乙女ゲームのR-18ルートに突入してしまった… 《もしかしたら あったかもしれない『はめふら』R-18ルート》 作:帆速やこぬ
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――眠ってしまったか……
たっぷりと愛し合い、本当の名を打ち明けた後、スウスウと気持ちよさそうな寝息を立てる彼女の頬を指でそっと撫でると、小さな温もりが心まで温めてくれるようで、つい微笑んでしまう。
「……愛してる」
呟き、その響きを意外な思いで噛みしめる。
自分がこの言葉を口にする日が来るとは思ってもみなかった。
何にも代え難いほど大切に想える人ができるなんて事は、一生ないだろうと思っていた。
気恥ずかしいのに嬉しくて、ただ彼女が愛おしくて、幸福感が身体を満たす。
初めは、心を乱す彼女が邪魔だと感じていた。
目的を遂げる為に排除しようと、闇の魔力で操ろうとした。
だが強い魔力を持っている訳ではないのに、彼女――カタリナ・クラエスを操る事はできなかった。彼女の心には他人を妬んだり憎んだりする昏い感情がなかったからだ。
だから彼女の公爵令嬢としての身分を失墜させる為に、マリア・キャンベルに対する犯罪まがいの嫌がらせの首謀者に仕立てようと画策した。
だがそれを、彼女は持ち前の人徳であっさりと切り抜けてしまった。なにしろ彼女を守る騎士たちだけでなく、当のマリア本人が立ちはだかったのだから。
元よりそれほど本気で立てた計画ではなかったが、それにしたってお粗末な結末だった。
そして次に考えたのが、カタリナに一番に愛され、独り占めしようと互いに牽制し合っている彼らの微妙なバランスを崩す事だった。
しかし、彼女の周りの人間は皆、魔力が高く、闇の魔力で思い通りに操るまでには至らない。
できたのは、意識を混濁させる薬を使い、焦りと不安につけ込んだ暗示をかけるくらいだった。
それでもその暗示により、ジオルド王子は一線を越えた。
キース・クラエスやメアリ・ハント、アラン王子、ニコルやソフィア、マリア・キャンベルにも、人目がない場所でチャンスと隙があれば、迷わず彼女に手を出すよう暗示をかけてある。
彼女のメイドにも、手を出そうとする者の手助けをし、それを疑問に感じないように思い込ませてあった。
彼らに、彼女と結ばれた事実を一旦忘れさせたのは、複数の相手と関係を持たせておいてから暗示を解き、記憶を戻せば、絆により深い亀裂を入れられるだろうと考えたからだ。
彼らはそれぞれが、一番に愛し愛されたのは自分だと主張するだろう。愛情は憎しみに変わり、信頼は二度と戻らない。全ての友人たちと関係してしまった事実で彼女の心が壊れてしまえばいいとさえ思っていた。
今にして思えば、なんておぞましい計画だろう。
それがまさか、僕自身が彼女を愛してしまうとは。
例えこの先ずっと彼女の傍にいられないとしても、この罪は必ず償う。
何もかも嘘だらけの僕の事を許してもらおうなどとは思わない。
陰からでも、これから一生をかけて彼女を守る事で罪を償うのだ。
彼女を起こさないようにそっとベッドから下り、軽く身支度を整え、隣の部屋に移動する。
彼女のメイド――アンが、目を閉じソファに横たわっている。
“用事があって席を外した”というのは嘘だった。眠っているカタリナにインスピレーションを感じ、邪魔されずに描きたくて闇の魔力を使った。
眠りの魔法を解こうとした瞬間、もうひとりの自分が咎め、なじる。
“何を考えている…!”
「……僕は、カタリナさんを愛している」
“復讐は!”
「これからは彼女を守り、共に生きていくと決めたんだ」
“母さんの最期の願いは!”
「ッ…!」
“母さんの最期の願いは…!”
「それは――」
“大切な目的を忘れ、目先の欲望に惑わされたか!”
責める声にさいなまれ、全身に激痛が走る。
「うぐっあああぁぁぁっ…!!」
意識が遠のいた瞬間、いつもの悪夢に放り込まれた。
薄暗い地下の部屋。重く淀んだ空気。死の匂いに満ちた空間で、幼い僕は縛られ、冷たい床に押さえ付けられている。
「母さん! 母さん!!」
母さんが殺されるのを、泣き叫びながらただ見ている事しかできない。
――やめろ
母さんが僕に最後の微笑みを向ける。
――やめてくれ
最後の力を振り絞って、手を伸ばす。
「ラファエル……どうか――…」
“あの女を野放しにすれば、同じような悲劇がまた繰り返されるぞ”
そんな事はさせない。
“母の最期の無念を晴らさずに、このままのうのうと生きていくのか?”
生きていけるはずがない。
“ならばお前は俺の言う通りにしていればいい。このまま、今日あった事は全て忘れるんだ”
――全て、忘れて……?
