乙女ゲームのR-18ルートに突入してしまった… 《もしかしたら あったかもしれない『はめふら』R-18ルート》 作:帆速やこぬ
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晴れて両想いとなったメアリとアランは、あれからというものうっかり近付くとハートが飛んできて当たるくらいラブラブで、なんなら今すぐにでも結婚しそうな勢いだ。
二人が結ばれるのに尽力した私とソフィアとマリアは、あれ以来メアリから親友認定されて女子同士の仲も良好で、なんとなくギスギスしていた生徒会は、今ではとても和やかな雰囲気になっていた。
もちろん、変わったのはメアリだけではない。
俺様だったアランも、本気でメアリに愛されている事が自信に繋がったらしくだいぶ素直になり、マリアにも「色々と迷惑を掛けて、すまなかった」と謝罪し、適度に距離を取るようになった。
それにギクシャクしていたジオルドにも、自分から話しかけるようになっていた。まだ緊張感はあるものの、これまでのアランにしては大きな一歩だろう。
ジオルドの方もそんなアランの変化を受け入れ、口には出さないが喜んでいるようだ。
そして女子同士の仲がよくなれば、ソフィアが楽しそうに友人たちと過ごす様子がニコルの目に入る。
前と変わらないように見えるニコルも、ソフィア曰く“最近は毎日とても嬉しそう”なのだそうだ。
そうなると不仲なのはジオルドとキースだけで、こればかりは私にもどうしたらいいのか分からなかった。
キースの事はもちろん好きだし、前回と性格は少し違うけれど、それでもやっぱりキースはキースで、私の大切な義弟である事に変わりはない。
けれどこんなにも溺愛されてしまうとは思ってもみなかった。
人目もはばからずに甘えてくる義弟を無下にはできず、それがジオルドには面白くなく映るのだろう。張り合うように私に声を掛けてくる事が増えていた。
その度に言い合いになる二人の仲は険悪で、今のところそれを解決する妙案は思いつけずにいた。
夕暮れの寮の自室で机に向かい、羽根ペンで鼻の頭をくすぐりながら、現状を整理してみる。
――ええっと……
ジオルド → マリアに好意的だけど、恋愛感情ではなさそう? / マリアの好感度 普通
キース → キースの方がマリアに全く興味がないらしい + マリアはキースと私が恋人だと思っているっぽい / マリアの好感度 普通
アラン → メアリと相思相愛 / マリアの好感度 低
ニコル → 前回以上に感情が分かりづらいけど、たぶんマリアには好意的 / マリアの好感度 普通
――うーん……マリアの好感度が高いキャラがいないってどういう事なんだろう……?
みんな、乙女ゲームの攻略対象らしく超美形なのに。
誰もマリアにグイグイいかないのが原因なのかな?
マリアの方も、メアリの恋を応援したり、私やソフィアとおしゃべりしたりしている方が楽しそうで、攻略対象四人に対しては礼儀正しいというか、どちらかと言うとよそよそしい。
――それとなくマリアに聞いても、いつも“私の事が好き”って言ってくれちゃうしなぁ
アランルートはもう有り得ないから、ジオルド、キース、ニコルの三人のうち誰かを選ぶか、または前回のように誰も選ばずに友情エンドを迎えるか。
アランという選択肢が消えた時点で、逆ハーレムエンドはないはずだ。
四人の攻略対象たちと子供の頃から仲良くしていた前回と違い、この世界はより乙女ゲームの設定に近い。
つまり破滅する可能性もより高いという事だから、気を付ける必要がある。
