乙女ゲームのR-18ルートに突入してしまった… 《もしかしたら あったかもしれない『はめふら』R-18ルート》 作:帆速やこぬ
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「カタリナさん、もしかして何か悩みでもあるの?」
放課後の生徒会室。
生徒会長のシリウス・ディークが、いつものようにお茶を淹れてテーブルに置きながら、覗き込むように訊ねた。
「え?」
急な質問に戸惑っていると、会長は首を傾ける。
「ええっと……私、そんなに悩んでいるような顔、してましたか?」
「表情もそうだけど、なんとなく雰囲気が、ね」
慌てて頬を両手で隠すと、クスッと会長が笑う。
「今朝見かけた時からちょっと心配していたんだ。余計な事かとも思ったけれど」
――会長、優しい~
シリウス会長の人柄と気配りに感動していると、彼は言葉を続ける。
「僕でよければ、相談に乗るよ?」
「そんな! お忙しい会長の手を煩わせるなんて」
「気にしないで。下級生が悩んでいるなら、正しく導いてあげるのも上級生の務めだからね」
「でも……」
確かに、夢見が悪かったせいか、今朝からなんだか身体が重い。
――悩みかぁ……
悩んでいるといえば、一番は破滅フラグの事。
だけど、そんな事を会長に話しても頭がおかしくなったと思われるだけだよなぁ。
それ以外だと、目下のところ、親しい友人たちを相手にエッチな夢を見てしまうのが最大の悩みと言えば悩みだ。
「ごめんね。やっぱり余計な事だったね。カタリナさんには頼れる友人がたくさんいるんだし」
「いえ、そんな! 余計な事だなんて」
そう、会長の言う通り、頼りになる友人はたくさんいる。だけどこの事は親しいからこそ相談できない。会長が声を掛けてくれなければ、誰かに相談するなんて考えもしなかったけれど。
「あの……会長、本当に相談に乗っていただけますか?」
「もちろん」
「相談を聞いて、その……笑ったり、バカにしたりとか……しないですか?」
「真剣に悩んでいる人を笑ったりなんてしないさ」
優しい会長なら、相談に乗ってもらってもいいかも。
「えっと……」
とはいえ、なんと言えばいいのか言葉に詰まり、隣室で生徒会の仕事を進めているジオルドたちの話し声にちらりと目を走らせる。
会長は雰囲気を察して、微笑んだ。
「ここでは話しづらい?」
「……はい」
「じゃあ、後で僕の部屋に来るといいよ」
「私……変態なんでしょうか」
初めて入った、学生寮の会長の部屋。
淹れてもらったお茶を一口飲み、ホッと溜め息を吐く。
洗いざらい、とはいかなかったが、多少オブラートに包みつつ、親しい友人たちを相手にエッチな事をしてしまう夢を、何度も見てしまっている事を会長に話した。
「うーん、どうかな。思春期特有の誰にでもある悩みだと思うけれど」
「誰にでも? 会長も、あるんですか?」
相談中だという事を忘れて、ついポロッと聞いてしまう。
「え!? あ――…うん、その……第二次性徴を迎えた健全な男子なら誰もがあるっていうか、まさに真っ只中っていうか……」
軽く赤面しながら頬を掻く会長が可愛い。
ついニヤけてしまいそうになる顔をなんとか抑えていると、会長がややわざとらしく咳払いをして、話を進める。
「ええっと、前に何かの本で読んだんだけど、そういう悩みの原因のひとつに、劣等感や願望があるんだって。何か思い当たるような事はない?」
劣等感、というほどでもないけれど、私の友人たちはみんな顔も頭もよくて、魔力も高い。
悪役令嬢スペックの私と比べても仕方がないと分かってはいても、心のどこかで羨む気持ちがあるのかな…?
「……今まで意識してなかっただけで、もしかしたらあるのかもしれません……」
カタリナ・クラエスは、意外と素直に悩みを告白した。
――馬鹿な女だ。こんなに簡単に、他人に弱みをさらけ出すなんて
もちろんそんな思いはおくびにも出さずに、笑顔を作ってみせる。
「そうだね。そのほんの少しの劣等感と、“愛されたい、満たされたい”という欲求が潜在意識下にあって、そんな夢を見せている可能性はあるかもね」
「どうしたら、夢を見なくなるでしょうか」
「やっぱりそれは、カタリナさんが自分に自信を持つ事だと思うけれど」
「自分に、自信? でも私、学力も魔力も低いし、悪役顔だし……」
「悪役顔…?」
「えっと……目がつり上がっていて、意地悪そうな顔?」
「そんな事はないと思うな。カタリナさんはとても綺麗だと、僕は思うよ」
「!」
相談を始めてからずっと赤かった彼女が、更に耳まで真っ赤になる。
「あー…、ああ! 社交辞令ですよね。会長ったら、お上手ですね」
ひとり、うんうんと頷いて納得している彼女に、ふと、妙案が閃いた。
「うん……そうだ。それなら僕が証明してあげるよ」
「証明?」
「君が綺麗だと、僕が証明してあげる」
「――いらっしゃい。待っていたよ」
会長に夢の相談をした翌日の放課後、改めて会長の部屋にアンを伴って訪ねると、テーブルにはスケッチブックが置かれていた。
傍には黒い欠片のたくさん入った箱。
「会長、それは?」
「ん? ……ああ、これは素描用の木炭。これで絵を描くんだ」
「そうなんですね。仕切りで色々分けられているのはなんでなんですか?」
「材料になる木によって、書き味が違うからね。描きたい質感によって使い分けるんだ」
「へえ~~~」
間抜けな相槌で感心していると、会長は厚手の荒い生地でできたエプロンを着けた。木炭の色だろう、真っ黒な汚れや絵の具がたくさん付いている。貴族の子息らしからぬ恰好だが、私の畑仕事用の作業着に通じる無骨さと逞しさを感じて、親近感が湧く。
「結構、汚れるんだよね」
苦笑いしながら、丁寧に袖をまくっていく。
「――じゃあ、始めようか」
まずは、ポーズを取る事に慣れようという事で、最初は窓際に立つだけの簡単なポーズだった。
ザッと木炭を走らせ、じっとこちらを見ては、また木炭を走らせる。
いつもの優しい笑顔ではなく私を見る時のその目は真剣で、なんだか新鮮でとてもドキドキする。
「……それにしても、会長が絵を嗜まれるとは知りませんでした」
「うん? ……うん、あまり人に話した事はないからね。でも昔から絵を描くのは好きなんだ。こうして木炭や筆を走らせながら対象に向き合う時間は無心になれるからね」
「だから会長はいつも穏やかでみんなに優しいんですね」
「……うん……まあ……」
昨日、会長が提案してくれたのは、“私をモデルに絵を描く”というものだった。
ちょうど会長の方も、人物画に挑戦したいと思っていたところだったそうだ。
絵のモデルなんてした事がないし、放課後の2時間程度とはいえ長時間動かないなんて私には絶対に無理だと最初は断ったものの、会長の熱心な説得を受けて一晩じっくり考え、やってみようと決心したのだった。
「でも会長なら、誰に頼んでもみんな喜んでモデル役を引き受けてくれそうですけど……」
頼める人がいなくて、と言っていた会長は苦笑した。
「それが、困るんだよね……」
実際、ファンクラブの数人に頼んだそうなのだが、ファンゆえに部屋に二人きりになった途端、迫られたのだそうだ。当然、絵を描くどころではない。
「かと言って、外から呼ぶのも学園に誤解されそうだし……」
“外から呼ぶ”というのは、いわゆる娼婦の事。
裸婦を描く時、身近にモデルになってくれる人がいない場合は風俗のお姉さんを描くのが一般的らしい。
高級娼婦の凄い美人のお姉さんの中には、絵のモデルとして著名な画家と専属契約を結ぶ人もいるのだそうだ。
――美人って生き方もドラマチックなんだな……