足元から漆黒の闇が湧き上がり、あっという間に飲み込まれる。
愛する人との温かな時間が――
重ねた肌の温もりが――
本当の名前を呼んでくれた優しい響きが――…
――真っ黒に塗り潰されていく――……
“……安心しろ。お前の望みは俺が叶えてやる”
「わあ……」
ある日の午後、生徒会室でお披露目された絵を目にして、生徒会のみんなは一斉に感嘆の声を上げた。
オレンジ色の夕日が差し込む部屋で、ベッドでまどろむ裸婦の絵だ。
会長が私をモデルに絵を描き始めてひと月半が経っていた。
1枚の絵を描くのに、どのくらいの時間がかかるのかはよく知らないけれど、私がポーズを取る一日のうちの2時間程度だけでは、到底描き上がらないという事だけは分かる。
きっと夜も時間を割いてくれたのだろう。
そういえばここ数週間、生徒会室の会長はなんだか眠そうに見えた。もしかしたら眠る時間を削って、描いてくれていたのかもしれない。
「カタリナ様、綺麗…!」
陰影のつけ方や肌の質感を工夫して丁寧に描かれた姿は、我ながら本当に綺麗だと思う。
「ありがと、みんな」
「これ、モデルは本当に義姉さん?」
「まあ、悪くはないんじゃないか?」
「カタリナ、とても綺麗だ」
「絵のモデルなんて大変だったのではないですか? ずっと動いてはいけないのでしょう?」
「うん、でもその辺りは会長が気を遣ってくれたから、そんなに大変じゃなかったかな」
「俺には寝てるだけのように見えるんだが?」
「義姉さんの事だから大人しくポーズを取っていられなくて、居眠りしているところを描くしかなかったんじゃないの?」
アランとキースが辛辣な一方、メアリとソフィアとマリアはべた褒めだった。
「とっても素敵ですわ! カタリナ様!」
「ええ、本当に! ちょっと大胆なカタリナ様も素敵です!」
「なんだか大人の女性の色気を感じます」
もちろん、賛辞は惜しみなく会長にも贈られる。
「シリウス会長が、こんなに絵がお上手だったなんて驚きました」
「お兄様はご存知だったのですか?」
「いや、俺も知らなかった。カタリナの良さが、とてもよく描かれていると思う」
「ありがとう、ニコル」
「何か、絵画展などに出品されるのですか?」
「いえいえ、そんな。趣味で描いただけです」
「それでここ最近、放課後になるとカタリナ様が捕まらなかったのですね」
「休日にご一緒していても、夕方近くになると帰ってしまわれましたものね」
「ごめんね。みんなを驚かせたくて、描き上がるまでは内緒にしておきたかったの」
――とはいえ、ちょっと恥ずかしいな……
乱れたシーツのベッドの上で、みずみずしく濡れた肌と満たされたように眠る顔は、見ようによっては誤解されてしまいそうだ。腰とか胸のラインとか、シーツで隠れているとはいえ結構エッチいし……。
大事な部分は見えないけれど、裸を見られているようでやっぱり恥ずかしい。
「それにしたって、だいぶ美化して描かれてないか?」
絵を眺めていたアランが、少し顔を赤くしながら憎まれ口を叩くと、女子一同から猛攻撃を受ける。
「この絵の良さが分からないなんて、音楽の才能はあっても芸術を見抜く目はお持ちではないようですわね、アラン様」
「この絵は、カタリナ様の以外の誰でもありませんわ!」
「そもそもカタリナ様の美しさは、絵で表現し切れるものではありません!」
さすがの俺様王子も、タジタジだ。
「お、おう……いや、俺だってこの絵の完成度は認めるが……それに別に、カタリナが綺麗ではないと言っている訳では……」
「みんな待って、待って! 私自身も、かなり綺麗に描いてもらってるって思うし……」
「「「そんな事はありません!!」」」
女子三人の声が揃った。
「この幸せそうな寝顔、まさしくカタリナ様ですわ!」
メアリの言葉に、うんうんと力強くソフィアが頷く。
「それにカタリナ様の外見だけでなく内面の美しさも愛らしさも、とてもよく描かれています!」
「わたしも、カタリナ様の優しくて温かい雰囲気を、とてもよく表現されていると思います!」
マリアまで強い調子で断言してくれる。
――本当に、いい友人を持てて、私は幸せ者だなあ……
ジーンとしていると、それまでずっと黙っていたジオルドが、おもむろに口を開いた。
「――シリウス会長」
一瞬、空気がピリッとしたように感じたのは気のせいだろうか?
「……なんでしょうか、ジオルド王子?」
ジオルドには会長からお披露目の直前に、事後承諾になってしまった謝罪と、やましい事はなかったと話してくれている。
それでもやはり、婚約者が自分の知らないところで絵のモデルに――それも裸で――なっていた事を、怒ってるのかな…?
緊張しながら二人を見守っていると、ジオルドがにっこりと笑った。
「この絵、譲ってもらえませんか?」
ジオルドの言葉を皮切りに、皆が自分も欲しいと言い出したが、会長の「手放すつもりはありませんので」の一言で結局うやむやになった。
「カタリナ」
生徒会室を出ると、ジオルドに呼び止められる。
「ジオルド様?」
「先程は言いそびれましたが……あの絵の君はとても綺麗でしたよ」
王子スマイルで褒められると、こちらもつい赤面してしまう。
「! ……あ、ありがとうございます」
「本当に……いつの間にこんなに……」
ジオルドは私を見つめてから、一房すくった髪にキスをした。
「ジ、ジオルド様!?」
慌てる私を見て微笑んでから、口元を引き締める。
「……カタリナ。ひとつ、約束してください。もう、会長の部屋にひとりでは行かないと」
「ええ!? ……えっとあの……それはどうして……」
「これ以上、あまり僕を不安にさせないでください」
「不安?」
首を傾げると、ジオルドは真剣な表情になった。
「この間の君を糾弾した令嬢たちの件で、奇妙な点があったと報告を受けているのです。まだ詳しく話せる段階ではないので、これ以上は話す事ができないのですが」
「それって、どういう…?」
ジオルドは質問には答えずに、言葉を継ぐ。
「君がどうしてもやりたい事ならば無理強いはできませんが、婚約者としては、男性の部屋に女性がひとりで訪問するのはやはり心配なんです」
「ただの絵のモデルですよ? それにいつもアンが一緒にいてくれましたし……」
ジオルドは少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「……部屋まで送りますよ」
――カタリナは本当に気が付いていないのだろうか?
あの絵から溢れる愛情に。
どれだけ描かれた人物を愛しているか、描き手の心情が伝わる絵だった。
おそらくあの場にいたカタリナ以外の全員が、気付いたはずだ。
会長もまた、カタリナを愛しているのだと。
そんな会長の前で彼女がドレスを脱ぎ、肌を晒したのだと思うと、やましい事などなかったとしても心穏やかでいられるはずがなかった。
このひと月半、会長とカタリナが何かをしている事は知っていた。
急に親密になり、僕たちにも隠すように言葉を交わしていたり、放課後の数時間どこを探しても姿が見えず、聞いてもはぐらかされていた。従者に調べさせて会長の部屋に出入りしているらしい事を報告された時は耳を疑った。
ただ、いつもメイドのアンが同行しているようだったし、真面目で人当たりのいい会長が、まさか王子の婚約者に手を出すとも考えづらかった為、黙って様子を見ていた。
絵の中のカタリナは本当に綺麗で、子供の頃からずっと傍にいた自分の気付かないうちに、こんなにも大人の女性になっていたのだとハッとさせられた。
そしてそれと同時に、なぜだか既視感も感じた。
僕は、カタリナの裸を“知っている”
あるはずのない事なのに、確信があった。そして、何か大切な事を忘れているという狂おしいほどの焦燥感。
「手放すつもりはない」の言葉が“彼女への気持ちを譲るつもりはない”という宣戦布告に聞こえたのは、僕だけだろうか?