それに、隠しキャラだったシリウス――ラファエルがいない事が、どんな影響を及ぼすかも分からない。
最悪のバッドエンドは無くなったのか、それとも形を変えて降りかかる可能性もあるのか。
警戒は続けないといけないだろう。
――うん、まあでもニコルの卒業までまだだいぶあるし、要経過観察って事で
入学してからの約4カ月、大好きな畑仕事を我慢して破滅エンドを回避する為に色々と頑張ってきたおかげで、今のところは身の危険はなさそうだった。
――まあ、とにもかくにも、何はともあれ――…
わくわくする気持ちを抑えきれずに、ひゃっほうと羽根ペンを放り出してつい声に出してしまう。
「ようやく明日から夏休みだわ!!」
色々と立てている楽しい予定を、指折り数える。
「まずはマリアのお家へ遊びに行くでしょ」
前回は突然訪問してしまったけれど、今回はちゃんと約束もしてあるし、完璧だ。
“わたしの家なんて、カタリナ様に来ていただくようなところでは”と初めは断られてしまったが、「ちゃんとマリアのお母様にも挨拶したい」と言うと、感極まった様子でOKしてくれた。
手土産は何を持っていこう? 今回は野菜の苗という訳にはいかないし……。
お菓子が定番だろうけど、きっとマリアの事だから、たくさんお菓子を焼いて待っていてくれるだろうしなぁ。
何か、喜んでもらえるようなもの――…
少し考え、難しいので後でキースにも相談してみる事にする。
「それと、生徒会のみんなで湖に泊りがけで遊びに行くでしょ」
ジオルドから湖に遊びに行かないかと誘われたので、生徒会メンバーみんなで懇親会という名目のお泊り会を催す事になっている。
あの湖にはボートもあるし、景色もいいし、涼しくて空気も美味しいから、とっても楽しみだ。
「今回は宿題だって早めに終わらせちゃうんだからね!」
前回は夏休み最終日に宿題が終わっていなくてキースに迷惑をかけてしまったので、今回はさすがに改めようと思う。
勉強と言えば、前回でも習ったはずの授業が全く身についておらず、一度受けたはずのテストで毎回、前回と同じ点数を叩き出した事は自分でもびっくりだった。
逆に凄いぞ、私。
「後は――ソフィアと街の本屋さんに『魔性の伯爵』の新刊を買いに行く約束でしょ。お城の舞踏会でしょ。お茶会も結構たくさん誘われているし……」
楽しい事が目白押しで、破滅フラグの事を忘れてしまいそうになるけれど、今回は畑仕事を諦めた分、時間に余裕がある。少しくらい楽しんだってバチは当たらない――もとい、破滅フラグは立たないはずだ。
「よーし! 夏休み、全力で楽しむわよー!!」
――夏休みが半分ほど過ぎていた。
キースが毎日時間を決めて一緒に進めてくれたおかげで、前世も含めて生まれて初めて、夏休みの宿題が計画通りに進んでいる。
今日はソフィアと街へお買い物だ。
おさげにワンピース姿のソフィアがお人形さんのように可愛くて、見ているだけで楽しい。
「カタリナ様は夏休み、どこかへ出掛けられましたか?」
「マリアのお家へ遊びに行ったの! のどかで凄くいいところだったよ」
「まあ。いいですね~」
「マリアのお母様も優しくて綺麗な人だった~。マリアとマリアのお母様がお菓子をたくさん作ってくれていて、どれも美味しくて最高だったなあ」
「マリアさんは本当にお菓子作りが上手ですよね。わたくしもお兄様も、密かにマリアさんのお菓子の大ファンですわ」
「うんうん、分かる! マリアがお菓子屋さんを開いたら、絶対通い詰めちゃうよね!」
言いながら、ハッとする。
――もしも破滅エンドを回避して、魔法学園を無事卒業できたら、マリアと焼き菓子店とか開くのもいいかも!?