「実を言うと、今までは静物しか描いた事がないんだ」
「セイブツ? 生き物ですか?」
「花や果物なんかの動かないものだね。だから僕も、人物画は初めて」
会長の才能が開花するのを手助けできるのなら、やり甲斐もあろうというもの。
「会長のお役に立てるのなら光栄ですわ」
「ありがとう」
会長は花が開くようににっこりと笑った。
「今日は、カタリナさんの顔を描こうと思う」
ここ3日ほど普通のポーズを描いていた会長が、笑顔で告げる。
ついに、この時が! ……というのは大袈裟だけど、“綺麗だと証明する”と言われているので、どうにも緊張してしまう。
「……カタリナさん、もう少し、リラックスして」
「はい!!」
勢いよく返事はしたものの、自分でも顔に力が入ってしまっているのが分かる。
会長はしばらく木炭を動かしていたが、やがて苦笑いを浮かべた。
「少し気分転換しようか。お茶を淹れてくるね」
会長はアンの分のお茶も用意してくれ、「あなたも、どうぞ」とテーブルに並べる。
困ったようにアンがこちらを見るので、うんうんと力強く頷いて見せる。
「会長の淹れてくれるお茶は、すっごく美味しいの! アンにも一度、ぜひ味わってもらいたいわ!」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
なんだか複雑な表情で椅子に座り、カップを手に取った。
「!!」
一口お茶を飲んだアンが、カッと目を見開いた。ズイッと真剣な表情で会長に迫る。
「今度、お茶の淹れ方を教えていただけませんか!?」
……その日は結局、どうしても表情が硬くなってしまうので顔を描く事はひとまず諦め、カップを持つポーズを描いてもらった。
モデルを始めて数日、会長が初めて、今日まで描いた数枚の練習画を見せてくれた。今まで“まだ見せられる段階ではないから”と頑なに見せてもらえなかったのだ。
「どう……かな?」
会長が弱気な感じで訊ねるのは凄く珍しい。
「………てき」
「え?」
「すっごく素敵です!」
わあーわあーと意味もなく歓声を上げてしまう。
「ねぇ、アン! アンもこっちに来て、見て見て!」
壁際に控えていたアンが近づき、絵を覗き込むと「まあ……」と感心したように声を上げる。
「わたくしはあまり芸術に明るくありませんが、お嬢様がとても素敵に描かれている事は分かります」
線はまだざっくりと荒く、細かいところまでは描かれていないものの、本当に人物を描いたのは初めてなのかと疑ってしまうほど、空気感を切り取っていた。
憂いを帯びた雰囲気で窓の外を眺めていたり、椅子に浅く腰掛けていたり、本を開いていたりと、絵の中の私は大人っぽくていい感じだった。
――まぁ、だいぶ美化してくれてるっぽいけど……
それでもちゃんと私だと分かる感じには描いてくれているので、凄く嬉しい。
あまりに嬉しくて、半ば本気で「額に入れて、部屋に飾ろうか」とアンと二人頷き合っていると、赤くなった会長に慌てて止められる。
「これは、本当に練習というか慣らしで、人に見せられるようなものではないし、ましてや飾るようなものではないから! これから描くのが習作で、それを元に構図を決めて、その後にようやく本番」
「そうなんですか」
素人目には充分素敵に描いてもらっているのでオッケーなのだけど、描いている本人が満足していないのなら仕方がない。
鍬を振るっているところも描いてもらえないかしらなどと思っていると、会長はアンに向き合った。
「一応確認しますが、カタリナさんはドレスをひとりで脱いだり着たり、できますか?」
「難しいかと存じます」
「今日からはドレスを脱いでもらうので、あなたの協力が不可欠になりますし、婚約者であるジオルド王子にやましい事がないと証明する意味でも、あなたには描いている間はこちらにいてもらう事になりますが、大丈夫ですか?」
「お嬢様から聞いておりますので、大丈夫です」
――会長、さすがの気配りだわ
本当ならジオルドに一言伝えておけばいいだけの話だけれど、ジオルドの事だから絶対に頻繁に冷やかしに来るだろうし、そうすると他のみんなもついてくる事になる。会長の集中を妨げるのは本意ではないし、そもそもは私の劣等感から始まった話だ。なので絵が完成するまでは、会長と私とアン以外には内緒にしておいた方がいい、という結論になった。
「では僕は寝室にいますので、ガウンに着替えたら呼んでください」
会長が扉を閉め、アンが手早くドレスを脱がしてくれている間、会長の部屋を改めて見回す。
調度品の類は貴族の子息らしく品があって高級品ばかりだが、物自体が少なく、無駄な物が見当たらない。生活感がない、という印象だ。
唯一、部屋の主の個性を象徴するものといえば、絵の道具とお茶を淹れる道具くらいだろうか。
さすがのアンはあっという間に全て脱がせてガウンを羽織らせ、準備を整えると会長が待つ部屋の扉をノックする。
この数日でポーズを取る事にも慣れたし、会長もあまり長時間同じポーズは取らせずサッと描き上げるように気を遣ってくれたり、こまめに休憩を入れてくれる。
会長に付いている使用人には、絵を描いている間は入ってこないよう厳命してくれていて、人目を気にする心配もない。
絶対に無理だと思ったけれど、優しい会長のおかげで、なんとかいけそうだ。
「よーし、頑張るぞ!」
「まずは色々なポーズでスケッチをして、いいのを選ぶ事にしようと思う。大丈夫、ポーズのリクエストはするけど、裸だし、無理強いはしないから。カタリナさんが絶対に嫌だと思ったら、断ってくれて構わないよ」
「いえ! 会長にお任せします!」
「そう? じゃあまずは、そこの窓際で背中を向けて立ってもらおうかな」
言われた位置で立つと、ガウンを脱いでアンに渡す。
――私、今、男の人の前で何も身に着けずに立っているんだ……
背中を向けているとはいえ、気付いてしまうとなんだか気恥ずかしくなってしまう。
静かな部屋に、木炭の走る音だけが響く。
しばらくそうしていて、少しずつ緊張の糸が解けてきた頃、会長が声を掛ける。
「カタリナさん、次はその位置のまま顔だけ振り向いてくれる? ……うん、いいね。右手は窓に添えて……そう、そんな感じ。あ、上半身は捻り過ぎないで、目線は……そこの花瓶を見て」
会長のリクエストは具体的で分かりやすい。
「いいよ……凄く綺麗だ。この時間の逆光、凄くいいな……」
綺麗、という言葉に一瞬喜んでしまったが、光の具合に対するものだと分かり、ちょっとがっかりする。
「――うん」
描きながら、突然会長が頷いた。
「会長…?」
「……畑仕事のおかげなのかな。カタリナさんは凄く、線がいいね」
「線?」
「なんて言うのかな……体幹がしっかりしていて、立ち姿が綺麗なんだ。それに肩の線も背中の適度な筋肉の付き方も、本当に綺麗だよ」
――褒められちゃった…!
社交辞令以外で容姿を褒められた事などほとんどないので、嬉しさで舞い上がってしまいそうになる。ポーズを取っていなければ、会長に抱きついていたかもしれない。
「なにか、この線を活かす衣装を着てもらってもいいかもな……」
私を真っ直ぐに見ながら、今、会長の頭の中では色々な衣装を着せているのだと思うと、なんだか変な気分になってくる。
――エッチな衣装とかも着せたりしてるかな…?
会長がそんな事をする訳ないと分かっているのについ妄想してしまい、自分を戒める。
――ばかな事考えない! 会長は私の為に、考えてくれているのに!
でも、年頃の男の子の部屋に、女の子が裸でいるのだ。何もないなんて、それこそちょっと自信をなくしてしまう――って、ばかばか! そうじゃないでしょ!