あの絵が会長の部屋にあるのだと思うと落ち着かない。本当は何が何でも手に入れて、手元に、僕だけにしか見られない場所に隠してしまいたかった。
「えへへ……」
絵を見たみんなに綺麗だと褒められた事を思い出して、口元が自然と笑ってしまう。
絵のモデルになったきっかけは会長への相談――幼馴染みたちを相手にエッチな夢を見てしまう――だったのに、あろう事か本番の絵に取りかかった途端に、その会長とエッチな事をしてしまう夢を見てしまった。
自己嫌悪にさいなまれた翌日、会長は体調不良でお休みした。
お見舞いにも行ったが会長には会えず心配したけれど、学園に出てきた会長は生徒会室でも絵を描く時もいつも通りで、会長に愛されたのはやっぱり夢だったんだと、ちょっとガッカリだった。
もちろんその後も、何もやましい事なく制作は進み、絵は無事に完成を迎えた。
思いの他、人物画を描く事が楽しかったらしい会長に“また是非モデルに”と誘ってもらえたのは誇らしいし嬉しかったけれど、ジオルドに釘を刺されてしまった事もある。
どうするかはまた頼まれた時に考えよう。
エッチな夢を見てしまう悩みの方はもう、お年頃だから仕方がないと開き直ってしまうしかないのではないかと思い始めている。
とはいえ、ここ最近はそんな夢も見ていないし、ちょっと落ち着いてきたのかも。
「――カタリナ様、これ、よろしければ召し上がってください」
いつもの生徒会。
授業で分からなかったところをマリアに教えてもらい、一段落したところでマリアがいい香りのする大きな包みを差し出した。開くと手の平サイズの小さなパイがたくさん入っている。
「わあ、美味しそう! これもマリアの手作り?」
「はい。先日カタリナ様にいただいたカボチャを使って、パイを焼いてみました」
「そうなの!?」
早速ひとつ手に取り、「いただきます」とかぶりつく。
「んん~! 美味しーい! パイはサクサクで、中に入ったカボチャのフィリングも絶妙!!」
「ありがとうございます。カタリナ様の丹精込めたカボチャのおかげで、とっても美味しくできあがりました」
「こんなに美味しく作ってもらえて、カボチャもきっと喜んでいるわ。それにマリア、またお菓子作りの腕が上がったんじゃない?」
話しながらもパイをパクパクと口に運ぶ。美味し過ぎて、止まらない。
と、会長がお茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます、会長」
「会長もいかがですか?」
「そうだね、お相伴に預かろうかな。みんなにも声を掛けて、少し休憩にしようか」
会長の淹れてくれる美味しいお茶と、マリアの手作りお菓子で、みんなでワイワイとテーブルを囲むのもすっかり定番だ。
「前から聞きたかったのだけど、マリアはどうしてこんなにお菓子を美味しく作れるの?」
「えっと……」
少しうつむいてから、頬を赤らめる。
「やっぱり、大好きな人の喜ぶ顔が見たいから、でしょうか」
「そっかー、絶対にマリアはいいお嫁さんになれるよね」
それを聞いた途端、メアリとソフィアが高く手を挙げた。
「カタリナ様! わたくしも! 大好きな人の笑顔の為なら、頑張れます!!」
「わたくしも! わたくしも頑張れますわ、カタリナ様!!」
「メアリもソフィアも、きっといいお嫁さんになれるね」
嬉しそうな女子の横で、男子たちが微妙な苦笑いをしているのもいつもの事だ。
――楽しいなあ
この楽しい日々が、ずっと続けばいいのに。
来年の春、ニコルたち二年生は卒業する。
その卒業パーティーがゲームの最終イベントになるから、もしもマリアの恋の相手がそれまでに決まらなければ、私の破滅エンドがどうなるかもそれまで分からない事になる。
とはいえマリアの気持ち次第なので、悪役令嬢である私に出来る事といえば、うっかり殺されないように注意する事と、国外追放になった時の為に荷物をまとめておくぐらいの事しかない。
この穏やかな日々が続けばと願う反面、ルートが早く決まって楽になりたいと思う気持ちもある。
――本当に、マリアの中で一番好感度が高いのは誰なんだろう…?
特別に想っていそうな相手はいないように見えるし、好きな人がいるのか聞いてみても、いつも「カタリナ様をお慕いしております」とはぐらかされてしまう。
今よりもっと、仲良くならないとだめなのかな?
この中で強いて言えば好感度が一番高そうなのはカタリナだけど、そもそも私は悪役令嬢なのだから、信頼してもらうには普通に接しているだけでは足りないのかも。
――よし、マリアを攻略するくらいの勢いで、好感度を上げてみよう!
行動方針が決まって心の中でガッツポーズを取ってから、窓の外を見上げると、もう空は茜色に輝いている。
そろそろ帰ろうかな、などと考えていると、マリアが紙袋を持って近づいてきた。
「カタリナ様、こちらもよろしければ召し上がってください」
「これは?」
「クッキーです。日持ちしますので、週末に食べていただけたらと思いまして」
「わあ、ありがとう、マリア!」
思わず抱きつくと、マリアは夕日に負けないくらい顔を真っ赤にした。
ちょっと大げさだったかな?
「大切に味わって、いただくね」
「はい」
嬉しそうにふんわりと微笑むマリアの笑顔に、こちらまで笑顔になってしまう。
と、会長がニコニコしながら見守っているのに気が付いた。
「会長? 私たち、何か変でした?」
「いやいや、変だなんて。むしろとても美しい光景だったから」
「美しいだなんて、そんな」
二人で照れていると、会長がいい事を思いついたという感じで、両手を合わせた。
「マリアさん、カタリナさんと一緒に絵のモデルをしてみない?」
「マリア、平気?」
「緊張します……絵のモデルなんて初めてですし……」
珍しく、マリアが顔を強張らせている。
学生寮の前で待ち合わせし、これから二人で――アンも入れると三人で――絵のモデルをしに会長の部屋に向かうところだ。
「大丈夫! 私も一緒だし、ちゃんとフォローするから! 会長も優しく気遣ってくれるし」
「本当に、わたしなんかでいいんでしょうか?」
「マリアはとっても可愛いのだから、自信を持って! むしろ私の方こそマリアの引き立て役なんじゃないかな……まあ、マリアの可愛さを引き立てられるのなら本望だけど」
主人公を引き立ててこその悪役令嬢だし。
「そんな! 先日見せていただいたカタリナ様の絵が本当に素敵で、だからカタリナ様と一緒に描いてもらえるなんて夢みたいで、凄く嬉しくて、楽しみ過ぎて昨日の夜はなかなか寝付けなかったんです。でもだんだん、平民のわたしがカタリナ様の隣に立って本当にいいのかなって……」
「マリア、私たちは今、魔法学園の“学生”なの。“貴族と平民”ではないわ。それにそんな事を言ったら成績優秀なマリアにそこそこの私では釣り合わない事になっちゃう。それをマリアは気にする?」
「まさか!」
ぶんぶんとマリアがかぶりを振る。
「でしょ? 私も身分なんて全然気にしない。優しくて頑張り屋のマリアだから大好きなのだし、それは成績がいいからとか光の魔力を持っているからではないわ。それに――」
マリアに向き直ると、両手で頬を優しく挟む。
「――マリアは本当に、とっても可愛いのだから、“わたしなんか”なんて言ってはだめ」
「カタリナ様……」
うるり、と瞳が涙で潤んだと思うと、ぽろぽろとこぼれる。
泣かせちゃった!? 言い方がキツかった!?