「まずは物件の確保……いやその前にマリアに確認……でもそうか、お父様に相談して……」
思い付いたアイデアに気を取られていると、ソフィアがにっこりと笑った。
「今度、我が家にも遊びに来てください。両親を紹介いたしますわ」
「わあ、ぜひ!」
ソフィアと笑い合うと、話を返す。
「ソフィアはどこか、出掛けたの?」
「家族で森にある別荘へ行きましたわ。涼しくてとても過ごしやすかったです」
「いいね~。森林浴とか、癒されそう!」
「木陰で樹々のざわめきを聞きながら本を読むのも、いいですよ」
「素敵!」
楽しそうなソフィアの隣にはもちろん、ニコルが一緒だ。
「この前の生徒会の懇親会も楽しかったよね」
「ええ! わたくし、お友達とお泊りするのは初めてで、夏休みで一番楽しかったですわ」
「ニコル様は大丈夫でしたか? 少し騒がしくはありませんでした?」
「いいや、久しぶりにとても楽しかったよ」
ふわりと浮かべる魔性の笑みに、卒倒してしまいそうになるのを必死で堪える。
「よ、よかったですわ」
前回は突然誘いに来たジオルドだったけれど、今回はそれを思い出して私の方から“暑い時は水遊びが最高ですよね!”と話題を振り、目論見通り湖に遊びに行こうと言い出してくれたので懇親会という形で私が企画した。みんなが楽しんでくれたのなら、やった甲斐があるというものだ。
準備もしっかりできたので、湖畔をピクニックしたり、ボートで競争したり、森を散歩したり、バーベキューをしたりと、和気あいあいとした雰囲気で楽しい時間を過ごす事ができた。
「……でも枕投げはひどかったなあ」
「途中までは楽しかったのですけど」
「ん? 何かあったのか?」
ソフィアと顔を見合わせて吹き出すと、んん? とニコルが首を傾げる。
「お兄様ったら、翌朝お話ししたではありませんか」
「夜、投げ合っていた枕のひとつが突然爆発して、羽根が部屋中に舞ってしまったんです」
「ああ、そういえば話していたね」
「結局夜中までみんなで拾い集めて掃除をして……」
「集めても集めても舞い飛ぶから、もう寝られないんじゃないかと思ったわ」
「わたくしはあれも、なんだか楽しかったですわ。まるでおとぎ話によく出てくる、悪い魔女に吹っ掛けられる無理難題みたいで」
「ソフィアがあの時そう言ってくれたから、みんな物語の主人公になった気分で頑張れたのよ!」
「カタリナ様……」
嬉しそうに頬を紅潮させる妹を、ニコルが優しい微笑みを浮かべながら見守っている。
相変わらず無表情のニコルだけれど、入学式で見た時よりもかなり表情の固さが取れてきた気がする。
――これもマリアがソフィアと仲良くなってくれたおかげね!
自分の作戦の完璧っぷりに満足していると、少し小腹が空いてきた。
「そろそろ休憩しませんか? この近くに、パフェが美味しいお店があるんです」
――やっぱり、いないよね……
お城で開かれている舞踏会の広間を見回し、懐かしい面影を探してしまう。
前回この会場で会えたラファエルの姿は、どこにも見えなかった。
当然だと分かっていても心のどこかで期待していたらしく、寂しさを感じていると、キースが飲み物を取って渡してくれる。
「義姉さん、どうかした?」
「ううん、なんでもないわ」
きっとラファエルなら大丈夫。魔法省くらい規模の大きな組織なら闇の魔法の対処法なんかもあるだろうし、この時点ならラファエルはまだ何も罪を犯していないはずだもの。
それよりも今、気になるのは――。
「――ねえ、キース。ちょっとくっつき過ぎじゃない?」
「でもこのくらいしないと、変な虫が寄ってくるから」
そういえば前回もパーティーの最中に虫に刺されたりしたっけ。
――実は虫に刺されやすい体質だったのかな……?