アンビバレンスな感情に悶えていると、会長が不思議そうな顔をする。
「――カタリナさん? 百面相して、どうしたの?」
「な……なんでもないです……」
しばらくすると秋の陽も傾き始め、少し肌寒くなってきた。
――窓際にいるからかな……
でも真剣に絵を描いている会長に声を掛けるのははばかられる――と思った瞬間、くしゃみが出た。
――いけない、いけない。ポーズ崩しちゃった……
グスっと鼻をすすってから姿勢を正し、会長を見ると、スケッチブックから顔を上げた途端に固まり、赤くなった。
それに胸の辺りを凝視してる?
「会長、どうかしました?」
「あの……カタリナさん、その……ちく…先っぽが見えて……」
――先っぽ?
会長の視線を追って胸元を見下ろし、理解した途端に顔に血が上る。
「あ!? え!? し、失礼しました! お見苦しいものをお見せして…!」
アンが慌てて駆け寄り、ガウンを着せてくれる。
「見苦しい? そんな全然、凄く可愛らしい、いいものを見せてもらって――って、いや、何を言ってるんだ僕は! 違くって! 違わないけど! 今言った事は忘れて!?」
普段穏やかでいつもにこにこ優しい会長が、顔を真っ赤にして慌てている姿は、普通の男の子っぽくて可愛いかった。
ついこちらも、えへへと笑ってしまう。
――乳首が可愛いって言われちゃった……
「ごめんね、カタリナさんだけ裸だもんね。寒かったよね。明日からちゃんと部屋の温度に気を付けるから、モデル、続けてもらえるかな…?」
凄く申し訳なさそうな会長に、両手を振る。
「そんな全然大丈夫です。こちらこそ、ぜひ続けさせてください」
――危なかった……
せっかく誘い込んだ獲物を危うく逃がしてしまうところだった。
カタリナ・クラエスたちが部屋を後にするのを笑顔で見送ってから、ソファに倒れ込むように身体を預ける。
目を閉じれば、浮かぶのは先程の彼女の姿。
寒かったせいかツンと勃った乳首と柔らかそうな丸みを帯びた乳房、滑らかな肩のライン。腰のくびれ。
夕暮れの逆光で女性らしい輪郭が鮮烈に浮かび上がり、艶めかしく肌を輝かせていた。
くしゃみの後のちょっと情けなさそうな表情も、可愛かったな……。
ズキリと下半身に痛みが走り、見下ろすとズボンの前が張ってしまっている。
――あんな程度で!? ほんの少し、胸が見えただけじゃないか…!
そう思いながらも目に焼き付いてしまった彼女の姿がどうしても脳裏にチラつく。
ふと、ソファの端に置かれたきちんと畳まれたガウンが目に入る。
彼女の着たガウンを手に取ると、微かだが彼女の香りがし、気付けば顔をうずめていた。
一層下半身が張り詰める。
――これは、そう、あれだ。思春期ゆえの反応であって、別にカタリナ・クラエスに欲情している訳では決してない
自分に言い聞かせながらも、つい想像してしまう。
あの唇をふさぎ、舌を絡ませながら、思う存分柔らかな身体を隅々まで愛撫して、深く彼女と繋がり奥の奥に自分を注ぎ、満たす。
腕の中で喘ぎ、悶え、潤んだ瞳でもっと欲しいと甘えてねだる姿まで想像し、どうにも収まりそうもない昂りを鎮める為に、ベルトを外した。
裸でのモデルが始まってから数日の間、様々なポーズを取った。
もちろん会長は、角度や光の加減、シーツや小物を絶妙に配置する事で、バストトップや下半身は見えないように工夫してくれている。
人物を描く事に慣れてきた会長は、描くのがとても早くなっていた。時折覗かせてもらう度、荒い線で描かれているにもかかわらず触れたら柔らかそうな質感まで表現されていて、モデルに選んでもらえた事を誇りに思ったりしていた。
――でも……
ちゃんとこなせている、と自分では思っているけれど、最近の会長はひとつひとつのポーズを描き上げる時、いつも“少し何か足りないな?”という顔をしている気がする。それに描いている途中にも、よく小さな溜め息を吐いている。
考え過ぎかもしれないけれど、せっかく描いてもらうのだから私にできる事は全力で協力したい。なのでアンが少し遅れる今日は、思い切って言ってみようと朝から心に決めていた。
「――あの、会長…!」
「カタリナさん? どうかした?」
「私、どんなポーズでも取るので、なんでも言ってください! 会長が何も隠さずにポーズを取れと言うならやりますから!」
こちらの剣幕に驚いた会長が、慌てて両肩に手を置く。
「わ、分かったから、少し落ち着いて。とりあえず、今お茶を淹れるから」
ティーカップを置いてから、会長は向かいのソファに座る。
「どうして急に、そんな事を言い出したの? カタリナさんはちゃんと僕のリクエストに応えてくれているよ?」
「でも、最近の会長の絵……」
「絵?」
「私の顔、描いてくれていないじゃないですか…!」
そう。少し前から、描かれるのは首から下か顔の輪郭を取っただけだ。
「それは、ポーズを決める為のラフスケッチだからであって、深い意味はないよ?」
「…………」
――嘘…!
言いたかったが、これまで積み上げたものが壊れそうで言えなかった。
“綺麗だと証明する”と言ってくれた会長が、描く価値がないと見限ってしまったのではないか、描く事を諦めてしまったのではないか。そう思うと胸がえぐられるように痛む。
目頭が熱いと思った瞬間にボロッと涙がこぼれた。
「カタリナさん!?」
――泣くつもりなんてなかったのに…!
「あ、あれ…? あはは……なんで私……」
こんな――こんなの、私らしくない。それに男の人は泣かれるのを嫌がるって聞いた事がある。これじゃ会長を困らせてしまうだけだ。
会長が無言で立ち上がった。
「す、すみません、会長。私、そんなつもりじゃ――…」
何が起きたのか、よく分からなかった。気付いた時には、私は会長の腕の中にいた。
トク、トク、と会長の鼓動が聞こえる。
――温かくて、落ち着く……
「会……長……」
困ったように微笑む会長を見上げ、少しの間見つめ合う。そのまま私は、そっと目を閉じてしまった。
どうしてそんな事をしてしまったのか、自分でもよく分からない。これじゃまるで、キスをしてほしがっているみたい……。
ほんの少し、腕を掴んだ会長の手に力が入り、顔を寄せる気配がした。思わずピクリと身をすくめると、ハッとしたように力が抜ける。
「――悪い娘だね。王子の婚約者が、そんな風に上級生を誘ったりしてはいけないよ」
会長が耳元で囁く。
「だから……今はこれで我慢して?」
頬に優しいキスをひとつ。
温かな唇は、頬から離れても優しい温もりを残した。
胸が痛い。さっきとは違う、キュウっと締め付けられるような甘い痛み。
そっと会長を見上げると、一瞬ハッとしたように目を見開き、ゆっくりと会心の笑みへと変わる。
「ああ……いいよ、その表情。その顔が欲しかったんだ」
涙の跡を指でそっと拭い、まぶたに優しくキスをする。
「どうしたの? カタリナさん?」
からかうような口調。
「もしかして……唇じゃないと、物足りない?」
「はい……」
恥ずかしいのに、素直に頷いてしまう。
「ふふ……素直だね。……いいよ。だけど――」
会長が、人差し指を口元で立てる。
「――誰にも話してはいけないよ?」
秘密のキスをした日から、ポーズが少し大胆なものに変わった。
中には結構きわどいポーズもあって、かなりドキドキしてしまったけれど、やると言った以上は全力で臨むつもりだ。
何より変わったのは、ポーズを取る前に必ず、会長がキスを――唇にではなく頬や額に――してくれるようになった事だ。
「決して、ジオルド王子に顔向けできないようなものではなく、友人としてのキスしかしませんので」
アンにも会長から話をし、説得してある。
反対されると思ったので、アンが簡単に受け入れたのは正直驚いた。
温かくて柔らかな唇がそっと押し付けられると、その温もりにぽわんとしてしまう。
その顔が会長の求めていた表情らしい。
そんな顔を描かれるのは凄く恥ずかしいけれど、会長のどこか不器用で優しいキスにドキドキしている事にインスピレーションを感じたというのなら、私は受け入れるだけだ。
ただどうしても、温かな唇が離れる瞬間に寂しさと物足りなさを感じてしまう。決して唇には触れない事が会長の誠実さを表しているのと同時に、もどかしくて切ない。
――会長は、私の事をどう思っているんだろう……
キスの後、見つめ合う瞳の中。
頬や額、まぶたに触れる優しい感触に会長の愛情を確かに感じる。
私を大切に想ってくれていると思ってしまうのは、自意識過剰なのかな……?
