底から驚かれてしまった。

「私、木登りがとても得意なの!」

前世で野猿の異名を持っていたしね!

「まあ、そうなのですか! クラエス様は運動神経がよいのですね」

「やだわ、おだてないでよ~」

褒められていい気になった私は、調子に乗ってひょいひょいと登っていく。

 

「――こんなところで何をされているのですか?」

 

3メートルほど登ったところで聞き慣れた声がし、見下ろすと、マリアの視線を追って見上げたジオルドと目が合い、ギョッとされる。

 

ようやくの王子様の登場に、心の中で“遅いわ!”とツッコんだ。

 

「あら、ジオルド様! ごきげんよう。このような格好で申し訳ありません」

「……カタリナ様。あなたは本当に、何をしているのですか?」

「樹に登っているのですわ!」

「それは見れば分かりますが……」

「あ、あの! わたしたち迷子になってしまって、クラエス様は高いところから位置を確認する為に登ってくださったのです…!」

私の名誉を守ろうと、マリアが必死に言い訳をしてくれる。

本当にマリアはいい娘だなぁ。

「そうなんです」

手近な枝に移動し、腕を伸ばしてぶら下がると、そのままシュタッと地面に降り立つ。

華麗に決まった! と思って顔を上げると、二人とも私の鮮やかな技にぽかんとしていた。

 

「そ……そうですか。でしたら僕が案内しましょう。寮まででよろしいですか?」

「はい」

「よろしくお願いいたします」

 

――あー、よかったぁ。これで出会いイベントは無事終了ね!

 

歩きながらホッと胸を撫で下ろしていると、なぜかマリアはジオルドよりも私と話をしたそうだった。

さっき自己紹介し合ったから、きっとジオルドが王子様と知って気後れしちゃってるのね。

うんうん、と頷いてから、少しでもマリアの緊張を解こうとあれこれ話しかける。

ふと、マリアが私の腕に目を留めた。

 

「……あの、クラエス様。腕に傷が……」

「あれ? 樹に登った時に擦っちゃったかな?」

「よろしければ、わたしの魔法で傷を治しましょうか?」

「大丈夫よ、こんなのかすり傷だもの!」

「そうですか……」

別に悪気はなかったのだが、マリアの残念そうな表情に、断ってはいけない場面だったと気付かされる。

「あ、あー…、やっぱりヒリヒリして痛いから、お願いしよっかなー…」

パッとマリアの顔が輝き、にっこりと笑顔に変わった。

「はい…!」

 

マリアが手をかざすと、ポアッと温かくて優しい光が腕を包み込み、かすり傷はあっという間に消えてしまった。

「凄い! 跡形もない!!」

マリアの手を取る。

「ありがとう、キャンベルさん! 光の魔力って凄いのね! それにとっても綺麗!」

「え……綺麗、ですか?」

「うん。優しくて、とっても綺麗な光だったわ!」

恥ずかしそうに微笑むマリアが超絶可愛い。

こんなん、女の子同士だって絶対好きになっちゃうわ。

 

 

再び歩き出し、なんだか小腹が空いてきたので、ポケットからクッキーの包みを取り出した。

「キャンベルさんも、ひとついかが?」

「え……いただいても……?」

「もちろん!」

マリアはおずおずと手を伸ばすとクッキーをつまんだ。

――あ、仲間外れはよくないよね

「ジオルド様も召し上がりますか?」

気さくに声を掛けられた事に驚いたのか、ジオルドが一瞬詰まる。

「……いえ、僕は結構です」

「ジオルド様はいらないと仰っているので、二人で半分こしましょ!」

強引にマリアの手に半分押し付け、二人でサクサクとクッキーをかじる。

 

「んん~美味しい! キャンベルさんは、お菓子好き?」

「はい。甘いものって幸せな気持ちになれますよね」

「分かる! お店で売っているようなお菓子ももちろん美味しいけれど、私、手作りお菓子もとても好きで」

「そうなのですね。わたしも以前はよく作っていました」

「キャンベルさんはお菓子作るの、上手そう!」

まあ、上手って知っているのだけど。

「いえ、そんな事は。初めはよく失敗して、焦がしたりしていました」

「もし気が向いたら、お相伴に預からせてもらえると嬉しいな。あ、もちろん材料費とかはちゃんと支払うので!」

慌てて両手を振るとその様子がおかしかったのか、マリアはふふふ、と笑う。

「お口に合うか分かりませんが、そのうちに」

 

「……………」

女子トークが居たたまれないのか、ジオルドはずっと黙ってちらちらとこちらを見ている。

 

「――そうなんだ、キャンベルさんは、あんまりロマンス小説は読まないのかあ」

「興味がない訳ではないのですが、触れる機会がこれまでなくって」

「じゃあ、今度私のおすすめ、読んでみない? 色々貸してあげる」

「わあ、いいんですか? ぜひ!」

「私の今一番のおすすめは、『魔性の伯爵シリーズ』っていうのだけれど――」

 

この世界でもマリアはとても素直で聞き上手で、寮に到着するまでニコニコしながら話を聞いてくれた。本当にマリアは可愛いなあ。

 

――これはもう、ジオルドも好きになっちゃってるんじゃない!?

