乙女ゲームのR-18ルートに突入してしまった… 《もしかしたら あったかもしれない『はめふら』R-18ルート》 作:帆速やこぬ
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私は、自分が嫌いだ。
ジオルド様に初めてお会いした時、こんなにも綺麗な男の子がこの世にいるのかと思った。
サラサラと揺れる金色の髪。蒼く澄んだ瞳。物語から抜け出たみたいに王子様そのものだった彼に、私は一目で恋に落ちた。
そんな素敵な男の子と二人きりで庭を歩く事に高揚し、緊張してしまった私は、派手に転んで額を切ってしまった。
ジオルド様もお父様もメイドもオロオロとして心配する様子に、大して痛くもないのに自分が大怪我をしたのだと錯覚し、大泣きしてしまった。
素敵な男の子の前でみっともなく転び、泣いてしまった恥ずかしさから、お見舞いに来てくれたジオルド様に半ば八つ当たりで“傷の責任を取って婚約してほしい”などと、私は馬鹿げた要求をした。
そんな子供じみた要求を、なぜかジオルド様は受け入れ、私はジオルド様の婚約者となった。
初めは、素敵な男の子から選ばれた事が嬉しかった。
王子様の婚約者になれた事を誇りに思った。
けれど、初恋はすぐに打ち砕かれた。
ジオルド様は私に会いに来てはくださらない。
ジオルド様の目は私を見てはくださらない。
顔は笑顔を作っていても目は全く笑っておらず、私に何の関心もない様子を見る度、子供心に小さく傷付いた。
本当に、ただ名ばかりの婚約者。
幼い頃には知らなかった色々な事が分かり始めると、クラエス家がどの派閥にも属していない事や、王族と婚姻を結びたい貴族たちからジオルド様の元へ、毎日山のようにお見合いの申し出が届いていた事を知った。
そう、私の申し出はジオルド様にとって、ただ“都合が良かった”のだ。
煩わしい見合い話を断る為のお飾り。
私はただそれだけの存在――道具だった。
でも私はそれでもよかった。
道具としてでも、私はジオルド様に必要とされている。
きっといつか、私を見てくださる日がやってくる。
そう信じる事が唯一の拠り所だった。
ジオルド様との婚約が決まった後、クラエス家を継ぐ為の養子の男の子――キースが来た。
キースの第一印象は“可愛い”だった。
子犬のような少し怯えた目をした綺麗な男の子。
本当は仲良くなりたかった。
けれどお母様は、キースは“下賤な不義の子”だから、仲良くしてはいけないと言った。
私にそう言った後、お母様は泣いていた。
私は、キースにつらく接するしかなくなった。
次第にキースが部屋から出てこなくなると、少しだけホッとした。
顔を合わせる事が減れば、つらく当たらなくて済む。
数年が過ぎても、婚約者であるジオルド様からは関心を向けてもらえないまま、義弟のキースからは嫌悪の目を向けられる関係は変わらなかった。
成長した私は、自分が王子の婚約者にふさわしくないと理解していた。
魔力はほとんどなく、礼儀作法も立ち居振る舞いもダンスも及第点ぎりぎり。
容姿もお母様譲りのつり上がった目にきつい顔立ちは愛らしさとは無縁で、周囲の目を引くような美しさもない。
中身のなさを高慢に振る舞う事で誤魔化してきた。
幼い頃から染みついたそんな振る舞いは、醜い事だと分かってはいても今更変える事などできない。
類は友を呼び、その中で身分の一番高かった私はいつの間にかリーダーのように扱われていた。
私は変える事ができない自分が嫌いで、好きな人から愛されない自分が嫌いだった。
魔法学園に入学すると、魔力のなさに加えて学力の低さも露呈された。
卑屈な気持ちを高慢さの仮面で隠しながら、それでもジオルド様にお会いする機会が増えた事が嬉しかった。
けれどそれは身を焼く嫉妬の苦しみの始まりだった。
マリア・キャンベル。
平民なのに光の魔力を持ち、学力も優秀。目を引く容姿。
何もかもが特別だった。
私の持っていない全てを持ったその彼女が、ジオルド様と出会ってしまった。
私には向けられた事のない、ジオルド様の優しい眼差し。作り笑いではない楽しそうな笑顔。
初めて異性に対して興味を引かれているジオルド様の様子は、言葉で言い表せないほどショックだった。