そっと会長を見ると、スケッチブックから顔を上げた会長が真っ直ぐにこちらを見る。
いつも生徒会室で見せるものとは違う、真剣な表情。
それが描く為に対象を観察しているに過ぎないと分かっていても、見つめるその視線に愛撫されているような気分になってしまう。
隠している事も何もかもを見透かされている気がしてそわそわと落ち着かないのに、もっと見てほしいと思う。私だけを見つめてほしいと、異性として見てほしいと願ってしまう。
――会長は気付いてもないんだろうな……こんなに私が色々考えているなんて……
それとも女の子に迫られ慣れていて、見る事にも見られる事にもなんとも感じなくなってしまっているのかな……。
その日もアンが用事で遅れるというので、ひとりで会長の部屋を訪れた。
扉をノックしたが、返事がない。
――あれ? 変だな。いつもの時間なのに……
「失礼しまーす……」
そおっと扉を開けると、長椅子の背もたれから赤い髪が少しだけ見えた。
「……会長?」
椅子の前に回り込んでみると、小春日和の暖かな日差しを浴びて、会長は眠っていた。
分かる。お昼寝日和だよね~。
アンが来るまで私も寝ちゃおうかなどと考えながら、会長の眠る顔を覗き込む。
――可愛い……
年上の男性に対して失礼かもしれないけれど、他に形容のしようがない。こうして見ると、攻略対象でもおかしくないほどの美少年だと改めて思う。
光に透ける綺麗な赤い髪はふわふわしていて、思わず撫でたくなってしまう。
誰も見てないし、ちょっとくらいなら……。
「………ん……ぅう」
――あれ、会長……うなされてる?
眉間にシワを寄せて、歯を食いしばっているように見える。
「……さんっ――…母さんっ…」
涙が頬を滑り落ちた。
苦しそうな様子を見ていられず、気付いたら私は、会長の頭を引き寄せて抱き締めていた。
「大丈夫です……大丈夫ですよ、会長……傍にいますから……」
そんな風に囁き、ふわふわの髪を撫でていると、やがて会長は安心したように落ち着いた寝息を立て始めた。
――よかった……でも、“母さん”って……?
凄く悲痛な感じだった。涙の跡を消すように、そっと頬を指でなぞる。
貴族の子息である会長は、お母様の事を“母さん”とは呼ばないはずだ。呼ぶとしたら、それは――…。
ひとつの可能性に思い当たり、思わずハッとする。
会長ってもしかして、キースみたいに別に本当のお母さんがいて、無理矢理引き離されたとか、何か複雑な事情があるのかも……。いつも穏やかで優しい会長にも、色々あるんだ……。
それに、そうだとしたら会長は、凄く強くて優しい人だという事だ。
でも――…。
――もしかして会長は、いつも、ひとりで泣いていたの?
そう思うと胸が痛い。
私にとってはもう、昔からの友人と変わらないくらい親しく感じている。言ってもらえれば、できる事ならなんでもするのに。
抱き締め、涙の跡にキスをしてもう一度囁く。
「……大丈夫。何があっても、私は会長の味方ですよ」
夢を見ていた。
いつもの嫌な夢――忌まわしい、僕の過去。
いつもなら苦しくて悲しくて、ただ無力感にさいなまれて目が覚める夢だが、今日は少し違った。
“何があっても、ずっと傍にいる”
そう囁いてくれる人がいた。
真っ暗な世界を照らしてくれる人がいた。
温かくて優しい、そして愛おしい声――。
今まで感じた事のない穏やかな気持ちで目を覚ます。こんな風に目覚めるのは子供の頃以来だ。
――何か、温かいものを握って……?
そこでようやく、カタリナ・クラエスが隣に座り、並んで眠っている事に気が付く。
スウスウと寝息を立てる彼女は、すぐに目を覚ましそうにない。
――今なら、触れられる……
部屋には二人きり。見咎める者は誰もいない。
そう思うと急に鼓動が早まり、唇しか目に入らなくなる。
体勢を変えようとした時、彼女と手を繋いでいる事に気付いた。
「ん……」
肩に彼女がもたれてきた。心地良い重み。耳元にくすぐったい寝息。手の平から伝わる温もり。
思わず微笑んでしまう。
あと少し、もう少しだけ、このまま――…
「……タリナさん……カタリナさん」
よく眠っているカタリナ・クラエスを揺り起こすと、ようやく彼女は目を開いた。
「んぁ? 会長? ここは……」
どうやら寝ぼけているみたいだが、急に状況を理解したようにハッと息を飲んだ。
「! ……すすす、すみません、会長! 日差しが気持ちよくって、つい…!」
「あ―…いいよいいよ。僕が先に寝てしまったのだし。それより……」
手を上げて見せると、彼女の指が絡められている。
「とりあえず、この手を離してもらっても?」
「すみません! 会長がうなされていたので、昔キースにしてあげたみたいに手を握って、そのまま私も寝ちゃって!」
しきりに謝るカタリナ・クラエスにひとつだけ確認する。
「カタリナさん……僕がうなされている時、何か言っていなかった?」
「あー…ええっと……特には何も――?」
「そう……」
――嘘が、下手だな……
ふっと笑ってしまう。
それは決して不快ではなかった。
アンも来たところで、まずは恒例のお茶を飲む。
毎回、今日はどんな風に進めようとか、明日以降のスケジュールを確認したりとか、ちょっとしたミーティングのような事をするのだ。
「…………」
なんだろう……。さっきから会長の視線が気になる。
勝手に手を握った上に、隣で寝たりして、気持ちが悪い奴だと思われたかな?
「……ちょっとごめんね、カタリナさん。よく見せてくれる?」
「!?」
急に立ち上がった会長が傍に来て両手で頬を包み、グッと顔を近づける。
「カタリナさんの一番のチャームポイントは、やっぱりその綺麗な水色の瞳だと思うんだ」
――会長の方こそ、凄く綺麗な灰色の瞳……
そうでなくても近いのに、更に瞳を覗き込む。
「この色をどうやって出すか、そろそろ具体的に考えておかないと……青系統の絵の具と顔料は片っ端から用意して、それと――」
「かっ、会長…!」
――近い近い近い近い近い…!