でもそれとキースが傍にいる事と何の関係があるんだろう、と首を捻っていると、ご令嬢方に囲まれていたジオルドがこちらに気付いて人垣をすり抜け、近づいてきた。優雅にこちらの手を取り、甲に口づけをする。
「すみません、カタリナ。挨拶回りでお相手できずに放っておいてしまって」
と、ズイッとキースが間に割り込んだ。
なぜか周囲から嬉しそうな声が上がる。
「そんなの、“いつもの事”ではありませんか」
「僕はカタリナに話しているのですが?」
「義姉さんの心の声を代弁したまでです」
ジオルドはキースを無視して、私に微笑みかけた。
「……ねえ、カタリナ。これまで君と過ごす時間が少なかった事は反省しています。どうか、挽回の機会を与えてもらえませんか?」
「えっと……あの……」
どういう心境の変化か、魔法学園入学以来、腹黒王子に誘われる事が増えた。
その度にキースが間に割って入って、きっぱりと断ってくれていたけれど――…。
キラキラの王子様スマイルを浮かべたジオルドが私を見つめる。
「社交界シーズンの最後ですので夏休みの後半はずっと時間が取れませんでしたが、明日はどうにか一日、休みを取る事ができました。カタリナ、明日は僕と二人で出掛けましょう」
私が返事をしようとすると、キースが遮る。
「二人きりなんて危険な真似、大切な義姉さんにはさせられません。お断りします」
「キース、君もいつかは家の決めた相手と結婚し、家督を継ぐのですよ。義姉離れの準備をした方がいいのでは?」
「それについてはもっとよい案を思いつきましたので、ご心配には及びません」
「へえ……」
ジオルドが瞳を光らせた。
「……ちなみに、その“よい案”とは?」
キースがグイッと私の肩を抱き寄せ、ジオルドに相対する。
再び周りの令嬢たちから嬉しそうな悲鳴が上がった。
「もちろん、“僕と義姉さんと”でクラエス家を盛り立てていくのです」
ジオルドがちらりと周囲に目を走らせ、大きく溜め息を吐く。
「……入学以来、君がそういう態度を取るせいで、貴族令嬢を巡る婚約者の王子と義弟の三角関係だとか、恋の鞘当てだとかと一部から注目を集めてしまっているのですよ」
「まあ、間違ってはいませんからね」
ヒクリと頬を引きつらせるジオルドに、キースが澄まして続ける。
「僕は義姉さんが世界中の誰よりも大切ですし、幸せにしたいと思っています。婚約者に冷たくあしらわれ、傷ついていた義姉さんに寄り添い、慰めてきたのは僕ですから」
大きく出たが、キースが心を許してくれてから、まだ1年も経っていない。
――もしかしてキースの存在と態度が、逆にジオルドを煽ってるのかな?
お飾りでしかなかった婚約者を目の前で大切に扱う男性の出現に、責められているように感じてしまっているのかも。
実際、キースは頻繁に、これまでのジオルドの私への扱いを非難している。
それが完璧王子には耐えられないのかもしれない。
いつの間にか周りに人が増え、視線が熱い。
これ以上人目を集めてしまうと、キースやクラエス家の心証が悪くなってしまうかもしれない。
この場を治める為にキースの腕を押さえ、首を振ってみせてから、ジオルドに頷いた。
「――分かりましたわ、ジオルド様。明日はご一緒させていただきます」
パッとジオルドが顔を輝かせる。
「ありがとうございます、カタリナ」
「ちょっ…義姉さん!?」
慌てたキースが一生懸命説き伏せようとする。
「そんな、相手が王子だからって無理をして付き合う必要ないよ! 学園で顔を合わせるようになったから、体裁の為に義姉さんを利用しようとしているだけだよ!?」
「キース、それは聞き捨てなりませんね。体裁ではなく、僕は彼女の魅力に気付いたのです」
――さすが腹黒王子、めっちゃ爽やかな笑顔で嘘を吐くなぁ……
感心していると、キースを軽くいなしたジオルドが耳元に囁いた。
「ではカタリナ、明日迎えに行きます。帰りに贈り物を受け取るのを忘れないでくださいね」
「……ねえ、キース。どう? 変じゃない?」
くるりと回って見せると、ちょっと不満そうにキースが頷く。
「そういう格好も素敵だよ、義姉さん」
昨日贈られたジオルドからのプレゼントは、下町のお嬢さんが着るような淡い黄色のシンプルなワンピースだった。
最近は高価なドレスや宝飾品を贈られて困っていたので、中身を見た時にはちょっと意外だったけれど、これで下町をお忍びデートするつもりなのだという事は分かった。