「マ、マリア!? ごめんね!? 別に怒った訳じゃないのよ!?」
「すみません、嬉しくて……」
焦ってしどろもどろになる私に、瞳に涙を溜めたマリアが微笑む。そんな表情も絵になるところは、さすが主人公だ。会長が描きたいと思ったのも頷ける。
「――いらっしゃい、中へどうぞ」
「こんにちは、会長」
「お邪魔します。本日はよろしくお願いします」
会長の部屋に入り、勧められたソファに腰掛けると、テーブルにはスケッチブックと木炭が用意してあった。
マリアがそわそわと、失礼にならない程度にそっと部屋を見回している。きっと男の子の部屋に入るのは初めてなんだろうな。
前に描いてもらった時は、いつも部屋には会長の使用人はいなかったけれど、今日はメイドがひとり、壁際に控えている。
それに部屋の隅には衝立が置かれていた。
今回はジオルドにも前以って伝えてあるし、なによりマリアも一緒だ。それに裸ではなく衣装も用意される事になっている。ジオルドが反対しそうなポイントはクリアしているはずなのに、話をした時、なぜか凄く心配そうな顔をされた。
――私が何か、会長に粗相をするのではないかと心配しているのかな…?
キースに対して、よく“心配し過ぎ”みたいな事を言っているけれど、ジオルドも大概だ。
「会長、これは?」
ソファに積まれた大きな箱を指す。
「今回の衣装だよ。サイズが合うか、試してもらいたくて」
「わあ、どんな感じだろう? マリア、一緒に開けてみよ?」
「はい」
二人で「せーの」で箱を開けると、入っていたのは薄絹のシンプルなドレスだった。
キャミソールのように肩が剥き出しで、全く飾り気がない。
「どうかな…?」
少し心配そうに会長が訊ねる。
「二人の空気感を描きたくて、できるだけシンプルなものにしたのだけど……やっぱり女の子はもっと可愛いドレスでないと嫌かな?」
「いえ! 描くのは会長なのですし、会長のイメージを尊重してください!」
隣でこくこくとマリアも頷いている。
「じゃあ、着てみてもらえるかな。カタリナさんにはメイドがいるから大丈夫として、マリアさんは僕のメイドが手伝うから」
「はい」
会長が隣室に行ってしまうと、アンがすっかり手慣れた様子で着替えさせてくれる。
さらさらとした生地が肌を滑り、身体のラインを露わにする。
シンプルが故に誤魔化しようのない、なかなか手強いドレスだ。ポーズによっては裸よりも扇情的かも……。
「こちらへどうぞ」
会長のメイドに衝立の向こうに連れていかれたマリアも、恐縮しながら着替えを手伝ってもらっているみたいだ。
やがて衝立から出てきたマリアの姿に、思わず目を奪われる。
――おお……
「マリア、とっても素敵!」
「こういう感じの服を着た事がないので、なんだか恥ずかしいです」
マリアがしきりに、着慣れないドレスの肩や胸元を気にしている。
「凄く大人っぽいよ、マリア!」
赤くなりながらも、嬉しそうに微笑む。
会長のメイドが、着替えを終えた事を隣室へ告げてから、一礼して部屋を出ていく。
部屋に入ってきた会長は、笑みを浮かべた。
「二人とも、よく似合ってる」
せっかく着替えたのだからという事で、試しにポーズを取ってラフスケッチを描いてみる事になった。
向き合う私とマリアを前にしばらく木炭を走らせていた会長は、やがて手を止めた。
「うーん……やっぱり、ちょっとマリアさんの表情が硬いかなあ」
「すみません……」
「マリアは初めてなのだし、私が初めての時よりも全然ちゃんとしているよ!」
慌ててフォローすると、会長も苦笑する。
「今日はもうお終いにしようか。カタリナさん、マリアさんの緊張が解けるようなアドバイスを何か、お願いできるかな?」
「分かりました」
シュンとしているマリアを元気付けたくて、自分ならどうしたら元気が出るか、考える。
――そうだ!
「マリア、これから私の部屋に遊びにこない? 珍しいお菓子があるの!」
会長の部屋で普段のドレスに着替え直し、マリアと一緒に寮の自室に戻ってきた。
アンの淹れてくれたお茶とジオルドから贈られた珍しいお菓子を勧める。
「ごめんね、マリアからもらったクッキーは、我慢できなくて昨日の夜に全部食べちゃったんだ」
「そうだったんですね……もっとたくさん焼けばよかったです」
「マリアの作るお菓子は本当に美味しいから、“ひとつだけ”と思ってても、止まらなくなっちゃうんだよね」
「ありがとうございます」
やっぱりちょっと落ち込んでいるのか、笑顔が寂しそうだ。
マリアを元気付ける為、絵とは関係のない他愛もない話をしながらティーカップを傾ける。
「ね、マリアは好きな人、いないの?」
破滅フラグ回避の為にさり気ない恋バナっぽく確認してみると、マリアの頬にぽわっと血が上り、食べてしまいたいほど可愛らしく赤面する。
「わたしは……カタリナ様をお慕いしています」
マリアの返答はいつも通りだ。
――そうだ、しばらくはマリアを攻略するつもりで行動しようと決めたんだ。よおし…!