頬に血が上り、心臓の音が聞こえてしまうのではないかと心配になる。
アンが受け皿にカップを置いて、咳払いをした。
「あ! ご、ごめんね、カタリナさん。つい夢中になってしまって」
「い、いえ! 会長が真剣に向き合ってくれている証拠ですから!」
パッと会長が離してくれたのが、ちょっとだけ残念と思ってしまった事は内緒だった。
――何がいけない、と言われれば、その目がいけない
綺麗な水色の瞳で、真っ直ぐに曇りなくただひたすらに信頼を込めて見つめる、その目がいけない。
なんの衒いもなく微笑む、開けっ広げで明るい笑顔がいけない。
彼女の笑顔を見るだけで胸に温かなものが流れ込み、昏い目的を忘れそうになる。
それだけは駄目だ。絶対に駄目だ。
母さんの最期の言葉――最期の願いを叶えるまでは、色恋などに現を抜かす余裕などない。
だから彼女の相談に乗るふりをしてその心を懐柔し、利用し、排除するはずだった。
なのに。
気付けば、彼女の姿に見惚れ、目が離せなくなっていた。本当は、その肌に触れたくてたまらない。腰に手を回して抱き寄せ、あの首筋に顔をうずめたくなるのを、ベッドに押し倒したくなる衝動を何度抑えつけた事か。
見つめれば見つめるほどに彼女を綺麗だと感じ、誰よりも深く彼女を理解しているのは自分だとさえ錯覚する。
とっくに、僕の心は彼女に奪われていた。
何か間違いの起こらぬよう彼女付きのメイドを同行させた事が、今となっては恨めしい。
もし他人の目がなければ、とっくに手を付けていただろう。
それだけに今は、二人きりになってしまう事が怖い。これ以上近づいたらどうなってしまうのか、自分でも分からない。
放課後、彼女に向き合えるわずかな時間。
それがこんなにもかけがえのない時間になるとは想像もしていなかった。
だが、自分には罪がある。陥れる為に弄した策で、彼女を傷付け、汚してしまった罪が。
彼女に触れる事ができるのは、その罪を償ってからだ。
「だから……」
「会長?」
今はこの絵を完成させる。
「――最高に綺麗なカタリナさんを、最高の出来で描き上げよう」
「……少し休憩にしようか」
構図が決まり、下絵が始まった。
会長は構図でだいぶ悩んでいたけれど、結局決まったのはシーツで絶妙に大切な部分を隠しながらベッドに横たわるポーズだった。
「すみません、会長。このままちょっとだけ……10分だけ眠らせてもらっても?」
昨日の夜、よく眠れなくて、と言い訳すると、会長は快く承諾してくれた。
会長とアンが寝室を出ていった事を確認すると、枕を抱き締める。
――会長の、匂いがする……
この数週間、みんなに内緒で絵のモデルをしている事が、内緒で会長と付き合っているみたいな気分になっていた。
もちろん会長にそんな気がないのは分かっているけれど、見つめられ続けるうちにそんな錯覚をして、放課後のほんの少しのこの時間がとても大切になっていた。
――錯覚でもいい。だって今、凄く幸せ……
大きな枕を抱き締め、まるで会長に抱き締められているような幸福感でいっぱいになる。
悩みを聞いて、解決しようしてくれた事。普段見せない顔を見せてくれる事。私だけを真っ直ぐに見つめてくれる事。いつも優しい味のお茶を淹れてくれる事。自分の苦しさを見せずに人に優しくできるところ。穏やかな物腰に優しい笑顔。綺麗な赤い髪にキラキラした灰色の瞳。それに――秘密のキス。
たった1回の、プラトニックなキスだったけれど、それでもふとした瞬間に思い出してキュッと胸を痛めるには充分だった。
裸の私が寒くないように、部屋の暖炉には火が入れてあった。暖かな部屋で会長の匂いに包まれて、ついウトウトしてしまう。
――どうしたら、会長に心を開いてもらえるのかな……
泣きながら眠っていた会長に、私がいると伝えたい。ひとりじゃないと信じてほしい。
――どう……したら……
眠っちゃだめだと自分に言い聞かせながらも、静かな水の中にゆっくりと落ちていくような感覚に抗えなかった。
自分の枕が抱き締められているのを見たら、いくら会長でもドン引きだ。
そう思いながら、すうっと眠りに落ちてしまった。
――これ、なんの音だっけ…?
ここ最近、よく聞く音だ。ええっと……。
心地良いまどろみの中、ゆっくりと覚醒する。
――私、どのくらい眠って…?
数秒しか経っていない気もするし、何時間も眠ってしまったような気もする。
少しずつ意識がはっきりするうちに、さらさらと木炭の滑る音に気が付いた。
静かな部屋に木炭の音だけが響き、時折それが止んで沈黙が降りるのが好きだ。
「……会長」
「わっ」
急に呼ばれて驚いた会長が木炭を落としそうになる。
「起こしちゃったかな。ごめんね、カタリナさん。勝手に始めてた。眠っている姿がとても綺麗だったから……」
「綺麗……」
寝起きにそんな言葉、反則過ぎる…!
部屋には二人きりだった。――二人きり?
「あの……アンは?」
「うん、何かやらなきゃいけない事があったとかで、少し席を外すって」
「私、どのくらい眠ってました…?」
「20分……30分くらいかな。陽が落ちるまでまだまだ時間はあるし、もう少し眠っていてくれてもいいよ」
「……会長、私が眠ったら……」
「ん?」
「変な事、しないですか?」
「し、しないよ!?」
会長の匂いに包まれてふわふわと幸せな気持ちで寝ぼけたまま、お目付け役のアンがいない事実が私を少し大胆にした。枕を抱いたままベッドに起き上がる。
「会長は、部屋に二人きりで、自分のベッドに裸の女の子がいるのに、なんにもしないんですか…?」
会長は困ったように微笑むと、木炭で汚れた手を拭い、エプロンを外した。ベッドの端に来て座ると優しく頭を撫でる。
「前にも言ったでしょ。王子の婚約者がそんな風に誘うような事を言っては駄目だって」
「でも、一度だけキスをしてくれました」
「あれは――そうだね。僕が悪かった」
「会長は全然悪くないです。私の為にしてくれたのですし。だけど男の人に裸を見られるのって、信頼している会長が相手でも結構恥ずかしいし、その……」
抱き締めた枕から上目遣いで会長を見る。
「変な、気分に……なってしまうんですよ?」
「……!」
会長がちょっとたじろぐ。
「そんなに――煽らないでカタリナさん。僕だって男なんだよ? それとも――」
ベッドに手をついて、会長が顔を寄せた。
「男だと思っていない?」
「思ってなかったら、毎日会長の部屋の前で、ノックする前に深呼吸してないです」
「あ――……」
片手で口元を覆った会長が、目を逸らしてゆっくりと息を吐く。耳が赤い。
「カタリナさん――分かっていて、言ってる? そんな風に男を煽って、これからどんな事をされるか、本当に分かってる?」
「私は――…」
最後まで、言わせてもらえなかった。
覆い被さる会長に組み敷かれ、唇をふさがれ、少し乾いた唇が何度も何度も重ねられる。
「……違うでしょ、カタリナさんのしたかったキスは? ほら――吸って」
会長が、舌を出した。
いつもの穏やかな笑顔とも、絵を描いている時の真剣な顔とも違う、色っぽい表情。
会長の首に腕を回して顔を引き寄せ、舌先を吸う。そのまましっかりと唇を合わせて貪り合った。
「んっ……ん……」
――舌を絡ませて、吸い合うのって、なんでこんなに気持ちがいいんだろう…?
ジンジンと敏感になっていくあそこに耐えられず、軽く膝を上げる。
「「!」」
――ビクンビクンしてる……
脚を動かして太ももに軽く当たった会長の股間が硬く、脈動していた。でも見た目は全く膨らみはない。
「? ……?」
「ごめん。本当言うと僕も限界だった」
「このひと月、君が来た日は毎日こうだったよ」
もどかしく服を脱ぎ捨てると、下半身には何重にも硬い布を巻き付けてある。彼女の裸体にどうしても反応してしまう下半身を悟られないようにする為だ。それに、硬い布でできたエプロンを着けていなければ、とっくにばれてしまっていただろう。
「こんな欲望の目で君を見ていると知られたら、軽蔑されると思ったから」
締め付ける全てから解放された男性器は、血管を浮かせながらビクビクと膨れ上がっている。
「あ……」
カタリナさんはポウッと上気した顔で下半身から目を離せずにいた。
「本当に、今まで必死に隠してきたんだ。でも君が僕と同じ気持ちなら、もう我慢はしない。だから――」
悪戯っぽく微笑む。
「――覚悟して?」
会長は私の身体に巻き付いたシーツを剥がすと、舐め回すように身体中を見た。絵の対象ではなく剥き出しの欲望の視線に晒され、身体がきゅんと疼く。
「――綺麗だよ、カタリナさん……僕もずっと、触れたかった……」
指先から腕、肩、耳も首筋も胸元にもたっぷりとキスをしながら、身体の輪郭をなぞるように愛撫する。
この数週間、会長に目で愛撫され続け、ようやく触れてもらえる期待で、身体中が昂っていた。
「んんっ…!」
会長の手が気持ちよ過ぎて、撫でられるだけで気が変になりそう…!