少し背中が大きく開き過ぎのような気もするけれど、この暑さの中を出歩くには涼しいワンピースは嬉しい。
キースが不満そうなのは、「絶対についていく」と言い張るキースに、私が「だめ」と言ったせいだ。
やがて迎えにきたジオルドは、いつもの煌びやかな意匠の服装ではなく、簡素な白いシャツにズボン、ブーツという下町コーデだった。
――うーん……いかにも貴族のお忍びって感じ……
整い過ぎた顔立ちにサラサラの金髪、優雅な立ち居振る舞いが、身分を隠しきれていない。
「ん? どうかしましたか、カタリナ」
「いえ……」
まあ、“二人きり”と言っても、きっと護衛の騎士が目立たぬようについてくるのだろうし、大丈夫だろう。
「それでは参りましょうか」
「あ、はい」
ジオルドは凄い目つきで睨んでいるキースにフッと余裕の笑みを見せ、馬車へと乗り込んだ。
「キース、本当に私は大丈夫だから。留守番、お願いね」
子供みたいに拗ねた表情をしたキースが、渋々送り出してくれる。
「うん……いってらっしゃい」
「……カタリナ、これを」
馬車が出発し、少し走ったところで、ジオルドは箱を取り出した。
「これは?」
「髪の色を変える魔法道具です」
「髪の色を変える?」
「ええ、このままですと少し目立ちますので」
箱を開くと蓋の内側は鏡になっていて、中には凝った意匠の櫛と様々な色合いの髪が収められている。
わあ……凄い。こんなに色々あるんだ……。
金髪だけでも10色はある。
「好きな髪色を選んでください」
あまりに色んな色があって迷っていると、くすりと笑ったジオルドが横から手を伸ばした。
「では試しに、僕がやってみせましょう」
ジオルドは迷わず黒い髪を選んで、櫛の一部に挟み込んだ。
ポウッと櫛が淡く光る。
その櫛で髪を梳くと、ジオルドの金髪がみるみる黒くなっていく。
鑑を見ながら眉とまつ毛にも上手く櫛を入れて顔を上げたジオルドは、いつもの印象とはかなり違う。
「……どうですか?」
珍しく、少し緊張したようにジオルドがこちらを見つめる。
「素敵です。まるで――」
「まるで?」
「あ、いえ……」
“魔性の伯爵みたい”って言っても、ジオルドには通じないよね。
他の誉め言葉を探していると、残念そうにジオルドの方から切り出した。
「……“魔性の伯爵のようだ”と君に喜んでもらえるかと思って、この色を選んでみたのですが」
「え!? ジオルド様、魔性の伯爵をご存じなのですか?」
「君が以前、キャンベルさんに薦めているのを聞いて、興味を持ちまして。シリーズ全て、読破しましたよ。先日発売された最新刊も含めてね」
こんなところにロマンス小説仲間発見!!
「そうだったんですね! いかがでした!?」
「ああいう読み物を読んだのは初めてでしたが、面白く読ませてもらいましたよ。君がどのような好みなのか、参考になりました」
ちょっと視点が違うような気もするが、好きな物語を語るのに、身分も性別もない。
熱く語り合おうとした途端、ジオルドに止められる。
「もちろん君と語らうのはやぶさかではありませんが、今はひとまず髪色を変えてしまいましょう。……そうだ、選べないようなら、お互いの髪色を交換するのはどうでしょう?」
ジオルドが櫛から黒い髪を外してもう一度髪を梳くと、髪は元に戻った。
前髪をザッとかき上げ、自分の髪を1本、私に渡す。
「君の髪をもらいますね」
スルスルと優しく指で私の髪を梳いたジオルドは、指に絡まった髪を取り、櫛に挟んだ。
再び髪の色を変えた茶髪のジオルドは、なんだかちょっとやんちゃな好青年に見えた。
髪の色だけでこんなに印象って変わるんだな……。
妙に感心していると、ジオルドが櫛に自分の金髪をセットして私に背を向けるように合図する。ジオルドが梳いてくれるらしい。
「えっと……では、お願いします」
思いの外、優しい手つきで丁寧に髪を梳かれ、なんだかくすぐったく感じてしまう。
「――できました」
全体に櫛を通し終えたジオルドは、満足げに息を吐いた。
肩に落ちる髪を見ると、光を纏ったようなその色は、確かにいつも見ているジオルドのものだ。
「とても綺麗ですよ、カタリナ」
嬉しそうに見つめるジオルドに、鏡を見るように促される。
覗き込んだ鏡の中には、馬車の中が明るくなったように感じるほどキラキラとした金髪で縁どられた自分が映っていた。
――んん~…似合わないなあ……見慣れないからかな?