「ありがと」
思い切って、チュッと頬にキスをしてみた。
「カ、カタリナ様!?」
「あ、ごめんね……いやだった?」
「いいえ!」
反射的に言葉が出てきた事に自分でも驚いたようにマリアが目を見開いてから、その瞳が潤んだ。
「全然、イヤではありません。むしろ、もっとしてほしいくらい……なんて言ったら、カタリナ様に嫌われてしまいますか…?」
上目遣いのマリアが超絶可愛くて、きゅんときてしまう。この角度、ずるい。こんな顔をされたら、誰だって好きになっちゃう。
「ううん、嬉しい!」
もう一度、今度はさっきとは反対の頬にキスをしてから、額、まぶた、鼻の先、とそっと唇で触れていく。
顔中にキスをされたマリアの唇は、まるで唇へのキスを待っているかのように軽く開かれている。
――うう、マリア、本当に可愛いよぅ。それに凄く美味しそう……
でもさすがに主人公の初めてのキスを、私が奪ってしまうのはまずいよね。
「マリア……顔の力、抜けたね。今度表情が硬いって言われたら、またこんな風にキスしてあげる」
とろりと潤んだ瞳のマリアが顔を上げ、囁いた。
「はい……お願いします、カタリナ様」
カタリナ様に元気付けていただき、「モデル、明日も頑張ろうね」と約束して部屋を後にする。
寮までの帰り道、両手で頬を押さえてホウッと溜め息を吐いた。
顔中にもらったたくさんのキスの優しい感触が、まだ残っている。
――カタリナ様の唇、凄く柔らかくて、温かかったな……
思い出すと胸がキュッと締め付けられ、心臓が高鳴ってくる。
キスの間、悲しい訳でもないのに涙が込み上げ、泣き出しそうになるのを必死にこらえていた。心の奥から何か、知らない感情が溢れ出てしまいそうだった。
――私……カタリナ様と出会えて、本当によかった……
カタリナ様に出会ってからの幸せな日々を思い返しながら、ふわふわと幸せな気持ちで歩いていると、ひとりの男子生徒にすれ違いざまに声を掛けられた。
「君、マリア・キャンベルだろ。光の魔力を持ってるって噂の」
「はい……えっと、あの…?」
「俺はジャイル。ウォルコット男爵家の三男で二年生だ」
「わたしに、何か御用ですか?」
その上級生は質問に答えずに、ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべながら頭から足の先までを値踏みするように見た。
「へえ、近くで見ると結構可愛いじゃん。成績上位なのを鼻にかけた、もっといけ好かない感じの女かと思ってたけど」
「あの……」
あまりに失礼な言葉に戸惑い、不躾な視線から逃れたくて一歩後退る。
と、逃げる気配を感じたのか、手首を掴まれた。
「!? ……離してください!」
「何? 嫌がるふりで誘ってんの?」
理解の追いつかない論理展開に、嫌悪しか感じない。
「まあ、いいや。少し俺と遊ぼうぜ」
グイッと掴まれた手首を引っ張られ、傍の樹に身体ごと押し付けられる。片手を樹に突き、もう片方の手で顎を持ち上げられた。
「イヤ! 触らないで…!」
顔に触れられた瞬間、カタリナ様に触れられたところを汚されるようで、反射的にその手を払ってしまう。
「――ッ」
拒絶された事で激昂した上級生は、笑顔の仮面をあっさりと捨てて酷薄な目つきで詰め寄った。
「もっと口の利き方に気を付けろよ、平民風情が! 生徒会で王子たちと懇意にしてるからって調子に乗ってるのか? 厚かましい。お前みたいな平民の女、俺たち貴族はどうとでもできるんだよ。お前みたいな下賤な人間は大人しく貴族の言われた通りにしていろ」
冷たい声で吐かれる暴言を、信じられない思いで聞く。
ここしばらく聞く事がなかった言葉の暴力に、改めて気付かされる。
――わたし……ずっとカタリナ様たちに守られていたんだ……
身がすくみ動けないでいると、軽快な足音と場違いな声が響いた。
「マリアー、明日の待ち合わせ時間、決めるの忘れて――…」
カタリナ様だった。
道から外れた木陰で男子生徒が被さるように詰め寄って、マリアの顔は蒼白で泣き出しそう。
経緯はよく分からないけれど、どう見たって無理矢理迫っている図だ。
「ちょっとあなた! マリアに何しているのよ!」
男子生徒は舌打ちして身体を離す。
こいつ……どっかで見た事あるな?
「あなた、確か……」
記憶を総動員して顔と名前を検索する。
「リスカー家の……レイモンド様? あ、ロベルト様?」
「誰だそれは! 俺はウォルコット男爵家のジャイルだ!」
そうそう、そんな名前だった……かな?
確か、真面目に育ったキースの代わりか、チャラ男枠で爆誕した魔法学園のナンパ野郎だ。
とはいえ乙女ゲームの中のキースの代わりにしては大して美形でもないし、キャラとしては薄味。
「まあ、そんな事はどうでもいいわ!」
こんな時に便利な悪役顔を最大限に活かし、不敵に笑いながら腕を組んでふんぞり返ってみせる。
「私はカタリナ・クラエス!」
「クラエス公爵家の……」
「あら、私を知っているのなら好都合。今度マリアに何かしたら、私が許さないから覚悟なさい!」
身分を笠に着る人間は、自分よりも高い身分の人間に逆らわない。男爵家が公爵家を敵に回せるはずもない。
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって…!」
ナンパ野郎は小さく毒づきながら、茂みを突っ切って立ち去っていった。
「あり…がとうございます、カタリナ、様……」
緊張がようやく緩んだらしく、マリアはその一言を絞り出すと泣き出してしまった。
ぽろぽろと涙をこぼすマリアを抱き締めて、ポンポンと優しく背中を叩く。
「マリア、泣かないで……もう大丈夫だから」
マリアはふるふると首を振りながら、泣き止まない。
「カタリナ様……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「マリアは全然悪くないのだから、謝る必要なんてないのよ?」
「……せっかくカタリナ様に唇で触れていただいたのに……汚されて、しまいました……」
――え、あいつ、マリアになんかしたの!?