「前に見えてしまった時も思ったけれど――可愛いね、ここ。こんなに期待で膨らんで、硬くなって……」
焦らすように敏感な部分を避けていた会長の手が、ようやく乳房を揉みしだく。
「ふぁっ…! あっ…あっ……」
ゾクゾクと身体の芯に甘い電流が走る。
「想像してた通り、柔らかくて指が沈んでいくのに、跳ね返すみたいに凄い弾力……。それに、感じ過ぎて先がこんなに硬く、充血して……凄く、美味しそうだ……」
チュッと会長が乳首に吸い付き、それだけでイッてしまいそうになって腰が浮いてしまう。
口に含んだ乳輪を吸いながら、普段の会長からは想像もできないほどいやらしく舌を使って乳首を責める。
「……女の子の身体ってこんな風に滑らかな曲線で繋がっているのに、乳首だけはツンと突き出していて、まるで“ここを苛めてほしい”って主張しているみたいだよね」
「ぁああ! 凄いの、会長っ…乳首、気持ちいいっ!」
「ふふ……乱れる顔も可愛いよ、カタリナさん」
乳首を弄りながら、反対の手が下腹部へと滑る。スリスリとおへその下や太ももの内側を撫でる手は、また敏感な部分に触れてくれない。
――切なくて、おかしくなってしまいそう…!
「会長……焦らさないで、気持ちいいところ、触って、ください」
「気持ちいい、ところ?」
会長が優しい笑顔で、意地悪を言う。
「気持ちいいところってどこかな?」
「え?……」
「どこに触れてほしいの? カタリナさん」
「あ……えっと……」
「口で言うのが恥ずかしい? じゃあ、触れてほしい場所を指で広げて見せてくれる?」
――指で、広げて!?
「そん、な事、できな――あぁっ」
ちゅっと強く乳首を吸われながら焦らすように太ももを撫でられると、会長に触れられたいという欲望以外、何も考えられなくなる。
「この数週間、ずっと君の身体を見てきたけれど――触れてほしい部分は、僕がまだ見た事がない場所だよね? カタリナさんの全てを見せてほしいな」
会長が、私の大事な部分を見たがっている……。でもそんな恥ずかしい事、自分でなんて――でもでも、見せないと、会長、シてくれないかもしれない……。
「ぁ……あ……」
恥ずかしさで震える両手を下半身に伸ばし、ひだを広げて押さえる。
「会長に、ここ――弄ってほしい、です」
顔から火が出そうなほど恥ずかしいのに、その恥ずかしい部分を会長の前にさらけ出した先にある快楽への期待に抗えなかった。
「――よくできました。なんて言うか、凄くゾクゾクする光景だね……貴族令嬢が恥ずかしい部分を自分で広げて見せるなんて」
「会長の、意地悪」
唇を尖らせると、なぜか会長は嬉しそうに笑ってから、息がかかるほど近くに顔を近づけた。
「感じやすいのか、もう真っ赤だね……それに……ひくひくして、トロトロで……」
――見られちゃってる! 会長に、恥ずかしい部分、じっくり見られちゃってる…!
そう思っただけで奥から愛液が滲み出すのが分かる。
「もうこんなに濡らしていたんだ……ふふ……いやらしくて、凄く可愛いよ……もしかしてカタリナさん、見られると感じるタイプ?」
「そんな事、ないです! ない、と思います……ないはずです……たぶん」
否定がだんだんと弱くなっていくのを聞いて、会長はクスクスと笑う。
「じゃあ今度、外でシてみる?」
「なっ、何言ってるんですか!? 会長!?」
いつも穏やかで優しい、お兄さんみたいな会長が、同年代の男の子っぽく砕けてエッチな事を口にするのがちょっと嬉しい。
「そのまま、広げていてね……ああ、シーツにまでこぼれてしまいそうだ……」
そう言うと会長はキスするみたいに唇全体で秘部を口で覆ってしまった。舌が秘部を舐め回し始める。
「ぁあっ会長っ……あっ…んっ、気持ちいい…!」
うねる舌が秘肉をまんべんなく舐め擦り、陰核はちろちろと優しい触れ方で刺激してくる。
ぺちゃぺちゃ、ぬぷぷ、ズゾゾ、と会長が立てるいやらしい音が、更にゾクゾクと身体を昂らせていく。舐め回しながら膣に滑り込んだ2本の指が、リズミカルに抽送を始めていた。
「……指、増やしてみようか」
「ぅんんっ………」
初めて指を3本入れられてキツいと感じたのは最初のうちだけで、膣内を確認するように触れながらジュポジュポと音を立てて抜き差しする。
どんどん溢れてくる愛液とにじんだ汗、会長の唾液で指が滑り、ひだをしっかりと押さえていられない。
「会、長……手が滑って、もう、無理、です…!」
「ん、よく頑張ったね、カタリナさん。もういいよ。中もたっぷり濡れたし、そろそろ一度、気持ちよくなっておこうか」
いつの間にか見つけられていた浅いイイところを的確にグリグリと刺激しながら、恥ずかしいくらい顔を出している陰核をチュポチュポと唇で扱く。
「あぁっ!? 会長! そこ、だめ! イっちゃう! イク! あっん! イクッ…!!」
ガクガクと腰が震え、目にチカチカと星が飛ぶ。
――これ、やばい! 凄いの、キちゃうぅ!!
「わ…!?」
勢いよく噴き出した潮が会長を直撃する。
びしょびしょになった会長が苦笑いをしながら、ポーズを取る時に使っていたシーツで顔と髪を拭う。
「潮吹いちゃうほど気持ちよかった?」
「……はい……」
「ならよかった……ところで、“イク”って何?」
「え、えっと……オーガズムの事、です」
「ふーん……カタリナさんは面白いね」
荒い息が治まるのを待ちながら、会長が会話で間を繋ぐ。
「ね、さっき最初に触れた時、結構濡れていたけれど、もしかして僕の前でポーズを取る時いつも感じていたのかな?」
「な、内緒です……」
「本当のところは?」
「……」
「ん?」
――ずるい!
そんなエッチな事を、可愛く首を傾げながら聞くなんて…!
「……感じて……ました……」
「そうだったんだ、気付いてあげられなくてごめんね。我慢させちゃった分、今からたくさん愛してあげるから。それと――」
会長が自分の男性器を見せつけるように持ち上げた。
「――最初に謝っておく。優しくは、してあげられないかもしれない」
――こんな――こんなの見た事ない…!
さっき脱いだ時に見えたよりも、更に太く長くなっている。
間近で見た会長の男性器は、今まで夢に出てきた誰のものよりも大きく、小柄な会長に付いているにしては大き過ぎてまるで凶器だった。
――サツマイモみたい?
竿は中ほどが膨らんでいて、カリのでっぱりも高い。
こんな形もあるんだ……。
会長が身体をずらした。
「カタリナさん……見て?」
重い――!?