「いつもの茶色の髪ももちろん綺麗ですが、僕色に染まる君というのもいいですね」
なぜかジオルドはとても嬉しそうだ。
そのままジオルドは嬉々として髪を三つ編みにして、スカーフを被せてくれる。
――確かにカタリナ・クラエスとは気づかれないかもしれないけれど、貴族のお忍び感は増しているような……
出来上がりに満足そうなジオルドとは反対に首を傾げていると、コンコン、と御者が合図をした。
「おや、もうですか……カタリナ、この後馬車が止まったら、向かいに止まっている馬車に急いで乗り換えますからね」
「あの……どうして?」
「追手を撒く為ですよ」
なんかスパイ映画みたいだな。
ジオルドは私の肩に水色の薄手のショールを掛け、自分も茶色の革のベストを羽織った。
やがて道を曲がるとすぐに馬車が止まり、ジオルドの言っていた通り、目の前に別の馬車が止められていた。扉が開き、私とジオルドと同じ背格好で家を出る時と同じ服装をした男女が降りてきて入れ替わる。
「??」
急がされるままに馬車を乗り換え、元来た道を少し行くと、すぐに別の馬車とすれ違った。
――あれ? うちの馬車?
「顔は出さないで」
確かめようと覗き込もうとすると、ジオルドに口を動かさずに言われ、誰が乗っていたか見損ねてしまう。
「……行きましたかね」
「ジオルド様……?」
「君の義弟が必ず追いかけてくると思いましたが、案の定でしたね」
え? 今のあれ、キースだったの?
でもこの世界のキースなら、私の為にやりそうだ。
「少し大げさではありますが、どうしても君と二人きりで過ごしたかったのです」
本当に、髪色を変えたり馬車を変えたりまでするなんて、大げさだ。
なんでここまで――…。
「ジオルド様は、私に興味がなかったのでは?」
つい、口からぽろっと出てしまう。
「てっきり、私の事は見合い話を断る為の防波堤としか思っていないものと」
「…………」
驚いたように目を見開いたジオルドが、吹き出したと思うと笑い出す。
「え? あの……ジオルド様?」
ひとしきり笑ったジオルドはようやく笑いを治めると、ハーッと息を吐いた。
「まったく……僕の目も大概節穴ですね。こんなに面白い方と婚約していたのに、今まで気付かなかったなんて」
そう呟くと、真っ直ぐと私を見つめる。
「カタリナ、君の言う通り、僕は長らく君の事を誤解していました。ですが魔法学園で生き生きと輝く君を見て、僕の考えは間違っていた事を思い知ったのです。ですからどうか、今までの不誠実な態度を挽回させてください」
「ジオルド様……」
ここまで言われたら、いやとは言えない。
だけど――。
「もしかして、キースがいつもジオルド様を責めるような事を言うのを気にされているのですか? もしそうなら、私は別にそんなに気にしていないので……」
別にジオルドとの婚約を大事に考えている訳ではない、という意味で言ったのだが、ジオルドは曲解したらしくパッと顔を輝かせた。
「ありがとうございます、カタリナ。過去の事は水に流してくれるのですね」
なんか、ジオルドのこういう感じ、前回に近いなあ。
――って事は、実はいつの間にか結構仲良くなれてる!?