 

そう思いちらりと見ると、横目でこちらを見ていたジオルドと目が合い、慌てて目を逸らされる。

 

そうこうしているうちに、マリアの寮に着いた。

丁寧にお礼を繰り返すマリアは、入口の前で私たちが見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

しばらく黙りこくったジオルドと並んで歩いていたが、気まずい沈黙に耐えられなくなる。

 

「えーと……ジオルド様。ここからなら私でも道は分かるので、ついてきていただかなくても大丈夫ですわ」

「いえ、ちゃんとカタリナ様の寮の前まで送り届けますよ」

ジオルドが不意に切り出した。

 

「……随分、印象が変わりましたね」

 

「へ!? そ、そうですか?」

なんかさっきからジロジロ見られている気がするとは思っていたけれど。

「ええ、僕の知っているカタリナ様とは別人のようです」

「そんな事は……」

「以前のあなたなら平民の女の子と並んで楽しく会話するなんて絶対にしなかったでしょうし、スカートで樹に登ったりもしないでしょう」

 

あれ? なんか、怪しまれてる?

男子三日会わざれば、なんて言葉もあるくらいなんだから、長い事会ってなければ女子だって成長するわ!

まあ、とりあえずは何か言い訳を――。

 

「最近ロマンス小説をよく読むようになったのですが、たくさんの物語に触れるうちに価値観が変わり、今までの行いを反省したのです。ですから、この魔法学園での生活を機に自分を変えていきたいのですわ」

 

咄嗟に思いついたにしては、なかなか上手い言い訳なのではないかしら!

ドヤァと胸を反らすと、ジオルドは「反省?」と首を捻った。

確かに、これまでの悪役令嬢カタリナ・クラエスの辞書に反省の二文字はなかったけれど、つい今しがたマリアと和やかにおしゃべりしている姿を見ているのだから、そんな不信な目を向けなくてもよくない?

 

「木登りについては?」

「樹の魅力に目覚めたのですわ!」

「っ………」

 

聞いた瞬間ジオルドは顔を逸らし、押さえた口元からくしゃみをし損ねたみたいな音がした。

春だからなぁ。目にゴミがよく入るし、くしゃみも出るよね。

「大丈夫ですか、ジオルド様? ハンカチ使います?」

「い、いえ……大丈夫です」

なんか声も震えている。

 

そんなやり取りをしているうちに私の寮に着いた。

寮の前ではキースが待っていて、こちらに気付いて駆け寄ってくる。

「義姉さん! なかなか帰ってこないから心配したよ!」

ホッとしたように微笑んでから、少し鋭い視線をジオルドに向ける。

「こんにちは、ジオルド様。義姉さんを送っていただき、ありがとうございました。後は義弟である僕にお任せください」

セリフは礼儀正しいのに、なぜか言い方に棘を感じる。

それはジオルドも感じ取ったらしく、返す笑顔がちょっと怖い。

 

「……君はいつから、カタリナ様を“義姉さん”なんて親しげに呼ぶようになったのですか?」

「義姉さんはこれまでの事を心から謝ってくれました。今は僕にとって誰よりも大切な女性です」

「キース……」

きっぱりと“大切”と言われて、ジーンとしてしまう。

けれどジオルドは、違うところに引っかかったようだった。

 

「 “女性”? ――“家族”、ではなく?」

「そうですね、“いずれ”家族になるでしょう」

 

二人の間に火花が散ったが、やり取りの意味が分からずあわあわしてしまう。

「え? え? ジオルド様? キース?」

 

「そうだ、義姉さん。ジオルド様に大切なお話があるのでは?」

キースがなんだかいやに迫力のある笑顔で振り返る。

「そうですね、そのうち時間を作ります。今度ゆっくりとお話ししましょう、カタリナ様――いえ」

ジオルドが私の手を取ると、甲に唇を押し付けた。

「――カタリナ」

 

「!!?」

「なっ!?」

 

この世界のジオルドは徹底的にカタリナに無関心で、たまに顔を合わせた時に話そうとしても「忙しくて時間がない」と他人行儀で、こんな風に名前を敬称もなく呼んだり、手の甲にキスをしたりなんて親しげな振る舞い、初めての事だ。