陰茎がお腹に乗り、先っぽがおへそを隠すところまで来ている。ドクンドクンと脈打つ熱さが、性器を外側から昂らせていく。
「ほら、見て……このまま全部入れたら――カタリナさんのここまで来ちゃうね?」
ゾクッとしたのは怖いからなのか期待なのか、自分でも分からなくて、でも目を離す事ができない。アレがこれから私の中に入って奥まで貫くのだと思うと、キュウっと子宮が疼いてしまう。
「ね、カタリナさん。僕の……舐めてくれる?」
「はい……」
――こんなに大きいの、絶対口に入らない!
そう思うのに、気付けば引き寄せられるように会長の前で跪き、ペロペロとしゃぶりついていた。
「くっ……凄くいい、よ……今度は根元、扱きながら、先を咥えてみて……」
そっと会長の陰茎に手を添え、動かしてみる。
見上げると、赤い顔をした会長が前かがみになって息を乱していた。
――よかった、会長気持ちよさそう……
「……カタリナさん、上手…だね……誰の仕込みかな…?」
最後の言葉の意味はよく分からなかったけれど、気持ちよさそうな会長の様子に、もっと気持ちよくさせたいと思ってしまう。
できるだけ大きく口を開いて頬張ったが、先っぽだけで口がいっぱいになってしまった。
――あご、外れちゃいそう!
もっと根元まで咥えたいと頑張ってみたものの、亀頭から先は太過ぎてできない。
せめてもと思い、裏の筋のところやカリのところを、舌を使って刺激すると、ビクビクが強くなった。
「いいよっ、カタリナさんっ…! もっと吸いながら舌、動かして!」
口の中に会長の興奮が伝わってくる。
「あっ……く……そろそろ出そう……、カタリナさん、このまま――いい?」
返事の代わりに強く吸い絞ると、会長は可愛い声を上げて絶頂した。
ドロリと熱い精液が口の中に噴出し、ビュウビュウと大量に注がれる。
「カタリナ、さん……」
真っ赤な顔で息を荒げた会長が、熱い眼差しで見つめる。
――会長、たぶん、飲んでほしいんだ……
コクンと飲み込もうとしたがあまりにドロドロで飲み下せず、喉にくっついて精液の匂いでいっぱいになる。
「んんっ……」
なんとか全部飲み込んで、まだまだ反り返ってビクビク震える陰茎の先から溢れる精液も綺麗に舐め取り、先っぽを吸い出す。
「あぁっ…! ま、待って! オーガズムの直後は、敏感だから!」
――慌てる会長、可愛い
おしゃぶりしている時の気持ちよさそうな顔も、イッた時の緩んだ顔も可愛かった。
「……会長、可愛い」
つい口からポロッと出てしまい、会長が苦笑する。
「カタリナさん……“可愛い”って男にとっては褒め言葉じゃないから」
「じゃあ会長は、なんて言われたら嬉しいですか?」
「んー…、内緒」
「ええ~?」
二人で顔を見合わせて笑ってから、会長がふと真顔になった。
「今度は、カタリナさんの奥にキスさせてくれる?」
会長は棚の奥から香油の瓶を取り出し、たっぷりと陰茎に垂らした。
「力、抜いて……一気に入れるから、息、止めないでね」
「え……」
――一気に!? これを!?
「時間をかけると余計に苦しいから……」
先を秘部の入り口にあてがう。
「……いくよ」
会長は、私が息を吐くのに合わせて、一気に奥まで貫いた。
「ひっ……はグっ……!」
どこまで広がるのか限界を試されているかのような、あまりに強烈な挿入感に、貫かれたまま動く事ができない。
夢の中のキースの大きいのに突かれた時は“ズンッ”って感じだったけど、会長のは更に太くて長い分、“ズドンッ”と重くて強い衝撃で奥を突かれる。
「ごめん、カタリナさん、苦しい……よね? 一旦抜く?」
――抜いて! これ以上は無理! お腹、苦しい! 怖い!
言ったらきっと会長を傷付けてしまいそうな言葉が口に出てしまいそうになるのを必死で止め、なんとか微笑んでみせる。
「……平気、です……でももうちょっとだけ、このまま、で……」
今までの相手は、僕のモノを見ると皆、怖がり嫌がった。
なんとか入れようとしても痛がるばかりで、拒絶されるのはいつもの事だった。
だから少し無理をして一気に挿入したが、苦しいのを我慢して震えながらもなんとか受け入れようとする彼女を、心の底から愛しいと感じる。短く乱れた息で、涙を浮かべながらも平気だと微笑んで見せられる優しい彼女を、誰にも渡したくないと思う。
たっぷりと濡らし、香油を使ってもなおギチギチと余裕のない挿入感のまま、彼女が慣れるまでギュッと抱き締める。
「カタリナさん……キス、してもいい…?」
「で、でも、さっき……会長の、飲んじゃったし……いやじゃない、ですか?」
「愛しい人にキスをするのが嫌な訳ないじゃないか」
唇を重ねて舌を絡めると、苦い匂いがする。
――これ……精液の味? これを彼女は全部飲んでくれたのか?
否が応にも愛おしさが増し、優しく舌を吸う。
「……まだ、苦しそうだね。今日はもう動かないから、もう少しこのままでいてもいい?」
「……はい」
そうは言っても、せっかく繋がったのだ。自分はともかく彼女だけでもどうにか気持ちよくさせたい。奥のイイところ、責められないだろうか。
「会、長……?」
彼女の奥に当たるのを感じながら優しく、ゆっくりと揺するように亀頭の先で子宮口を刺激する。焦らずにじっくりと先端に集中していると、突然彼女の全身からジワッと汗が吹き出し始めた。いつの間にか、呼吸も浅くなっている。
「!? ……あ、れ……?」
「慣れてきたかな?」
「……え? ……え? …何か――変!」
身体を震わせながら喘ぐ。
「会長のが、子宮にキスする度に、ゾクッ、ゾクッて! あぁっ、会長ぉ!」
初めての快感に耐えきれず、すがるようにシーツを掴む。
優しく押し付けているだけで、溢れ始めた熱い愛液が包み込み、彼女の中が痙攣を始める。
「ほら、ここ、触ってみて?」
彼女の手を取り、自身の下腹部に触れさせる。
「あ……」
「……分かる? ここまで僕のが入っているのが……だから、この辺りが子宮だね……で、この辺が、カタリナさんの気持ちいいところ」
手を重ね、一緒に触れて確認する。
「覚えておくといいよ、君の一番奥の気持ちいいところはこの辺だって……こうすれば……外からも刺激できるね?」
下腹部をスリスリと優しく撫で、覚え込ませる。
こうしておけば、前戯でここに触れるだけで、反射的に疼くようになるだろう。
「カタリナさん……奥、気に入ってくれた?」
彼女は潤んだ目から涙をこぼしながら首を振って、仰け反った。
「奥、凄いっ! 会長の、凄いの! 気持ちいい! あっ、んんっ! 気持ちいい!!」
苦しい締め付けはなくなり、トロトロに濡れた膣内全体が絡みつくように締め付け、こちらも信じられないくらい気持ちいい。
「あーっ、知らないの、キちゃう! あぁっ! あっ! ああぁぁぁ!」
――なにこれ!? なにこれ!? なにこれ…!?