前回のようにジオルドと仲良くなれれば、きっと破滅エンドも回避できるはずだ。
やっぱり、キースには留守番してもらって正解だった。(まあ、こっそりついてきていたけど)
それにしても、どうもこの世界のキースは私の事を大切に思い過ぎている気がする。
今までずっとひとりぼっちだったから、自分を理解し寄り添ってくれる存在にすがってしまうのは仕方がないのかもしれない。
ゲームではきっと、それがマリアだったのだろう。
だから7年も耐えてきたカタリナに反発する勇気と心の強さが生まれたのだ。
けれどこの世界では、憎んでいたはずのカタリナへの気持ちが愛情に変わってしまった分、その想いは強く、少し歪んでしまっているように感じる。
人の目があろうとお構いなく触れたり抱き締めたりと、いつだってキースは私だけを求め、それ以外は何もいらないと考えているようだ。
それに魔法学園に入ってからもキースは毎日のように、放課後の教室や建物の陰、寮の部屋、敷地内の木陰で、人気がないと分かるや甘えたように「義姉さん、いいでしょ?」と見つめ、熱にうなされたように私を呼びながら身体を求め、火照る肌を重ねたがる。
――さすがに最後の一線だけは越えないよう、膣内射精だけは許していないけれど……
最近は姉弟だからと言ってもなかなか納得してくれず、本当はジオルドの事を想っているのではないかと疑っているみたいだ。
だからこそいつもジオルドを目の敵にし、できるだけ私に近づけさせないようにしているのかもしれない。
「カタリナ? どうかしましたか?」
「あ、いえ……風が気持ちいいので、少し物思いにふけってしまいました」
「そうですか」
にっこりと、ジオルドは微笑んで続ける。
「僕はまた、君が他の男の事を考えているのではないかと、嫉妬してしまいそうでしたよ」
「ま、またまた~、ジオルド様ったら冗談ばっかり!」
ドキリ、と立てた鼓動を誤魔化すように笑ってみせてから、窓から外を確かめた。
「ところで、私たちはどこへ向かっているのですか?」
「まずは昼食を。その後は適当に街をぶらぶらしたりお茶をしてから、メインイベントです」
「メインイベント? なんですか?」
「それは着いてからのお楽しみです」
人差し指を口元で立てて悪戯っぽく微笑むジオルドは、いつもの王子様然とした雰囲気とは違って、もっと同級生の男の子っぽい親しみやすい感じだ。
――ジオルドも、スパイごっこみたいで楽しいのかな?
「……そうだ、呼び方も変えないといけませんね。様付けでは身分が分かってしまいますし」
「なるほど」
「僕の事は“ジル”と。君の事は――そうですね、“リナ”でどうですか?」
「ジル様、ですか?」
「様をつけては駄目ですよ」
王族を敬称もなく呼び捨てていいのかな、と思いながら、恐る恐る呼んでみる。
「えっと、じゃあ……ジル」
「はい、リナ」
返事をしたジオルドがその響きを噛み締めるように浸っている。
「ああ、なんだかいいですね。この呼び方は僕たち二人だけの秘密にしましょう」
なんだかはしゃいだ様子のジオルドを、ちょっと可愛いと感じてしまう。
この世界のジオルドはゲーム通りの完璧王子で、ニコルとはまた違った意味で無表情というか、笑顔も“笑顔という仮面”って感じだけど、最近は結構素の表情を見せるようになってきた。
――ジオルドも、マリアと出会って変わり始めているんだな……
そんな事を考えていると、目的地に着いたらしく馬車が止まった。
「さあ、リナ。行きましょうか」
素早く降りたジオルドに差し出された手を取ると、そのまま恋人繋ぎにされて歩き出す。
「まずはパスタが美味しいと評判のお店で、昼食にしましょう」
湖畔でのお泊りは、もちろん男女別のお部屋です!
夜更けにメアリが、こっそり部屋を抜け出したとかしないとか。(´艸`*)ウフフ
髪の色を変える魔法道具、私も欲しいなあ…(ΦωΦ)イイナ~
『はめふら』では追いかけてきたキースに馬車を止められていましたが、この世界のジオルドは一枚上手だった模様。
次回、ジオルドと下町デート編です!