「……マリア、今夜は私の部屋に泊まって、ね?」
「でも……」
こんな状態のマリアをひとり、寮に帰してはいけない気がする。
マリアを抱き抱えるように部屋に戻ると、アンにリラックス効果のあるお茶と、お風呂の準備をお願いした。
――よかった~
アンが淹れてくれたお茶を飲み、ようやく落ち着いた様子のマリアに、さっきの状況を聞き出す。まさか身体を汚されてしまったのかとよくよく聞いてみると、頬に触れられただけだと聞いて、ちょっとホッとした。
冷静に考えれば、マリアが部屋を出てからすぐに追いかけたのだから、そんな時間はなかったはずだ。
だけどマリアにとっては顔に触れられた事が相当ショックだったらしく、時折拭い取ろうとでもするように服の袖で頬を擦っている。
いや、男の人にあんな風に乱暴にされた事にショックを受けているのかも。
「だめよマリア、そんなに擦っては。赤くなっちゃってる」
そっと手を取って止めると、いいタイミングでアンが、お風呂の準備ができた事を知らせてくれた。
「――さ、少し早いけれど、アンがお風呂の用意をしてくれたから、ゆっくり入ってきて」
「そんな、わたしは後からで結構ですので、カタリナ様が先にお入りください!」
「ん~…じゃあ、一緒に入っちゃう? そんなに大きな湯船じゃないから、ちょっと窮屈かもしれないけど」
ようやくマリアの顔に赤みが差す。
「いいのですか!?」
「うん、もちろん」
みんな、お風呂に一緒に入るの好きだなあ。前にメアリもすっごい喜んでたものね。
そうすると今度ソフィアとも入らないとだよね。仲間外れはかわいそうだし。
アンにドレスを脱がせてもらうと、マリアも自分で仕度をし、二人できゃあきゃあ言いながら湯船に沈む。
「いい香り……」
ホッとしたようにマリアが溜め息を吐く。
さすがアン。詳しい話はしていないけれど、マリアの様子で察したらしく、緊張が解けるような優しい香りの香油をお湯に落としてある。
「ごめんね、マリア。やっぱり狭いね」
膝を抱えて向かい合ってみたが、さすがに狭い。これではマリアにリラックスしてもらうどころか気を遣わせてしまうだけだ。
「私、一旦上がるから、マリアはゆっくり入って?」
「大丈夫です! 全然狭いなんて思わないです!」
「そ、そう…?」
あ、いい事思い付いた。
「じゃあ、マリア。こっちに背中を向けて」
「はい……」
脚を広げて、マリアを背中から抱き締めるように受け止める。
「これなら、さっきよりは広く感じるでしょ」
――さっきまでのあんなに怖くて悲しかった気持ちが、嘘のよう……
いい香りのお湯に、カタリナ様に抱き締められながら浸かれるなんて、夢を見ているのではないかと疑ってしまう。
――凄く幸せな気持ち……なのに――…
さっきの上級生の言葉がふとした拍子にこだまし、心を冷たい手がギュッと掴む。
“平民の分際で”“生徒会で王子たちと懇意にしてるからって調子に乗るな”“平民は大人しく貴族の言われた通りにしていろ”
ここしばらく、ほとんど聞く事はなかったけれど、魔法学園に入学してから何度も言われた言葉だ。
入学当初――生徒会に入ったばかりの頃はかなりひどい嫌がらせを受けていたが、ある時から急に少なくなった。
それが、カタリナ様たちが生徒会以外でもなるべく一緒にいてくれるようになったからだという事には、もちろん気が付いていた。そう言われた事はないけれど、きっと優しいカタリナ様ができるだけ傍にいるよう、気遣ってくれていたのだ。
そっと振り向くとカタリナ様と目が合い、にっこりと笑いかけてくれる。
こちらまで笑顔になってしまう、明るくて温かい笑顔。
この笑顔を向けてもらえるだけで、強くなれる気がする。どんな困難も乗り越えていけそうな気がする。
魔力を持つのはほとんどが貴族で、光の魔力はその中でも希少だ。
そしてそれが平民のわたしに発現した事が、孤独の始まりだった。
平民の中に在って異質で、魔法学園の中でも異質。
ずっと、居場所もなく、心を許せる友人もいなかった。
“光の魔力を持った特別な子”だと、わたし自身の努力を認めてくれる人は誰もいなかった。
けれどカタリナ様は違った。
わたしが努力していた事を認め、褒めてくれた。
中傷を跳ね除け、わたしの為に怒ってくれた。
カタリナ様は、光の魔力を特別扱いするのではなくわたしの個性のひとつとして見てくれて、身分に囚われず、公平で分け隔てなく向き合ってくれる。
“大好き”だと、“友達”だと笑ってくれるカタリナ様が大切で大好きで、わたしの心を照らしてくれるその明るさと温かさは、まさに太陽のようだと思う。
気付けばカタリナ様を通じてメアリ様やソフィア様とも仲良くなり、ジオルド様にアラン様、キース様、ニコル様だけでなく一部ではあるけれど他の同級生とも気軽に言葉を交わす事ができるようになっていた。
母とのギクシャクしていた仲も、昔のように優しい空気が流れるようになった。
――だけど……
カタリナ様からも生徒会のみなさんからも、平民として扱われた事はない。それでも、心のどこかで王族や貴族の中にいる事を引け目に感じている自分がいる。
身分の差は歴然で、卒業してしまえばわたしはカタリナ様の隣に立つ事はできない。その事実が胸に重く圧し掛かる。
「……カタリナ様……あの……」
「ん? どうしたの、マリア?」
「あ………いえ、なんでもありません」
言えなかった。
“わたしなんかがカタリナ様たちと仲良くしてもいいのか”なんて、カタリナ様は必ず“いい”と笑ってくださるに決まっている。
分かっていてそれを言わせるのは、卑怯な気がした。
心配させたくなくてそっと溜め息を吐いたが、聞こえてしまったのかカタリナ様が声を掛けてくれる。
「マリア、気を遣わないでいいよ。もっと力を抜いて、私に寄りかかって」
そう言うとカタリナ様はわたしのお腹に両手を回して、ぴったりと身体を合わせた。
――カタリナ様の、お胸が、当たって…!
背中に押しつけられた柔らかな乳房の感触に、耳まで熱くなってしまう。
「マリア、とっても肌が綺麗ね。肩がつやつや」
「そんな! カタリナ様こそ、すべすべで羨ましいです!」
「そう? ありがと」
――んんん~…マリア、まだ緊張してる?
それともさっき怖い思いをした事を思い出しちゃったのかな?
マリアに暗い顔は似合わない。ここは私が、マリアの傷付いた心を和らげてあげないと!