胸の痛みは、これまでとは比べ物にならない。
彼女を前にしたジオルド様の幸せそうな顔を思い出すだけで、熱い涙が頬を伝い、悔しさと虚しさで胸が押し潰されそうに痛む。
私と彼女は、まるで光と影だった。
たくさんいる土の魔力とは違う、希少な光の魔力。
平凡な茶色とは違う、ジオルド様に似た柔らかな金色の髪。
きつい目元と意地の悪い顔とは違う、守りたくなるような愛らしく優しい顔。
私にあるのは公爵令嬢という身分と婚約者という立場だけで、だけど公爵なのはお父様で、私の身分ではない。婚約者なのも名ばかり。
何も持っていない私と違い、一番欲しかったジオルド様の愛情を独り占めする彼女が憎らしくて、うらやましくて、気が変になりそうだった。
引き裂かれそうな心と膨れ上がる嫉妬を抑えられず、彼女につらく当たる日々。
それが更にジオルド様と彼女の絆を強くしていき、私自身を惨めにしていく。
だんだんと学園でもジオルド様と彼女の仲が公認となっていき、私の立場とプライドをズタズタにした。
取り巻きの令嬢たちの手前強がってみせながら、子供じみた嫌がらせはエスカレートして犯罪まがいにまでなり、取り返しのつかないところまできている。
――どうしてこうなってしまった?
このまま進むのはまずいと分かっているのに、引き返す事ができない。
私は張って、張って、もうこれ以上ないほど張りきった糸のように、ほんの少し誰かが触れれば切れる寸前だった。
そしてその瞬間は突然訪れた。
たまたま生徒会室の前を通りかかり、偶然開かれた扉の奥に見えた、楽しそうに笑い合う二人の姿。
それはいつもの、なんでもない光景だったのかもしれない。
けれど二人を隠すように扉が閉じられたその瞬間、ジオルド様と私の間にどうしようもないほど高い壁で遮られた気がした。
そして隔てられた壁の向こう側にジオルド様がいて、私はひとりぼっちだった。
プツリ、と何かが切れる音がした。
――これ以上ジオルド様に近づかないで! ジオルド様と結ばれるのは私だともう決まっているの! 私のジオルド様を盗らないで!!
どうやって部屋に戻ったのか、なぜ自分がナイフを手にしているのか、分からない。
あの女さえいなければ――そんな考えに支配され、気付けば私は彼女に襲いかかっていた。
振り上げたナイフから彼女を庇うようにジオルド様が立ちはだかり、軽蔑と嫌悪の視線を向ける。
私に無関心だったジオルド様の、唯一の感情が込められた視線。
けれど私の欲しかった感情ではない。
――私はただ、愛されたかっただけなのに
ジオルド様が抜いた剣が、私に向けられる。
振り下ろされる刃を見ながら不思議とどこか、ホッとしていた。
――ああ、ようやくこれで解放される――…
死の間際、考えたのは全く埒もない事だった。
――死ぬ前に一度くらい口づけされてみたかったな……
本当はその先だってしたかった。あなたが欲しいと望まれたかった。愛されたかった。
だから次はきっと、もっと素直で愛される性格に生まれ変わろう。
そして私を愛してくれる素敵な殿方を振り回して、たくさんの恋をしてやるんだ。
今まで、引き立てる為だけの存在でしかなかった悪役令嬢カタリナ・クラエスを、another storyのキース編、ジオルド編を書いてみて初めて、深く考えました。
”(カタリナを)好きになったから、いい方に解釈した”ジオルドとキースの心情の変化が、実は的を射ていたのかもしれないな、と。
嫌われ者って案外自分が嫌われている事を自覚しているもの。
そして嫌われている事にこっそり傷付いているもの。
高位の公爵令嬢なら平民の女の子を貶めるなんて自分の手を汚さずに簡単にできるだろうに、自らナイフを持ち出すほど前後不覚になるのは、それだけ傷付き、追い詰められていたからかな、と思いました。
悪役令嬢カタリナの願いは叶ったのか、生まれ変わったのが野猿で『はめふら』だったのか、もしかしたらカタリナファイブのエロ担当?――なんて考えてみるのも面白いかもしれません。
この後はR-18のextra story(ちょっとハードめ)になります!
もう少しだけお付き合いください! カモン(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾カモン