「せっかくだからコーヒーでも飲んで行かない?」
「今度・・・またね」
「何か? またあったら連絡ください」
送ってくれた車から降りた雄太郎は叔母の志津子に言った。
釈然としない想いを抱いて別れた。
その態度には悔やんでも悔やみきれないものがありありと浮かんでいた。
恨めし気にアパートの前から遠ざかる叔母の車を見送る目に出ていた。
それから数か月後。
パタン
漫然とテーブルで遊んでいた雄太郎はタブレットを閉じた。
雄太郎は吹っ切れない叔母との気持ち。
つき合っていた彼女とも別れ、叔母ロスに陥っていた。
(今日も一日・・・なんにもしなかったなぁ)
眩しかった太陽も西に傾き黄金色に変わった夕やけを見つめ呟いた。
(はぁーコンビニでも行くか)
近くにはスーパーもあるのだが、大量に買うモノが無ければサンダルでも行けるコンビニが便利なのだ。
親の仕送りとアルバイトで悠々自適な生活をしている雄太郎。
学生の身分でもありながら部屋数が多いアパートで独りで暮らしている。
世界中を揺るがしている新型ウイルスの大騒動により思わぬ学費免除という幸運に巡り合えた雄太郎はすることがない。
それに叔母ロスが重なり、脱いだものは脱ぎっぱなし、使ったものは使いっぱなし。
おまけに欲情すれば穿いているズボンを膝まで下ろし、寝そべってエロ本を読んだり、ネットのエロサイトを見ては手をシコシコと上下にシゴキまくり、自堕落的な生活を送っている。
新型ウイルスも落着き、もう世間は動き始めている。
だのに・・・俺だけが独り取り残されてしまった。
そんな焦りと気が滅入り晴れ晴れとしない思いのせいで、何をしようにも余計に手が付かず・・・
雄太郎は日々を無意味にダラダラと過ごしていた。
「あっ、イタイ・・・痛っ。こんなところに石が転がっていやがる」
右足と左足を交互にだし、漫然と歩いている彼は道路に転がっている小石に躓いたのだ。
コンビニの前に着いた雄太郎。
自動扉が左右に開き、俯き加減で店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
店員の元気な挨拶に比べ、本の売り場の前に立っていた男の客が、幽霊みたいに覇気がない雄太郎を睨みつけるようにジッと見る。
不審者を見つけたような彼の目つきだ。
妙なタイミングで虚勢を張った雄太郎はそこで目線を上げキッと店内の先をにらむ。
そこで元気を得た雄太郎は・・・タッ タッ タッ タッ。
冷蔵庫へ一目散。
庫内から取り出し呟いた。
「やっぱりコレだよな」
目に飛び込んできたのは、いわゆるストロング系の缶チューハイ。
アルコール度数が高い割には飲みやすく、多くの支持を得ている飲み物。
そして、一番の売りは値段が安い!
お金がない学生の心強い味方だ。
勝手な御託を自慢気に並べながら、冷蔵庫のなかを見る。
「今日はやっぱコレ!」
レモン味のストロングの気分だ!
と言ってもなんでもいいのだ雄太郎は。ただ・・・そんな気分がしただけ。
たまに雄太郎は外で、大学の連中と安い居酒屋でチューハイを飲むくらいで、ストロング系は一度も飲んだことが無かった。
ロスに陥ってからたまたまストロング系のチューハイと巡り合い口にするようになったのだ。
それに外出自粛期間中。気晴らしに酒が欲しくなり、自宅で始めて試し飲みしてみたのだ。
それ以来、自宅で飲むのにハマってしまった。
「もう一本くらい別のストロング買っておくか・・・。おっと・・・ツマミも」
なんだかんだと言いながら、別の飲料や食料品とたくさん買い、スーパーで買った方が安く買えた程カートは満杯。
山のように買った自負心でレジに持っていく。
「ありがとうございます」
大量の購入物をみて店員の愛想よい元気な言葉。
エントランスホールに設置してあるエレベーターで部屋がある階に上がり、ふと俺の部屋を見れば 紺色のスカートに、キャミソールが透けて見える白いブラウスを着た女性がピンクのマスクをして立っている。
(あれ?俺の部屋だよな?)
後姿だけを見れば心当たりがない女性。
(え・・・つ 誰・・・!?・・・勧誘か!?)
心臓はもうバクバク。
女性が立っているところに行かなければ部屋に入れない。
「あのー・・・」
と声を掛けてビックリ。
「あら・・・お帰りなさい。ちょうどよかったわ。いま連絡しようとしてたとこよ」
見れば携帯電話を右手に持っている。
ピンクのマスクを外す女性。
紺色に見えたスカートは雄太郎の勘違いで、実際はレース生地のスカートの裏地が黒で何かに反射してそう見えていたのだ。
豊かな胸を揺らしながら言った。
「久しぶりね雄太郎くん」
「・・・志津子 叔母さん」
会えた嬉しさよりも驚きが優っていた。
(どうしてここに?・・・)
「頼まれたのよ。あなたのお母さんに・・・それと看病してくれたお礼」
小さな口を広げ、笑みをたずさえて話すいつもの叔母。
憧れの女性がアパートに尋ねて来てくれたのだ。
つづく