「……ね、マリア。誰にも話した事はないのだけど、話を聞いてくれる?」
「カタリナ様?」
「私ね、この学園に入るの、ずっと怖かったんだ」
「え? カタリナ様がですか!?」
「うん。魔力があるって言っても、私のは凄く弱い土の魔力でしょ? ちゃんとやっていけるか、授業についていけるか、不安だったんだよね」
もちろん一番恐れていた理由は破滅フラグの事だけれど、他の心配があったのも本当の事。
それでも乗り切るしかないと知っていたから、挑む事ができた。
仲のよい幼馴染みたちが傍にいてくれたから、頑張ろうと思えた。
マリアと出会ったのは魔法学園に入学してからだけど、前世の記憶を思い出してからずっと存在を意識してきた、ある意味幼馴染みみたいなものだ。
「だからね、私、マリアと仲良くなれて凄く嬉しい」
ゲームの中のマリアは初めから何でもできる優等生で、泥臭く努力している姿なんて描かれていなかった。けれどこの世界のマリアは“そういう設定だから”の一言で片付けられないような努力をきちんとしていて、そんな一生懸命な姿を見れば、誰だって好意を抱くに決まっていると納得できた。
「毎日が楽しいのは、マリアがいてくれるからだよ」
破滅フラグをもたらすのはマリアではない。マリアが好きになった相手がもたらすのだ。
もしかしたらマリアの近くにいる事は危険なのかもしれない。それでも。
「いつも勉強を教えてくれてありがとう。美味しいお菓子を作ってくれてありがとう。一緒にいてくれてありがとう。優しく微笑んでくれてありがとう。私の事を好きって言ってくれてありがとう」
後ろから肩ごと抱き締め、マリアの耳元に囁く。
「私も、マリアの事が大好きよ」
「カタリナ様――……」
振り返ったマリアが、潤んだ瞳で微笑む。ぽろぽろと涙がこぼれた。
――主人公は泣いている顔も綺麗だな……
思わず見惚れて、今はそんな事を考えている時ではないと思い出す。
「泣かないで。マリアは笑顔が一番、可愛いんだから」
――この気持ちを、どうしたら残らず伝えられるだろう…?
カタリナ様に出会えた事で、わたしの心がどれだけ救われたか。
感謝も好意も超えたこの気持ちは、とても言葉では言い表せない。
どんなに言葉を重ねても、言い尽くせない。
カタリナ様が望むなら何だってする。
カタリナ様の為ならこの命を懸けてもいい。
カタリナ様に全てを捧げたい。
全てを捧げてすらきっと、カタリナ様にもらったこの気持ちを返すには足りない。
この気持ちは――……
「マリア? のぼせちゃった?」
マリアを元気付けたくて、長々と喋り過ぎちゃったかな!?
伏せられていた瞳が私を見つめる。
「マリア?」
「ありがとうございます、カタリナ、様……」
振り返るマリアの顔が、凄く近い。
自然と手が動き、頬に手を添えてしまっていた。
涙で瞳を赤く腫らしながら、それでも微笑もうとするいじらしい笑顔を目の前にして、きゅんとこない人がいるだろうか?
「マリア……本当に、可愛い……」
「カタリナ様……」
お互いに引き寄せられるように、気付くと私とマリアは唇を重ねていた。
「……ん………」
私がマリアにしたのか、マリアが私にしてくれたのか、よく分からない。
柔らかい感触がゆっくりと離れると、マリアはまたぽろぽろと涙をこぼす。
――あれ!? 泣くほどいやだった!?
「ごめん、ごめんねマリア! マリアが可愛くて、つい……」
「ち、違うんです! 驚かせてしまって申し訳…ありません……、嬉しくて…嬉し過ぎて、
どうしたらいいのか分からなくて……」
嬉し涙と聞いてホッとする。
「わたしがカタリナ様としたかったんです……それに……」
ふわりとマリアの頬が上気する。
「とっても幸せです……」
「で、でもマリア、初めてのキス、でしょ?」
「はい、初めてをカタリナ様にもらっていただけて、嬉しいです」
柔らかな水音をさせてマリアは身体を離すと、こちらに向き直って、ゆっくりと顔を近づける。
「初めてもこれからも、全部、カタリナ様がいいです……」
これ、“もっとして”って事だよね?
え、いいの? しちゃうよ? 本当にしちゃうよ?
悪役令嬢なのに主人公の初めてを奪っちゃった上、本当にいいのかな……。
そう思いながらも、しなきゃ収まらない空気に、マリアのぷるんとしたピンク色の唇を塞いでしまう。
温かくて柔らかい感触につい夢中になって、気付けばあむあむと唇をついばんでしまっていた。
「……んっ……ん……」
初めは唇に触れるだけだったマリアも、だんだんと私に応えるように唇を合わせ始める。
何度も何度も唇を組み替えては合わせているうち、マリアはだいぶキスに慣れたみたいだ。
「カタリナ…様………カタリナ、様………カタリナ様……」
甘い吐息と共に何度も私の名前を呼び、両手が肩にすがり付く。
押し付けられた乳房が胸元に当たり、マリアの体温が直に伝わる。
――熱い……
これは傷付けられたマリアの心がぐちゃぐちゃで、どうしていいのか分からずに上手く処理できないもどかしさからの行動?
たぶんマリアは、誰かにすがりたいんだ。そして、受け入れてほしがっている。
もしそうなら、少しでもその傷を癒せるのなら、私にできるのはマリアの気が済むまで受け入れる事だけだ。
「――ね、マリア。もう少し、唇を開いてみて」
「……?」
「マリアをもっと、味わわせてね……」
微かに開いた唇から舌を入れると、マリアは驚いたように身を引こうとしたが、腰に手を回して引き戻す。絡まる舌に驚いて強張っていた身体からゆっくりと力が抜け、やがてマリアの方からも舌を絡め始めた。
「んっ…ん…んぅ……」
両手の指を絡めて繋ぎながら、柔らかな舌をたっぷりと味わう。
二人の乱れた息遣いと、舌を吸い合う音だけが部屋に響く。
ゆっくりと唇を離すと、とろんとした目で見つめるマリアが、そわそわと膝を合わせている。
――あ、もしかして……
「マリア、感じちゃった?」
カァッと赤くなったマリアが、それでも素直に頷く姿が可愛くて、囁く。
「……上がろっか」
バスローブを羽織って浴室から出ると、今夜はもうアンには自室に戻ってもらう。
「――いやな事は全部、私が忘れさせてあげる」
抱き寄せたマリアと二人で、ベッドに倒れ込む。
「カタリナ様……」
下になったマリアの顔中にキスをし、耳を優しく噛むと、マリアが小さく震えて溜め息を漏らした。
「んっ……」
――マリア、耳が好きなんだ……
首筋にもキスをしながらガウンの前を広げて乳房を露わにすると、恥ずかしそうにしながらもマリアは抵抗しなかった。可愛らしい乳首にもキスをする。
「ぁ……ん……」
舌先で転がすと、ピンク色の乳首があっという間に赤く充血して、きゅんと硬くなる。
「可愛い、マリア」
マリアは漏れてしまう声を抑えようと、口元を両手で覆った。
乳首を吸いながら乳房を優しく揉み上げると、マリアはもう耐えきれないというようにシーツを掴んで、ぴくんぴくんと震え始める。
「カタ…リナ、様ぁっ……」
自分の愛撫で相手が感じてくれるのって、凄く楽しい。もっともっと感じさせたくなってしまう。
太ももの間に手を入れると、もうすでにマリアのそこは愛液が溢れていた。
「マリア……可愛いね、もうこんなにして……」
愛液を指ですくい取り、その指を舐める。
「カタリナ様!? そんな、汚いです!」
「汚くないよ、マリアのだもん」
それを聞いて、マリアは恥ずかしいのと嬉しいのとがごちゃ混ぜになったような複雑な表情をした。
「私が全部綺麗にしてあげるね」
身体をずらし、グイッとマリアの脚を開く。
――さすが、乙女ゲームの主人公。こんなところまで美味しそう……
妙な感心をしつつ、ひだを指で広げると、ガウンにまで垂れ落ちる。
――あ、もったいない!