いつもの絶頂とも潮吹きとも違う、初めての感覚。
形容しようのない、深くて長い絶頂。
甘い余韻が次々と押し寄せ、ふわっと身体の浮く感覚がずっと続いている。
――奥ってこんなに気持ちがいいんだ……
自分の身体の事なのに、初めて知った。あんな風に優しく優しく当てるだけで、気が変になってしまいそうになるくらい気持ちがいいなんて。
――会長ってモテるし、やっぱり経験豊富なのかな……
心地よい脱力感に身を任せてベッドに身体を投げ出していると、会長が優しく頭を撫でてくれる。
「少しずつ、慣らしていこうね」
そのままゆっくりと陰茎を引き抜こうとする会長に反射的に抱きつき、腰に脚を絡める。
「だめ…!」
「カタリナさん!?」
それが会長の気遣いなのも、自分がどんなにはしたない恰好をしているのかも分かっている。だけど。
「抜かないで、会長。私だけこんなに気持ちよくしてもらうなんて不公平です。会長も気持ちよくなってくれなくちゃ、だめです」
「だけど……苦しいよね?」
「正直に言うと苦しいです。でも私――」
真っ直ぐに会長を見つめる。
「会長にも、気持ちよくなってほしい」
会長のが大き過ぎて、全部は入っていない。
なのに膣の中はいっぱいに広げられてギチギチと軋むようで、それは初めと変わらないけれど、さっきの深い絶頂のおかげで少しの刺激でも、どこに触れられても、まるで全身が性感帯になったみたいに気持ちがいいと感じるようになっていた。
「会長の好きに動いてください」
「ん、ありがとう……じゃあ、いくよ」
ギュッと抱き締め合ったまま、会長はゆっくりと抽送を始める。
――あ、れ? 気持ちいい?
会長の動きはやっぱり優しくて、無理に奥まで押し込んだり激しく擦ったりはない。
だけど大き過ぎた圧迫感はいつからか満たされているという充足感に変わり、ストロークの短い抽送なのに奥を優しく突き揺すられる刺激が、ゾクゾクと甘く昂らせる。
「……どう? …カタリナさん? 痛くない?」
「あ……ぁっ…気持ちいいっあんっ…んっ…気持ちいいですっ会長ぉ…!」
一突き一突きが気持ちよくて声が抑えられない。
「よかった、大丈夫そうだね」
「会長は…あんっ…ちゃんと気持ちいい…んぅっ…ですか?」
「うん、凄くいいよ、カタリナさんの中――本当に、最高に可愛いよ」
可愛いという言葉と会長が気持ちよさそうなのが嬉しくて、自分から会長の顔を引き寄せてキスをし、舌を絡めた。
上も下も会長と繋がり塞がれているのだと思うと、一層ゾクゾクする。
「会長っ! もっと、もっと、 いっぱいシて! いっぱい突いて! いっぱい気持ちよくなって…!!」
「うん、そんなに可愛くおねだりされたら、応えない訳にはいかないね」
会長は少し身体をずらすと、にっこりと笑った。
「ちょっと、激しくするよ」
――本当に、凄く、いい
突く度に腰が抜けそうになるほどの快楽が押し寄せ、下品だと分かっていても腰を振るのを止められない。グチグチ、ブチュブチュと聞いた事もないほどいやらしい音が部屋に響く。
奥からどんどん溢れてくる愛液のおかげで動きやすく、押し込めば中がうねってひだが絡みつき、引けば、まるで“抜いてほしくない”と言っているみたいに吸い付いてくる。
苦しそうだった彼女の息遣いも、今は甘い喘ぎに変わっていた。
奥を突かれる良さを知った彼女の身体は、僕の大きさでも受け入れ、飲み込もうと悦んでいる。
全く以て、厄介だった。
ここまで身体も言葉も態度からも愛情を見せつけられて、拒める男がいるだろうか?
彼女に溺れてしまう予感しかしない。
「……か、はっ……っくっ…!」
一度でも抜いてしまったら、彼女はそんな事しないと分かっていても拒絶されるのが怖くて、抜かないままずっと続けていた。
すでに、もう何度絶頂したのか分からない。シーツは溢れ出た精液と愛液、それに汗でぐしょぐしょだ。
初めは彼女を気遣ってあまり奥まではしないようにしていた挿入も、もう根元まで突き立ててしまっている。
――気持ちよ過ぎて、腰が止まらない…!
身体中の血が悦びでたぎり、下半身へ流れ込んでいるみたいだ。
彼女の熱くてキツい膣内で擦れるのも、引く度カリが引っかかるのも、ぬるぬると愛液に包まれる感触も気持ちよくて、なにより彼女が一緒に感じてくれている悦びで、もう何も考えられない。ただ彼女の奥深くを自分で満たす欲望しか見えなくなっていた。
片脚を抱えた体位に変えたところで、深くまで突いてしまったらしく、彼女は突く度に少しずつ身体を逃がし、とうとうヘッドボードまで来てしまう。
「やっ…まっ、待って会長! これ深いっ、深過ぎます! 子宮が潰れちゃう…!」
涙目でシーツを掴む彼女の声に、ハッと我に返った。
「ご、ごめん、カタリナさん。気持ちよくてつい……体勢を変えるね」
抱えていた脚を下ろし、今度はうつぶせにした彼女を後ろから責める。
打ち付けた腰が尻に当たるのであまり深くまではえぐっていないはずだ。
「どう? つらくない?」
「は、はい………んっ」
深くはいけないが、脚を閉じているので中は狭く、締め付ける圧迫感だけでも充分に気持ちがいい。と、彼女が両手で強くシーツを掴み、身をよじった。
「はっ…あっ…会長っ、これ、奥に優しく当たってっ…! またおかしくっ! なっちゃう!」
「じゃあ、最後は二人で一緒にイこうか」
いやらしく耳元に囁きながら、彼女の背中に覆い被さって激しく打ち付ける。
彼女の中も飲み込むように痙攣し、奥へと誘うようにオーガズムを導いた。
「あぁッ会長ッ…! イッ…ク! イク! イっちゃうぅ…!」
「僕、も…! ッくッ…ふっ…!!」
――搾り…取られるっ!
弾けるように噴き出す精液を、彼女の奥の奥に流し込む。
「ッ――っはっ……はぁっ…はぁ……」
目の眩むような鮮烈なオーガズムに本当に腰が抜け、彼女の隣に倒れ込んだ――…。
“――幸せに、なって……”
――今の――声は?
ゆっくりと目を開くと、目の前にカタリナさんの微笑む顔があった。
短い時間だったが眠ってしまったようだ。
――あれは、母さんの声…?
いつ聞いたのか思い出せないけれど、母さんの言葉である事に間違いない。
遂げなければならない目的を忘れている訳ではないが、今だけは、彼女の優しさに包まれていたかった。
目が合った彼女は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑い、瞳が優しい形になる。
ついと伸びた手が頬に触れ、優しく撫でた。
どうして君は、こうも母を思い出させるのだろう?
「……会長?」
抱き寄せ、甘えるように彼女の胸に顔をうずめて、肌の甘い香りに酔う。
「――ねえ、カタリナさん……名前で呼んで」
「シリ、ウス…?」
全身の細胞が“違う!”と拒絶した。気付けば僕は、その名を口にしていた。
「……“ラファエル”」
「え…?」
「二人きりの時だけ、僕の事は“ラファエル”と呼んで」
「ラファエル?」
「この世界で、君しか知らない、僕の本当の名前」
彼女は不思議そうな顔をしたが、深く聞く事はしなかった。両手を僕の首に回すと、耳元にそっと囁く。
「……ラファエル」
長い事聞いていなかったその名を聞いた瞬間、泣きそうになる。
「……うん」
「ラファエル」
「うん……ね、愛しているって言って」
「――ラファエル、愛してる」
「僕もだよ、カタリナさん」
唇を重ねると、自然と涙がこぼれた。
きっともう、誰からも呼ばれる事のないはずだった名。
その名を呼ばれ、僕がどれだけ嬉しかったか、君は知らないだろう。
「……泣かないで、ラファエル。私がいるから。ずっと傍にいるから」
シリウス編は当初、凌辱系になる予定だったのですが(悪役だったので)、書いていてどうもピンとこない…なんか違う…と方向を180度変えて書き直したお話です。結果激甘に。(*´ω`*)♡
8年って重過ぎる…これは幸せにしなくては!と余計なお世話な使命感で書き上げました~(≧▽≦)