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょう? 君は僕の婚約者なのですから」

 

今までにない、からかうような少し優しい目つきで私を見ると、優雅な身振りでもう一度指先に口づけをしてから、ひらりとマントを翻して帰っていく。

「……………」

ハッと我に返った時にはジオルドの姿はもうなかった。

 

「義姉さん、ちょっと…!」

 

急にキースに腕を取られ、傍の樹の陰に連れ込まれる。

「キース!? ――…んっ」

キースは腰に回した手で強引に抱き寄せると、唇を奪った。

樹の幹に押し付けられて身動き取れない姿勢のまま、貪るように舌を吸われる。

 

「キースっ、ちょっと待っ――どうして怒って――」

「怒って? 怒ってなんていないよ。ただ僕の大切な義姉さんに汚らわしい手で、唇で、触れられたのが不愉快なだけで――そう、だからこれは、消毒」

 

改めてキースは指先から手の甲、額から頬、耳たぶに首筋に胸元と、肌の見えているところ全てに口づけをした。

「義姉さん……」

ぎゅっとすがるように抱きついたキースが絞り出すように言う。

 

「……いやだ……いやだ。義姉さんは僕のものなのに。あんな男に――婚約者のくせに今頃義姉さんの魅力に気付くような奴に、絶対に渡したくない…!」

「……だめよ、キース。王族に向かって“あんな男”だなんて――」

キースが何か、呟いた。

「え?」

身体を離して顔を上げたキースは、もういつもの笑顔だった。

「……なんでもないよ。さ、夕食を食べに行こう?」

「うん……」

何事もなかったかのように歩き出すキースの様子に、まさかね、と首を振る。

 

“絶対に排除してやる”と言っていたように聞こえたのは、きっと気のせいだよね?

 

 

 

 

――学園長の挨拶、長いなあ……

校長先生の話が長いのはどこの世界でも共通なのだ、と妙に納得しながら、入学式の会場内をこっそり見回す。

――あ、マリアだ

少し離れたところにマリアを見つけると、ふとこちらを見た彼女と目が合い、微笑んでくれた。

小さく手を振ると、向こうも振り返す。

――なんか前回と違って、マリアとはいきなりいい感じじゃない!?

ひとり興奮していると、両脇から小声で話しかけられる。

 

「どうかしましたか、カタリナ?」

「どうしたの、義姉さん?」

 

ジオルドとキースが、両隣を固めていた。

私はジオルドの婚約者だし、キースは家族なので当然といえば当然なのだが、前回と違い二人は幼馴染みという訳ではないので、よそよそしくギクシャクしている。

 

それになぜかキースは、ジオルドに私を取られると思っているみたいだ。

これからマリアと恋に落ちる予定のジオルドが、私に興味を示すなんてある訳がない。

たぶん先日のあれは、子供の頃からよく見ていた前回と違って、スカートで樹に登る姿を初めて見たのでびっくりして調子狂っちゃっただけだろう。

 

――まあ、それはそれとして……

 

ジオルドもキースも乙女ゲームの攻略対象らしく周囲から際立って美形な為、女子生徒の注目を一身に集めていて、二人と一緒にいる私は少し申し訳ないような気分になってくる。

 

この会場に来るまでも、寮からスマートに手を取ってくれるキースと、会場の入り口から完璧なエスコートを見せるジオルドに、女の子たちの羨望の眼差しと小さな歓声と溜め息が止まらなかった。

ジオルドが入り口で待っていてくれたのは意外だったが、おそらく言い寄る女性を牽制する為の“自分には婚約者がいる”アピールだろう。

 

 

と、学園長がようやく話を切り上げた。

「それでは、生徒会長より挨拶です」

檀上に上がる黒髪の男子生徒の美貌に、建物が揺れたのではないかと思うほど生徒たちから歓声と溜め息が漏れる。

 

「――新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。生徒会長のニコル・アスカルトです」

 

急に檀上の照明が強くなった気がするくらいニコルの美貌が輝き、緊張しているらしい少し硬い声が会場に広がる。

 

前回も生徒会の二年生はニコルとラファエルしかおらず、ラファエルが退学したこの世界では生徒会長ができるのは当然ニコルしかいない。久しぶりに見た彼は相変わらず魔性の魅力に溢れていた。

でも……なんだろう? 何か前回と雰囲気が違う。

 

――なんだか、ニコル……寂しそう?