そう思った次の瞬間にはマリアの秘部にしゃぶりついていた。
太ももに垂れているのを丁寧に舐め取り、一滴も残さないよう舐め回す。
「あっ……あ…あ……カタリナ、様ぁ……っ」
――恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい…!
こんなはしたないポーズで脚を広げ、誰にも見せた事のない部分をカタリナ様の前にさらけ出してしまっている自分が信じられない。
ドキンドキンとさっきから心臓の音が大きな音を立てていて、カタリナ様に聞こえてしまうのではないかと心配になる。
恥ずかしいのに、イヤではない。むしろ、嬉しい。
大好きな人に求められる事が、こんなにも幸せな事だったなんて。
気持ちよくて、何も考えられない。カタリナ様の事以外、考えたくない。
今はただ、カタリナ様の指と舌の愛撫に身を任せていたかった。
「……ね、マリアは自慰ってした事ある?」
「えっと…あの―――あり、ます……」
顔が赤くなってしまうのが自分でも分かったが、素直に答える。カタリナ様にはどんな小さな嘘も、吐きたくない。
「どうやって気持ちよくなってるの?」
「その……この辺りを弄ると気持ちいいのは分かるんですけど……」
「どうやってイケば…えーと、オーガズムに達すればいいか、分からない感じ?」
「はい……」
「そっか、じゃあ今から私が気持ちよくしてあげるね。たぶん一度すれば、分かると思うから」
「あ、あの! わたしにも、カタリナ様と同じ事をさせてもらえないでしょうか?」
こんな事、絶対に普段は言えない。きっと、キスをしてもらって、気が大きくなっていたのだと思う。気が付くと大胆なお願いをしてしまっていた。
キョトンとしたカタリナ様はとても嬉しそうに笑う。
「うん、もちろん」
仰向けのわたしに、身体の向きが逆さまの状態でカタリナ様が覆い被さる。
ちょうど顔の上に、カタリナ様が跨った恰好だ。
――これが、カタリナ様の……
目の前にきたカタリナ様の秘部から、トロトロと愛液が太ももに滴っていた。カタリナ様もわたしと同じように感じてくださっているのだと思うと、嬉しくて身体の奥にきゅんと痛みが走る。
そっと指ですくい取り、舐めてみる。
――あれ? 本当に、甘い……
「マリア、脚、もっと広げて……」
――ううん、違う。きっとカタリナ様のだから甘く感じるんだ……
こんな風に脚を広げる事も、脚の間を人前でさらけ出す事も、生まれて初めてだ。
なのに全然イヤではない。恥ずかしさはあるけれど、その奥にこれから起きる事への期待と予感がある。
カタリナ様が、ご自分の秘部を広げてみせる。
「マリア、見える? ここ……こうして上に持ち上げながら広げると、気持ちいいところが出てくるの」
割れ目の先に小さな赤い実のような突起が顔を出している。
「ここに触れると、気持ちがいいのですね」
「そう、優しく、ね」
肘をついて頭を浮かせながら顔を寄せると、甘い香りがする。
「もうちょっと下げた方がいい? 体勢、苦しくない?」
「カタリナ様こそ、体勢おつらくないですか? もしおつらければ、わたしの顔に押し付けてくださっても構いません」
「ん、ありがとう、マリア」
舌を伸ばすだけで触れられる位置にまで腰を下げてくださり、ぺろりと舐めるとカタリナ様が声を上げた。
「あっ! んぅっ……」
カタリナ様が感じてくれている事が嬉しくて、秘部から溢れる愛液を舐め取りながら、カタリナ様の言っていた“気持ちいいところ”を剥き出し、ちろちろと舌先で刺激する。
「ぁんっ……あっ……マリア、上手…! あぁっ……」
甘い声を上げるカタリナ様が愛おしくて、はしたなくむしゃぶりついてしまう。
カタリナ様も、わたしの秘部へ屈んで先程の続きを始めた。
カタリナ様の大切な部分を舐め回し、カタリナ様に舐め回されている事実に、ゾクゾクと快感が背筋を走る。
――なんていやらしくて、なんて気持ちがいいの……
カタリナ様の舌が陰核を優しく舐め回しながら、チュッチュッと吸う。
「んぁっ…!」
思わず変な声が出て、今までの刺激と段違いの痺れるような気持ちよさに腰が浮いて、ブルブルと震え出してしまう。
――何か――くる!!
「あっ…あっ…あっ…カタリナ様っ、わたしっ……ああぁぁぁッ」
快楽の波が押し寄せて、感じた事のないほど強い快感に、頭が痺れて真っ白になった。
――世の中には、こんなに気持ちがいい事があるんだ……
甘い痺れが身体中に広がり、しばらく動けそうにない。この快感を与えてくれたのがカタリナ様なのが、嬉しくて幸せだった。
はあはあと荒い呼吸を吐いていると、カタリナ様が心配そうに覗き込んだ。
「マリア、大丈夫?」
「カタリナ、様……とっても、気持ちがよかったです……」
自然と涙が溢れて、カタリナ様への気持ちを改めて実感した。
「……愛しております、カタリナ様」
子供の頃にカタリナに出会えず、救われていないマリア(とラファエル)には、いっとう幸せになってほしいと思ってしまいます。(*''ω''*)♡
ラファエルとマリアがもし、子供の頃にカタリナと出会えていたら…そんな事もちょっと考えてしまいますね…
カタリナは求められたら、シリウスの暗示がなくても受けちゃいそう。それにきっと、誰と結ばれても幸せになれそう。
♡(´,,・ω・)᎑<,,)チュッ♡
ちなみに、カタリナがシリウスに描かれた絵のイメージは、クリムトの”ダナエ”です。