 

物静かで穏やかな感じは変わらないけれど、憂いに沈んでしまっているような瞳をしている。

前回も無口で無表情だったけれど、なんというかもうちょっと楽しそうだった――気がする。

 

ついなんとかしてあげたい気持ちに駆られるが、ニコルとアランに関してはこの世界では何もしないと決めたのだ。

せめて自分にできるのはロマンス小説沼にマリアを引きずり込み、愛好会でも作ってソフィアといい友人関係を築く手助けをするくらいだ。

だってソフィアの幸せが、ニコルにとっても幸せのはずだから。

 

――うんうん、そうよ! マリアがソフィアと仲良くなってくれればアスカルト兄妹も嬉しいし、私的には破滅フラグも回避できるし、一石三鳥じゃない!?

ううん、マリアも嬉しいはずだから、一石四鳥!!?

 

「凄いわ! すぐにソフィアに相談しないと!!」

 

思わず声に出して言ってしまい、式典の真っ最中だったと気付いた時にはもう遅い。

一瞬青ざめたが、なんという幸運か、ちょうどニコルのスピーチが終わって起きた万雷の拍手にかき消された。

 

 

 

 

「あの――ハンカチ、落とされませんでしたか?」

 

入学式の後、キースに“少し用事があるから一緒にきてほしい”と言われてついて行くと、話しかけたのはマリアだった。

「え!? キース、もうキャンベルさんと知り合いになっていたの!?」

言いながら、はて? と引っかかる。

――んんん? ……ハンカチ?

 

「出会いイベント!?」

 

ハッと思い出し、つい大きな声を出してしまう。細かい事は色々忘れてしまっていたが、これはナンパに失敗したキースが、マリアの落としたハンカチで再び迫るイベントだ。

キースが不思議そうに繰り返す。

「いべんと?」

 

キースの後ろに立っていたので見えなかったらしく、マリアが私に気付いて顔を輝かせた。

「クラエス様!」

「こんにちは、キャンベルさん」

おほほほ、と笑顔で誤魔化してから、キースに耳打ちする。

 

「――まさかナンパしたの!?」

「何? “なんぱ”って?」

「女の子をふしだらな行為に誘う事よ!」

前回のキースはこれを聞いて恥ずかしそうに慌てていたけれど、目の前のキースは色っぽい目つきで微笑んだ。

「――“ふしだらな行為”って、例えばこんな?」

するりと私を後ろから抱き締めて、首筋に口づけをする。

「キース!?」

 

――こんなに人がいるところで!? マリアの目の前なのに!?

 

慌ててキースの腕をほどいてマリアを見ると、顔を真っ赤にして目を泳がせている。

「あ、その……仲がよろしいのですね……」

「待って、キャンベルさん! これは違うの!」

「ひどいな、義姉さん。“違う”って、何が違うの?」

「ご姉弟なのですか!?」

マリアが耳まで赤くなりながら、“てっきりお付き合いされているのかと……”とごにょごにょ呟く。

 

「あ、あの、紹介するね。義弟のキースよ」

「キース・クラエスです」

「マ、マリア・キャンベルです」

「ああ、あなたが――義姉さんがずっと“仲良くなりたい”と話していた方ですか」

キースが目を細めたが、なんでだろう、目が笑っていないように感じる。

「義姉共々、どうぞよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

 

キースの様子が少しおかしかったが、出会いイベントは概ね、無事終了したみたいだった。

 

「……あれ? キース、そういえばハンカチを返すのではなかったの?」

「あ、そうそう。拾った時に声をかけようとしたのですが、式の前で人に紛れて見失ってしまって……」

キースがポケットを探る。

「これ、あなたのでしょう?」

ハンカチを取り出すと、ポケットから同時に別のハンカチが落ちた。

「あ」

マリアが反射的に拾い上げ、ぽんぽんと埃を払う。

 

「「ありがとうございます」」

 

ハンカチを交換しながら微笑み合う様子に、思わず“さすが主人公と攻略対象、絵になるな~”と見惚れてしまう。

「あれ?」

キースのしまい込もうとするハンカチが、二枚重なっている。

「キースって、ハンカチ二枚持ち歩いているの?」

「ええ、使う為のものと、こちらは宝物です」

そう言うと、一枚のハンカチに口づけをした。

「宝物?」

「ええ」

キースは愛おしそうにハンカチを眺めて、それを撫でる。

 

「大切な記念です」

 

 

 

 

 




『はめふら』のカタリナが主人公だとどうもハードな話にならない……(゚д゚)イマサラ⁉
プロローグでSMカタリナまで出したのに。「調教して性奴隷にする」まで言ったのに。
((+_+))コマッタ…

書く前はざっくり3~5話くらいで収めるつもりが、どうも話数が増えそうです。
きっとカタリナなら他の子たちの事も放っておかないと思うので…
お付き合いいただけると嬉しいです。
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